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キズナのキセキ

ACT0-6「異邦人誕生 その1」



 あの暑い夏の日以来、『ポーラスター』には行っていない。
 武装神姫の雑誌も手に取りはしなかったし、ネットで情報を集めることも、いや、ネットにつなげることさえしていない。
 放課後は時間が余った。
 クラスの友人たちが、男の子と一緒の集まりに誘ってくれて、一度は参加したが、気が晴れることはなかった。
 二度と参加する気はなかったし、誘われることもなかった。
 学校には黙々と通い、勉強したから成績も上がったが、だから何の意味があるというのだろう。
 あれから三ヶ月たった。
 あの暑さの面影はどこにもなく、冬の足音が聞こえてきている。
 だが今も、心の傷は癒えることなく、疼き続けている。
 とても大切なものを、一番大切な人に壊された。
 久住菜々子は今も笑えないままでいる。



 久住頼子はため息をつき、孫の様子を眺めている。
 唯一の孫であり肉親でもある久住菜々子は、自室の机に向かって宿題を黙々と片付けている。
 菜々子は、中学二年の秋の様子に逆戻りしていた。
 笑わなくなった。
 いつもやぶにらみで、誰も信用しない。
 話をするのも、クラスで仲がいい数人と、頼子くらいだった。
 美貌に影を落とし、近寄りがたい雰囲気を放ち続けて、もう三ヶ月が経つ。

 頼子は考えを巡らせる。
 そろそろ何か手を打たなくてはならない。
 高校時代は短く、しかしまばゆい輝きを放つ、かけがえのない青春の時間だ。
 それをこんな風に暗い色で塗りつぶしては罰が当たろうというものである。
 ここは、孫のために一肌脱ごう。
 そう心を決めると、頼子は腕まくりして、肩をいからせた。



「あなたにプレゼントがあるのよ」
「……またそのパターン?」

 菜々子が呆れて、深いため息をつく。
 だが、頼子には全く悪びれる様子がない。

「あらー、覚えててくれたのね」
「頼子さんのお節介に付き合ったのはあれが初めてだったから、印象深くて」
「じゃあ、わたしが何を出してくるのかも当ててみる?」
「そんなの、言うまでもないわ」

 にこにこ顔の頼子に対し、菜々子はこれ以上はない仏頂面だ。
 この状況で頼子さんからのプレゼントと言ったら、武装神姫以外にはあり得ない。
 菜々子が落ち込んでいたこの間にも、頼子さんは飽きもせずに神姫センターにせっせと通い、ファーストリーグへと昇格していた。
 菜々子は今さら神姫のオーナーになる気はなかった。
 ミスティこそ、自分のただ一人の神姫だと信じていた。しかし、そのミスティはもういない。

「まあ、武装神姫なんだけど。とりあえず見なさいな」

 答えは予想通り。いや、予想するまでもない、決まりきった答え。
 だが、頼子さんがちゃぶ台の上に置いた箱は、菜々子の想定外だった。

「これ……見たことない」
「菜々子がしょぼくれてる間に、新発売になったのよ。新規参入、オーメストラーダ社の最新型」

 汎用性の高さ故、多くのマスターたちが好んで使っている、フロントライン社のストラーフやアーンヴァルとは明らかに異質な武装。
 装甲は流麗なカーブを描き、タイヤが全部で三つ装備されている。
 ハイマニューバ・トライク型 イーダ……それがこの武装神姫の名前だった。
 真新しい神姫を前に、興味がないと言ったら嘘になる。
 どうしても止められない胸の高鳴りは、二年あまりの間、毎日培ってきた武装神姫への興味のたまものだ。
 しかも、自分が知らない新製品である。
 触れてみたいと思わない方がおかしい。
 だが、喜んで触ってしまっては、頼子さんの思うつぼだった。
 今回は、中学生の時のようには行かない。

「……いらないわ」
「……そう? 言い忘れてたのだけど」

 頼子さんが不適に笑った。

「この神姫のコアは、ミスティのものに換装してあるわよ」

 その一言に菜々子の心は射抜かれた。
 ミスティはマグダレーナに完膚無きまでに破壊されたが、コアは比較的無事に残っていた。
 だからといって、新しい神姫にそのコアを移植する気にはなれなかった。
 そうこうしているうちに、このお節介な祖母が、勝手にコアを換装してしまったというのだ。
 お節介にもほどがある。
 そう思いながらも、菜々子は努めて平静を保ちながら、イーダの入った箱をいそいそと自室に運んだ。
 頼子さんはお茶を飲みながらほくそ笑んでいたようだが、気にしないことにした。



 期待と不安を、心に入り交じらせながら、菜々子はセッティング作業を行う。
 ミスティが使っていたクレイドルは、この三ヶ月の間に埃だらけになっていた。
 菜々子は埃を丁寧に拭うと、箱の中からイーダ型の素体をそっと取り出し、クレイドルの上に乗せた。
 紫色のロール髪が可愛らしい。
 菜々子は久しぶりに少し胸を高鳴らしながら、PCから登録画面を呼び出す。
 おなじみのオーナー登録。イーダ型の口から流れる声に少し戸惑う。
 登録作業はスムーズに進み、ついにイーダ型が起動した。
 瞳に光が宿り、ちょっと気が強そうな表情で、菜々子を見上げてくる。

「あなたがナナコね?」
「え? ……ああ、そう……だけど……」
「もっとちゃんとして、わたしのマスターなら。……はじめまして。わたしはミスティ。これからよろしくね」

 菜々子は面食らった。
 なんだ、この神姫は。
 わたしは今さっき、確かに、オーナーの呼び方を登録したはずだ。

「ちょっと……わたしの呼び方は、マスターで登録したはずだけど」
「いいじゃない。名前で呼んだ方がフレンドリーで」

 菜々子はミスティの物言いにカチンと来た。
 そして、心に失望が満ちる。
 この神姫はミスティじゃない。断じて、ない。
 ミスティのコアを使っているとはいえ、ヘッドもAIも新調されている。おまけに別機種だから、基本の性格設定もストラーフのミスティと同じになるはずがない。
 そんなことは分かっていた。
 だが、菜々子には淡い期待があった
 もしかしたら、ただ素体が換装されただけで、正確も記憶も受け継いだミスティが起動するのではないか、と。
 淡い期待は粉みじんに撃ち砕かれた。
 ミスティはわたしを呼び捨てにしたりしない。
 ミスティはこんな口調でしゃべったりしない。
 ミスティは生意気に口答えしたりしない。
 ミスティはこんな居丈高な態度をとったりしない。

「ふざけないで」

 自分でも驚くほどに暗く、寒々とした口調。
 そして本心をオブラートに包むことなく口にする。

「あんたがわたしの神姫だなんて……絶対に認めない」

 それを聞いたミスティの両目が見開かれ、絶望に暮れた顔を見せたが、菜々子は無視した。
 すると形のいい眉を釣り上げ、果敢にも、生意気にも、ミスティは言い返してきた。

「わがまま言ってんじゃないわよ! ちゃんと電子頭脳に登録されてるんですからね! オーナー登録したのはナナコだって!」
「だから、勝手に呼び捨てするなって、言ってるでしょう!」
「別にいいでしょ! わたしがそう呼びたいんだから!」
「よくない! ちゃんとマスターって呼びなさいよ!」
「ふーんだ、ナナコ、ナナコナナコ!」
「こっの……わがまま神姫!」

 二人の口論は延々と続いた。
 これが菜々子とイーダのミスティの出会いの夜だった。



「わたしたちは決して良好な関係で始まったわけじゃなかった。むしろ最悪だったわね。二人とも意地っ張りだから、お互いの主張は平行線で、歩み寄る様子もなかったわ」

 ミスティはまた苦笑する。
 いつもの自信に溢れた笑いではなくて、どこか陰のある笑い方。

「でもね……わかる? 起動してすぐ、『自分の神姫として絶対に認めない』って言われたときの気持ち……。
 あれはキツかったな。起動していきなり、絶望に突き落とされた気分だった。
 だから、怒りを奮い起こして、懸命にすがりついたの……ナナコに。
 あの日から、わたしの戦いが始まった……初代のミスティに挑む戦いが」

 もうやめて、とわたしは言いたかった。
 ミスティがコアの内に秘めている過去の記録を、無理矢理聞き出しているような気分だった。
 ミスティにとってつらい思い出なら、これ以上話さなくていい。話すべきじゃない。
 でも、わたしは言えなかった。
 ミスティはわたしを見つめながら話していたから。
 わたしは彼女の話を聞かなくてはならない。親友として。その責任を果たすために、彼女の言葉のすべてを聞かなくちゃいけなかった。



 一週間ほど後、菜々子はミスティを連れて『ポーラスター』へ向かった。
 気に入らないとはいえ、武装神姫を手に入れたのだ。
 つまり戦う手段を再び手にした……お姉さまとその神姫に挑む手段を。
 菜々子の意志は、昏い情念に燃えていた。マグダレーナを破壊し、お姉さまに復讐する。わたしと同じ気持ちを、お姉さまにも味あわせる。
 そのためには、この生意気な神姫を強くしなくてはならない。たとえ気に入らない神姫であっても、今はわたしの武器だ。

「……久住ちゃん……久しぶり」
「ご無沙汰でした、花村さん」

 『七星』のリーダー格である花村耕太郎は、菜々子を心から心配そうに出迎えてくれた。

「大丈夫なのかい?」
「ええ」
「……ほんとうに? 無理してないかい?」
「大丈夫ですから、今日から復帰です」

 菜々子は少し苛立ちながら、言い切った。心配してくれるのはありがたいと思うが、腫れ物に触るような態度は、菜々子の望むところではない。

 むしろ花村は、菜々子の態度に、さらに心配を深めていた。
 菜々子は笑わない。まるで、初めて『ポーラスター』に来た頃の……『二重螺旋』を結成する前の『アイスドール』そのものだ。
 笑顔が絶えなかった菜々子の心は、初めて出会った頃に逆戻りしているのではないか。
 その原因が、菜々子を笑顔にしていた理由……桐島あおいなのだろうから、なおさらやりきれない。

 だが、菜々子の深い絶望は、花村の想像を超えていた。
 久しぶりのバトル、その第一戦から、菜々子の怒りが炸裂した。

「なにやってんの、あんた! そんな動きも出来なくて、勝てるわけないでしょうが!」

 菜々子の神姫は、今話題のオーメストラーダ社の新型だ。
 起動して間もないのだろう、武装もセッティングもノーマルのままであることは伺い知れる。
 にもかかわらず、菜々子はかつての愛機・ストラーフのミスティ同様の戦い方を強要した。
 もちろん、そんなことが出来るはずもない。
 大型の副腕を持つイーダ型は、ストラーフ型と似ているから対比されることも多いが、戦い方は全く異なる。
 そもそもイーダ型の副腕は独立稼働しないし、ストラーフのような頑健なレッグパーツがあるわけでもない。
 イーダ型の特長は、それらを補ってあまりある、トライクの高機動性と変形機構にある。
 それを生かさずして、バトルでの勝利は望めない。
 しかし、菜々子は、ふがいない戦いを続ける彼女の神姫を罵り続けた。
 的確な指示も出さないくせに、試合に負けたことをすべてミスティのせいにする。
 ミスティはいちいち菜々子に食ってかかり、二人は激しい口論を繰り広げる。
 そして、必ず最後に、

「あんたがわたしの神姫だなんて、絶対に認めない」

 まるで決めゼリフのように言って、ミスティを黙らせた。
 これには『ポーラスター』の常連たちも、辟易した。
 自分の神姫にそんな言葉を、衆人環視の中で堂々と投げつけるなんて、ありえないことだ。
 自分の神姫を虐げているとしか思えない。
 今の菜々子は実に見苦しかった。



「起動したばかりの神姫で、そんな戦い方は無茶だ。わからない久住ちゃんじゃないだろ?」
「そんな生ぬるいこと言ってちゃ、お姉さまには勝てない」

 花村が諭す言葉を菜々子はまるで意に介さない。
 花村の心配は的中していた。
 菜々子はにこりとも笑わない。バトルスタイルは、勝利優先に逆戻りしている。
 まるで初めてあった頃の菜々子のようだ、と花村は思い、いや、と首を振った。
 もっとひどい。
 瞳は昏い情念に燃え、心は復讐にとりつかれている。姉と慕った人を倒すことしか頭にない。
 それを自らの神姫に押しつけ、痛罵する。
 今の菜々子は見るに耐えない。
 このままでは、次の『七星』候補などと言うことはできなくなる。
 花村は呆れたように吐息をつくと、どうしたものかと思案した。



「その直後だな。菜々子ちゃんが初めてこの店に来たのは」

 日暮店長がミスティから話を引き継ぐ。

「花村くんが連れてきたんだ。エルゴに集まる常連さんたちはくせ者ぞろいだから、菜々子ちゃんにもいい刺激になるかも知れない、ってな」

 肩をすくめて言う店長に、ミスティは苦笑した。

「まあ……それでわたしは大変な目にあったわけ。今思い出しても、我ながらよくやったと思うわ」

 店長もミスティを見つめて苦笑した。
 この店でも何かあったらしい。
 ミスティと出会った頃の菜々子さんは相当荒んだ性格だったようだ。
 さもありなん、と思わないでもないが、今の菜々子さんの姿からは想像するのが難しい。
 実際、ミスティの話を頭の中で想像しようとしても、できなくて困る。
 大城も同様だったようで、俺たちは二人して首をひねっていた。



 その客は、あまり乗り気そうじゃない少女の手を引いて、強引に店に入ってきた。

「店長、こんにちは」
「いらっしゃい、花村くん」

 ホビーショップ・エルゴの店長、日暮夏彦にしてみれば、花村耕太郎という青年が、これほどの美少女を連れてくることが驚きだった。
 しかし、この上もなく不機嫌そうな表情が、美貌を台無しにしている。笑えばさぞかし魅力的だろうに。
 日暮は花村に、店の奥の階段を目配せした。
 彼のお目当ては、エルゴの二階、バトルロンドの対戦コーナーだ。
 数日前、日暮店長は花村から電話で相談を受けた。日暮は快く、彼の相談内容の根回しを行った。
 いま二階では、花村の策謀が、今や遅しと待ち構えている。
 花村は日暮に軽く会釈し、菜々子を連れて、二階へと上がった。

 エルゴの二階は、バトルロンドの対戦スペースとして開放されている。
 『ポーラスター』に比べたら、規模は随分小さいが、それでも観戦用の大型ディスプレイや、一休みできるラウンジなどが備えられており、神姫プレイヤーにはとても居心地のいい空間に思えた。

 花村と菜々子は、奥のテーブルの一つに向かい合って座る。
 端から見れば、ちょっとしたデート中のカップルに見えるだろうか。
 花村としては、本当はそうであれば嬉しいのだが、いかんせん、向かいに座る彼女は、これ以上ない仏頂面だった。
 花村は、自販機で買ってきたジュースを菜々子に手渡す。
 無言で受け取った菜々子は、それを手にしたまま、大型ディスプレイに映し出されるバトルに目を向けていた。

「どうだい、いいバトルしてるだろ?」

 そう言った花村をじろりと見る。
 花村は観戦用の大型ディスプレイに目を向けたまま楽しげだ。
 仕方なく、菜々子もディスプレイに視線を向けた。
 確かに、ぱっと見ただけでも、素晴らしい対戦ばかりが繰り広げられていることがわかる。

 片目に眼帯をかけたストラーフ型は、接近戦メインかと思えば、スイッチが切り替わったかのように、精密射撃で敵を翻弄している。
 同じストラーフ型でも、燐というバトルネームの神姫は、空中で華麗な機動を決めて、相手を倒す。
 あるツガル型はまったくのノーマル装備だったが、実に多彩かつクレバーな戦いぶりを披露している。
 ノーマルと言えば、アーンヴァル型の一人は公式武装のみのカスタムだ。マイティという彼女もまた、華麗な戦いぶりを披露している。
 その相手は、ありえないほどのジェット推進装備を施しているマオチャオ型。あんなのでコントロールできるのかと思いきや、光学武装による分身攻撃さえ見せつけた。
 そして、大型ディスプレイにドレスアップされたハウリンが映し出されると、周囲の観客のボルテージが上がる。相当人気の神姫なのか、観客からかけ声すら上がっていた。

 この盛り上がりを、菜々子はどこか懐かしく感じた。
 そう、ここのバトルのあり方こそは、わたしとお姉さまが追い求めていた理想に近い。
 まだ『二重螺旋』が現役だった頃は、こんな楽しさが『ポーラスター』でも感じられた。毎日のように。
 だが、菜々子はそんな感傷を振り払う。
 やぶにらみのまま、花村に言った。

「試合内容がどうあれ、勝てなかったら意味ないわ」

 ゴスロリドレス姿のハウリンは、次々と武器を取りだしては攻撃し、相手を翻弄する。
 非武装派の神姫と見せかけて、実はバリバリ武闘派の暗器使いだったらしい。
 やがて、必殺技を派手にたたき込んだハウリンが、勝利者になった。
 ギャラリーの盛り上がりは最高潮に達した。
 まるでプロレスみたいだ、と菜々子は思った。
 勝負を見せるのではなく、試合展開や凄みを見せるもの。
 それは今の菜々子が求めるものではない。

「ここの人たちがおもしろいバトルをしてるからって、強いとは限らない。強さが伴わない魅せる戦いなんて、大道芸にもならないわ」

 あまりに痛烈な菜々子の物言いに、花村は言葉を失った。
 だが、代わりに言い返そうとする声が響いた。

「聞き捨てならないわねー」

 にこやかに笑って、二人のテーブルのそばに立ったのは、女性だった。
 長い黒髪に、はっとするほどの美貌。
 肩の上にいるのは、さきほど観客たちを盛り上げていた、ドレス姿で戦うハウリンである。

「戦いは強く美しく。武装神姫はそうでなくちゃ」

 美貌のマスターは、魅力的な微笑を浮かべながら言い切った。
 菜々子は胸を突かれる。
 彼女の姿に、一瞬、おあいお姉さまの姿がダブって見えた。
 昔の桐島あおいは、こんな風に笑いながら、同じようなことを繰り返し菜々子に語ったものだった。
 ただの感傷だ。
 菜々子は首を横に振り、幻影を振り払う。
 気が付くと、先ほどからのバトルで興味を引かれた神姫とそのマスターが勢ぞろいしている。

「みんな集まってるわ、花村くん」

 黒髪の美少女マスターの声に、花村はほっとした顔で頷いた。
 そして、菜々子の方に向き直り、こう言った。

「君がそこまで言うなら、実際にここの常連さんたちと戦ってごらんよ」
「え?」
「勝つためだけのバトルが本当に正しいのか否か、彼らを相手に試してみるといい」
「なんでわたしがそんな……」
「今の君は見苦しい。少し頭を冷やしてもらうといいよ」

 花村の顔はいつになく真剣で、瞳は挑戦的な光を帯びている。
 菜々子は悟る。
 今日、花村が自分をここに連れてきたのは、このためだったのだ。
 はじめから予定されていた策略。
 エルゴの常連たちが相当な実力者であることは、先ほどのバトルを少し見ただけでもわかる。
 つまり、ここの連中を使って、わたしに制裁を加えようと言うわけか。
 しかし、菜々子は断る気がなかった。
 花村がここまでして仕掛けた策略に対し、持ち前の負けん気が首をもたげたのだ。

「いいわ。やってやろうじゃない」

 菜々子は吐き捨てるように花村に答え、立ち上がった。









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