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8th RONDO 『愛しています、私のバカマスター ~3/3』







「――やれ、エル」
「はい、マスター♪」





ガキインッ!

筐体に硬質の音が響き渡る。
食い入るように観戦するギャラリーも、冷静に見守る竹さんも、怯えるように見つめる姫乃も、当事者であるニーキでさえ――俺とエルを除く誰もが、目の前で起こったことを理解できなかったはずだ。
いや、ニーキに限っては、驚くことすら許されない。
エルが放った “銀色の一閃”。
それは、誰の目にも留まらず、ニーキを吹っ飛ばした。
エルの身長ほどの長さがある金属の棒。
それを背面から縦に円を描くように振り下ろしたまま、エルは遥か先のニーキを見据えている。
一定の長さごとに節があり、伸縮可能なそれは、俺があらかじめつまようじケースの中に紛れ込ませていた本命の武器。
「あれって、アンテナ?」
「そう、ラジオのアンテナだ。 俺の部屋の小物入れを漁ってたら古いラジオが出てきたんだけど、電池を入れてもワンともニャンとも言わないし、じゃあアンテナ取り外してもいいよなって」
「いや、武器にアンテナ選ぶのもどうかと思うけど……まぁ、つまようじよかマシやろうけど、最初っからちゃんとエルに渡しときゃ、こんなことにならんかったんやない?」
「そ、そこはホラ、エルを驚かせたかったし。 それに今のカウンターも上手く入っただろ」
「その一撃のためにエルはもう瀕死なんやけどね。 あんだけボコられてまだ立っとるのが奇跡やよ」
「……だってまさか、こんなシリアスなバトルになるなんて予想できたか? ああそうだ、姫乃!」
ビクッ! と姫乃の肩が跳ねた。
その顔は悪戯がバレた子供というか、重要書類をシュレッダーにかけてしまった新入社員というか、見ているこっちが心苦しくなるほど痛々しい。
「俺もエルも姫乃の考えはお見通しだからな。 “ニーキは姫乃の期待に寸分違わず動いている”」
「…………」
「だから、それを知った上で言っておくが――俺は姫乃が大好きだぜ」
「…………」
「ま、そう簡単に信じられたら苦労はしないんだけどな。 帰ったらそのへんのことをゆっくり語ってやろう」
姫乃は俺と目を合わせようともせず、俯いたままだ。
今日はエルもニーキもぐっすりと眠ることだろうし、夜這いでもかけてみるとしよう。
さっきから 「「「「ヒュー! ヒュー!」」」」 と五月蝿いギャラリーは無視して、今は目の前のバトルに集中だ。



「ぐっ……! やってくれたな」
ニーキは立ち上がり、恨みがましく言った。
「今までの君と弧域の漫才は全て演技だったというわけだ」
「漫才は演技で行うものですよ。 それと、ニーキ姉さんは大きな勘違いをしています。 私がこの剣(?)の存在を知ったのは、500本入ケースの蓋を開けた時ですよ。 だからケースを開けた後、つまようじを取り出さなかったんです」
「それこそ嘘だ! 君はそれを完璧なタイミングで振り下ろした! 500本の中に紛れ込んだそれを、どんな形状かも分からないものを私の接近に合わせて背後から引き抜いて、伸ばしながら振り下ろすまで、一瞬たりとも私から視線を外していない! 事前にその存在を知っていなければ不可能な芸当だ!」
「何度でも言います」
立っているのも辛いはずなのに、エルは堂々と胸を張った。
「私はマスターを信じています。 だからどんな形であれ、 “マスターは私のために、私が万全に戦える武器を用意してくれているんです”。 つまようじを渡された時から、ああ、マスターは本当はどんな武器を用意してくれているのかなって、ずっとずっと楽しみにしていたんですよ。 そういう意味では、私はニーキ姉さんをペテンにかけていたことになりますけどね」
つまようじ500本を渡された時は少~しだけマスターを疑っちゃいましたけどね、と、ジットリとした目をこちらに向けた。
……こっちにだって色々と都合があったんだ。
予定では、
「うわああああ来ないでください!」
とか言いつつ、つまようじを投げまくって、ニーキが、
「こ、この、真面目に戦うわっ!?」
という具合につまようじを踏んで転んで、エルも、
「あ、チャンス! 今こそ決戦の時なのでひゃあ!?」
と自分も転ぶような、目を覆いたくなるほどのグダグダなバトルが繰り広げられるはずだった。
それなのにエルときたら俺の期待を(良い意味で?)裏切り、開幕からいきなり 「『デーモンロードクロウ!』」 とカッコイイ必殺技を放ってくれた。
シリアスなバトルもいいけどさ。
もうちょっとこう、肩の力を抜こうぜマイヴァルキリー。
「けど今回は特別に、特別にですよ? マスターを許しちゃいます。 こうして剣(?)も手に入ったわけですし」
そんなマスターの期待など露知らず、エルは得意気にそう言って、くるくるとアンテナを回して見せた。
そして右手にアンテナを持ち、左手には再びつまようじを四本構えた。
その動作には、今まで以上に迷いが無い。
「好き勝手やられたお陰様で、私はあと一撃で倒れてしまいます。 でもニーキ姉さんは今から、私の速度に一歩たりとも追いつけずに膝を折ることになります」
ボロボロであっても自分の勝利を疑わない。
疑う理由が無い。
ニーキの敗北を予言、いや宣言したエルは右手のアンテナを思いっきり、地に叩きつけた。
「はあっ!」
脚力に加えたその反動でエルは自分の身体をニーキへ “飛ばした”。
「なっ!?」
機動力を上昇させるレッグパーツもリアパーツも装備していないエルの、それらの武装をはるかに上回る速度に辛うじて反応したニーキは、咄嗟に剣を正面に出す。
だがそんな防御は、今のエルには何の意味も成さない!
「『デーモンロードクロウ!』」
防御を無視したエルの四本の爪がニーキに突き刺さり、そのままステージ端まで追い込んだ。
「ぐあっ!」
筐体が僅かに揺れる。
ガラスケースに背中を打ち付けたニーキから一旦離れ、再びアンテナを叩きつけてニーキに向かって加速したエルは折れた四本を捨て、その速度の中で槍投げのように構え、

「『神槍――――』」

「ニーキ逃げて!」
その技の威力を、その技を受けて動かなくなってしまった神姫を間近で見たことがある姫乃の叫びは、神の字を冠する悪魔の槍に対してあまりに遅すぎた。



「『  ス  ピ  ア  ・  ザ  ・  グ  ン  グ  ニ  ル  』」



銀色に煌めきながら放たれたそれは、立ち上がったニーキの胸に直撃し壁に一瞬その身体を縫いつけ、ニーキは崩れるように膝を折った。
投擲したエルは命中を見極める残心を取……ることもできず、勢いを殺せずに 「ひびゃん!」 と情けない声をあげて盛大にずっこけ、海老反りになったまま ズザザザーッ とニーキの足元まで滑っていった。
コートの裾がめくれ上がり、エルの白くペイントされた尻が顕になった。
姫乃ならともかく、神姫のパンチラ (パンモロとも言う) を見たって嬉しくねぇ……。
しかも今更、さらにこのタイミングで転ぶなよ……。
「ううう、ますたぁ~今のでライフポイントが残り 【1】 になっちゃいました……」
「少しでもエルがカッコ良く見えた俺の目が恥ずかしい……」
歓声を上げるギャラリーを尻目に、俺とエルはふたり仲良く居た堪れなさを味わった。
「なんだあのスピード有り得なくね!? 絶対コスプレ神姫の動きじゃねぇよ、改造してんじゃね? アーク並に速いんじゃね?」
「いや~それは言い過ぎっしょ。 イーダよりは確実に速かったけど。 でもなるほど、神姫だからこそできる移動法って感じかぁ~さすがドールマスターの友人だけあって勉強になるなぁ~ウチのシュメッたんにもやらせてみようかなぁ~」
「「「絶対無理」」」
「酷いねぇ~君たち」
「なによあのアルトレーネ、絶対許さないっ! 後でバトル申し込んで倒そうっ! 空気読めってのよねっ! ここは執事さんがマスターの狂気に駆られて圧勝するところでしょうがっ! ホント空気読めっ! ねぇっ!?」
「……うん、そうね。 あんたも少しくらい空気読もうね」
「パンモロギュウドン可愛すぎw ちょっとアルトレーネ買ってくるわw」
「おまっw 買ったら名前>>50」
「>>50  “たこ焼きのお供”」
「「そwれwだw」」
のそのそと立ち上がったエルは 「レミリア姉さんみたいにカッコ良く投げたつもりなんですけどね……あれ? でも武器投げって 『ゲイルスケイグル』 と同じ……さすがレミリア姉さん、技も私のものよりずっとすごかったんですね」 とブツブツ言いながらアンテナを拾った。
レミリアの前に落ちているアンテナを。
目前のレミリアを警戒することもなく!
「額防御!」
「っ!?」
間一髪。
俺の声に反応してニーキの 『血風懺悔』 ――いつの間にか腰のホルスターからハンドガンを抜き、その銃身で繰り出す突き――を弾いたエルはよろめき、蹈鞴を踏んだ。
銃身を突き出したままニーキは狙いも定めず数発射撃する。
「くっ!? はっ! やっ!」
弾丸を弾きながら、エルはニーキとの距離を取った。
「この距離で盾もなしに射撃を凌ぐか。 いや、それよりも私の技を弧域の声だけを頼りに防ぐとは巫山戯たことをしてくれる。 さっきの移動法も技もレミリアという姉から譲り受けたものだろう。 どんな神姫かは知らないが、おかげで私のライフポイントも残り 【1】 だ。 エル、君は誰からも――」
――愛されているのだな。
そう言って片手に持っていた大剣を、ニーキはエルに無造作に投げてよこした。
攻撃か、それとも布石か、警戒したエルはしかし、その敵意の無さを感じ取ったのか、器用に片手で握りを取った。
「その剣を暫くの間、君に預かっていてほしい」
「預かるって、で、でもこの剣は――」
「先の非礼の詫び、とでも思ってくれればいい。 言っておくが、いつか返してもらうからな。 壊したり無くしたりすると私は本物の悪魔になるぞ」
それはニーキなりの冗談だったのか、口角を少しだけつり上げてみせた。
神姫同士、繋がるものがあったのか、エルは深く追求しようとはしなかった。
「――分かりました。 この剣をニーキ姉さんに返す日が来ることを心から願っています。 けど、いいんですか、今私に剣なんて渡しちゃったら、ニーキ姉さんのライフポイントは “爆風前の灯火” ですよ?」
といいますか、ライフポイント以前に爆風で粉々になりますよ、と面白くもないことを、ニーキの真似なのか口角をつり上げたエルが言った。
丸い瞳のアルトレーネにその顔はまったく似合っておらず、違った意味で不気味だった。



長いようで短かったバトルも、ついに大詰めを迎えた。
どちらかの攻撃が掠るだけで決着を迎えてしまう局面で、エルは得意な武器二振りを手に入れ、逆にニーキはハンドガン一丁のみ。
「君達の見当通り、私は遠距離攻撃が苦手だ。 だから正直に言って、このハンドガンもこの距離では何の役にも立たない。 だが近づこうにも君にはレミリア直伝のスピードがある。 だったら私は――」
ゆっくりと、エルの横に回り込むように歩くニーキは、ゆっくりと、ゆっくりと――その姿を消した!?
「え? うわっ!?」
「――君の認識の外から近づかせてもらうとしよう」
エルが “そのこと” に気づけたのは戦乙女型の直感の成せる奇跡だった。
いや、偶然と言い換えたほうがいい。
エルの正面にいたはずのニーキが “エルの背後から” ハンドガンを放ち、辛うじて反応したエルは手に入れたばかりの剣でそれを弾いて飛び退る。
だが “その先でエルが来るのを待ち構えている” ニーキが燕尾服の尾を靡かせてハンドガンを構えている!?
筐体の外から見守る俺ですらわけが分からない!
「なんで!? こ、このっ!」
混乱しつつも、剣を地に叩きつけた高速横っ跳びで弾丸を回避したエルはそのまま大きく距離を取った。
「マ、マスター! あ、ありのまま、今起こったことを話します!」
「い、いや、いい。 俺の頭もどうにかなりそうだ」
認識の外から近づく?
簡単に言ってくれるが、今のは催眠術だとか超スピードとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてなかった!
「どんなに相手を刮目していようと、その認識には必ず切れ目がある。 それは神姫も同じこと。 私はその切れ目に足を踏み入れるだけだ」
そう言いつつリロードを終えたニーキが再び、ゆっくりと、歩き出した。
「エル! これは本気で警戒しないと――」
「――あのハンドガンの装弾数は最低でも12発。 でもニーキ姉さんのことだから、今のリロードはフェイクと見て間違い無いでしょう」
「おう?」
エルは両手の二本を軽く広げて悠然と構えた。
ロングコートがマントのように靡く。
「正直ニーキ姉さんの動きはサッパリ理解できませんけど、大丈夫ですよマスター。 まさか私を疑ってなんていませんよね?」
その自信に満ちた姿が、見た目は全然違うのに、レミリアに重なったように見えた。
満身創痍のくせに俺を挑発するなんて。
本当に――俺は面白い神姫に出会ったと思う。
「は、はは、うはははははっ! そんなわけないだろう、 “信じてるぜ、エル!”」
「ふふっ♪ マスターに信じられちゃったなら、しょうがないですね。 ではでは――」
エルにとっての自己暗示なのだろう、両手の剣を頭上でクルリと風車のように回した。
「戦乙女型アルトレーネ、エル! 我がマスターとの勝利と絆をこの二本の剣に誓います!」
再びアンテナを叩きつけ、同時に脚に溜めた力を放ったエルは、
「「「「「飛んだぁ!」」」」」
いつの間にか接近し、ハンドガンの突きと同時に放った射撃を空振ったニーキの遥か頭上で、二本の剣を翼のように広げた。
「いい景色ですね。 ここからだとニーキ姉さんの動きもばっちり見えちゃいます」
「くっ! いいだろう、ならば――」
高所から見渡されては、さすがのニーキでもエルに気付かれず近づくことはできず、エルの高さまで飛ぶ機動力もない。
これでニーキの技は封じた――だが、この程度で屈服する悪魔ではない。
「悪魔型ストラーフ、ニーキ! 我がマスターの想いをこの銃で果たす!」
エルの遥か下、真っ向から打って出るニーキはハンドガンを背後に引き、その方向に限界まで身体を捻った。
落下を始めた、自分の挑戦を受けてくれるライバルに喜びを隠さないエル。
その先で待ち構える、ライバルの挑戦を打ち砕く喜びを隠そうともしないニーキ。
ギャラリーが固唾を呑んで見守る中、二人の緊張は限界に達する。

「『スカーレットデビル』 ――――勝利の栄誉の礎となれ!」
「『十三回旋黒猫輪舞曲』 ――――敗北と絶望に舞い狂え!」

最高速度で降下するエルと貯めた力を開放したニーキ。

「はああああああああああああ!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!」

爆発のような激突の衝撃は筐体を揺るがし――――




















































































「――――あんな自滅覚悟の大技を、しかも瀕死の状態でぶつけ合ったらそりゃあ、どっちも立っていられるはずないよな。 エルとニーキがレミリア達みたく壊れやしないかって心配で卒倒しそうだったぜ。 あーくそっ、またあのマオチャオのこと思い出した」

とっぷりと日が暮れて、俺の部屋の中の空気は肌に刺さるように冷たい。
梅雨が近いとはいえ、まだまだこの肌寒さが和らぐことはなさそうだ。
こんな時はあえて服を着込まず外に出て、外気の冷たさに触れながら夜桜を楽しむのが乙というものだが。
生憎と、桜はもうほとんど散ってしまっている。

「もしかしたらエルもニーキも……いや、後先考えずに全力でお互いに挑んだだけか」

エルとニーキは今、姫乃の部屋でクレイドルを並べて眠っている。
エルを寝かしつけた後、ボロアパートの隣室、姫乃の部屋を訪ねようと玄関の扉を開けると、そこには姫乃が立っていた。
バトルが終わった後でギャラリーからバトルの申し込みが殺到した時も、帰りの電車の中でもずっとそうだったように、俯いたまま。
ロングスカートを風に靡かせ、寒さに肩を震わせて。
廊下の電灯の下に立つ姫乃の姿は、春の冷気を忘れさせるほど、ゾッとするものだった。
肩を抱いて姫乃を部屋の中に入れ、エルを起こさないように姫乃の部屋に持ち運ぼうとすると、そこだけは姫乃が断固として部屋に通してくれなかった。
無言でエルが眠っているクレイドルを俺から奪い、部屋へと置いてきたのだ。
どうでもいいが、俺はまだ一度も姫乃の部屋に入れてもらったことがない。
うん、本当にどうでもいいことだが。
いや、本当にどうでもいいことだが。

「あーあ、まさかダブルノックアウトになるとはなあ。 悪魔退治は一応達成したけど、エルまで倒れたんじゃあなあ」
「さっきね、私の部屋でエルを――――壊したよ」

いつものように椅子の上に膝を抱えて座っている姫乃は毛布にくるまり、唐突に、そんなことを言った。

「……どうする?」
「そうだな、怒る」
「……それから?」
「それからも何も、それだけだ。 他にどうしろってんだよ」
「どうして!? 私はニーキをけしかけてエルを壊そうとしたのよ!? なのにどうして私を嫌わないの!? どうしてこんな私を嫌ってくれないの!? ねえ、どうして!? 私はこんなに卑怯で卑屈で嫌な奴なんだよ!?」

いつかニーキが言っていたように、俺と姫乃は似たもの同士なのかもしれない。
相手の好意が怖い。
相手の理解不能な好意が怖い。
俺がいつもベッドの上に座って苦悩していた時に、姫乃も椅子の上で同じ苦悩を抱えていた。

「でもニーキはエルを壊さなかった。 その気になれば姫乃の抑止なんて無視して壊すことだってできたのに、そうしなかった。 そして姫乃も壊さなかった。 眠っているエルのコアを粉々にすることなんて簡単なのに、そうしなかった。 だろ?」
「……私にそうする度胸が無いってこと?」
「できないから度胸が無い、って考えは間違いだ。 暗い衝動を押さえ込める理性をこそ、俺は度胸と呼びたいね」
「女性相手に理屈を捏ねても、誰も聞いてくれないよ、弧域くん」
「それでも話を聞いてくれるから好きなんだよ、姫乃」

今日の俺の頭はどうかしている。
昼間のバトルもそうだったが、俺の口から 「好きだ」 なんて言葉が出る日が来るなんて、お天道様も思うまい。
今は夜だけど。

「それに、思い出してもみてくれよ。 あれだけしこたま打たれたエルがどうして立っていられたと思う? 防御パーツは姫乃お手製のコートだけ、ほぼ素体のままのエルが受身すら取れない状態で、だぞ?」
「それは、エルが頑張ったから、」
「根性でどうにかなる打たれ方じゃなかった。 理由があるとすれば、コートがエルを守ってくれたのか、ニーキが手加減していたのか、どちらかだ」
「で、でもあのコートは、」
「コートを作ってエルに渡したのは姫乃だ。 そしてニーキは姫乃の願望に “忠実に” 動いていた」
「…………」
「姫乃はエルを壊さない。 どれだけそれを望んでいても、どれだけエルが邪魔で邪魔で仕方がなくても、姫乃はエルを壊さない」
「…………」
「そんな安直な道を選ばない姫乃に、俺は惚れたんだ」



「俺が惚れたのはエルでも、他の誰でもない。 姫乃なんだ」



疑って、疑って、疑い続けて。
疑う心が暗闇に鬼を生む。
暗闇に迷い込んだ姫乃の目に何が映っているのか、俺には分からない。
だから、ずっと手を握っていよう。
姫乃が一人ぼっちにならないように。
暗闇が晴れた時に、側にいた奴が幻ではなかったと教えるために。

「……にはは。 弧域くん、なんだか平成初期のドラマみたい」
「う、うるさい。 たまにはいいだろ、こんなことも」
「うん――すごく、いい」

毛布をはだけ、椅子から降りた姫乃は俺の横に腰を下ろした。
そして示し合わせたように、キスをする。
ほんの一瞬の、唇を軽く合わせるだけの行為。
照れも、緊張もない。
これは俺と姫乃にとって、当然のことだから。

「言葉で何を言われても、頭で何を分かっていても、やっぱり心配なの。 弧域くんを疑ってしまうの。 弧域くんは私よりエルのほうが好きなんじゃないかって。 他の誰かのほうが好きなんじゃないかって。 ……本当は私のこと、嫌いなんじゃないかって」



「だから、ね。 私に――――実感、させて欲しいの」



俺達はもう一度、唇を重ねた。
今度は長く、深く、貪るように。
そっと手を伸ばし、姫乃のサラサラと手から溢れる砂のような髪に触れ、そのまま項を撫でた。

「ん――」

不器用な口付けを離し、姫乃の瞳に吸い込まれそうな心地良い感覚に酔い痴れる。

「服、脱がすよ」
「待って。 …………えっと、恥ずかしいから、電気、消そう?」

言われるまま、頷いた。
ベッドから降りて、部屋の電気のスイッチは玄関のほうにあるから――

「あん?」

何故か、鍵を閉めたはずの玄関が空いていて、そこから冷たい風が室内に流れ込んでいた。
そう、その隙間は丁度、身長15cm程度の人形が通れる位のものだった。
視線を下げ、クローゼットの影に隠れて覗き見していた “そいつら” と、目が合った。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………てへ♪」


「てへ♪  じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええ!!!!」




















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