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ウサギのナミダ

ACT 1-33



 わたしは周囲の明るさに刺激されて、目を覚ます。
 地面に手をついて、身体を起こす。
 手には柔らかな感触。
 草だ。
 そして小さな花。
 辺りを見回す。
 驚いた。
 そこは一面、色とりどりの草花で埋め尽くされていた。
 近くには青い水をたたえた湖。
 周りは濃い緑の木立に囲まれている。
 さらにずっと向こうには、薄墨を流したような色で、山々が連なっている。
 美しい風景。
 こんなに光溢れた風景は初めて見る。
 なぜなら、お店を出たのはこれが初めてだったから。
 ……初めて?
 なにかが引っかかったけど、些細なこと。
 わたしは立ち上がり、自分の格好を見る。
 バニーガールのような姿。
 いつもと変わりない。
 わたしが辺りを見回すと、すぐ近くに、白い小さなテーブルと椅子がおいてあるのが目に留まった。
 そこで三人の神姫が談笑していた。

「……あら? 気がついたのね、二三番」

 わたしの正面にいた神姫が、にっこりと微笑みかけてくれた。
 知っている顔だった。

「七番姉さん……」

 他の二人も、わたしに振り向いた。

「やっと起きたか~」
「あはは、おはよー、二三番」

 赤い髪をポニーテールにした神姫はざっくばらんな口調で、もう一人のツインテールの小柄な神姫は無邪気に、わたしに声をかけてきた。

「一四番さんに、三六番ちゃんも……」

 そうすると、ツインテールの三六番ちゃんは、椅子から立ち上がった。
 わたしの方に駆けてきて、抱きついてくる。

「どこ行ってたの? 心配してたんだよ?」

 本当に心配そうな顔で、わたしを見上げてくる。
 彼女は、わたしより、ずっと後にお店に来た神姫だった。
 ある夜、お客さんにひどく虐められて泣いていた彼女を慰めた。
 それから彼女はわたしのことを慕ってくれている。
 わたしも三六番ちゃんを妹みたいに思っていた。

「うん……ちょっと……お客さんに連れ出されて……」

 ……そのあと、どうしてただろう。
 思い出せない。
 わたしが困った顔をしていると、三六番ちゃんは笑って、

「いいよ、二三番が無事だったら、それで」

 そう言ってくれた。
 彼女はわたしの手を引いて、テーブルの方へと連れて行く。
 三六番ちゃんは、薄い黄色のドレスを着ている。
 よく似合っていて、とてもかわいい。
 テーブルの前にくると、七番姉さんが空いている椅子に座るように促した。
 その前に。
 わたしは尋ねる。

「あの……ここは、どこですか?」
「あら、聞かされていないの?」
「……はい」
「ここは、NPO法人・紳士淑女の友の会にある、神姫AI保管用サーバーの中よ」



「AI移送接続ソフト、だと……?」
「そうさ」

 井山の奴は、したり顔で頷いている。
 ギャラリーはざわめいていた。
 おそらく聞いたこともない人が大半だろう。
 俺も何かでそんなソフトがあることを読んだ程度だった。

 ネットワークに接続している神姫のAIの意識を、任意の場所に送り込むソフトウェアだ。
 似たようなことは武装神姫でも日常的に行われている。
 アクセスポッドから筐体に接続するのと仕組みはあまり変わらない。
 遠方の対戦者ともネットワークで対戦もできるわけだから、ある意味、アクセスポッドで接続中は、神姫とAIは分離しているとも言える。
 だが、それはマスターと神姫自身の同意があって行われる行為だ。
 奴の言うAIの移送接続は、第三者によって、神姫のAIの意識を別の場所に飛ばしてしまう。
 先ほどの攻撃は、そのためのソフトウェア攻撃ということらしい。

「……はじめから、これが狙いか」
「やっと気がついたのかい? バーチャルバトルだと、戦闘中にネットのバイパス作ってやるだけですぐに飛ばせるから簡単なんだ。ひゃはははは!」

 塔のステージは、視界を隠すものが何もない。
 ティアにクロコダイルを見せて怖がらせ、逃げ場がないことを演出する。
 それと同時に、常にティアの視界にクロコダイルが入ることになり、視覚入力ウィルスの感染をより確実にする。
 ウィルスに侵入されたメモリは、リソース不足に陥り、セキュリティソフトを立ち上げることさえままならない。
 そうして動きを止め、セキュリティも万全でないティアに、AI移送接続ソフトによる攻撃で、AIの意識を別の場所に飛ばす。
 ……奴の策に、まんまとはまったのだ。塔のステージを許可した時点で。
 情けない。
 悔しさに俺は拳を握りしめる。

「……答えろ……ティアはどこだ……」

 声に悔しさが滲んでいるのを自覚する。

「くくく……心配しなくてもいいよ。アケミちゃんは今、昔の……神姫風俗の仲間と感動の再会ってところさ」
「なん……だと?」
「風俗の神姫を保護しているNPO法人のサーバーだよ。いまごろ、積もる話に花を咲かせてるんじゃないの?」



「その格好は、ここでは似合わないわねぇ」

 緩いウェーブの入った麻色の髪を掻き揚げながら、七番姉さんが言う。
 見れば、彼女は胸元の大きく開いた水色のドレスを纏っている。色っぽい。
 わたしはいつもの、バニーガールの姿だ。

「あ……でも、わたし……ドレスの持ち合わせなんて……」
「大丈夫」

 一四番さんが、わたしに微笑んだ。

「ここはバーチャルの世界。あたしたちがイメージすれば、好きな服装にぱっと着替えられるよ」

 そういう彼女は、スリットの深く入った、真っ赤なチャイナドレスを着ていた。
 わたしは目を閉じてイメージしてみる。
 どんな服を着てみたいだろう。
 そうだ、いつか見た、白いワンピースとサンダル。
 彼女はとてもきれいだった。彼も彼女に見とれていた。
 ……彼と彼女って、誰だったろう。
 些細な考えはひとまず棚上げする。今は服だ。
 イメージしたワンピースとサンダルを黒に染め上げ、自らが纏った様子をイメージする。
 すると……

「わあ……かわいい!」

 三六番ちゃんの声に、わたしは目を開く。
 わたしがイメージしたとおり、黒のワンピースを着ていた。
 三人とも微笑んでいる。
 テーブルの上には、ケーキと紅茶がおいてある。
 わたしは空いている椅子に腰掛けた。

「あの……他のみんなは……?」

 気になっていたことを尋ねる。
 すると、七番姉さんが答えてくれた。

「もうみんな、新しいマスターの元へ行ったわ。残っているのは、わたしたちだけよ」
「まあ、焦っても仕方がないし。あたしたちももうすぐ、マスターが来てくれるさ」

 一四番さんが言う。
 お迎えがこなくても、ことさら焦っているわけではないらしい。
 わたしはティーカップを口元に運んだ。
 穏やかな時間だった。
 痛みもない、苦しみもない。仲間たちとの優しい時間。
 これはずっと、わたしが求めていたもの。
 わたしは自然と微笑んでいた。



 不可解だった。
 AIを自由に飛ばせるのなら、自宅のサーバーに飛ばしてしまえば手っ取り早いはずだ。
 それを何で、NPO法人の、しかもティアの知り合いの神姫がいるサーバーなのか?

「どういうつもりだ……なんでそんな回りくどいことをする?」
「なぜって……」

 井山は、醜い笑顔をさらに挽き潰したような顔をして、歓喜を露わにした。

「決まってるじゃないか!
 絶望だよ! アケミちゃんを絶望のどん底に突き落とすのさ!!
 昔の仲間と楽しく話してさ、終わった頃に自分の身体に戻ってみたら、ボクの家なんだ。
 目の前にはボクとクロコダイル。
 アケミちゃんはどんな顔をすると思う?
 君の名前を泣き叫ぶ!? それとも恐怖のあまり絶叫するかな!?
 想像するだけでゾクゾクするよ!! ひゃははははは!」

 ……もう、許さないとかじゃない。
 怒りさえ通り越して。
 俺は、生まれて初めて、他人に憎悪を抱いた。
 こんな奴が今生きているのが間違っていると、本気でそう思った。

「……ティア!」

 諦めるわけにはいかない。
 ティアを、大切なパートナーを、こんな奴に渡すわけにはいかない。

「ティア! 帰ってこい! こんなところで、終わりにするわけにはいかないんだ!」
「ひゃははははは! 無駄無駄! 聞こえるわけないじゃん!」

 いや届く。俺は思う。
 今のティアは、意識が別のところに離れているだけで、機能は何も失われてはいない。
 だから、ティアのAIがこちらの身体を意識すれば、俺の声は聞こえるはずだ。
 何の根拠もなかったが、俺は信じていた。
 その考えにすがっていただけなのかも知れないが。

「遠野、サレンダーしちまえ。こんなバトル、何の意味もねぇ!
 奴が何か騒ぎ出しても、俺が何とかしてやる。だから……」

 大城の言葉を俺は速攻で否定した。

「だめだ」
「なんで!?」
「ゲームを終了すると、ネットワークが切断されて、ティアの意識が向こうのサーバーに置き去りにされる可能性がある」

 俺の言葉に、大城は絶句した。
 井山は向こうのサーバーにいるティアの意識を取り出すことができるのだろう。
 だからこそ、あんなまわりくどい場所に送り込んだのだ。
 俺は今、ティアを人質に取られているも同然だった。
 俺にできることは、ティアに呼びかけるほかにはない。

「ティア……戻ってこい、ティア!」

 俺はティアに呼びかけながら、いくつかの作業を行う。
 ティアが戻ってきたときに、十分な状態でバトルができるように。
 しかし、モバイルPCのキーボードを操作する手はもどかしい。
 俺が壊した右手は、包帯もとれているが、まだ以前の通りに動かすのは難しかった。

「くそ……」

 それでも俺は、必死でキーを叩く。
 もどかしさに焦りが募ってくる。
 すると。

「……遠野、代われ!」

 大城が俺からモバイルPCを奪い取った。

「大城?」
「俺が代わりにこっちの作業をしてやる。指示をくれ」
「……大丈夫なのか?」
「なめんなよ。バイクも神姫もやってんだ。メカいじりは得意なんだよ」

 うそぶくだけあって、大城のキータッチは意外なほどなめらかだった。
 俺は大城に、いくつかの調べものを依頼した。
 俺は呼ぶ。ティアの名を。必ず帰ってきてくれると信じて。
 それがたとえ、はかなく小さな希望だとしても。
 不安が大きく、心細くて、信じる心が折れそうになっても。
 それでも、俺は諦めるわけにはいかなかった。
 ティアの名を呼び続ける。



 わたしは振り向いた。
 そこにあるのは、湖畔を吹き渡る風だけだった。
 ……誰かに呼ばれたような気がしたのだけど。

「どうしたの?」

 三六番ちゃんの声に、 わたしはテーブルに向き直る。

「ううん……気のせい、だったみたい」

 三人とも、くつろいだ様子で、穏やかな日差しの中のお茶会を楽しんでいる。
 総勢二十人以上いた、お店の神姫たちは、一人、また一人と、新たなオーナーに引き取られて行ったのだという。
 神姫の保護を目的とするNPO法人・紳士淑女の友の会では、身元のよくない人間のところには、神姫を里子に出したりしない。
 だからきっと、みんな今頃幸せになっているだろう。
 三人はそう言った。
 わたしも談笑に混じる。
 話題はやっぱり、今後のこと、マスターのこと。
 みんながどんなマスターに仕えたいのか、わたしも興味がある。

「わたしは……そうね、優しい男の人がいいわ」

 そう言うのは、七番姉さん。
 彼女はわたしよりずっと前から、お店にいた神姫。
 一桁台の神姫で残っていたのは彼女だけで、年長者ゆえに、みんなのまとめ役だった。 
  優しいお姉さんという感じで、みんな彼女を慕っていた。

「落ち着いた大人の人がいいわね。
 それで、マスターのお仕事のサポートがしたいわ。
 マスターがお疲れの時には、ご奉仕するのもいいかも、ね」

 そう言って艶っぽく笑う。
 ものすごく色っぽくて、こっちの方が気恥ずかしくなるほどだった。

「あたしは武装神姫になりたいな。ばりばりのバトロンプレイヤーのマスターがいい」

 一四番さんは、お店の神姫の中でも、ムードメーカー的な存在だった。 
 お客さんに酷いことをされても、翌日には、あっけらかんとした顔で笑っていた。
 自分が傷ついていても、他の傷ついた神姫のために笑える、そんな神姫だった。

「できれば接近戦装備で、ガチの殴り合いとか。ストラーフ装備なんか理想だね」
「でもそれ、マスターの話になってないよ?」
「……まあ、マスターはイケメンに越したことはないよな~。それで、バトルの時は厳しいけれど、勝ったら優しくしてくれるの」

 頬を染めながら言う一四番さんは、今まで見たことがないほど可愛いらしかった。
 他の二人は、

「ふ~ん」

 と言って、含み笑いで彼女を見ている。
 すると、一四番さんは急に照れくさそうになって、

「そ、そういう三六番はどうなんだよ」

 そう言ってごまかした。
 三六番ちゃんは、すました様子で言う。

「わたしは、女の子のマスターがいいな。一緒におしゃれしたり、遊びに行ったり……きっと楽しいと思うの」

 夢見るような表情で言う。
 彼女は見た目も小さくて可愛らしく、感情も女の子らしい。

「小学生か、中学生か、そのくらいの可愛い女の子で、いつも一緒にいてくれたら嬉しいな」

 彼女に女の子のマスターは、とてもお似合いのような気がする。
 一緒に遊んだり笑ったり……楽しげな様子が目に浮かぶよう。
 他の二人も、目を細めて頷いていた。

「ねえねえ、二三番は、どんなマスターに仕えたい?」
「え、わたし……?」

 三六番ちゃんが興味津々といった様子で尋ねてきた。 
 ……わたしが仕えたいマスター?
 そう考えると、誰かのシルエットが頭に浮かぶ。
 テーブルに向かう三人が、わたしの答えを待っている。

 ……また、誰かの呼ぶ声が聞こえた気がした。



「うふふふ、久しぶりに、クロコダイルでいじってあげるよ。ギャラリーにもサービスしないとね?」

 井山の声と共に、クロコダイルがするすると動き出す。
 ティアの目の前に降り立つと、クロコダイルはティアの身体を立ったまま横抱きにした。
 スカートの下から八本の触手がにょろにょろと伸びてくる。
 触手はティアの細身にからみつき、うぞうぞと蠢き始めた。
 ティアは四肢の先まで触手にからめ取られ、危うい部分にも触手が這っている。
 クロコダイルはティアの乳房をもみしだきながら、恍惚とした表情を浮かべた。

『ああ……この感触、久しぶりだねぇ……』

 ティアは何の反応も見せない。
 触手に責められる恥態を見せてなお、瞳に光は戻らない。
 塔内部で繰り広げられる神姫の陵辱劇に、井山もよだれを垂らさんばかりの歓喜の表情を見せていた。

「ひゃは、ひゃははは……や、やっぱり、アケミちゃんはサイコーだよ……これで悲鳴を上げてくれたらもっといいのに……」

 だらしない声を上げる変態男に、氷より冷たい言葉が投げつけられた。

「ちょっと……あなたも神姫マスターなら……もっと正々堂々と戦ったらどうなの!?」

 ギャラリーが声のするほうに視線を向ける。
 菜々子だった。
 『エトランゼ』と呼ばれる凄腕のマスターが、見たこともない怒りの表情で叫んでいた。

「ずるい手ばっかり使って……相手の神姫にこんなことして……恥を知りなさい!」
「はあ?」

 ところが井山は、菜々子の氷点下の言葉さえ、厚い面の皮で阻んだ。
 それどころか、お楽しみを邪魔されて、不満そうだ。

「ずるい手って言ってもさあ、そんなのに引っかかる方が悪いし。
 第一、正々堂々戦ったって、勝てなくちゃ意味ないじゃん。アケミちゃんを賭けてるんだしさぁ」
「な……」
「だいたい、キミになんでそんなことを言われなくちゃいけないんだよ。外野は黙ってなよ」
「わたしは……遠野くんの仲間よ」
「はははっ、仲間だって~? キミこそ、そんなこと言って恥ずかしくないの? それに仲間だからって、キミには何もできないだろ?」
「く……」

 菜々子は唇を噛んだ。
 確かに、彼女に今できることは何もない。
 それどころか、奴を刺激すれば、ティアが危なくなる。
 そんなことは分かっていた。
 でも、言わずにはいられなかったのだ。
 こんなのは、こんな戦いは、彼女が憧れたバトルロンドじゃない。
 だが、井山は菜々子の想いをたやすく打ち砕く。

「引っ込んでなよ。じゃないと、今すぐアケミちゃんを殺しちゃうよ?」

 菜々子はうつむいて、押し黙った。
 ティアの意識を人質に、井山は強力なアドバンテージを得ている。
 奴の言うとおり、今の菜々子にできることなど何もない。
 彼女はただ、唇を噛み、拳を握りしめることしか出来ないのだ。



 久住さんの気持ちはよく分かるし、ありがたいと思う。
 もしできるなら、俺だって、今すぐ井山の顔を殴り飛ばしてやりたい。
 ティアの状況の方が、優先順位が上というだけの話だ。
 俺がこうしてティアに呼びかけている間も、井山は笑いながら、俺と、ディスプレイ上のティアを見比べている。
 ギャラリーはなぜか押し黙っている。
 バトルロンドコーナーには、俺の呼び声と、井山の高笑いだけが響いていた。

「よし、終わったぞ」

 大城が呟くように言って、モバイルPCを俺の方に向けた。
 俺は画面の表示内容をチェックする。
 大城に左手でOKサインを出した。
 大城はにやり、と笑った。
 大城のおかげで、ティアのリソースを奪っていたウィルスは削除され、セキュリティソフトが立ち上がった。
 これでティアの電子頭脳が無駄な作業をすることはなくなり、AIが指示した働きを正常に行うことができる。
 俺の呼びかけも、通りやすくなるかも知れない。
 バトルも支障なく再開できる。

 これで今やるべきことはすべてやった。
 そのせいか、俺は不思議と落ち着いていた。
 心は穏やかでさえあった。
 俺は、遙か彼方にいるティアの心に向かって、静かに、語りかける。

「ティア……聞こえるか?
 お前と出会って、いろんなことがあったな。
 つらいことも、たくさんあった。
 それを乗り越えて、俺たちはようやくパートナーになった。
 俺は今でも、本当に嬉しく思ってる。
 ……俺は気づいていたよ。
 お前が、前いた店の神姫たちの心配を、ずっとしていたこと。
 だからこそ、お前が自分の過去に捕らわれて、自分に劣等感を抱いていることも。
 お前が、昔の仲間と出会ったら、心はそちらに惹かれてしまうのかも知れない。
 ずっと一緒にいたいと、思うのかも知れない。
 ……それでも俺は、お前を諦めたくない。
 昔の仲間と引き離しても、俺の神姫にしたい。
 俺の独りよがりだって、わかってる。
 でも、諦められないんだ。
 ティアは、俺がやっと探しあてた、たった一人の神姫だから。
 お前以外に自分の神姫なんて考えられないから。
 だから、ティア。
 頼むから……帰ってきてくれ」

 それでも、ティアの瞳に、いまだ光は戻らない。



 美緒は遠野の背中を見つめていた。
 静かで落ち着いた口調。一途な想いが胸に迫った。
 でも、なんで、遠野さんの肩は小さく震えているの?
 椅子の両脇におろした手は拳をきつく握りしめているの?

 美緒と三人の仲間たちは、今回の事件をずっと見ていた。
 エトランゼとのバトルに始まり、ゴシップ誌にティアが載ったときも、遠野が常連たちに怒りを露わにしたときも、菜々子が三強を薙ぎ倒したときも、クイーンがティアを助けた雨の日も、ティアとクイーンの技の応酬も、そして今日のバトルも。
 そしてわかったのは、遠野とティアの、お互いに一途な想い。
 マスターと神姫になりたい、と。
 店売りの神姫であれば、オーナーがパッケージを開いてすぐに叶う、当たり前の関係。
 彼らはそれをやっとの思いで掴んだ。
 美緒も二人を応援していた。彼らにほんの少しでも関われたことを、誇らしく思っている。

 それなのに。
 卑怯で下劣な男の手によって、ティアが理不尽に奪われようとしている。
 なんで?
 どうして遠野さんとティアは、当たり前のことさえ、許してもらえないの?
 そう思ったとき、美緒は理解した。
 遠野が震えているのは、ティアを奪われることを恐れているからだ。
 大型ディスプレイを見上げれば、敵の醜悪な神姫が、ティアの身体を触手に溺れさせている。
 このままティアが負けてしまえば、彼女の心は昔の仲間と再会していたとしても、最後にはあの男の元へと連れ去られてしまう。
 あれだけの苦労をしてパートナーになった神姫を失ってしまうのだ。
 怖くて当たり前だ。悔しくて当然だ。

 必死に耐えている、その遠野の背中を再び見た。
 美緒は気がついた。
 ひとつ、ふたつ、何かが床にこぼれ落ちている。
 それが。
 遠野の拳からしたたる、赤い血だと気がついたとき。
 美緒の身体を衝動が駆け抜けた。

「ティアッ! 帰ってきなさいよ!! あなたの居場所は、ここでしょぉおっ!?」

 叫びが勝手に口からほとばしった。
 気がついたときには、バトルロンドのコーナーにいるすべての客が、美緒を見ていた。
 菜々子も驚いた表情でこちらを見ている。
 涙目になりながら、とっさに口を押さえた。
 大人しいと思われている美緒が、感情にまかせて叫んでいる。
 驚かれるのも当然だった。
 ギャラリーの視線が痛い。
 でも、叫んだ言葉は本心だった。
 わたしは間違ってない。間違ってなんかいない。
 だから、勇気を振り絞り、さらに言葉を紡ごうと、手を口元から降ろす。
 その時。

「そうだ! 美緒の言うとおりだ! 帰って来いよ、ここに!」
「あなたのマスターも、友達も、仲間たちも! みんな待ってますよ、ティア!」
「わたしたちだって、帰ってきて欲しい! もっとお話したい、バトルもしたい……友達になって欲しいの!」
「だから、帰ってきて、ティア!!」

 美緒の仲間たちが次々に言葉を投げた。
 少女たちの必死の叫びを、かの男がせせら笑う。

「きゃははは! そんなの、いくら叫んだって届くわけ……」
「届く! 届くもん! 絶対に……届くんだからぁっ!!」

 井山の言葉を遮って、美緒は泣きながら叫んでいた。
 すると、四人の神姫たちも、ティアに声を届けようと叫び出す。
 それにつられて、今度はギャラリーの神姫たちも。
 大勢の声が、ティアを呼ぶ。
 そして、驚いて周囲を見回していた、菜々子と大城も、遠野の座る椅子に手を回して、声を上げた。

「ティア、遠野くんを悲しませちゃダメ! 帰ってきなさい!」
「俺たちの約束を破るつもりか? もう待てねぇぞ、さっさと帰ってこい!」

 ミスティと虎実も。

「いなくなられるのが、一番悲しくて迷惑だって言ったでしょ!? わたしは待ってるから!」
「アタシは約束を守ったぞ!? アンタも約束を守れよ! 帰ってきて、バトルしてくれよ、ティア!」

 誰もがティアの帰還を願っていた。
 誰もが、想いを届けたくて、その神姫の名を呼んだ。

 しかし。
 すべてを断ち切る、絶望の声。


「あ~あ、シラけるんだよねぇ。お友達ごっこはさあ」


 井山の声はひどく気怠げに聞こえた。
 しかし、騒がしかった周囲を抉るように響いた。



 俺の視線は、不機嫌そうな井山の顔を捕らえる。
 お友達ごっこ、だと……?
 この状況で、そんなことが言えるなんて、どれだけ傲慢なんだ。
 井山は俺の視線など気付きもしないで、クロコダイルに指示を出す。

「あーあ、もうつまんなくなっちゃったからさぁ、終わりにしようか。
 ハンマーで、アケミちゃんの首、飛ばしちゃいなよ」
『アイアイサー』

 クロコダイルは名残惜しそうに触手をほどき、後ずさる。
 その後ろには、ストラーフ装備の「ジレーザ・ロケットハンマー」が転がっていた。

「やめろ……やめろよ、井山ぁっ!!」

 俺は叫び出していた。
 終わってしまう。
 こんなところで。
 俺の形相はよっぽど必死そうに歪んでいたのだろうか。
 井山は嫌らしい笑みを浮かべた。

「ひゃはっ、見ているといいよ、アケミちゃんの首が飛ぶところ!
 それで、後悔のあまり、泣き叫んでよ! ひゃははははは!!」

 クロコダイルが、ハンマーを拾い上げる。
 その顔には、狂気の笑みが貼り付いている。
 ティアは棒立ちになったまま、いまだに何も見てはいなかった。

「ティア、ティア! 帰ってこい! 頼むから、帰ってきてくれっ!!」

 終わるのか。
 こんなところで、本当に終わってしまうのか。
 俺はもう、何もできないのか。
 こうして、ただ空しく叫ぶことしかできないのか。
 お前の走りを見ることもできないのか。
 お前と笑いあうこともできないのか。

「ティア! 早く! 帰ってきてくれ! ティアッ!」

 筐体のディスプレイの中。
 クロコダイルがゆっくりとティアに歩み寄るのが目に入った。



 思い浮かぶシルエットは、だんだんとはっきりとした輪郭を取る。
 想いが形になり、像を結ぶ。
 その人は……
 わたしが、望む、マスターは……



 ティアは動かない。
 クロコダイルがハンマーを横に構えた。
 狂気をはらんだ笑みが膨らむ。

 届け、届けよ!
 俺の声! 俺の想い! みんなの呼ぶ声!
 ティアに届いてくれ!! 頼む……!!

『グッナイ、アケミ』

 クロコダイルの呟き。
 ハンマーが横薙ぎに振るわれる。
 ティアの頭めがけて。


「ティアアアアアアアアァァァァーーッ!!」


 瞬間、時が凍った。










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