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ウサギのナミダ・番外編

少女と神姫と初恋と

その3



 翌朝。
 昇降口で上履きに履き替えようとしたところで、呼び止められた。

「おはよう、八重樫!」
「あ……おはよう、安藤くん」

 今日は普通に笑えているだろうか。
 そんなことばかり気になってしまう美緒である。
 昨日の今日で、安藤とはずいぶん距離が縮まった、ような気がする。
 ほら、今も彼の顔がすぐ間近に……

「……って、うわぁ!」

 安藤の端正な顔がすぐ隣にあって、思わず飛び退いてしまった。
 だが、安藤はいたって普段通りの様子で、不思議そうにこちらを見ている。

「どうかした?」
「え、えと……なんでも、ない……」
「そっか。昨日はありがとな。助かったよ」
「そんな……大したことしてないし」
「それでさ、よかったら今日の昼休みも付き合ってくれないか? 聞きたいことが山ほどあってさ」
「うん……」

 当然、美緒に断ることができようはずもない。断る理由もない。
 美緒が小さく頷くと、安藤はさわやかな笑みを浮かべた。

「じゃあ、昨日と同じ、屋上で。よろしくな!」
「うん」

 安藤は颯爽と朝の廊下を歩いていく。
 その背中が、なんだか美緒にはまぶしく感じられた。
 美緒はしばらくその場に立ち尽くしてしまっていた。
 頭がぼーっとしている。
 これは何という夢の続きなのだろうか……。

「みーお」

 そんな美緒を一瞬にして現実に引き戻したのは、背後から聞こえてきたハスキーな呼び声だった。
 声に聞き覚えはありすぎる。
 美緒はものすごい勢いで振り向く。
 はたして、そこには、彼女の親友である三人、有紀、涼子、梨々香の姿があった。
 三人とも、なんとも言えない笑みを口元に浮かべつつ、目を細めながら、なまあたたかーい視線で美緒を見つめていた。

「あ、あ、あなたたちっ……!?」
「ほほーう、昨日一日でずいぶん進展したようですなぁ、涼子さん」
「そうですねぇ。ゲーセンで待ちぼうけしていたかいもあった、というものでしょうか、梨々香さん?」
「もう、いやですわねぇ、お二人とも。それを口にすることこそ野暮と言うものですわよ?」

 美緒は背中にいやな汗が流れていくのを感じた。
 三人は、昨日美緒がゲーセンに顔を出さなかったことを怒っているのだろうか?
 いや、そうではない。
 これはもっとたちの悪い何か。
 そう、三人は面白がっているのだ。
 だから、美緒は弁解する言葉さえ失ってしまう。
 美緒がムキになって言葉を重ねるほど、泥沼に陥ってしまうだろう。
 この親友たちは、たちが悪いことでは折り紙付きだ。

「なに落ち込んでるんだよ、美緒。あたしたちはアンタの味方だよ?」
「そうそう。あなたを応援してるわ。リーダーの美緒には、幸せになって欲しいから」
「大丈夫。わたしたちに任せて。安藤くんとうまくいくように、三人で全力でフォローするからね!」

 激励が猛烈な不安と化して、重く肩にのしかかってくるのはなぜだろう。
 美緒は重たいため息を一つついた。
 そして、親友たちに教室まで連行された。 

 有紀たち三人が、朝から美緒を囲んだのは、何もからかうためだけではない。
 学年女子のアイドル的存在の安藤には、過激派的な自称恋人候補が、少数ではあるが存在する。
 朝の昇降口での、美緒と安藤の親密さを見れば、過激派が美緒を女子トイレあたりに拉致する危険性は確実にある。
 そこで三人は先回りして、高校の最寄り駅から、登校中の美緒を尾行していたのだ。
 四人揃っていれば、過激派たちもおいそれとは手が出せないはずだ。
 面白がってからかってはいても、やはり美緒は彼女たちのリーダーであり、大事な親友であった。



 安藤を狙う女子連にとって、八重樫美緒はもはや最重要人物になっていた。
 彼女たちは早朝より、情報収集と共有を行っていた。
 そして、昨日の放課後に安藤と美緒の間になんらかの事象があり、二人の仲が深まったと結論づけられた。
 今朝の安藤と美緒のランデブーとその会話の内容についても、朝のホームルームまでには情報共有が済まされていた。
 一部の過激派が、八重樫拉致に動きかけたが、八重樫美緒には私設の護衛が張り付いており、強襲作戦は失敗に終わっている。
 その結果を受け、女子連は休戦協定を無期延長。共通の仮想敵である八重樫美緒の動向を探り、可能であればこれ以上の侵攻阻止のために、団結することとなった。
 情報によれば、ターゲット・八重樫は、今日もまた安藤と、屋上で昼食を共にするようだ。
 昨日は会話が直接聞き取れなかったことが情報不足を招き、その後の対策が行えずじまいだった。
 だが、今日の女子連の動きは迅速かつ的確だった。
 昨日と同じ轍は踏まない。
 二人が落ち合う屋上のベンチを同じ場所に想定、盗聴器を仕掛ける。
 そして、安藤と美緒がそのベンチに座るように仕向けるため、手を打った。
 ある者は友達と誘い合って屋上で昼食を取る。
 ある者は部活の先輩に依頼して、カップルで屋上での昼食をするように仕向ける。 ある者は賄賂(パックの飲み物人数分)をクラスの男子生徒のグループに渡し、屋上での昼ご飯を依頼した。
 いつの間にか設置されていた美緒のクラスの作戦本部には、屋上の見取り図が用意され、次々と空きのベンチが塗りつぶされてゆく。
 そして午前の授業終了前に、作戦の準備が整った。
 もちろん、安藤と美緒の二人は、そんなことを知る由もない。



「おーい、八重樫、こっち!」

 昨日と同じように五分後に教室を出て、昨日と同じように安藤がベンチから手を振っていて、昨日と同じようにジュースのパックを彼からもらった。
 今座っているベンチも、昨日と同じだ。
 今日も快晴。
 屋上で昼食を取るには気持ちのいい日和である。
 安藤と一緒にいることにも慣れてきたのか、昨日よりは幾分緊張しないですんでいる美緒だった。
 今日も安藤は焼きそばパンをかじっている。
 美緒はいつもどおり手作り弁当だ。
 談笑しながらの昼食は、昨日よりも楽しく感じられた。
 こんな昼食が毎日続けばいいのに、と思うのは贅沢だろうか。
 いつも昼時を共にしていた三人の親友に、美緒は心の中で手を合わせて謝った。



 その三人は、やはり昨日と同じ階段ホールの陰から、美緒たち二人を見守っている。
 もちろん、周りには、クラスメイトの女子たちが陣取っていた。
 有紀は小型のワイヤレスヘッドセットに耳を傾ける。
 携帯端末の電波の受信域をあわせ、盗聴器からの音声を拾い、聞いているのだ。
 感度は良好。
 その場にいる誰もが、二人の会話を盗み聞いていた。
 涼子が小さく呟く。

「スパイ大作戦も真っ青ね」
「なんだそりゃ?」
「古い海外ドラマ」

 有紀は、涼子の意味不明の呟きに首を傾げたが、すぐに忘れてしまう。
 今は二人の動向の方が重要だ。
 有紀はヘッドセットに注意を傾けながらも、視線をベンチの方へと送った。



「……それで、今日の相談は?」

 美緒が水を向けると、パックを置いた安藤が、待ってましたとばかりに、傍らに置いた包みを取り上げた。
 どこかの書店の紙袋のようである。

「昨日の帰りに、本屋に寄って、神姫関係の雑誌を買ってきたんだ」
「へえ」
「それで、書いてあることで分からないことが多くてさ……」

 えてして、専門の雑誌というものは、初心者の読者に優しくない。
 情報の鮮度を優先し、専門用語や知識を解説することはないからだ。
 さもありなん、と美緒は頷いた。

「それで、帰ってから姉貴に思い切って雑誌見せてみたんだ」

 安藤が取り出した雑誌は二冊。
 今表紙が見えているのは、週刊バトルロンド・ダイジェストの最新号である。

「お姉さん?」
「そう。そしたら、この雑誌のバックナンバー押しつけられてさ。
『読め、そして泣け!』とか言って、わけわかんねー。
 雑誌記事で泣くとか、なんだそりゃって感じだよな」

 そして安藤は、そのバックナンバーを最新号の下から取り出す。
 その表紙を見て。
 美緒は今度こそイチゴミルクを吹き出した。



「ああ、もう美緒ちゃんったら……ジュースを吹いたりしたら、台無しじゃない。ここまで上げてきた好感度が急降下よ、もう」

 一部始終を見ていた梨々香の感想である。
 梨々香たちがいる階段ホール裏からでは、くだんの雑誌の表紙は見えない。

「いったい、何の表紙だったのかしら……」

 涼子が呟く視界の中で、美緒が猛烈にむせていた。
 すると、隣にいる安藤が、美緒の背中に手を当てた。
 周りにいる女子連中の、息を飲む気配。
 有紀は小さくガッツポーズした。



「ごほっ、ごほっ、えほっ」
「大丈夫か、八重樫」

 さすがにみっともなくて、美緒は泣きたい気分だった。
 でも、背中をさすってくれる安藤の手は優しい。
 しばらくして、呼吸も元に戻ってくる。
 もう大丈夫、と言って、安藤からバトルロンド・ダイジェストのバックナンバーを受け取った。
 表紙に写る二人の神姫。
 美緒はそのうちの一人を撫でるように、そっと指で触れた。
 感慨は深い。
 表紙の写真は、『ハイスピードバニー』ティアと『アーンヴァル・クイーン』雪華が抱き合っている様子だ。

「八重樫は、この神姫たちを知っているのか?」
「うん……よく知ってる」

 この場面に、美緒は立ち会っていた。
 神姫マスターとして、決して忘れられない大切な出来事だった。

「この二人は、わたしとパティが一番尊敬する神姫なの。
 この時の出来事は、よく知ってるわ。この前のことも、その後のことも……」
「八重樫……泣いてる?」
「え……?」

 いつの間にか、美緒の瞳から頬に涙の筋が通っていた。

「や、やだ……ごめんね……泣くつもりなんて……」

 美緒はあわてて目をこする。
 無意識のうちに涙がこぼれた。
 美緒の中には、あの事件に対し、関わることができたことへの誇らしさと、自責の念がある。
 表紙のティアを見て、そんな複雑な感情が溢れてきたのだった。

「その泣いてる方の神姫さ……姉貴が大ファンらしいんだよ」
「え、そうなの?」
「やっぱ、ウサギだからなのかな……ああ見えてウサギ好きでさー」
「へえ……」
「もしよかったら、この神姫のこと、教えてくれないか? 姉貴にも教えてやりたいし……オレも聞きたい」

 安藤に見つめられて、美緒は胸に手を当てる。
 大丈夫、感情の揺れはもう収まっている。
 新たに神姫のマスターになった安藤には、是非聞いてもらいたい。

「うん。話すね。この神姫……ティアのこと、そのマスターのこと。
 二人は……神姫とマスターの関係になるために、すべてを賭けて戦って……運命さえ覆したの」
「……大げさだなあ」

 肩をすくめて笑った安藤に、美緒はただ微笑みを返した。



 美緒は語り上手だった。
 彼女の記憶は再構成され、一つの物語として語られる。
 その物語の内容については、拙作「ウサギのナミダ」を参照されたい。
 彼女の口調はよどみなく、その柔らかな声に誘われ、物語世界に引き込まれていく。
 安藤も聞き上手だった。
 相づちを打ちながら、彼女の語りを止めないようなタイミングで質問したりする。
 それは聴衆の多数が疑問に思ったことで、説明が補足されて、さらに物語は鮮明になるのだった。
 いつしか、盗聴器に傾注していた女子連のほとんどが、美緒の語りに引き込まれていた。

「その男の出現に、ティアは動揺したと思う。
 ティアの過去を知る……いいえ、ティアにずっとひどいことをし続けた人物だったから。
 きっと、怖くて怖くて、仕方がなかったはず。
 だけど、彼女は一人じゃなかった。
 ティアのマスターは、その男に敢然と立ち向かったわ。
『ティアは決して渡さない』って言い切った。
 ティアの過去をばらされても……ティアは自分の神姫だって主張し続けた。
 彼にとってはもう、ティアはとても大切な存在になっていたの。
 だけど……その後、とんでもないことが起こった。
 その醜い男のせいで、二人は絶望の淵に追い込まれることになったのよ……」

 安藤がごくり、とのどを鳴らす。
 と、そのとき。
 全校にチャイムの音が響きわたった。
 午後の授業五分前の予鈴だ。
 美緒は小さく吐息をつく。

「あ……途中だけど、そろそろ教室に戻らなくちゃ」
「そうだな……」

 安藤と美緒はベンチから立ち上がった。

「なあ、八重樫」
「はい?」
「……今の話の続き、また明日にでも聞かせてくれないか」
「え?」
「だって、まだこの雪華とかいう神姫が出てきてないじゃんか。続きも気になるし」
「うん……いいよ」
「それじゃあ、また明日昼はここで!」
「うん」

 美緒は頷きながら、ようやく心からの笑みを安藤に向けることができた。



 階段ホール裏では、女子連中が全員ずっこけていた。

「な、なんちゅーとこで話切るのよ、あの子!」
「美緒……恐ろしい子!」

 あのゲーセンに通い詰めてでもいない限り、知る人ぞ知る話だ。
 女子連の誰も、ティアの話を知らない。
 続きがとても気になる。
 しかし、その話の続きを聞くには、明日、また安藤と昼食を共にすることを容認しなくてはならなかった。
 その場にいた、美緒の親友たちに話の続きを尋ねたが、三人ともニヨニヨと薄気味悪い微笑を浮かべるばかりだった。
 美緒本人に話の続きを語らせるという手もあったが、しかしそれでは、安藤との会話を盗聴したことがばれてしまう。
 彼女たちに選択肢はなかった。
 美緒と安藤の逢い引きを監視するという名目で、美緒の語りを聞くほかには。
 こうして、美緒がティアの物語を話し続ける限り、女子連は美緒に手出しできなくなったのだった。


◆ 

 高い空に、終業の鐘が鳴り響く。

「おーい、やえが」
「あーおわったおわった美緒今日はゲーセン行くか?いくよなよーしそれじゃあ今日は存分に対戦だレッツゴー!」

 し、と安藤が言い終えるよりも早く、有紀は美緒を抱えて、風のように教室を去った。
 その後を、自分と美緒の分の荷物を抱えた梨々香が、これまた風のように教室を出て行く。
 声をかけようとしていた安藤は、その場で硬直してしまっていた。

「残念だったわね、安藤」

 固まっている彼に声をかけたのは、旧知の女子・蓼科涼子である。
 二人が小学校からの知り合いで、お互いに気がないのは周知の事実だ。
 だから、うるさい女子連も、涼子が話しかけるときは、全く警戒していない。

「蓼科……なんなんだ、園田のヤツ」
「あなたが美緒を独り占めしてるから、嫉妬して拉致したのよ」

 安藤は思わず目を見開いていた。あの蓼科涼子が冗談を言っている。

「美緒に用があるなら、あとでT駅前のゲームセンター『ノーザンクロス』に来て」
「え?」
「あなたの神姫を連れてきなさい。武装も持ってね。美緒もわたしたちもそこにいるから」
「……なんで?」

 煮え切らない安藤に、涼子は眉根を寄せた。

「安藤はバトルロンドがしたいんじゃないの? そうじゃなきゃフルセットの神姫なんか買わないでしょう」

 フルセットの武装神姫とライトアーマーでは、マニュアルの大きさ、厚さが違う。
 昨日の昼休み、安藤が持ってきたマニュアルは、明らかにフルセットのものだった。

「まあ……そう、だけどさ……」
「だったら、つべこべ言わずに来るといいわ。バトロンのことも神姫のことも教えて上げる。……主に美緒が」

 最後の言葉だけ安藤に聞こえるように言って、涼子は踵を返した。
 安藤は首を傾げつつ、彼女の背を見送った。



「ちょ、ちょっと有紀……! いったい何なのよ!?」

 美緒は自分を小脇に抱える親友に抗議する。
 有紀は校門を出たところでようやく美緒を降ろした。
 下校する生徒たちの視線が痛い。

「おー、わりいわりい」

 有紀は悪びれる様子もない。
 後ろから、梨々香がとてとてと付いてきた。

「はい、美緒ちゃん」

 渡された荷物を仏頂面で受け取る。
 いったいなんなのか。
 親友二人の顔を睨むが、二人ともなま暖かいまなざしでニヨニヨと微笑するばかりで、何を考えているのかさっぱり分からない。

「まあ、そう睨むなよ。悪いようにはならないからさ」
「そうそう。とりあえず、ゲーセンいこ? そこで待ってれば分かるから」

 親友たちの言葉に、不安が増大するのはなぜだろう。
 ここに涼子がいないのも気にかかる。
 まさか安藤くんに何かあることないこと吹き込んでいるのではあるまいか。
 しかし、結局美緒は為すすべもなく、有紀と梨々香に連行された。
 ゲームセンターに着くまでの道のり、女同士の友情について、ひたすら考えていた。



 T駅前のゲームセンター『ノーザンクロス』は、安藤も知っている店だ。
 何度か友人たちと遊びに行ったこともある。
 バトルロンドが盛んで、美緒たち四人が入り浸っていることも知っていた。
 だが、一人で入るのは初めてだった。
 しかも神姫連れである。
 少しばかり戸惑って、足を進めるのに躊躇するのも致し方のないところであろう。
 安藤は、アルトレーネのパッケージを入れたスポーツバッグを手に、ゲーセンの前で立ち尽くしている。
 だが、そうしていても意味はない。
 意を決し、安藤はゲームセンターの自動ドアをくぐった。
 扉が開き、独特の喧噪に包まれる。
 入り口に配置されたプライズマシンやプリクラ機の筐体の陰から、大型ディスプレイの映像が見える。
 武装神姫同士のバトル。
 彼が目指すコーナーは一番奥にある。
 安藤は緊張した面もちのまま、歩を進めていく。

 バトルロンドのコーナーは予想以上に盛況だった。
 対戦台はすべて埋まっている。
 神姫連れで気後れしていた安藤であったが、そんな必要はどこにもないことがわかる。
 このコーナーにいる客は皆、堂々と神姫を連れているからだ。
 安藤はあたりをきょろきょろと見回した。
 探す人物とその仲間たちはすぐに見つかった。
 八重樫美緒と仲間たち。
 彼女たちはバトルロンドコーナーの壁際に陣取って、何事か話している。
 四人の視線は、すでにこちらを向いていた。
 安藤は四人の方へと歩いていく。

「言われたとおり、来たぞ」

 少し棘のある口調も仕方のないところだ。
 充分な説明もされずに呼び出された上に、美緒以外の三人はなにやら不気味な微笑を浮かべている。
 何か企んでいることは確実だ。

「ノーザンにようこそ」

 真顔に戻って涼子が言う。
 このゲームセンター『ノーザンクロス』は、客からノーザンと略される。
 安藤は涼子と視線を合わせた。

「いったい何なんだ。確かにバトルロンドやるつもりではいたけど、何を企んで……」
「ばかね。あのまま学校であなたと美緒が話し続けてたら、それこそ学校中の噂になってるわよ。だからゲーセンに来てもらったの。ここでなら、クラスメイトの横やりも入らないでしょう」
「う……」

 確かに、涼子の言うことは一理ある。
 バトルロンドをプレイしにゲーセンに来ていることにすれば、美緒たちと話していても何の問題もないし、よけいな横やりも入らない。

「おまえらもバトルロンドをやるのか」
「ったりめーよ! あたしたちはここじゃ『LAシスターズ』で通ってるんだぜ?」

 有紀は安藤に胸を張って見せた。
 確かに、美緒たち四人は最近、『LAシスターズ』あるいは『シスターズ』と呼ばれている。
 LAはライトアーマーの略だ。
 ライトアーマー神姫を操る四人組の少女たちは、もともと目立つ存在だった。
 最近は陸戦トリオと一緒にいることでさらに注目を集めているし、めきめきと実力を上げてきていて、一目置かれるようになってきている。
 それで、いつの間にか誰かが、LAシスターズと呼ぶようになっていたのだった。

「そうか、それなら教えてくれよ、バトルロンド」
「いいとも。マンツーマンで教えてやるよ。……講師は美緒で」
「え……ええぇっ!?」

 有紀の言葉に泡を食ったのは、美緒本人だった。

「あ、あの、な、なんでわたし!?」
「えー? だって、あたしたちん中じゃ、パティが一番強いしー」
「わたしの涼姫はオリジナル装備だから邪道だしー」
「ここはやっぱり、リーダーの美緒ちゃんの出番でしょ!」

 もっともらしい解答を並べた有紀、涼子、梨々香は、一様になまあたたかーい視線で美緒を見ていた。
 楽しんでる……絶対楽しんでる。
 もはや女同士の友情を疑わざるを得ない美緒だった。
 それでも、

「それじゃ……引き続きよろしくな、八重樫」

 と安藤くんが笑顔で言ってくれたから。
 美緒は頷いてしまうのだった。



 それが火曜日の話で、それから毎日、安藤はノーザンクロスにやってきて、バトルロンドをプレイした。
 安藤は最初から目立っていた。
 彼の神姫・オルフェが、今話題のアルトレーネ・タイプだったこともある。
 彼につきっきりでレクチャーしているのは、LAシスターズの面々だ。
 実はシスターズは、このゲーセンでは密かに人気を集めている。美少女ぞろいなのだから、それも当然というものだろう。
 ノーザンクロスの常連たちが、そんな安藤を放っておくはずもなかった。
 新しいプレイヤーと知って、好意的に話しかけてくる常連もいた。
 目立っている彼の鼻っ柱を折ってやろうと、強気に挑んでくるプレイヤーもいた。
 しかし、いずれのプレイヤーたちとも、対戦後には仲良くなっている。
 安藤は人がよく、謙虚な姿勢で、むしろ彼の方から教えて欲しいと頼んでくる。
 彼の謙虚さと向上心溢れる姿勢に、常連たちは皆好感を持ち、すぐに打ち解けた。
 こうして、週末前の金曜日には、安藤はすっかりノーザンクロスの常連たちの仲間に入っていた。
 彼とシスターズを中心に、和やかな笑い声が聞こえてくる。
 しかし、それを快く思わない者もいた。

「チッ……安藤のヤツ……ゲーセンでも調子に乗りやがって……」

 そう呟いた少年の名は、蜂須英夫。
 ノーザンクロスにおける『三強』の一人で、『玉虫色のエスパディア』の異名を取る神姫マスターである。








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