キズナのキセキ
ACT1-6「招かれざる客」
◆
店の入り口から入ってきたその客に、最初に気が付いたのは、安藤智也だった。
火曜日の夕方、学校帰りのゲームセンターは、安藤にとってもはや習慣である。
平日は安藤とLAシスターズ、そして大城というメンバーが集う。
そう言えば、この週末は、遠野と菜々子が来なかった。実に珍しい。
大城が二人と連絡を取ろうとしたが、出来なかったという。
何かイヤな予感がする、と表情を暗くしたのは八重樫美緒であったが、
火曜日の夕方、学校帰りのゲームセンターは、安藤にとってもはや習慣である。
平日は安藤とLAシスターズ、そして大城というメンバーが集う。
そう言えば、この週末は、遠野と菜々子が来なかった。実に珍しい。
大城が二人と連絡を取ろうとしたが、出来なかったという。
何かイヤな予感がする、と表情を暗くしたのは八重樫美緒であったが、
「二人で遠くにデートにでも行ってるんじゃない?」
などと、江崎梨々香は明るく言った。
少し心配ではあるが、二人にもそれぞれ事情があるのだろう。安藤はそう思った。
少し心配ではあるが、二人にもそれぞれ事情があるのだろう。安藤はそう思った。
ゲームセンターは今日も盛況だ。
安藤が所属しているチームのメンバーも、こぞってバトルをしている。
一戦終えた安藤は、いつも遠野が定位置にしている壁に背をつけた。
隣には大城大介がいる。
彼は安藤とはまったく違うタイプの男で、歳も上であったが、なぜか気を許せる人物だった。
二人並んで缶コーヒーを飲みながら、バトルを観戦している。
そんな時、くだんの客が入ってきたのに、安藤は気が付いた。
安藤が所属しているチームのメンバーも、こぞってバトルをしている。
一戦終えた安藤は、いつも遠野が定位置にしている壁に背をつけた。
隣には大城大介がいる。
彼は安藤とはまったく違うタイプの男で、歳も上であったが、なぜか気を許せる人物だった。
二人並んで缶コーヒーを飲みながら、バトルを観戦している。
そんな時、くだんの客が入ってきたのに、安藤は気が付いた。
落ち着いた色のコートと、えんじ色のベレー帽を身につけた女性。
かすかな微笑を浮かべたその美貌に、安藤でさえ、はっとさせられる。
手には、黒鉄色のアタッシュケース。神姫マスターか。
彼女はゆっくりとこちらへやってくる。
かすかな微笑を浮かべたその美貌に、安藤でさえ、はっとさせられる。
手には、黒鉄色のアタッシュケース。神姫マスターか。
彼女はゆっくりとこちらへやってくる。
「大城さん、今入ってきた、あのお客……」
「ん? どの客だ……って、うほ!」
「ん? どの客だ……って、うほ!」
大城はあっと言う間に相好を崩した。この男、美女に目がない。
安藤は思わずため息をついた。大城に注意を促したのは、目をハートにさせるためではないのだが。
その女性を安藤は見たことがなかった。大城は知っているかと思って声をかけたのだが、
安藤は思わずため息をついた。大城に注意を促したのは、目をハートにさせるためではないのだが。
その女性を安藤は見たことがなかった。大城は知っているかと思って声をかけたのだが、
「何かお困りですか、お嬢さん?」
などと妙に格好つけた声で話しかけているところを見ると、どうやら知らない顔らしい。
その女性は、安藤たちの近くまでやってくると、うっすらと微笑んで、言った。
その女性は、安藤たちの近くまでやってくると、うっすらと微笑んで、言った。
「ここに、久住菜々子は来ている?」
予想外の問いに、安藤も大城も、一瞬反応できない。
二人は顔を見合わせた後、大城が答えた。
二人は顔を見合わせた後、大城が答えた。
「菜々子ちゃん? 今日は……というか、ここんとこ来てねえけど……」
「そう……残念ね」
「君は、菜々子ちゃんの知り合いかい?」
「ああ、ごめんなさい……わたしは桐島あおい。菜々子の昔なじみです」
「そう……残念ね」
「君は、菜々子ちゃんの知り合いかい?」
「ああ、ごめんなさい……わたしは桐島あおい。菜々子の昔なじみです」
名乗りながら、鮮やかに微笑む。
安藤はその笑顔に、一瞬、違和感を感じた。
なんだろう。おかしなところなど、何もないはずなのに。
安藤はその笑顔に、一瞬、違和感を感じた。
なんだろう。おかしなところなど、何もないはずなのに。
「俺は大城大介」
「安藤智也です。菜々子さんとはチームメイトです、二人とも」
「チーム? あの子が?」
「そうさ! 久住菜々子所属のチーム『アクセル』と言えば、ここらじゃちょっとは知れたチームなんだぜ?」
「安藤智也です。菜々子さんとはチームメイトです、二人とも」
「チーム? あの子が?」
「そうさ! 久住菜々子所属のチーム『アクセル』と言えば、ここらじゃちょっとは知れたチームなんだぜ?」
桐島あおいと名乗った彼女は、とても驚いた様子だった。
菜々子さんがチームを組むことがそんなに意外だろうか。菜々子は社交的な性格だし、チーム結成を言い出したのも菜々子の方からだと聞いている。
昔の菜々子は、もっと違う性格だったのかな、などと安藤は思った。
菜々子さんがチームを組むことがそんなに意外だろうか。菜々子は社交的な性格だし、チーム結成を言い出したのも菜々子の方からだと聞いている。
昔の菜々子は、もっと違う性格だったのかな、などと安藤は思った。
「チーム『アクセル』ね……結構強いの?」
「そりゃあ強いさ。『エトランゼ』のミスティは説明はいらないよな。俺の虎実はこのゲーセンじゃランキングバトルのチャンプだし、この安藤とオルフェだって、バトル歴は浅いけど、結構な実力なんだぜ?」
「へえ……」
「まあ……チームリーダーが勝負にあんまりこだわらないってのが、困りものなんだが」
「勝負にこだわらない……?」
「ああ。遠野って男なんだが、驚くほど勝負に欲がないんだよなぁ。試合内容重視っつーか」
「そりゃあ強いさ。『エトランゼ』のミスティは説明はいらないよな。俺の虎実はこのゲーセンじゃランキングバトルのチャンプだし、この安藤とオルフェだって、バトル歴は浅いけど、結構な実力なんだぜ?」
「へえ……」
「まあ……チームリーダーが勝負にあんまりこだわらないってのが、困りものなんだが」
「勝負にこだわらない……?」
「ああ。遠野って男なんだが、驚くほど勝負に欲がないんだよなぁ。試合内容重視っつーか」
そのとき、あおいがまた、鮮やかに微笑んだ。
「だったら、わたしとバトルしません?」
「君も神姫マスターなのか?」
「ええ、もちろん。菜々子と知り合ったのも、武装神姫が縁なの」
「そりゃいい。菜々子ちゃんの昔なじみなら大歓迎だぜ」
「君も神姫マスターなのか?」
「ええ、もちろん。菜々子と知り合ったのも、武装神姫が縁なの」
「そりゃいい。菜々子ちゃんの昔なじみなら大歓迎だぜ」
しかも美人だし、と大城は付け加えた。安藤は苦笑する。大城さんは相変わらずだ。
ここで、大城の肩にいて話を聞いていたティグリース型の神姫が、桐島あおいに呼びかけた。
ここで、大城の肩にいて話を聞いていたティグリース型の神姫が、桐島あおいに呼びかけた。
「おい、あんた……桐島あおい、だったっけか?」
「ええ。なに?」
「バトルすんのはかまわないけど、あんたの神姫は?」
「ああ……そうね、先に紹介するわ。出てきて、マグダレーナ」
「ええ。なに?」
「バトルすんのはかまわないけど、あんたの神姫は?」
「ああ……そうね、先に紹介するわ。出てきて、マグダレーナ」
あおいはアタッシュケースを取り出すと、取っ手のボタンを押した。
重い音を立ててケースが開く。
虎実は見た。
そこに佇むのは、闇のように真っ黒な神姫だった。
重い音を立ててケースが開く。
虎実は見た。
そこに佇むのは、闇のように真っ黒な神姫だった。
「……ハーモニーグレイス?」
塗装が微妙に違っているが、修道女をモチーフにした武装神姫・ハーモニーグレイス型に間違いない。
不機嫌そうな表情で、虎実をねめつけている。
不機嫌そうな表情で、虎実をねめつけている。
「敵と慣れ合う気は、さらさらないのだがな」
ひどくしわがれた、老婆のような声。
なんだ、こいつは……。
通常のハーモニーグレイス型のような明るさ、愛想の良さなど、まるでない。
虎実は得体の知れない不気味さを、マグダレーナと名乗る神姫から感じていた。
虎実は警戒する。しかし、
なんだ、こいつは……。
通常のハーモニーグレイス型のような明るさ、愛想の良さなど、まるでない。
虎実は得体の知れない不気味さを、マグダレーナと名乗る神姫から感じていた。
虎実は警戒する。しかし、
「こんな美人とお近付きになれるとは、武装神姫様々だなぁ」
彼女のマスターはまったく緊張感がない。
虎実は怒り狂いたいのをこらえつつ、大城にだけ聞こえる声で囁いた。
虎実は怒り狂いたいのをこらえつつ、大城にだけ聞こえる声で囁いた。
「アニキ」
「何だよ、また妬いてんのか?」
「ばっ……! ちげーよ! ……まさかアニキ、相手を見くびってないだろーな?」
「まさか。菜々子ちゃんの昔なじみってんなら、気が抜ける相手じゃねーっての」
「何だよ、また妬いてんのか?」
「ばっ……! ちげーよ! ……まさかアニキ、相手を見くびってないだろーな?」
「まさか。菜々子ちゃんの昔なじみってんなら、気が抜ける相手じゃねーっての」
鼻歌交じりでそう言う大城の言葉は、まったく説得力がない。
ハーモニーグレイスと言えば、チームの少女たちの神姫と同様、武装を簡略化して低価格化を実現したライトアーマー・シリーズの一体だ。
戦闘力自体は、フル装備の武装神姫がおそれるほどではないが、ゲームセンターで戦うときには、油断は出来ない。
どんなカスタマイズが施されていても、おかしくはないのだ。素体がライトアーマー・シリーズでも、武装が要塞並ということだって、ないとは言えない。
だが、マグダレーナというこの黒い神姫の不気味さは、そんなことではないような気がする。だが、具体的に言葉に出来ない。
我がアニキのなんたる空気の読めなさ。
虎実はため息をついた。
ハーモニーグレイスと言えば、チームの少女たちの神姫と同様、武装を簡略化して低価格化を実現したライトアーマー・シリーズの一体だ。
戦闘力自体は、フル装備の武装神姫がおそれるほどではないが、ゲームセンターで戦うときには、油断は出来ない。
どんなカスタマイズが施されていても、おかしくはないのだ。素体がライトアーマー・シリーズでも、武装が要塞並ということだって、ないとは言えない。
だが、マグダレーナというこの黒い神姫の不気味さは、そんなことではないような気がする。だが、具体的に言葉に出来ない。
我がアニキのなんたる空気の読めなさ。
虎実はため息をついた。
◆
ステージは「廃墟」が選択された。
虎実にとっては得意のステージである。
ティアやミスティと、何度もここで戦った。一番経験のあるステージである。
虎実は、高速タイプに組み替えた「ファスト・オーガ」に乗っている。
このファスト・オーガを手足のように操る操縦技術、それこそが虎実最大の武器であった。
虎実にとっては得意のステージである。
ティアやミスティと、何度もここで戦った。一番経験のあるステージである。
虎実は、高速タイプに組み替えた「ファスト・オーガ」に乗っている。
このファスト・オーガを手足のように操る操縦技術、それこそが虎実最大の武器であった。
虎実は砂埃舞うメインストリートを疾駆している。
相手がノーマルのハーモニーグレイス型なら、ライトアーマー・クラスの軽装備のはずだ。その場合、路地などに隠れながら様子をうかがうのが定石である。
それをおびき出すために、わざと目立つように走っているのだ。
小細工は虎実と大城が得意とするところではない。
自らを囮にして、一気に勝負を決める。
虎実は前方を注視する。
いた。
あの黒く不気味な修道女型。
特別な装備は、腰を取り巻くスカートアーマーくらいだろうか。手にしたキャンドルと十字架型のマシンガンは、ハーモニーグレイス型のデフォルト装備である。
相手がノーマルのハーモニーグレイス型なら、ライトアーマー・クラスの軽装備のはずだ。その場合、路地などに隠れながら様子をうかがうのが定石である。
それをおびき出すために、わざと目立つように走っているのだ。
小細工は虎実と大城が得意とするところではない。
自らを囮にして、一気に勝負を決める。
虎実は前方を注視する。
いた。
あの黒く不気味な修道女型。
特別な装備は、腰を取り巻くスカートアーマーくらいだろうか。手にしたキャンドルと十字架型のマシンガンは、ハーモニーグレイス型のデフォルト装備である。
虎実は気にせず、アクセルをふかし、一気にマグダレーナに迫った。
機首に取り付けたバルカン砲を撃つ。
マグダレーナがさらりとした動きでかわす。
しかし、砂煙と銃痕で動きは制限された。
ファスト・オーガでそのまま挽き潰すべく、突っ込む。
手応えは、ない。
マグダレーナは虎実の突撃を、紙一重でかわしていた。
だが、甘い。
マグダレーナの目前を通り過ぎた刹那、虎実は上体を上げ、ファスト・オーガの機首を持ち上げると、突進の勢いを回転に変えた。
フローティングユニットを軸に、コマのように回転する。
機首に取り付けたバルカン砲を撃つ。
マグダレーナがさらりとした動きでかわす。
しかし、砂煙と銃痕で動きは制限された。
ファスト・オーガでそのまま挽き潰すべく、突っ込む。
手応えは、ない。
マグダレーナは虎実の突撃を、紙一重でかわしていた。
だが、甘い。
マグダレーナの目前を通り過ぎた刹那、虎実は上体を上げ、ファスト・オーガの機首を持ち上げると、突進の勢いを回転に変えた。
フローティングユニットを軸に、コマのように回転する。
「吹き飛べっ!!」
バットのように振り出された機首が、マグダレーナに迫る。
虎実は確信する。この奇襲はかわせない。
だが、マグダレーナには慌てた様子もない。
ファスト・オーガの一撃が迫る。
虎実は確信する。この奇襲はかわせない。
だが、マグダレーナには慌てた様子もない。
ファスト・オーガの一撃が迫る。
「こうか?」
一言発し、マグダレーナは地面に身体を投げ出すように身体を傾けた。
地面スレスレまで身体を倒し込みながら、スライドするように飛ぶ。
頭上を、エアバイクの機首が駆け抜けた。
地面スレスレまで身体を倒し込みながら、スライドするように飛ぶ。
頭上を、エアバイクの機首が駆け抜けた。
「なっ……ばかなっ!!」
再びファスト・オーガの機首が回ってきたときには、マグダレーナはその回転範囲から逃れていた。
今の回避方法を、虎実は知っている。
ビッテリーターン。
スキーのターン技術の一つだ。
ティアと初めて対戦したときに、彼女がかわすのに使った。
その技を、どうしてこの神姫が使う!?
得意の奇襲がかわされたことより、そのことに驚きを隠せない。
今の回避方法を、虎実は知っている。
ビッテリーターン。
スキーのターン技術の一つだ。
ティアと初めて対戦したときに、彼女がかわすのに使った。
その技を、どうしてこの神姫が使う!?
得意の奇襲がかわされたことより、そのことに驚きを隠せない。
回転を立て直し、虎実はマグダレーナと対峙する。
マグダレーナはすでに立ち上がっていた。口元に不気味な笑みを浮かべて。
虎実は寒気に襲われた。
本当に、得体が知れない。
そんな思いを振り払うべく、虎実はバルカン砲を放った。
マグダレーナはすでに立ち上がっていた。口元に不気味な笑みを浮かべて。
虎実は寒気に襲われた。
本当に、得体が知れない。
そんな思いを振り払うべく、虎実はバルカン砲を放った。
「おおおおおおぉぉっ!!」
吼える。
近距離からの弾丸の雨。ライトアーマー・クラスの装甲では持ちこたえることは不可能だ。
はたして、マグダレーナは宙にいた。
一挙動でジャンプし、砂煙から飛び出して、虎実の頭上を越えようとする。
マグダレーナは空中で虎実を狙い撃った。
しかし、虎実もそれは察知している。
その場でファスト・オーガを最小半径でターンさせ、射線をはずした。間髪入れず、アクセル・オン、エアバイクをダッシュさせる。
狙いは、マグダレーナの着地点。
黒い修道女は、ふわり、と宙を舞い、着地した。
やはり、あのスカートアーマーは装甲だけではない、特殊な装備のようだ。
再び向かい合う両者。
虎実も走りながら、大剣「朱天」を抜いた。身の丈ほどもあるこの剣は、ティグリース型のデフォルト装備である。それを片手で軽々と振る。
視界の中のマグダレーナが迫る。
彼女もまた、手にしたキャンドルを武器に選んだ。短い柄のついた三本のキャンドルの先から、光の刃が現れる。ライトセイバーの三つ叉槍。
近距離からの弾丸の雨。ライトアーマー・クラスの装甲では持ちこたえることは不可能だ。
はたして、マグダレーナは宙にいた。
一挙動でジャンプし、砂煙から飛び出して、虎実の頭上を越えようとする。
マグダレーナは空中で虎実を狙い撃った。
しかし、虎実もそれは察知している。
その場でファスト・オーガを最小半径でターンさせ、射線をはずした。間髪入れず、アクセル・オン、エアバイクをダッシュさせる。
狙いは、マグダレーナの着地点。
黒い修道女は、ふわり、と宙を舞い、着地した。
やはり、あのスカートアーマーは装甲だけではない、特殊な装備のようだ。
再び向かい合う両者。
虎実も走りながら、大剣「朱天」を抜いた。身の丈ほどもあるこの剣は、ティグリース型のデフォルト装備である。それを片手で軽々と振る。
視界の中のマグダレーナが迫る。
彼女もまた、手にしたキャンドルを武器に選んだ。短い柄のついた三本のキャンドルの先から、光の刃が現れる。ライトセイバーの三つ叉槍。
「だあああああぁぁぁっ!!」
虎実の気合い声に対し、マグダレーナは無言。
高速ですれ違う瞬間、二人は同時におのが武器を振り抜いた。
はたして、虎実の大剣に手応えはなく、ファスト・オーガはフローティングユニットの接続部から真っ二つに断たれていた。
高速ですれ違う瞬間、二人は同時におのが武器を振り抜いた。
はたして、虎実の大剣に手応えはなく、ファスト・オーガはフローティングユニットの接続部から真っ二つに断たれていた。
「う、わあああぁっ!?」
動力を失い、虎実を乗せたファスト・オーガの前半分がつんのめるように地面に接触した。
転倒し、虎実は地面に投げ出される。
転倒し、虎実は地面に投げ出される。
「くそ……」
「朱天」を手に立ち上がろうとしたその時、黒い影が立ちはだかる。
マグダレーナ。
その闇のように黒い影は死神のように、虎実の瞳に映った。
三つ叉のビームランスを構えている。
それでも、虎実が立ち上がろうと勇気を振り絞った。
しかし。
マグダレーナ。
その闇のように黒い影は死神のように、虎実の瞳に映った。
三つ叉のビームランスを構えている。
それでも、虎実が立ち上がろうと勇気を振り絞った。
しかし。
「その魂、しばらく預かるぞ」
ためらいもなく、三つ叉槍が振り下ろされる。
マグダレーナの一撃は、虎実の身体を貫いた。
マグダレーナの一撃は、虎実の身体を貫いた。
「ぐあああぁぁ……っ! ……あ……」
虎実の瞳から光が消える。身体から力が抜け、地に伏した。
バトルはマグダレーナの勝利で幕を閉じた。
この時は、まだ誰も、異常に気が付いてはいなかった。
バトルはマグダレーナの勝利で幕を閉じた。
この時は、まだ誰も、異常に気が付いてはいなかった。
◆
「虎実!? おい、虎実、どうした! おいっ!」
大城の必死の呼びかけにも、虎実が応じる気配はなかった。光の消えた瞳を開いたまま、大城の手のひらの上で、力なく横たわるばかりだ。
試合終了後。
アクセスポッドが開いても、虎実は身じろぎ一つしなかった。
大城は不審に思う。いつもなら、試合終了後に真っ先に飛び出してきて、口げんかが始まるのが常だったからだ。
大城はアクセスポッドをのぞき込む。
虎実はいる。
だが、何を言っても、触れても、何の反応も示さない。ただの人形になってしまったかのように。
大城は筐体の向こうを睨みつける。
えんじのベレーをかぶった神姫マスター。
桐島あおいは、穏やかな微笑みを浮かべていた。
アクセスポッドが開いても、虎実は身じろぎ一つしなかった。
大城は不審に思う。いつもなら、試合終了後に真っ先に飛び出してきて、口げんかが始まるのが常だったからだ。
大城はアクセスポッドをのぞき込む。
虎実はいる。
だが、何を言っても、触れても、何の反応も示さない。ただの人形になってしまったかのように。
大城は筐体の向こうを睨みつける。
えんじのベレーをかぶった神姫マスター。
桐島あおいは、穏やかな微笑みを浮かべていた。
「おい、お前……虎実に何をした!?」
大城の大きな声を聞きつけて、周りから神姫マスターたちが集まってくる。
それでも、桐島あおいは慌てる様子を見せない。
それでも、桐島あおいは慌てる様子を見せない。
「大丈夫。虎実のAIを少し借りただけ。目的を果たしさえすれば、すぐに返すわ」
「AIを、借りた……?」
「AIを、借りた……?」
その不思議な物言いに、大城は首を傾げる。
神姫のAIを借り出すことなど、可能なのか……。
いや、一つ思い当たる節がある。
神姫のAIを借り出すことなど、可能なのか……。
いや、一つ思い当たる節がある。
「AI移送接続ソフト、か……?」
「よく分かったわね」
「なんだって……そんなことをしやがるっ!?」
「よく分かったわね」
「なんだって……そんなことをしやがるっ!?」
知らないはずがない。あの時のことを、忘れられるはずがない。
以前、このゲームセンターで、同じようにAI移送接続ソフトを使い、遠野とティアを大ピンチに陥れた奴がいた。
神姫のAIを取り出し、別のサーバーへと送る一種のウィルスソフト。それがAI移送接続ソフトだ。
もちろん、あの事件以来、そうしたウィルスソフトへの対策はしている。
しかし、今のバトルでは、そんな対策も意味を成していなかったようだ。
怒りに猛る大城は、そのことに気付く余裕もない。
拳を握りしめ、回答次第では殴りかからんと、怒りにたぎっている。
あおいは涼しい顔で、答えた。
以前、このゲームセンターで、同じようにAI移送接続ソフトを使い、遠野とティアを大ピンチに陥れた奴がいた。
神姫のAIを取り出し、別のサーバーへと送る一種のウィルスソフト。それがAI移送接続ソフトだ。
もちろん、あの事件以来、そうしたウィルスソフトへの対策はしている。
しかし、今のバトルでは、そんな対策も意味を成していなかったようだ。
怒りに猛る大城は、そのことに気付く余裕もない。
拳を握りしめ、回答次第では殴りかからんと、怒りにたぎっている。
あおいは涼しい顔で、答えた。
「わたしのお願いを聞いてもらいたかったの。それを聞き届けてくれれば、虎実のAIはすぐに返すわ」
「なんだとぉ……?」
「なんだとぉ……?」
大城は、桐島あおいに足早に歩み寄ると、強引に胸ぐら掴もうと手を伸ばす。
「そこまでだ、大城大介」
しわがれた声が警告を発した。
あおいの肩にいる神姫が、こちらに向けてマシンガンを構えている。
大城は動けなくなった。
目を見開いて、銃口を見つめるしかできない。
まさか、神姫が人間に銃を向けるなど……常識ではあり得なかった。
大城の背中に冷たい汗が流れてゆく。
あおいの肩にいる神姫が、こちらに向けてマシンガンを構えている。
大城は動けなくなった。
目を見開いて、銃口を見つめるしかできない。
まさか、神姫が人間に銃を向けるなど……常識ではあり得なかった。
大城の背中に冷たい汗が流れてゆく。
「あおいに手を出したら、貴様もただでは済まん」
「イリーガルかよ……」
「どうとでも呼ぶがいい。あおいの話を聞かぬ限り、虎実のAIは戻らんぞ」
「イリーガルかよ……」
「どうとでも呼ぶがいい。あおいの話を聞かぬ限り、虎実のAIは戻らんぞ」
あろうことか、この神姫は自らイリーガル……違法神姫であることを肯定した。
百戦錬磨の大城さえも、向けられる銃口にひるみつつあったその時、
百戦錬磨の大城さえも、向けられる銃口にひるみつつあったその時、
「あんた、菜々子さんの師匠だろ? それなのに、イリーガルなんか使って……恥ずかしくねぇのかよ!」
果敢に声を発した少女がいた。
背が高く、少年のような雰囲気の美少女は、園田有希。久住菜々子の弟子を自称している。
背が高く、少年のような雰囲気の美少女は、園田有希。久住菜々子の弟子を自称している。
「桐島あおいさん……あんたのことは、菜々子さんから聞いてた。菜々子さんの目標とする神姫マスターだって……。
なのに、イリーガルを自分の神姫にして、ウィルスソフトを使ってバトルして……何やってんだ、あんたは!!」
「元気がいいわね、菜々子の弟子は」
「んなこた、どーでもいい! 虎実のAIを返せよ!」
「いいわよ」
「へ?」
なのに、イリーガルを自分の神姫にして、ウィルスソフトを使ってバトルして……何やってんだ、あんたは!!」
「元気がいいわね、菜々子の弟子は」
「んなこた、どーでもいい! 虎実のAIを返せよ!」
「いいわよ」
「へ?」
有希は間抜けな顔であおいを見た。
桐島あおいは、有希の剣幕にも動じず、柔らかな笑みを浮かべるばかりだ。
桐島あおいは、有希の剣幕にも動じず、柔らかな笑みを浮かべるばかりだ。
「わたしは何も、虎実のAIを消したいわけじゃないわ。なんだったら、わたしたちと勝負してみる? あなたが勝てば、すぐに虎実のAIを返してもいい」
「おもしれー」
「おもしれー」
腕まくりする有希のその腕を、八重樫美緒が押さえた。
「待って。冷静になりなさい。負けたら、カイのAIだって奪われるかも知れないわ」
「黙ってろよ、美緒。自分の師匠がこんなんじゃ、菜々子さんだってたまらねーだろ。あの人に知れる前に、あたしがオトシマエつけて……」
「あら、菜々子ならもう知ってるわよ」
「黙ってろよ、美緒。自分の師匠がこんなんじゃ、菜々子さんだってたまらねーだろ。あの人に知れる前に、あたしがオトシマエつけて……」
「あら、菜々子ならもう知ってるわよ」
口を挟んできたあおいの顔を、有希と美緒は見つめた。
「このあいだ、あの子を負かしたばかりだもの」
「なっ……!?」
「なっ……!?」
チームのメンバーだけでなく、その会話を聞いていた『ノーザンクロス』の常連は皆絶句した。
『エトランゼ』のミスティはこのゲーセンで圧倒的実力を誇る神姫として認知されている。
その彼女が敗れた。
ということは、このゲーセンに集う神姫では、マグダレーナにかなわない、ということではないか。
マグダレーナは周囲の様子を見ながら一笑する。
『エトランゼ』のミスティはこのゲーセンで圧倒的実力を誇る神姫として認知されている。
その彼女が敗れた。
ということは、このゲーセンに集う神姫では、マグダレーナにかなわない、ということではないか。
マグダレーナは周囲の様子を見ながら一笑する。
「ミスティが敗れたと知って、気後れしたか?」
「く……」
「ならば、二対一でもかまわんぞ?」
「……それは本気?」
「く……」
「ならば、二対一でもかまわんぞ?」
「……それは本気?」
有希の背後から声がした。チームメイトの蓼科涼子である。
涼子は有希の隣に並び、マグダレーナを睨む。
その鋭い視線を、マグダレーナは悠々と受け流した。
涼子は有希の隣に並び、マグダレーナを睨む。
その鋭い視線を、マグダレーナは悠々と受け流した。
「本気だとも。二人がかりで来るがいい」
「その言葉、後悔させてあげるわ」
「ちょっと……涼子!?」
「その言葉、後悔させてあげるわ」
「ちょっと……涼子!?」
慌てたのは美緒である。
有希だけでなく涼子まで、危険なバトルに挑もうというのか。
有希だけでなく涼子まで、危険なバトルに挑もうというのか。
「あなた、わかってるの? 涼姫だってAIを奪われるかも知れないのよ?」
「かもしれない、でしょう? 涼姫とカイのコンビなら、虎実にだって……『エトランゼ』のミスティにだって、後れは取らない。美緒だって分かってるはずだわ」
「かもしれない、でしょう? 涼姫とカイのコンビなら、虎実にだって……『エトランゼ』のミスティにだって、後れは取らない。美緒だって分かってるはずだわ」
そう言って、涼子は有希と視線を合わせた。二人は不適に笑い合う。
いつもはもっとも身近なライバル同士だが、コンビを組めば『ノーザンクロス』でも指折りの実力になっていた。
それは美緒もよく知っている。
しかし、それでも危険な賭けだと思う。
美緒はどうしても、マグダレーナという黒い神姫から警戒を解くことが出来ないでいた。
あの神姫には何かある。遠野さんなら、今のバトルを見たら分かっただろうか。
いつもはもっとも身近なライバル同士だが、コンビを組めば『ノーザンクロス』でも指折りの実力になっていた。
それは美緒もよく知っている。
しかし、それでも危険な賭けだと思う。
美緒はどうしても、マグダレーナという黒い神姫から警戒を解くことが出来ないでいた。
あの神姫には何かある。遠野さんなら、今のバトルを見たら分かっただろうか。
「どうした、話はまとまったか?」
老婆のようにしわがれた声が呼ぶ。
美緒は有希の腕から手を離した。
有希と涼子は頷くと、黒い神姫とそのマスターに向かい合った。
美緒は有希の腕から手を離した。
有希と涼子は頷くと、黒い神姫とそのマスターに向かい合った。
「虎実は返してもらうぜ、マグダレーナ」
「わたしたち二人を相手に、勝てると思わないことね」
「わたしたち二人を相手に、勝てると思わないことね」
自信たっぷりの二人に、美緒はただ、無事を祈るだけしかできなかった。
◆
大城はマグダレーナに、もはや畏怖すら感じていた。
バトルが始まってもう五分以上が経過していたが、二人の神姫を相手に、マグダレーナはダメージどころかかすり傷一つ負わずに、二人の攻撃をさばき続けていた。
バトルが始まってもう五分以上が経過していたが、二人の神姫を相手に、マグダレーナはダメージどころかかすり傷一つ負わずに、二人の攻撃をさばき続けていた。
園田有希のカイは、ストラーフ装備に加え、ヴァローナの鎌を持った重装備。
蓼科涼子の涼姫は、装備こそライトアーマー級だが、ワイヤーを使ったアクションは独特の機動で、初見の相手なら翻弄されることは確実だ。
対して、桐島あおいのマグダレーナは、先ほどと同様、スカートアーマー以外はノーマルのハーモニーグレイス型と変わらない軽装備に見える。
蓼科涼子の涼姫は、装備こそライトアーマー級だが、ワイヤーを使ったアクションは独特の機動で、初見の相手なら翻弄されることは確実だ。
対して、桐島あおいのマグダレーナは、先ほどと同様、スカートアーマー以外はノーマルのハーモニーグレイス型と変わらない軽装備に見える。
涼姫が翻弄し、カイがプレッシャーを与える。
この二人の組み合わせは、ティアとミスティのコンビによく似ていた。
二人の息が合っていれば、並の神姫では太刀打ちできないほどの実力が発揮される。
ましてやこのバトルは二対一。カイ&涼姫のコンビが圧倒的に有利だ。
この二人の組み合わせは、ティアとミスティのコンビによく似ていた。
二人の息が合っていれば、並の神姫では太刀打ちできないほどの実力が発揮される。
ましてやこのバトルは二対一。カイ&涼姫のコンビが圧倒的に有利だ。
しかし、マグダレーナは悠然とバトルに望んでいる。
マグダレーナは、攻撃を受け止めることをあまりしない。ほとんどかわしてみせる。
ある意味、ティアに近い戦い方と言えるが、その様子はまるで違っているように、大城には思えた。
ティアは攻撃を察知し、持ち前の機動力で回避する。
マグダレーナの動き出しはティアよりも早い。余裕を持って動き、攻撃範囲外へするり、と移動する。
まるで、何の攻撃が来るのか、事前に察知しているかのように……。
マグダレーナは、攻撃を受け止めることをあまりしない。ほとんどかわしてみせる。
ある意味、ティアに近い戦い方と言えるが、その様子はまるで違っているように、大城には思えた。
ティアは攻撃を察知し、持ち前の機動力で回避する。
マグダレーナの動き出しはティアよりも早い。余裕を持って動き、攻撃範囲外へするり、と移動する。
まるで、何の攻撃が来るのか、事前に察知しているかのように……。
カイがマグダレーナを攻める。得意の近接攻撃は、手数で明らかにマグダレーナを上回る。
しかし、そのことごとくをかわされる。
カイはそれでも手を出し続ける。こいつを自分一人に引きつける。そうすればチャンスが回ってくる。
しかし、そのことごとくをかわされる。
カイはそれでも手を出し続ける。こいつを自分一人に引きつける。そうすればチャンスが回ってくる。
「はあっ!」
鎌を横に大きく振るう。
とっさに大きく間合いを取るマグダレーナ。
その瞬間、カイの背後を小さな影が追い抜いた。
涼姫が音もなく飛来し、マグダレーナに襲いかかる。
振り子のような独特の軌道と無音の飛翔は、涼姫の真骨頂である。
息もつかせぬ奇襲に、涼姫は成功を確信していた。
しかし。
とっさに大きく間合いを取るマグダレーナ。
その瞬間、カイの背後を小さな影が追い抜いた。
涼姫が音もなく飛来し、マグダレーナに襲いかかる。
振り子のような独特の軌道と無音の飛翔は、涼姫の真骨頂である。
息もつかせぬ奇襲に、涼姫は成功を確信していた。
しかし。
「えっ?」
カイの背後から飛び出したとき、マグダレーナは地上にいなかった。
目標を見失い戸惑う涼姫の上空に影が差した。
上を仰ぎ見るより早く、涼姫は支えを失い、空中に投げ出された。
目標を見失い戸惑う涼姫の上空に影が差した。
上を仰ぎ見るより早く、涼姫は支えを失い、空中に投げ出された。
「きゃああぁぁっ!?」
無様に地面に転がり落ちる。
廃墟のビルを掴む左手から伸びたワイヤーが切断されていた。
背面跳びのように涼姫とカイを飛び越えたマグダレーナが、すれ違いざまにワイヤーを切ったのだ。
大きく跳ねたマグダレーナは、涼姫の視線の向こうで、着地しようとしている。
しかし、これはカイにとって好機。
短く跳ねて、反動を膝にためる。振り向きながら、膝をのばし、パワーを開放して突進した。
これぞミスティ直伝の必殺技、リバーサル・スクラッチ。
廃墟のビルを掴む左手から伸びたワイヤーが切断されていた。
背面跳びのように涼姫とカイを飛び越えたマグダレーナが、すれ違いざまにワイヤーを切ったのだ。
大きく跳ねたマグダレーナは、涼姫の視線の向こうで、着地しようとしている。
しかし、これはカイにとって好機。
短く跳ねて、反動を膝にためる。振り向きながら、膝をのばし、パワーを開放して突進した。
これぞミスティ直伝の必殺技、リバーサル・スクラッチ。
「うおおおおおぉぉ!!」
雄叫びをあげながら突進する。
相手は今着地。そして、あろうことか、こちらに向けて前に出た。
正気か。
リーチも速度もパワーも、こちらが上だ!
カイはためらわずに攻撃を繰り出した。
右副腕の爪で裂く。マグダレーナは姿勢を低くして避ける。
左副腕のバックナックル。上体をスウェーさせて回避。
まだ終わらない。
カイは、右下に構えていた鎌を、超速度で斜めに振り上げる。
カイ・オリジナルのリバーサル・スクラッチ三連撃!
しかし。
相手は今着地。そして、あろうことか、こちらに向けて前に出た。
正気か。
リーチも速度もパワーも、こちらが上だ!
カイはためらわずに攻撃を繰り出した。
右副腕の爪で裂く。マグダレーナは姿勢を低くして避ける。
左副腕のバックナックル。上体をスウェーさせて回避。
まだ終わらない。
カイは、右下に構えていた鎌を、超速度で斜めに振り上げる。
カイ・オリジナルのリバーサル・スクラッチ三連撃!
しかし。
「なっ……!?」
カイは鎌を振り上げることが出来なかった。
さらに一歩踏み込んだマグダレーナが、手にした十字架型の銃器「クロスシンフォニー」で鎌の柄を止めていた。
両者は止まらない。
すれ違うその瞬間、マグダレーナはカイの胸に、ビームトライデントをたたき込んだ。
カイは驚愕の表情のまま、その攻撃を受ける。
そして、瞳から光が失われた。
さらに一歩踏み込んだマグダレーナが、手にした十字架型の銃器「クロスシンフォニー」で鎌の柄を止めていた。
両者は止まらない。
すれ違うその瞬間、マグダレーナはカイの胸に、ビームトライデントをたたき込んだ。
カイは驚愕の表情のまま、その攻撃を受ける。
そして、瞳から光が失われた。
「カイッ!!」
叫びともに、涼姫は残った右手を撃ち出した。
目標はマグダレーナ。こちらに背を向けている。それは涼姫最大のチャンスだった。
マグダレーナは動いた。
かわさずに、振り向かずに、持っていたマシンガンの銃口のみを背後に向け、涼姫の右手を狙い撃った。
乾いた音を立て、右手がはじかれる。
目標を掴めなかった武装手が地に落ちる。
目標はマグダレーナ。こちらに背を向けている。それは涼姫最大のチャンスだった。
マグダレーナは動いた。
かわさずに、振り向かずに、持っていたマシンガンの銃口のみを背後に向け、涼姫の右手を狙い撃った。
乾いた音を立て、右手がはじかれる。
目標を掴めなかった武装手が地に落ちる。
「そんな……」
呆然とした涼姫の虚を突いて、マグダレーナが振り向く。
地面スレスレを飛翔し、滑るように涼姫に向かってくる。
カイに刺さったトライデントを抜き去り、正面に構えて突進してくる。
涼姫はブレイクダンスのような動きで、頭を下に回転しながら、その攻撃をかわそうとした。
旋回する両脚に隙は見えない。
だが、刹那の間隙を縫って、マグダレーナは三つ叉槍を突く。
涼姫の旋回が止まった。彼女の身体は、三つ叉槍によって、地面に縫い止められていた。
そして、涼姫の瞳から光が奪われる。
ジャッジが無慈悲にも、黒い神姫の勝利を確定した。
マグダレーナの完勝。二人の神姫を相手にかすり傷一つ負わないままでの勝利だった。
地面スレスレを飛翔し、滑るように涼姫に向かってくる。
カイに刺さったトライデントを抜き去り、正面に構えて突進してくる。
涼姫はブレイクダンスのような動きで、頭を下に回転しながら、その攻撃をかわそうとした。
旋回する両脚に隙は見えない。
だが、刹那の間隙を縫って、マグダレーナは三つ叉槍を突く。
涼姫の旋回が止まった。彼女の身体は、三つ叉槍によって、地面に縫い止められていた。
そして、涼姫の瞳から光が奪われる。
ジャッジが無慈悲にも、黒い神姫の勝利を確定した。
マグダレーナの完勝。二人の神姫を相手にかすり傷一つ負わないままでの勝利だった。
「こんなやつに……どうやって……勝つってんだ……」
大城は呆然とそう呟くしかなかった。
◆
「しょせん、リーダーが内容重視などとのたまうチームよ。この程度のレベルも当然か……」
マグダレーナの物言いに、誰も口を挟むことは出来なかった。
ミスティ、虎実、カイと涼姫のコンビに完勝できる神姫など、『ノーザンクロス』にはいない。
ミスティ、虎実、カイと涼姫のコンビに完勝できる神姫など、『ノーザンクロス』にはいない。
「……で、そっちの要求は、なんだ」
大城は固い声で言う。
彼女の要求を飲む以外に、三人の神姫のAIが戻ってくることはない。
大城はそう言う他なかった。
有希と涼子も表情を堅くして、桐島あおいとマグダレーナを見ていた。
あおいは満足したように頷くと、変わらぬ微笑を浮かべたまま、大城に答えた。
彼女の要求を飲む以外に、三人の神姫のAIが戻ってくることはない。
大城はそう言う他なかった。
有希と涼子も表情を堅くして、桐島あおいとマグダレーナを見ていた。
あおいは満足したように頷くと、変わらぬ微笑を浮かべたまま、大城に答えた。
「菜々子をわたしのところまで連れてきて。わたしともう一度バトルするようにって……そう伝えて」