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ウサギのナミダ

ACT 1-35



『ティア、全速力でクロコダイルを蹴り飛ばせ!』
「はい!」

 返事したわたしは、地面に手をつき、腰を上げた。
 クラウチング・スタート。
 一歩でトップスピードに乗れるこのスタートなら、クロコダイルまでの短い距離でも、スピードが出る。
 頭の中でカウントする。
 三、二、一、ゼロ。
 わたしは、スタートを切った。

『うううう、なめるなよ! もう一度転送ビームだ! 今度はボクの部屋のサーバーに送って、一気にケリを付けてやる!』
「アイアイサー!」

 クロコダイルが触手をもたげた。
 瞬間、あの、黄色いギザギザのビームが放たれた。
 わたしに向けて。
 だけど、わたしはまっすぐに突き進む。
 マスターが何も言わないということは、作戦の変更はなし。
 マスターは、何の考えもなしに、敵の攻撃に突っ込ませたりしない。
 だから、恐れることなんてない。
 わたしはまっすぐにクロコダイルを目指す。
 ビームがわたしに触れる瞬間。
 透明な幕のようなものが、わたしの前に展開され、ギザギザのビームをはじいた。

「な……!?」

 クロコダイルとそのマスターの声が重なる。
 わたしは止まらない。
 クロコダイルの正面で。
 わたしは高速ターンしながら、回し蹴りを繰り出した。



 ティアの蹴りで吹っ飛んだクロコダイルは、塔の壁に激突して突っ伏した。
 筐体の向こう、井山は目を見開いて驚愕している。

「な、なんで……なんで効かないんだよっ!?」
「ファイヤウォールだ」
「なん、だって……!?」
「違法アクセスに対する防御ソフトを使った」

 俺は井山に冷たく言い放つ。
 先ほど大城に手伝ってもらい、作業していたのがこれだった。

「AI移送接続ソフト……だっけか?
 セキュリティソフトのメーカーのサイト行って、ちょっと調べたら、対策用の防御ソフトが無料ダウンロードできたぜ?」

 大城はそう言って笑った。
 井山の顔は真っ青だ。
 俺はさらに井山を追いつめる。

「調べてみれば、移送接続ソフト自体が、裏サイトでは有名なフリーソフトだった。
 ハッカーを気取る割に、手が安いんじゃないか、井山……?」
「え、えらそうに~~~……っ!」

 俺の余裕の態度に、今度は顔を真っ赤にして怒っている。
 忙しい奴だな。
 そこへ虎実が口を挟んできた。

「なあ……ティアが蹴りを見せるのって……初めてじゃないか?」
「虎実、なかなか鋭いわね。あれはティアの新技よ」

 虎実の問いに、久住さんが答える。
 そう、これは雪華戦の後、バージョンアップしたレッグパーツで可能になった技だ。
 そもそも、以前のレッグパーツでは強度が足りず、格闘戦には使えなかった。
 それが分かっていたから、ティアに格闘戦をさせなかった。
 雪華との対戦で、ティアが見せた膝蹴り。あれがきっかけだった。
 あの時はレッグパーツが歪んでホイールが砕けたが、強度設計をちゃんとし直して、パーツも選んで組み直せば、格闘戦に対応できるものが作れるはずだった。
 近接の間合いで格闘戦ができれば、ティアの戦い方も幅が広がる。
 虎実との対戦まで、集中して行っていたトレーニングがこれだった。
 今日が初お披露目だ。 

「てか、なんでアンタが知ってるんだよ」
「だって、格闘戦の練習相手、ミスティだもの」
「……ずっりー」

 虎実の文句にも、久住さんは澄まし顔だ。
 だが、久住さんとミスティが手伝ってくれたおかげで、実戦段階まで持ってくることができた。
 井山も俺たちのことを、ある程度研究していたようだが、このゲーセンで使ったことのない技までは知るまい。
 その証拠に、ティアの肉弾戦をまったく警戒していなかった。

「クソッ! クソクソクソッ!!
 クロコダイル! いつまで寝てる!?
 さっさと起きて、飛び上がれ!!
 上を取って、またウィルス責めにしてやるっ!!」
『ア……アイアイサー』

 地団太を踏みながら、井山はクロコダイルに指示を出す。
 クロコダイルは、軽い音を立てながら、ふわり、と空中に浮かび上がった。
 背面にあるバックパックがフローティング・システムらしい。
 自身の身長の四倍ほどの高さに浮かぶと、そこで光の羽を出現させた。
 地上では何も付いていなかったバックパックから、突如巨大な羽が生えた……いや、現れたのだ。
 先の銃撃でも手応えがなかった。
 やはり、あの羽は立体映像の類なのだろう。

「よし、ティア。次は……」

 俺の指示に、少し驚いた様子のティア。

「できるか? 無理なことは言っていないつもりだが」
『もちろんです、マスター』

 ティアは口元だけ微笑んで、そう答えた。
 そして、再び滑走を開始する。
 バトル再開だ。
 同時に、井山が吠えた。

「また、アケミちゃんを動けなくして……今度こそ、ノックアウトしてやる!」
「やれるもんなら、やってみろ」

 俺の間髪入れない答えに、井山はせせら笑った。

「くくくっ……セキュリティソフトを入れていれば、問題ないと思ってるだろ?
 でも、ウィルスの処理にリソースを取られて、いつも通りの動きなんてできるわけないんだ!
 ひゃははははは!!」

 井山の嘲笑に、俺は無言で答えた。

「遠野くん……」

 少し心配そうな、久住さんの声。
 俺の腕を掴んでくる。
 俺は前を向いたまま、脇にいる彼女にだけ聞こえる声で言った。

「大丈夫。奴の視覚入力攻撃を……破ってみせる」

 そう。防御するのではない。破るのだ。
 俺は久住さんの手をはずさなかった。
 久住さんの安心したような吐息が聞こえた。 



 ギャラリーはにわかにざわめいた。
 またしても、視覚入力によるウィルス攻撃だ。
 セキュリティソフトを入れている神姫は、少し動きが鈍くなる程度だから、観戦するのは問題ない。
 だが、そうでない神姫は、ウィルスが侵入したら、またメモリをリセットしなくてはならない。
 安心して観戦もできないのだ。
 あまりに迷惑な攻撃に、多くのギャラリーしている神姫とそのマスターが困っていた。
 と、その時。
 観戦用の大型ディスプレイの色調が変わった。
 フルカラーから、セピアカラーのモノトーンに。

「なるほど、そんな手が……」

 感心した声を上げたのは、三強『ヘルハウンド・ハウリング』のマスターだ。
 視覚入力は、幾何学模様のパターンで入力する。
 データ量の多いプログラムを入力しようとすれば、模様だけでなく、その色も対象になるはずだ。
 だが、その色を単色にしてしまえば、羽の模様は神姫が見ても意味のない模様に過ぎない。
 これなら、セキュリティ対策を施していない神姫でも、観戦ができる。
 彼が振り向くと、カウンターのところで、ディスプレイ操作用のリモコンを持ったゲーセンの店長と目が合った。
 店長、グッジョブ。
 ヘルハウンドのマスターは、親指を立てるサインを送った。
 童顔の店長も、親指を立てて挨拶を返してきた。
 だが、彼も気にかかることがある。
 ギャラリーはこれで安全だ。
 しかし、クロコダイルと直接対峙している黒兎は、大丈夫なのか?
 再び大型ディスプレイを見上げる。
 そこでは、ティアが舞うように、踊るように、戦っている。



「くそっ! なんでだ、なんでなんだよっ!!」

 井山は苛立った声を上げた。
 彼がアケミと呼ぶその神姫は、クロコダイルをサブマシンガンの射程に捕らえながら走っている。
 彼女は八の字を描きながら、クロコダイルとの距離を一定に保っている。
 彼女を狙って、触手の持つハンドガンが一斉に火を噴くが、まったく当たる様子がない。
 ティアが、視覚入力攻撃に対し、なんらかの対策を施したようには見えなかった。
 彼女のマスターを自称する男は、ティアが走り出す直前に何事か話したのみ。
 それ以降はモバイルPCにも触らず、腕を組んで、じっと戦況を見つめていた。
 気にくわない。
 さっきまであんなに慌てふためき、苦しんでいたくせに。
 なんだよ、あの落ち着いた表情は。
 井山は歯ぎしりをする。
 ティアの動きは、彼の予想に反し、鈍ることがない。 
 いや、それどころか、スピードは加速し、技のキレは徐々に鋭くなってさえいる。
 散発的なサブマシンガンの攻撃で、クロコダイルは少しずつダメージを蓄積している。
 まだ致命傷にはなっていないが、いずれ不利な状況に追い込まれそうだ。
 井山はさらに苛立ちを募らせていた。 



 井山は筐体をバンバン叩き、明らかに苛立っている。
 そう、それでいい。
 舞い踊るティアを見つめながら、俺はすでに、次の段階へと思考を走らせる。



 観客たちも不思議に思い始めていた。
 井山の言うとおりなら、ティアはウィルス処理に追われて、いつものようなパフォーマンスは出来ないはずなのに。    
 ティアの舞いはますます冴えを見せている。

「いや……そんな、まさか……」

 三強の一人、『ブラッディ・ワイバーン』のマスターが思わず声を上げた。
 『玉虫色のエスパディア』のマスターが怪訝そうに彼を見る。

「あ? どうしたよ、ワイバーンの」
「あ、あいつ……黒兎のやつ、クロコダイルを見てないんじゃ……」

 玉虫色のマスターは、その意見を一笑に伏した。

「そんなはずあるかよ。レーダーだってろくに積んでないぜ……って」

 その笑いが凍った。
 そういえば、思い当たる節がある。
 ティアとは何度か対戦しているが、その試合の中でも、視線をはずしながら撃ってくることがあった。
 『エトランゼ』との初戦、ティアは壁を走りながら、ミスティを見ずに撃ってなかったか?
 『アーンヴァル・クイーン』との戦いで、雪華のヘッドギアを破壊したのは、見ないで放った一撃ではなかったか?
 大型ディスプレイ上のティアが、八の字を描いて一周するのを見つめる。
 間違いない。

「ティアのやつ……クロコダイルを見てねぇ!」

 玉虫色のマスターの声に、ギャラリーがざわめいた。 
 そのざわめきの間から、くすくすと笑い声が聞こえる。
 虎実とミスティだった。

「気付くのが遅えよ」
「ノールック・ショット……ティアの得意技よっ!!」

 二人の声に、観客から、おおっ、と驚きの声が上がる。
 視覚にもレーダーにも頼らず、敵を見ないで攻撃する。
 それも地上を高速で滑走しながら。
 ティアのレッグパーツはオリジナル武装だから、武装神姫の攻撃パターンデータのライブラリに、彼女のバトルプログラムは存在しない。
 自らの修練によってのみ身につけることができる超絶技巧。
 ゆえに、ティアだけが可能な、オリジナル技だった。



 俺が考えた作戦は単純だ。
 クロコダイルを見ればウィルスの影響を受けざるを得ない。
 だったら、クロコダイルをはじめから見なければいい。
 ティアにはそれが出来る。
 ティアに指示したことは、八の字を描きながらつかず離れず、クロコダイルを牽制すること。
 そしてその作戦は今のところ功を奏している。



 ティアの動きはますます磨きがかかる。
 その美しさに、何人もの神姫が、ため息を付く。
 パティたち、四人のライトアーマーの神姫も例外ではない。
 ティアのファンである彼女たちは、舞踏のような戦い方に目が離せない。
 ふと、画面の中のティアがこちらを見たような気がした。
 すると、ポモック・タイプが、大型ディスプレイを指さして、無邪気な声を上げた。

「ティア、笑ってる! 笑ってるよ!!」

 そう、バトルの最中、確かにティアは、口元に微笑みさえ浮かべていた。
 四人の神姫たちは、顔を見合わせ、笑顔になった。
 彼女たちは、ティアの笑顔が大好きなのだ。
 だから叫ぶ。
 声を合わせて大きな声で。

「ティア! がんばれー!!」

 その声につられて、ギャラリーからも声援がわき起こる。
 声援は、はじめは小さく、しかしだんだんと大きく広がって。
 そして。
 いまや観客の誰もが、ティアの名を呼んでいた。



 実力のある神姫マスターは、バトルを漫然と見てはいない。
 遠野の側にいる菜々子と大城は真剣な表情だ。
 大城は、今の状態を『膠着』と見る。

「クロコダイルの体力は削れちゃいるが、決定打は与えられてねぇ……どうすんだ?」

 隣の遠野は何も答えず、ただバトルを見つめているのみ。
 菜々子の考えは大城と少し違う。
 ティアの八の字の軌道に対し、クロコダイルはほとんど動いてはいない。
 実はクロコダイルも、ティアの攻撃を嫌がり、位置取りしようとしていたことに、菜々子は気付いていた。
 しかし、ティアの散発的な攻撃は、クロコダイルの移動をうまく阻んでいる。
 クロコダイルはその場に釘付けにされているのだ。
 そこには遠野の意図が働いているはずだ。
 だとすれば、この状況を足がかりに、何かを仕掛けるに違いない。

「待っているのよ……状況が変わるのを」

 菜々子は今の状態を『待ち』と見る。
 何を待っているのかは想像が付く。
 しかし、そこでティアが何を仕掛けるかまではわからない。



 二人の予想は、聞くともなしに聞いていた。
 井山が、久住さんと大城ほどにバトルに頭が働けば、今のティアでも苦戦したかも知れない。
 しかし、井山はバトルに対し、そこまで考えているわけではないのは分かっている。
 微妙に不利な状態での膠着で、いらいらを募らせ、それが頂点に達すれば。

「クロコダイルッ!! こうなったら、ハンマーで直接アケミちゃんを殴りとばせっ!!
 所詮、地上戦闘用の神姫。上からの攻撃にかなうはずないっ!!」
『アイアイサー!』

 クロコダイルが、ふわふわと空中を移動し、鈍足ながらもティアに突っ込んでくる。
 そうだ、井山。
 貴様が動くのを待っていた!

「ティアッ!!」
『はいっ!!』

 もう必要なことはティアに伝えてある。
 俺の合図と同時、ティアは軌道を変え、クロコダイルに突っ込んでゆく。

『な、なに……!?』

 戸惑うクロコダイル。
 ティアは姿勢を低くして、クロコダイルの真下を走り抜ける。
 すれ違う瞬間、俺はサイドボードを操作する。
 ティアの手に送り込まれたのは、一丁のハンドガン。
 動きののろいクロコダイルが振り向くより早く、ティアはクロコダイルの背後で身を翻していた。
 クロコダイルの背後を取った。最大のチャンス。
 ティアが銃を横向きに構える。

「ブラスター……三連射!?」

 さすがにミスティにはわかったらしい。
 ミスティとの初戦で繰り出したブラスターの連射技だ。
 だがな、ミスティ。このチャンスに、三発だけじゃもったいないだろ?

「狙い撃て!」

 俺の指示に、ティアが顔を上げ、的を見定める。
 もはやウィルスの影響を受けても、セキュリティソフトが駆除のために稼働しても、このティアの動きに支障はない。
 一点でスピンしながら、引き金を絞るだけなのだから。
 ティアが高速スピンしながら、エネルギー弾を連続で放つ。

『ぐ、ああああぁぁぁっ!!』

 はたして、エネルギー弾は、ことごとくクロコダイルに着弾した。
 背面のフロートシステムと羽の投影システムがあるバックパックを完全に破壊し、左腕を吹き飛ばし、右膝を焼き砕き、振り向こうとしていた顔面の右目を破砕した。
 投影機を失った、巨大な光の羽が、消失する。
 ティアがブラスターを投げ捨てる。

「な……七連射……」

 久住さんの呆然とした声。
 さすがは『エトランゼ』の異名をとる神姫マスター、よく見ている。
 ブラスターが地に落ちる。
 その衝撃に銃身がゆがみ、次の瞬間、ポリゴンの欠片となって砕けた。

「ブラスターの……銃身が……!?」
「銃身が、ティアの連続発射に耐えられなかったんだ……」

 虎実の驚きに、大城が冷静に答えた。
 もともとブラスターは発射の反動が大きいハンドガンだ。
 だから次に構えるまでにタイムラグがあるし、その間に銃身を冷却している。
 連続して発射できるようには設計されていない。
 だが、ティアはその技によって、連続発射を可能にした。
 結果、エネルギー弾の射出熱に、銃身の方が耐えられなくなった。
 だから、ブラスター連射は六、七発が限度である。

 使い物にならなくなったブラスターを捨てたティアは、間髪入れずに走り出していた。
 ティアの攻撃はまだ終わらない。
 浮力を失って落ちてくるクロコダイルに向かってダッシュする。
 そして、その落下地点。
 クロコダイルの身体が地に落ちるより早く。
 その背中に、ティアのサイドキックが炸裂した。

『がはっ!!』

 一声上げたクロコダイルは、土煙を巻き上げながら吹っ飛んだ。
 大音響が再び塔を満たす。
 俺はティアにサブマシンガンを送り込む。
 ティアは無言で、土煙の向こうにそれを構えた。

 静寂。
 徐々に土煙が晴れてくる。
 ティアが狙いを定める先、見るも無惨に半壊したクロコダイルがいた。
 残った右腕で上半身を持ち上げようとしている。
 あちこち砕け、焼け焦げ、欠損したその姿は、まるでゾンビのようだ。
 もはや戦闘能力も残ってはいるまい。

「もう、サレンダーしたらどうだ、井山」

 愕然とした表情のまま動きを止めていた井山だったが、俺の言葉に反応し、一瞬怒りの表情を浮かべた。
 しかしすぐに、いつもの不遜な表情で俺を見る。

「なんだって? 何でボクが、負けるはずのない試合で、サレンダーなんかしなくちゃいけないんだよ」

 負け惜しみもここまでくれば大したものだ。
 共感はできないが。  

「クロコダイルがまだ戦える状態ならそんなことは言わない。もう身体を起こすこともままならないじゃないか」
「ふん、それで勝ったと思ってるの?
 甘いよ。ボクはね……ボクのクロコダイルは、絶対に負けないんだよ。
 君たちこそ、今のうちにサレンダーするがいいさ!」

 あまりに不遜な物言いに、俺は眉をひそめる。
 まだ何かあるって言うのか?
 俺は疑惑のまなざしを、画面の中のクロコダイルに向けた。



 異変に気付いたのは虎実だった。

「なぁ……奴の体力ゲージ……増えてないか?」
「……ばかね、そんなことあるはずが……」

 ミスティは苦笑しながら画面を見直す。
 だが、その瞬間、たしかにほんの少し、クロコダイルの体力ゲージが増加したのを目撃して絶句する。
 最初はほんのちょっとずつだったが、徐々に体力ゲージが回復している。
 回復量はだんだんと増していき、いまや誰が見ても体力ゲージが回復方向に動いているのは確実だった。

「お、おい……クロコダイルの傷が……!」

 ヘルハウンドのマスターが、大型ディスプレイを指さした。
 映っているのは、地面に手をついたクロコダイル。
 その抉られた右目のくぼんだ縁が、きらきらとした光の粒子に彩られている。
 それはポリゴンの欠片だった。
 ポリゴンの粒子が集まり、クロコダイルの右目を修復し始めている。
 それだけではない。砕かれた右脚も、吹き飛ばされた左腕も、完全に破壊されたはバックパックも、徐々に修復されていく。

「じ……自己修復機能……!?」
「ありえないわ!」

 大城の呟きを、菜々子が即座に否定した。

「あれほどのダメージをリアルタイムで修復するなんて、ありえない!
 そんなことができるなら、リアルリーグで使われてるわ!」

 リアルリーグは、ファーストリーグの通称である。
 セカンドリーグの上位に位置し、歴戦の猛者が集まる究極の武装神姫ランキングだ。
 その特徴は、バトルはリアルバトルであること。
 へたをすれば神姫の破壊もありうる危険なリーグだ。
 もし自己修復機能などというものがあるなら、神姫を失う危険のあるリアルリーグで話題にならないはずがない。使用する選手もたくさんいるはずだ。
 そもそも、神姫サイズで自己修復機能を実現するには、現状、物理的に不可能だ。
 だが、今現実に、クロコダイルのダメージは自己修復している。

「……チートプログラムか」

 遠野の呟きに、菜々子と大城が彼を見る。
 チートプログラムとは、主にゲームソフトのデータを改竄するプログラムのことだ。
 それによって、プレイヤーは有利にゲームを進めることができる。
 もちろん、あらゆるネットゲーム、対戦ゲームで禁止されている。
 ゲームバランスを崩すどころか、ゲームが成り立たなくなる可能性がある。
 今、井山が使っているのは、バトルロンドそのものではなく、自分のデータを改竄して、試合中に自己修復できるものらしい。

「どこまで……汚い奴なんだ!!」
「ふふん、汚い? 別に汚くも何ともないよ。
 これはクロコダイルのオリジナル装備なんだ。その証拠に、ジャッジAIはボクに反則を出さないじゃないか。
 これがある限り、クロコダイルは倒せないんだ。ボクは絶対に負けないんだよ!
 いつか武器が尽きて、最後に負けるのは君の方さ!
 サレンダーするなら今のうちだよ! ひゃははははははは!!」

 大城の怒声を、井山は軽く受け流した。
 明らかにルールに違反したプログラムを使った場合、ジャッジAIは使用者を反則負けにする。
 自己修復機能のプログラムは公式でも認められていないはずだ。
 使用すれば、すぐに反則の警告がでるはずだが、ジャッジは沈黙している。

「くそっ、なんで……」
「おそらく、ジャッジAIの判定を回避するパッチがあるんだろう」
「遠野、お前何でそんなに落ち着いてるんだよ!?」
「お前こそ落ち着け」

 遠野は、ゆっくりと顔を上げ、井山に厳しい視線を投げた。

「……ジャッジAIが判定を下せば、文句ないな?」

 その言葉に、井山の醜い笑い顔が、ひきつって、固まった。



 わたしの心は、足下から這い上がってくる恐怖に、じわじわと浸食されている。
 自己修復機能なんて。
 どうやったら勝てるというのだろう。
 今この瞬間も、クロコダイルは回復を続けている。
 わたしはサブマシンガンを構えているけれど、これを撃っていいものかどうか。
 たとえ命中させて、ダメージを与えたとしても、回復してしまうなら弾の無駄遣いではないのか。
 そもそも、ダメージを回復する神姫を相手に、どうやって勝つというのか。
 わたしには考えも付かない。
 弱気になる。
 勝てないかも知れない、という言葉がわたしの中に浮かび始めたとき。

『ティア』
「……マスター」

 わたしの声はすがるような響き。
 対してマスターは、いつもと変わらない口調。
 なんで……そんなに冷静なんですか。
 そしてマスターは、いつも通りの口調で、当たり前のように言った。

「決めに行くぞ……あの技を撃て」
「っ!?」

 マスターには策がある?
 自己修復機能を打ち破る策が……!
 でも、私は同時に驚く。マスターに呼びかける。

「で、でもあの技は……!」  

 十回に一回くらいしか、成功しない。
 それはマスターも分かっているはずなのに。
 でも、マスターはとんでもないことを言った。

「問題ない。必ず成功する」
「な、なんで言い切れるんですか!?」
「俺が信じているからだ」

 マスターの声はあくまでも冷静で、そして、決然としていた。

「俺はお前を信じてる。
 今のお前なら撃てる。
 絆を信じ、もう恐怖からも劣等感からも解き放たれた、今のお前なら……
 撃てないはずがない」

 マスターの言葉は全然論理的じゃなかった。

「俺の言葉が信じられないか?」
「いいえ……誰よりも信じています」
「だったら、俺が信じて百パーセント、お前が信じて百パーセント。
 合計二百パーセントで成功する」

 ……計算がムチャクチャです、マスター。
 でも。
 不思議と信じられた。

「お前の最高の技で……奴との因縁を断ち切ってしまえ!」
「はい!」

 そう返事した瞬間、わたしの中に侵入していた恐怖が霧散した。
 わたしは顔を上げる。
 いまや上半身を持ち上げ、こちらを見据えているクロコダイル。
 もうすぐ右目が修復し、飛ばされた四肢も、破壊されたバックパックも直りつつある。
 わたしは強く決意する。この技でクロコダイルを倒す。
 わたしは目標を見定めて。
 手にした武器を投げ捨てた。



 ティアが武器を投げ捨てると、ギャラリーに動揺が走った。
 戦意を失った訳じゃない。邪魔だから捨てたのだ。
 ティアは両腕を広げ、身体を捻ってクロコダイルに背を見せる。
 腰を落とし、左膝を曲げ、右脚は後ろに伸ばす。
 フィギュアスケートの、ジャンプ直前のような姿勢。

「あれは……!?」

 虎実の問いに、ミスティが首を振る。

「見たこと……ないわ……」
「ティアの……新しい技!?」

 久住さんの言葉に、俺は無言で頷いた。
 ミスティとの練習でも見せたことのない、ティアの切り札。
 そして、ティアの弱点を克服するために考えた技だ。
 ティアの弱点……それは決定力だ。
 地上での高機動を武器にする代わりに、片手で持てる取り回しのいい武器しか持てない。おのずと攻撃力の低い武器に限られてくる。
 ゆえに、一撃で相手を倒すようなことは出来ない。
 この技は、その決定力不足を解消するために考え出した、ティアの必殺技だ。 

 ティアは、捻った上半身を大きく振り、そのまま体を伸ばして回転を始める。
 自転するホイールは即座にティアを高速でスピンさせた。
 クロコダイルはまだ動けない。
 ティアの接地しているホイールから、青白い火花が散った。
 その火花はだんだんと大きくなり、長くなり、ティアの足下から稲妻のように放出されている。

「見るがいい、井山……」

 自己修復能力のチートプログラムを打ち破る方法なんて、十通りは思いつく。
 だが、今のティアには、この技で決着をつけることこそふさわしい。
 なぜなら、この技は証だから。

「これが、貴様のバカにした……」

 今、俺たちがここにいること。
 俺とティアが共に戦えること。
 俺達は様々な障害を乗り越えて、パートナーになれた。

「俺とティアの……」

 それも、大切な仲間たちが支えてくれたからだ。
 ずっと俺たちを助けてくれた、久住さんとミスティ。
 大城と虎実は俺たちをバトルロンドに引き留めてくれた。
 他にもたくさんの、俺たちを応援してくれた仲間たち。
 雪華とのバトルでレッグパーツは新装され、この技は生まれた。

「俺たちと仲間たちの!」

 そう、この技は今のティアだからこそ成し得る技。
 かつて雪華は言った。
 『技はマスターと神姫の絆』だと。
 そうだ。
 この技は、この技こそは……!

「絆の証だっ!!」


『ライトニング……アクセルッ!!』

 ティアが技の名を叫ぶ。
 同時に、右足が横薙ぎに振り出される。
 その速度は神速。
 空を裂き、その軌跡をなぞって、ホイールから蒼き稲妻が放たれた。
 稲妻は、ティアのつま先の軌跡をなぞり、その形で飛んでゆく。
 まるで三日月の稲妻。

 それは刹那の出来事。
 蒼き三日月は空を裂き、クロコダイルに飛ぶ。
 行く手にある触手が切断される。
 無意識に持ち上げた腕が寸断される。
 さらに、クロコダイルの胸部アーマーを断ち割る。
 それとほぼ同時。。
 三日月の稲妻が、クロコダイルのCSCを直撃した。

『ぎゃあああああぁぁぁっ……!!』

 断末魔の悲鳴。
 そして、ティアがスピンを止め、クロコダイルと向き合ったときには。
 クロコダイルは口、耳、破損した右目、割れた胸から煙を噴いていた。

 一瞬、時が止まる。

 時間を動かしたのは、クロコダイル。
 ゆっくりと。
 前のめりに倒れ込む。
 クロコダイルが地に伏した瞬間、その身体は光の欠片となって散華した。

 ファンファーレが鳴り響く。
 塔の中に立体の文字が浮かび上がる。

『WINNER:ティア』

 ジャッジが勝利者を決した。
 勝った。
 クロコダイルをうち破った。
 ティアはついに、奴との因縁を断ち切ったのだった。








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