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ウサギのナミダ・番外編

黒兎と塔の騎士

完結編 



 なんという破壊力。
 サイフォスの軽量装備を身につけているとは言え、神姫の身体だけでこれほどの破壊力を生み出せるものなのか。
 わたしは激しい戦慄に襲われる。
 あの、地面を揺らす踏み込みから繰り出される攻撃はすべて、あれほどの攻撃力を持っていると見ていいだろう。
 ランティスさんの攻撃をすべてかわしきれるか……。
 わたしはちょっと弱気になる。
 そんな時。

『ティア』
「マスター」

 わたしの大切な人は、必ず声をかけてくれる。

『ランティスは連続で打ってくる』
「どうすれば……?」
『指示に変更はなしだ。大丈夫、お前なら全部かわせる』
「……はい!」

 マスターは間違わない。
 わたしを過大評価したりしない。
 マスターが、わたしにできると言ったらできるのだ。
 わたしはランティスさんを見据える。
 次の瞬間、再び踏み込んできた。 



 試合を映す大型ディスプレイの画面が、断続的に揺れている。
 背中からの体当たり、掌打、双掌打。
 三回の打ち込みはいずれも塔の床に足跡を残した。
 ランティスは止まらない。
 そこから肘打ちに派生し、さらに左右の拳打を繰り出す。
 ランティスが一歩ずつ進むたびに、ずどん、と踏みならす音が聞こえ、地が揺れる。
 いずれの一撃も、さきほど塔の壁を崩したほどの威力があるだろう。
 しかし、どれほど威力のある攻撃も、当たらなければ意味がない。

「くっ……!」

 渾身の震脚。
 踏み込んだ固い石の床は、ランティスの足形に踏み抜かれている。
 それを中心に放射状のひび割れが走っている。
 なのに。
 ティアはなぜ、いまだ目の前で、亡霊のように舞い続けていられる!?
 繰り返される振動の中でさえ精密さを失わない、超絶技巧の機動。
 ランティスはついに恐怖すら覚えた。
 この亡霊にすべてを否定されるかもしれない。
 しかし、ランティスには、愚直に手を出していく以外の手だてはなかった。



「な、なぜだ……なぜ、あの振動の中、あれほど精度の高い機動が……」

 鳴滝の声は震えていた。
 ランティスのいままでの攻撃を、ティアは変わらぬ様子でかわしている。
 ありえない。
 ランティスの起こす地震のような揺らぎは、確実にティアのホイールさばきにも影響しているはずなのだ。
 それなのに、ファントム・ステップのキレは、一向に衰える様子を見せない。

「いや、実用レベルの技なら、あのくらいできなきゃ使い物にならない」

 表情を変えずに言ったのは、遠野貴樹。
 驚く鳴滝に、言った。

「バトルロンドやってれば、至近距離に砲弾撃ち込まれたり、ミサイルが着弾したりは日常茶飯事だ。地面が揺れるのにいちいち足を取られてたら、バトルにもならない。
 予測できない突然の揺れの中でも、壁走りだってしなくちゃならない。
 当然、その揺れに対して補正するように訓練してる。
 だから、ファントム・ステップは出来て当たり前。それで実戦レベルだ」
「……」
「それに、ランティスの攻撃はタイミングが計れる分、対応しやすい。今までの攻撃同様、かわせるさ」

 鳴滝は驚愕を隠さない。
 遠野がこともなげに言う「実戦レベル」の機動を実現するのに、どれほどの修練と努力が積み重ねられただろう。
 修練の積み重ねでは、ランティスも負けてはいないはずだ。
 だが、より高い意識、より高いレベルで、ティアは技を修得している。
 あらゆる工夫、あらゆる努力がなされたに違いない。
 遠野とティアの絆の深さを、改めて思い知らされる鳴滝だった。



 ランティスは認めるわけにはいかなかった。
 汚れた娼婦の神姫が、自分以上の努力と修練を積み、自らの技を上回るなどと。
 それを認めることは、起動してからすべての時間を、師匠の夢の実現に捧げてきた、自らの存在の否定に他ならない。
 だから、ランティスは、渾身の力で打ち込み続ける。
 一発でいい。
 一発でも当たりさえすれば、あの亡霊を倒す自信がある。
 跳躍し、一気に間合いを詰めながらの正拳突き。
 当たらない。
 そこからさらに一歩踏み込み、肘打ち。
 当たらない。
 さらに踏み込んでの掌打。
 当たらない。
 当たらない、当たらない、当たらない……。

「当たれえええぇぇ!!」

 それはあまりにも不用意な攻撃だった。
 焦りから無意識に放った、大振りの右ハイキック。
 とはいえ、鋭さはいささかも衰えていない。
 ランティスの視界の中、亡霊は逃げなかった。
 その場に留まったまま。
 姿勢を低くし、すり上げるような右足のサイドキック。
 ばかな。
 そう思った瞬間には、ティアの強烈な蹴りがランティスの腹部を襲った。
 カウンターで入った蹴りは鋭く、ランティスの身体を塔の壁まで吹っ飛ばした。
 激突音。
 土煙が晴れても、ランティスは身動きができず、呆然とティアを見ている。
 ダメージをチェックする気力も、立ち上がって構える気力さえも浮かばない。

「そんな……そんなバカな……」

 蹴りを出したのは、ティアの方が後だった。
 しかし、蹴りを当てられたのは自分だった。
 蹴りの速度でもティアがランティスを上回ったのだ。
 攻撃が当たらないどころか、攻撃の技でもティアに負けた。
 負けてはいけないはずの相手に負けた。
 その事実にランティスが呆然としているところで、 不意に、ティアが口を開いた。

「……ランティスさんはすごいです」
「な、なにを……」
「わたしはただ、かわすことしかできないです。
 でも、あなたは装備に頼らず、フル装備の神姫相手に真っ向勝負で戦う技を持っています。
 その技の一端を見せてもらって……とてもよくわかりました。
 ランティスさんとマスターが深い絆で結ばれていること」

 ティアは静かに佇んでいる。
 地面に根ざした一本の樹木のように、直立して揺るぎない姿。
 しかし、静謐なその姿に隙はなく、次の瞬間には獣のごとく野を駆けるような躍動をはらんでいる。
 自然体でありながら、次の状況に備える構えでもある。
 それに気付いたランティスは、さらに目を見張る。
 いったい、どれだけの武道家が、その構えを会得できただろう。
 今のティアは、武道家の理想の一つを体現していた。

「前に雪華さんが言っていました。
 『技は神姫とマスターの絆』だと。
 ……ランティスさんは、技でわたしと戦ってくれた。
 だから、わたしも……技で……マスターとの絆の力で応えようと思います」

 ティアは手にしていたナイフを横に放り投げた。
 軽い音を立てて、地面に突き刺さる。
 それを確認もせず、ティアは姿勢を低くし、両腕を広げ、腰を捻って背中を向けた。

「わたしの、必殺技で!」

 まだ、あるのか。
 さらにこの先があるというのか。
 ランティスの心は恐怖していた。目の前の神姫が見せる底知れない実力に。
 だが、ランティスの身体はなぜか立ち上がっていた。
 彼女の意志がそうさせたのだ。
 見たい。この先があるというなら、それを是非とも見てみたい。
 強者に対する純粋な闘争心と、心の奥底から沸き上がる恐怖心。
 それらが混ざり合い、溢れ出てきたランティスの表情は、なぜか笑い顔だった。
 凄絶な笑みを浮かべつつ、ランティスは左の掌に、右手の拳を打ちつけた。
 紫電が散る。
 そして構え。
 左腕を前に出し、掌を軽く開いて、ティアに向ける。
 右手は拳を作り、腰の位置。
 足を開き、どっしりと構えた。

「来い……受けて立つ!!」



 ティアがランティスに蹴りを決めたとき、安藤はやっと理解した。
 ティアは待っていたのだ。
 相手が隙を見せ、反撃できる時を、ひたすらにかわしながら待っていた。
 近接格闘戦で、隙を見つけて反撃するためには、こちらの攻撃も届く範囲にいなくてはならない。
 そのためのファントム・ステップか。

「す、すげぇ……」

 安藤は、技の応酬の緻密さに感心していたが、ただの近接格闘戦だと思っていた。
 だが、そんな単純な戦いではない。
 シンプルな戦いの裏で、マスターの意図がこんなにも深く働いていたとは。
 安藤もまた、二人の戦いに魅入られる。
 ティアはスケート選手のジャンプする直前のような構え。必殺技だという。
 対して、ランティスの構えは明快だ。

「右正拳突き……?」

 間合いを取っているティアに当たるはずもない。
 やはり、何らかの意図が働いているのだろうか。
 その問いには涼子が答えた。

「ティアの必殺技は飛び道具……それを正拳突きでたたき落とすつもりね」
「そんなこと、できるのか!?」
「あれほどの格闘能力を持つランティスなら……できるかもしれない。
 正拳突きは、あらゆる立ち技の格闘技で基本中の基本の攻撃だわ。
 ランティスほどになれば、修練で技を染み込ませた身体が、必中のタイミングで動き出す。
 それはもう、必殺技に匹敵すると思わない?」

 涼子は真面目にそう言うが、安藤には呆れかえりたくなるほどだった。
 必殺技をパンチで落とす?
 いくらなんでも無茶だ。

「でも、ティアの必殺技は電撃系の飛び道具。
 ランティスの雷神甲も高圧電流を発生する籠手。うまくすれば、電撃同士で相殺できるかもしれない。
 あるいは、雷神甲のバッテリーに吸収するとか……。
 いずれにしても、あてずっぽうな迎撃体制ではないってことね」

 美緒の装備面からの解説に、安藤も納得せざるを得ない。
 必殺技対基本技。
 そのシンプルな対決の構図にも、様々な要素が働いている。
 見上げる大型ディスプレイの画面の中で、ティアは両腕を振りかざすと高速スピンを開始した。



 スピンを続けるティアの足元から、青い稲妻が走る。
 ランティスの拳も、電気が走り、青く輝いている。
 電撃対電撃。
 必殺技対基本技。
 待ち構えるランティスの表情には、笑みさえ浮かんでいる。
 ティアが右脚を振り上げる。
 そして。

「ライトニング・アクセルッ!!」

 振り抜いた右脚が大気を裂き、三日月の稲妻を放った。
 それとほぼ同時。

「セアアアアァァッ!!」

 ランティスもまた右腕から正拳突きを繰り出した。
 それは刹那のこと。
 ティアから放たれた三日月の稲妻は、一直線にランティスに向かう。
 突き出されるランティスの右拳も神速。
 背筋が寒くなるほどの、神がかった撃墜タイミングだ。

 だが、ランティスよ。
 それだけでは、ライトニング・アクセルは破れない。

 電撃に彩られた三日月と拳が接する瞬間。
 ランティスの拳が、裂けるように砕けた。 

「!?」

 ランティスの驚きも刹那の時の中に消える。
 続いて襲った稲妻が、ランティスの全身を走った。

「うああああああああぁぁぁっ……!!」

 砕けた拳から、電撃は神姫内部にもダメージを及ぼしているはずだ。
 ランティスの絶叫。
 それもまた、一瞬。
 稲妻が消え、塔に静寂が戻る。
 ランティスは右腕を振り抜いたままの体勢で、立ち尽くしていた。
 身体の各所が細い煙を上げている。
 右拳は砕け散っている。
 右腕が、肘のあたりから砕けて落ちた。
 だがそれでも、塔の騎士は倒れない。
 ティアとランティス、二人の神姫は立ったままだ。
 ファンファーレが鳴る。
 ジャッジAIが、倒れぬ二人に勝者を告げた。

『WINNER:ティア』

 その宣言を聞いてもなお、ランティスは倒れない。
 塔の騎士は、正拳突きの体勢のまま、動作不能になっていた。



 バーチャルフィールドから現実世界へと感覚が戻ってくる。
 まず見えるのは暗闇。
 そして、一筋の光が暗闇を割って、一瞬の後にまばゆい光があふれ、アクセスポッドが開く。
 迎えてくれたのは歓声。
 バトルのあとの歓声を聞くと、思う。
 わたしの今の戦いは、間違ってはいないのだと。
 安心して、ほっと一つ息をつく。
 そして、わたしは振り向いて、その人を呼んだ。

「マスター!」

 マスターは、仏頂面にへの字口で、あきらかに怒っていた。
 ……え?

「ティア……このばかものっ!」

 え、あれ?
 わ、わたし、勝ったはず、なんですけど……。

「あ、あの……」
「何を勝手にライトニング・アクセル使ってるんだ!」
「えっ……つ、つかっちゃだめ、だったんですか……?」
「雪華が見ている前で使ってどうする。次の雪華とのバトルで、切り札がなくなった」

 あ。
 そう言えば、雪華さんは、一度目のライトニング・アクセルを見ていなかったんだ。
 マスターがそこまで考えていたとは、わたしは思い至らなかった。
 くすくすと笑い声のする方を見れば、雪華さんが口元を押さえておかしそうにしている。

「ふふ……伝え聞くティアの必殺技、確かに見せてもらいました」

 ああああ。
 雪華さんほどの神姫ならば、一度見た大技をくらうことはまずないだろう。
 だからこそ、マスターはライトニング・アクセルを見せたくなかったんだ。
 ようやくそこに思い至り、わたしはしゅんとうなだれた。

「ごめんなさい……」
「ふむ」

 マスターは呟きながら、腕組みをした。

「まあ……あそこはあの技で締めなきゃ、格好がつかなかった。
 それに、すべての技を見せたかったんだろ? ランティスに」

 わたしはマスターに顔を上げる。
 すると、マスターはわたしに微笑んでくれた。

「よくやったな、ティア。いいバトルだった」

 マスターはひどい人だ。
 わたしを落ち込ませておいて、すぐに優しい言葉をかけるなんてずるい。
 しかも笑顔まで見せて。
 でも、マスターの笑顔が大好きなわたしは、満面の笑みを返すことしかできないのだった。



 ランティスは、その様子を筐体を挟んだ反対側のアクセスポッドの中から見つめていた。
 試合に負けた。得意の『塔』ステージで、しかも負けてはならぬ相手に。
 敗北のショックは少なからず感じていたが、しかし、意外にも心が重くないのはなぜなのか。

「ランティス」
「師匠」

 背後から呼ぶ声にランティスは振り向き、膝をついて礼の姿勢をとった。 

「……すみません……負けました」
「すべてを出し切ったか?」
「……はい……出し切ってなお……届きませんでした」

 ランティスは素直な気持ちを師匠に報告する。
 持てる技のすべてを出し尽くした。
 言い訳でなく、本当に。

「……気持ちよくなかったか?」
「……え?」
「自分が修得した技を、思う存分使うのは、気持ちがよかっただろう?」

 ランティスは間抜けな顔をして、師匠を見た。
 拳法の師であるマスターは、意外にも嬉しそうな顔をして、ランティスを見ていた。
 ランティスはうつむき、答える。

「いえ……試合中に、そのような気持ちを感じる余裕はなく……」
「じゃあ、試合中、何を考えていた?」
「ただ……勝たなければ、と」

 鳴滝はため息をついた。

「お前の今日の敗因は、それだ」
「……え?」
「こんな好勝負を楽しむ余裕もなくては、勝てるものも勝てないだろうが」
「お、お言葉ですが、師匠。あのような娼婦の神姫に、負けるわけには……」
「まだそんなことを言っているのか、お前は」

 鳴滝の真剣な表情に、ランティスは声を失う。

「修得した技に、貴賤があるのか?」

 その言葉はランティスの心を貫いた。
 技は努力の証だ。
 装備に頼るのではなく、使いこなすこと。それは戦闘プログラムにない動きを、自らの努力によって修得することである。
 最低限の武装で勝とうとするなら、人一倍の努力が必要になる。
 ティアとランティスの装備はほぼ同等。
 だとすれば、勝敗を分けたのは、努力の結果に他ならないのではないか。

 ティアは技を極めるために努力した。
 そんなことはわかっていた。
 バトルの最中から、ずっと。
 ランティスは認めたくなかっただけだ。
 清廉潔白な騎士たる自分を上回る努力を、汚れた娼婦の神姫がしていたなどと。
 だが、その考えこそが、間違っているのだ。師匠が指摘したように。

 『塔』ステージで無敵であることは誇りだった。
 マスターの夢を叶えたに等しかったから。
 『塔の騎士』と呼ばれることは、自分の存在意義ですらあった。
 しかし、その地位に安住してしまっていた。
 他の神姫たちを弱いと嘲り、挑まぬ神姫を腰抜けとのたまって、増長していた。
 軽量装備と近接格闘専門であることを言い訳に、他のステージでバトルしようとはしなかった。
 まさに井の中の蛙。
 ランティスは『塔の騎士』というよりも『塔だけの騎士』だったのだ。

 ああ。
 我が女王の言うことは正しかった。
 今ならば、わかる。
 女王がなぜ自分のバトルが「卑しい」などと言ったのか。
 得意のステージに閉じこもって増長し、挑戦者がないことを他の神姫が腰抜けだから、などと放言していた自分は……なんと卑しい神姫なのだろう。
 そして、ランティスは視線の先の神姫を見つめる。
 そんな自分に真っ向から、技で挑んできた、黒い兎の神姫を。

「ランティス、ティアとのバトルはどうでしたか?」
「女王……」

 かけられた声に顔を上げれば、そこには銀髪の気高き神姫がいた。
 口元に柔らかな微笑をたたえ、しかし、瞳には真剣な光を宿し、ランティスを見つめている。
 ランティスは膝をついて頭を垂れ、言った。

「……訂正しなくてはなりません」
「訂正?」
「ティアは……手強い神姫でした。過去の出来事など関係なく……。
 試合前の、彼女への暴言の数々……恥ずかしい限りです。
 女王が言われた、わたしのバトルが卑しいという意味もようやくわかりました。
 ……申し訳ありません」

 その言葉に、雪華は今度こそランティスに微笑んだ。

「そう、ランティス。それでよいのです」
「え?」
「あなたにわかってほしかったのです。
 この世には、計り知れない強さを持つ神姫がいることを。
 塔の中にいては、それを知るすべはないと。
 今のあなたはそれを知ることが出来た。
 ならば……あなたはもっと強くなれるはずです」
「もっと……強く……?」
「そうです。さらなる高見を目指す……それは夢の続きではありませんか?」

 そう。
 マスターが望んだのは、武装神姫の世界で格闘技がどこまで通用するのか、だ。
 『塔』のステージで十分に通用することは証明できた。
 しかし、塔の外はどうだ。
 ティアのような相手がいるではないか!
 さらなる強さを求め、修練を積む。そして新たな敵、新たな状況に、自らの技を持って挑む。
 見果てぬ夢を追いかける。
 それはなんと気持ちのいいことだろう。

「……わたしは、塔の中で、駄々をこねていただけなのですね。煮え切らない思いを抱いたまま、それを対戦者のせいにしていた……」
「卑下することはありません。塔において、あなたは確かに誰よりも強かったのですから。
 でも、わたしがそばにいてもらいたいと思うのは……より高見を目指し、次のステージに進もうとする者ですよ、ランティス」

 ランティスは顔を伏せたまま、苦笑した。
 かなわない。
 クイーン・雪華はすべてお見通しだった。
 そして、見果てぬ夢を追いかけ続けるティアと対戦させることで、ランティスに大切なことを気付かせようとしたのだ。
 さらなる高見を目指し、塔を出よう。次のステージに進もう。
 師匠もきっと、それを望んでいるはずだ。

 ランティスは顔を上げ、雪華を見つめながら立ち上がった。
 その表情は、憑き物が落ちたように晴れやかだった。



「よくわかったよ。遠野さんとティアはすごいんだってこと」

 安藤が呟くと、隣の美緒が頷いた。
 安藤は目を細めながら、胸ポケットのオルフェを見つめる。

「俺も……俺たちも、遠野さんとティアみたいになりたいな。
 自分たちの戦闘スタイルを極めるような……そんなバトルがしたい」
「でもそれは、茨の道よ。生半可な覚悟じゃ、無理ね」

 真面目くさった顔で涼子が言うので、美緒は思わず吹き出した。
 オリジナル装備は茨の道……それは遠野の受け売りだ。
 だが、そんなことを知らない安藤は、涼子の言い草に唇をとがらせた。

「そんなことより……涼子! 早く行こーぜ!」
「何?」
「ランティスに挑戦するに決まってるだろ! 他の連中も集まり始めてるぞ!」

 有紀の言葉に、涼子もあわてて、先ほどまで試合が行われていた筐体に駆け寄っていく。
 筐体のまわりは人だかりが出来ていて、あちこちでにぎやかな声が上がっている。
 和気藹々とした雰囲気は、かつてティアに向けられた陰湿な空気をまったく感じさせない。

 変わっていく。
 美緒は思う。
 ティアのバトルに触れた者は皆、変わる。 
 今日の安藤のように。
 かつての美緒と仲間たちのように。
 死闘を繰り広げた雪華のように。
 そして、今日拳を交えたランティスのように。
 人々の思いを変えてしまうほど、素晴らしいバトルができること。
 それこそが、遠野とティアの本当の強さなのではないか、と美緒は思った。

 その素晴らしい神姫を見れば。
 膝をつき、最敬礼で謝罪をするランティスに、本当に困った顔をして、あわてていた。 




(黒兎と塔の騎士・おわり)







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