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ウサギのナミダ・番外編

黒兎と塔の騎士

前編




「遠野さんとティアって、強いのか?」

 安藤智哉の言葉に、四人の少女はそれぞれドーナツをくわえたまま、静止した。
 四人とも目が点になっている。
 俺何か悪いこと言ったか? と首を傾げた。
 悪気はなかった。
 だが、四人の中で一番早く、蓼科涼子が解凍し、くわえていたドーナツを落として、般若の顔で安藤の胸ぐらを掴んだ。

「何言ってくれちゃってんの、このルーキー風情が!」
「いや、落ち着け蓼科……」
「セカンドリーグの全国チャンピオン『アーンヴァル・クイーン』と互角に渡り合えるのよ!? ティアは強いに決まってんでしょーが!!」
「それがさ……その……オルフェが勝っちゃったんだけど……ティアに」
「…………はあ?」

 T駅前、おなじみのミスタードーナッツの店先である。
 さすがに恥ずかしい状況なので、動き出した美緒たちが涼子を止めた。
 彼女は、師匠に心酔しているので、遠野たちを卑下する話題には、過剰に反応してしまう。
 渋々席に着く涼子。視線は安藤を睨んだままだ。
 安藤の隣にいた美緒が、涼子をなだめるように口を開く。

「オルフェが勝ったって……遠野さんたちと対戦したの?」
「ああ……こないだの土曜日、ちょっと早い時間で、みんないなくてさ……遠野さんから、アルトレーネと対戦したことないから、やってみないかって」
「それで、ティアが負けた、って?」

 ちょっと信じられない、有紀は目を見開いた。
 安藤は頷く。
 涼子がイスに背を預け、投げやりに言った。

「練習してたんでしょ。遠野さんは勝敗に頓着しない人だから」

 涼子は以前、遠野に言われたことがある。
『勝敗よりも、問題点を見つけることが大切だ』と。
 あのときの言葉は、涼子と涼姫にとっての座右の銘だ。
 安藤は、その涼子の言葉にも頷いた。

「それも分かってるよ。クイーンと伝説的なバトルをしたことも知ってる。
 だからこそ、遠野さんとティアが真剣に戦ったら、どれだけ強いのか、どんな戦いになるのか、興味があるんじゃないか」

 ふーむ、と美緒たち四人は腕組みして考え込んだ。
 確かに、ティアの強さを伝えるのは難しい気がする。
 実際に見るのが一番なのだが、遠野は全力の真剣勝負をあまりしない。
 しかし、安藤はしばらく後に、それを目の当たりにすることになる。



 ……墓穴を掘った。
 俺はゲーセンの定位置である壁際に背をつき、額を押さえて落ち込んでいた。
 オルフェとクインビーの対決からしばらく後の週末である。
 あの日、俺は武装神姫のチームを作ることにした。

 ここ『ノーザンクロス』では、バトルロンドのチームを作るのがはやりだ。
 チームを組むことのメリットは、仲間意識が強くなるだけではない。チームメンバーなら、練習のお願いもしやすいし、戦い方の研究や情報の交換にも役に立つ。
 また、対戦もチーム形式で行える。バトルの幅が増え、楽しみも増す。
 チームバトルの魅力にとりつかれた常連さんたちが、こぞってチームを組んだ。
 俺もいくつかのチームに誘われたが、いずれも断った。
 久住さんと大城が「チームを組もう」と言い出したときにも保留にしていた。
 俺にとってメリットがないと思っていたからだ。
 現状維持でも、俺が武装神姫に求めることは達成できると考えていた。
 だが、先日の事件で少し考え方を変えた。
 チームを組めば、おいそれとチームメンバーが理不尽な目に遭うことも抑止できるのではないか。
 そう考えて、チームを結成することにしたのだが……。

「墓穴を掘った……」

 今度は口に出して言う。
 チームを結成してからこっち、俺は自分のバトルをろくにしていない。
 忙しすぎるのだ。
 チーム結成直後は、チームに入れてほしいという希望者が続出した。
 それらはすべて断った。チームを大きくする気はないからだ。
 それで一苦労した。

 だが、今度は俺のチーム宛にチームバトルを申し込んでくる連中が続出した。
 それもすべて断った。
 そもそも自分を含めたチームメイトを保護する意味が強いチームだし、チーム戦ができるほど、まだチームとしての熟成が足りていなかったからだ。
 それでもう一苦労した。

 チームのみんなは、俺の考えをよく理解してくれているから、何も言わなかった。
 こぢんまりとした俺のチームがなぜこうも注目されるのか、と疑問に思ったが、よく考えてみれば、あの『エトランゼ』と現ランバトチャンピオンと、三強を倒したルーキーがいるチームなのだから、目立って当然か。

 そんな事務処理に追われながら、今度はチームメイトのよしみで、バトルの相談に乗ったりしている。
 だが、今度はそれも遠慮がなくなってきている。
 特に蓼科さんは俺の一番弟子を自称している(認めたくないが)ので、ひっきりなしに話しかけてくる。
 それに負けじと、成長著しい安藤が、バトルのアドバイスを求めてくる。
 そこに他のチームメイトも加わるのだから、正直いい加減にしろと言いたくなる。
 だから、

「おーい、遠野、虎実の空中戦の機動なんだけどさー」
「大城、貴様もかっ」

 と言って、大城を邪険にあしらうのも、無理からぬことと思ってほしい。

「まあまあ。それだけ遠野くんがみんなから信頼されてるってことじゃない」

 隣にいる久住さんが、そう言って笑う。
 ……本当にそうだろうか。 
 いいように使われているだけのような気がするのは気のせいか。

「ところで、ミスティの変形のタイミングなんだけど……」
「君もかっ」

 なんだか誰も信じられなくなりそうな、日曜の昼下がりである。  
 気分は墓に片足を突っ込んでいる感じだったが、平穏な日々ではあった。
 そこに、珍しい客が現れた。



 ゲームセンター『ノーザンクロス』の入り口が開き、新たな客が入ってくる。
 その客に気づいた武装神姫コーナーの常連さんたちが、にわかにざわめきはじめた。
 それに気が付いて、俺はふと視線を上げる。
 その人物は、いつものように人の良さそうな笑顔で、俺に向かって手を挙げた。
 肩には、輝くばかりの存在感を放つ、銀髪の神姫。

「高村……」
「遠野くん、ご無沙汰してます」

 俺と高村優斗は握手を交わす。
 俺の胸ポケットから、ティアがひょっこりと顔を出した。

「こんにちは、雪華さん」
「ごきげんよう、ティア」

 高村の肩にいた銀髪のアーンヴァルは、鮮やかな笑みでティアに応えた。
 まわりにいる誰かからため息が聞こえた。
 隣にいた久住さんたちも、高村と雪華に挨拶する。
 彼がここを訪れたのは、おそらくティアと雪華の一戦以来だろう。
 久住さんにとっても久しぶりの再会であるはずだ。

「それで、高村。今日はどうした、こんなところまで。
 ……それに、そちらは?」
「今日は、彼と彼の神姫を紹介したくて、来ました。……鳴滝くん」

 高村の呼びかけに、一歩後ろにいた男性が前に出る。
 体の大きい短髪の青年だった。
 堂々とした印象。
 ラフな服装の上からでも、鍛え上げた筋肉が見て取れる。

「鳴滝修平です」
「……遠野貴樹です。よろしく」
「お噂はかねがね」
「……はあ」

 俺と鳴滝は握手を交わした。物怖じしない性格のようだ。
 鳴滝の肩には、神姫がいた。
 見たところ、騎士型サイフォス・タイプのカスタム機のようだ。
 不機嫌そうな顔で、こちらをやぶにらみである。
 マスターである鳴滝の態度とまるでちぐはぐだ。

「というわけで、今日は鳴滝くんのランティスと、遠野くんのティアで対戦してもらいたいんです」

 そう言う高村は、相変わらずにこにこと笑っている。
 鳴滝は力強く頷き、そして俺は首を傾げた。



「なあ、今遠野さんと話してる人……みんな注目してるけど、誰なの?」

 安藤が話しかけた美緒と他三名も、やはり遠野たちの会話に釘付けになっている。
 涼子はそれを聞いてため息を付いたが、美緒が丁寧に教えてくれた。

「高村優斗さんと、その神姫で雪華。二つ名は『アーンヴァル・クイーン』。現セカンドリーグ全国チャンピオンよ」
「クイーンの雪華って……あの、ティアとすごいバトルをしたっていう……!?」
「そう」

 美緒はあっさりと頷いた。
 あれがあの『アーンヴァル・クイーン』なのか。
 安藤の目は、ひときわ存在感を放つ、銀髪の神姫に吸い寄せられる。
 雪華と呼ばれる神姫は、人の目を引きつけずにはおかない何かを備えているように思えた。



「彼の神姫、ランティスは強いですよ。近接戦闘に限れば、秋葉原でも最強クラスです」
「ふむ……」

 高村はそう言うが、俺はなおさら首を傾げざるを得ない。
 武装神姫の対戦のメッカ・秋葉原で、近接限定ながらも最強クラスなら、対戦相手に事欠かないはずだ。
 なのに、なぜ東京から離れたゲームセンターまでやって来て、ティアとの対戦を望むのか?
 その疑問をぶつけてみると、高村はあっさりこう言った。

「ランティスに挑む相手は、もう秋葉原にはいないのです。彼女はあるステージにおいて無敵を誇ります」
「無敵……?」

 秋葉原で、特定のステージ限定とはいえ無敵とは……。
 それはある意味、全国大会優勝ほどの実力ではないのか。

「……どのステージか聞いてもいいか」
「それは塔のステージさ。塔においては無敵ゆえに、こうあだ名された。『塔の騎士』あるいは『ナイト・オブ・グラップル』と」

 鳴滝が穏やかな表情のまま、さらりと答えた。
 肩にいるランティスは、いまだに不機嫌そうな表情を崩さない。
 彼女はずっと俺の方を……いや、どうやら俺の胸ポケットにいるティアを睨みつけている。
 と、大城が珍しく小さな声で口を挟んだ。

「塔の騎士・ランティス……?
 聞いたことあるぞ。秋葉原で無敵のサイフォス・タイプで、その特徴は……武器を持たずに、徒手空拳で戦うって……」

 大城は神姫プレイヤーの情報に詳しい。
 だが、秋葉原ローカルの神姫まで知っているとは、なかなかの精通ぶりじゃないか。
 高村と鳴滝は頷いた。
 大城の情報は正しいようだ。
 しかし、俺には不可解な点がある。
 いくら近接格闘戦が得意な騎士型とはいえ、セットにある多彩な武器を使わず、素手……つまり、格闘術を使った肉弾戦で戦うというのは、いささか無謀ではないか。
 しかも、塔のステージでは無敵を誇るという。
 にわかには信じがたい。

「塔で無敵って……たとえば、アーンヴァルなんかの飛行タイプを相手にしてもか?」
「もちろん」
「ゼルノグラードのように、銃火器の塊相手でも?」
「言うまでもなく」
「ストラーフのように、サブアームで手数を稼ぐ相手でもか」
「当然です」

 高村は俺の言葉にいちいち頷いた。

「塔のステージは、いささか特殊です。塔で最高のパフォーマンスを発揮できる神姫を考えたときに、一番に思いついたのがティアだったんですよ」
「噂は聞いてます。地上戦用の高速機動型で、その戦闘スタイルは唯一無二。そして、『クイーン』を破った、と」

 俺は、鳴滝の神姫以上に、不機嫌そうな顔をした。
 雪華はティアに負けたと言っているが、実際の試合結果ではティアが敗北している。
 クイーンに勝った、などという風評は、俺にとっては好ましいものではない。
 そんなことを考えていると、鳴滝の肩から、声がした。

「娼婦風情が、我が女王を倒したなど……世迷い言にもほどがある」

 俺は思わずランティスを睨んでいた。
 ティアが俺の胸ポケットで、身体をびくり、と震わせたのだ。
 ランティスは苛烈ともいえる視線で、ティアを睨んでいた。
 そんな神姫を、マスターの鳴滝がたしなめる。

「おい、ランティス……その言い方はないだろう」
「いいえ、師匠。我が女王の強い勧めがあったから、このような辺鄙な場所に来ましたが……あそこの気弱な娼婦が、わたしの相手足りうるなど、到底思えません」

 もはやそんな言葉に動揺する俺とティアではないが、初対面の神姫にそう言われて、いい気分はしない。
 鳴滝の物腰とは対照的に、不機嫌の度をますます強めるランティス。
 そこへ、雪華の静かな叱責が飛んだ。

「ランティス、たとえあなたであろうとも、ティアへの侮辱は、このわたしが許しませんよ」
「え……あの、女王……」
「ティアは我が友であり、我がライバルです。あなたがわたしに見せる忠誠と同じように、彼女にも敬意を払うべきです」
「しかし……あれは娼婦です。あのような下賤な……」
「お黙りなさい!」

 雪華が珍しく厳しい口調で怒鳴る。

「そのようなことに囚われているから、あなたは井の中の蛙だというのです。今のあなたのバトルは卑しいというのです」
「そ、それは言い過ぎではありませんか、女王!」

 雪華の言いように、ランティスは気色ばむ。
 どうやらランティスは、『アーンヴァル・クイーン』に仕える騎士を気取っているらしい。
 だとすれば、辺鄙なゲーセンに棲む、人に言えない過去を持つ神姫に対し、敬愛する女王が下へも置かない扱いというのは、納得が行かないのも道理か。
 ランティスはなおも食い下がる。

「わたしにも自負があります。相手は高速機動型とは言え、地上戦用。塔であれば後れを取ることはありえません!」
「その増長が卑しいというのです」
「女王!」
「わたしの物言いに不満があるならば、ティアとバトルなさい。きっと今のあなたに足りないものを教えてくれるでしょう」

 あくまで不遜な態度を崩さない雪華。
 ランティスは雪華のつれない態度に呆然とし、そしてティアへの憎悪を露わにした。
 苛烈な視線が俺の胸ポケットへと向けられる。
 ティアははらはらした表情で、雪華とランティスを見比べていた。
 雪華はやわらかな微笑みを浮かべ、ティアを見て言った。

「ティア。お手数ですみませんが、このランティスに稽古を付けてやってもらえませんか?」
「……え? あ、あの……えと……」

 戸惑うティア。
 そして、ランティスがついに切れた。

「……いいでしょう。そこな神姫を完膚なきまでに打ち砕いてご覧に入れます。
 師匠! マッチメイクを!」

 マスターである鳴滝は肩をすくめ、苦笑しながら言った。

「……ということなんだが……ランティスの無礼な物言いは謝る。すまん。
 で、改めてバトルを申し込みたい。どうかな?」

 ランティスとは違い、鳴滝は柔軟だった。
 ランティスの物言いに、正直ムカつくところもあったが、鳴滝は謝ってくれたし、高村と雪華がわざわざここまでやって来て、バトルのセッティングをしようというのだ。
 しかも相手は、近接戦闘では秋葉原最強の神姫。
 神姫プレイヤーとして、受けなければなるまい。

「ティア、行けるか?」
「マスターが戦いたいというならば、いつでも」

 胸ポケットのティアに尋ねれば、いつもの答えが返ってくる。
 俺は頷いた。

「OKだ。バトルしよう」
「よかった」

 笑って言った鳴滝の肩から、ランティスが続けて言う。

「ステージは『塔』を希望する」
「塔、か……」
「……何か不服でも?」
「いや……ちょっとトラウマがな……」

 以前俺たちが経験した塔でのバトルは、あまり思い出したくない。
 そばにいた仲間たちも、少しうんざりとした表情をしている。
 だが、俺は気を取り直して言った。

「いいだろう。塔のステージで受けて立つ」

 俺がそう言った瞬間、周囲から歓声が上がった。
 いつの間にか、俺たちのまわりに多くのギャラリーが集まっていた。



 バトル直前。
 サイドボードに納める装備を吟味しながら、マスターはわたしに言った。

「相手は近接戦闘のプロフェッショナルだ。ちょうどいい機会だ。練習させてもらえ」
「で、でも……ランティスさんはそういう雰囲気じゃなかったみたいですが……」

 筐体を挟んだ向こう側のアクセスポッドから、いまだ剣呑な視線がわたしを突いている。

「むしろ好都合だ。こんな草バトルなのに、向こうは真剣勝負で来てくれる。こんなチャンスは滅多にない」
「はあ……」

 マスターは楽しそうだ。
 その相手に睨まれてるのはわたしなんですけど。
 ランティスさんに、圧倒的な力でねじ伏せられるとは、マスターは考えないのだろうか?
 ランティスさんは、近接格闘戦のみなら、秋葉原で最強クラスだという。
 ということは、近接格闘戦でなら、雪華さんをもしのぐ、ということではないのだろうか?
 しかもステージは『塔』。
 地上戦闘用の神姫同士ならば、丸く区切られた、何の障害物もない、まるで円形闘技場のような場所でのバトルになる。
 小細工の入る余地もない、真っ向勝負になる。
 そんなステージで無敵のランティスさんとわたしで勝負になるのだろうか。
 そんなことを思いながら、マスターを見上げる。
 するとマスターは微笑んでくれた。

「心配するな。いつも通りにやればいい」
「はい……って、サイドボードに火器が登録されていませんけど……?」
「ああ、相手は武器を持たないんだろ? だったらせめて、近接武器だけにしておくのが礼儀と言うものだろう」
「どこがいつも通りなんですかっ」

 マスターが相手を侮っているとも、面白がっているだけとも思えないけれど。
 相変わらずマスターの考えはわたしにははかりしれない。

「よし、はじめよう」

 わたしと筐体が形作るバーチャルフィールドをつなぐ、アクセスポッドが閉じてゆく。
 外の光は、細い一筋の線となり、やがて真の暗闇に包まれる。
 一瞬の浮遊感。
 意識される対戦カードの文字列。

『ティア VS ランティス』

 次に目を開いたとき、わたしは巨大な塔の中にいた。
 そして、わたしの視線の先。
 ランティスさんの姿があった。



「ナイフ……?」

 ランティスさんはわたしを睨みつけながら呟く。
 わたしの手には、大振りなコンバットナイフが一本。
 逆手に持って構える。
 ランティスさんのまなじりが、さらにつり上がった。

「貴様ッ……銃器も持たずに……舐めてるのか!?」
「いえ、その……マスターの指示で……」
「ふざけるなッ!! もう許さん……一気に決めてやるッ!!」

 ランティスさんはそう言うと、両手を顎の前に構え、そのままわたしに向かって突進してきた!
 一足飛びに距離を詰めてくる。
 わたしはまだ動き出せずにいる。
 右ストレートのパンチ。
 ランティスさんの、分厚い手甲を着けた腕が、大気を裂いた。

「ハァッ!!」
「わわっ!?」

 これほどに速いパンチははじめてだった。
 わたしはなんとかかわすだけで精一杯。
 でも、ランティスさんの動きは止まらない。
 パンチを繰り出した姿勢から、上体を崩し、身体を回転させる。
 わたしは瞬時にランティスさんの意図を悟った。
 これはわたしが得意とする格闘技と動きが同じ。
 このあと、ランティスさんの脚が跳ね上がり、かかとがわたしを狙い打つはず。
 はたして、彼女の脚部アーマーに覆われたかかとが空を切る。

「むっ……」

 ランティスさんが姿勢を戻したときには、わたしはすでに彼女の攻撃範囲から逃れ、間合いを取っていた。
 そうでなければ危ない。
 ランティスさんのパンチもキックも、神姫を一撃で破壊するに足る威力を持っている。

「少しはやるようだな……」

 ランティスさんは落ち着いた口調でそう言うと、わたしの方を向いて構えを取った。
 彼女の装備は、騎士型サイフォス・タイプの軽装アーマーのアレンジ。
 銀色の装甲が鈍く光る。
 隙のないその構え。
 ランティスさんの姿が何倍にも大きく見える。
 わたしも腰を落として構える。
 そして、走り出した。








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