8匹目 『G.P.M.』
「そういや八幸助さん、こないだ来たアルトレーネって大丈夫なんですかね。 たしか今日やったと思うんですけど」
「あのネコミミを生やした? さあ、どうだろうね」
料金に関わらず依頼を引き受け、ただし料金に見合った結果のみ用意するなんでも屋 『物売屋』。
この日も店内(と呼べる構えもない、すっからかんの土間)の床几に座って茶をすする二人は、土間の地縛霊にでも話しかけるように互いに正面を向いている。
芯から呆けきった女子大生と、やはり同じように呆けた中年男。
客さえ来たならば気を引き締めると、愚にもつかない言い訳を常々口にしている。
「ものっそい他人事ですね。 いいんですか店主がそんなことで、アフターサービスのない店ってあんま流行らんですよ」
「線引きは大事だよ、鉄子君。 僕は彼女の依頼業務を終えた。 彼女は今日、猫に呼び出された。 それでお終いさ」
「いや、業務を終えたって、なんもやってないと思いますけど」
土間の中を泳いでいた視線を上げ、鉄子は件のアルトレーネとマオチャオが物売屋を訪れた日のことを思い起こす。
「ヂェリーを何個かもらってから例のマオチャオが来て、ああだこうだやって」
「マオチャオの指定した日程と場所を聞いて、アルトレーネは先の見通しを立てた。 ほら、きちんとあの二人の関係に決着をつける手伝いをしているじゃないか」
「どのタイミングで八幸助さんが仕事をしたのか、サッパリ分からんです」
「手や口を出すだけが仕事じゃないのさ。 今回は僕が提供したのは 【状況】 だね。 この物売屋という場所が先日のあの時間に開いていたからこそ、あの二人は今晩何かしらの行動を起こせる」
「なんか屁理屈っぽくないですかね。 どの道あのバカ猫はネコミミの前に表れとったと思いますけど」
納得しかねる鉄子に、物売屋の店主、寿八幸助は煎餅をかじるついでに言い聞かせた。
「世の中 『仕事』 と言えばどんなことであれ料金が発生するものなんだよ、鉄子君。 例えば、そうだなあ、鉄子君が大学四年生になって――なれたとして」
「なんで言い直したんですかね」
「研究室に配属されて、数々の実験道具を扱う立場になったとしよう。 でも鉄子君には扱い方が分からない。 電源の入れ方すら分からない。 研究室の先輩は自分の研究で手一杯。 とにかく200Vコンセントを刺して、それらしいスイッチをオンにしてみた。 するとどうだろう、鉄子君の度胸試しとして扱われた実験道具は無残にも白い煙と緑色の火花を吐いてお釈迦になってしまった。 その機械を修理しようにも学生さんの手に余り、製造会社に送れないほど大きくて、しかもすぐに使いたいものだとする。 そうなると技術者を呼ぶしかない。 鉄子君が電話をして、渋る相手を呼びつけて、そしてやって来た技術者がものの数十分で修理してしまった」
「そして私は一安心」
鉄子はぬるくなった茶を一気に飲み干した。
「でもその技術者から受け取った見積もり兼請求書を見て、鉄子君はビックリする。 何故たかが数十分の作業に10万弱もかかるのかと」
「いくら技術料ったって、そこまで取られんでしょ」
「技術屋だって暇じゃない。 他にも仕事を抱えているにもかかわらず、それを差し置いて学生のポカに付き合わなければないんだから、その時間分の経費を回収するのも仕事のうちなんだ。 鉄子君だってそうだよ、こうしてお茶を飲んでいる君にも、僕は時間あたりの給金を払わなければならない。 嫌味を言いたいわけじゃなくて、これから来るであろうお客さんのために待機してもらっている、という名目をつけてね」
「理屈じゃ分かりますけどね、なーんと言いますか」
鉄子は八幸助の空の湯呑みを受け取り、立ち上がった。
「『時は金なり』 ってのは、世知辛い言葉ですよね。 夢もキボーもありゃしない」
「営業時間外は奥さん、開店中は看板娘がお茶を入れてくれる。 僕にとって今この時は夢のようなシチュエーションなんだけどね」
「はいはい、それはたいそう良うござんしたね」
「ああ、一応言っておくけれど」
店の奥の居間に下がる鉄子に、八幸助は釘を刺す。
まだ学生であり、近い将来に社会へと出ていく鉄子のために。
「時は金なりとは言うけどね、それはあくまで営業時間内での話だよ。 僕は基本的に残業をお願いしたりはしないからね。 例え鉄子君が今晩何かしらの気まぐれを起こして、コタマを連れて城尊公園で散歩と洒落込んだとしても、僕は給料を支払えない。 そんなことをしたら千早さんとミサキさんに怒られてしまう」
「……分かっとりますよ、んなこと」
「あのネコミミを生やした? さあ、どうだろうね」
料金に関わらず依頼を引き受け、ただし料金に見合った結果のみ用意するなんでも屋 『物売屋』。
この日も店内(と呼べる構えもない、すっからかんの土間)の床几に座って茶をすする二人は、土間の地縛霊にでも話しかけるように互いに正面を向いている。
芯から呆けきった女子大生と、やはり同じように呆けた中年男。
客さえ来たならば気を引き締めると、愚にもつかない言い訳を常々口にしている。
「ものっそい他人事ですね。 いいんですか店主がそんなことで、アフターサービスのない店ってあんま流行らんですよ」
「線引きは大事だよ、鉄子君。 僕は彼女の依頼業務を終えた。 彼女は今日、猫に呼び出された。 それでお終いさ」
「いや、業務を終えたって、なんもやってないと思いますけど」
土間の中を泳いでいた視線を上げ、鉄子は件のアルトレーネとマオチャオが物売屋を訪れた日のことを思い起こす。
「ヂェリーを何個かもらってから例のマオチャオが来て、ああだこうだやって」
「マオチャオの指定した日程と場所を聞いて、アルトレーネは先の見通しを立てた。 ほら、きちんとあの二人の関係に決着をつける手伝いをしているじゃないか」
「どのタイミングで八幸助さんが仕事をしたのか、サッパリ分からんです」
「手や口を出すだけが仕事じゃないのさ。 今回は僕が提供したのは 【状況】 だね。 この物売屋という場所が先日のあの時間に開いていたからこそ、あの二人は今晩何かしらの行動を起こせる」
「なんか屁理屈っぽくないですかね。 どの道あのバカ猫はネコミミの前に表れとったと思いますけど」
納得しかねる鉄子に、物売屋の店主、寿八幸助は煎餅をかじるついでに言い聞かせた。
「世の中 『仕事』 と言えばどんなことであれ料金が発生するものなんだよ、鉄子君。 例えば、そうだなあ、鉄子君が大学四年生になって――なれたとして」
「なんで言い直したんですかね」
「研究室に配属されて、数々の実験道具を扱う立場になったとしよう。 でも鉄子君には扱い方が分からない。 電源の入れ方すら分からない。 研究室の先輩は自分の研究で手一杯。 とにかく200Vコンセントを刺して、それらしいスイッチをオンにしてみた。 するとどうだろう、鉄子君の度胸試しとして扱われた実験道具は無残にも白い煙と緑色の火花を吐いてお釈迦になってしまった。 その機械を修理しようにも学生さんの手に余り、製造会社に送れないほど大きくて、しかもすぐに使いたいものだとする。 そうなると技術者を呼ぶしかない。 鉄子君が電話をして、渋る相手を呼びつけて、そしてやって来た技術者がものの数十分で修理してしまった」
「そして私は一安心」
鉄子はぬるくなった茶を一気に飲み干した。
「でもその技術者から受け取った見積もり兼請求書を見て、鉄子君はビックリする。 何故たかが数十分の作業に10万弱もかかるのかと」
「いくら技術料ったって、そこまで取られんでしょ」
「技術屋だって暇じゃない。 他にも仕事を抱えているにもかかわらず、それを差し置いて学生のポカに付き合わなければないんだから、その時間分の経費を回収するのも仕事のうちなんだ。 鉄子君だってそうだよ、こうしてお茶を飲んでいる君にも、僕は時間あたりの給金を払わなければならない。 嫌味を言いたいわけじゃなくて、これから来るであろうお客さんのために待機してもらっている、という名目をつけてね」
「理屈じゃ分かりますけどね、なーんと言いますか」
鉄子は八幸助の空の湯呑みを受け取り、立ち上がった。
「『時は金なり』 ってのは、世知辛い言葉ですよね。 夢もキボーもありゃしない」
「営業時間外は奥さん、開店中は看板娘がお茶を入れてくれる。 僕にとって今この時は夢のようなシチュエーションなんだけどね」
「はいはい、それはたいそう良うござんしたね」
「ああ、一応言っておくけれど」
店の奥の居間に下がる鉄子に、八幸助は釘を刺す。
まだ学生であり、近い将来に社会へと出ていく鉄子のために。
「時は金なりとは言うけどね、それはあくまで営業時間内での話だよ。 僕は基本的に残業をお願いしたりはしないからね。 例え鉄子君が今晩何かしらの気まぐれを起こして、コタマを連れて城尊公園で散歩と洒落込んだとしても、僕は給料を支払えない。 そんなことをしたら千早さんとミサキさんに怒られてしまう」
「……分かっとりますよ、んなこと」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ! ワガハイのドリルから逃れようにゃんて無駄無駄にゃ、大人しくそのネコミミを調べさせるにゃ!」
調べると言っておきながら繰り出されるドリルは私を抉る気満々で、甲高い音を立てて回転する先端が、私の胸に穴を空けんとする勢いで迫る。
ネコミミが生えた頭さえあればよいのか、私というサンプルを行動不能にしようと、疫病猫の攻撃からは加減を微塵も感じられない。
未だ痺れが取れない四肢ではドリルを弾くので精一杯で、望楼の端に追い詰められることだけは避けようとして左右に逃げても、すぐに追いつかれてしまう。
さっきからずっと同じことを繰り返していた。
「ほれほれ、このままにゃとジリ貧にゃよ? オマエが大事にしてる武装の傷が増えるだけにゃよ?」
「言われなくても――」
パターンを変えることもなく繰り出されるドリルを、タイミングを見計らって下から大剣ジークリンデで大きく弾いた。
二人とも武器をあげてバンザイのポーズをとる形になる。
同じ体勢ならば、私から仕掛けた分だけ次のアクションは私のほうが早い。
「分かってます!」
ガラ空きになった疫病猫の胴へ、まだ動きの悪いスカートを無理矢理伸ばした。
剣を思い切り振り上げた反動で痺れて緩みかけた手に、グッと力を込める。
「にょほ?」
伸ばしたスカートの先端の鋏で疫病猫の胴を挟み、引き寄せると同時に馬鹿面めがけて剣を振り下ろした。
力任せの唐竹割り。
スカートで疫病猫を引き寄せているバランスの悪い状態で、しかも踏ん張ろうとする脚にも思うように力が入らず腕の力だけで繰り出した最悪の一撃は、
「にゃっハァ!」
爪であっさりと防がれた。
迂闊さを呪うより早く、ヴォータンヘルメをドリルで弾き飛ばされた。
頭が思い切り揺さぶられ、視界に星が飛ぶ。
自分がちゃんと立っているのかすら分からなくない。
自分を取り戻す前に、脇腹に鈍い痛みが走った。
「――っ!」
身体が一瞬、嫌な浮遊感に襲われ、その直後に肩から脚にかけてまた衝撃。
床の固く冷たい感触で、蹴り飛ばされたことを知った。
「っ、げほっ……!」
頭を強く打たれて地面がぐわんと歪んでいるように錯覚する。
ぼけた頭では、次に取るべき行動が思い浮かばない。
幸い動かない私の身体がチーズみたいに穴だらけにされることはなく、遠くから耳障りな笑い声が聞こえてきた。
……本当に嫌になる。
舌打ちの一つもしたくなる。
冷静でいようと努めても、不愉快な声が聞こえてくるだけで思わず大剣を握り締めてしまう。
奥歯を噛み砕きそうになるほど、歯を噛み締めてしまう。
蹴られた脇腹に鋭い痛みが走り、おかげで少しだけ冷静になれて――ああ私ってこんなに乗せられやすい単純な性格だったんだ、と今更になって悟った。
馬鹿馬鹿と散々馬鹿にしてきた馬鹿に乗せられるなんて、本当の馬鹿は誰だって話よ。
私はこうして脇腹を押さえて惨めに転がっているのに、あっちは文字通りの馬鹿騒ぎ。
「「「「「 う ぃ ー あ ー ざ ち ゃ ー ん ぴ お ん ず 」」」」」
こんな温度差をクールだと勘違いしてたのかな、私。
クールを気取っていたつもりなんだけどなあ。
クールな性格に憧れてたんだけどなあ。
でもほら、やっぱり私には無理みたい。
頭も、肩も、腕も、脇腹も、脚も、スカートすら痛覚があるみたいに痛むのに。
「「「「「 ま い ふ れ ぇ ~ ぇ ぇ え ん ず 」」」」」
円陣を組んで踊るバカ猫達を意地でも沈めてやろうと、身体が勝手に動き出す。
後先なんて考えるから悪いのよ。
わざわざ徹夜してマスターの元からこっそり抜け出して、ここに何をしに来たの?
決まってるじゃない、どれもこれも、あの疫病猫を黙らせるため。
泣きたくなるような痛みを我慢して立ち上がって、傷だらけのジークリンデの柄頭をブリュンヒルデにねじ込んだ。
いつ見てもアンバランスな槍だけど、全力でいくならコレじゃないと盛り上がらない。
ゲイルスケイグル改め、アメノヌボコ。
槍と矛の違いなんて、細かいことは言いっこなし。
「これも久しぶりね――モード・オブ・アマテラス」
リミッターカットって言えば聞こえはいいけど、単に過負荷耐量ギリギリイッパイまで身体を動かすだけの、言ってしまえば火事場の馬鹿力のようなもの。
こうなってしまえば手足の痺れなんて関係無くなって、さっき蹴られて離された距離もアッという間に詰められる。
「ギャッ!?」
まずは手近なところを仕分けしてやった。
間抜けな声をあげて飛んでいったマオチャオは……あーあ、他の猫達まで巻き込んじゃってる。
「ふふん♪」
うん、身体が雲のように軽くて、実に気分がいい。
ちょっと自分に素直になるだけで、こんなにご機嫌になれるってもっと早く知っていたら、クールなんてどうでもいいものはさっさと燃えるゴミに出していたのに。
過負荷の代償として、身体が早くも熱を持ち始める。
あまり調子にのると、この熱が致命的なものになってしまう。
でも、こんなに気分がいいのに熱を調整しつつ控え目に動くなんて、今の私には考えられない。
頭のネコミミも私の気分に同調するように、ピコピコといつもよりハイテンション気味に動いてる。
「き、キサマァァァアアアアア!」
さっき私をたたき落とした猫が眉間にすごいシワを作ってハンマーを振り下ろしてきた。
私の頭よりはるかに大きくて重い塊が迫り来る。
ハンマーも顔も威圧感がハンパじゃないけど、重量のあるものをバカ正直に振り回すのは落第かな。
こっちが先に動いても急に振りを止められないし、何より余裕綽々で避けちゃえば後はもう、隙だらけの的を大技で攻撃し放題好き放題。
「『クサナギッ!』」
的と一緒に周りの猫達も薙ぎ払ってやった。
そこでやっと異常に気付く疫病猫。
いくらなんでも、油断しすぎ。
「なんにゃ!? にゃにが起こってるにゃ!?」
慌ててる慌ててる。
今までこっちが振り回されてきた分だけ、疫病猫の慌てっぷりはすんごく痛快。
もっと慌てさせたくて、飛び掛ってきた2匹を疫病猫の方へ殴り飛ばした。
熱い身体は警鐘を鳴らすけれど、熱が私の心まで燃やそうとする。
最高にハイってやつ?
「ついにキレたにゃ! やられすぎて頭のネジが緩んでしまったのにゃ!? 落ち着くにゃ、あんまり暴れると異常負荷で爆発するにゃ。 こんなところで自爆テロは嫌にゃよ? ほれ、深呼吸するにゃ。 はい吸ってぇー」
「失礼ね、私のモード・オブ・アマテラスをステータス異常扱いする気? 泣かすわよ」
「キャラまで変えておいて自分を正常と言い張るにゃよ……」
私がちょっとアメノヌボコの切っ先を突きつけるだけで、疫病猫と周りの猫達はたじろいだ。
私一人で、何十匹ものマオチャオを圧倒している。
もうすっかり形勢逆転しちゃって、自然と緩む口元を引き締められない。
これが勝者の視点ってものなのかしら。
バトルリーグの表彰台に立つのはきっと、これ以上に気持ちがいいんだろうなあ。
明日から本気でトレーニングしてみようかなあ。
「こ、この数を相手にするつもりにゃ? 一体一体相手をするうちにオマエがどうなっても知らないのにゃ」
「さすがに全員を相手にしようだなんて思ってないわよ。 私だって所詮は量産品のスペックなんだから、仮に過負荷耐量を超えて駆動したって3倍の速さで動けるわけじゃないんだし。 でも逆に聞くけど、私が全員を相手にする必要なんてある?」
さっきまで無理だと思っていたことでも、今の私ならできそうな気がする。
心地良い全能感が私を支配する。
「にゃ、にゃにが言いたいにゃ」
「要はあなたの首さえ取れればネコ化テロは未然に防げるんだから、そう難しいことじゃないと思わない? 唯一の被害者カシヨは気の毒だけど、この世にあなたみたいな神姫は存在しちゃ駄目なのよ」
「ど、どうしてそんにゃ非道いことが言えるのにゃ。 ワガハイは、ただちょっと……仲間を増やして遊びたかっただけにゃ……」
さっきまでの勢いはどこへやら、うな垂れる疫病神を見て、少しだけ胸の奥がチクッとした。
……今更反省したって許すもんですか。
違法改造神姫に気を遣うつもりなんて毛頭ない。
「世の神姫達がにゃあにゃあ鳴くようになったって、正直、どうだっていいわ。 どうぞご自由にネコ化パッチをネットにばら蒔いて、みんな仲良く炬燵の中で丸くなってくださいな。 でもね、私はこの町が好きなの。 人間だけじゃなくて、動物も、植物も、生きているもの生きていないもの、それに神姫も合わせてみんなで1体の生き物を形作るこの町が大好きなの。 なによりマスターがいるこの町を愛しているの。 だからその中にたった1つでも町を狂わせる癌細胞があれば、私は絶対に許さない」
望楼というステージ上の主役になったつもりで、矛先を疫病猫へ向けた。
町の敵を許せないのなら、せっかくだから町を救う英雄にでもなったつもりでいようと思う。
どうせ猫以外に誰も見ていないんだし、少しくらい調子に乗ったって誰も咎めないし。
「うぐ……ぐぐぐぅ……」
「まだぐうの音を出す余裕はあるのね。 結構よ、それなら最後の余裕で今生の別れの言葉でも考えてね」
「……まさか、本当に 【アレ】 に頼らにゃきゃにゃらない時が来ようとは……にゃるほど、ワガハイの野望最大の障害は、野望達成の鍵でもあったオマエだったのにゃ」
「まだ諦めてないの? この状況で足掻こうだなんて見苦しいわよ、潔く――」
「にゃらばワガハイも死力を尽くすまでのこと! ジャバウォックとマツコデラックスの区別もつかにゃいその節穴で刮目するにゃ! これまでワガハイが作ってきた数多くのものの中でも最高傑作――ぶっちゃけコレ作る時間で日本中の神姫を猫化できたような気がしにゃいでもにゃい最☆終☆兵☆器の恐怖をとくとご堪能するにゃ!」
パソコンやカシヨが運ばれてきた時のように、疫病猫は片腕を高く挙げて指を鳴らした。
「つ、ついに 【アレ】 を使うのか……!」
「まきこまれないかなあ」
「ヤッベ、マジヤベエ。 これトンズラこいたがよくね?」
「な、何スか 【アレ】 って? そんなにすごいものなんスか?」
「ほう、お主はまだお目にかかったことがござらんか。 良かったでござるな、此度の眼福は生涯の宝となるでござるよ」
もう私どころじゃなくなったのか、疫病猫の言う最☆終☆兵☆器に気を取られた猫達は、あるものはキョロキョロとあたりを見回し、またあるものは完全に腰が引けて他の猫にしがみついている。
……短い主役だったなあ……。
【アレ】 というものが猫達の反応からしてまっとうな物じゃないのは間違いない。
そもそも疫病猫が用意するものにまっとうな物を期待するほうがおかしいってものだし。
でも兵器と呼ばれるのだから、少なくとも兵器っぽい姿はしているんだろうけど。
もしかしたら生物兵器かも……本当にそうだったら迷わず逃げよう。
世にも恐ろしい兵器の姿をいくつか想像してみたけど、実物が登場する気配はなく、疫病猫はサタデーナイトフィーバーのように腕と指を立てたポーズのまま動かない。
他の猫達も訝しんでいる。
「ねえ、まだ来ないの? またマオチャオ達が運んでくるの?」
「…………」
「呼ぶなら早くしてよ、それともトラブルで出てこれないとか?」
「…………」
「ねえったら」
「…………上にゃ」
上? と皆が一斉に空を見上げた。
疫病猫が天高く指し示す方向には、一面の紺色のカーテンと、多くもなく少なくもなく灯る星々と――やけにゴツくて大きな影があった。
「は?」
その影はみるみるうちに大きくなって、その影の細部まで見えるようになって、空気を切り裂く音と一緒に、私と猫達の間にズシーン! と落ちた。
……落ちた、って言い表していいのかな、これ。
どっちかっていうと…………着地した。
「にゃーっはっはっはっはっは!」
また毎度のように、疫病猫がふんぞり返って大笑いする。
私はその見飽きた姿を……あんまり認めたくないけど、空から降ってきた影の股の間から見ることになった。
それは、人の形をしていた。
「どんにゃに技術が進歩しても、人類のロマンは昔っから変わらにゃいのにゃ。 小さにゃ子供から大きにゃ子供、悪の天才科学者や常識に囚われない巫女、果ては神姫まで、誰もが夢見た超☆合☆金! オマエは本当に運がイイのにゃネコミミギュウドン、このギガントプチマスィーン 『ワタナベ3号』 の恐ろしさを身を持って知ることができる初の神姫とにゃるのだからにゃあ!」
「もうプチマスィーンでも何でもないわよこれ! どのへんがプチなのよ!」
思わず取り乱してしまうくらい、私の前に仁王立ちするヒトの形をしたロボットはデカい。
とにかくデカい。
想像の斜め上とかじゃなくて、私の想像の上限を突き破るくらいデカい。
大人の人間くらいあるんじゃないの、これ。
人間大と言うと見慣れているように思うけど、子供向け戦隊もののロボットのような外見のせいで特撮の世界に紛れ込んでしまったように感じて、必要以上に大きく見えてしまっている。
そしてそれだけデカいのに、肩の上の首にあたる部分にちょこんと乗ってるプチマスィーンの頭部は普通サイズときた。
アンバランスを通り越して、首なしロボットにしか見えない。
驚くほどデカくて、それ以上にキモい。
『ね~~~~こぉ~~~~』
遥か頭上から、テノールの鳴き声(?)が降ってきた。
「このロボット、自分のことを猫って言ってるんだけど」
「どこからどう見ても猫にゃ。 頭にネコミミが生えてるのが見えないにゃ?」
頭だけは普通のマオチャオ用プチマスィーンなんだから耳だって生えてるんでしょうけど、頭に三角の耳が生えてるから猫、と言い張るのは暴言だと思う。
……もしかして疫病猫の目から見ると、私も猫になるの?
「どうにゃ驚いたにゃろ。 でもオマエにはまだまだ驚いてもらうにゃ。 さあワタナベ3号! オマエの力を見せてやるにゃ!」
『ね~~~~こぉ~~~~』
左腕をのっそりと持ち上げて斜めの方向へ伸ばし、私をがっしり掴めるくらい大きな手で握りこぶしを作った。
「超合金ロボといえばこれがにゃきゃ始まらにゃいにゃ! いくにゃワタナベ3号、スペシャルギミック 『遺憾の意』 発射ァ!」
突き出された腕の手首から煙を吹き出し、拳が射出された。
レーシングカーがホームストレートを突っ切るような音を響かせながら超高速ですっ飛ぶ 『遺憾の意』 ……5色戦隊シリーズですら見かけなくなったロケットパンチは、小さな子供の夢を、大きな子供の夢を、悪の天才科学者や常識に囚われない巫女、果ては神姫の夢を乗せて、放置されていたパソコンの画面を叩き割った。
調べると言っておきながら繰り出されるドリルは私を抉る気満々で、甲高い音を立てて回転する先端が、私の胸に穴を空けんとする勢いで迫る。
ネコミミが生えた頭さえあればよいのか、私というサンプルを行動不能にしようと、疫病猫の攻撃からは加減を微塵も感じられない。
未だ痺れが取れない四肢ではドリルを弾くので精一杯で、望楼の端に追い詰められることだけは避けようとして左右に逃げても、すぐに追いつかれてしまう。
さっきからずっと同じことを繰り返していた。
「ほれほれ、このままにゃとジリ貧にゃよ? オマエが大事にしてる武装の傷が増えるだけにゃよ?」
「言われなくても――」
パターンを変えることもなく繰り出されるドリルを、タイミングを見計らって下から大剣ジークリンデで大きく弾いた。
二人とも武器をあげてバンザイのポーズをとる形になる。
同じ体勢ならば、私から仕掛けた分だけ次のアクションは私のほうが早い。
「分かってます!」
ガラ空きになった疫病猫の胴へ、まだ動きの悪いスカートを無理矢理伸ばした。
剣を思い切り振り上げた反動で痺れて緩みかけた手に、グッと力を込める。
「にょほ?」
伸ばしたスカートの先端の鋏で疫病猫の胴を挟み、引き寄せると同時に馬鹿面めがけて剣を振り下ろした。
力任せの唐竹割り。
スカートで疫病猫を引き寄せているバランスの悪い状態で、しかも踏ん張ろうとする脚にも思うように力が入らず腕の力だけで繰り出した最悪の一撃は、
「にゃっハァ!」
爪であっさりと防がれた。
迂闊さを呪うより早く、ヴォータンヘルメをドリルで弾き飛ばされた。
頭が思い切り揺さぶられ、視界に星が飛ぶ。
自分がちゃんと立っているのかすら分からなくない。
自分を取り戻す前に、脇腹に鈍い痛みが走った。
「――っ!」
身体が一瞬、嫌な浮遊感に襲われ、その直後に肩から脚にかけてまた衝撃。
床の固く冷たい感触で、蹴り飛ばされたことを知った。
「っ、げほっ……!」
頭を強く打たれて地面がぐわんと歪んでいるように錯覚する。
ぼけた頭では、次に取るべき行動が思い浮かばない。
幸い動かない私の身体がチーズみたいに穴だらけにされることはなく、遠くから耳障りな笑い声が聞こえてきた。
……本当に嫌になる。
舌打ちの一つもしたくなる。
冷静でいようと努めても、不愉快な声が聞こえてくるだけで思わず大剣を握り締めてしまう。
奥歯を噛み砕きそうになるほど、歯を噛み締めてしまう。
蹴られた脇腹に鋭い痛みが走り、おかげで少しだけ冷静になれて――ああ私ってこんなに乗せられやすい単純な性格だったんだ、と今更になって悟った。
馬鹿馬鹿と散々馬鹿にしてきた馬鹿に乗せられるなんて、本当の馬鹿は誰だって話よ。
私はこうして脇腹を押さえて惨めに転がっているのに、あっちは文字通りの馬鹿騒ぎ。
「「「「「 う ぃ ー あ ー ざ ち ゃ ー ん ぴ お ん ず 」」」」」
こんな温度差をクールだと勘違いしてたのかな、私。
クールを気取っていたつもりなんだけどなあ。
クールな性格に憧れてたんだけどなあ。
でもほら、やっぱり私には無理みたい。
頭も、肩も、腕も、脇腹も、脚も、スカートすら痛覚があるみたいに痛むのに。
「「「「「 ま い ふ れ ぇ ~ ぇ ぇ え ん ず 」」」」」
円陣を組んで踊るバカ猫達を意地でも沈めてやろうと、身体が勝手に動き出す。
後先なんて考えるから悪いのよ。
わざわざ徹夜してマスターの元からこっそり抜け出して、ここに何をしに来たの?
決まってるじゃない、どれもこれも、あの疫病猫を黙らせるため。
泣きたくなるような痛みを我慢して立ち上がって、傷だらけのジークリンデの柄頭をブリュンヒルデにねじ込んだ。
いつ見てもアンバランスな槍だけど、全力でいくならコレじゃないと盛り上がらない。
ゲイルスケイグル改め、アメノヌボコ。
槍と矛の違いなんて、細かいことは言いっこなし。
「これも久しぶりね――モード・オブ・アマテラス」
リミッターカットって言えば聞こえはいいけど、単に過負荷耐量ギリギリイッパイまで身体を動かすだけの、言ってしまえば火事場の馬鹿力のようなもの。
こうなってしまえば手足の痺れなんて関係無くなって、さっき蹴られて離された距離もアッという間に詰められる。
「ギャッ!?」
まずは手近なところを仕分けしてやった。
間抜けな声をあげて飛んでいったマオチャオは……あーあ、他の猫達まで巻き込んじゃってる。
「ふふん♪」
うん、身体が雲のように軽くて、実に気分がいい。
ちょっと自分に素直になるだけで、こんなにご機嫌になれるってもっと早く知っていたら、クールなんてどうでもいいものはさっさと燃えるゴミに出していたのに。
過負荷の代償として、身体が早くも熱を持ち始める。
あまり調子にのると、この熱が致命的なものになってしまう。
でも、こんなに気分がいいのに熱を調整しつつ控え目に動くなんて、今の私には考えられない。
頭のネコミミも私の気分に同調するように、ピコピコといつもよりハイテンション気味に動いてる。
「き、キサマァァァアアアアア!」
さっき私をたたき落とした猫が眉間にすごいシワを作ってハンマーを振り下ろしてきた。
私の頭よりはるかに大きくて重い塊が迫り来る。
ハンマーも顔も威圧感がハンパじゃないけど、重量のあるものをバカ正直に振り回すのは落第かな。
こっちが先に動いても急に振りを止められないし、何より余裕綽々で避けちゃえば後はもう、隙だらけの的を大技で攻撃し放題好き放題。
「『クサナギッ!』」
的と一緒に周りの猫達も薙ぎ払ってやった。
そこでやっと異常に気付く疫病猫。
いくらなんでも、油断しすぎ。
「なんにゃ!? にゃにが起こってるにゃ!?」
慌ててる慌ててる。
今までこっちが振り回されてきた分だけ、疫病猫の慌てっぷりはすんごく痛快。
もっと慌てさせたくて、飛び掛ってきた2匹を疫病猫の方へ殴り飛ばした。
熱い身体は警鐘を鳴らすけれど、熱が私の心まで燃やそうとする。
最高にハイってやつ?
「ついにキレたにゃ! やられすぎて頭のネジが緩んでしまったのにゃ!? 落ち着くにゃ、あんまり暴れると異常負荷で爆発するにゃ。 こんなところで自爆テロは嫌にゃよ? ほれ、深呼吸するにゃ。 はい吸ってぇー」
「失礼ね、私のモード・オブ・アマテラスをステータス異常扱いする気? 泣かすわよ」
「キャラまで変えておいて自分を正常と言い張るにゃよ……」
私がちょっとアメノヌボコの切っ先を突きつけるだけで、疫病猫と周りの猫達はたじろいだ。
私一人で、何十匹ものマオチャオを圧倒している。
もうすっかり形勢逆転しちゃって、自然と緩む口元を引き締められない。
これが勝者の視点ってものなのかしら。
バトルリーグの表彰台に立つのはきっと、これ以上に気持ちがいいんだろうなあ。
明日から本気でトレーニングしてみようかなあ。
「こ、この数を相手にするつもりにゃ? 一体一体相手をするうちにオマエがどうなっても知らないのにゃ」
「さすがに全員を相手にしようだなんて思ってないわよ。 私だって所詮は量産品のスペックなんだから、仮に過負荷耐量を超えて駆動したって3倍の速さで動けるわけじゃないんだし。 でも逆に聞くけど、私が全員を相手にする必要なんてある?」
さっきまで無理だと思っていたことでも、今の私ならできそうな気がする。
心地良い全能感が私を支配する。
「にゃ、にゃにが言いたいにゃ」
「要はあなたの首さえ取れればネコ化テロは未然に防げるんだから、そう難しいことじゃないと思わない? 唯一の被害者カシヨは気の毒だけど、この世にあなたみたいな神姫は存在しちゃ駄目なのよ」
「ど、どうしてそんにゃ非道いことが言えるのにゃ。 ワガハイは、ただちょっと……仲間を増やして遊びたかっただけにゃ……」
さっきまでの勢いはどこへやら、うな垂れる疫病神を見て、少しだけ胸の奥がチクッとした。
……今更反省したって許すもんですか。
違法改造神姫に気を遣うつもりなんて毛頭ない。
「世の神姫達がにゃあにゃあ鳴くようになったって、正直、どうだっていいわ。 どうぞご自由にネコ化パッチをネットにばら蒔いて、みんな仲良く炬燵の中で丸くなってくださいな。 でもね、私はこの町が好きなの。 人間だけじゃなくて、動物も、植物も、生きているもの生きていないもの、それに神姫も合わせてみんなで1体の生き物を形作るこの町が大好きなの。 なによりマスターがいるこの町を愛しているの。 だからその中にたった1つでも町を狂わせる癌細胞があれば、私は絶対に許さない」
望楼というステージ上の主役になったつもりで、矛先を疫病猫へ向けた。
町の敵を許せないのなら、せっかくだから町を救う英雄にでもなったつもりでいようと思う。
どうせ猫以外に誰も見ていないんだし、少しくらい調子に乗ったって誰も咎めないし。
「うぐ……ぐぐぐぅ……」
「まだぐうの音を出す余裕はあるのね。 結構よ、それなら最後の余裕で今生の別れの言葉でも考えてね」
「……まさか、本当に 【アレ】 に頼らにゃきゃにゃらない時が来ようとは……にゃるほど、ワガハイの野望最大の障害は、野望達成の鍵でもあったオマエだったのにゃ」
「まだ諦めてないの? この状況で足掻こうだなんて見苦しいわよ、潔く――」
「にゃらばワガハイも死力を尽くすまでのこと! ジャバウォックとマツコデラックスの区別もつかにゃいその節穴で刮目するにゃ! これまでワガハイが作ってきた数多くのものの中でも最高傑作――ぶっちゃけコレ作る時間で日本中の神姫を猫化できたような気がしにゃいでもにゃい最☆終☆兵☆器の恐怖をとくとご堪能するにゃ!」
パソコンやカシヨが運ばれてきた時のように、疫病猫は片腕を高く挙げて指を鳴らした。
「つ、ついに 【アレ】 を使うのか……!」
「まきこまれないかなあ」
「ヤッベ、マジヤベエ。 これトンズラこいたがよくね?」
「な、何スか 【アレ】 って? そんなにすごいものなんスか?」
「ほう、お主はまだお目にかかったことがござらんか。 良かったでござるな、此度の眼福は生涯の宝となるでござるよ」
もう私どころじゃなくなったのか、疫病猫の言う最☆終☆兵☆器に気を取られた猫達は、あるものはキョロキョロとあたりを見回し、またあるものは完全に腰が引けて他の猫にしがみついている。
……短い主役だったなあ……。
【アレ】 というものが猫達の反応からしてまっとうな物じゃないのは間違いない。
そもそも疫病猫が用意するものにまっとうな物を期待するほうがおかしいってものだし。
でも兵器と呼ばれるのだから、少なくとも兵器っぽい姿はしているんだろうけど。
もしかしたら生物兵器かも……本当にそうだったら迷わず逃げよう。
世にも恐ろしい兵器の姿をいくつか想像してみたけど、実物が登場する気配はなく、疫病猫はサタデーナイトフィーバーのように腕と指を立てたポーズのまま動かない。
他の猫達も訝しんでいる。
「ねえ、まだ来ないの? またマオチャオ達が運んでくるの?」
「…………」
「呼ぶなら早くしてよ、それともトラブルで出てこれないとか?」
「…………」
「ねえったら」
「…………上にゃ」
上? と皆が一斉に空を見上げた。
疫病猫が天高く指し示す方向には、一面の紺色のカーテンと、多くもなく少なくもなく灯る星々と――やけにゴツくて大きな影があった。
「は?」
その影はみるみるうちに大きくなって、その影の細部まで見えるようになって、空気を切り裂く音と一緒に、私と猫達の間にズシーン! と落ちた。
……落ちた、って言い表していいのかな、これ。
どっちかっていうと…………着地した。
「にゃーっはっはっはっはっは!」
また毎度のように、疫病猫がふんぞり返って大笑いする。
私はその見飽きた姿を……あんまり認めたくないけど、空から降ってきた影の股の間から見ることになった。
それは、人の形をしていた。
「どんにゃに技術が進歩しても、人類のロマンは昔っから変わらにゃいのにゃ。 小さにゃ子供から大きにゃ子供、悪の天才科学者や常識に囚われない巫女、果ては神姫まで、誰もが夢見た超☆合☆金! オマエは本当に運がイイのにゃネコミミギュウドン、このギガントプチマスィーン 『ワタナベ3号』 の恐ろしさを身を持って知ることができる初の神姫とにゃるのだからにゃあ!」
「もうプチマスィーンでも何でもないわよこれ! どのへんがプチなのよ!」
思わず取り乱してしまうくらい、私の前に仁王立ちするヒトの形をしたロボットはデカい。
とにかくデカい。
想像の斜め上とかじゃなくて、私の想像の上限を突き破るくらいデカい。
大人の人間くらいあるんじゃないの、これ。
人間大と言うと見慣れているように思うけど、子供向け戦隊もののロボットのような外見のせいで特撮の世界に紛れ込んでしまったように感じて、必要以上に大きく見えてしまっている。
そしてそれだけデカいのに、肩の上の首にあたる部分にちょこんと乗ってるプチマスィーンの頭部は普通サイズときた。
アンバランスを通り越して、首なしロボットにしか見えない。
驚くほどデカくて、それ以上にキモい。
『ね~~~~こぉ~~~~』
遥か頭上から、テノールの鳴き声(?)が降ってきた。
「このロボット、自分のことを猫って言ってるんだけど」
「どこからどう見ても猫にゃ。 頭にネコミミが生えてるのが見えないにゃ?」
頭だけは普通のマオチャオ用プチマスィーンなんだから耳だって生えてるんでしょうけど、頭に三角の耳が生えてるから猫、と言い張るのは暴言だと思う。
……もしかして疫病猫の目から見ると、私も猫になるの?
「どうにゃ驚いたにゃろ。 でもオマエにはまだまだ驚いてもらうにゃ。 さあワタナベ3号! オマエの力を見せてやるにゃ!」
『ね~~~~こぉ~~~~』
左腕をのっそりと持ち上げて斜めの方向へ伸ばし、私をがっしり掴めるくらい大きな手で握りこぶしを作った。
「超合金ロボといえばこれがにゃきゃ始まらにゃいにゃ! いくにゃワタナベ3号、スペシャルギミック 『遺憾の意』 発射ァ!」
突き出された腕の手首から煙を吹き出し、拳が射出された。
レーシングカーがホームストレートを突っ切るような音を響かせながら超高速ですっ飛ぶ 『遺憾の意』 ……5色戦隊シリーズですら見かけなくなったロケットパンチは、小さな子供の夢を、大きな子供の夢を、悪の天才科学者や常識に囚われない巫女、果ては神姫の夢を乗せて、放置されていたパソコンの画面を叩き割った。