そこは。
意外なほどに広い空間だった。
「……」
部屋の中央には、黒衣の神姫。
忍者装束をモチーフにした装甲衣と背後に広がる漆黒の翼。
「……」
白脱した虚無を思わせる切りそろえられた銀髪。
そして。
「……ようこそ、5年越しの挑戦者達よ」
静かに降り積もる深雪を想起させる涼やかな声。
「土方真紀の武装神姫、フブキ。……だな?」
「ええ」
祐一の問に、静かに頷きフブキは背中の翼を広げた。
「私が、最後の『敵』です」
「……なるほど」
最早、祐一には全てが明白だった。
直に彼女と出会うまでは保留にしておいた問いに、最終的な解答が出る。
「アイゼン」
「……ん」
行くぞ。と、言うまでもない。
祐一のように、この状況を完全に理解した訳ではないだろうが、それでも彼女は彼の判断に疑問を差し挟みはしなかった。
「……」
無言のまま、アイゼンは無骨なザバーカを一歩前へと踏み出す。
「何も聞かないのですね?」
「負けるまで、答える気無いだろ?」
ふふふ。と幽かに笑い、フブキも同じく一歩踏み出す。
「話が早くて助かります」
「……」
フブキと、アイゼンとが、ほぼ同時にそれぞれの武器を構えた。
奇しくも双方、双刀。
アイゼンは何時ものアングルブレードに、大小組み合わせたフルストゥを副腕に持ち、近接戦に備えている。
対するフブキも刀型の剣を両手に一つずつ持ち、明らかに接近戦を意識していた。
「開始の合図は要るか?」
冗談めかして投げかけた祐一の問に、しかしフブキは神妙に頷く。
「お願いしましょう。……それが、貴方がたの流儀でしょうから……」
「……?」
アイゼンの表情に、一瞬だけ戸惑いのような物が生まれ、すぐにそれを押し殺す。
元より、余分な考え事をしながら戦える相手ではない。
「……それじゃあいくぞ。……ゲットレディ」
僅かに屈み、突進に備えるアイゼンとフブキ。
「―――GO!!」
そして、最後の戦いが始まった。
意外なほどに広い空間だった。
「……」
部屋の中央には、黒衣の神姫。
忍者装束をモチーフにした装甲衣と背後に広がる漆黒の翼。
「……」
白脱した虚無を思わせる切りそろえられた銀髪。
そして。
「……ようこそ、5年越しの挑戦者達よ」
静かに降り積もる深雪を想起させる涼やかな声。
「土方真紀の武装神姫、フブキ。……だな?」
「ええ」
祐一の問に、静かに頷きフブキは背中の翼を広げた。
「私が、最後の『敵』です」
「……なるほど」
最早、祐一には全てが明白だった。
直に彼女と出会うまでは保留にしておいた問いに、最終的な解答が出る。
「アイゼン」
「……ん」
行くぞ。と、言うまでもない。
祐一のように、この状況を完全に理解した訳ではないだろうが、それでも彼女は彼の判断に疑問を差し挟みはしなかった。
「……」
無言のまま、アイゼンは無骨なザバーカを一歩前へと踏み出す。
「何も聞かないのですね?」
「負けるまで、答える気無いだろ?」
ふふふ。と幽かに笑い、フブキも同じく一歩踏み出す。
「話が早くて助かります」
「……」
フブキと、アイゼンとが、ほぼ同時にそれぞれの武器を構えた。
奇しくも双方、双刀。
アイゼンは何時ものアングルブレードに、大小組み合わせたフルストゥを副腕に持ち、近接戦に備えている。
対するフブキも刀型の剣を両手に一つずつ持ち、明らかに接近戦を意識していた。
「開始の合図は要るか?」
冗談めかして投げかけた祐一の問に、しかしフブキは神妙に頷く。
「お願いしましょう。……それが、貴方がたの流儀でしょうから……」
「……?」
アイゼンの表情に、一瞬だけ戸惑いのような物が生まれ、すぐにそれを押し殺す。
元より、余分な考え事をしながら戦える相手ではない。
「……それじゃあいくぞ。……ゲットレディ」
僅かに屈み、突進に備えるアイゼンとフブキ。
「―――GO!!」
そして、最後の戦いが始まった。
鋼の心 ~Eisen Herz~
第35話:ネメシス
「―――砕!!」
先手は、当然のようにフブキ。
反応速度も、敏捷性も、移動力も。
凡そ『速さ』と区分できるあらゆる性能が、敵対するアイゼンの比ではない。
両腕を万歳するように掲げ、大上段から二本の刀を同時に振り下ろす。
≪system“Accelerator”starting up≫
対するアイゼンは、初手からアクセラレータ。
フランカーから移植された思考加速装置を起動、フブキに追従する反応速度を得る。
AIにかかる負担から、戦闘時間は大幅に短くなるが、コレ無しでは戦闘以前の段階で勝負にならない。
「……っ!!」
性能差の割には必要とする加速度が低い為にアイゼンを苛む頭痛も鈍いが、フブキに対しては、ある程度の事前情報があり、それなりに行動を予測できる為、この程度でなんとか対応範囲に持ち込める。
辛うじて副腕のナイフで双刀を外側に弾き、素体腕で持ったブレードを左右から挟みこむように振るう。
「…疾ッ」
即座にフブキがアイゼンの胸を蹴って離脱。
悪魔型のブレードは空を切る。
直前。
「……行けぇ!!」
そのまま、ブレードが前方に投擲された。
「ほぅ?」
軽く驚きながらも、フブキは双刀で投擲された2本のブレードを弾き飛ばした。
直後。
「む?」
更に、重なるように投擲された刃が4本。
アイゼンが、分解されたフルストゥを両の腕と副腕とで、すかさず射出したのだ。
「初手から武器を全て捨てるか!?」
だが、それぐらい意表をついた攻撃で無ければ、最強の神姫相手に戦いの主導権は握れない。
フブキは一瞬。
ほんの僅かな間だけ判断に迷う。
羽手裏剣での迎撃は、投影面積の薄い刃を打ち落とすには不向き。
かといって避けようにも、アイゼンを蹴り飛ばした直後で宙に浮いている状態では緊急回避は出来ない。
刀で弾こうにも、僅かずつタイミングをずらして投擲された刃は、まるで列車のように同じ軌道を時間差をつけて飛来するため、全弾弾く事は不可能。
ならば。
「防ぐまで!!」
体の前で翼を閉じて構成する分子機械を再配置。
堅牢な殻を形成しそれを盾とする。
ダダダダ、と刃が翼の表面に突き刺さるが、分子機械で多層構造を形成された防壁は貫通をゆるさない。
この時点でようやく、アイゼンを蹴って飛びのいた滞空から着地するフブキ。
刺さったナイフを振り落とす為に勢いよく翼を広げ、開けた視界に。
「……ふっ」
チーグルを振りかぶったアイゼンが居た。
「―――ッ!?」
悪魔型のモチーフに恥じない暴力的な威力の腕(カイナ)が、寸での所で身をかわしたフブキを掠め、空を切る。
極僅かに、爪の先が引っかかった胸部装甲が、しかしその圧倒的な腕力ゆえに大きく裂けた。
(……さすがストラーフ。パワーならば最新鋭の重量級神姫にも引けを取りませんね)
振り抜いたチーグルの勢いは止まらず、アイゼンは大きく姿勢を崩す。
フブキにとっては反撃を行う絶好のチャンスだ。
しかし。
「罠なんでしょう?」
フブキはそれに喰いつくほど浅はかではなかった。
「……ッ」
更に身を引いて間合いを広げたフブキの眼前を、ザバーカによる後ろ回し蹴りが擦過する。
またもやかすり傷を負うが、それを意に介さず、フブキは間合いを広げて仕切り直しを図った。
その選択が、祐一とアイゼンにとっては最も手痛い一手であると、フブキは確かに理解していたのだ。
先手は、当然のようにフブキ。
反応速度も、敏捷性も、移動力も。
凡そ『速さ』と区分できるあらゆる性能が、敵対するアイゼンの比ではない。
両腕を万歳するように掲げ、大上段から二本の刀を同時に振り下ろす。
≪system“Accelerator”starting up≫
対するアイゼンは、初手からアクセラレータ。
フランカーから移植された思考加速装置を起動、フブキに追従する反応速度を得る。
AIにかかる負担から、戦闘時間は大幅に短くなるが、コレ無しでは戦闘以前の段階で勝負にならない。
「……っ!!」
性能差の割には必要とする加速度が低い為にアイゼンを苛む頭痛も鈍いが、フブキに対しては、ある程度の事前情報があり、それなりに行動を予測できる為、この程度でなんとか対応範囲に持ち込める。
辛うじて副腕のナイフで双刀を外側に弾き、素体腕で持ったブレードを左右から挟みこむように振るう。
「…疾ッ」
即座にフブキがアイゼンの胸を蹴って離脱。
悪魔型のブレードは空を切る。
直前。
「……行けぇ!!」
そのまま、ブレードが前方に投擲された。
「ほぅ?」
軽く驚きながらも、フブキは双刀で投擲された2本のブレードを弾き飛ばした。
直後。
「む?」
更に、重なるように投擲された刃が4本。
アイゼンが、分解されたフルストゥを両の腕と副腕とで、すかさず射出したのだ。
「初手から武器を全て捨てるか!?」
だが、それぐらい意表をついた攻撃で無ければ、最強の神姫相手に戦いの主導権は握れない。
フブキは一瞬。
ほんの僅かな間だけ判断に迷う。
羽手裏剣での迎撃は、投影面積の薄い刃を打ち落とすには不向き。
かといって避けようにも、アイゼンを蹴り飛ばした直後で宙に浮いている状態では緊急回避は出来ない。
刀で弾こうにも、僅かずつタイミングをずらして投擲された刃は、まるで列車のように同じ軌道を時間差をつけて飛来するため、全弾弾く事は不可能。
ならば。
「防ぐまで!!」
体の前で翼を閉じて構成する分子機械を再配置。
堅牢な殻を形成しそれを盾とする。
ダダダダ、と刃が翼の表面に突き刺さるが、分子機械で多層構造を形成された防壁は貫通をゆるさない。
この時点でようやく、アイゼンを蹴って飛びのいた滞空から着地するフブキ。
刺さったナイフを振り落とす為に勢いよく翼を広げ、開けた視界に。
「……ふっ」
チーグルを振りかぶったアイゼンが居た。
「―――ッ!?」
悪魔型のモチーフに恥じない暴力的な威力の腕(カイナ)が、寸での所で身をかわしたフブキを掠め、空を切る。
極僅かに、爪の先が引っかかった胸部装甲が、しかしその圧倒的な腕力ゆえに大きく裂けた。
(……さすがストラーフ。パワーならば最新鋭の重量級神姫にも引けを取りませんね)
振り抜いたチーグルの勢いは止まらず、アイゼンは大きく姿勢を崩す。
フブキにとっては反撃を行う絶好のチャンスだ。
しかし。
「罠なんでしょう?」
フブキはそれに喰いつくほど浅はかではなかった。
「……ッ」
更に身を引いて間合いを広げたフブキの眼前を、ザバーカによる後ろ回し蹴りが擦過する。
またもやかすり傷を負うが、それを意に介さず、フブキは間合いを広げて仕切り直しを図った。
その選択が、祐一とアイゼンにとっては最も手痛い一手であると、フブキは確かに理解していたのだ。
◆
武装神姫を大雑把に両極化すれば、重量級の『パワー型』と軽量級の『高速戦闘型』に分類される。
大きく、重い方がフレームの強度を上げる事ができ、それに伴ってパワーも向上する。
更には自重そのものが、打撃の威力と密接に関わる質量を上げる為、攻撃力は更に向上。
結論から言えば、神姫の重量と腕力はほぼ正比例の関係にあるのだ。
即ち。重いと言う事は強いと言う事だ。
即ちこれこそが重量級神姫のコンセプトに他ならない。
大きく、重い方がフレームの強度を上げる事ができ、それに伴ってパワーも向上する。
更には自重そのものが、打撃の威力と密接に関わる質量を上げる為、攻撃力は更に向上。
結論から言えば、神姫の重量と腕力はほぼ正比例の関係にあるのだ。
即ち。重いと言う事は強いと言う事だ。
即ちこれこそが重量級神姫のコンセプトに他ならない。
では。
対する軽量級神姫のメリットは何処にあるのだろう?
当然の如く予測されうる答えは『速さ』だろう。
だがしかし。
それでは誤りではない、だけで。正解でもない。
何故ならば、時として『重い方が速い』事もあるからだ。
対する軽量級神姫のメリットは何処にあるのだろう?
当然の如く予測されうる答えは『速さ』だろう。
だがしかし。
それでは誤りではない、だけで。正解でもない。
何故ならば、時として『重い方が速い』事もあるからだ。
神姫を例に挙げるなら、アーンヴァルとエウクランテが判りやすい例だろう。
共に飛行タイプの軽量級神姫に分類されるが、実際にはアーンヴァルの方が全備重量はかなり重い。
しかし。最大速度はアーンヴァルの方が圧倒的に速いのだ。
理屈から言えば、エウクランテではアーンヴァルに追いつけない。
……が、実際の戦場ではむしろエウクランテの方が速さを武器とするのである。
何故か?
その答えは『加速力』にある。
仮にエウクランテの最大速度を30、アーンヴァルを50として考えてみよう。
共に最大速度を出している状況では、エウクランテはアーンヴァルに及ばない。
だが、静止状態からの加速勝負なら話は変わる。
アーンヴァルが2秒ごとに10ずつ速度を上げるとしよう。
その場合、最大速度である50に達するのは10秒後。
しかし、エウクランテが10速度を上げるのに要する時間が1秒なら、最大速度である30に達するのは3秒後。
同時にスタートしたのならば、3秒後のアーンヴァルの速度は僅か15、エウクランテの半分に過ぎないのだ。
そして、乱戦中に10秒もの間直進、即ち最大加速をする機会はまず無い。
攻撃のため、回避のため、位置取りのため。
戦闘機動とは急緩が複雑に絡み合う物だからだ。
共に飛行タイプの軽量級神姫に分類されるが、実際にはアーンヴァルの方が全備重量はかなり重い。
しかし。最大速度はアーンヴァルの方が圧倒的に速いのだ。
理屈から言えば、エウクランテではアーンヴァルに追いつけない。
……が、実際の戦場ではむしろエウクランテの方が速さを武器とするのである。
何故か?
その答えは『加速力』にある。
仮にエウクランテの最大速度を30、アーンヴァルを50として考えてみよう。
共に最大速度を出している状況では、エウクランテはアーンヴァルに及ばない。
だが、静止状態からの加速勝負なら話は変わる。
アーンヴァルが2秒ごとに10ずつ速度を上げるとしよう。
その場合、最大速度である50に達するのは10秒後。
しかし、エウクランテが10速度を上げるのに要する時間が1秒なら、最大速度である30に達するのは3秒後。
同時にスタートしたのならば、3秒後のアーンヴァルの速度は僅か15、エウクランテの半分に過ぎないのだ。
そして、乱戦中に10秒もの間直進、即ち最大加速をする機会はまず無い。
攻撃のため、回避のため、位置取りのため。
戦闘機動とは急緩が複雑に絡み合う物だからだ。
故に。
軽量級神姫の強みとは、即ち加速力。
如何に短い時間でトップスピードに乗り、そして減速出来るかが性能の優劣を分ける。
そして、それを行う為に最も邪魔になる物が『重さ』なのだ。
逆説的に言えば。『軽量級』神姫とは、速さを求めたが故に『軽く』ならざるを得なかった神姫とも言える。
軽量級神姫の強みとは、即ち加速力。
如何に短い時間でトップスピードに乗り、そして減速出来るかが性能の優劣を分ける。
そして、それを行う為に最も邪魔になる物が『重さ』なのだ。
逆説的に言えば。『軽量級』神姫とは、速さを求めたが故に『軽く』ならざるを得なかった神姫とも言える。
それを知っている神姫とそのオーナーは、その為に、如何に自重を削るかを命題とする。
無論、装甲は極限まで切り詰める。
武器も必要な分だけあればいい。
速度を得る為の推進器も暴論を言えば、無いほうが良い位なのだ。
無論、装甲は極限まで切り詰める。
武器も必要な分だけあればいい。
速度を得る為の推進器も暴論を言えば、無いほうが良い位なのだ。
そして、そのバランスを如何に取るかがオーナーの見せ所とも言える。
装甲が過剰になれば、速度は目に見えて落ちるし、かと言って、無装甲では爆風や破片と言った避わしようの無い攻撃で致命傷を負ってしまう。
武器も過剰な装備は重さに直結するが、足りなければ敵を倒しきれない。
速度を得る為の推進器も、神姫素体に頼るのか、外付けの推進器を装備するのかで戦闘スタイルそのものが大幅に変わる。
装甲が過剰になれば、速度は目に見えて落ちるし、かと言って、無装甲では爆風や破片と言った避わしようの無い攻撃で致命傷を負ってしまう。
武器も過剰な装備は重さに直結するが、足りなければ敵を倒しきれない。
速度を得る為の推進器も、神姫素体に頼るのか、外付けの推進器を装備するのかで戦闘スタイルそのものが大幅に変わる。
斯様に軽量級神姫の扱いは難しい。
武器、装甲、速度。
このバランスを如何に取るか、最終的な結論は恐らく永遠に出ないだろう。
故に、軽量級神姫のオーナーたちは自らの最適解を目指し邁進する。
各々の解答を以って戦いに挑みながら……。
このバランスを如何に取るか、最終的な結論は恐らく永遠に出ないだろう。
故に、軽量級神姫のオーナーたちは自らの最適解を目指し邁進する。
各々の解答を以って戦いに挑みながら……。
◆
そして、原初の軽量級神姫のオーナーであった土方真紀は。
その解答をこう出した。
その解答をこう出した。
◆
「……自己修復……か。冗談みたいだな……」
「……ん」
チーグルとザバーカで付けたボディの傷が、二人の見ている前でフィルムの逆回しのように消えてゆく。
四本ものナイフが突き刺さった翼も、だ。
「私の装備は全てが分子機械(モレキュラーマシン)です」
彼女の装備、即ち。翼と装甲衣、そして双刀。
「何れも必要に応じて組み替えることで、多様な性質を帯び私の機能を補佐します」
鋭く高質化する事で刃に。
柔軟に風を孕む事で翼に。
幾重にも積層される事で鎧に。
言ってしまえば、フブキの装備は『分子機械のみ』だとも言える。
それ一つが多様な役目を果たすが故に。
「……一応言っておきますが、先ほどの攻撃も無意味ではありませんよ。私の装備を構成する12万の分子機械の内、数百は機能停止しましたから……」
「一応ストラーフの打撃は、掠めるだけでも軽量級神姫なら数発で戦闘不能になる威力なんだけどね……」
だが、フブキの外部装甲は修復が効く。
つまり小手先の小技や、アーマーから破壊して爆風でトドメを刺すような搦め手はほぼ無意味と言う事だ。
「……やっぱり、体の正中線をぶん殴るか、キャノンを直撃させるしかないと思う」
「だな」
「……もちろん、私もそれを警戒しているのですけどね……」
言ってフブキは軽やかに一歩飛びのく。
広げた間合いは、アイゼンにとっては格闘装備の使えない中距離以遠。
元より単純に撃った滑空砲が当たる相手では無い。
ならば、使用するべきは……。
「アイゼン!!」
「……ん」
抜き打ち気味に構えたアサルトライフルで発砲!!
フルオートで弾幕を張り、半呼吸ほど遅らせて左右に滑空砲で榴弾をばら撒いて置く。
ライフルをかわす為に左右に避けたのならば、榴弾の爆風で巻き込める。
そうでなければ蜂の巣だ。
「……ん」
チーグルとザバーカで付けたボディの傷が、二人の見ている前でフィルムの逆回しのように消えてゆく。
四本ものナイフが突き刺さった翼も、だ。
「私の装備は全てが分子機械(モレキュラーマシン)です」
彼女の装備、即ち。翼と装甲衣、そして双刀。
「何れも必要に応じて組み替えることで、多様な性質を帯び私の機能を補佐します」
鋭く高質化する事で刃に。
柔軟に風を孕む事で翼に。
幾重にも積層される事で鎧に。
言ってしまえば、フブキの装備は『分子機械のみ』だとも言える。
それ一つが多様な役目を果たすが故に。
「……一応言っておきますが、先ほどの攻撃も無意味ではありませんよ。私の装備を構成する12万の分子機械の内、数百は機能停止しましたから……」
「一応ストラーフの打撃は、掠めるだけでも軽量級神姫なら数発で戦闘不能になる威力なんだけどね……」
だが、フブキの外部装甲は修復が効く。
つまり小手先の小技や、アーマーから破壊して爆風でトドメを刺すような搦め手はほぼ無意味と言う事だ。
「……やっぱり、体の正中線をぶん殴るか、キャノンを直撃させるしかないと思う」
「だな」
「……もちろん、私もそれを警戒しているのですけどね……」
言ってフブキは軽やかに一歩飛びのく。
広げた間合いは、アイゼンにとっては格闘装備の使えない中距離以遠。
元より単純に撃った滑空砲が当たる相手では無い。
ならば、使用するべきは……。
「アイゼン!!」
「……ん」
抜き打ち気味に構えたアサルトライフルで発砲!!
フルオートで弾幕を張り、半呼吸ほど遅らせて左右に滑空砲で榴弾をばら撒いて置く。
ライフルをかわす為に左右に避けたのならば、榴弾の爆風で巻き込める。
そうでなければ蜂の巣だ。
……並みの神姫ならば。
「アイゼン、上だ!!」
「……ッ!!」
瞬時に跳び上がったフブキが、空中で翼を使って方向転換、即、加速!!
アイゼンの頭上をキックで狙う。
「……このっ」
合わせる様にチーグルを突き出し、カウンターを狙うが、フブキは全身のバネと翼を使って衝撃を殺し、鋼鉄の拳の上に着地。
「ふっ」
振り抜かれ、伸びきった腕が弛緩する一瞬にあわせ、引き倒すように後方へと蹴る。
「……え?」
爪先から、鋭利な爪が伸び、チーグルを捕らえていた。
伸ばした腕を更に引っ張られたアイゼンが、重心を崩してつんのめる。
驚愕で見開かれた眼前に。
「ごめんなさい」
フブキの足爪が突き刺さった。
「……ッ!!」
瞬時に跳び上がったフブキが、空中で翼を使って方向転換、即、加速!!
アイゼンの頭上をキックで狙う。
「……このっ」
合わせる様にチーグルを突き出し、カウンターを狙うが、フブキは全身のバネと翼を使って衝撃を殺し、鋼鉄の拳の上に着地。
「ふっ」
振り抜かれ、伸びきった腕が弛緩する一瞬にあわせ、引き倒すように後方へと蹴る。
「……え?」
爪先から、鋭利な爪が伸び、チーグルを捕らえていた。
伸ばした腕を更に引っ張られたアイゼンが、重心を崩してつんのめる。
驚愕で見開かれた眼前に。
「ごめんなさい」
フブキの足爪が突き刺さった。
「―――アイゼンッ!!」
頭の奥のAIを守る為に、殊更堅牢に作られている頭蓋を引っ掻く音がした。
アイゼンの顔面を削るように振り抜かれたつま先には、湾曲した爪が三本。
その一つが、彼女の左目の位置を抉っていた。
「……ッ、く……」
アイゼンは左目を押さえ、よろめきながらもチーグルを振り回しフブキを追い払うが、しかし。
「アイゼン!! 大丈夫か!?」
「……問題ない、大丈夫。……左目取れただけ」
「だけ、じゃねぇ!!」
神姫センターのバトルなら、敗北をジャッジされるダメージだ。
だが。
「まだ敵は見えてるし、武器もある。……全然余裕」
「……っ」
祐一は一瞬判断に迷った。
元々、彼にはここまでするつもりは無い。
フブキを倒す為に、これほどの代価を払う必要性を、実の所まるで感じていない。
(試合ならコレで負けだし、普通に考えれば戦闘を止めるべきだけど……)
後続にはカトレアもいれば、他の神姫たちもこちらに向かっているかもしれない。
ここで、無理をしてアイゼンだけで倒す必要は、必ずしも無い。
だが……。
「……まだ大丈夫。……やらせて」
アイゼンには、撤退の意思は微塵も無かった。
頭の奥のAIを守る為に、殊更堅牢に作られている頭蓋を引っ掻く音がした。
アイゼンの顔面を削るように振り抜かれたつま先には、湾曲した爪が三本。
その一つが、彼女の左目の位置を抉っていた。
「……ッ、く……」
アイゼンは左目を押さえ、よろめきながらもチーグルを振り回しフブキを追い払うが、しかし。
「アイゼン!! 大丈夫か!?」
「……問題ない、大丈夫。……左目取れただけ」
「だけ、じゃねぇ!!」
神姫センターのバトルなら、敗北をジャッジされるダメージだ。
だが。
「まだ敵は見えてるし、武器もある。……全然余裕」
「……っ」
祐一は一瞬判断に迷った。
元々、彼にはここまでするつもりは無い。
フブキを倒す為に、これほどの代価を払う必要性を、実の所まるで感じていない。
(試合ならコレで負けだし、普通に考えれば戦闘を止めるべきだけど……)
後続にはカトレアもいれば、他の神姫たちもこちらに向かっているかもしれない。
ここで、無理をしてアイゼンだけで倒す必要は、必ずしも無い。
だが……。
「……まだ大丈夫。……やらせて」
アイゼンには、撤退の意思は微塵も無かった。
◆
神姫バトルを始めてから5年。
四肢を破壊されるような大ダメージが無かった訳ではない。
だが、神姫にとって手足はある意味では『装備』だ。
交換も容易だし、必要に応じてチーグルなどを直に接続する場合もある。
だが。
頭部は違う。
それは不可分の『本体』。
破壊されたら、『死ぬ』部分なのだ。
そこに、これほどのダメージを負った事は一度も無かった。
四肢を破壊されるような大ダメージが無かった訳ではない。
だが、神姫にとって手足はある意味では『装備』だ。
交換も容易だし、必要に応じてチーグルなどを直に接続する場合もある。
だが。
頭部は違う。
それは不可分の『本体』。
破壊されたら、『死ぬ』部分なのだ。
そこに、これほどのダメージを負った事は一度も無かった。
当然だ。
フブキは、今までに戦ったどの神姫にも増して強い。
だから。
……だからこそ。
だから。
……だからこそ。
◆
「……ねぇマスター。今、どんな気分?」
「……」
アイゼンの問に答えを探す。
だが、早鐘のような鼓動と焦燥に思考は乱れ、まるで纏まらない。
「……ね、マスター」
「心臓バクバク言っててそれ所じゃないよ」
「……ん。じつは私も」
こちらの会話を待つ心算なのか、動こうとしないフブキを見据えたままのアイゼンが背中越しに語る。
「……なんか。勝てるって確信が無いし、負けちゃうかも、って凄くドキドキしてる」
私に心臓は無いけど。と、続けた後。
「多分、CSCか何処か。……凄いオーバーワークでチリチリするの。
……マスターもきっと同じだよね?」
「ああ」
深く考えずに、その余裕も取り戻せないままうなずく祐一。
「……でもさ、それ。マスターはよく知ってる感覚だよね?」
「え?」
「……好きでしょ?」
「……あ」
思い当たる。
「初めて敵と戦うとき。
凄く強い敵相手にピンチになった時。
絶体絶命で、でも。
……まだ、勝ち目が残ってて、諦めきれない時……。
いつも『こう』だよね?」
RPGで。
シューティングで。
対戦格闘で。
……武装神姫で。
遊んだ後に、一番楽しいと思い返すのは、何時だってギリギリの極限の瞬間を、だ。
「……なら」
「今が一番、『楽しい』状況……。だね」
「……ん」
そうだ。
まだ、負けた訳じゃない。
形勢は言うまでも無く不利だし、勝ち目は薄いけど。
皆無ではない。
「……一応聞いておくけど、まだ戦えるよね?」
「……当然」
言って、両の副腕を握りなおすアイゼン。
「よし。……ならもう一度だ」
「……ん」
答え、祐一のストラーフは微かに身を落とし、構えなおす。
「頼むぞ、アイゼン!!」
「……指揮は任せた!!」
答え、応え。
アイゼンが飛び出した。
「……」
アイゼンの問に答えを探す。
だが、早鐘のような鼓動と焦燥に思考は乱れ、まるで纏まらない。
「……ね、マスター」
「心臓バクバク言っててそれ所じゃないよ」
「……ん。じつは私も」
こちらの会話を待つ心算なのか、動こうとしないフブキを見据えたままのアイゼンが背中越しに語る。
「……なんか。勝てるって確信が無いし、負けちゃうかも、って凄くドキドキしてる」
私に心臓は無いけど。と、続けた後。
「多分、CSCか何処か。……凄いオーバーワークでチリチリするの。
……マスターもきっと同じだよね?」
「ああ」
深く考えずに、その余裕も取り戻せないままうなずく祐一。
「……でもさ、それ。マスターはよく知ってる感覚だよね?」
「え?」
「……好きでしょ?」
「……あ」
思い当たる。
「初めて敵と戦うとき。
凄く強い敵相手にピンチになった時。
絶体絶命で、でも。
……まだ、勝ち目が残ってて、諦めきれない時……。
いつも『こう』だよね?」
RPGで。
シューティングで。
対戦格闘で。
……武装神姫で。
遊んだ後に、一番楽しいと思い返すのは、何時だってギリギリの極限の瞬間を、だ。
「……なら」
「今が一番、『楽しい』状況……。だね」
「……ん」
そうだ。
まだ、負けた訳じゃない。
形勢は言うまでも無く不利だし、勝ち目は薄いけど。
皆無ではない。
「……一応聞いておくけど、まだ戦えるよね?」
「……当然」
言って、両の副腕を握りなおすアイゼン。
「よし。……ならもう一度だ」
「……ん」
答え、祐一のストラーフは微かに身を落とし、構えなおす。
「頼むぞ、アイゼン!!」
「……指揮は任せた!!」
答え、応え。
アイゼンが飛び出した。
◆
(なるほど。……コレが本当の目的ですか)
気付いた彼女が密かに笑う。
(本当に、回りくどくて不器用なやり方です)
彼女を支配する感情は紛れも無くそれ。
(ですが、それでこそ私のマスターです)
主と共にあると感じた神姫が得る感情は、歓喜に他ならない。
気付いた彼女が密かに笑う。
(本当に、回りくどくて不器用なやり方です)
彼女を支配する感情は紛れも無くそれ。
(ですが、それでこそ私のマスターです)
主と共にあると感じた神姫が得る感情は、歓喜に他ならない。
◆
アイゼンの突進に、フブキは全力を以って応じた。
左右に大きく腕を広げ、刀と翼を触れ合わせる。
分子機械を翼から刀に大幅に移し、武装を強化。
質量を増した分威力が上がり、重くなった分遅くなった剣速を翼で弾き出す事で補い、更に上乗せする。
「……行きます。―――奥儀『双餓狼』ッ!!」
暴風すら伴いながら、アイゼンを迎撃するのは左右からの同時斬撃。
対するアイゼンは左右のチーグルを刃に合わせる。
しかし、左右は逆に。
眼前で交差した副腕は、その距離を余力とし、圧倒的な一撃を柔らかく受け止める。
もちろん、勢いを完全には殺しきれない。
だが、その一撃がアイゼンに到達するのがほんの一秒ほど遅らせる事には成功した。
しかし、たったの一秒だ。
それはたった一秒敗北を後伸ばしにするだけの行為。
両腕を緩衝材に使い、塞がれてる以上、他に打つ手は無い……。
左右に大きく腕を広げ、刀と翼を触れ合わせる。
分子機械を翼から刀に大幅に移し、武装を強化。
質量を増した分威力が上がり、重くなった分遅くなった剣速を翼で弾き出す事で補い、更に上乗せする。
「……行きます。―――奥儀『双餓狼』ッ!!」
暴風すら伴いながら、アイゼンを迎撃するのは左右からの同時斬撃。
対するアイゼンは左右のチーグルを刃に合わせる。
しかし、左右は逆に。
眼前で交差した副腕は、その距離を余力とし、圧倒的な一撃を柔らかく受け止める。
もちろん、勢いを完全には殺しきれない。
だが、その一撃がアイゼンに到達するのがほんの一秒ほど遅らせる事には成功した。
しかし、たったの一秒だ。
それはたった一秒敗北を後伸ばしにするだけの行為。
両腕を緩衝材に使い、塞がれてる以上、他に打つ手は無い……。
……普通の神姫なら。
「けど。私の腕は、四本あるっ!!」
完全にフリーになっている素体の両腕。
それが届くのに必要な時間は一秒。
たったの一秒だった。
それが届くのに必要な時間は一秒。
たったの一秒だった。
そして。
その一秒で充分だった。
その一秒で充分だった。
装甲衣の襟首を掴んで全力で引き寄せる。
剣の間合いを越えるどころか、拳の間合いの遥かに内側まで。
「……つかまえた!!」
「―――なっ!?」
引き寄せられた顔面に、アイゼンもまた顔面をぶつけ、それを以って打撃とした。
剣の間合いを越えるどころか、拳の間合いの遥かに内側まで。
「……つかまえた!!」
「―――なっ!?」
引き寄せられた顔面に、アイゼンもまた顔面をぶつけ、それを以って打撃とした。
「へ、ヘッドバット!?」
さしものフブキも、予測していなかった攻撃に面食らう。
素体の運動性ではフブキに分があるが、頑強さならストラーフの方が上。
更に、開いた右腕で追撃の拳。
「捕まえての殴り合いなら、ストラーフに敵う神姫は居ない!! 例えフブキでも、だ!!」
如何に破格の性能を誇ろうが、フブキは軽量級神姫だ。
打撃の速度を上げる事で、攻撃の威力を増すことは出来ても、純粋な腕力ではストラーフに及ばない。
足を止めた超至近距離での殴り合いならば、軽量級の神姫は重量級の神姫に絶対に勝てない。
「させません!!」
組合から離脱しなければ敗北すると判ったのだろう。
フブキは狙いを襟元を掴んでいる左腕に絞った。
だが、しかし。アイゼンにも逃すつもりは毛頭無い!!
「捕まえろ、アイゼン!!」
「……ん!!」
巻きつくように背中に回されるチーグル。
構成する分子機械の大部分を刀に委譲してしまった翼に、それを防ぐだけの力は無い。
更に、素体の両腕で抱きしめるように捕縛。
そのまま全力で締め上げる。
「べッ……、ベアバック……!?」
ギリギリと、締め上げられてゆくフレームが音を立てる。
「締め落せ!!」
「……っ!!」
こうなっては、最早脱出は不能。
アイゼンの勝ちが確定したようにも見えた瞬間。
「―――空蝉!!」
腕から掻き消えるような感触と共に、フブキの身体が理不尽な動きで戒めから離脱した。
一瞬で宙に逃れ、後ろに跳び退く忍者型神姫。
「……忍法?」
「装甲衣の分子機械を膨張させて脱ぎ捨てたのですよ。……脱ぎ捨ててしまう為、一度きりしか使えない手段ですが、もう二度と捕まらなければ良いだけの事」
確かに。装甲衣を脱ぎ捨てたフブキには、最早それを再構築し直すだけの分子機械が無い。
装甲衣だけでは不足だったのだろう。刀も翼も装甲衣と纏めて脱ぎ捨てた為、最早素体しか残っていない。
12万もの分子機械群は、フブキの身体を離れて無力化された。
もちろん再掌握する事で復帰は出来るが、1分ほど時間がかかる。
そして、それが戦闘中に不可能であることは明白だった。
さしものフブキも、予測していなかった攻撃に面食らう。
素体の運動性ではフブキに分があるが、頑強さならストラーフの方が上。
更に、開いた右腕で追撃の拳。
「捕まえての殴り合いなら、ストラーフに敵う神姫は居ない!! 例えフブキでも、だ!!」
如何に破格の性能を誇ろうが、フブキは軽量級神姫だ。
打撃の速度を上げる事で、攻撃の威力を増すことは出来ても、純粋な腕力ではストラーフに及ばない。
足を止めた超至近距離での殴り合いならば、軽量級の神姫は重量級の神姫に絶対に勝てない。
「させません!!」
組合から離脱しなければ敗北すると判ったのだろう。
フブキは狙いを襟元を掴んでいる左腕に絞った。
だが、しかし。アイゼンにも逃すつもりは毛頭無い!!
「捕まえろ、アイゼン!!」
「……ん!!」
巻きつくように背中に回されるチーグル。
構成する分子機械の大部分を刀に委譲してしまった翼に、それを防ぐだけの力は無い。
更に、素体の両腕で抱きしめるように捕縛。
そのまま全力で締め上げる。
「べッ……、ベアバック……!?」
ギリギリと、締め上げられてゆくフレームが音を立てる。
「締め落せ!!」
「……っ!!」
こうなっては、最早脱出は不能。
アイゼンの勝ちが確定したようにも見えた瞬間。
「―――空蝉!!」
腕から掻き消えるような感触と共に、フブキの身体が理不尽な動きで戒めから離脱した。
一瞬で宙に逃れ、後ろに跳び退く忍者型神姫。
「……忍法?」
「装甲衣の分子機械を膨張させて脱ぎ捨てたのですよ。……脱ぎ捨ててしまう為、一度きりしか使えない手段ですが、もう二度と捕まらなければ良いだけの事」
確かに。装甲衣を脱ぎ捨てたフブキには、最早それを再構築し直すだけの分子機械が無い。
装甲衣だけでは不足だったのだろう。刀も翼も装甲衣と纏めて脱ぎ捨てた為、最早素体しか残っていない。
12万もの分子機械群は、フブキの身体を離れて無力化された。
もちろん再掌握する事で復帰は出来るが、1分ほど時間がかかる。
そして、それが戦闘中に不可能であることは明白だった。
◆
「……取りあえず、装備は奪えた、と。……これでようやく五分五分、かな?」
「……だね」
全ての武装を失ったフブキには、最早アイゼンに捕まる危険のある近接戦以外の選択肢が無い。
一方でアイゼンも、遠距離戦になってしまえば射撃で命中は見込めないため手詰まり。
故に、双方格闘戦以外の選択はありえない。
武装を全て失ったフブキに対し、アイゼンは未だにチーグルを始めとする機械化四肢を持っているが、素体の性能自体は数段下。
更にフブキの速度に対応する為にアクセラレータでAIに負荷を掛けているので、実際の戦闘時間は後数分。
加えて先ほど負った左眼の損傷を考慮すれば、実際には遥かに不利だ。
しかし、その差は、確実に戦闘開始時よりも狭まっていた。
そして何より。
(ペースを掴まれたのが厄介ですね……)
フブキはそう思考し、目の前の相手の戦績を思い出す。
「……だね」
全ての武装を失ったフブキには、最早アイゼンに捕まる危険のある近接戦以外の選択肢が無い。
一方でアイゼンも、遠距離戦になってしまえば射撃で命中は見込めないため手詰まり。
故に、双方格闘戦以外の選択はありえない。
武装を全て失ったフブキに対し、アイゼンは未だにチーグルを始めとする機械化四肢を持っているが、素体の性能自体は数段下。
更にフブキの速度に対応する為にアクセラレータでAIに負荷を掛けているので、実際の戦闘時間は後数分。
加えて先ほど負った左眼の損傷を考慮すれば、実際には遥かに不利だ。
しかし、その差は、確実に戦闘開始時よりも狭まっていた。
そして何より。
(ペースを掴まれたのが厄介ですね……)
フブキはそう思考し、目の前の相手の戦績を思い出す。
アイゼン。
そう名づけられたストラーフの真価は、実の所、よく言われるような再戦時の勝率ではない。
一言で言ってしまえば、彼女の恐ろしさはペースを掴む事にある。
相手の得意技を無効化し、頼りとする防御や回避を越えて一撃を与えてくる戦闘スタイル。
それがどれほど困惑を生むかは、実際に相対した神姫とオーナーでなければ分らないだろう。
強い神姫には例外なく得意とする戦術、戦法がある。
何も考えず、ただ強い武器を装備するだけでは精々、初心者相手に圧勝できる程度だ。
中級者には打ち破られ、上級者には片手間で粉砕される。
故に、強い神姫とは確固たる戦術、戦法を見出した神姫であり、それに特化し、予測されうる弱点をカバー出来た者こそが強者として名を馳せるのだ。
だから。
それを磨けば磨くほどに、打ち破られた時の衝撃は大きい。
そして、アイゼンはそれをする数少ない神姫だった。
(すでにこちらの武器である素早さと分子機械を破られました)
アクセラレータという強引な手段を用いねばならなかったのは、もはやハンディキャップと言っても過言ではない反応速度の遅さゆえにだろう。
だが、経緯は如何あれ既にこちらの動きは概ね見切られている。
最早素早さだけで翻弄することは不可能だろう。
(分子機械もそれごと握り潰すと言う強引な方法で突破されましたし……)
分子機械の暴走を想定した緊急パージコマンド『空蝉』が無ければ、アレでフブキの敗北は確定だった。
フブキとストラーフの埋めようの無い腕力の差。
それを前面に押し出した文句の付けようの無い攻略法。
咄嗟に空蝉で逃れてしまったが、本来空蝉は戦闘用の動作ではない。
仕様として用意されてはいたが、それを勝利する戦術に組み込んでいた訳ではないのだ。
つまり。実を言えば、あのまま破壊されても良かったと思う位見事に、祐一とアイゼンのペアは『フブキ』という神姫を攻略していたのだ。
そして何より。
(切り札を卑怯とも言える手段で返されたのに、プラス要素だけを認識して即座に戦意を取り戻す切り替えの早さ)
神姫にとって最高のパートナーとなる素養を充分に持っているオーナー。
そして、それに応える神姫というペア。
真紀が邂逅を望み、果たせなかった相手。
それが今、目の前に居る。
「ふふふ」
それが。
たまらなく嬉しかった…。
そう名づけられたストラーフの真価は、実の所、よく言われるような再戦時の勝率ではない。
一言で言ってしまえば、彼女の恐ろしさはペースを掴む事にある。
相手の得意技を無効化し、頼りとする防御や回避を越えて一撃を与えてくる戦闘スタイル。
それがどれほど困惑を生むかは、実際に相対した神姫とオーナーでなければ分らないだろう。
強い神姫には例外なく得意とする戦術、戦法がある。
何も考えず、ただ強い武器を装備するだけでは精々、初心者相手に圧勝できる程度だ。
中級者には打ち破られ、上級者には片手間で粉砕される。
故に、強い神姫とは確固たる戦術、戦法を見出した神姫であり、それに特化し、予測されうる弱点をカバー出来た者こそが強者として名を馳せるのだ。
だから。
それを磨けば磨くほどに、打ち破られた時の衝撃は大きい。
そして、アイゼンはそれをする数少ない神姫だった。
(すでにこちらの武器である素早さと分子機械を破られました)
アクセラレータという強引な手段を用いねばならなかったのは、もはやハンディキャップと言っても過言ではない反応速度の遅さゆえにだろう。
だが、経緯は如何あれ既にこちらの動きは概ね見切られている。
最早素早さだけで翻弄することは不可能だろう。
(分子機械もそれごと握り潰すと言う強引な方法で突破されましたし……)
分子機械の暴走を想定した緊急パージコマンド『空蝉』が無ければ、アレでフブキの敗北は確定だった。
フブキとストラーフの埋めようの無い腕力の差。
それを前面に押し出した文句の付けようの無い攻略法。
咄嗟に空蝉で逃れてしまったが、本来空蝉は戦闘用の動作ではない。
仕様として用意されてはいたが、それを勝利する戦術に組み込んでいた訳ではないのだ。
つまり。実を言えば、あのまま破壊されても良かったと思う位見事に、祐一とアイゼンのペアは『フブキ』という神姫を攻略していたのだ。
そして何より。
(切り札を卑怯とも言える手段で返されたのに、プラス要素だけを認識して即座に戦意を取り戻す切り替えの早さ)
神姫にとって最高のパートナーとなる素養を充分に持っているオーナー。
そして、それに応える神姫というペア。
真紀が邂逅を望み、果たせなかった相手。
それが今、目の前に居る。
「ふふふ」
それが。
たまらなく嬉しかった…。
◆
「お見事ですね、戦術の堅実さ、思考の柔軟性、装備の選択。……何れを取っても申し分ありません」
「あまり万人向けじゃない気もするけどね」
「……ん」
コクコクと頷くアイゼン。
「無難に、スタンダードな、などと言うコンセプトでは私には勝てませんよ」
射撃も格闘もこなし、回避もガードも選択しうる。
それではフブキと同じコンセプトだ。
その上で、現行の技術には無い分子機械を擁するフブキに一段劣る技術の同コンセプトでは勝てる筈も無い。
「……だから、その選択は正解です。私は分子機械と言うチートで成立した最強の神姫なのですから『万人向け』のコンセプトでは話にならない」
自らをズルであると認めた上でフブキは問う。
「……しかし、貴方がたはその最強を突破しました」
フブキを最強たらしめていた分子機械を打ち破った。
「しかし、その代価は貴方がたにも軽くはないでしょう?」
アイゼンのダメージは大きく、AIにもアクセラレータの負荷が重く圧し掛かっている筈だ。
「一応問いますが、ここで引く気は無いのですね?」
もちろん。
フブキにはその答えが分っていた。
「当然だ。……折角、最強の神姫が相手なんだ。……最後の最後まで楽しませてもらう」
「……ん」
こくりと、頷いてそれを肯定するアイゼン。
「……。……ふふ」
軽く、全身から力を抜くフブキ。
「……いいでしょう。かかってきなさい、悪魔型!!」
「……往く」
こうして、三度目の仕切り直しから。
こんどこそ最後の勝負が始まった。
「あまり万人向けじゃない気もするけどね」
「……ん」
コクコクと頷くアイゼン。
「無難に、スタンダードな、などと言うコンセプトでは私には勝てませんよ」
射撃も格闘もこなし、回避もガードも選択しうる。
それではフブキと同じコンセプトだ。
その上で、現行の技術には無い分子機械を擁するフブキに一段劣る技術の同コンセプトでは勝てる筈も無い。
「……だから、その選択は正解です。私は分子機械と言うチートで成立した最強の神姫なのですから『万人向け』のコンセプトでは話にならない」
自らをズルであると認めた上でフブキは問う。
「……しかし、貴方がたはその最強を突破しました」
フブキを最強たらしめていた分子機械を打ち破った。
「しかし、その代価は貴方がたにも軽くはないでしょう?」
アイゼンのダメージは大きく、AIにもアクセラレータの負荷が重く圧し掛かっている筈だ。
「一応問いますが、ここで引く気は無いのですね?」
もちろん。
フブキにはその答えが分っていた。
「当然だ。……折角、最強の神姫が相手なんだ。……最後の最後まで楽しませてもらう」
「……ん」
こくりと、頷いてそれを肯定するアイゼン。
「……。……ふふ」
軽く、全身から力を抜くフブキ。
「……いいでしょう。かかってきなさい、悪魔型!!」
「……往く」
こうして、三度目の仕切り直しから。
こんどこそ最後の勝負が始まった。
◆
打撃。
打撃。
打撃。
双方、拳を中心に打撃の応酬を繰り広げるが、そのスタイルは別物だった。
牽制打を連続で繰り出し、渾身の一撃を打ち込む隙を作り出そうとするフブキに対し。アイゼンは大振りながらも必殺の一撃を確実に繰り出してゆく豪放なスタイルで応じる。
蹴りはどちらも存在だけ匂わせ、実打は撃たない。
格闘技において、蹴りは威力以上にデメリットが大きい。
振り上げた脚を捕らえられれば、その時点でほぼ敗北は必至。
脱する為に必要な実力差より、蹴りを使わずに相手を倒す方が力量が要らないのだ。
そして、双方にそこまでの実力差は無い。
打撃。
打撃。
双方、拳を中心に打撃の応酬を繰り広げるが、そのスタイルは別物だった。
牽制打を連続で繰り出し、渾身の一撃を打ち込む隙を作り出そうとするフブキに対し。アイゼンは大振りながらも必殺の一撃を確実に繰り出してゆく豪放なスタイルで応じる。
蹴りはどちらも存在だけ匂わせ、実打は撃たない。
格闘技において、蹴りは威力以上にデメリットが大きい。
振り上げた脚を捕らえられれば、その時点でほぼ敗北は必至。
脱する為に必要な実力差より、蹴りを使わずに相手を倒す方が力量が要らないのだ。
そして、双方にそこまでの実力差は無い。
素体と武装状態とは言え、確かに性能ではフブキが勝る。
だが、しかし。
5年と言う歳月を待機して待っていたフブキと違い、アイゼンには1週と置かずに繰り返してきた戦闘経験がある。
間合いの取り方、外し方。
打撃の使い分け。
そして、打撃以外の投げや掴みと言う選択肢の存在。
この場の誰もが気付かなかったが、それは実の所、武術家と猛獣の戦いだ。
基本性能を武器とする猛獣に対し、技で応じる武術家。
それは、アイゼンとフブキの戦いと同じ傾向を持っていた。
だが、しかし。
5年と言う歳月を待機して待っていたフブキと違い、アイゼンには1週と置かずに繰り返してきた戦闘経験がある。
間合いの取り方、外し方。
打撃の使い分け。
そして、打撃以外の投げや掴みと言う選択肢の存在。
この場の誰もが気付かなかったが、それは実の所、武術家と猛獣の戦いだ。
基本性能を武器とする猛獣に対し、技で応じる武術家。
それは、アイゼンとフブキの戦いと同じ傾向を持っていた。
そして、唐突にアイゼンが打撃を変える。
今までの重い一撃から、フェイントも同然の軽い一打。
しかし、予備動作なしで繰り出されたそれは、確かにフブキの身体を捉え、一瞬浮かせる。
そこに。
今度こそ必殺の意思を込めた一撃が打ち込まれた!!
「…!!」
フブキの反応は速い。
撃ち込まれた機械腕の右ストレートに身体を絡み付かせ、そのまま一気に腕を奪いに行く!!
ダメージは決して軽くないが、彼女の反応速度は寸での所でその打撃を察知し、身を引いて威力を殺している。
フェイントにかかって居なければ無傷で反撃できただろうが、それでもこの一撃で決めるつもりだったアイゼンの意図は外せた。
ならばこれで詰み。
身体全部を使ってチーグルの右肘に加重をかける。
「……このっ!!」
アイゼンが左拳でわき腹を狙うが、それより早く、フブキの膝がチーグルの肘をへし折った。
「……っ!!」
ダメージに怯んだ一撃ではフブキを吹き飛ばすのが関の山。
致命打には程遠く。
しかし、アイゼンは迷わず追撃を掛ける。
「……行け、アイゼンッ!!」
着地の硬直で避けられないフブキに、アイゼンは片腕を失ったチーグルとザバーカをパージ。
その勢いを加速に利用し渾身の右ストレートを放つ。
「……これで―――」
しかし、予備動作なしで繰り出されたそれは、確かにフブキの身体を捉え、一瞬浮かせる。
そこに。
今度こそ必殺の意思を込めた一撃が打ち込まれた!!
「…!!」
フブキの反応は速い。
撃ち込まれた機械腕の右ストレートに身体を絡み付かせ、そのまま一気に腕を奪いに行く!!
ダメージは決して軽くないが、彼女の反応速度は寸での所でその打撃を察知し、身を引いて威力を殺している。
フェイントにかかって居なければ無傷で反撃できただろうが、それでもこの一撃で決めるつもりだったアイゼンの意図は外せた。
ならばこれで詰み。
身体全部を使ってチーグルの右肘に加重をかける。
「……このっ!!」
アイゼンが左拳でわき腹を狙うが、それより早く、フブキの膝がチーグルの肘をへし折った。
「……っ!!」
ダメージに怯んだ一撃ではフブキを吹き飛ばすのが関の山。
致命打には程遠く。
しかし、アイゼンは迷わず追撃を掛ける。
「……行け、アイゼンッ!!」
着地の硬直で避けられないフブキに、アイゼンは片腕を失ったチーグルとザバーカをパージ。
その勢いを加速に利用し渾身の右ストレートを放つ。
「……これで―――」
それが当たる直前。
フブキが消えた。
「―――!?」
知覚が追いつかない。
拳をかわしたフブキが、姿勢を崩したアイゼンに密着するように両手を重ね。
「―――破」
発勁。
横合いから放たれた衝撃に、自分の受けた技を認識する事も出来ず、アイゼンは吹き飛ばされた。
フブキが消えた。
「―――!?」
知覚が追いつかない。
拳をかわしたフブキが、姿勢を崩したアイゼンに密着するように両手を重ね。
「―――破」
発勁。
横合いから放たれた衝撃に、自分の受けた技を認識する事も出来ず、アイゼンは吹き飛ばされた。
これが決着。
戦闘開始から15分ジャスト。
敗因は、アクセラレータの時間切れだった。
敗因は、アクセラレータの時間切れだった。
第36話:伏せられた真実?につづく
フブキ付き黒い翼の発売でようやくウチの(実質)ラスボスが日の目を見ました。
これの発売予告以前からフブキ+黒い翼でイメージしていたので嬉しい事、嬉しい事。
本編の方も、書き溜めてあるのでココから先は更新早めでいけると思います。
これの発売予告以前からフブキ+黒い翼でイメージしていたので嬉しい事、嬉しい事。
本編の方も、書き溜めてあるのでココから先は更新早めでいけると思います。
宜しければ、後もう少しだけお付き合い下さい。
と言いつつポケモンとかモンハンとか鉄の咆哮とか……。
もうすぐルーンファクトリー3出るし、世界樹Ⅲも発表だぁ!!
来年もきっとゲームが楽しい。
ALCでした~。
もうすぐルーンファクトリー3出るし、世界樹Ⅲも発表だぁ!!
来年もきっとゲームが楽しい。
ALCでした~。
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