メニュー

トップページ
作品ページ
サイト内検索

作品別直リンク

(最終更新年度順)

完結作品

武装神姫のリン
戦う神姫は好きですか
妄想神姫
ツガル戦術論
2036の風
剣は紅い花の誇り
クラブハンド・フォートブラッグ
ホワイトファング・ハウリングソウル
ハウリングソウル
ウサギのナミダ
アスカ・シンカロン
引きこもりと神姫
キズナのキセキ
魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン
浸食機械
ゆりりね!

2015年

えむえむえす ~My marriage story~

2014年

ぶそしき! これから!?
デュアル・マインド
15cm程度の死闘
悪魔に憑かれた微駄男
Nagi the combat princess
えむえむえす ~My marriage story~

2013年

ねここの飼い方
白の女神と黒の英雄
深み填りと這上姫
キズナのキセキ
武装食堂
二アー・トゥ・ユー

2012年

美咲さんと先生
二人のマスター
類は神姫を呼ぶ
浸食機械
引きこもりと神姫
ライドオン204X
フツノミタマ
白濁!? 阪高神姫部
白い英雄を喰う黒い女神
マイナスから始める初めての武装神姫

2011年

流れ流れて神姫無頼
アスカ・シンカロン
MMS戦記
天海市神姫黙示録
UGV(仮)
Forbidden Fruit
すとれい・しーぷ
車輪の姫君
樫坂家の事情!
Slaughter Queen Esmeralda.

2010年

おまかせ♪ホーリーベル
戦うことを忘れた武装神姫
Gene Less
The Armed Princess―武装神姫―
ウサギのナミダ
PRINCESS BRAVE
神姫☆こみゅにけ~しょん
アルトアイネス奮闘姫
ロンド・ロンド

2009年

せつなの武装神姫
双子神姫
鋼の心 ~Eisen Herz~
犬子さんの土下座ライフ。
狛犬はうりん劇場
Memories of Not Forgetting
Knuckle princess

2008年

武装神姫のリン
『不良品』
師匠と弟子
マリナニタSOS!(仮)
橘明人とかしまし神姫たちの日常日記
戦う神姫は好きですか
スロウ・ライフ
徒然続く、そんな話。
妄想神姫
幻の物語
神姫ちゃんは何歳ですか?
剣は紅い花の誇り
EXECUTION
武装神姫~ストライカーズ・ソウル~
神姫長屋の住人達。
三毛猫観察日記
クラブハンド・フォートブラッグ
武装神姫と暮らす日常
ネコのマスターの奮闘日記
ホワイトファング・ハウリングソウル
ハウリングソウル
Heart Locate
トバナイトリ>トベナイトリ
3Sが斬る!
天使のたまご
Raven and Cat~紅き瞳と猫の爪~
神姫大作戦
蒼空~アオゾラ~

2007年

Mighty Magic
神姫狩人
凪さん家シリーズ
HOBBY LIFE,HOBBY SHOP
いつか光り輝く
幸せな神姫を戦場に立たせる会
春夏秋冬
アールとエルと
Twin Sword's
俺とティアナの場合
ツガル戦術論
2036の風
きしぶし!
流れ星シィル-銀河流星伝説-
神姫ガーダーシリーズ
sister G princess
Les lunes
Second Place -Howling-
Elysion
Report "vanish archetype"

鳳凰杯・まとめページ

単発作品用トップページ

武装神姫SS総合掲示板

2036年 武装神姫の世界 (公式設定)


50音順キャラクター図鑑
標準武装一覧
標準装備一覧
企業一覧
アマチュア・個人製作パーツ一覧
wiki相関図
キャラ相関図(2chまとめ版)
小道具関連設定
〈2つ名〉辞典



※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

キズナのキセキ

ACT1-6「招かれざる客」




 店の入り口から入ってきたその客に、最初に気が付いたのは、安藤智也だった。
 火曜日の夕方、学校帰りのゲームセンターは、安藤にとってもはや習慣である。
 平日は安藤とLAシスターズ、そして大城というメンバーが集う。
 そう言えば、この週末は、遠野と菜々子が来なかった。実に珍しい。
 大城が二人と連絡を取ろうとしたが、出来なかったという。
 何かイヤな予感がする、と表情を暗くしたのは八重樫美緒であったが、

「二人で遠くにデートにでも行ってるんじゃない?」

 などと、江崎梨々香は明るく言った。
 少し心配ではあるが、二人にもそれぞれ事情があるのだろう。安藤はそう思った。

 ゲームセンターは今日も盛況だ。
 安藤が所属しているチームのメンバーも、こぞってバトルをしている。
 一戦終えた安藤は、いつも遠野が定位置にしている壁に背をつけた。
 隣には大城大介がいる。
 彼は安藤とはまったく違うタイプの男で、歳も上であったが、なぜか気を許せる人物だった。
 二人並んで缶コーヒーを飲みながら、バトルを観戦している。
 そんな時、くだんの客が入ってきたのに、安藤は気が付いた。

 落ち着いた色のコートと、えんじ色のベレー帽を身につけた女性。
 かすかな微笑を浮かべたその美貌に、安藤でさえ、はっとさせられる。
 手には、黒鉄色のアタッシュケース。神姫マスターか。
 彼女はゆっくりとこちらへやってくる。

「大城さん、今入ってきた、あのお客……」
「ん? どの客だ……って、うほ!」

 大城はあっと言う間に相好を崩した。この男、美女に目がない。
 安藤は思わずため息をついた。大城に注意を促したのは、目をハートにさせるためではないのだが。
 その女性を安藤は見たことがなかった。大城は知っているかと思って声をかけたのだが、

「何かお困りですか、お嬢さん?」

 などと妙に格好つけた声で話しかけているところを見ると、どうやら知らない顔らしい。
 その女性は、安藤たちの近くまでやってくると、うっすらと微笑んで、言った。

「ここに、久住菜々子は来ている?」

 予想外の問いに、安藤も大城も、一瞬反応できない。
 二人は顔を見合わせた後、大城が答えた。

「菜々子ちゃん? 今日は……というか、ここんとこ来てねえけど……」
「そう……残念ね」
「君は、菜々子ちゃんの知り合いかい?」
「ああ、ごめんなさい……わたしは桐島あおい。菜々子の昔なじみです」

 名乗りながら、鮮やかに微笑む。
 安藤はその笑顔に、一瞬、違和感を感じた。
 なんだろう。おかしなところなど、何もないはずなのに。

「俺は大城大介」
「安藤智也です。菜々子さんとはチームメイトです、二人とも」
「チーム? あの子が?」
「そうさ! 久住菜々子所属のチーム『アクセル』と言えば、ここらじゃちょっとは知れたチームなんだぜ?」

 桐島あおいと名乗った彼女は、とても驚いた様子だった。
 菜々子さんがチームを組むことがそんなに意外だろうか。菜々子は社交的な性格だし、チーム結成を言い出したのも菜々子の方からだと聞いている。
 昔の菜々子は、もっと違う性格だったのかな、などと安藤は思った。

「チーム『アクセル』ね……結構強いの?」
「そりゃあ強いさ。『エトランゼ』のミスティは説明はいらないよな。俺の虎実はこのゲーセンじゃランキングバトルのチャンプだし、この安藤とオルフェだって、バトル歴は浅いけど、結構な実力なんだぜ?」
「へえ……」
「まあ……チームリーダーが勝負にあんまりこだわらないってのが、困りものなんだが」
「勝負にこだわらない……?」
「ああ。遠野って男なんだが、驚くほど勝負に欲がないんだよなぁ。試合内容重視っつーか」

 そのとき、あおいがまた、鮮やかに微笑んだ。

「だったら、わたしとバトルしません?」
「君も神姫マスターなのか?」
「ええ、もちろん。菜々子と知り合ったのも、武装神姫が縁なの」
「そりゃいい。菜々子ちゃんの昔なじみなら大歓迎だぜ」

 しかも美人だし、と大城は付け加えた。安藤は苦笑する。大城さんは相変わらずだ。
 ここで、大城の肩にいて話を聞いていたティグリース型の神姫が、桐島あおいに呼びかけた。

「おい、あんた……桐島あおい、だったっけか?」
「ええ。なに?」
「バトルすんのはかまわないけど、あんたの神姫は?」
「ああ……そうね、先に紹介するわ。出てきて、マグダレーナ」

 あおいはアタッシュケースを取り出すと、取っ手のボタンを押した。
 重い音を立ててケースが開く。
 虎実は見た。
 そこに佇むのは、闇のように真っ黒な神姫だった。

「……ハーモニーグレイス?」

 塗装が微妙に違っているが、修道女をモチーフにした武装神姫・ハーモニーグレイス型に間違いない。
 不機嫌そうな表情で、虎実をねめつけている。

「敵と慣れ合う気は、さらさらないのだがな」

 ひどくしわがれた、老婆のような声。
 なんだ、こいつは……。
 通常のハーモニーグレイス型のような明るさ、愛想の良さなど、まるでない。
 虎実は得体の知れない不気味さを、マグダレーナと名乗る神姫から感じていた。
 虎実は警戒する。しかし、

「こんな美人とお近付きになれるとは、武装神姫様々だなぁ」

 彼女のマスターはまったく緊張感がない。
 虎実は怒り狂いたいのをこらえつつ、大城にだけ聞こえる声で囁いた。

「アニキ」
「何だよ、また妬いてんのか?」
「ばっ……! ちげーよ! ……まさかアニキ、相手を見くびってないだろーな?」
「まさか。菜々子ちゃんの昔なじみってんなら、気が抜ける相手じゃねーっての」

 鼻歌交じりでそう言う大城の言葉は、まったく説得力がない。
 ハーモニーグレイスと言えば、チームの少女たちの神姫と同様、武装を簡略化して低価格化を実現したライトアーマー・シリーズの一体だ。
 戦闘力自体は、フル装備の武装神姫がおそれるほどではないが、ゲームセンターで戦うときには、油断は出来ない。
 どんなカスタマイズが施されていても、おかしくはないのだ。素体がライトアーマー・シリーズでも、武装が要塞並ということだって、ないとは言えない。
 だが、マグダレーナというこの黒い神姫の不気味さは、そんなことではないような気がする。だが、具体的に言葉に出来ない。
 我がアニキのなんたる空気の読めなさ。
 虎実はため息をついた。



 ステージは「廃墟」が選択された。
 虎実にとっては得意のステージである。
 ティアやミスティと、何度もここで戦った。一番経験のあるステージである。
 虎実は、高速タイプに組み替えた「ファスト・オーガ」に乗っている。
 このファスト・オーガを手足のように操る操縦技術、それこそが虎実最大の武器であった。

 虎実は砂埃舞うメインストリートを疾駆している。
 相手がノーマルのハーモニーグレイス型なら、ライトアーマー・クラスの軽装備のはずだ。その場合、路地などに隠れながら様子をうかがうのが定石である。
 それをおびき出すために、わざと目立つように走っているのだ。
 小細工は虎実と大城が得意とするところではない。
 自らを囮にして、一気に勝負を決める。
 虎実は前方を注視する。
 いた。
 あの黒く不気味な修道女型。
 特別な装備は、腰を取り巻くスカートアーマーくらいだろうか。手にしたキャンドルと十字架型のマシンガンは、ハーモニーグレイス型のデフォルト装備である。

 虎実は気にせず、アクセルをふかし、一気にマグダレーナに迫った。
 機首に取り付けたバルカン砲を撃つ。
 マグダレーナがさらりとした動きでかわす。
 しかし、砂煙と銃痕で動きは制限された。
 ファスト・オーガでそのまま挽き潰すべく、突っ込む。
 手応えは、ない。
 マグダレーナは虎実の突撃を、紙一重でかわしていた。
 だが、甘い。
 マグダレーナの目前を通り過ぎた刹那、虎実は上体を上げ、ファスト・オーガの機首を持ち上げると、突進の勢いを回転に変えた。
 フローティングユニットを軸に、コマのように回転する。

「吹き飛べっ!!」

 バットのように振り出された機首が、マグダレーナに迫る。
 虎実は確信する。この奇襲はかわせない。
 だが、マグダレーナには慌てた様子もない。
 ファスト・オーガの一撃が迫る。

「こうか?」

 一言発し、マグダレーナは地面に身体を投げ出すように身体を傾けた。
 地面スレスレまで身体を倒し込みながら、スライドするように飛ぶ。
 頭上を、エアバイクの機首が駆け抜けた。

「なっ……ばかなっ!!」

 再びファスト・オーガの機首が回ってきたときには、マグダレーナはその回転範囲から逃れていた。
 今の回避方法を、虎実は知っている。
 ビッテリーターン。
 スキーのターン技術の一つだ。
 ティアと初めて対戦したときに、彼女がかわすのに使った。
 その技を、どうしてこの神姫が使う!?
 得意の奇襲がかわされたことより、そのことに驚きを隠せない。

 回転を立て直し、虎実はマグダレーナと対峙する。
 マグダレーナはすでに立ち上がっていた。口元に不気味な笑みを浮かべて。
 虎実は寒気に襲われた。
 本当に、得体が知れない。
 そんな思いを振り払うべく、虎実はバルカン砲を放った。

「おおおおおおぉぉっ!!」

 吼える。
 近距離からの弾丸の雨。ライトアーマー・クラスの装甲では持ちこたえることは不可能だ。
 はたして、マグダレーナは宙にいた。
 一挙動でジャンプし、砂煙から飛び出して、虎実の頭上を越えようとする。
 マグダレーナは空中で虎実を狙い撃った。
 しかし、虎実もそれは察知している。
 その場でファスト・オーガを最小半径でターンさせ、射線をはずした。間髪入れず、アクセル・オン、エアバイクをダッシュさせる。
 狙いは、マグダレーナの着地点。
 黒い修道女は、ふわり、と宙を舞い、着地した。
 やはり、あのスカートアーマーは装甲だけではない、特殊な装備のようだ。
 再び向かい合う両者。
 虎実も走りながら、大剣「朱天」を抜いた。身の丈ほどもあるこの剣は、ティグリース型のデフォルト装備である。それを片手で軽々と振る。
 視界の中のマグダレーナが迫る。
 彼女もまた、手にしたキャンドルを武器に選んだ。短い柄のついた三本のキャンドルの先から、光の刃が現れる。ライトセイバーの三つ叉槍。

「だあああああぁぁぁっ!!」

 虎実の気合い声に対し、マグダレーナは無言。
 高速ですれ違う瞬間、二人は同時におのが武器を振り抜いた。
 はたして、虎実の大剣に手応えはなく、ファスト・オーガはフローティングユニットの接続部から真っ二つに断たれていた。

「う、わあああぁっ!?」

 動力を失い、虎実を乗せたファスト・オーガの前半分がつんのめるように地面に接触した。
 転倒し、虎実は地面に投げ出される。

「くそ……」

 「朱天」を手に立ち上がろうとしたその時、黒い影が立ちはだかる。
 マグダレーナ。
 その闇のように黒い影は死神のように、虎実の瞳に映った。
 三つ叉のビームランスを構えている。
 それでも、虎実が立ち上がろうと勇気を振り絞った。
 しかし。

「その魂、しばらく預かるぞ」

 ためらいもなく、三つ叉槍が振り下ろされる。
 マグダレーナの一撃は、虎実の身体を貫いた。

「ぐあああぁぁ……っ! ……あ……」

 虎実の瞳から光が消える。身体から力が抜け、地に伏した。
 バトルはマグダレーナの勝利で幕を閉じた。
 この時は、まだ誰も、異常に気が付いてはいなかった。



「虎実!? おい、虎実、どうした! おいっ!」

 大城の必死の呼びかけにも、虎実が応じる気配はなかった。光の消えた瞳を開いたまま、大城の手のひらの上で、力なく横たわるばかりだ。

 試合終了後。
 アクセスポッドが開いても、虎実は身じろぎ一つしなかった。
 大城は不審に思う。いつもなら、試合終了後に真っ先に飛び出してきて、口げんかが始まるのが常だったからだ。
 大城はアクセスポッドをのぞき込む。
 虎実はいる。
 だが、何を言っても、触れても、何の反応も示さない。ただの人形になってしまったかのように。
 大城は筐体の向こうを睨みつける。
 えんじのベレーをかぶった神姫マスター。
 桐島あおいは、穏やかな微笑みを浮かべていた。

「おい、お前……虎実に何をした!?」

 大城の大きな声を聞きつけて、周りから神姫マスターたちが集まってくる。
 それでも、桐島あおいは慌てる様子を見せない。

「大丈夫。虎実のAIを少し借りただけ。目的を果たしさえすれば、すぐに返すわ」
「AIを、借りた……?」

 その不思議な物言いに、大城は首を傾げる。
 神姫のAIを借り出すことなど、可能なのか……。
 いや、一つ思い当たる節がある。

「AI移送接続ソフト、か……?」
「よく分かったわね」
「なんだって……そんなことをしやがるっ!?」

 知らないはずがない。あの時のことを、忘れられるはずがない。
 以前、このゲームセンターで、同じようにAI移送接続ソフトを使い、遠野とティアを大ピンチに陥れた奴がいた。
 神姫のAIを取り出し、別のサーバーへと送る一種のウィルスソフト。それがAI移送接続ソフトだ。
 もちろん、あの事件以来、そうしたウィルスソフトへの対策はしている。
 しかし、今のバトルでは、そんな対策も意味を成していなかったようだ。
 怒りに猛る大城は、そのことに気付く余裕もない。
 拳を握りしめ、回答次第では殴りかからんと、怒りにたぎっている。
 あおいは涼しい顔で、答えた。

「わたしのお願いを聞いてもらいたかったの。それを聞き届けてくれれば、虎実のAIはすぐに返すわ」
「なんだとぉ……?」

 大城は、桐島あおいに足早に歩み寄ると、強引に胸ぐら掴もうと手を伸ばす。

「そこまでだ、大城大介」

 しわがれた声が警告を発した。
 あおいの肩にいる神姫が、こちらに向けてマシンガンを構えている。
 大城は動けなくなった。
 目を見開いて、銃口を見つめるしかできない。
 まさか、神姫が人間に銃を向けるなど……常識ではあり得なかった。
 大城の背中に冷たい汗が流れてゆく。

「あおいに手を出したら、貴様もただでは済まん」
「イリーガルかよ……」
「どうとでも呼ぶがいい。あおいの話を聞かぬ限り、虎実のAIは戻らんぞ」

 あろうことか、この神姫は自らイリーガル……違法神姫であることを肯定した。
 百戦錬磨の大城さえも、向けられる銃口にひるみつつあったその時、

「あんた、菜々子さんの師匠だろ? それなのに、イリーガルなんか使って……恥ずかしくねぇのかよ!」

 果敢に声を発した少女がいた。
 背が高く、少年のような雰囲気の美少女は、園田有希。久住菜々子の弟子を自称している。

「桐島あおいさん……あんたのことは、菜々子さんから聞いてた。菜々子さんの目標とする神姫マスターだって……。
 なのに、イリーガルを自分の神姫にして、ウィルスソフトを使ってバトルして……何やってんだ、あんたは!!」
「元気がいいわね、菜々子の弟子は」
「んなこた、どーでもいい! 虎実のAIを返せよ!」
「いいわよ」
「へ?」

 有希は間抜けな顔であおいを見た。
 桐島あおいは、有希の剣幕にも動じず、柔らかな笑みを浮かべるばかりだ。

「わたしは何も、虎実のAIを消したいわけじゃないわ。なんだったら、わたしたちと勝負してみる? あなたが勝てば、すぐに虎実のAIを返してもいい」
「おもしれー」

 腕まくりする有希のその腕を、八重樫美緒が押さえた。

「待って。冷静になりなさい。負けたら、カイのAIだって奪われるかも知れないわ」
「黙ってろよ、美緒。自分の師匠がこんなんじゃ、菜々子さんだってたまらねーだろ。あの人に知れる前に、あたしがオトシマエつけて……」
「あら、菜々子ならもう知ってるわよ」

 口を挟んできたあおいの顔を、有希と美緒は見つめた。

「このあいだ、あの子を負かしたばかりだもの」
「なっ……!?」

 チームのメンバーだけでなく、その会話を聞いていた『ノーザンクロス』の常連は皆絶句した。
 『エトランゼ』のミスティはこのゲーセンで圧倒的実力を誇る神姫として認知されている。
 その彼女が敗れた。
 ということは、このゲーセンに集う神姫では、マグダレーナにかなわない、ということではないか。
 マグダレーナは周囲の様子を見ながら一笑する。

「ミスティが敗れたと知って、気後れしたか?」
「く……」
「ならば、二対一でもかまわんぞ?」
「……それは本気?」

 有希の背後から声がした。チームメイトの蓼科涼子である。
 涼子は有希の隣に並び、マグダレーナを睨む。
 その鋭い視線を、マグダレーナは悠々と受け流した。

「本気だとも。二人がかりで来るがいい」
「その言葉、後悔させてあげるわ」
「ちょっと……涼子!?」

 慌てたのは美緒である。
 有希だけでなく涼子まで、危険なバトルに挑もうというのか。

「あなた、わかってるの? 涼姫だってAIを奪われるかも知れないのよ?」
「かもしれない、でしょう? 涼姫とカイのコンビなら、虎実にだって……『エトランゼ』のミスティにだって、後れは取らない。美緒だって分かってるはずだわ」

 そう言って、涼子は有希と視線を合わせた。二人は不適に笑い合う。
 いつもはもっとも身近なライバル同士だが、コンビを組めば『ノーザンクロス』でも指折りの実力になっていた。
 それは美緒もよく知っている。
 しかし、それでも危険な賭けだと思う。
 美緒はどうしても、マグダレーナという黒い神姫から警戒を解くことが出来ないでいた。
 あの神姫には何かある。遠野さんなら、今のバトルを見たら分かっただろうか。

「どうした、話はまとまったか?」

 老婆のようにしわがれた声が呼ぶ。
 美緒は有希の腕から手を離した。
 有希と涼子は頷くと、黒い神姫とそのマスターに向かい合った。

「虎実は返してもらうぜ、マグダレーナ」
「わたしたち二人を相手に、勝てると思わないことね」

 自信たっぷりの二人に、美緒はただ、無事を祈るだけしかできなかった。



 大城はマグダレーナに、もはや畏怖すら感じていた。
 バトルが始まってもう五分以上が経過していたが、二人の神姫を相手に、マグダレーナはダメージどころかかすり傷一つ負わずに、二人の攻撃をさばき続けていた。

 園田有希のカイは、ストラーフ装備に加え、ヴァローナの鎌を持った重装備。
 蓼科涼子の涼姫は、装備こそライトアーマー級だが、ワイヤーを使ったアクションは独特の機動で、初見の相手なら翻弄されることは確実だ。
 対して、桐島あおいのマグダレーナは、先ほどと同様、スカートアーマー以外はノーマルのハーモニーグレイス型と変わらない軽装備に見える。

 涼姫が翻弄し、カイがプレッシャーを与える。
 この二人の組み合わせは、ティアとミスティのコンビによく似ていた。
 二人の息が合っていれば、並の神姫では太刀打ちできないほどの実力が発揮される。
 ましてやこのバトルは二対一。カイ&涼姫のコンビが圧倒的に有利だ。

 しかし、マグダレーナは悠然とバトルに望んでいる。
 マグダレーナは、攻撃を受け止めることをあまりしない。ほとんどかわしてみせる。
 ある意味、ティアに近い戦い方と言えるが、その様子はまるで違っているように、大城には思えた。
 ティアは攻撃を察知し、持ち前の機動力で回避する。
 マグダレーナの動き出しはティアよりも早い。余裕を持って動き、攻撃範囲外へするり、と移動する。
 まるで、何の攻撃が来るのか、事前に察知しているかのように……。

 カイがマグダレーナを攻める。得意の近接攻撃は、手数で明らかにマグダレーナを上回る。
 しかし、そのことごとくをかわされる。
 カイはそれでも手を出し続ける。こいつを自分一人に引きつける。そうすればチャンスが回ってくる。

「はあっ!」

 鎌を横に大きく振るう。
 とっさに大きく間合いを取るマグダレーナ。
 その瞬間、カイの背後を小さな影が追い抜いた。
 涼姫が音もなく飛来し、マグダレーナに襲いかかる。
 振り子のような独特の軌道と無音の飛翔は、涼姫の真骨頂である。
 息もつかせぬ奇襲に、涼姫は成功を確信していた。
 しかし。

「えっ?」

 カイの背後から飛び出したとき、マグダレーナは地上にいなかった。
 目標を見失い戸惑う涼姫の上空に影が差した。
 上を仰ぎ見るより早く、涼姫は支えを失い、空中に投げ出された。

「きゃああぁぁっ!?」

 無様に地面に転がり落ちる。
 廃墟のビルを掴む左手から伸びたワイヤーが切断されていた。
 背面跳びのように涼姫とカイを飛び越えたマグダレーナが、すれ違いざまにワイヤーを切ったのだ。
 大きく跳ねたマグダレーナは、涼姫の視線の向こうで、着地しようとしている。
 しかし、これはカイにとって好機。
 短く跳ねて、反動を膝にためる。振り向きながら、膝をのばし、パワーを開放して突進した。
 これぞミスティ直伝の必殺技、リバーサル・スクラッチ。

「うおおおおおぉぉ!!」

 雄叫びをあげながら突進する。
 相手は今着地。そして、あろうことか、こちらに向けて前に出た。
 正気か。
 リーチも速度もパワーも、こちらが上だ!
 カイはためらわずに攻撃を繰り出した。
 右副腕の爪で裂く。マグダレーナは姿勢を低くして避ける。
 左副腕のバックナックル。上体をスウェーさせて回避。
 まだ終わらない。
 カイは、右下に構えていた鎌を、超速度で斜めに振り上げる。
 カイ・オリジナルのリバーサル・スクラッチ三連撃!
 しかし。

「なっ……!?」

 カイは鎌を振り上げることが出来なかった。
 さらに一歩踏み込んだマグダレーナが、手にした十字架型の銃器「クロスシンフォニー」で鎌の柄を止めていた。
 両者は止まらない。
 すれ違うその瞬間、マグダレーナはカイの胸に、ビームトライデントをたたき込んだ。
 カイは驚愕の表情のまま、その攻撃を受ける。
 そして、瞳から光が失われた。

「カイッ!!」

 叫びともに、涼姫は残った右手を撃ち出した。
 目標はマグダレーナ。こちらに背を向けている。それは涼姫最大のチャンスだった。
 マグダレーナは動いた。
 かわさずに、振り向かずに、持っていたマシンガンの銃口のみを背後に向け、涼姫の右手を狙い撃った。
 乾いた音を立て、右手がはじかれる。
 目標を掴めなかった武装手が地に落ちる。

「そんな……」

 呆然とした涼姫の虚を突いて、マグダレーナが振り向く。
 地面スレスレを飛翔し、滑るように涼姫に向かってくる。
 カイに刺さったトライデントを抜き去り、正面に構えて突進してくる。
 涼姫はブレイクダンスのような動きで、頭を下に回転しながら、その攻撃をかわそうとした。
 旋回する両脚に隙は見えない。
 だが、刹那の間隙を縫って、マグダレーナは三つ叉槍を突く。
 涼姫の旋回が止まった。彼女の身体は、三つ叉槍によって、地面に縫い止められていた。
 そして、涼姫の瞳から光が奪われる。
 ジャッジが無慈悲にも、黒い神姫の勝利を確定した。
 マグダレーナの完勝。二人の神姫を相手にかすり傷一つ負わないままでの勝利だった。

「こんなやつに……どうやって……勝つってんだ……」

 大城は呆然とそう呟くしかなかった。



「しょせん、リーダーが内容重視などとのたまうチームよ。この程度のレベルも当然か……」

 マグダレーナの物言いに、誰も口を挟むことは出来なかった。
 ミスティ、虎実、カイと涼姫のコンビに完勝できる神姫など、『ノーザンクロス』にはいない。

「……で、そっちの要求は、なんだ」

 大城は固い声で言う。
 彼女の要求を飲む以外に、三人の神姫のAIが戻ってくることはない。
 大城はそう言う他なかった。
 有希と涼子も表情を堅くして、桐島あおいとマグダレーナを見ていた。
 あおいは満足したように頷くと、変わらぬ微笑を浮かべたまま、大城に答えた。

「菜々子をわたしのところまで連れてきて。わたしともう一度バトルするようにって……そう伝えて」










| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー