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与太話3 : 第一次戦乙女戦争



おかしいと思った。
ここ数日は暇さえあればディオーネコーポレーションのホームページを開き、何度も何度もウェブブラウザの更新を、全国の神姫達と示し合わせてF5アタック――短時間で大量のアクセスをかけ、相手のサーバなどをダウンさせる単純明快なサイバーテロ――でも仕掛けているのかのように繰り返していたエルが、まったく唐突に、抑揚のない声で、
「神姫センターへ行きますよ」
なんて言い出すものだから、俺がよからぬ企てを疑うのは当然のことだった。
結局、アルトレーネ型の再販締切り期間の最終日であり、俺と姫乃がエルを慰めることに失敗した日から、ほんの気持ち程度だけ受付期間が延長されることとなり、ボロアパートの一室にボソボソと吐き散らされていた呪言はひとまず落ち着いてくれた。
そして長かったような短かったような延長期間が終わりを迎え、それまでずっと取り憑かれたかのように孤独なF5アタックを行い、数字が減る気配を見せない注文数達成への目標となるカウンターを見守っていた(ネットワークへの攻撃は注文の妨げになるのだが、それを指摘できる雰囲気ではなかった)エルは、俺の返事を待たずに出かける準備をしていた。
部屋着として使っていた【 You are the Princess of Tennis 】を脱ぎ散らかし、久しく着ていなかった鉛色のコートを羽織ったエルは、神姫センターに到着してからも不気味なほど落ち着き払った様子だった。
「早く二階へ行って下さい」
まさかエルに『お願い』ではなく『命令』される日が来ようとは思いもしなかった俺は、姫乃に睨まれるのとは違う種類の悲しみに襲われて打ちひしがれた。
思えば、俺がこの時の神姫センターの不自然さに早く気づいていれば、映画化すればラズベリー賞を余裕で獲得できるほどの見苦しい光景を目の当たりにすることはなかった。
エルの不自然さにばかり気を取られて、こんなに分り易い異常を見過ごしていた自分に腹が立った。
神姫センター二階、バトル用の筐体が置かれた部屋にいる神姫オーナー達の半数が俺と同じようにアルトレーネ型を連れていて、そのすべてのアルトレーネの目は、エルと同じように、一欠片の光も灯していなかった。




「死ぬのです」
青い髪の見知らぬアルトレーネが、乱戦中であり隙を晒したガブリーヌの背後から至近距離でグレネード弾を炸裂させた。
きっと発売されて間もないガブリーヌは、バトルは初めてか、それとも最近ようやくバトルの楽しさを知ったくらいなのだろう。
完全武装した他のアルトレーネの斧による猛攻撃を必死で凌いでいた頑張りは、卑劣な爆発によりアルトレーネもろとも――グレネードランチャーを撃ったアルトレーネ含め――無残に、無念に、吹き飛ばされた。
今日という厄日を以てあのガブリーヌはバトルから遠ざかることだろう。
手を下したのはエルではないけれど、俺から謝りたくなった。
設置されているどの筐体にも多数の神姫が次々と乱入していき、もはやまっとうな戦闘ではなく混沌とした乱闘となったフィールドは、大雑把に見れば【アルトレーネvsその他神姫】のような戦況になっている。
この終末もかくやという混乱に戦況も何もあったものではないが。
いったい、いつ示し合わせてこの日に集まったのか、多数のアルトレーネ達――ノーマルの装備に身を包んだ者、統一感のない歪な装備の者、ザマス言葉の者、紫色にリペイントされた者、ネコミミを生やした者などなど――は皆、一つの思いに突き動かされて目前の神姫を沈めていった。
「ち、ちくしょう……! おたくらアルトレーネは何考えてるのさ!? 他の神姫を相手に戦争でも始めるつもり!?」
「決まっているのです。 アルトレーネこそ至高にして究極の神姫であることを証明するのです。 あなた達はその証明の一翼を担えるのですから、少しはわたし達に感謝してくれてもいいのです」
一体が砂漠の砂に埋れ、また一体が澄んだ川の中に沈み、不運にも神姫センターを訪れてしまった神姫達が理不尽な暴力に晒され、次々と倒れていった。
当然の流れとして、筐体の中だけでなく外でもそこかしこで小競り合いが起こっていた。
しかし自分の神姫以外は見分けがつかないこの状況では、誰の神姫が誰の神姫にやられたのか分かるはずもなく、アルトレーネを持つオーナー(俺と同じようにアルトレーネに強引に神姫センターまで連れて来られたのだろう、自分の神姫の凶気に狼狽えている)がその他の被害者たるオーナーに詰め寄られていた。
そんなことに巻き込まれたくはないから、俺はどっちつかずな顔をしてエルが入っているだろう筐体内――一本の川と川沿いを除いて一面びっしりと背の高い木々が生い茂った森林のステージに目を凝らしていた。
こんなことになると分かっていればエルに脚力強化のためのレッグパーツを買い与えるようなことはしなかったのに――なんて今更後悔したところで後の祭りだ。


三週間ほど前、姫乃のテニプリ作戦でも元気を取り戻さなかったエルのために、俺は暫くの間は漫画などを買い控える覚悟で中古屋からレッグパーツを買ってきた。
どこのメーカーのものかも分からないそれは、足の動きを補助・強化するためだけの、建機のようにシリンダーがむき出しになっている無骨なパーツで、全体的に白くペイントされていて数ある中古品の中でも「ちょっとかっこいいかも」という理由で選んだものだ。
エルがロングコートを羽織ることを考えずに買ってしまったものだから、もし似合わなかったらエルがさらに気を落としてしまうのではないかと心配していたのだが、ゆったりと広がる裾の下や隙間から見え隠れする無骨なラインは機能美そのものだった。
一度軽くジャンプしたエルは到達点が自分の想像以上に高かったらしく、着地で少しふらついた。
そして二度目、本気のジャンプから降りた後、久しぶりの笑顔を見せてくれた。
「これでやっと、安心して眠れるわね……」
俺と同じようにやつれた顔をした姫乃の、感慨深く呟いた一言は今でも耳に残っている。


そのレッグパーツのおかげでエルはさらなるスピードを手に入れ、俺はといえばベトナム戦争のような戦場と化した筐体内を高速で跳び回るエルを目で追いきれず、もう何度目になるか、見失った姿を探していた。
木々の上をブンブン五月蝿く飛ぶ神姫達は気にしなくてもいいとして、暗い森の中では影に隠れた多種多様な神姫達が、隠れようともせず弾幕の中を突っ切り襲い来るアルトレーネを迎撃するなり逃げるなりして、いったい一台の筐体に何体の神姫がいるのか検討もつかなかった。
その中で、灰色の目立たないコートを纏い、さらに高速移動のための剣を叩きつける障害物が多数あるこの中を縦横無尽に跳ぶエルを見つけ出すのは至難の業だった。
とはいえ、どうせ見ているだけで何ができるわけもないのだし(さっきからサレンダーボタンを連打している人たちがいるけれど、どの筐体のボタンにも【何か】が引っかかっており、最後まで押し込めないでいた)もう事が収束するまで放っておいてもいいだろうか。
声を出してエルを呼んだりしようものなら、アルトレーネのオーナーの一人として他のオーナーの非難の的になってしまうし、エルを呼び止めて「邪魔をするな」なんて言われた日には立ち直れないかもしれない。
もしかして神姫達のバッテリーが切れるまでこの戦争は終わらないのでは、とゲンナリしたところで、ひとつの打開策を思いついた。
今日は日曜日だけれど、あの店ならば通常営業しているかもしれない。
騒がしい筐体から離れて携帯電話で番号を呼び出すと、2コールで相手が出た。
『もし』
「おおう、出るの早いな竹さん。 ちょっといいかな、バイト中?」
最初に料金を払い、それから依頼をすることで、その料金に見合った結末を用意してくれる一風変わったなんでも屋【物売屋】。
そこでアルバイトをしている竹さんこと竹櫛鉄子さんはこの辺りでもトップクラスの実力を誇る神姫オーナーだ。
竹さんほど、今の神姫センターに求められる勇者たるに相応しい御仁はいない。
『バイトっちゃバイトやけど、遊びなら抜け出すよ。 カラオケ行く?』
竹さんの声の裏から「鉄子君、そういうことは店主である僕の耳に入らないところで言ってくれ」という男性の声が聞こえてきた。
物売屋の店員事情は相変わらずのようだ。
「いや、遊びじゃなくて、でも遊びと言われるとやっぱり遊びか。 ちょっと仕事を頼みたいんだけど」
『よく分からんけど、今ちょうど暇しとったし簡単なやつなら引き受けるよ。 どんな仕事なん?』
「今神姫センターにいるんだけどさ、ちょっと二階が戦場になってるんだ。 だからドールマスターであらせられる竹さんにどうにかして頂きたいなと思うんだけど」
『…………えっと、もうちょい詳しくお願い』
現在の目の前の惨状を話せば話すほど、電話の向こうから返ってくる声は少なくなっていった。
相槌すら打ってくれなくなった頃に「だから、どうにかして欲しいんだけど」と改めて依頼すると、竹さんは暫くの間、うんうんと唸った。
「勿論料金は払うけど、少しはまけてくれると助かる。 ここのところ出費が多くて多くて、最近は食費まで――」
『ちょい待った。 いいよいいよ、背比からお金なんて取れんって。 おんなじ弓道部の仲やない』
「そう? いや悪いね。 それでさ、できるだけ早く来て欲しいんだけど」
『そのことやけどね、今回は私からのアドバイス一つで解決できそうな気がするんよ』
「マジで!? いやあ、さすがドールマスターはそんじょそこらの一般ピーポォとは格が違うね。 カッコ良すぎて惚れそうだぜ」
『そ、そんな褒めたってなんも出らんよ、アドバイスは出すけど。 いいね、一回しか言わんからちゃんと聞いてよ』
「一回? 何でまた――まあいいや、分かった。 それで、どうすればいい?」
『ファイト☆』
ブツッ、ツー、ツー、ツー。
「…………」
もう一度かけ直してみた。
次は5コール目で出た。
『お客様のお掛けになった電話番号は、現在使われておらんのです。 放送禁止用語みたいにピーッて流れたら、要件とか忘れて通話をお切り下さい』
「…………」
『ピーッ』
「もう竹さんには電話しない」
『ちょ!? ま、待って、軽い冗だ――』
言われたとおり通話を切って、次の番号に掛けた。
次も5コール目で出た。
暇人のくせに、もうちょっと早く出やがれ。
『日曜だっつうのに何の用だ』
「バトルしようぜ!」
ブツッ、ツー、ツー、ツー。
竹さんといい、貞方といい、どうして俺の周りには困っている他人に優しく手を差し伸べられる度量を持った人間がいないのだろう。
やはり俺には姫乃しかいないと改めて思い知らされ、しかしこんな戦場に姫乃を巻き込んだところで事態が好転するとは――と、今度は向こうから電話が掛かってきた。
「なんだようるせえな、今ちょっとアダムがイヴをデートに誘うキメ台詞を考えてたんだから邪魔すんなクソが」
『なに考えてんだマジきもいわ。 誰が好き好んでお前なんかの電話に折り返すか。 メルが掛け直せっていうから――え、代わる? いやでも――分かった分かった、ほら』
「あん? ついに脳内に別人格でも湧いたか?」
『ボ~ンゴレビアンコォ。 お兄さん、ちゃんとショウくんと仲良くするんだよ』
「お、その声はメルか。 残念だけどそりゃあ無理な話だ」
子供っぽい中性的な声を持つアルトアイネス型のメルは、エルの妹にあたる。
大学で毎日のように顔を合わせる二人は、いつも姉妹という枠に囚われないイチャつきっぷりを俺と貞方の前であろうと何処であろうと見せつけてくれる。
かつてヨドマルカメラのヂェリーコーナーで売り子をやっていた二人は一度、離れ離れになりそうになったことがあり(半分は俺が原因のようなものだが)、その反動で今の過剰な仲の良さがあるのではないかと俺は推測している。
ちなみに【ボンゴレビアンコ】というのはメルが最近覚えた挨拶(?)の言葉らしい。
どこの電波さんがそんなパスタ臭い挨拶(?)をしているのか、少しだけ興味がないこともない。
『今日はバトルのお誘い? お兄さんとエル姉は今から家を出るトコなの?』
「いや、実はもう神姫センターにいるんだ。 最近エルがレッグパーツを使うようになって、まだメルと勝負してなかったよな。 だから今からどうかなって」
『行く行く、すぐに行く! ハナ姉は精密検査中でここにいないけど、ボクとショウくんも準備するから2~30分待っててよ!』
「おう、待ってるぜ」
さて、竹さんにあしらわれたことの八つ当たりのつもりで貞方を呼ぼうとしたんだけれど……まあ、メルに嘘は言っていない、と心の中で自分に言い訳をした。




時間が経つごとにステージに倒れる神姫は数を増し、しかし依然として混乱の規模が収束する気配は見られなかった。
神姫センターのスタッフが対応しようにも、筐体内に多数の神姫がいては強制的な措置を取ることもできず、せいぜい新たな参加者を増やさぬよう注意を呼びかけるくらいが関の山だった。
この神姫センター二階の状況を聞きつけたオーナーに連れられた神姫が面白半分でスタッフの目を盗み筐体の中へ入っていき、同じ数だけ虚ろな目をしたアルトレーネも戦場に加わっていった。
「もう嫌! こっちこないで! 私の負けでもいいから筐体から出してよ!」
「では一度やられるのです。 地面に転がるのなら私達も手を出さないのです」
「ふざけやがって、ちょっと人気が無いくらいでこんな――うわあああああ!?」
「アハハハハハハ! すべての神姫はアルトレーネの前に跪くのです!」
阿鼻叫喚、というものを人生の中で目の当たりにする機会があるなんて、夢にも思わなかった。
店内に設置されたどの筐体からも止むことなく響く叫声と悲鳴は、昔見た戦争を題材とした映画の内で人家が無差別に攻撃されるシーンを回想させる。
15cm程度の人形のやることとはいえ、その声が人のものと同種であれば、本能的に耳を塞ぎたくなる。
それは心を持った神姫も同じなのだろう。
貞方に連れられたメルは神姫センター二階に上がってくるなり、顔をしかめた。
「……どういう状況なのさ、これ」
メルを肩にのせた貞方もメル同様、道頓堀に飛び込む阿呆を見るような目をしている。
「てめぇ背比、嵌めやがったな」
「いやあ、ちょっと手に負えない状況だから? 是非うちのエルを無事救出してもらおうとはまあ期待はこれっぽっちもしてないんだけど? なんというかこう、ノリで呼び出してみたわけよ」
「ふざけんなカスが! 他人様を乱痴気集団に加えようとするとかマジ腐ってんな! お前ついにカルトにまで手ぇ出したか!」
「せっかくバトルに誘ってやったってのになんだその言い草は! 神姫を指してカルト集団とか、全国の紳士を敵に回すようなことを言うんじゃねえ!」
「どう見ても神姫vsカルト集団じゃねえか! さっきから聞こえてくる声の半分が『なのですなのです』じゃねえか! こんな不気味な場所に立ってられるお前の神経がキモいわ!」
「俺のエルは『なのです』とか言わねえよ! そのへんのアルトレーネと一緒にすんな!」
「あーあーもういいよ二人とも、ちょっと落ち着いて」
馬鹿二人を宥めるように、メルが割って入った。
「同じ戦乙女だし、なんとなくこの騒動の原因は想像がつくよ。 ディオーネの再販の注文数が集まらなかったことの八つ当たりだよね? ここ数日のエル姉は様子がおかしかったし、エル姉と似たり寄ったりな考えのアルトレーネが集まった、ってとこでしょ」
さすがは姉妹、姉の単純すぎる考えなんてお見通しってわけだ。
俺がエルを買った日、メルを貞方に渡したのはやはり勿体無かったのだろうか。
でも金が無かったからなあ、姉妹の絆を金で買うなんて、よく考えたらすごいことだよなあ。
「ごめんなメル、もう俺じゃ戦争の真っ最中のエルを見失わないことすら難しいんだ。 ここは一つ、姉妹の絆でなんとか連れ戻してくれないか」
「うーん、そうしたいのは山々なんだけど、ボクがあの中に入って大丈夫かなあ」
「それは問題無いだろ。 メルって結構強いし、あんな正気を無くしたような連中にどうにかされることはないと思うけど」
「え? あ、ま、まあ、うん、そう簡単にやられたりはしないけど、さ」
何気なくメルを褒めると(持ち上げて釣ろうなんて思ったわけじゃない)ベタなくらい顔を赤くして照れる様子を見せた。
こういうところは、エルと違った愛嬌がある。
「ボクが心配してるのは、ボクがアルトアイネスだってこと。 ほら、その、ボク達って再販の予約数を達成したからさ、火に油を注ぐようなことにならないかなって」
「あー……」
言われてみれば、今日はこれだけの数の神姫がいるにもかかわらず、アルトアイネスの姿を筐体の中で見ていない。
恐らくメルと同じ危惧を抱いて戦争に参加せず帰ったのだろう、懸命な判断だ。
姉妹機であるアルトアイネスに八つ当たりの矛先を向けるアルトレーネというのはちょっと想像がつかないけれど、今日はもう十分に俺の想像の斜め上――いやもう異次元な行動を見せていることだし、全アルトレーネが再販権を勝ち取ったアルトアイネスに矛先を向けないとは言い切れない。
「といっても、この状況を放っておくわけにもいかないしね。 ちょっと準備するから待っててよ」
「無理してこんな馬鹿げたことに付き合うことはないんだぜ、メル。 いざとなったら背比に筐体を壊させて中の神姫を回収すればいい話だし」
「さも当然のように言ってくれるな、お前」
「危なくなったらすぐに引っ込むつもりだよ。 少なくともエル姉の頭を冷ますくらいはしたいところだけど」




森の中のような見通しの悪い場所で敵が何処から襲ってくるかも分からない状況では、冷静でいられる人はなかなか少なく、例えばそう、見えない恐怖から逃れようと見渡しの良い場所に陣取りたくなるものだ。
森の中から飛び出してきたウィトゥルースもそうだったのだろう。
ふよふよふらふらとフリーザ様愛用の乗り物のような機械に乗った彼女は、疲弊しきった顔で森を二等分する川へと出てきた。
周囲をキョロキョロと見回し、一応の警戒をしているつもりなのだろうが、彼女の目には何も映ってはいない。
あと気持ち少しでも周囲を観察していれば、森の中よりもはるかに多くの神姫が川辺に横たわっていることに気づけたことだろう。
あるいは、その感覚すら麻痺してしまったのか。
一人ノコノコと見つけやすい場所に現れた彼女は、一体でも多くの屍を作ろうと躍起になるアルトレーネ達にとって格好の獲物だった。
川に浸かることなくふよふよと浮かぶウィトゥルース目掛けて、森から巨大な鉛色の弾丸が飛び出してきた。
速度は弾丸のそれ、だが金属の塊ではなく大剣と必殺の意思を持ったエルと、呆けた顔でその弾丸を見つめるウィトゥルースの間に、赤いマントを広げたメルが割って入った。
「『ヒドゥンワイィィィイイヤアアアッ!』」
戦乙女型の特徴の一つである可変スカートの下からワイヤーを伸ばし、咄嗟にエルが差し出した大剣に絡ませて、エルの勢いは殺さず思い切り明後日の方向へ投げ飛ばした。
唐突に向きを変えられたエルは空中で体勢を立て直し、小石を撒き散らしながら着地した。
コートが翻り、白く無骨なレッグパーツが顕になった。
「へ~、それがエル姉の新しい武装なんだ。 お兄さんもなかなかどうして、いいものを選ぶじゃない」
「……どうして邪魔をするんですか、メル」
ニーキから譲り受けた大剣と、ベコベコにへん曲がってしまっている棒(携帯ラジオのアンテナ)を左右に軽く広げたエルは、乱入者と仕留め損なった獲物を睨めつけた。
ビクビクと怯える哀れな子羊(子牛?)のウィトゥルースを庇うように、メルがボロボロのマントを広げた。
メルの武装はアルトアイネス純正のレッグとスカートだけで、手には剣も銃も持っていない。
すべての武器をスカートの下に隠すのがメルの戦闘スタイルだ。
スカートまで覆うくらいの大きなマントは裾が焦げていたり穴が空いていたりと、メルがどれほどの修羅場をくぐってきたかを窺わせる……ようでいて、実は姫乃によるデザインだったりする。
エルのロングコートを見たメルが姫乃におねだりして作ってもらったものらしい。
「邪魔とは心外だね。 せっかくボクが逃げる神姫を不意打ちするような卑怯な真似を止めてあげたのに」
「……そうですね、私のやろうとしたことは、確かに卑怯でした。 でも――」
エルは酷使され続けて今にも折れてしまいそうなアンテナを、地面に向かって振り下ろした。
「そうでもしないと――誰かの上に立たないと、プライドが保てないんです!」
アンテナを叩きつけた反動に加え、レッグパーツの補助もあり今までとは比べ物にならない速さでメルへ一直線に跳んだ。
既知以上の速度を目の当たりにしたメルは、驚きながらも冷静だった。
ワイヤーを後ろのウィトゥルースに絡ませ、投げ飛ばすと同時に自分もその場を離れた。
スカートの下から落とした爆弾を残して。
「気持ちは分かるけどさ、少し頭を冷やしなよ」
メルの狙い通り、猪突猛進しか脳がないエルはしかし、剣とレッグパーツを浅い川の底に叩きつけ、無理矢理その方向を変えた。
エルがいるはずだった誰もいない場所で爆弾が炸裂する。
「嘘ぉ!?」
エルが直進しかできないものと思っていたメルは咄嗟にスカートを前方に伸ばすも、僅かに遅かった。
懐に飛び込んだエルの飛び膝蹴りがメルの胸に直撃した。
「カハッ!?」
そしてそのまま、縺れ合うように川へ落ち、盛大に水飛沫を上げた。
投げ飛ばされたウィトゥルースは暫く呆然と二人を見た後、ハッと気がついて一目散に筐体の出口へと向かっていった。
水飛沫が降りた後、そこには浅い水面から顔だけ出したメルと、その上に馬乗りになったエルがいた。
「がはっ! がっ、ごほっ!」
「あれだけ盛大に再販すると告知しておいて、しかもアークとイーダに2千体の注文が集まった直後ですよ。 なのにアルトレーネは延期までしておいて2千5百体どころか2千体にすら届かないなんて、指を差して笑ってくれと言っているようなものです!」
「げほっ、っげほっ!」
「なにが『ボクらの神姫を作ろう』ですか! 私達は不人気と笑われるために生まれたわけじゃないんです! こんなことなら……! ……こんな……こんなことなら! メルは分かってくれますよね!? ねえ、聞いてますか!?」
「ぎ、げほっ……!」
「もう私達にはプライドなんて残されていないんです! そんな私なんてマスターに……! マスターに……見限られても、仕方がないんです……」
「…………」
「だから、私達はせめて、他のどの神姫よりも強いところを、マスターに見てもらわなきゃいけないんです……」
「…………」
「アルトアイネスのメルなら、私の、私達のこの想い、分かってくれますよね?」
「(ぶくぶくぶく)」
「きゃー!? 駄目です起きて下さい死んじゃだめです!」
「ブハアッ! ゲホッ、い、いや、エルね、ど、どいて、そこどいて」
自分が三途の川にメルを押さえつけていることにようやく気づいたエルは、ぴょんと飛び退いてメルを助け起こした。
「げっほぉっ……はあ……はあ……! あ、アルトレーネ達の動機はそんなところだろうと思ってたけど、あらかじめ打ち合わせもしないでここまで大事にできるなんて、さすがに他の神姫には真似できないよ」
勿論、同じ戦乙女のアルトアイネスにもね、と、まだ銃声や悲鳴が森の奥から聞こえてくる状況だというのに、メルは唇の端を釣り上げた。
その笑みを見てようやく目に光を戻したエルは、憑き物を落としたように表情を緩ませ、それからやっと自分がしでかしたことを冷静に思い返したのか、恥じ入るように顔を伏せた。
「あのお兄さんがエル姉に失望するはずないって、エル姉が他の誰よりも分かってるでしょ」
「そ、それは、まあ……」
「前の締切り日だってエル姉を元気付けようとして、そのレッグパーツを買ってくれたじゃない。 ううん、もっと前、私達がこうして自由にバトルできるようになったのも、ヨドマルで変な計画に利用されそうになったところを助けてくれたのはお兄さんでしょ」
「…………はい」
姉と妹が入れ替わったかのように、メルはエルの頭を撫でた。
水に濡れた金髪をワシャワシャと掻き回され、エルはくすぐったそうにしている。
「そうですよね……私とマスターは、お互いを信じ合っているんでした。 アルトレーネの注文数なんて関係ないですよね。 ……でも、今日は目一杯、迷惑をかけちゃいました……」
「いやあ、あのお兄さんもなんだかんだトラブルを楽しんでたみたいだよ」
「そう、ですか。 でも、ちゃんと謝らないといけませね」
「うん。 でもその前に、私達にはもうちょっとやることがあるよ」
「やること、ですか?」
マントを束ねて水気を搾り出したメルは、軽くスカートを動かして動作を確認した。
「ちょーっと道を踏み外したアルトレーネがまだまだいるからね。 ボク達で目を覚まさせてあげないと」
「……さすがにもう、疲れたんですけど」
「文句言わないの。 ボクだって好き好んで死んだ魚の目をしたアルトレーネと戦いたくなんてないよ。 エル姉は今日一日の反省の意味を込めて、ほら、行くよ」
仲良し姉妹は川に二分された森の、それぞれ反対方向へと入っていった。
二人一緒に戦う必要はない。
二人で別々の場所を当たったほうが早い。
同じ目的のために二人が同じ場所で戦っていること、それだけで十分だった。




夜23時。
昼間の騒々しさが嘘のように――いや、ここは神姫センターではなく俺の部屋なんだから当然か、でもあの阿鼻叫喚がまだ耳に残っていて、俺はようやく一日が終わったことによる安堵を噛み締めた。
「それはまた……何て言っていいのか分からないけど、とりあえず、お疲れ様です」
言葉だけは労ってくれているけれど、むしろ呆れのほうが数倍大きそうな様子の姫乃は椅子の上に体育座りをしてエルのほうに目を向けた。
あちこちが汚れて傷ついたコートを脱いで姫乃作成のテニプリジャージを着たエルは、今日一日で精も根も尽き果ててクレイドルの上で爆睡している。
その隣、クレイドルに寄りかかったニーキは、姫乃とは違い呆れ顔を隠そうともしない。
「そんなにアルトレーネ型としての矜持を守りたいのだったら、もっと粛然としているべきだと思うがな」
「へえ。 じゃあニーキがもしエルと同じ立場だったらどうする? 姫乃の前で大人しくしているのか?」
「まさか。 神姫センターで手足れを2・3人捕まえて倒す。 それくらいなら許されるだろう」
「…………」
「…………」
「どうした、二人とも」
「いや、何も」
「いえ、何も」
今回は騒ぎを起こしたのがたまたまアルトレーネだったというだけで、案外どの神姫であっても似たようなことをしでかす可能性があるのかもしれない。
人間と違って、神姫には神姫なりの苦労があるのだろう、うん、そういうことにしておこう。
「それで、結局その戦争(?)ってどうやって解決したの? まさか本当にエルメル姉妹がアルトレーネ達を説得して回ったとか」
「いやいや、さすがにエルとメルにそこまでの強さはないって」
強いといっても、それはあの神姫センターの平均的なレベルより頭ひとつ抜け出している程度のものだ。
正気に戻る前に散々暴れていたエルはすぐにギブアップして筐体から出てきて、メルもしばらくして「無理無理! 数が多すぎてもうわけわかんない!」と命からがら逃げてきた。
そこで入れ替わるように登場したのが、我らが勇者にしてチンピラシスター、ドールマスターコタマだ。
トチ狂った子羊を黙らせてくる、とか何とか言って森の中へ入っていき、ものの数分で悲鳴も銃声も聞こえなくなった。
筐体から出てきたコタマは随分とゴキゲンな笑顔で竹さんからヂェリーを受け取り、それを一気飲みすると「次行くぞオラァ!」と別の筐体へ向かっていった。
「そこまで強いともう、冗談みたいよねえ」
「あれはもう冗談そのものだぞ、ヒメ」
ニーキの言うとおり、コタマの戦いっぷりは神姫を通り越して神鬼と言い表したほうが適切だった。
実はハーモニーグレイスなんかではなく、12分の1スケールのターミネーターか何かではなかろうか。
物売屋なら、そんなものを入荷していてもおかしくない。
「でも上手いタイミングで鉄ちゃんが来たのねえ。 今日は確かアルバイトの日だったはずだけど」
「そうだったんだけど、俺が電話してから飛んで来てくれた。 一度は断られたけど、やっぱりほっとけなかったみたいで、時間から考えるとかなり急いで来てくれたんだと思う。 神姫センターに来てから暫く息を切らしてたし」
「……ふうん」
「弧域、ヒメを呼ぼうとは考えなかったのか」
「ちょ、ちょっとニーキ……」
「呼ぼうとしたけど、オーナー同士でケンカとかやってたし、危なそうだからやめておいた。 ……ごめん、本当はバトルとかしたかったんだけど、呼べるような状況じゃなくてさ」
「え!? う、ううん、危ないところに私を近づけないようにしてくれたんだよね」
わたわたと突き出した手を振って、それから膝に顔を埋めて、
「ありがと」
と言ってくれた。
ああ、やっぱり姫乃は可愛い。
パソコンの辞書登録で『かわいい』と入力したら『姫乃』と出るようにしようか。
……さすがに馬鹿っぽいからやめておこう。
「これでここ最近のエルの情緒不安定に悩まされることも無くなったってわけだ。 こっちこそありがとうな、姫乃。 いろいろ協力してもらってさ」
「ううん、気にしないで。 エルのためだもの、私にできることなら協力するわ」
もうすっかり姫乃もエルに心を許してくれている。
暫くは穏やかな生活を送れそうだ。
次の日曜日あたり、エルを買った日の花見のように、また皆で出かけるのもいいかもしれない。
今度は竹さんも、ああ、あとメルとハナコもいることだし、貞方も呼んでやらないこともない。
まずは何処に行くか考えよう。
具体的な良案はパッと出てこないけれど、考えただけで自分の口元が自然とほころんだ。
















































2011年2月6日。
新型神姫にバトマス続編など、目出度いニュースが飛び交っていますが、アルトレーネはどうなるのでしょう。
いや、新型神姫、欲しいです。
バトマス続編も、欲しいです。
ですがそれらはまだ先の話。
今を生きる私達はアルトレーネの行く末を知らなければならないのです。
2011/2/4 8:50時点の受注状況 1709個
2,000すら到達しないままカウンターをストップさせたままだなんて、あんまりではありませんか。


話は変わりますが、ここ最近は特に虚淵氏が熱いです。
ニトロのゲームは沙耶しかやったことがありませんが、数年前に発売された『Fate/zero』は読んでいて、こう何と言いますか、燃えたものです。
最近になって文庫サイズで販売されていますので、まだ読んでいない方に是非、手に取っていただきたいものです。
『BLACK LAGOON』小説版も発売されています。
前回の小説版同様、エキセントリックなキャラに踊らされる人々がクールに描かれています。
もしこれから手にするという方がいるならば、最低限、モーゼルという銃がどのようなものかグーグル先生に質問しておくといいかもしれません。
より物語を楽しめることでしょう。
今回の『与太話3 : 第一次戦乙女戦争』は『BLACK LAGOON』を読み終えた直後に書き始めたため、多分に影響を受けています。
3~4千字程度で済ませるつもりが、1万2千オーバーです。
そして最近の虚淵氏を語るに忘れてはならないのが『血溜まりスケッチ』。
マミさんアルティメット乙です。


……別に虚淵信者というわけではありません。
面白いものは面白いもの、他人様にオススメしたくなるものです。







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