「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
東都大学の敷地内にある剣道場。そこの稽古場の真ん中で御堂春香と彼女の神姫である無頼が座禅を組んでいた。二人とも剣道着を着、傍らに木刀を置いている。
「はっ・・・!」
「せぇい・・・!」
そして同時に眼を見開き、木刀を手にとって横薙ぎに振るう。切っ先が美しい弧を描き、乾いた風切り音を立てる。
「そう言えば無頼。お前を起動させてからそろそろ1年近く経つな」
一通りの稽古を終え、春香と無頼は縁側でお茶を飲んでいた。
「うむ・・・。あの頃の主殿と比べれば、今は随分と明るくなられた」
「同時に、『アイツ』が『死んだ』のも、今ぐらいだったな・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
東都大学の敷地内にある剣道場。そこの稽古場の真ん中で御堂春香と彼女の神姫である無頼が座禅を組んでいた。二人とも剣道着を着、傍らに木刀を置いている。
「はっ・・・!」
「せぇい・・・!」
そして同時に眼を見開き、木刀を手にとって横薙ぎに振るう。切っ先が美しい弧を描き、乾いた風切り音を立てる。
「そう言えば無頼。お前を起動させてからそろそろ1年近く経つな」
一通りの稽古を終え、春香と無頼は縁側でお茶を飲んでいた。
「うむ・・・。あの頃の主殿と比べれば、今は随分と明るくなられた」
「同時に、『アイツ』が『死んだ』のも、今ぐらいだったな・・・・・・」
――――――
土曜の夜は大盛り上がりするのはどのご時世でも変わることはない。この港湾地区にある古い倉庫もまた、そんな場所の例外ではない。
金網で囲われた闘技場。ステージ名は『コロッセオ・改』。ここで行われているのはリアルバトル。オーナーは互いの神姫とプライドを、そして観客は金品を・・・・・・。
もちろん、神姫バトルだけでなくありとあらゆる娯楽はきちんと認められたカジノ以外での賭博は禁じられている。つまり、ここで行われているのはれっきとした違法試合なのだ。
その金網の中で2体の神姫が戦っていた。
片方はデフォルト装備の上からリアクティブアーマーを身に纏ったストラーフ。もう片方は鉢金とフブキの胸当て、そして肩当てを着け、袴と草履を履いたハウリンだった。
ストラーフが両手にグリップしたアルファ・ピストルとヴズルイフを同時に発砲する。
ハウリンはそれを信じられないほどの反応速度で握られた黒光りする太刀で銃弾を捌いていき、見る見る内に距離を詰めていく。
そして両者がすれ違い、ハウリンは太刀を振るうとそれをゆっくりと鞘に納める。パチンという音と共にストラーフは真っ二つとなり、その場に倒れ伏す。
『Winner、無頼!!』
実況が無頼の勝利を伝え、観客席から歓声が上がる。
「よくやったぞ、無頼」
カウンター席で春香はハウリン―無頼を誉めていた。
「いえ、主殿の采配有ってこそ。自分はまだ、あまりにも未熟」
「謙遜も過ぎると、嫌味にしか聞こえないぞ」
すると、一人の中年の男が彼女の隣に座った。
「よう。最近有名な剣豪神姫のマスターはアンタかい?」
「?」
「俺のことは『ディーラー』とでも呼んでくれ」
「『中立主義者』か・・・。それで、そのディーラーが何の用かな?」
「『聖女』がアンタとの仕合を望んでいる。賭けるのは互いの『プライド』、でどうだ?」
「・・・・・・。裏バトルのチャンプと一度戦ってみたかったところだ。無頼も異存はないな?」
「問題ない。問題はないのですが・・・・・・嫌な予感しかしません」
「どうした?」
珍しくバトルを躊躇う無頼に、春香は怪訝そうな顔をする。
「あの『聖女』とか言う女、不可思議な術を使うと聞いています。何でも、相手の攻撃は全て奴を素通りするとか・・・・・・」
「そう思ってかかる相手に限って、杞憂だったりするんだ。恐れることはない。無頼ならやれると、私は信じているぞ」
「主殿・・・。委細承知!」
「その意気だ。さて、待たせてすまなかったな。『聖女』との仕合、受けて立とう」
しかし、この時春香は知らなかった。何故『彼女』が『聖女』と呼ばれるかを・・・・・・。
土曜の夜は大盛り上がりするのはどのご時世でも変わることはない。この港湾地区にある古い倉庫もまた、そんな場所の例外ではない。
金網で囲われた闘技場。ステージ名は『コロッセオ・改』。ここで行われているのはリアルバトル。オーナーは互いの神姫とプライドを、そして観客は金品を・・・・・・。
もちろん、神姫バトルだけでなくありとあらゆる娯楽はきちんと認められたカジノ以外での賭博は禁じられている。つまり、ここで行われているのはれっきとした違法試合なのだ。
その金網の中で2体の神姫が戦っていた。
片方はデフォルト装備の上からリアクティブアーマーを身に纏ったストラーフ。もう片方は鉢金とフブキの胸当て、そして肩当てを着け、袴と草履を履いたハウリンだった。
ストラーフが両手にグリップしたアルファ・ピストルとヴズルイフを同時に発砲する。
ハウリンはそれを信じられないほどの反応速度で握られた黒光りする太刀で銃弾を捌いていき、見る見る内に距離を詰めていく。
そして両者がすれ違い、ハウリンは太刀を振るうとそれをゆっくりと鞘に納める。パチンという音と共にストラーフは真っ二つとなり、その場に倒れ伏す。
『Winner、無頼!!』
実況が無頼の勝利を伝え、観客席から歓声が上がる。
「よくやったぞ、無頼」
カウンター席で春香はハウリン―無頼を誉めていた。
「いえ、主殿の采配有ってこそ。自分はまだ、あまりにも未熟」
「謙遜も過ぎると、嫌味にしか聞こえないぞ」
すると、一人の中年の男が彼女の隣に座った。
「よう。最近有名な剣豪神姫のマスターはアンタかい?」
「?」
「俺のことは『ディーラー』とでも呼んでくれ」
「『中立主義者』か・・・。それで、そのディーラーが何の用かな?」
「『聖女』がアンタとの仕合を望んでいる。賭けるのは互いの『プライド』、でどうだ?」
「・・・・・・。裏バトルのチャンプと一度戦ってみたかったところだ。無頼も異存はないな?」
「問題ない。問題はないのですが・・・・・・嫌な予感しかしません」
「どうした?」
珍しくバトルを躊躇う無頼に、春香は怪訝そうな顔をする。
「あの『聖女』とか言う女、不可思議な術を使うと聞いています。何でも、相手の攻撃は全て奴を素通りするとか・・・・・・」
「そう思ってかかる相手に限って、杞憂だったりするんだ。恐れることはない。無頼ならやれると、私は信じているぞ」
「主殿・・・。委細承知!」
「その意気だ。さて、待たせてすまなかったな。『聖女』との仕合、受けて立とう」
しかし、この時春香は知らなかった。何故『彼女』が『聖女』と呼ばれるかを・・・・・・。
―――――
《さあ、今夜は今までにないビッグゲームだぜ野郎共!!まずは赤コーナー!彼女を倒せる女は、いや神姫オーナーは無し!!通算100連勝中のチャンピオン!!“狂乱の聖女”、桐島あおい!!!》
肩までウェーブがかかった髪に目の覚めるような美しい顔立ち。むさ苦しい倉庫の中では明らかに浮いている。
(あれが“狂乱の聖女”とか言う奴か・・・・・・)
《続いて青コーナー!ここに参加してから僅か三ヶ月で積み上げた勝利は優に60!立ち塞がる者は斬り散らすのみ!“疾風の牙”こと、御堂春香!!》
「顔を会わせるのは、初めてだな。お互い、良いバトルにするとしよう。今宵の私は血に飢えているのでな」
「御託はいい。さっさとかかってこい」
早速無頼とあおいの神姫―マグダレーナはにらみ合いを始めている。彼女の声は、まるで老人のようにしわがれていた。
《おっと、レディを待たせちゃいけねえな。それじゃあ両者スタンバイ!》
二人は互いの神姫をフィールドに立たせ、マスターシートに座る。
《バトルロンド、セットアップ!レディー・・・ゴー!!》
試合開始の合図と同時に無頼は腰にマウントした太刀を抜き放ち、正眼に構える。
「一意専心、いざ参る!!」
無頼は摺り足で距離を詰め、マグダレーナを袈裟懸けで斬りつける。相手もナイフで応戦しようとするが、渾身の一閃でナイフごと両断されるかに見えた。しかし・・・
「何っ!?」
真っ二つになったのはナイフのみで、マグダレーナ本人は無傷だった。
「どうした?私はここだぞ?」
「くっ・・・!チェストォオ!!」
無頼は今度は大上段から太刀を振り下ろす。だが、今度はマグダレーナの髪を何本か切り裂いただけ。
「『剣豪神姫』と言うのもハッタリか?だとすると、滑稽だな」
「見切りは大した物だな。だが、その程度で私に勝ったと思うな!!」
袈裟懸け、切り払い、突き、切り上げ。無頼は次々と必殺の斬撃を繰り出す。
普通の神姫だったら三枚下ろしどころか、なます斬りになってもおかしくはないレベルだ。しかし、その刃の一つ一つは狂乱の聖女に届くことなく、全てが虚しく空を斬る。
「バカな・・・!一度ならず、二度までも・・・!」
「どうした?それで終わりか?なら、次はこちらの番だ」
そう言ってマグダレーナは右手にライフルをグリップして撃つ。それはぶれることなく無頼の肩当てを弾き飛ばす。
「これしきのことで!!」
「ふっ・・・。甘いな」
「!?」
再び無頼は斬りかかる。しかし、マグダレーナは今度は歓迎した。無数の銃弾で。
無頼はギリギリで見切りはするものの、まるで狙ったかのように彼女の体の自由を奪っていく。
右手のライフルは左腕をもぎ取り、背中のレールガンは両脚を砕き、左手のショットガンは無頼自身を吹っ飛ばす。
「ぐっ・・・まだだ・・・。まだ右腕が使えるなら・・・!」
太刀を杖代わりにして彼女は立ち上がろうとするが、ショットガンで受けたダメージはひどく、それはできなかった。
「どの程度かと思っていたけど、まさかこんなものとはね・・・・・・。マグダレーナ、後は煮るなり焼くなり好きにして」
「了解した。さて・・・どうしてくれようか?この状態で男性型ロボの群れに放り込んでも良いのだがな・・・?」
「ふざけるな・・・!」
「?」
「辱めを受けるくらいなら・・・恥を晒すくらいなら・・・私は・・・!」
「よせ!無頼!!」
「主殿。不甲斐ない私を・・・弱き私を、お許しください・・・。御免!!」
春香の止める声も聞かず、無頼は太刀を自らの胸に突き立てる。そして、地面に倒れ、動かなくなった。
「自刃するとは・・・古風な神姫も居たものだ。ふっふっふ・・・はっはっは!!」
肩までウェーブがかかった髪に目の覚めるような美しい顔立ち。むさ苦しい倉庫の中では明らかに浮いている。
(あれが“狂乱の聖女”とか言う奴か・・・・・・)
《続いて青コーナー!ここに参加してから僅か三ヶ月で積み上げた勝利は優に60!立ち塞がる者は斬り散らすのみ!“疾風の牙”こと、御堂春香!!》
「顔を会わせるのは、初めてだな。お互い、良いバトルにするとしよう。今宵の私は血に飢えているのでな」
「御託はいい。さっさとかかってこい」
早速無頼とあおいの神姫―マグダレーナはにらみ合いを始めている。彼女の声は、まるで老人のようにしわがれていた。
《おっと、レディを待たせちゃいけねえな。それじゃあ両者スタンバイ!》
二人は互いの神姫をフィールドに立たせ、マスターシートに座る。
《バトルロンド、セットアップ!レディー・・・ゴー!!》
試合開始の合図と同時に無頼は腰にマウントした太刀を抜き放ち、正眼に構える。
「一意専心、いざ参る!!」
無頼は摺り足で距離を詰め、マグダレーナを袈裟懸けで斬りつける。相手もナイフで応戦しようとするが、渾身の一閃でナイフごと両断されるかに見えた。しかし・・・
「何っ!?」
真っ二つになったのはナイフのみで、マグダレーナ本人は無傷だった。
「どうした?私はここだぞ?」
「くっ・・・!チェストォオ!!」
無頼は今度は大上段から太刀を振り下ろす。だが、今度はマグダレーナの髪を何本か切り裂いただけ。
「『剣豪神姫』と言うのもハッタリか?だとすると、滑稽だな」
「見切りは大した物だな。だが、その程度で私に勝ったと思うな!!」
袈裟懸け、切り払い、突き、切り上げ。無頼は次々と必殺の斬撃を繰り出す。
普通の神姫だったら三枚下ろしどころか、なます斬りになってもおかしくはないレベルだ。しかし、その刃の一つ一つは狂乱の聖女に届くことなく、全てが虚しく空を斬る。
「バカな・・・!一度ならず、二度までも・・・!」
「どうした?それで終わりか?なら、次はこちらの番だ」
そう言ってマグダレーナは右手にライフルをグリップして撃つ。それはぶれることなく無頼の肩当てを弾き飛ばす。
「これしきのことで!!」
「ふっ・・・。甘いな」
「!?」
再び無頼は斬りかかる。しかし、マグダレーナは今度は歓迎した。無数の銃弾で。
無頼はギリギリで見切りはするものの、まるで狙ったかのように彼女の体の自由を奪っていく。
右手のライフルは左腕をもぎ取り、背中のレールガンは両脚を砕き、左手のショットガンは無頼自身を吹っ飛ばす。
「ぐっ・・・まだだ・・・。まだ右腕が使えるなら・・・!」
太刀を杖代わりにして彼女は立ち上がろうとするが、ショットガンで受けたダメージはひどく、それはできなかった。
「どの程度かと思っていたけど、まさかこんなものとはね・・・・・・。マグダレーナ、後は煮るなり焼くなり好きにして」
「了解した。さて・・・どうしてくれようか?この状態で男性型ロボの群れに放り込んでも良いのだがな・・・?」
「ふざけるな・・・!」
「?」
「辱めを受けるくらいなら・・・恥を晒すくらいなら・・・私は・・・!」
「よせ!無頼!!」
「主殿。不甲斐ない私を・・・弱き私を、お許しください・・・。御免!!」
春香の止める声も聞かず、無頼は太刀を自らの胸に突き立てる。そして、地面に倒れ、動かなくなった。
「自刃するとは・・・古風な神姫も居たものだ。ふっふっふ・・・はっはっは!!」
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「あの時の私は、私自身が許せなかった。強さを求め、裏バトルにまで手を出したツケは大きかった・・・」
「主殿・・・」
「だが、それがあったから心に決めたことがある。もし、私と同じ道を辿ろうとする者がいたら思いとどまらせ、踏み込んでしまった者は救い出すと・・・!」
春香は立ち上がり、無頼を見て言った。
「だから、これからも頼むぞ、無頼!」
「承知!!」
『武士道』、それは死の先にある『何か』を見つける方法を説いたものかもしれない・・・・・・。
「主殿・・・」
「だが、それがあったから心に決めたことがある。もし、私と同じ道を辿ろうとする者がいたら思いとどまらせ、踏み込んでしまった者は救い出すと・・・!」
春香は立ち上がり、無頼を見て言った。
「だから、これからも頼むぞ、無頼!」
「承知!!」
『武士道』、それは死の先にある『何か』を見つける方法を説いたものかもしれない・・・・・・。