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ウサギのナミダ

ACT 1-32



 塔の上から降りてきた神姫。
 俺はその神姫を見て、唖然として、言葉が出なかった。
 周りにいるギャラリーも、一様に驚いたような、呆れたような顔をしている。

「……しゅめっ、たー……?」

 言うな、大城。
 俺は認めたくなかった。
 世にも気色の悪いこの神姫が、あの愛らしいアイドルタイプの神姫、シュメッターリング・タイプがベースだなどと。
 それを認めてしまったら、世にいる数多くのシュメッターリングのファンに申し訳が立たないような気がする。

 シュメッターリング・タイプは、人気のある蝶型の武装神姫だ。
 人気の秘密は、バトルでの性能よりもむしろ、その可愛らしさにある。
 開発メーカーが「リトルリリィ」という販促用アイドルグループを結成し、人気を博しているほどだ。
 シュメッターリングは神姫に興味のなかった多くのユーザー、特に女性を中心に受け入れられ、一躍ヒット商品になった。
 その愛らしさ満点の神姫が……どうやったらホラー映画真っ青の、こんなに気味の悪い物体になるというのか。

 濃いピンク色の髪に、グレーの肌。頭から二本の昆虫のような触角が生えている。
 顔はシュメッターリングのマスプロモデル同様に大きいが、その大きさが際だっているように思えた。
 逆半月状の目が二つあり、瞳に黒目はなく、平坦になっている。
 口もまた逆半月状に大きな顔いっぱいに裂けている。口からは、ギザギザの歯が覗いていた。
 アーマー装備はシルエットこそシュメッターリングのものだが、機械的なモールドは消され、代わりに生物の内蔵のような意匠がのたくっている。基本色は緑で、縁取りが茶色。
 さらに、短いスカートの裾から、八本の触手がにょろにょろと伸びている。先端に握り手があり、それぞれにハンドガンを持っていた。
 そして、背面には、巨大な蝶の羽が生えている。
 片方の羽が、神姫の倍くらいの高さがある。
 その圧倒的な面積の羽は、夜の繁華街のネオンのように、いかがわしく明滅していた。
 武装は、触手の持つハンドガンの他に、手に持ったストラーフ装備の「ジレーザ・ロケットハンマー」。

 ……どういうセンスを持ってすれば、このような気色の悪い神姫ができあがるというのか。
 もう、蝶というより、蛾というより、擬人化されたバイ菌に見える。
 それで名前がクロコダイル?
 意味が分からない。

 そのクロコダイルは、ゆっくりと降下してきた。
 地上近くまで降りてくる。
 奴の主武器はハンドガンだから、それほど高度を保つわけにはいかないのだろう。
 大きな羽ゆえか、異常に圧迫感を感じる。しかし、あの羽では、空中型のような高速機動はできないはずだ。
 心配していた武器の射程も問題ないし、機動力でも互角以上に渡り合える。
 勝ちが見えた、と俺は思った。
 しかし。
 ティアの様子がおかしい。
 立ち尽くし、目を見開き、そして、歯をかちかちと鳴らしている。

「ティア……?」

 俺の呼びかけにも、ろくな返事が返ってこない。
 なんだ。あの気色悪い神姫がなんだというんだ。
 俺がそう思ったその時。

『アケミ~~~……』

 低いハスキーな声が、クロコダイルの口から漏れ出た。
 びくり、と大きく身体を震わせるティア。

『久しぶりじゃあないか……随分と調子に乗っているようだねぇ……。
 わたしのマスターを困らせる悪い子には……たっぷりとお仕置きしてやろうねぇ……』
『あ……あ、あ……』

 ティアが後ずさる。
 これ以上ない恐怖の表情で、クロコダイルを見つめている。

「さあ、クロコダイル! たっぷり、こってりと、アケミちゃんをかわいがってやれ!」
『アイアイサー』

 クロコダイルが、八本の触手を広げた。
 そして、一斉に構えると、ティアに向かって発砲した。

『きゃあああぁぁ! いやあああああああぁぁぁ!!』

 ティアは泣き叫び、一目散に逃げ出した。



 怖い。
 怖い怖い怖い怖い怖い。
 わたしの心は恐怖で溢れかえった。
 相手の神姫……クロコダイルを見た瞬間から。
 試合前の決意なんて、一瞬で押し流された。
 どうしようもなかった。
 あの異形を見ると、どうしても思い出してしまう。
 わたしが彼女から、どんな仕打ちを受けたのか。

 井山というお客さんは、わたしの馴染みの常連さんであり、わたしにとっては一番嫌なお客さんだった。
 わたしをあらゆる手段で、とことん苦しめ、悶えさせる。
 いやらしいことも、たくさんさせられた。
 そして最後には、わたしの腕や脚を折る。
 他のどのお客さんだって、そこまではしなかった。
 クロコダイルという神姫は、その井山という人の神姫で、彼の分身のようなものだった。
 マスターの命令を忠実に守る。
 それは神姫としては当たり前なのだけど、自ら喜んでわたしを虐めた。
 わたしが泣き叫ぶほど、二人の行為はエスカレートしていった。
 クロコダイルに対する恐怖は、わたしの心の奥に、嫌というほど刻まれている。
 どんなことをされたのか、身体が勝手に思い出す。
 それほどに苛烈な責め苦だった。

 わたしは泣き叫んで、闇雲に駆け出した。
 とにかく逃げなくちゃ。
 捕まったら、また、ひどいことをされる。
 でも、このステージはいつもの廃墟ステージとは違って、身を隠すところが一切ない。
 どうやっても、巨大な羽を広げているクロコダイルが目に入る。
 ……どこにも逃げられない。

「いや、いや、いやあああああぁぁっ!!」

 それを悟った瞬間、わたしは恐慌に陥った。



「ティア! おいっ! 落ち着け!」
『いや、いやああああぁぁ!』

 俺の言葉も耳に届いていない。
 ティアはとにかく闇雲に走っているだけだ。
 ティアが何でこんなにも、クロコダイルを恐れているか、わからない……想像はつくが。
 だが、今のままでは、奴が手を下すまでもない。
 こんな気のない動きでは、いつ転倒するか分かったものではない。
 それに、たとえ今かわせていても、クロコダイルの射線が、いつかティアを捕らえるだろう。
 これでは自滅を待つだけだ。
 ティアが恐れる気持ちも分からないではない。
 かわいそうにも思う。
 ティアをさらに追いつめるかも知れないと思いながらも、それでも俺はティアを怒鳴りつけた。

「ティアッ!!!」

 自分でも驚くほど大きな声で。
 画面の中のティアが、一瞬、動きを止めた。



 恐慌に支配されていた心に切り込んできたのは、マスターの呼ぶ声。
 わたしは、びくっ、と大きく身体を震わせる。
 マスターの声が、今までで一番、大きくて怖い声だったから。
 本気で怒っていると思ったから。

『何を怖がっている! そんな走りで、自滅して負けるつもりか!』
「マ、マスター……」

 サイドボードから、私の手元にサブマシンガンが送り込まれてきた。

『走れ、そして撃て! いつも通りにやれば、負けるはずがない!』
「で、でも……怖いんです、あの神姫が! 何されるのかと思うと……怖くて……仕方がないんです!」

 わたしは足を止めずに、マスターに言った。
 弱音を吐いた。
 だって、どうしようもなくて。
 でもマスターは、聞いたこともないような恐ろしい声で、わたしを叱咤した。

『今のお前はなんだ!?
 二三番の神姫か、それとも奴の呼ぶアケミか!
 違うだろ。あの頃の為す術のなかったお前じゃないだろ!
 今のお前は、ランドスピナーを操り、名のある神姫たちとも渡り合えるんだ。
 奴と戦える術があるんだ。
 だから、戦う前から諦めるな!!』

 マスターの声色はとても怖かったけれど。
 その言葉に、わたしはようやく思い出す。
 そう、わたしは恐怖に自分を見失っていた。
 自分から勝負を捨てようとしてた。
 でもそれは、わたしを『ティア』と呼んでくれる人たちへの裏切りに他ならない。
 わたしはまた、同じ過ちを繰り返すところだった。

 手を握りしめる。
 握り慣れたグリップの感触。
 そう、あの頃のわたしには、為す術なんてなかった。
 今のわたしには、対抗する術がある。
 相手の神姫を見る。
 また恐怖が溢れてくるけれど。
 もう心が塗りつぶされることはない。
 サブマシンガンの感触が、わたしに教えてくれる。
 わたしは戦える、と。



 やれやれ。
 ティアは何とか持ち直した。
 まだ泣きそうな顔をしているが、動きに危なっかしいところはなくなった。
 ティアとクロコダイルは散発的な射撃の応酬を続けている。
 どちらも、勝負の決め手にはなっていない。
 クロコダイルは、地面から少し上に陣取って、浮遊している。
 ティアの射線をはずすために、少し位置をずらす程度だ。
 あの巨大な羽に、銃弾が当たってはいるが、ダメージを受けた様子はない。
 立体映像か何かだろうか。
 だとしたら、飾り以外に何の用途もない羽ということになるが……。
 いろいろと疑問に思うことはあるが、俺はそろそろ仕掛ける算段を始めていた。
 ふと、向かい合う位置に座る井山を見る。
 奴は、いつもの、嫌らしい笑みを浮かべた。

「まあ、あのまま自滅してくれた方が、君たちは苦しまずにすんだんじゃないかなぁ」

 何を言っている。
 はったりか、皮肉か、それとも策か。
 いぶかしげに思いながらも、俺は奴を睨む。

「うふふ……そろそろ効いてくる頃じゃない?」

 効いてくる?
 何が?
 井山の言っていることは意味不明だった。
 画面上のティアは、クロコダイルの攻撃をかわし続けている。
 有効打はないが、射撃の精度も悪くはない。
 やはりはったりか……。
 俺がそう思ったその時。

「……あれ?」
「どうしたの、パティ?」

 俺の背後で声がした。
 確か、あの四人組の一人、八重樫さんという眼鏡の少女と、ウェルクストラのパティだ。

「な、なんだか……身体が……重く……」
「え、どこか悪いの?」
「いえ……特に異常は……」

 いや、異常だった。
 パティの調子が悪いだけではなかった。
 ミスティも頭を押さえている。
 虎実も実況ディスプレイを見上げる身体が辛そうだ。
 そして、俺の視界にいるすべての神姫が、同じ症状に見舞われているようだった。
 ばかな。何が起こっている?
 俺はティアをみた。
 ティアは相変わらず、クロコダイルの射撃のことごとくをかわしている。
 しかし、その技は、目に見えて精彩を欠いていた。
 いつものティアなら、もっと余裕を持ってかわしているはずだ。
 俺はすぐさまモバイルPCを操作し、ティアの機動を分析する。
 ティアはパフォーマンスを落とすまいと、懸命に動いているようだが、すべてのスピードが右肩下がりだ。
 しかし、装備にまったく異常は見られない。
 だとすると、ティア自信に問題があることになるが……。
 俺はティアをモニターしているソフトを呼び出し、異常をチェックする。
 身体自体に異常はない。
 だが、異常に大きな数字を示しているパラメータに気がつく。
 ティアの電子頭脳のリソースの数値だ。
 処理するデータ量が激増しており、あきらかにリソース不足に陥っている。
 俺は、ティアの電子頭脳の処理状況の詳細を開いた。
 絶句する。

「なんだ、これは……」

 俺が現在作動中のティアのデータを探ると、そこにリストアップされたのは、正体不明のプログラム群だった。
 それらはティアのメモリ上に展開され、似たような名称のファイルを生成し、勝手に増殖している。
 一種のウィルスソフトだ。
 これがティアのリソースを圧迫し、行動するためのプログラムの処理を遅延させていたのだ。
 しかし、なぜだ。
 神姫のウィルス対策なんて、初歩の初歩だ。
 俺だって当然やっている。
 いつ、ティアのメモリにウィルスソフトが混入した?
 今、だ。
 このバトル中だ。それ以外には考えられない。
 仕掛けたのは井山。
 ティアだけでなく、他の神姫も同じ方法でウィルスを入れられたのだろう。
 だが、どうやって?
 どうすればそんなことが可能なんだ?
 ティアとギャラリーの神姫が、バトル中に同じ状況にあったもの……。
 筐体の中と外で、同じ状況をもたらしているもの……。
 俺は観戦用の大型ディスプレイを見上げた。
 クロコダイルが羽をいっぱいに広げて、地上のティアを攻撃している。
 ……まさか!
 俺は顔を上げると、大きな声で叫んだ。

「ギャラリーしてる神姫! 全員、奴を見るな! その上で、現状のメモリをリセットだ!」

 いきなり叫び出した俺に、ギャラリーは驚きの視線を向ける。
 しかし、そんなことはかまっていられない。
 緊急事態なのだ。

「セキュリティソフトがあるなら、それを起動。オンメモリに、正体不明のファイルがたくさんあるから、それを削除だ! 早く! どんどん増え続けるぞ!」

 久住さんと大城が真っ先に動き出す気配。
 俺はだめ押しの言葉を放つ。

「ウィルスだ! クロコダイルの羽から、視覚入力で感染してる!」 

 ギャラリーは一瞬にして大騒ぎになった。
 セキュリティソフトを起動して、対象のファイルをリアルタイムで削除するのが一番早い。ミスティも虎実もそうしているようだ。
 神姫の記録領域にセキュリティソフトを入れていない神姫は、記録領域に現状のメモリをセーブせずにリセットすればいい。
 このウィルスはリソースを無闇に使用するのが目的だから、オンメモリをリセットすれば事足りる。
 ただ、今日これまでの記憶が飛んでしまうかも知れないが。
 いずれにせよ、ギャラリーは慌ただしく、対策に追われている。

「な、なんだよこれ……いつのまに……」

 虎実の呟き。
 削除対象のウィルスに驚いている。
 いつのまにかウィルスが自分のメモリに侵入してきていたのだ。戸惑う気持ちも分かる。

「視覚入力……とか言ったか?」

 大城の問いに、俺は頷く。

「あの羽の模様だ。
 俺たちには意味のない模様が明滅しているだけだが、神姫が見ると、メモリ上でプログラムに変換される」
「……そんなこと、できんのかよ?」
「仕組み自体は簡単だ。ずっと昔からある」
「なんだそりゃ?」
「バーコードだ」

 幾何学模様の配列によって、二次元の印刷に情報を記録する。
 前世紀からポピュラーに使われている技術だ。
 神姫の目……カメラを通して読みとり、神姫の電子頭脳……コンピュータが処理をして意味のある情報に復元する。 
 井山は、クロコダイルの羽の模様に、ウィルスを仕込んでいたのだ。
 それを読みとった神姫の電子頭脳が、オンメモリでウィルスを展開した。
 大城は、まだよく分かっていないのか、首を傾げている。
 井山が少し驚いた顔で俺を見ている。

「へぇ……視覚入力に気がつくなんて、なかなか鋭いじゃない?
 いままで戦った相手でも、バトル中に気がついたのはほとんどいないよ」

 こいつに感心されても嬉しくない。

「ウィルスとは、随分回りくどい手だな……これが貴様のバトルロンドか」
「ボクはハッカーだからねぇ。ソフトとネットワークが武器なんだよ」
「こんなもの、反則もいいところじゃないか」
「はぁ? ジャッジAIは何も言ってないよ。ジャッジが反則の判定をしないなら、ウィルスだろうが何だろうが有効さ!
 それに、こんな草バトルでどんな手を使おうが、批判される筋合いはないよねぇ?」

 痛いところをついてくる。
 草バトルはどんな装備を使っても文句が言えない。かつてそう言ったのは俺自身だ。

「それよりも……うふふふ、アケミちゃんの苦しむ顔は、やっぱり最高だよねぇ!」

 井山の言葉に、俺は唇を噛む。
 ティアはもうフラフラだった。
 あの鋭い機動は見る影もない。
 ゆっくりと歩くような速度で、ようやく攻撃をかわしている。
 転倒し、地べたを這いつくばって、今にも泣き出しそうな顔をして、それでも懸命にかわし続ける。


 そんな姿のティアに、俺は手を打てずにいた。
 クロコダイルと直接向かい合っていたせいか、ギャラリーの神姫たちよりもウィルスの影響が大きい。
 もはや行動プログラムを展開するのが精一杯で、セキュリティソフトを立ち上げるメモリの余裕はない。
 バトル中にメモリの消去など、もってのほかだ。
 メモリ消去から再起動までの間、無防備になるし、たとえ復帰できたとしても、最近の記録をなくすので、直後の状況を把握できない。
 俺は今、モバイルPCを使って必死でファイルを削除しているが、削除したそばからウィルスが増殖し、手のつけようもなかった。

「くっくっく……それじゃあ、仕上げと行こうかな。この攻撃受けてごらんよ!」

 井山の言葉と同時、クロコダイルは頭から伸びる二本の触覚をもたげた。
 そして、その先端から、大昔のアニメで見たような、黄色いギザギザのビームが放たれた。
 速い!
 必死にかわそうとしたティアだったが、一瞬遅かった。

『きゃああああああぁぁぁ!!……あぁ……あ……っ』
「ティア!!」

 雷に撃たれたように身をこわばらせたティアの名を、俺は思わず叫んでいた。
 ティアはそのまま棒立ちとなる。
 ……なんだか様子がおかしい。
 モバイルPCに表示されるティアのモニター画面には、リソース不足以外の異常は何も出ていない。
 それどころか、筐体のディスプレイに表示されるヒットポイントのゲージは削れてもいなかった。
 しかし、今のティアは、顔から表情が消えていた。
 目はうつろで、光がない。
 先ほどまで地面に身体を這いつくばらせていたのに、いまは脱力したまま立っているような状態だ。

「ティア……?」

 返事がない。
 まるで意志を失ってしまったかのように、画面のティアは立ち尽くしている。

「ティア、どうした? 返事をしろ。 おい……ティア、ティア!!」

 いったい何があったと言うんだ。
 あの攻撃はなんだと言うんだ。
 俺は、井山を睨みつける。

「貴様……ティアに何をした!」

 俺の視線の先で、井山はぐにゃりと顔を歪めて笑った。

「ひゃはははは! やっと怒ったね!
 まったく、冷静な顔なんかしてないで、もっと慌てふためいてもらわないとね!
 今度はキミに楽しませてもらうんだからさ! ひゃはははは!」
「貴様……」

 今度は俺の醜態を楽しむだと?
 どこまで歪んだ奴なんだ。

「へへへ……そんなに知りたけりゃ、教えてあげるよ。ボクが何をしたか……」

 井山は、嫌らしい笑顔を浮かべながら、俺を見た。









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