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一話 『愛しのエンジェル』



神頼みという言葉があるけれど、神様に祈って現実的にどうにかなると思っている日本人なんてほとんどいない、と思う。日本に八百人だか八千人だかの神様がいるせいかその有難味は薄れてしまって、神様と運がほとんど同義になってしまってはいないか。
神様に頼んだってこの暑さが和らぐことはない。
神様に頼んだって今日までの一週間で受けた中間テストの結果が良い方に転ぶわけもない。
「鉄子さん、携帯鳴ってますよ」
でも、その八億人の神様が気まぐれに私の願いを一つだけ叶えてくれるとしたら、私は世界中の人達と仲良くなりたい。だってそんなこと、私がどんなに頑張っても運が良くっても不可能だから。
「鉄子は明るい」だとか「人当たりが良い」などと言われる私だって、あんな奴は死んでしまったほうが世のためだとか、ジャージ店主から呼び出しの電話だウザイなあとか、人並みに考えてしまう。誰とでも仲良くしたいとは思いつつ、嫌いな奴は人間とすら認めたくない。あっちが土下座してすり寄ってきたとしても私のほうからお断りだ。
「なっちゃんサンクス。テスト明けくらいゆっくりしたいんに……もしもしぃ?」
『ああ鉄子君? 君が物売屋の看板娘になった日からずっとこうだ。遠くからのお客さんだというから物売屋も名が知られるようになったと思ったのに、依頼はまた神姫絡みときた。今となっちゃ家出猫探しの依頼すら恋しく思えるよ』
「はぁ、さいですか」
『ちゃんと聞いてるのかい?』
「えー、店の扇風機が壊れて暑いなあ、ってことですかね」
『冴えてるじゃないか鉄子君。それじゃ、コタマを連れて今すぐ来てくれ。お客さんを待たせてるよ』
断る暇すらなく通話は途切れた。電話番というわけでもないのに二年生のなっちゃんは律儀に(?)私が電話を終えるまで待っていた。
「今の電話、何ですか? 鉄子さんの台詞から会話の内容がサッパリ分かんなかったんですけど」
「バイト先の店主に呼び出されたんよ。先に部活抜けるわ」
「呼び出し? ま、まさか扇風機がどうとかって仕事の暗号なんですか! 鉄子さんのバイトってスパイ的なアレですか!」
アクロバティックな発想をするな、この子は。といっても今の電話は私にもサッパリ分からなかったから、なっちゃんには適当に返事して部活を抜け出した。
城尊町物売屋二代目店主にして一人でその看板を守る寿八幸助は悪人ではない。さっきは言葉の綾で「死ねばいいのに」と考えたような気がしたけど、私は八幸助さんを嫌っているわけではなく、苦手なだけだ。八幸助さんの奥さんである千早さんは凡てにおいてパーフェクトだし、その人のハートを射抜くくらいだからきっと八幸助さんは良い人に部類されるんだと思う。
でも、きな臭いなんでも屋のような商売をしている物売屋の店主を務めるくらいだから、八幸助さんの性格もそれなりにきな臭い。

先日、物売屋にとって久しぶりの武装神姫関連ではない依頼が舞い込んできた。痩せこけた年齢不詳の男は財布から諭吉一枚を抜き出すや「この世のすべてが知りたい」とのたまった。後から千早さんに聞いた話だと、物売屋にとってこの手の来客は日常茶飯事らしい。
私が面食らっていると八幸助さんは少し考えた後、店の奥の居間からメモ用紙と製図用コンパスを持ってきた。そして私とその男の前でメモ用紙に綺麗な丸を一つ書いて、それを男に手渡した。
男はそれを受け取り、メモ用紙をためつすがめつして見て「なるほど」と何かを納得して去っていった。
頭頂にクエスチョンマークを浮かべた私に八幸助さんは「いやあ鉄子君、勉強になったね。適当に書いた何の意味も持たない丸にこの世のすべてを見い出せる人間がいるとは、いやはや世界は広い」と嘯いて一万円札をジャージのポケットにねじ込んだ。

これくらい肝が据わっていないと物売屋の店主は務まらないんだろうけれど、意味不明なやり口で意味不明なお客さんからぼったくる人を信用しようと思えるほど、私の頭は腐っていない。一日中お茶を飲んでいるだけでバイト代を出してくれる店主であっても、私の苦手意識はそう簡単には消えてくれないのだ。
なにも八幸助さんに限った話ではなく、他にも苦手だったり嫌いだったりするヒトはたくさんいる。誰だってそうだろう。自分の日常の中にいるヒトだけでなく、すれ違った他人に意味も無く睨まれたり、オバさんに理不尽なイチャモンをつけられたり、数えきれない数のヒトを私は嫌った。逆に好きな人は簡単に数えられるから人間は苦労が絶えないんだと思う。
では何故私は、八兆人の神様に世界中の人達と仲良くなりたいだなんて願うのか。それは私とまだ仲良くなっていないけれど、私と仲良くできる可能性のある人達と仲良くなりたいからだ。今現在仲の良い人達とは、もっともっと仲良くなりたい。さらに限定するなら、背比弧域と親密になりたい。
その他嫌いな奴は人間とすらみなさないから、私は全世界の『人間』と仲良くなりたい。こんなことを他所様に言うと痛い子扱いされるから誰にも言ったことないけど。
「鉄子よォ、アタシはオマエがアホなことくらい、全知全能の神より深く知ってるつもりだったんだぜ。でも参った、やっぱ神はすげえや。この糞暑い日にコタマお姉様をクーラー利かせた部屋から拉致ってしかも働かせようとするほどのアホだったとは、さすがのアタシも知らなかったぜ」
修道服を着た神姫、シスター型ハーモニーグレイスのコタマは、私が物売屋まで自転車を漕いでいる間ずっと、トートバッグの中でブチブチと文句を垂れていた。もちろんこいつとも仲良くなりたくない。心を持つとはいえ神姫は人間じゃないから対象外――というわけではもちろんなく、最近はコタマが『神』の『姫』と書く神姫であることすら許し難くなってきた。コタマが神姫として生まれてきてよかったとしみじみ思う。もしコタマが人間として私の前に現れたとしたら、言葉も交わさず殴り合いになるだろうから。

物売屋に到着した私達を出迎えたのは、いつもと変わらないジャージをキメた八幸助さんと、私と同い年くらいの男だった。
「嫌そうな顔をするのも分かるけどねコタマ君、この彼は君と戦いたいがために遠路はるばるこの店まで来て、僕に真剣勝負の仲介を依頼したんだよ」
「そのとおり! お久しぶりだねマイエンジェル。あれからお変わり無いと推察するが如何に?」
長い前髪をかき上げ、顔の向きは斜め45度のベストポジション。垂らした糸のようにスラリと立つこの伊達男を私は知っている。
「……誰かと思えばあんたですか」
「おや、知り合いかい」
「以前、このヒトに大恥かかされたんです」
「おいおい、大勢の観衆の前でボクのオスカルをあっさりと沈めておいて、しかもこのボクを袖にしたキミが言っていい台詞じゃないだろう。むしろボクが恥をかいたと言いたいところさ。そうだろう?」
「知らんがな」
私とコタマがドールマスターなどというご大層な称号を得てしまったのも、以来あの神姫センターでやたらめったら挑戦されるようになったのも、すべてこの伊達男のせいだ。
神姫センターにいる人達には気安く私に近づくなと言ったこともある。にもかかわらず益々親しげに話しかけられるようになって、礼儀を知らない奴なんかは初対面なのに私のことを呼び捨てにしたりもする。この怒りの矛先を向けるべき相手がこの伊達男なのだ。
「これが物語ならボクはキミに意趣返しをするべきなんだろうけどね、安心するといい、ボクにそんなつもりは全くない。ボクのオスカルは心に深い傷を負ったけれども、ボクはキミをどうしても恨めなかった。何故だか分かるかい?」
「……さあ」
「キミがボクのエンジェルだからさ!」
バッと両手を広げ、伊達男は高らかに吠えた。
「我が人生にエンジェルktkr!」
「ちょっ!? 声がでかい!」
クーラーもなく入り口を開け放った土間に伊達男の叫びが響き、店の外へと抜けていった。
「おお愛しのエンジェルよ! キミは何故エンジェルなのか!」
「だから知らんがな!」
ただでさえこのヘンテコな店のアルバイトってことで近所の人に変な目で見られてるのに、これ以上痴態を晒してしまったら外を出歩けなくなる。
入り口の外のほうを伺うと、幸いご近所さんらしき人はいなかった。でも不幸かな、ご近所さんよりももっと私に近い二人組がいた。
「えっと……おじゃましま、す?」
「どうぞごゆっくり、でいいのか?」
背比め、部活に来ないと思ったら傘姫と遊んでたのか。






物売屋からの帰り道、傘姫と並んでアイスを食べながら歩く。背比は私達の後ろからついてきている。
「大丈夫なの? あんな約束しちゃって」
「いーわけねーだろ、闘り合うのは鉄子じゃなくてアタシなんだぜ。いっそわざと負けて鉄子とあの勘違いヤローをくっつけてやろうか。こりゃ妙案だぜ」
「んなマネしたら、あんたの寝床はジャンク屋のダンボールになるんやからね」
勿論私もコタマも、私達が負けるなんてこれっぽっちも考えていない。だからこそ伊達男の条件を飲んだ。

1.明後日の日曜日、神姫センターで1対1の真剣勝負をする
2.伊達男が勝てば、私は伊達男の真のエンジェルになる(?)
3.私が勝てば、伊達男は二度と私の前に現れない

僅かな平穏が手に入る以外に何のメリットもないのにこの勝負それ自体を拒否できなかったのは、これが私の立派な仕事だからである。伊達男はこの依頼を八幸助さんに持ちかけるにあたり、なんと5諭吉を支払ったらしいのだ。お客さんからの依頼への力の入れ具合が依頼料に正比例する物売屋としては、この破格の依頼料に応えないわけにはいかない。
「逆に言えば、私の価値は5万円ってことになるんかね。もしかして私、怒ってよかったんかな?」
「そ、そんなことは……」
「竹さんをそのまま買うならともかく、あの人の依頼はあくまで【ドールマスターへの挑戦(罰ゲーム有り)】だろ。そのまんま竹さんの値段にはならないって」
後ろから背比がフォローを入れてくれた。私の価値は少なくとも5万円ではないと言ってくれただけで、中間テストのことや伊達男のことなんてどうでもよくなるくらい嬉しくなる。
背比にとって私はどれくらいの価値があるんだろう。やっぱり私より傘姫のほうが高いんだろうか。それは当然といえば当然だけど、嬉しさはあっという間に霧散した。
どう考えたって今更私に勝ち目なんて無い。この二人はもう当然のように一緒になってしまっている。私がどうやって入り込める?
隣を歩く勝ち目のない恋敵と目が合った。傘姫が私の想いを知ったらどう反応するんだろう。怒るだろうか。悲しむだろうか。もしかすると歯牙にもかけないかもしれない。
傘姫が口を開いて何か言った。私はうまく聞き取れなかった。
「試し――――ゃえば?」
傘姫の顔が一瞬、歪んで見えた。
「え? ごめん何て?」
「あの人と試しに付き合ってみるのも悪くないと思うよ」
今度ははっきりと聞こえた。でも、それは傘姫の言葉とは思えなかった。
傘姫だって綺麗なだけの人間じゃない。けど「試しに付き合う」だなんてはっきり言うような……いや、違う。そこは問題じゃない。
私は今、目の前でいたずらっぽく笑っているコイツに「竹櫛鉄子には背比よりあの男のほうがお似合いだ」と言われたんだ。
「ほら、その、確かにエンジェルとか変なこと言ってたけど、物売屋を探し当ててまで鉄ちゃんを訪ねてきたってことは、それだけ鉄ちゃんのことを想ってるって証拠じゃない」
持っていたアイスが手から抜け落ちた。ベチャッと音がして傘姫も背比もそれを目で追ったけど、どうでもよかった。
背比の前でこんなことを言う傘姫に、私は悪意しか感じ取れなかった。
「それが何? だから付き合えって?」
「え、えっと、ちょっと考えてみてあげたらどうかなって、ね」
背比を自分のものにした奴に、妥当な線を見繕われたようにしか感じ取えなかった。あの男で妥協して、背比に近づくなと言われているとしか思えなかった。
傘姫の表情はいつもと変わらないのに、薄い笑顔の裏に不快と迷惑と憐憫が渦巻いているようにしか思えなかった。
「なんで考えないかんの? ねぇなんで? 傘姫はあの男と私をくっつけたいん?」
荒れる言葉を抑えきれなかった。傘姫の肩をビクッと縮める仕草で裏に隠された汚いモノが消えてくれた。
「そ、そんなつもりじゃ……」
「じゃあなんで考えろとか言った! ほんとは私が――!」
「おーいおい姫乃よォ! オマエまさかこのアタシにわざと負けろって言いたいんじゃないだろうなぁ!?」
感情に任せて傘姫を責めようとした私の言葉を、コタマがトートバッグの中から大声で遮った。右耳がキーンとなって耳を押さえた拍子に、自分の顔がかなり引きつっていたことを知った。
「アタシのとっておきの秘密を教えてやるけどよ、仮にアタシがファーストとセカンド無しの飛車角落ちだったとしてもアタシの勝ちは揺るぎようがねェんだぜ姫乃? アタシが負ける可能性を考えることが既にアタシへの侮辱なんだっつーの」
「……ごめん」
ぺこり、と傘姫は私に、いや私のバッグから顔を出すコタマに頭を下げた。
今更になって、気まずい雰囲気になってしまっていたことに気がついた。私と二人は家の方向が違うけど、道が分かれるのはまだ先だ。背比も助け舟を出してくれず、三人が立ち止まったまま歩き出すタイミングすら失いかけた時、雰囲気を壊したのは再びコタマだった。
「勘違いが過ぎるぜ、謝る相手が違うだろうがよ姫乃ォ? 一応アタシにも主がいるんだからよ、いや一応だぜ? 鉄子に謝っとくのが筋ってもんだろうが」
「うん……ごめんなさい鉄ちゃん。その、軽率でした」
傘姫は再びぺこりと私に向かって頭を下げた。さっきは傘姫が黒く汚く見えたけど、どうかしていたのは私のほうだった。
責めたのは私なのに、一方的に謝られてはきまりが悪い。
「や、私もごめん。ちょっと虫の居所が悪かったぽい」
「えー、なんかよく分からんけど、俺もごめん」
なぜか背比も謝って、三人で頭を下げ合った。背比が雰囲気を和ませようとしてこの場のノリ(?)だけで頭を下げているのが分かった。その妙な気のつかい方がおかしくて、私は吹き出した。つられて傘姫と背比も笑い始めた。
今更になって、足元のアイスが惜しくなった。
「あっはははははは! よし竹さん、姫乃をくすぐり倒そうぜ」
「なんでよ!? 唐突すぎる!」
「オッケー。私は右脇腹をやるから背比は左ね」
「待って待って人が見てる! は、離して、そこ弱あんっ!?」
「竹さん甘いぜ! もっとこう、抉るようにっ!」
「んあああっ!?」
「こうか!? こうがいいんか!?」
「よ、よくなっははひっはははっ! や、だ、だめっんはぁんっ! ひぃやっはははふはは、んひひっ! ひゃひゃはっ、やっやめ、ふやっはふふふっははひっ! く、苦し、だ、だめっもう――――!」



いささか悪ふざけの領域を超えてしまった責めによりいささか危ない領域(窒息的な意味で)に片足を突っ込んだ姫乃と、介抱する背比を乗せたタクシーが去っていくのを見送った。家の方向が違う私を置いて、二人は遠ざかっていく。
「コタマ」
「あん?」
「…………ありがと」
バッグの中のコタマは「んだよ気持ち悪ぃ」と悪態をついた。
「オマエもアタシの主だっつーんならもうちっとばかしクールになれよ。分かるか鉄子、クールだよクール」
「あんたに言われたくないわ」
なんだかあらゆるものに置いていかれたような気がして、それ追いかけるように私は家まで歩き出した。足どりが重いわけでもないのに、一歩一歩がすごく長く感じる。
どうしてこんなに家が遠いんだっけ? と考えて、そういえば物売屋に自転車を置きっぱなしにしていることに思い至った。今からでも取りに戻ったほうが早いけど、来た道を引き返す気にはなれなかった。
一人トボトボ歩く自分が、馬鹿みたいだった。
涙が堰を切ったように溢れてきた。
景色が歪み、街灯や車のライトの灯りが広がって町を虹色に染めた。
私はまた立ち止まって、歩けなくなった。追いかけていたものに離されていく。
「……うっ…………うううっ………………」
目を瞑ってもじわりと溢れてくる、嫌な涙。
大学生になってから私は、泣いてばっかりいる。
「このアタシがいるっつーのに泣く必要なんてないだろ」
私が泣きじゃくる度にコタマは、その時だけ気遣ってくれる。
「ほれ、オマエがやりたいことを言えよ。いつものようにコタマお姉様がなんでも叶えてやるぜ」
こんなときだけ私をあやすように甘えさせてくれるコタマに、私はいつも控え目なお願いをしている。コタマなら本当になんでも叶えてくれそうな気がするけど、なんとなく気をつかってしまう。
コタマは今まで、私の控え目な願い事をすべて叶えてくれた。面倒臭いと言いながら、私の我儘に付き合ってくれた。普段どれだけいがみ合っていても、コタマはいつも私の側にいてくれた。
私はまた、いつものようにコタマに甘える。
私、明後日の日曜日の勝負に勝ったら背比に告白するんだ。だから絶対に勝って。
「頼まれるまでもないけどよ……オマエ、それ、死亡フラグじゃねえか?」
さっきは負けるはずがないって言ってたくせに。
「そりゃそうだけどよ。オマエがこれ以上死亡フラグを立てないことを神に祈るぜ」
心配しなくても、ドールマスターが負けるはずがないことを私が誰よりよく知っている。私はコタマが世界で一番強い神姫だって信じてる。ファーストとセカンドを操るコタマが倒れるところなんて想像もつかない。
「だからそういうことを……とにかく、手紙の用意はしとけよ。日曜のバトルが終わった後で渡しに行くか?」
それはたぶん無理。わざわざ休日に尋ねて手紙を渡すなんて直接告白するようなものだし。できるだけさりげなく、たとえば部活が終わった後を狙うのがいい。
「そうかよ。あーこれでやっと不毛なラブレター講座が終わるんだな。清々するぜ」
そう、これでやっとすべてが終わる。
コタマ――今まで私に付き合ってくれてありがとう。
なんだかんだであんたのこと、嫌いじゃなかったよ。
「おい待て、だからそりゃくたばる奴の台詞だ」
いいこと思いついた。コタマは当然勝つけど、勝ってくれたら好きなだけヂェリーを用意してあげよう。そして今度は私がコタマの我儘をなんでも聞いてあげよう。いつもケンカばっかりしていたけど、少しはコタマに感謝してることだし。
「…………」
ねえコタマ。私達が出会った時のこと、覚えてる?
「覚えてねえ記憶にねえ! もういいから黙ってろ!」
道すがら私はコタマと出会った時の思い出を訥々と語っていたけれど、コタマは話を聞いてくれなかった。
涙はいつの間にか止まっていた。











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