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キズナのキセキ

ACT0-2 ひどい顔



「神姫センターに行きましょう!」
「前から訊いてるけど、何しに行くのよ」
「前から言ってますが、もちろん、バトルをしに、です!」
「前から言ってるけど、イヤ」
「これも前から言ってますが、なぜマスターは神姫センターに行くのを嫌がるんですかっ」

 ミスティは菜々子に、まなじりをつり上げて見せた。
 菜々子はため息をつく。
 ここのところ、同じ会話ばかりだった。
 ミスティはどうしても神姫センターに行って、バトルロンドで対戦がしたいようだ。
 それは武装神姫のAIにプログラムされた、闘争本能みたいなもの、なのだろうか。
 一方、菜々子はバトルに興味がなかった。
 頼子さんは対戦仲間に引きずり込みたいと思っているのだろうが、あいにく菜々子にその気はない。
 菜々子はミスティが気に入り始めていた。小さな姿は可愛らしいし、性格も素直でいい子だ。
 でも、だからこそ、なぜそんなに相手と戦ったり傷つけあったりする野蛮なことをしたがるのか、分からない。

「この間調べたら、最寄りの神姫センターでも結構遠いじゃない」

 県下の神姫センターまでは、最寄り駅から電車で二〇分ほど。
 中学生の菜々子にしてみれば、少ないお小遣いを電車賃に変えてまで行くのはきつい。
 これがいつもの断り文句、だったのだが。

「じゃあ、近所のゲームセンターに行きましょう」
「……ゲームセンター?」

 神姫のバトルは神姫センターだけではなく、ゲームセンターやホビーショップでもできるらしい。
 そう言えば、最寄りのF駅前のゲームセンターで、武装神姫のポスターを見た気がする。
 もっとも、菜々子がゲームセンターに入るのは、友人とプリクラを撮る時くらいだろうか。
 ゲームセンターに一人で行くのは、かなり気が引ける。
 しかし結局、ミスティの熱意に押され、渋々ゲームセンターに足を運ぶことになった。



 F駅前のゲームセンター『ポーラスター』の二階に、武装神姫コーナーはあった。
 フロアの半分以上をバトルロンドの筐体が占拠している。プレイヤーたちは大きな筐体を挟んで、バトルに熱中している。
 天井から吊された大型ディスプレイには、現在進行中の激しいバトルが映し出されていた。
 他の客たちは、筐体を取り巻き、あるいはディスプレイを見上げて、熱心に観戦している。しのぎを削る好勝負に、歓声が上がった。

「わあ! 対戦、すっごく盛り上がってますよ、マスター!」

 はしゃぐミスティとは逆に、菜々子は気後れしてしまっていた。
 なんだか場違いな場所に来たような気がする。
 武装神姫の対戦ゲームがこんなに盛り上がっているものとは知らなかった。
 しかも、この場にいる人は皆、神姫のオーナーなのだ。こんなにたくさんのオーナーと神姫が集まっているのも驚きだった。
 こんな場所で、まったく初心者の菜々子とミスティが、見ず知らずの相手とバトルする。
 まず間違いなく、無様に負ける。
 そんな恥ずかしいことできるわけないじゃない。
 菜々子は早くも回れ右して帰りたくなっていた。

 知り合いの神姫マスターでもいれば、練習と言って対戦することも出来ただろう。
 あるいは、神姫センターならば、対戦者のレベルに合わせた対戦相手のマッチングなども行ってくれるサービスもあるのだろう。
 しかし、ここはゲームセンターで、菜々子に知り合いのマスターもいなければ、マッチングサービスもしてくれない。
 レベルや相性も自分で判断して、対戦を申し込まなくてはならない。
 初心者の菜々子に、そこまでの度胸があるはずもなかった。

 菜々子は大型ディスプレイを見上げる。
 今行われているバトルの一つが、演出重視のカメラアングルで、実況されている。
 高速で飛び交う銃弾に、一瞬の隙を突いたクロスレンジでの攻防。
 今繰り広げられている激しいバトルが、自分とミスティにできるなどとは、どうしても思えなかった。
 菜々子はため息をつく。
 少しは気が晴れるかと思ってきてみたけれど、憂鬱になるばかりではないか。
 胸ポケットにいるミスティを見ると、大型ディスプレイの対戦に目を輝かせていた。
 めちゃくちゃ嬉しそう。
 そんな顔をされてしまっては、帰るとも言い出せないではないか。
 菜々子は壁の花になり、所在なげに対戦の光景を見つめていた。

 ディスプレイの中で戦っているのは、白い天使型と、花をモチーフにしたという神姫だった。
 二人とも空中を舞うように飛び、華麗な空中戦を繰り広げている。
 蒼い空を背景に、二機の機動によって引かれる飛行機雲をきらめくレーザーや爆炎が彩り、まるで万華鏡を見ているようだ。
 やがて、その一戦も終わりを告げる。
 天使型の大型ビームキヤノンが必殺の一撃を放ったのだ。
 絶妙のタイミングで放たれたビームは、見事花を散らした。

 バトルが終わり、マスターが筐体の前から立ち上がった。
 先ほど勝利した、天使型のマスターの姿に、菜々子は目を見張る。
 高校生だろうか。
 ブレザーを着た、肩までかかるウェーブ髪が印象的な、女性だった。

「あんな人が、武装神姫なんてやるんだ……」

 菜々子には意外だった。
 バトルなんて、男の人が好んでやるものだと思っていたからだ。
 しかも、天使型のマスターは、思わず見とれてしまいそうなほどの美少女だった。
 常連のプレイヤーや、彼女のファンらしい人たちに取り囲まれている。
 彼ら一人一人に微笑みかける彼女を、菜々子は見るともなしに見ていた。
 すると不意に。
 その視線に気が付いたかのように、彼女がこちらを向いた。
 視線が合う。
 菜々子はあわてて顔を伏せた。
 自分の視線は不躾すぎただろうか。
 下を向く菜々子に、人の気配が近づいてくるのが感じられた。
 目の前で、誰かが立ち止まった。
 菜々子の視界に、その人物が履いているローファーが映る。
 声がした。

「ひどい顔ね」

 さすがにカチンと来て、顔を跳ね上げる。
 初対面の相手に対する、第一声がそれか。
 目の前に、思わず見とれてしまいそうな美貌がある。先ほど勝利した神姫のマスターだった。
 思わずにらみつけてしまったその女性は、しかし、言葉とは裏腹に邪気のない顔で、

「そんな表情じゃ、かわいい顔が台無し。ほら、笑って」

 そう言って、にっこりと笑った。
 女の菜々子でさえ、ドキリとするほど素敵な笑顔。
 怒りが霧散するのも一瞬。菜々子は呆けた顔をするのが精一杯という有様だ。
 その女性は、軽く一つ吐息をつくと、顔に微笑みを絶やさずに言った。

「あなた、見かけない顔だけど、ここは初めて?」
「え……はい」
「気をつけなさい。あっちの男ども、あなたに声をかけようと、さっきから狙ってるんだから」

 視線を男性たちのグループに投げた後、彼女はいたずらっぽくウィンクした。
 その表情がまた、やたらと様になる。
 菜々子は内心、びっくりしたり、どきどきしたりしながら、彼女を見つめるほかない。

「見たところ、初心者みたいね。バトルしたことはある?」
「……ありません」
「バトルしに来たの?」
「あ、ええと……」

 一瞬口ごもった菜々子の隙をついて、

「はい、そうです!」

 ミスティが元気よく返事をしてしまっていた。

「ちょ、ミスティ!」
「なんだ、神姫を連れてるんじゃない」
「その、これはちが……」

 違っていない。
 イヤイヤではあったが、ミスティのためにバトルしに来たはずだ。
 言うべき言葉が見つからない菜々子の手が取られた。
 目の前の彼女だった。

「じゃあ、わたしが教えてあげる」
「ええと……わあ!」

 菜々子は強引に引っ張られた
 なんという女性だろう。
 菜々子の頑なな心に、無理矢理割り込んでくる。でもそれが全然嫌じゃない。ただ、展開の早さに戸惑っているだけ。

「わたし、桐島あおい。あなたは?」
「……久住菜々子、です」
「いい名前ね」

 彼女が笑うたび、彼女のペースにどんどん引き込まれていってしまう。
 戸惑いながらも、つながれた手を菜々子は握り返していた。



 バトルロンドの筐体のまわりは、喧噪に包まれている。
 そんな中、先ほどあおいと対戦していた花モチーフのジルダリア型のマスターがこちらに気付いて、顔を上げた。

「おお? また、あおいお姉さまの新人講習の始まりか?」
「うるさいわね」

 苦笑しながら、あおいは菜々子を一番端の筐体まで連れて行く。
 後で聞いた話だが、この桐島あおいという人物はかなりの実力の持ち主なのだが、『ポーラスター』にやってくるバトルロンド初心者にいつも世話を焼いているのだそうだ。

「バトルのプレイヤーを増やすのも、ベテランの仕事でしょ」

 というのが当人の弁。
 あまりにも世話を焼くので、常連たちからは「あおいお姉さまの新人講習会」呼ばれ、からかわれていた。
 しかし、当のあおいは気にすることもなく、むしろそう言われて喜んでいる節さえあった。

 菜々子にしてみれば、これは渡りに船だった。
 あおいの行動に少し驚いたが、右も左も分からない自分に、向こうから教えてくれるのなら、こんなに都合のいいことはなかった。
 初心者相手のお試しプレイなら手加減もしてもらえるだろうし、ミスティもちょこっとバトルの真似事さえできれば、しばらくは満足してくれるだろう。
 おっかなびっくり筐体に座り、ふむふむとバトルのやり方を教わって、いよいよ菜々子とミスティの初めてのバトルが始まった。

 この時、菜々子は大事なことを失念していた。
 自分がとても負けず嫌いな性格だということを。



「しまった……」

 今日も菜々子は、『ポーラスター』への道を歩きながら、自己嫌悪に陥っている。
 武装神姫によるバーチャルバトルゲーム……バトルロンドに、菜々子はすっかりハマってしまっていた。
 実際にプレイしてみると、今まで触れたどんなゲームよりも奥が深くて面白い。
 対戦ではそう簡単に勝てないことも、菜々子の負けん気に火を付けた。
 今は友人達とも距離を置いているから、放課後にさしたる用事もなく、自らの闘争心の赴くまま、毎日のようにゲームセンターに足を運んでしまうのだった。
 もちろん、ミスティは毎日ご機嫌である。

 『ポーラスター』に通うのには、もう一つ理由がある。
 桐島あおいに会うためだった。

「あら、今日も来たわね、久住ちゃん」
「……はい」

 ふふん、と勝ち誇るように笑うあおいに、菜々子は少々むかつきながらも、返す言葉がない。
 初めてバトルした日、もう一回、もう一回と何度も対戦を申し込んだのは、むしろ菜々子の方だった。
 生来の負けず嫌いがこんなところで顔を出してしまった。
 あまりにもムキになった様子がおかしかったのか、

「あらー、ここまで坂道を転げ落ちるようにバトルにハマるのも、ちょっと珍しいわー」

 といいながら、あおいは爆笑していた。
 それもまた悔しい。
 自分から誘っておいて、何という言いぐさか。
 いつかこの人に吠え面かかせてやる、と菜々子は密かに誓っていた。
 だけど、桐島あおいが嫌いなわけではなく、むしろとても惹かれていた。
 端正な顔に、いつも様々な表情を宿し、生き生きとしている。
 明るく、社交的で、仲間達からは好かれ、慕われている。
 こんな女性になりたいなぁ、と漠然と思う菜々子だった。

 そんな憧れの女性は、なぜか、菜々子の面倒をよく見てくれる。
 あおいを「お姉さま」などと呼んで慕う女子中高生は一人や二人ではなかった。
 しかし、なぜかあおいは、新参者の菜々子が店に来ると、真っ先に声をかけてくれて、菜々子の練習相手を買って出るのだった。
 そんな彼女の行動を不思議に思う。
 なぜ、自分なのか?
 まだ出会って間もなく、いまだ悲しみに心捕らわれて、微笑むことすら出来ていない無愛想な女なのに。
 それでもあおいは、

「さ、今日もやろっか」

 と鮮やかに微笑んで、菜々子の相手をしてくれるのだった。



 それから数日後のある日、『ポーラスター』からの帰り道。

「……何か悩んでる?」
「……え?」
「だって、久住ちゃん。あなた、全然笑わないじゃない?」
「……」
「久住ちゃんの笑顔は、絶対かわいいと思うんだけどなあ」

 いつもは門限を気にして、あおいよりも早く帰る菜々子だったが、今日は菜々子に合わせて、あおいが一緒にゲームセンターを出た。
 二人並んで歩く帰り道。
 ……そういえば、桐島さんってどこに住んでるんだろう?
 自分と同じ方向なのかな、などと考えてるときに、あおいから声をかけられたのだった。
 二人は近くの公園に足を向けた。
 噴水を望むベンチに並んで腰掛ける。
 もう夕陽はビルの合間に落ちていき、空はオレンジ色から夕闇へと変わりつつあった。

「なにかあった?」
「……」
「まあ、言いたくなかったら言わなくてもいいけど」

 口調はさりげなかったが、瞳の色は限りなく優しかった。
 この人は、どうしてわたしのことを、こんなに気にかけてくれるんだろう。
 不可解に思いながらも、心の中では少し嬉しく思ってしまっている。
 心惹かれる憧れの人が、自分を気にしてくれているのだ。
 だが、彼女の前でも、いまだ笑うことが出来ないでいる。
 自分の心の内を話せば、彼女は理解してくれるだろうか。
 わたしが笑顔を取り戻すきっかけになってくれるだろうか。
 期待と不安が心に渦巻く。が、しかし。

「……ええと、その……実は……」

 いつの間にかしゃべり出したことに、菜々子自身が驚いた。
 意識しないうちに、桐島あおいを信頼してしまっていたのだった。
 あおいは、話し始めた菜々子に微笑みかけながらも、真剣な様子で耳を傾けていた。




 菜々子の話を聞き終えたあおいは、空に浮かぶ星を見つめ、言った。

「ふーん、そう」

 それだけか。
 自分のつらい胸の内を吐露したにもかかわらず、気のない一言で片付けられるなんて。
 話さなければよかった、と菜々子は一瞬後悔する。
 が、次の瞬間、菜々子はあおいに肩を抱き寄せられた。
 そして、耳元で聞こえた一言。

「よくがんばったね」

 その一言は、菜々子のかたくなな心を、一瞬でほどいてしまった。
 菜々子が欲しかったのは、これだった。
 同情でも気遣いでもなく、ただ、ただ、わたしが悲しみや不安や辛さに耐えていることを分かって欲しかった。
 分かっていると言って欲しかったのだ。

 菜々子のほどけた心から、ため込んでいた想いがどっと溢れてきた。
 まるで洪水のように、菜々子の心を押し流す。
 両親がもういないという実感。もう最愛の家族に会えないという事実。
 祖母の気遣い。それは彼女自身の哀しみの裏返し。
 友人たちの同情。それは心を許した友への精一杯の優しさ。
 本当はみんな分かっていた。
 心から菜々子を心配して気遣ってくれているということは。
 それに素直に応えられなかったのは……自分に降りかかった不幸をいいわけにした、ただの甘えだった。

「ごめんなさい……」

 菜々子の唇から、自然に言葉が転げ落ちてくる。
 それは、いままで言いたかった言葉。言わなくてはならなかった言葉。

「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……」

 菜々子の大きな瞳から、涙がこぼれ落ちていく。
 優しくしてくれた人たちに謝りながら、泣いた。
 やっと実感した胸を突き上げる悲しさと寂しさに、泣いた。
 あおいの肩にすがりつき、菜々子は声を上げて泣きじゃくった。
 やっと、心の底から泣くことを許された気がした。
 桐島あおいは優しい表情で、号泣する菜々子の肩をそっと抱き続けていてくれた。



「どうして……」
「うん?」
「どうして、わたしに声をかけてくれたんですか?」

 あおいが声をかけてくれなければ、菜々子の心はまだ闇をさまよっていただろう。
 あおいはちょっと上を向いて、うーん、と考えると、また菜々子の方を向き直って、言った。

「女の勘」
「え?」
「ゲーセンで、あなたと目が合った時、ビビッ!ときたのよねぇ……。
 この子と仲良くなっておかなくちゃダメって思ったの。仲良くなっておけば、きっと素敵なことが起こるってね」

 そう言って、いたずらっぽくウィンク。
 相変わらず様になる。
 限りない優しさと、太陽のような明るさと。
 桐島あおいは、どこか祖母に似ている気がする。

「これからは、菜々子って呼ぶわ。いい?」
「はい、桐島さん」
「あおい」
「え?」
「あなたも下の名前で呼ばなくちゃ、不公平でしょ」
「……はい、あおいお姉さま」

 あおいはあからさまに嫌そうな顔をした。

「あなたも、そう呼ぶわけ?」
「それが一番しっくりくるので」

 それはささやかな反撃。
 だけど、菜々子はこの呼び方がいいと思っていた。
 お姉ちゃん、というほど馴れ馴れしくなく、憧れと尊敬を持った距離感のある呼び方。
 親愛の情を込めて、その名を呼ぶ。

「お姉さまと呼ばれるのは嫌ですか、あおいお姉さま?」

 あおいはその美貌を、心底嫌そうに歪めている。
 後で聞いたところ、常連さんが「お姉さまキャラだから」という単純な理由で、あおいをお姉さまと呼び始めたらしい。
 それがいつの間にか定着してしまったのだ。本人は自分がお姉さまキャラだなどとは微塵も思っていないから、迷惑この上ない、とのことだった。
 それでも、眉をひそめながらも、あおいは頷いた。

「いいわ、もう好きにして」

 他の人がそう呼ぶの禁止にしようかな、なんて言って、あおいは笑った。
 つられて、菜々子も笑った。
 もう真っ暗になった夜空に、二人の笑い声が響く。
 両親が亡くなって以来はじめて、菜々子は心からの笑うことができたのだった。



 こうして、桐島あおいは、菜々子にとって、特別な人になった。
 憧れの女性であり、武装神姫の師匠であり、目標であり、ライバルであり、もっとも心許せる友人であり、一番の理解者で……本当の姉のように思っている。

 今も。









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