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 第十話 「やって来た小町娘」



 キーンコーン、と規則正しいチャイムと共に、みんなが起立した。
 「起立、礼」
 「よし、じゃあ今日やった分はちゃんと復習しておくようにな」
 数学の先生が教室を出て行った後、帰る準備を整えていると、
 「おい水野。これからみんなでサッカーやるんだけどさ、一緒に来ないか?」
 と、戸川君が声をかけて来た。
 「あ、えと、今日はいいよ」
 「えー、なんだよ、また塾か?」
 「うん。ごめんね」
 「まあいいや。次は来いよな」
 そう残して戸川君が離れていく。戸川君はスポーツが得意で、気さくな性格もあって女子から人気だ。そして、バトロンもけっこう出来る。
 せっかく誘ってくれるのに悪いなあ、と思いながら教室の出口まで歩いて行く。
 すると。
 「水野君」
 後ろからだれかが呼んだ。
 「あ、璃子ちゃん」
 そこにいたのは、学級委員長の天貝璃子ちゃんだった。クラスのまとめ役ということもあってか、転校してきた僕にもよく話しかけてくれる。
 「どうしたの? 部活は?」
 「ううん、これから。水野君、もうクラスには慣れた?」
 「あ、うん」
 「良かった。でも水野君、勉強ばっかりしてない?」
 「う……」
 「ダメだよそんなの。たまには遊ばないと。前は戸川君達と武装神姫やってたじゃない」
 「わ、分かってるけど、でも、最近塾が忙しいんだよ。じゃあ、僕もう行くからね」
 一瞬目の端に映った、璃子ちゃんの心配そうな瞳から逃げるようにして、僕は下駄箱まで走っていった。


 ※※※



 僕の通っている塾は駅前の踏切を渡った所にあって、そこへ行くには輝さん達のいる商店街をまっすぐ抜けなきゃならない。
 商店街のアーケードを歩いている間ずっと、今日塾ですることと、さっきの学校でのことを考えていた。
 転校してきてから三、四ヶ月くらい経つけど、璃子ちゃんの言うように最近あんまりクラスのみんなと遊んでいない。
 また戸川君や他のみんなとバトロンで遊びたいとも思うけど、今日塾でやる連立方程式のテストも気になるし、早めに行って確認しておかなくちゃなあ、あと、クレアは家でどうしてるだろうなあ、なんて思っていたら、ふと通りかかったコンビニの前で誰かが話していた。
 「ねえねえ、君可愛いね」
 「俺ら暇なんだけどさ、ちょっと遊ばない?」
 着物を着た女の人を、背の高い男の人が三人で取り囲んでいる。これって、ひょっとしてナンパ……?
 ちょっと怖かったから身を固くしながら通り過ぎようとしたけど、
 「あの、明石食堂さんてお店はどうやったら行けますか?」
 と女の人が言ったのを聞いて、思わず足を止めてしまった。今、確かに輝さんのお店のことを言ってたよね。
 「は? 知らねー」
 「はあ、困ったわぁ。早う行かんと、お土産駄目になってまうわ……」
 「いいからそれよりもさ、俺らともっと面白い所行こうぜ」
 「あ、そんなに引っ張らんと……」
 男の人のうち一人が、女の人の手を引いて歩きだそうとする。
 どうしよう。この人、輝さんの所に行きたいのかな、でも怖いし、塾もあるし……。
 迷っている間にも、男の人達が女の人と行ってしまおうとする。どうしよう、どうしよう。
 頭の中がぐるぐる回る。そして。

 「あの!」

 僕はぐっとこらえて、足を止めた。
 「ん?」
 「お、お姉ちゃんどこに行ってたの? 探したよ」
 一瞬、男の人達も女の人もぽかんとした。うう、そんな目で見ないでよ。
 「あ、輝さんの所に行きたいんでしょ?こっちだよ」
 こっちだよ、と目でも訴える。こんな演技で大丈夫かな……。すると、
 「……ああ、そうやったねえ。すっかり忘れとったわぁ。ほな、行きまひょ」
 女の人は呆気にとられている男の人の手を振りほどいてこっちに来てくれた。
 「あ、おい」
 「寂しかったやろ? 堪忍な、置いてってしもて」
 「あ、あの、こっちだよ」
 そのまま僕と手をつないで、僕の案内する方に歩いてゆく。
 「あ、えと……」
 「うふふ、おおきに。格好良かったで」
 少し歩いてから女の人がそう言ってくれたのが、なんだかとてもくすぐったかった。
 「輝はんの所に行こう思たんやけど、迷ってもうてなぁ」
 「輝さんの知り合いなんですか?」
 「うん。君もそうなんやろ?」
 「あ、はい。僕、水野健五です」
 にこにこしている女の人と話をしながら、同時に塾はどうしようと思いながら、食堂に向かった。


※※※


 「……どうだ」
 「では、頂きます。はむっ」
 出来上がったチャーハンを、雅はきちんと両手を合わせてから食べ始めた。
 「……ダメね。味はともかくとして、おじいさまには全然及ばないわ」
 「そうかい」
 ややあってそう感想を述べた雅に、俺は顔をしかめた。
 やっぱし、まだまだじじいの腕には届かないのか。
 だが、俺の思考はそこで横にいた無粋な野郎に中断させられた。
 「フーム、ならば次はワタシが何か作りまショウ。アキラ、鴨肉はありマスか?」
 「ねーよんなもん! っつーか勝手に厨房に入ってくんじゃねー!」
 この前の一件以来、どういうわけかアンリは度々食堂にやって来て、俺たちに絡んでくるようになった。
 「冷たいデスね。ワタシとアナタの仲ではないデスか」
 「うるせえ帰れ。今すぐにだ」
 「まあいいじゃないか輝。せっかく来てくれたんだしね」
 おやっさんはそう言うが、俺としては迷惑この上ないったらない。
 「大体これは俺と雅の問題なんだよ。おめーは口を出すな」
 しかし俺の話を聞かず、アンリは鍋とタマネギを引っ張り出している。
 「聞けよ!」
 するとその時。


 「こんにちわぁ」
 「こ、こんにちは」


 戸を開けて入ってきたのは、健五と……。
 「初菜?」
 「オウ!」
 俺が驚いている間に、初菜の容姿を見たアンリがどこからかバラの花を取り出した。
 「アンシャンテ(初めまして)、お嬢さん。ワタクシ、アンリ・シャルダンと申しま……」
 「輝はん!」
 「ンなあっ!?」
 しかし初菜はアンリには目もくれず、俺に抱きついてきた。横でショックを受けたように固まっているアンリに少し同情してしまう。
 「久しぶりやねぇ、輝はん♪」
 なおもぎゅっと抱きついてくる初菜だったが、
 「あの、初菜さん? 再会を喜ばれるのは結構ですが、できればその、アキラさんから離れて頂けませんか?」
 「ああ、いけへん。堪忍な、メリーちゃん」
 掃除をしていたメリーが眉をぴくぴくさせているのに気付いて、やっと手を離した。
 「やあ、初菜ちゃん」
 「明石はん。お久しぶりです」
 「初菜。久しぶりじゃない」
 「メリーちゃんも雅ちゃんも元気そうやね」
 「正月以来だな。てかお前、何で健五と一緒なんだ?」
 「うふふ、助けてもらったんよ。おもろい子やなぁ」
 「へ?」
 何故か健五は顔を真っ赤にして俯いている。
 「品川の方に用事があってなぁ、こっちにも寄ろう思ったんよ」
 「そうか。……ところで、牡丹はどうしたんだ?」
 俺がそう言った途端に、がたーんと音を立てて、天井からフブキタイプの神姫が降りてきた。
 「……驚かせんなよ、牡丹。どこにいたんだ?」
 牡丹は初菜の神姫なんだが、こいつは忍者型じゃなくて本物の忍者なんじゃないかと思う時がよくある。
 「てかお前、ちゃんと初菜についててやれよ」
 「……商店街の皆様にご挨拶しておりました故」
 「いいっての。こいつただでさえ迷いやすいんだから」
 「まあまあ。それより、ほら」
 初菜が手に持っていた紙袋から取り出したのは。
 「カステラ持ってきたから、お茶にでもしよか。な?」


※※※


 「へえ、幼なじみなんですか?」
 アンリさんや明石さん、それから神姫達も交えてカステラを食べながら話をする。今は、輝さんの思い出話だ。
 「ああ。最初に会ったのは小三ぐらいだったな。そっから京都には高二くらいまで住んでて、その後こっちに引っ越してきたんだ」
 「そうやったねえ。シイタケが食べられへんゆうて、善おじさんに怒られとったなぁ。懐かしいわぁ」
 「う、うるせえ! 昔の話だろ」
 輝さんは声を荒げたけど、みんな笑って流した。
 雅は、目を輝かせてカステラをもぐもぐ食べている。手も付けずにじっと正座している、牡丹っていうフブキとはずいぶん対照的だ。
 「ふふっ、美味し?」
 「ん。初菜、大好き」
 「ったく、調子のいいやつだ。ちょっと甘いもん出されると懐くんだからな」
 「いいの。甘い物は特別なのっ」
 普段は勝ち気そうな雅だけど、こうしていると女の子っぽいなあと思う。メリーも、ペットボトルの緑茶を飲みながら楽しそうに食べている。
 「フム、オイシイデス。良ければマドモワゼル、今度ワタシとも……」
 「黙れアンリ。そして帰れ」
 「オウ! 非道いデス」
 「そういえば、輝さんと三条さんってどうして会ったんですか?」
 さっきの話の続きを聞いてみると、三条さんが笑った。
 「初菜でええよ。ええとな、輝はんのおじいさんが、うちの旅館で料理を教えてくれとったんよ」
 「え、輝さんのおじいさんですか?」
 ふと、アンリさんが身を乗り出す。
 「前に思いまシタが、もしかして、かのムッシュ島津ではありまセンか?」
 「そうそう。島津善一朗って名前でねぇ、日本の料理界じゃ知らん人はおらんくらいの人だったんよ」
 「知っていマス。ワタシも彼の本はいくつも読みマシたから」
 「へえ、凄い人だったんですね!それで、今はどうしてるんですか?」
 僕がそう言ったあと、輝さんの表情が変わった。




 「死んだよ」




 「え……」
 「三年くらい前にな。ぽっくり逝っちまった」
 「ちょっと、輝はん。そないな言い方あらへんやろ?」
 「事実だろ」
 「輝はん!」
 「わりい。俺、部屋戻るわ」
 そう言って、輝さんはお店の奥へと行ってしまう。
 「……うち、ちょっとお話してきます」
 「あ、あの、その……ごめんなさい。僕……」
 「ううん、気にせんといて。輝はん、たまにああなるんよ。ほな、後でね」
 続いて、初菜さんも奥へ下がってしまった。残された僕らは、しんと静まる。
 「あの……」
 すると、いつになく真剣な目をしたアンリさんが、
 「何があったのデスか?ムッシュ明石」
 しばらくして、ぽつりと明石さんが言った。
 「……そうだね。君たちももう輝の仲間だ。だから……そろそろ話しておいてもいいかもしれないな」
 「京介さん……」
 「いや雅、いいんだ。彼らなら、きっと支えになってくれる」
 「話して頂けマスか」
 「うん。じゃあ……どこから話そうかな。そうだね、前に健五君に僕と輝の関係を聞かれたけど」
 「あ、はい」
 明石さんの優しそうな瞳が、悲しげに揺らいだのが見えた。
 「輝のおじいさんはね、僕の……師匠だったんだ」


※※※


 部屋の窓から、落ちかかった夕日を眺めていると、昔の事を思い出した。


 『いいか輝。なんにでもな、そいつにしか無い味がある。それを見極めてやるのが……』


 じじいよ。俺はまだ……。
 「あ、ここにおったんね」
 「ん」
 畳に寝転がったまま、入ってきた初菜の顔を見上げる。
 初菜は俺の隣にやって来ると、正座をして窓の外を眺め始めた。
 「輝はん、気持ちは分かるけど、少し落ち着いて、な?」
 「……分かってるさ。俺ももうガキじゃねえ」
 でも、本当はまるで分かってないのかもしれない。
 体を起こしてあぐらをかく。
 「そういえば、腕はもう大丈夫なん?」
 「もう昔の事だ。心配すんな」
 だが、少し右肩がちくりと痛む。
 初菜はまた窓の外を見る。少し沈黙が降りる。
 「うちもなあ……時々、あの頃が懐かしくなることがあるんよ……」
 突然、初菜がつぶやいた。
 「輝はんとうちと、善おじさんとでお料理して……輝はんとうちが作った厚焼き卵が焦げて、善おじさんが笑いながら教えてくれたなあ」
 俺が見た初菜の表情は沈んでいた。
 「主にお前にべったりくっついてたけどな、あのじじいは」
 「もう。また言ってる」
 初菜は一瞬笑顔を見せたが、またさっきの沈んだ顔に戻った。
 「……いつからやろな。おじさんの事そう呼ぶようになったんは……」
 「……」
 「ほんまは寂しいんと違うの? おじさんと……それから、お父さんも」


 「言うなっ!あのクソ野郎の事は……!」


 叫んでから、興奮してしまった自分に気付く。
 「あ、ごめん……」
 初菜がそう謝ったのを見て、ようやく自分を抑えられた。
 「……悪い。怒鳴っちまった」
 「ううん。うちが悪いんよ。輝はんの気持ちも考えんと……。これじゃ跡継ぎ失格やわ」
 そんな事は無い。悪いのはいつだって俺だ。過去の事をいつまで経っても受け入れられない、ガキみたいな俺だ。
 「でも、輝はん。これだけは覚えといて。お父さんがおらんかったら、雅ちゃんも、今の輝はんもおらんのよ」
 「……そうだな」言葉ではそう言っても、心では納得出来ない。
 けど、こいつは俺よりも、ずっと大人だ。
 「ありがとうな。心配してくれて」
 「……うん」
 俺が謝ってやっと微笑んだ初菜は、目を閉じて頭をこてんと俺の肩にのせてきた。
 「暖かいわあ」
 「止せよ、恥ずかしい。下に戻るぞ」
 「……うん。でも、しばらく……こうさせて」
 「ったく……」


※※※


 「師匠、ですか?」
 明石さんの言葉を僕も繰り返す。
 輝さんのおじいさんが明石さんの師匠……。ここまでの関係は分かった。でも、そうするともう一つの疑問が生まれる。
 「じゃあ、輝さんはどうして……明石さんと暮らしているんですか?」
 そう聞いてから、明石さんの表情がまた曇ったのが分かった。あ、僕はまた、聞いてはいけない事を聞いたのか。
 でも、明石さんは僕の疑問に答えてくれた。
 「さっきも聞いたと思うけど、そう、確かに輝のおじいさんは三年半前に亡くなった。でもね……その時、輝には血のつながった家族が一人もいなかったんだ」
 「え……」
 それって。
 「輝のお父さんはね、師匠が亡くなる前に……ある日突然師匠達を残して、いなくなってしまったんだ」
 聞いてから、僕は体中に冷たいものを流された気分だった。

 輝さんには、家族がいない。

 「そんな……」ひどい。ひどすぎるよ。
 でも、明石さんの言葉は続く。過去を懐かしむように。
 「輝のお父さんは師匠とは違って、料理の道へは進まずに、技術者の道を選んだ。だから師匠は自分の持てる技を、輝と、それから雅に教えたんだ」
 明石さんは遠い目をしている。でも、ここでまた新たな疑問が生まれた。
 「あれ?でも……たしか三年前って、こひるはまだ発売されてないんじゃ」
 こひるとメリエンダが発売されたのは、2040年の初めぐらいだから、去年の事になる。
 「そこから先は、あたしが話すわ」
 後を継いだのは雅だった。下を向いたまま、辛そうに話し出す。
 「あたしは、プロトタイプなの。戌轡人造舎でデータ収集のために作られて、博士に……アキラのお父さんに引き取られたのよ」
 また、知らなかった事が分かった。
 「……メリーは? プロトタイプじゃないの?」
 「私はただの市販品です。だから……アキラさんのおじいさまの事も、昔の事も良く知らないんです」
 「そうなの……」


 「雅」
 その時だった。
 「っつ!」
 今までじっと話を聞いているだけだった牡丹が、いきなり苦無を取り出して凄いスピードで、それこそメリーよりもずっと速いくらいの速さで雅に斬りかかったんだ。
 雅はすぐに腰から爪楊枝型の短剣を引き抜いて受け止めたけど、そうしたらすぐに牡丹は苦無を納めた。
 みんなに緊張が走る。
 「何よ!」
 「……腕はなまっていませんね」
 牡丹の無表情な目に、僅かに残念そうな色が浮かんだ。
 「むしろ上がっていると言って良い。ですが今、貴女は本当に幸せですか?」
 「……何が言いたいの?」
 「輝様のもとに居て、貴女は本当に幸せかと聞いているのです。あの方はまだまだ未熟ですから」
 「そんな!アキラさんは」
 「メリー、部外者は黙りなさい。……それに雅、あの方がかつて貴女にした事、忘れたわけではないでしょう?」
 牡丹の問いに、雅は剣を腰に納めると、
 「はっ。前にも言ったでしょ。あんな昔の事なんかとっくに水に流したつもりだし、それにあたしの幸せはね、おじいさまとの約束を守る事なんだから」
 牡丹はそれを聞いて、目を閉じてゆっくり背を向けた。
 「……良いでしょう。貴女の決意は変わっていないようですね。ならば私は見届けさせて頂くとします。……努々お忘れ無きよう、神姫は主を導く刃で有る事を」
 牡丹は元の位置に戻ると、また正座した。
 「話の腰を折ってしまい申し訳ありません。どうぞ続きを」
 どうぞと言われてもなあ、と僕が思っていると、また明石さんが口を開いた。
 「とにかく、輝は今も苦しんでいる。明るく振る舞っているように見えるかもしれないけど、どうしようも無い寂しさを抱えているんだ」
 明石さんはテーブルに両手をつくと、僕らに頭を下げた。
 「どうか、君たちも輝の仲間として、一緒に傍で支えていってはくれないか」
 「当然デス。彼はワタシのトモ。ならば力になりタイ」
 アンリさんは迷う事無くそう答えた。
 「ぼ、僕は……」
 僕も、何か答えようとしたのだけど。


 「健五、アンリ。すまねえが、今日は帰ってくれ」
 丁度初菜さんと一緒に降りてきた輝さんがそう言った。
 「輝さん」
 「悪いな、さっきは。けど今日はもうこの辺にしといてくれ。頼む」
 明石さんの話を聞いたからかもしれないけど、この時の輝さんは何故だか、とても辛そうに見えた。
 「アキラ……」
 アンリさんもそれを感じ取ったのだろうか。
 「輝はん、うちももう帰るわ。ほな、体に気ぃつけてな」
 「ああ。またな」
 初菜さんは牡丹と帰ろうとする。続いて、アンリさんが立ち上がった。
 「アキラ」
 「ん?」
 「忘れないでくだサイ。ワタシはアナタのトモだという事を」
 輝さんは一瞬呆けた表情になったけど、ふっと笑った。
 「ま、覚えとくさ」
 アンリさんが一足早くお店から出て行く。僕は……。
 「どうした、健五」
 「あ、あの」
 何か言おうとしたけど、そこで、
 「……ああっ! 僕、数学のテストがあるんだった」
 すっかり忘れていた。今から行ったら、確認の時間は10分くらいしかとれない。
 「何だよ。ならとっとと行け。ついでに駅まで初菜と行ってやってくれよな」
 「うん」
 やっぱり輝さんに何か言いたかったけど、思い浮かばなくてこんな事を言ってしまった。
 「あの、輝さん。その……頑張って」
 「へ?」
 ああもう、何を言ってるんだ僕は。



 ※※※



 「それじゃあね」
 「はい。ありがとうございました」
 駅の改札の傍で、初菜さんと別れる。
 「ねえ、健五君」
 初菜さんは別れ際にこう言った。


 「輝はんの事、頼むね」
 「え……」
 「うちはいつでも来られるわけじゃあらへんから、いつも近くにいてくれる健五君なら、輝はんを支えてあげられるんとちがうかな、って」
 「は、はい」
 「ふふ。よろしゅうな」
 初菜さんはそう言って、改札を通っていった。
 「ええと、東京駅はこっちやね」
 「……主、そちらは男子トイレです」
 「ええっ!? いややもう、恥ずかしい」
 大丈夫かなあ。




 ※※※



 その後、塾に行ってテストと授業を受けたけど、食堂で聞いた話が気になって、ちっとも集中できなかった。
 午後九時ぐらいになってから、重たい気分でマンションのエレベーターを登る。
 六階の六〇七号室のドアを開けると、母さんが待っていた。
 「あら健五ちゃん、お帰りなさい」
 「……ただいま」
 「テストは?見せなさい」
 「あ、はい」
 母さんに言われるままに答案用紙を渡す。
 「駄目じゃないの!?ケアレスミスばっかりよ」
 「ご、ごめんなさい……」
 「どうした? おお、お帰り健五」
 父さんがリビングから顔を出した。
 「ちょっと聞いて下さいあなた。健五ったらこんな点数とって」
 「ん?……まあいいじゃないか。学校ではよくやってるみたいだし」
 「学校だけじゃ足りません! あなたも何とか言ってくださいな」
 言い合いを始めた母さんと父さんの隣を抜けて、部屋へと向かおうとして、母さんがこう言ったのが聞こえた。

 「やっぱり神姫なんて買ったのがいけなかったのよ」

 「!」
 違う。クレアは悪くない。
 母さんの言葉があんまり苦しくて、僕は廊下を走り抜けて部屋まで行った。
 「はあ、はあ」
 ドアを閉めても、まだ心臓が早鐘のように鳴っている。カバンを下ろしてベッドに座ると、自然に涙が出てきた。
 「ううっ……うう」
 「お帰りなさい、マスター。……? どうしたんですか?」
 電気スタンドがついた、机の上のクレイドルからクレアが降りてきて、こっちにやって来た。
 「泣いて、いるんですか?」
 「クレア……」
 心配そうに僕の顔を覗き込んでくるクレア。僕が家にいない間に、母さんに何かひどい事を言われていないだろうか。そう考えると、余計に涙が止まらなくなってしまう。
 「マスター」
 するとクレアは、笑って僕の膝を叩いた。
 「落ち込んだ時は、歌を歌って気分転換するのが良いって聞きました。だから、マスターも一緒にやってみましょう! せーの、負けないよ、乗り越えるわー♪テラ根性♪」
 元気に歌い出したクレアは、そのまま机の傍まで行って国語の教科書を持ってくる。
 「……ねえ、クレア」
 「努力と根性……、はい?何ですか?」
 「実はね……」
 今日食堂であった事を話す。するとクレアはきょとんとした。
 「何だか、大変なお話ですけど」
 「僕、本当に輝さんの力になれるのかな」
 自分の言いたい事も言えないでいる僕が、輝さんを支える事なんて本当に出来るのかな。
 そう思っていると、クレアは不思議そうにこう言った。
 「マスターは、輝さんが好きじゃないんですか?」
 「え?」
 「あたしは、大事な人のためならどんな事だって頑張れると思うんです。だからマスターも、輝さんを大切に思うなら支えられるんじゃないかなって」
 「クレア……」
 クレアはまた太陽みたいに笑って、
 「そうだマスター、今日はこれを読んだんですよ。それで、お話したい事があって」
 と、さっきの教科書を差し出した。
 その姿を見ていると、僕も少し楽になる。
 「……うん。どこを読んだの?」
 「えっと、このページです。どうして喜助はこんな非道い事をしたんですか? 弟さんが可哀想です」
 「うーん、先生が言ってたのは……」


 今はまだ、輝さんを支えられるくらい強くないけど。
 せめて、この小さな友達を守れるようになりたいと、僕は思った。


~次回予告~
街の人々が語る幽霊の噂。
真相解明に乗り出した健五と璃子が見たものとは!?
「怖いの?」「ち、違うよ!」
次回、第十一話 思い出のおせんべい お楽しみに!

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