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5th RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~4/4』


頑張ったのに報われない。

頑張ったから報われない。

『頑張る』 という言葉が肯定的だからこそ。

結果はただ、虚しさを残す。









その後。

エルとメル含む反過激派が過激派を沈静化し、混沌としていた神姫コーナーがひとまずの落ち着きを取り戻した。
散らかっていた神姫コーナーはあっという間に片付けられ、今は通常営業に戻っている。
売り子の神姫達が一体もいないことを除けば。

レミリアとフランドールは攻撃を受けた後、目を覚まさなかった。
それが一時的なものなのかそうでないのかは、店員に持ち去られた今となっては分からない。
二人は何を思って互いが動かなくなるほどの攻撃を放ったのだろうか。
言葉通り、フランドールに手を差し伸べようとしたのか。
言葉通り、レミリアへの劣等感に苛まれていたのか。
どれもこれも、やはり、二人がいない今となっては分からない。

ちなみに、姫乃の携帯電話も動かなくなってしまった。
こっちは期待の余地もなし。
電源ボタンを長押ししようが連打しようが、ウンともスンとも言わない。
「うぅぅ、買い換えたばっかりだったのに……」
レミリアは目を覚まさない、携帯は壊れる、泣きっ面に蜂で泣きべそをかく姫乃にとって今日は厄日だったのかもしれない。
神姫を買いに連れてきた手前、いささかの罪悪感があった。
「あ、あの……」
「うん?」
エスカレータ近くの休憩場所に設置されたベンチに座って姫乃を慰めていると、下の方向から声をかけられた。
なるほど、神姫を持つとこんな方向から話しかけられるのか、なんてどうでもいいことを考えながら、ベンチの上に立つエルとメルに目を向けた。
「ここにいていいのか? 事後処理だとか色々あるんだろ」
「私とメルは計画には加担しませんでしたから大丈夫です。 ――レミリア姉さんも、フランドール姉さんも、メルも、私も、お二人に助けられました」
ぺこり、と二人が頭を下げた。
「姉達は動かなくなっちゃったからさ、ボク達が二人の分もお礼を言うよ」
「……やめてくれ。 むしろ俺は謝らなきゃいけないんだ。 あの二人が動かなくなったのは俺の作戦のせいみたいなもんじゃないか」
もっと他にやりようがあったはずだ、なんて今更後悔したって二人が目を覚ますわけではない。
それでも頭の中ではずっと、後悔の念が反響して止まない。
こんなことになるのなら、俺が警備員や店員を突き飛ばしてでも、レミリアの意思を無視してでも、フランドールを無理矢理黙らせるくらいのことをすべきだった。
自惚れと言われようが、結果が悪いものであった以上、俺は何処かで間違えた。

俺が……彼女達を……

「レミリア姉さんとフランドール姉さんを自分で殺してしまったようなものだ、なんて言わないで下さいよ。 二人ともきっと、あなたに感謝しています」
「レミ姉は友達を止めることができた。 フラン姉も、本当はレミ姉に自分を止めて欲しかったはずだよ」
「そんなこと――」
分かるはずがない、なんて、それこそ俺には分からないことだ。
エルとメル、姉を失った二人に八つ当たりをしようとした自分がたまらなく恥ずかしい。
「あの二人はいっつも言い争いばかりしてるけど、仕事が終わった後は必ず二人一緒にヂェリーを飲むんだ」
「…………」
「だからホラ、そんな辛気臭い顔してないでさ、今日はここに何を買いにきたのさ」
「あ、ああ……神姫を買いに来たんだ。 俺まだ自分の神姫持ってないんだよ」
俺が今日ヨドマルカメラを訪れた目的。
神姫の神姫による神姫のための春闘。
姫乃の “白” 。
神姫達の戦い。
いろいろな事があって忘れかけていたのだが、撹乱のためのホイホイさんを買った時に思い出した。
俺が神姫を買うと聞くや、エルとメルは何が嬉しいのか、手を取り合って飛び跳ねた。
その仲睦まじい二人に、レミリアとフランドールの影が重なったような気がした。
レミリアが戦った理由はきっと、フランドールを止めるためだけではなかった。
この二人を見ていると、そう思えてくる。
そんな考えも悪くないと思えるくらい、二人の仲の良さに元気付けられる自分がいた。
「ほらエル姉、言うなら今だよ。 さあさあさあさあ!」
「う、うん……あ、あの、そういえば、まだお二人の名前を聞いてませんでした」
「そういやそうだな。 俺は背比弧域。 んでこっちが」
「一ノ傘姫乃よ。 私はニーキっていうストラーフを持ってるわ。 エル、メル、改めてよろしくね」
「こちらこそです。 …………と、ところで背比さん、どの神姫を購入するのか、もう決めちゃってますか?」
「いや、まだだけど。 ここで現物見て選ぼうとしてたけどそれどころじゃなかったし」
第一候補にアーンヴァルを考えてはいたが、今はとてもじゃないがそんな気にはなれない。
ストラーフも同様だ(ニーキと被るのがイヤってのもあるが)。
マオチャオは論外。
ハウリンは貞方と被るからパス。
武士と騎士は……顔が濃い……
「そ、それではですね、ア、ア、アル、」
「エル姉ファイト!」
「アル、ア、アルトレーネ型なんふぇろうれひょう!!」
なんてどうでしょう。
両拳にグッと力を入れたアルトレーネ型神姫エルは、噛みながらも早口で叫んだ。
それから一気に自分のことを捲くし立てるように話した。
「一ヶ月とちょっと前に “Dione Corporaton” から発売された最新の戦乙女型MMSなんです! 私のデザインは一般応募から練られたもので、見てください、この品の良いデザインと大人の魅力溢れるボディを!」
エルがそのご自慢のボディを強調するように胸を張り、俺の隣で姫乃がムスッとしたのが雰囲気で分かった。
「さらにですよ! アルトレーネ型専用の武装は “Arms in Pocket” という別の会社が開発してまして、フル装備するともう、戦乙女の名に恥じない戦いをご覧にいれちゃいます! だ、だから、その――」
「いいよいいよエル姉、あと一歩!」


「私を、エルをもらってくれませんか!」
「悪い。 金が無い」
「「まさかの金欠!」」


エルは膝と手をついてがっくりとうなだれ、コメディアン型神姫メルは完璧なフォームでヘッドスライディングを決めた。
ずっこけた、とも言う。
「お兄さん神姫買いに来たんじゃなかったの!? 何しにここに来たのさ! ほらエル姉も床にのの字なんて書いてないでなんとか言ってやりなよ!」
「いいんです……私なんて一生、ヂェリーの売り子がお似合いなんです……」
ここまで言わせておいて申し訳ないと思うが、先立つものがなければ話は始まらない。
「ほら、新型ってやっぱ高いだろ。 いろいろと最新の部品が使われてるらしいし、それに加えてさっきコイツ――」
鞄からところどころ破損したホイホイさんを取り出した。
内部に問題は無さそうだが、使おうとするならば腕などの修理が必要だ。
今思えば、陽動のために買ったってのも我ながら酷い話だと思う。
「――を買ったからな、もうどの神姫を買う金も残ってないんだ。 だからまた金を貯めるまで神姫はお預けだな」
しかしアルトレーネ型か……うん、悪くない選択のように思う。
ネットでどの神姫を購入しようか物色していたとき、アルトレーネ型が武装して剣を構えている動画を見たときは素直に 「かっこいい」 と思った。
今目の前にいるアルトレーネの哀愁漂う姿はともかく、武装も素体同様に白を基調としており、パーツの各所の機械をシールドするための青いクリアアーマーは全体のシルエットを引き締めて見せる。
素体とは別に第二の腕として取り付けられたアームパーツはレミリアが装備していたものとは違い素体の腕より一回り大きい程度だが、背丈ほどもある大剣を片手で軽々と扱っていた。
脚部も強化パーツが取り付けられ、羽のついたハイヒールはエルの言うとおり上品なイメージがある。
翼のような、鎧のような、腰を覆うスカートは変形自在らしく、背中に装備すればそのまま翼として機能し、空を飛ぶこともできるらしい。
個人的には、アームパーツを取り付けずにスカートパーツとレッグパーツだけを装備させている姿が一番グッときた。
肝心の素体のほうは口を “への字” に曲げた気難しそうな印象のある動画ばかりだったが、エルのどこか “ほんわか” とした雰囲気を見る限り悪い神姫ではなさそうだ。
いいところずくめ。
気に食わない部分が無い。
ここまで気に入ってアルトレーネ型を選ばない理由が無い。
……値段を見るまでは、確かにそう思っていた。
「……次にお金が貯まるのはいつですか」
「さあ、どんなに早くても一ヶ月ってところか」
「一ヶ月!? そんなに待てません!」
そう言って飛び上がったエルは鼻息を荒くして (神姫って息するのか?) 勇み立った。
「じゃあ、じゃあ、もし私が背比さんでも買えちゃうくらい安かったら、私を買ってくれますか? 買ってくれますよね!」
「え? あ、ああ、うん」
強引さに押されてつい頷いてしまった。
悪い奴じゃなさそうだし、まあいいかな、とは思うが。
そもそもエルは売り物なのか?
「それでは、ちょっとお財布の中身を見せて下さい」
「え? あ、ああ、うん」
取り出した財布を奪い札の枚数を数えたエルは 「ふむふむ……それじゃ、ちょっと待ってて下さいね!」 と一人玩具コーナーへ走っていってしまった。
ぽかんとして見送る俺と姫乃の横でメルが、「エル姉、成長したんだね」 と訳知り顔で頷いている。
なんとなくエルがやりたい事は分かるが、そう簡単に上手くいくのか?





「こちらのお客様?」
「そうです! 私のことを買いたいと熱望されてるんです! それはもう熱すぎてやけどしそうなくらいです! 私もこの方にもらって欲しいんです!」
エルが連れてきたのは四十歳くらいの店員だった。
この人がエルとメルを世話しているのだろう。
「あー、はい。 このエルさんを是非頂きたいなあと」
熱望した覚えはないのだが、とりあえずエルに話を合わせておいた。
なんだか 「娘さんを僕に下さい!」 なんて挨拶に行ったような気分だ。
将来は一ノ傘家の大黒柱にこの台詞を……流石にまだ早いか。
「いやぁ、しかしですね、こちらの神姫はちょっとワタクシどものほうに仕事を持っておりまして、」
「大丈夫です! 私がいなくなっても、第二第三の私がまだ箱の中で眠っているんです。 私が出来たんですから、その子達もきっとすぐに仕事を覚えます!」
「それとこの神姫が店の情報を記録している可能性がありますので、」
「それも心配いりません! 私がしゃべらなければいいだけですから! それにこの方にマスター登録してもらいますから、どうせ悪いことは出来ません!」
「あーわかったからちょっと静かに。 こちらの神姫はしばらく働いていましたから新品よりも若干傷などがあって――」
「そこです! そこで提案があります!」
ズビシィ! と真犯人を宣言する名探偵のように、エルが店員を指差した。
さっきから俺が口を挟む余地がまったく無い。
「この際ですから、ヂェリーコーナーの神姫を新品にしませんか? この方に中古品の私とメルを買い取ってもらって、フレッシュなアルトレーネ型とアルトアイネス型に任せてみてはどうでしょう! うん、すごくいいアイデアだと思います!」
自分を中古呼ばわりするって、どんだけ捨て身なんだ。
というか、
「待て。 さすがに二人は――」
「もう私とメルに付属してたパーツなんてクレイドルくらいしか残ってませんし、しかも中古ですから、ここはズバッと半額でどうですか?」
ついに自分を値切り始めた。
しかも半額って……もう滅茶苦茶だ。
「弧域くん、この短い間に随分と懐かれたのね」
「あ、いや、これは不可抗力でだな」
「ふぅん、そんなに鼻の下を伸ばしておいて? 胸の大きな神姫は好き?」
「っ!?」
「冗談よ、もう」
冗談の割にはジト目がチクチクと突き刺さる。
だが姫乃は一つ勘違いをしている。
姫乃のそれは緩やかな曲線を描く美そのものだ。
不自然な流れの変化がなく、そこに僅かだが見え隠れする二十年の成長の証に触れることは適わない、そこに存在していることを認めるのは難しく、だがそれを認められないからこそ、その証の存在は一層引き立つこととなる。
そう、外面に一切の歪みを許さないそれは内面にメビウスリングのような矛盾を孕んでいるのだ。
にもかかわらず空間に占める割合を最小限に抑え、すなわち混沌を抑えこむ蓋の役割を果たし、我々にその蓋の中を想像させて飽きさせることがない。
そしてその蓋を開けることができるのは俺一人だということが、さらに想像に拍車を掛ける。
稀少価値、と言ってもいいかもしれない。
ステータス、と表現してもいいかもしれない。
これらの意味を含んだ混沌は加速の中にさらなる加速を生み、しかし時間の下で不変というその強固な外壁は不確かさを内包したまま、法則の中に確かな意味を持って存在しているのだ。
――それはそれとして。
半額になったところで二人を買うとなると結局ひとり分の値段になってしまう。
「だから待てってエル。 半額でも二人は買えないっての。 さっき俺の財布見ただろ」
「え? …………あ」
本気でそのことに思い至らなかったらしい。
「じ、じゃ、じゃあさらに値引きして――」
「お客様、申し訳ありませんが、この神姫はこう言っておりますが、新型の神姫ですので半額というのはちょっと」
「あ、そこは分かってます」
「ですがこちらのアルトレーネ型だけでしたら、部品不完全の中古品となりますし、ここまでお客様に懐いておりますので、幾らかお勉強させて頂きますが、よろしいでしょうか」
「そ、そんな……」
「分かりました。 エルを引き取ります」
「ありがとうございます。 ですが今回はあくまて特例という形になりますので、くれぐれも他の方にはご内密にお願いします。 では少々お時間を頂けますでしょうか。 こちらの神姫はワタクシどもがマスター登録しておりまして、その変更に時間が掛かりますので」
そう言って店員さんがエルに手を伸ばそうとすると、



「メルと、離れ離れになってしまうんですか……」



気落ちする、なんて言葉が生やさしく聞こえるほど、エルは苦しそうにその言葉を呟いた。
店内に繰り返し流れ続けるヨドマルカメラの歌がどこか遠くから聞こえてくるかのようだ。
俺も、姫乃も、店員も、メルの気持ちに引き摺られるように黙り込んだ。
「……同じ場所で一緒に目覚めて、最初は私のことを認めてくれなくって、でもだんだん私のことを認めてくれるようになって、今では私のことをエル姉って呼んでくれて――」
「もういいよ、エル姉はよく頑張ったよ」
それまで黙っていたメルはエルに近づき、そっと腰に手を回した。
俯くエルを支えるように、エルより少しだけ背の低いメルは、姉を抱きしめる。
「ありがとう。 エル姉にそんなに思われてるだけでお腹いっぱいだよ。 でもエル姉はいいマスターに出会えたんだから、いつまでもボクなんかと一緒にいちゃ駄目だよ」
「で、でも」
「それに会いたくなったらいつでも会えるしさ、お兄さんにこっそり連れてきてもらえばいいんだから――だからほら、そんな泣きそうな顔しないでさ、目一杯喜ぼうよ!」
エルの顔は髪の影に隠れて見えない。
メルは本当に心の強い神姫だと思う。
人間ですらここまで強くなれる人はそういない。
エルとメル、二人が一緒に過ごした時間がどんなものだったか、俺には想像がつかない。
俺が二人を引き離すなんてことをしちゃいけないことくらい分かる。
いや、それは嘘にもならない嘘だ。
エルだけを引き取るような真似は、俺にはできない。
そんな強引な真似は、俺にはできない。
俺に力(主に財力)が無いばかりに、この姉妹はこんなにも苦しんでいるんだ。
姫乃はまた泣きそうになるのを必死で堪えている。
姫乃に金を借りるか? いや、それこそ論外だ。
泣き顔を他の誰にも見られないように抱きしめてやりたかったが、俺も姫乃につられて泣いてしまいそうなのを我慢するので精一杯だ。
店員も神妙な顔をして抱き合うエルとメルを見下ろしていた。
エスカレーター横の休憩場所。
この場に相応しくない陰鬱で沈鬱な空気に奇異の目を向ける買い物客と、それを遠巻きに見ている店員。
この救いようのない空気を――――唐突にやって来た間抜けな声が打ち破った。
「あれ、背比とイチカ、一ノ傘さ……どうしたんだ、ここだけ通夜みたいになってるぞ」
そして間抜けな顔をしてこっちに近づいてきた貞方はエルとメルを見て 「……マジでどんな状況だよ、これ」 本気で混乱していた。
「うるせぇ。 てめえ何しにここに来たんだよ」
「ヨドマルにフットサルしに来るバカが何処にいるんだっつーの。 ハナコの新しい武装買いに来た。 お前こそ何しに来たんだ? っつーか何やってんだ? このアルトレーネとアルトアイネス、お前とイチカササ……一ノ傘さんのか?」
「アルトレーネは俺の……になりかけてる。 今ちょっとこの二人の未来を案じてたんだよ」
今は忙しいから帰れ、と手でシッシッと追っ払ったのに、それを無視した貞方はさらにエルとメルを覗き込んだ。
さっきから姫乃の苗字を噛みやがってこのクソ野郎。
「ふうん。 アルトレーネは見たことあったけど、アルトアイネスは生で見るのは初めてだな」
突然の珍入者にジロジロと不躾な目で見られたメルはエルを抱きながら少し身を引いた。
「ネットで見るよりも、現物は可愛いんだな」
「んなっ!?」
「はきゃん!」
ボッ! と顔を赤くしたメルはエルを突き飛ばしてさらに飛びすさった。
「な、な、なななななななななななな!?」
「へえ、照れた顔はもっと可愛いじゃん! 写真取っ……ちゃ駄目だったな、店の中は」
そう言ってメルに手を伸ばしたが、メルはそれをぺしんと弾く。
それでも貞方は手を伸ばして、はたかれ、手を伸ばして、はたかれ、面白がって何度もそうしていた。
回を重ねるごとにはたく力が強くなっているが、可愛いとストレートに言われたのがそんなに嬉しかったのか、メルも満更でもなさそうだ。
ぺしんぺしんぺしんぺしんぺしんぺしんと、貞方がはたかれる小気味よい音がテンポ良く響く。
出会ってまだ一分程度なのに、二人の息はぴったり合っていた。
「決めた。 俺、このアルトアイネス買うわ。 いいよな?」
「ふぇ!?」 とメル。
「ほぇ!?」 とエル。
「はぁ!?」 と俺。
姫乃と店員は唐突すぎる発言に頭がついてこないらしく、首を傾げている。
「そろそろハナコも一人じゃ寂しそうだし、かといって同じケモテックのマオチャオだと頭がアレすぎるだろ。 だからどの神姫にしようか丁度迷ってたんだ」
「いや、お前、金あんの? パーツ買いに来ただけだろ」
「カード使えばいいじゃん」
何言ってんだコイツ、みたいな目で見られた。
クソブルジョワめ、破産して蟹工船で働け。
「で、でも、あなたがメルを買っちゃったら、私とメルは離れ離れに……」
「ふうん、メルっていうんだ。 いい名前じゃん。 でもそれなら俺と背比って大学も学科も一緒だし、君とメルはほぼ毎日会えるぜ」
「そ、そうなのですか……!」
エルの顔に生気が戻った。
姉の了承は得られたが、さて、妹の意思はどうだろうか。
「ボ、ボクはまだ認めてないよ! だってそんな、いきなり出てきて、その…………か、可愛い、だなんて、そんな」
もじもじと、まるで武士に襲われた後のエルのようにしおらしくなってしまった。
どうでもいいところで似ているな、この姉妹は。
「そうだぞ、コイツは危ないぞ。 なんてったって自分の神姫に “ショウくん” って呼ばせるくらいだからな」
「てめっ、言わなくてもいいことを!」
「ふうん、ショウくんっていうんだ、ふうん……」
ショウくんショウくんと唱えながらメルはちらちらとショウくんのほうへ目をやっていた。
それはどう見ても、心を射抜かれた女の子の顔だった。
メル、あっさりと陥落。
こんなことなら最初から貞方を呼び出してレミリアとフランドールを買い取らせればよかった、なんて馬鹿馬鹿しい考えを頭から放り投げた。










「大変な一日だったわねぇ。 まだ昼間だけど」
しみじみと姫乃はそう呟いて、スカートの上で大人しくしているニーキの頭を撫でた。
休日の大学構内にはちらほらと人影が見えるだけで、図書館前の一本桜を俺達だけで占有することができた。
普段は益荒男共が騒がしい構内も、こうして静かに過ごせるのなら良い場所だと思えてくる。
天気は朝と変わらず絶好の花見日和。
強くもなく弱くもない風が、桜の花を乗せて穏やかに流れている。
一本桜を一周するベンチには、俺と、姫乃と、不愉快にも貞方まで座っている。
そしてニーキと、ハナコ、エル、メルは初めての花見を満喫していた。
エルとメルがニーキと初めて対面した時はレミリアと同じ外見にしんみりとしていたが、その低く抑えられた声を聞いてすぐに別人と認識し、二人で質問攻めにしていた。
真面目なハナコは突然できた妹にも丁寧にお辞儀をして、メルがハナコのことを  “ハナ姉” と呼ぶのにそう時間はかからなかった。
「あそこまで動きにブレが無い神姫は珍しいよ。 温和そうだけど、ハナ姉は只者じゃないね」
だそうだ。
それにしても、今日は姫乃と二人っきりで花見をするつもりだったのだが、まさかこんな人数になろうとは。
「ふふっ、残念そうな顔をしてますね、マスター?」
いつの間にか俺の膝の上に乗っていたエルが、豊かな金髪を風に靡かせ、俺を見上げていた。
「……まさかエルも俺の心が読めたりするのか?」
「なんのことです?」
「いや――ま、たまにはいいんじゃないか、こういうのも」
「そうですよ。 私達は長い長い付き合いになるんですから」
花が咲くように、桜に負けないほど眩しく、エルは俺に微笑んでくれた。



「これからもずっと大切にしてくださいね、マスター」













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