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キズナのキセキ

ACT1ー1 不機嫌の理由



「デュアルオーダー?」

 伏せていた顔を上げ、大城大介の言葉を繰り返す。
 見れば、大城は雑誌のページを広げてこちらに見せながら、愛想笑いで頷いた。

「お前なら、真似できるんじゃないかと思ってさ」

 またバカなことを言い出した。
 俺はため息をつく。

「アホか。そんなものが簡単に真似できるなら、苦労はない」

 雑誌は「バトルロンド・ダイジェスト」。
 最新号の特集は、最近注目の神姫たちである。
 その最後の方、一人の神姫マスターが紹介されていた。
 バトルネームを『尊(みこと)』というそのマスターは、素性はわからないが、今密かに注目を集めるマスターだそうだ。
 彼の神姫は、フブキ型とイーダ型のプロトタイプの二体。
 フブキの方は『盗賊姫』の異名を取り、対戦相手の武器を奪いながら戦うスタイル。
 イーダ型は異名こそないが、パワーファイトを得意としながらも、壁走りまでするほどの機動力を持っているらしい。

 バトルで二体の神姫を同時に扱う……そうした特殊技術を『デュアルオーダー』、それを使うマスターを『双姫主』という。
 同系統の神姫であれば、わからないでもない。
 だが、この記事にあるマスターのように、全く性質の異なる二人の神姫を同時に戦わせることができるなんて……まず記事の信憑性を疑うべきだ。

 そもそも、デュアルオーダー自体を、俺は都市伝説のたぐいだと思っている。
 神姫のマスターならば分かると思うが、バトル中は神姫一人扱うのでさえ、手一杯になってしまう。
 刻々と変化する状況の中、マスターは相手の作戦を探り、現状を把握、両神姫の状態確認、作戦立案に神姫への指示、とやることは山ほどある。
 それを別々の位置で戦う二人の神姫に同時に行うという。普通のマスターであれば、とても出来ない芸当である。
 双姫主になるには、常人離れした情報分析力、空間把握能力、瞬間的な判断力、そして卓越した指揮能力が必要だ。
 そういった前提を考慮して、

「俺には無理だ」

 結論を大城に告げた。
 それでもなお、大城は不満な顔をする。

「でもよ、お前がバトル中に、ティアに出す指示は、俺たちよりずっと細かいぜ?
 ティアに集中している分を半分くらい別の神姫に振り分けて指示してやればできそうなもんじゃんか」

 俺はため息を付いた。
 そんなに単純なものではないのだが。
 だが、俺の言葉に納得がいかないようで、大城は是が非でもデュアルオーダーを俺にやらせたいようだ。
 大城の奴は意外に頑固である。

「仕方のない奴だな……だったら、試しに俺が神姫二人同時にバトルさせたらどうなるか……やってみるか?」
「そうこなくちゃな!」
「ただし、ステージとか、バトルの条件は俺に従ってもらう。いいな?」
「いいとも」



 見慣れた廃墟の街並みの中、わたしは全速力で駆け抜けている。
 背後から、フローティング・エンジンの音が聞こえてくる。
 虎実さんの『ファスト・オーガ』カスタムタイプが追い縋ってきている。
 わたしは振り向き、スピードを落とさないまま、背中向きに走って、虎実さんと対峙する。
 わたしの脚には、モーターで駆動するローラーブレードのようなものが取り付けられている。
 ランドスピナー。
 マスターが作ってくれた、わたしだけの装備。
 装着されたレッグパーツは、わたしの身体と直接接続されて、思いのままに、本当に身体の一部として使うことができる。
 このランドスピナーを使いこなすのが、わたしの戦い方。
 縦横無尽な動きで相手を攪乱したり、攻撃を回避したりして、有利に戦いを進めていく。
 限られたステージでしか戦えないし、空を飛ぶことも、大きな武器を持つこともできないけれど。
 わたしはこの装備がとても気に入っていた。
 このレッグパーツを使いこなすのに、膨大な時間を訓練に費やした。
 だから、後ろ向きに全力で走りながら戦う、なんてこともできるのだった。
 手にしたサブマシンガンで、虎実さんを撃つ。
 大きなエアバイクを軽やかに操り、弾丸の連なりをひらりとかわす。
 虎実さんは、また腕を上げたみたい。戦う度に無駄な動作が削ぎ落とされているのが分かる。
 今のは牽制。当たらなくてもいい。

 それにしても、このバトルは奇妙だった。
 八重樫美緒さんの神姫・パティさんとわたしが組んで、大城さんの神姫・虎実さんと対戦するツー・オン・ワン。
 しかも、わたしのマスターがパティさんとわたしの指揮を担当する。
 武装神姫のバトルでは、マスター一人が神姫一人を指揮するのが普通だ。
 そして、マスターから事前に言われたのは、マスターの指示は絶対遵守、指示方法は事前に打ち合わせ、攻撃については神姫のわたしたちが各自判断、ということ。
 たとえば今、

『ティア、直進、二○・四八。パティ、左、二二・五二』

 暗号のように短縮された指示が、耳に聞こえてきている。
 これはただ、移動方向と位置を示すだけで、その間の攻防については、わたしたちのアドリブに任されている。
 いつものマスターの指揮方法とは違う。
 なぜマスターはこんな変則的なバトルをしているのだろう?
 さっきの大城さんの話……デュアルオーダーに影響されたのかしら。
 そこまで考えて、わたしは一度、思考を切る。
 今はバトル中。
 ファスト・オーガに据えられたミサイルポッドが火を噴いた。
 勝手知ったるストリート。
 わたしはランドスピナーを細かく動かし、連続でターンしながら爆風を避けた。

『ティア、二○・四二、T字・右。パティ、二二・四二で左構え』

 もうすぐT字路。
 まだ視界は爆煙に隠れている。
 わたしはステップを踏んで前を向き、正面に向かって加速する。
 この瞬間に、虎実さんと距離を取る。
 マスターはここで何か仕掛けるはず。そう思ったので、距離を作ってみた。
 エアバイクが、黒い煙を蹴散らして、飛び出てきた。
 一気に加速してくる気配。それでもまだ、先ほどよりは距離がある。
 行き止まりの壁が迫る。
 わたしは高速ターンでT字路を右に曲がった。
 その時。

『ティア! ウォールライドで逆に走れ! パティ、左構えで狙え!』

 マスターの鋭い指示は最小限。
 高速ターンから立ち直ったわたしは、左の壁を一気に駆け上がり、そこでくるりと回って、今度はT字路の反対側へと壁の上を走った。
 壁走りはわたしの得意技。
 わたしが壁を走り出したそのとき、虎実さんがT字路にハングオンで突入した。

「もらったああぁぁ! ……って、えぇ?」

 右に曲がって、地上にいるであろうわたしに狙いを付けた、のだと思う。
 でも、そこにわたしはおらず、かわりに、少し先の上空から飛び出してきて、狙いを定めるパティさんを見つけてしまった。
 虎実さんはあわてて、振り向いた。
 わたしと、ガンサイト越しに目が合う。

「ちょ、ちょっとタンマ……」
『撃て!』

 虎実さんの制止の言葉より早く、マスターの短い指示が来た。
 わたしとパティさんは、同時に引き金を絞る。

「うわわわわわーーーーーっ!?」

 素っ頓狂な声とともに、虎実さんは敗北した。



「すごおおぉい……」

 感嘆の声を上げたのは、パティのマスターである八重樫さん。
 彼女の仲間三人とも、並んで今のバトルを観戦していた。
 みんな、俺を賞賛してくれているが……。

「もう二度とやらん」

 そう呟いて、俺は椅子の背もたれに全体重を預ける。
 えらく疲れた。

「でも、完璧だったじゃないですか、ティアとパティのコンビネーション!
 二人とも別々に動いているのに、最後はT字路で位置を入れ替えての挟撃なんて」

 そう言ったのは、俺の一番弟子を自称する蓼科涼子さん。
 俺の弟子を自称するなら、もっと注意を払って観戦するべきだと思うが。

「あれは詰め将棋だ」
「詰め将棋?」
「そう。最初から決めていた動きを指示しただけさ」

 俺は頷く。
 今のバトルで、臨機応変な対応なんて一つもなかった。
 ティアを囮にして虎実の相手を一人に集中させる。
 その間にパティは見えないところから、具体的には、少し離れたビルの上すれすれを滑空しながら、二人に併走する。
 二人がT字路に差し掛かったところで、パティは空中で待ちかまえる。
 ティアは反転し、壁走りで虎実の後ろを取る。
 虎実からは、T字路を曲がったところで、ティアとパティが入れ替わったように見えただろう。
 虎実が慌てたその一瞬で勝負を決める。

「こんな作戦が当たったのも、俺が虎実の性格や戦い方をよく知ってたからだし、ティアとパティも俺の言うことを忠実に実行してくれたからだ。
 それに、二対一だったことも大きい」

 それでも、二人の動きを追うのにえらく神経を使ったし、タイミングを合わせるのも大変だった。
 これが通常のバトルで作戦なし、敵が複数だったら、間違いなく俺の守備範囲を超える。
 想像するまでもなく、俺には無理な芸当だった。

「双姫主ならば、二カ所で起きているバトルを同時に、リアルタイムに把握できるはずだ。
 それは単純に神姫二人の動きを見ていればいいわけじゃない。おそらくは二人以上になる相手神姫の行動も把握し続けなくてはならない。
 それも、まったく未知の神姫を相手にして、だ。
 それで最低限。それでも、俺の詰め将棋よりも遙かに高度な技術だ。
 そこにバトルにまつわる要素が絡んでくるわけだから……デュアルオーダーがどれだけ特殊な能力か、わかるだろ」

 双姫主には、バトルがどんな風に見えているのだろうか。
 武装神姫のマスターは誰でも、バトルをある程度俯瞰的な視点で見ている。
 それで、周囲の状況を把握し、神姫に指示を出しているのだ。
 双姫主と呼ばれるマスターは、それよりもさらに上の位置で俯瞰してバトルを見ているのではないか。
 あるいは、二カ所で起きているバトルを同時に、ほかのマスターと同様の視点で見ているか……。
 もしかするとその両方を行っているかもしれない。
 どちらにしろ、離れ業だ。
 俺はゆっくりと首を振った。

「でもまあ、この尊ってマスターは興味を引かれるな」

 神姫を二人操れるだけで、話題に上るほどの実力を得ることはできない。
 双姫主であってなお、頭脳的なバトルを行っているということだ。
 特に『盗賊姫』の異名を取るフブキ型は面白い。相手の武器を奪って戦うなんて、口で言うのは簡単だが、相当な技術が必要だし、相手を翻弄する戦術も必要だ。
 尊というマスターが、ただデュアルオーダーに頼っているだけでないことが分かる。
 もし機会があったら、その『盗賊姫』と対戦してみたいものだ。
 大城が、なぜかほっと息をつくように言った。

「相手が双姫主でも、一対一なら勝ち目があるんじゃねーか?」
「どうでしょう……二人に振り分けていた指揮能力を、一人のバトルに注ぐなら、もっと緻密なバトルを展開できるのかも」
「そうだ、師匠、今度はわたしの涼姫とティアのタッグを見せてくださいよ」
「あたしは、デュアルオーダーを相手してみたいな」
「あ、俺も」

 チームの仲間たちは俺の囲んで談笑している。
 なにやら安堵したような空気。
 ああ、なんだ。
 つまり……俺は気を遣われていた、と言うことか。



 仲間たちが俺に気を遣ってくれるのには理由がある。
 俺はここ最近、あまり機嫌がよくなかった。
 それが態度に出てしまっているのだろう。
 反省しなくてはならない。
 不機嫌の理由は二つあった。

 一つは、俺の家庭の問題だ。
 海外赴任していた父親が、久しぶりに帰ってくる。
 近々会って話がしたい、と連絡があった。
 それだけでも気が滅入るというのに、よりによって、その話というのが自分の再婚話だというのだから、バカにしている。
 母さんの死に目にも来なかった奴が、別の女性と結婚だと?
 普段の俺を知っている人が聞いたら目をむいて驚くだろう、と自分でも思うほどの勢いで、電話先の男に罵詈雑言を浴びせかけた。
 しかしそれでも、奴は親権を振りかざし、無理矢理顔を合わせることを約束させた。
 胸くそ悪い。
 だが、学費や生活費を出してくれているのは奴だ。
 子供を放置している親の責任として、せめて金くらい出すのは当たり前だと思っているが、ここで会合を拒否して仕送りをストップされるのもつまらない。
 俺は渋々頷いた。
 俺は小さい頃から、自分の父親が大嫌いだった。

 もう一つは、久住菜々子さんに会っていないことだった。
 菜々子さんは、俺の武装神姫チームでも一番の凄腕で、『エトランゼ』の異名を取る有名プレイヤーだ。
 明るくて気さくな性格の美人で、誰もが彼女を好きだし、プレイヤーとして尊敬している。
 そんな菜々子さんは、なぜか俺と付き合っている。
 彼女の反則な笑顔を見るとドギマギするが、それ以上に心が満たされる。
 その笑顔を、もう三週間ほど見ていない。
 最後に会ったのは、年明けすぐの初詣の時だっただろうか。
 メールや電話で連絡を取ってはいる。だが、ゲームセンターに来ることはなく、あちこち飛び回っているようだった。
 詳しくは知らないが、彼女は彼女自身の用事に振り回されているらしい。
 こういう気分が悪いときには、菜々子さんの笑顔と前向きな言葉が欲しいと思うのだが、致し方がない。

 そんなわけで、俺は不機嫌な様子が態度にでるほどに、心がささくれ立っていたのだった。



 マスターには申し訳ないけれど、わたしは幸せを噛みしめていた。
 ここのところ、大した事件もなく、わたしたちの周辺は平穏だった。
 マスターとの訓練はもちろん、一緒にいる時間も多くなっていて、わたしは嬉しかった。
 ゲームセンターに行けば、チームのみんなや、常連さんたちが、笑顔で話しかけてきてくれる。
 バトルや練習の相手も事欠かなかったし、バトルしないときには神姫同士で集まって話に花を咲かせたりする。
 もう誰も、わたしたちを、マスターを傷つけようとする人はいない。
 そんな当たり前の時間が、わたしにとってはなにより嬉しく、大切だった。
 この場に、親友のミスティがいないのが残念だったけれど。
 今、彼女はマスターの菜々子さんと一緒に、あちらこちらのゲームセンターを回っているみたいだった。
 『エトランゼ』の異名通りに。



 今思えば、このときにはもう、取り返しのつかないところまで事件は進んでいた。
 俺は気がつくのが遅かった。遅すぎたのだ。
 その夜、携帯端末にかかってきた一本の電話で、俺はその事件を知ることになる。
 かけてきたのは、久住菜々子さん。
 表示を確認して、少し心が浮き立つ。久々に声が聞ける。
 通話ボタンを押す。

「もしもし」
『……』

 無言。
 俺は一度、耳から携帯端末を離し、着信の表示を確認する。
 確かに、菜々子さん……だよな。
 もう一度端末を耳に付ける。
 聞こえてきたのは、低くくぐもった、叩くようなノイズ。
 風の音。
 外か。

「菜々子さん、どうかした? 今どこにいる?」

 俺の問いかけに、電話先は沈黙を守ったままだった。
 俺は待った。
 辛抱強く、待った。
 明らかな異変に心がざわめき、嫌な予感がじわじわと浮き立つ気持ちを浸食していく。
 それでも彼女の返答を待った。
 やがて、聞こえてきた、一言。

『……負け……ちゃった……』

 消え入りそうな、かすれた、泣き声。
 その一言が、この物語の始まりだった。

 言い忘れていた。
 俺の名前は、遠野貴樹。
 一介の武装神姫のマスターだ。
 この物語の、いわば、狂言回しである。



 このときの菜々子さんの言葉の意味を、わたしは理解していなかった。
 負けた、という一言に、どんな意味が込められていたのか。
 ミスティに何が起きたのか。
 この後、マスターとわたしは、菜々子さんを取り巻く事件の渦に巻き込まれていく。
 そのことさえ、この時のわたしには知る由もなかった。

 わたしの名前はティア。
 遠野貴樹の武装神姫。
 この物語の、もう一人の狂言回しだ。



 いや、彼女の一言は始まりではない。
 正確には、もうずっと前から物語は続いていたのだ。
 始まりは五年前。
 狂言回しである俺たちこそ、後から付け足された出演者だったのかも知れない。

 どこまで正確に語ることが出来るか分からないが、とりあえず俺なりに語っていくこととしよう。
 『エトランゼ』と呼ばれた少女と、ミスティと名付けられた神姫が紡いだ、絆の物語を。










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