「あー! キャロルがアリスのコロッケ取った!」
目に悔し涙を浮かべて、両腕をぷるぷるさせるアリスに私ことスチール…じゃない、キャロルはにやりと勝ち誇った笑みを浮かべてあげます。
「弱肉強食が我が家のルールですよ?」
「勝手にルールを作らない、というかそれ僕の夕飯だし……」
「勝手にルールを作らない、というかそれ僕の夕飯だし……」
私の隊長であり私たちのマスターである冴えない男が苦笑いを浮かべて「お兄ぃちゃぁぁん!」と泣き付くアリスをあやしつけます。
「隊長、神姫が食べる量なんてたかが知れているでしょう? ねずみに齧られるくらいの量を食べられたからといって文句をたれられても困ります」
神姫である私たちは食事を取る必要はないのですが、せっかく物を食べるという機能が備わっている以上、美味しいものが食べたいというのはなんら不自然な感情ではないはずです。むしろ、私たちの分のご飯を用意していないこの野…男の甲斐性の無さが一番の問題ではないでしょうか?
「文句を言ってるわけじゃないだろ? 美味い?」
腹が立って無意識にもうひとかけ、むしり取って食べていた私に甲斐性無し、いや、マスターが話しかけてきました。
「美味しいですよ? ですが、しいて文句をつけるなら食卓に油物しか並んでいない現状は改善した方がいいとは思います」
そういうと立っている食卓をに並んだ食材に指を向けます。
「一人暮らしだとどうしても自分が好きなものしか食べなくなるんだよ。別に太ったわけでも体重増えたわけでもないしいいじゃ……」
「よくないよっ!」
「よくないよっ!」
油物野ろ……マスターの胸(正確にはシャツに)にしがみついてぐすぐすと鼻をすすっていたアリスが突如声を荒げました。
「昨日はてんぷらだったし、今日はとんかつとコロッケ、一昨日はえっと?」
「店屋物でしたね。ほっと○っとのカツ丼」
「店屋物でしたね。ほっと○っとのカツ丼」
アリスの記憶回路の修理の必要性を感じながら答えます。
「そうだよ! 最近、お兄ちゃん油ものしか食べてない! 絶対体がおかしくなるよ?」
心配そうな瞳で覗き込まれて心が揺らいでいるのでしょうが、マスターは「と、いわれても」というような顔をしています。
「アリスの言うことはもっともですよ、マスター?」
ガラでもないですが、この未来の生活習慣病患者に説教をたれてやることにしました。
「どう考えても野菜が少なすぎます。油分とたんぱく質だけで人は生きてはいけないのですから、せめて食卓にもう一品、そうですね、サラダだけでも追加することを進言します」
私の進言に「えー、でもぉ、めんどくさいしぃ」とでも言いたげな表情を浮かべるマスターに私が苦言を呈する為に右手を上げたところで「確かに、エレガントではありませんわね」と上から目線の勘に触る声が、実際上から聞こえました。
「何しに出てきたんでしょうね、引きこもりの『水銀中毒』さん」
「聞き捨てなりませんわ、とはいえ、どこから訂正していただくのがよろしいかしら?」
「聞き捨てなりませんわ、とはいえ、どこから訂正していただくのがよろしいかしら?」
パソコンの載せてある台の上でムカつくくらい小粋に足を組み、アメリカ軍では20年以上前から交換が行われている灰色を基調としたUCPパターンの戦闘服で身を包んだHMT型の神姫。
「そうですねぇ、直射日光に当たるのは気が進みませんわ。と家でゴロゴロして、バトルなんて野蛮でナンセンスですわ。とかのたまわってトレーニング機で仮想庭園を作ってお茶を飲んでいるのを、私は引きこもりと呼んではいけないのでしょうか?」
「まぁ、それのどこがいけませんの? わたくしのこの珠のようなボディーに傷がつくのは兄様、いえ、人類全体の損失ですわ。 ましてやバトルなんてとんでもございません」
「まぁ、それのどこがいけませんの? わたくしのこの珠のようなボディーに傷がつくのは兄様、いえ、人類全体の損失ですわ。 ましてやバトルなんてとんでもございません」
距離はかなり離れているのですがふふん、と鼻で笑う声が聞こえてきそうな癪に障る話し方に私は味方を求めマスター達の方を振り返り……
「ねぇ、お兄ちゃん、本当にダメなんだからね?」
「あぁ、わかったって、まったくアリスはかわい「死ねっ!」あごっ!!」
「あぁ、わかったって、まったくアリスはかわい「死ねっ!」あごっ!!」
にやけた顔のマスターの顔面に陶磁の箸おきを全力投球してから、再び水銀中毒に向き直りビシィッ!と擬音の響きそうな勢いで指差しました。
「とにかく、そこから降りてきなさい!」
「お断りしますわ」
「お断りしますわ」
その一言と同時に私の投げた十円玉をひょいっと避けて、人を小ばかにしたような嘲笑を浮かべてみせたのを見て、私のあるはずのない血管がぶちぃっと音を立てて切れました。
「いい覚悟ですね水銀中毒……榴弾砲で粉々にしてあげますよ?」
「あら、わたくしが『戦わない』からといって『戦えない』と誤解されても困りますわよ? そんなことより、今は兄様の食生活の方が大事なのではなくて? 鋼鉄旅団さん」
「あら、わたくしが『戦わない』からといって『戦えない』と誤解されても困りますわよ? そんなことより、今は兄様の食生活の方が大事なのではなくて? 鋼鉄旅団さん」
売り言葉に買い言葉で、ヒートアップしていく私にやれやれ、これだから野蛮な雌豚は困りますわ。 悔しかったらぶひーっと啼いてみなさいな、とでもいいたげな哀れみすら滲ませた嘲笑から「けっ」っと視線をそらしてから、再びマスターの方に向き直ります。
「で、あちらの糞生意気なビッチこと水銀中毒も言ってますが「誰が何ですって! 兄様になんてことを!」あー、とにかく……」
「アリスが作る!」
「アリスが作る!」
その一言がまさしく、その後私達が体験する苦労の引き金を引いたのでした まる
後半へ続く