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ウサギのナミダ・番外編

黒兎と塔の騎士

後編



 鳴滝修平の夢は、格闘技を極めることだった。
 世界最強なんて見果てぬ夢だが、そう自負できるほどに強くなりたかった。
 志したのは小学校に入学する時分のことだから、随分前の話だ。

 鳴滝少年は、数ある格闘技の中から、中国拳法を選択した。
 近所に道場があったからだ。
 鳴滝少年は熱心な入門生だった。
 拳法を身につけるのも面白かったし、強くなることが実感できた。

 それは中学生、高校生になっても変わらなかった。
 実際、強くなったと感じられたのは、喧嘩の時だった。
 格闘技をやってるだけで、何かとやっかいごとに巻き込まれる。
 殴り合いの喧嘩をしたが、拳法の技は使わなかった。
 師匠から私闘での使用を禁じられていたからだ。
 だが、使わなくても負けることはなかった。
 いつか、思うさま技を使うことがあるだろうか。
 そう思いながら、日々練習に励んでいた。

 その生活が一変したのは高校三年生の時。
 交通事故にあった。
 自転車に乗っていたところで、車にはねられた。
 命に別状はなかったが、自転車と左の膝が壊れた。
 入院生活の後の、長いリハビリのおかげで、なんとか日常生活は不自由なくできるようになった。
 でも、激しい運動はできなくなった。
 格闘技なんてもってのほか。左膝は弱点ですらある。
 今も道場には行っているが、それは自分を守ることに備えるためであり、以前のような前向きな気持ちではなかった。
 だから、リハビリ明けの直後は、荒れた。
 つっかかってくる不良やヤンキーを、片っ端から倒して回った。
 自分の強さを確認するための幼稚な手段、だった。
 そんな意味のない喧嘩に飽きた頃。
 鳴滝は武装神姫に出会った。

 はじめはくだらない人形遊びだと思った。
 だが、ある戦いを見て考えが変わる。
 それは、銀髪の神姫と、青色の鎧騎士の対決だった。
 剣による近接格闘戦。
 その動きは人間を超越し、神業の域に達している。
 鳴滝はふと思う。
 このなんでもありの戦闘領域で、格闘技はどれほどの力を持ちうるのだろうか。
 格闘技だけでどこまで上が目指せるのか。
 そんな思いつきが、鳴滝の次なる夢になった。

 騎士型サイフォス・タイプを購入し、ランティスと名付けた。
 そして、格闘技の修練をさせた。
 実際のところ、徒手空拳で戦場に立つのは、非常に厳しかった。
 はじめはろくに勝てなかった。
 だが、鳴滝はあきらめることを知らず、ランティスは鳴滝の夢を愚直に追い続けた。
 やがて、自分たち流の戦い方を見い出す。
 そしていまや、『塔』でランティスにかなう神姫はいない。
 鳴滝はランティスに感謝している。
 鳴滝の夢はかないつつあるのだから。



 手甲から飛び散る紫電の向こう。
 正面に立つ神姫の姿を認めて、ランティスは愕然とした。

「貴様……どうして……」

 ティアは雷迅弾を放ったときそのままの姿で立っている。
 ありえない。
 超速の弾丸は、間違いなくティアが立つ場所を通過している。
 なぜあの黒い神姫は五体満足で立っていられるのか。

「どうして、どうしてそこに立っていられるっ!?」

 ランティスの叫びに、ティアは困ったような視線を向けるばかりだった。



 ランティスと鳴滝の様子に、観客たちもどよめき出す。
 シスターズの四人と安藤も、首を傾げていた。
 彼らは皆、ティアが何をしたのか、全く見えていなかった。
 安藤は、シャツの胸ポケットにいる、彼の神姫オルフェに尋ねた。

「オルフェ……ティアが何したか、見えたか?」
「見えました……けど……」

 人間では追いきれなかった動きも、神姫の目では捉えられたらしい。
 だが、オルフェは釈然としない表情で首を傾げていた。

「ティアは何をした?」
「何をしたというか……特別なことは何も」
「え?」
「ただ普通に……いつものようにステップでかわしただけです」
「は?」

 安藤はオルフェの言っていることがすぐには理解できなかった。
 そこへ銀髪の神姫が口を挟む。

「マスター安藤。確かに今のティアの動きは、半円を描く普通のステップでした。
 ……ですが、ティアは、出来うる限り最速かつ最小半径でのステップで、雷迅弾を回避したのです」
「最小半径って……」

 安藤には想像もつかない。
 つまり、超音速で飛来する球体を、紙一重で見切ってかわした、ということでいいのだろうか。

「……っていうか、雪華は何で俺のこと知ってるんだ?」
「ティアと同じチームの神姫とマスターの情報は調べ上げてあります」

 さも当然といわんばかりの雪華であった。



 ギャラリーがどよめく中、俺はむしろ不思議な気持ちでいた。
 別に何も特別な技を使ったわけじゃない。
 その証拠に、俺からティアへの指示はたった一言、

「ステップでかわせ」

 だった。
 ティアはそれを忠実に実行しただけだ。
 確かに最近、ティアには近接戦用にステップを練習させていたが……。

「遠野……今のはなんて技だ……?」

 大城も呆けたように俺に聞く。
 まわりを見ると、みんな俺に注目していた。
 俺は小さくため息をつく。

「名前を付けるほどのことじゃないんだが……そうだな、『ファントム・ステップ』とでも名付けようか」
「ファントム・ステップ……」

 うめくように鳴滝が言う。
 俺は頷いた。

「そう。だが、ファントム・ステップは単発の技じゃない。連続でやると……こうなる」

 バトルロンド筐体の画面の中。
 ランティスがティアに向かって突進していくところだった。



「たった一発かわせたからって……いい気になるな!!」

 ランティスさんが叫びながらわたしに向かって突っ込んでくる。
 どうすればいい?
 間合いを取ってかわすのは簡単だけれど。
 そう思ったとき、マスターから指示が来た。

『ティア、練習してたあのステップですべてかわせ』
「はい」
『隙あらば反撃だ。練習の成果、見せてやれ』
「はいっ!」

 やっぱり、あのステップ……ファントム・ステップと名付けられたのは後で知った……を試すために、この試合は銃器がセッティングされなかったんだ。
 ファントム・ステップは、わたしが最近集中的に練習していた技。
 わたしが近接格闘戦をするようになってから、マスターが必要だと言って、練習するようになった。
 できるだけ素早く、できるだけ相手から離れずに、ステップでかわす。
 それが基本。

 ランティスさんが両手を顎につけた体勢で踏み込んでくる。
 間合い。
 左右のパンチから左脚のハイキック。
 流れるように淀みのないコンビネーション。
 わたしは後ろに下がるステップで、左右のパンチをかわし、半円のターンでキックをはずす。
 ステップは全部、攻撃に対して一定の距離。
 空を切るハイキックが風を巻き、わたしの前髪を揺らす。
 わたしはランティスさんを見た。
 大きな動作の後なのに、もう隙をつぶして構え、攻撃態勢に入っている。
 反撃の暇はない。

 ランティスさんは躊躇なく踏み込んできた。
 今度はさらに深く。
 腰だめの右拳を斜め上に突き上げるようなアッパーカット。
 それも半円のターンでかわす。
 すると今度は、踏み込みながら、左腕で細かいパンチを三発放ってきた。
 だけどそれは、三発とも同じ距離。
 それをかわすと、また踏み込んで、右のパンチを二、三発。
 わたしは右左と順番に放たれるパンチを、ジグザグのステップでかわしていく。
 かわすたびに、ランティスさんの表情が険しくなっていく。



 ランティスはティアに向かって膝蹴りを繰り出した。
 これもかわされる。
 だが、これは誘い。
 上げた右膝を降ろさず、空手の側方蹴りに移行する。
 突然間合いは伸びる。どうだ。
 だがそれも、半円のターンでかわされる。

「くっ……!」

 ばかな。
 こんなことはありえない。
 ランティスはこれでも考えながら攻撃をしている。
 技のスピード、キレ、間合いの変化、技の変化。
 もちろんフェイントも交えている。
 だが、そのことごとくをかわされる。
 しかも一定の間合いで。
 ティアは必ず踏み込みが届く間合いで、自分の正面にいるのだ。
 当たるはずの攻撃が当たらない。
 あるはずの手応えがない。
 まるで亡霊を相手にしているようだ。

「お、おおおおおぉっ!!」

 ランティスは吠えた。
 左右のハイキックを順に放ち、さらに振り上げた左脚を上から落とす、かかと落とし。
 それも、なめらかなS字のターンが命中を許さない。
 だがランティスは止まらない。止められない。
 今度は降ろした左脚を支点に、旋風のようなミドルキックを放つ。
 攻撃範囲の広さは、ランティスの持つ蹴り技でも随一だ。
 しかし、それもかわされる。なんと、ランティスが振るうつま先を、ターンで回り込むようにして回避した。
 ランティスはさらに蹴る。同じ方向から、跳ねるように、リズミカルに、旋風のような蹴りを。
 しかし、当たらない。
 黒兎の神姫は、目の前を、亡霊のように舞い続けている。

「く、くそおおおぉぉっ!!」

 自分の身につけた技のすべてが、たった一つの技に否定される!
 技を一つかわされるたび、心が絶望に浸食されていく。
 ランティスは心を削るような思いで攻撃を続ける。



「すごい……」

 安藤は思わずつぶやいていた。
 ランティスの息もつかせぬ連続技。
 そこにはあらゆる格闘技の技が詰め込まれていた。
 キックボクシングのコンビネーション、ボクシングのパンチに、ムエタイ、空手の蹴り技。
 かかと落としはテコンドーの動きだったし、今見えるダンスのような回し蹴りは、たぶんカポエラだ。
 格闘技をちょっと知る程度の安藤にさえ、ランティスの技の多彩さがわかる。
 だが、それ以上にティアがすごい。
 ランティスのあらゆる技は、タイミングもスピードもリーチもすべて違っている。
 だが、ティアはそのことごとくを紙一重でかわし続けているのだ。
 しかも、ただ一つの技……ステップで。
 その様は、まるでパートナーとダンスをしているかのようだった。

「ちょっと、涼子? 大丈夫?」

 美緒が小さな声を上げた。
 見れば、涼子が頭を押さえながら、大型ディスプレイに見入っていた。
 顔色は真っ青だ。

「すごい、なんてもんじゃ……」

 涼子は、震える声で、言った。

「ティア……かわしながら、誘導して……塔の外周を回ってる……」
「な……」

 安藤はすばやく大型ディスプレイを見る。
 ランティスの右上段蹴りが途中で変化し、下段蹴りになって、ティアのレッグパーツを狙う。空手の蹴り技。
 しかし、つま先は、ティアのランドスピナーをかすめたのみだ。
 そう、二人の攻防はずっと続いていて、途切れることがない。
 周囲を壁に囲まれた塔の中で、移動しながらの攻防を続けるには、塔の外周を回るように移動するしかない。
 そして、二人の神姫はそれを忠実に実行している。
 移動の舵取りは、ランティスの前方にいて、かわし続けるティアがしているはずだった。
 涼子は戦慄する。
 神業なんてレベルじゃない。
 ランティスの打撃は、どれ一つとっても、達人の域を越えている。
 それを正面でかわしながら、行き先を誘導さえできるなんて。
 武道をたしなむ涼子だからこそ、目の前のバトルが驚愕のレベルにあることを見抜いていた。

「でも、ティアはなんだってそんなことを……?」
「おそらくは、ランティスの技を引き出すためです」

 素朴な疑問に答えたのは、全国チャンピオンのマスターだったので、安藤は少なからず驚いた。
 だが、当の高村はそんなことを気にもかけず、気さくな様子だった。

「武装神姫にとって、技とは、マスターとの絆が生み出す力です。
 マスターの想いをバトルで具現化するための技術……それが武装神姫の『技』なのです。
 装備に頼らず、技を駆使して戦うという点において、あの二人はとてもよく似ています。
 だからなのでしょう。ティアはランティスのすべての技を……つまり、マスターの想いと二人の絆のすべてを引きだし、受け止めようとしているんですよ」

 安藤は高村の言葉に途方に暮れながら、また大型ディスプレイに目を移す。
 ランティスが攻め、ティアがかわす。
 その姿はダンスパーティーで踊るパートナー同士のようにも見える。
 それほどに華麗で美しい動き。

「ランティスだけではありません。ティアもまた、技のすべてを出し尽くそうとしている……」



 気付いているだろうか?
 雪華は、画面上のランティスを見つめ、思う。
 ティアのファントム・ステップは、ただ一つの技、ではない。
 ステップやターンを駆使して、近接距離を一定に保つ。それがファントム・ステップだ。
 ティアはあらゆるステップ、あらゆるターンを駆使して、ファントム・ステップを成立させている。
 ランティスが「格闘」を極めた神姫だとすれば、ティアは「滑走」に特化した神姫だ。
 ファントム・ステップは、ティアがこれまで身につけてきた、膨大な「滑走」の技の上に成り立っている。
 ランティスはそれに気付いているだろうか。
 画面上の彼女の表情からは、苦悩と焦燥が見て取れる。
 雪華はランティスが嫌いなのではない。愚直なまでにマスターの夢を追い求める姿は、好ましいとさえ思う。
 だからこそ、彼女には気付いてほしい。
 技同士のバトルに、神姫の出自など、関係がないことを。

「それにしても……」

 雪華はつぶやき、ティアの姿を見つめる。
 表情がほころぶのと同時、身震いする。
 雪華と戦ったときよりもなお、彼女の技は冴えていた。
 あのとき、雪華の『レクイエム』をかわしたあとの神懸かり的な機動が、すでにティアのベースラインの動きになっている。
 ティアは確実に進化している。
 それが嬉しい。
 そして彼女に心からの尊敬を抱き、そしてまた戦ってみたいと、雪華に思わせるのだった。



 鳴滝は喜びに震えていた。
 高村について、こんなゲームセンターまでやってきて正解だった。
 秋葉原での戦いにうんざりしていたのは、ランティスだけではない。
 マスターである鳴滝もまた、火力と物量でばかり挑んでくる対戦者たちに飽き飽きしていた。

 だが、ティアは違った。
 どんな神姫とも違う機動力で、彼女だけが持つ技を駆使してランティスと戦っている。
 ランティスの技に、技で挑んでくる神姫がついに現れた。
 そう、待っていた。ずっとこんな相手が現れるのを待ち望んでいた。
 ランティス、今お前はどんな気持ちだ? どんな気持ちで戦っている?
 ……なんでそんなにつらそうな顔をしている。
 こんな好敵手と出会えることは、俺たちのような輩にとっては最高のことじゃないか。
 もっと喜べ。
 そしてもっとバトルを楽しめ。
 このバトルの先に、俺たちの見たかった地平が、きっと見えるだろう。



 そんなマスターの想いとは裏腹に、絶望と焦りを顔に浮かべながら、ランティスはティアに打ち込み続けた。
 しかし、どんな打撃も、どんなコンビネーションも、ことごとく回避されている。

『ランティス』
「師匠!」

 彼女は鳴滝をマスターと呼ぶよりも、師匠と呼んだ方がしっくりくる、と思っている。

『なぜあれを出さない』
「……ですが、この娼婦の神姫に、あの技を出すほどでは……!」
『出すほどだ。現にお前の打撃は、一発もティアに当たってないぞ?』
「……っ!」
『もう認めろ。ティアは同じステージに立つ資格のある好敵手だと。出し惜しみはするな。むしろ、すべてを見せつけてやれ』
「……」

 ランティスは迷う。
 師匠の言葉は理解できるが、「心」が納得しないのだ。
 あの下賤な神姫に、師匠から直に教わった技を使うことにためらいがあった。
 しかし、もはやランティスは覚悟を決めるしかなかった。
 奥の手を出す覚悟を。
 この試合、敗北は決して許されないのだから。

「ハアアアアアァァッ!!」

 迷いを振り払うように、気合いを入れる。
 そして、ティアに向けた一撃の踏み込み。
 瞬間、何かが爆発したような音と共に、地が揺れた。



 ランティスさんが深く踏み込んでくる。
 その脚が着地した瞬間、地響きが来た。

「わっ」

 一瞬、地面が揺れる。
 ランドスピナーが傾く。
 横構えになっていたランティスさんが腰を落とし、両手の掌を彼女の両側に突き出した。
 不安定な姿勢ではあったけど、わたしは間合いを大きめに取るようにランドスピナーを走らせ、からくもランティスさんの一撃をかわした。
 彼女と対峙する。
 そして、ぞっとした。
 ランティスさんの立っている、その足元。
 踏み込んだ場所がランティスさんの足形に窪み、地面に放射状のひびが入っている!
 いやな感じがする。
 いまの掌打はからくもかわせたけれど、受けていたら、どんなことになっていただろう。
 わたしに想像する間も与えず、ランティスさんがまた来た。
 またしても低く、深い踏み込み。
 今度はもっと深い。まるで、身体全体でぶつかってくるような……。
 わたしの位置は壁際で、もうぎりぎりでかわす余裕はなかった。
 ランティスさんを大きく回り込むように回避する。
 正解だった。
 小手先の技じゃなかった。
 ランティスさんは踏み込んで背中を打ち付けようとしてきた!
 背中で攻撃、なんて、聞いたこともない。
 わたしが今いた場所を、ランティスさんの背中が通過して、そのまま塔の壁に激突する。
 見間違いだと思う、でも。
 ランティスさんの背中が当たった瞬間。
 高い高い塔の壁が、一瞬、たわんだように見えた。



 まるでミサイルが直撃したかのような爆発音。
 ランティスを震源地に、短い地震が起きて、ディスプレイの映像を揺らす。
 バーチャルで構成されたステージのカメラの位置は動かないはずだから、塔全体が揺れたのだ。
 ランティスが姿勢を戻して、ティアと対峙する。
 その背後。
 いましがた、ランティスが背中を打ち付けた壁が、彼女の背中の形でクレーターになっている。
 クレーターのすそ野から、大小のひび割れが大きく広がっていた。
 そして。
 その壁が粉々に砕け、大きく崩れ落ちた。

「八極拳か……これほどの破壊力とはな」

 あの特徴的な、背中からの打撃に見覚えがある。確か『鉄山靠』とか言う技だ。
 八極拳は中国拳法の一流派だ。
 俺も詳しくは知らないが、震脚と呼ばれる強烈な踏み込みから生み出される破壊力が特徴だと聞いたことがある。
 鳴滝が感心したように、俺に言う。

「よく知っているな。ランティスの八極拳は俺の直伝だ」
「君も拳法をやってるのか。なるほど、だから師匠、と呼ばれてるんだな」
「そうさ。……どうする、遠野。踏み込むたびに地面を揺らされて、ファントム・ステップを続けられるか?」

 鳴滝は不敵に笑って、俺を挑発する。
 だが、不愉快ではない。
 鳴滝もこのバトルの駆け引きを楽しむために、俺を挑発している。それがわかる。
 ならば一つ、俺も楽しんでみようか。

「試してみるがいい」
「ふふ……八極拳の技が単発だと思うなよ。連続でやると、こうなる」

 鳴滝の言葉と同時、ランティスが再び前に出た。









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