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ウサギのナミダ

ACT 1-26



 雪華さんが最大攻撃を展開しようとしたとき、わたしは再び走り出そうとしていた。
 あの人は強い。
 強いに決まっている。
 わたしたちが出場することのかなわない、公式大会の優勝候補なのだから。
 武装も、技も、経験も、すべてわたしを上回る。
 でも、勝ちたい。
 勝たなくてはならない。
 雪華さんと戦う機会なんて、今を除いて他にない。
 わたしの望みを果たす、最初で最後のチャンス。
 すべてを上回る敵に勝つためには。
 わたし自身が限界を超えなくては、勝ち目はない。
 それはマスターの言いつけに反旗を翻す行為だ。
 マスター、ごめんなさい。
 わたしはやっぱり、だめな神姫ですね。マスターの言いつけ一つ、守れません。
 でも、どうしても、このバトルに勝ちたいんです。
 勝利をマスターに捧げたいんです。
 許してくれなくてもいい。
 それが、たったひとつだけ、わたしがマスターにしてあげられることだから。

 わたしは今の位置から動かず、身体の各部をチェックする。
 先ほどのダメージは大きいけれど、幸いにレッグパーツに大きな損傷はない。
 パフォーマンスは維持できる。
 ならばいける。
 まだわたしにはやれることがある。
 誰にも、マスターにも見せていない技がある。
 マスターには内緒で練習していた。完成したら報告するつもりでいた、この技。
 わたしはうずくまった体勢をほんの少し変える。
 両手を地面につき、腰を少し持ち上げる。右膝を身体に寄せて、左脚を後方に突っ張った。

 クラウチング・スタート。

 陸上競技短距離走で使われているスタート体勢だ。
 スタートの踏み切り、重心の移動、ホイールの回転、それらすべてのタイミングが合えば、たった一歩でトップスピードに乗れる。
 でも、何度も練習したけれど難しくて、成功するのは三回に一回くらい。
 それでもわたしはこの技を使う。必ず成功させる。これならば、雪華さんがどんな攻撃をしてきても、絶対にかわせるはずだ。
 わたしは武装を確認する。
 左腕のハードポイントに装着されたコンバットナイフが一本。それだけ。
 ならば方法は一つだけ。
 スピードで近づき、ナイフによる一撃をくわえる。一番得意の攻撃スタイルだ。
 空中のエネルギーの増大を感じる。
 雪華さんの最大攻撃に間違いない。
 雪華さんから光がほとばしるその瞬間。
 わたしは、スタートを切った。



 『アーンヴァル・クイーン』の最大攻撃に、俺も呆けたように見入っていた。
 確か、クイーンの幻の技と噂される攻撃だった。
 真に認めた相手にしか使わないと言われるその技は、雪華という神姫の誇り高さも手伝って、滅多にお目にかかることが出来ない。
 先の大会でも、一度も使われたことがないはずだ。
 この技を繰り出したということは、ティアが雪華に認められたということなのか……。
 俺は、ティアが負けたというのに、安堵してしまっていた。
 俺を現実に引き戻したのは、モバイルPCからの耳障りな警告音だった。
 画面を見て、俺は低くうめいた。
 レッグパーツのモニター数値が次々に限界突破の赤字で表示されてゆく。
 それはいままでに使用したことがないほどの領域での機動をしていることを意味している。
 ティアはまだ生きている。
 戦うことをやめていない。
 だが、 先ほどの一瞬で、マスターである俺が、ティアの姿をロストしてしまっていた。
 ティアは何をしているのか、それさえわからない。
 自らの限界を超えて機動することは、自滅の可能性を加速度的に高めている。
 ティアにはいつも言い含めていた。
 自分に出来ない機動はするな、と。
 その言いつけを破ってまで、ティアは戦い続けようとしている。
 サイドボードの武装は尽き、もうろくな武装も残ってはいない。
 勝ち目なんてあるはずがない。
 それでも、ティアは疾走をやめようとしない。

 「ティア……おまえ……」

 なぜそうまでして、戦い続けようとするんだ、お前は?
 あの『アーンヴァル・クイーン』を相手にここまでの戦いぶりは立派だった。
 それで十分じゃないのか。
 ティアの姿をようやく見つけたとき、彼女はトップスピードのままビルの壁面を駆け上がってジャンプするところだった。
 空中できれいなトンボを切ると、鋭い膝蹴りの体勢。
 ティアは雪華の直上にいた。


◆ 

 高度を落としていたのは幸いだったといえるだろうか。
 ティアの膝蹴りを直撃で食らったが、空中で大きくバランスを崩すこともなく、地面に叩き付けられた。
 地表激突時の衝撃は、思ったより大したことはなかった。これが高度からの錐もみ状態だったら、無事ではすまなかっただろう。
 雪華は、身体と装備の損傷を確認しつつ、立ち上がった。
 四肢は無事。身体には衝撃のショックが残っているが、戦闘の続行に問題はない。
 武器は『レクイエム』の状態から、落下のショックでバラバラになり、手元にあるのはビームガンだけだ。
 蹴りの直撃を食らった右翼は、接続部が砕け、もがれていた。
 もう羽は使い物にならない。浮遊程度の飛行なら腰のスカートバーニアで可能だが、戦闘機動は無理だ。
 ティアの姿はない。空中での一撃の後、すぐにまた姿を消してしまった。
 雪華の顔に、一瞬焦燥がよぎる。
 状況は一変した。五分、あるいは雪華が不利か。
 雪華は虎の子の必殺技を放った直後。バッテリーの残存量は心許ない。
 ビーム兵器を乱発するわけにはいかない。しかし、実弾兵器を雪華は装備していなかった。
 しかも、飛行能力を奪われた。
 ティアのスピードに合わせた戦闘機動が出来ない以上、待ちかまえる以外の選択肢がない。
 多少高度が取れるとしても、また叩き落とされるのがオチだろう。

 雪華は戦慄する。
 今、自分は、狩られる側に回ったのだ。
 圧倒的な有利を覆されて。
 甲高いホイール音が廃墟に響く。
 どこから出てくるのか……。
 逡巡している暇もあらばこそ。
 ティアほどのスピードスターに対して、それは隙も同然だった。
 雪華の右後方のビルの上から出現したティアは、雪華めがけて弾丸のように飛び出すと、勢いに任せてコンバットナイフを振り下ろす。
 攻撃を受ける直前に気が付いた雪華であったが、対応は間に合わない。
 コンバットナイフは雪華の手首を切断し、持っていたビームガンを取り落とした。

「あああぁぁっ!!」

 雪華から悲痛な叫びが漏れる。
 叫びながらも次の攻撃への迎撃体勢を整える雪華。
 だが、ティアはあっという間に攻撃圏外へと離脱し、再び姿を消していた。

『雪華、大丈夫かい!?』

 ここでマスターがようやく声をかけてきた。
 遅い、と雪華は思う。
 次の攻撃が来たら、雪華の心は折られていたかもしれない。

『落ち着いて迎撃体制を整えるんだ。右腕は装甲を使って盾として運用。ビームガンを左手で持ってで迎撃。それから、すぐに高度を取れ』
「しかし、翼が壊れています」
『腰のバーニアだけでも、浮遊くらいは出来るだろう? 地上は相手のフィールドだ。少しくらい上空の方がまだ戦いやすい。
 翼はもう使い物にならないから、パージして』
「了解」
『相手の武器はコンバットナイフ一本だ。恐れることはない。落ち着いて戦えばいい。状況はまだこちらに有利だからね』
「はい、マスター」

 だが、マスターの指示は的確である。
 このくらいの危機は、以前何度も体験している。
 踏んだ場数は伊達ではない。
 雪華は心を落ち着かせると、四方に注意を払いながら、右腕を胸元に寄せて盾とし、左腕でビームガンを構える。
 そして、自らの象徴でもある翼を、パージして捨てた。
 腰部バーニアの上昇能力には問題がないようだ。
 少しふらつきながらも、ゆっくりと上昇を始めた。
 その時だ。
 正面左側の路地から、黒い疾風が飛び出した。
 ティアだ。
 いままで見たこともない速度で、正面から突進してくる。
 雪華はビームガンで牽制した。二発、三発。青白いレーザー光がストリートの彼方へと閃く。
 ティアは必中のレーザービームを、トップスピードのまま滑らかにかわして見せた。
 雪華は再び戦慄する。
 今の射撃は、ティアの運動性能を計算に入れ、補正した上での射撃であったはずだ。
 しかし、回避した。最小限の動きで、スピードを落とさずに、である。
 この回避は明らかにオーバースペックである。神懸かり的な機動だ。
 焦りに駆られ、雪華はビームガンを乱射する。とはいえ、雪華の攻撃は正確無比だった。
 しかし、ことごとくかわされる。

 雪華はティアを見た。
 目が合う。
 ティアも雪華を見据えていた。
 ティアの瞳は闘志に燃えていた。必ず勝つ。執念のほの暗い炎が揺らめいているようだった。
 ばかな。
 これは大会でもなんでもない、ただの草バトルに過ぎない。
 なのに、何故これほどまでに勝利を欲するのか?
 自らの限界を超えてまで。
 彼女はこの戦いに何を賭けているというのか。

 すべての攻撃をかわし、ティアは雪華の懐に入り込んだ。
 雪華の右脇をすり抜けつつ、逆手に握ったコンバットナイフを袈裟懸けに振り下ろす。
 しかし、今度は雪華の負傷した右腕が、渾身の一撃を防いだ。
 雪華の美貌が苦痛にゆがむ。
 ナイフは雪華の右腕の装甲を割り、肘間接の機構まで食い込んで止まった。
 すり抜けざまの攻防で、食い込んだナイフを引き抜くことは出来ない。
 ティアはナイフを雪華に預けたまま、すれ違い、離脱してゆく。



 ティアの行動は、完全に俺の指令から逸脱していた。
 マスターの命令を無視した暴走神姫。そう取られても仕方がない。
 この時点で、俺は試合を放棄することも出来た。それはマスターの正当な権限だ。
 筐体に備え付けられているサレンダー・ボタンを押せば、それだけで決着が付く。
 止めるべきだ、と俺の心の奥底から声がする。
 今のティアは、限界を超えた機動を繰り返している。
 それは、細い糸の上で綱渡りをするようなもの。
 安全マージンの取れない機動は、ほんの少しのギャップ、取り回しのミスなどで大転倒、大事故に繋がる。
 しかも、先ほどの膝蹴りで、レッグパーツのフレームが歪んでしまっている。繊細なトリックをするのは難しい。
 今のように限界以上にホイールを回転させていれば、ホイール自体に負荷がかかり、いずれ砕け散る。
 相手に倒されるよりも自滅する可能性の方がはるかに高くなっているのだ。

 しかし、俺は、この試合を止められなかった。
 俺のいいつけをいつも従順に守ってきたティア。
 いつもオドオドしながら俺と話し、機嫌を伺うように上目遣いで俺を見つめ、俺の命令を熱心に聞いている神姫。
 そんな彼女が、俺に逆らってまで、危険な綱渡りをしてまで、戦い続けている。
 あいつがこの戦いに賭けるものはなんなのか。
 マスターである俺こそが知りたかったのだ。
 声を発することも出来ず、ただ神姫の姿を呆然と見守っている俺の姿は、さぞかし間抜けに見えているだろう。
 だが、もう俺には命令を下すことができない。俺は負けてもいいと思ってしまった。命令する権利なんか、俺にはなかった。
 もう、見守るしかできない。

 ティアが雪華とのすれ違いざまに一撃をくわえた。
 唯一の武装だったコンバットナイフを手放した。
 だが、ティアをモニターしているモバイルPCには、新たな武装が表示されている。
 行け、ティア。
 お前が思うままに舞い踊れ。



 雪華は緩やかな上昇を続けていた。
 傷ついた右腕を、割れた装甲と食い込んだコンバットナイフと一緒に、切り離して捨てる。
 いまや使用可能な武装は、左腕のビームガンと、両腰に装備されたライトセイバーだけだ。
 身を守る盾は期待できない。
 次の攻防で相手を確実に迎撃できなければ、敗北する。
 迫り来る直後の攻防こそが最後の戦闘である。
 最低限の体制は整えた。
 だが、あまりにも心細い。
 ティアには武器がないはずだ。最後の武器は、今雪華が自らの右腕とともに捨てた。
 装備の上では、まだ雪華の方に分があった。
 それでも、追いつめられているのは雪華の方だった。
 ホイール音はさらに甲高くなって、廃墟の街に響いている。
 瞳はせわしなく周囲に視線を送る。序盤に破壊されたヘッドギアのせいで、敵を感知する能力が極端に下がっている。
 視覚、聴覚センサーがとらえる微細な変化にも過剰に反応してしまう。
 上昇のスピードの遅さにいらだち、バッテリーの残量に心細さを覚える。
 かつて、これほど追いつめられた戦いがあっただろうか。
 バトルを始めた頃は、幾度も負けたし、危うい勝利を手にしたことは何度もある。
 しかし、連勝を重ね、優勝候補に名を連ねるようになってからは、これほどの消耗戦は経験していない。
 誇り高き女王・雪華は、通常の試合であったなら、この状況を屈辱と感じていただろう。
 しかし、雪華はティアの瞳を見てしまった。彼女の、この試合に賭ける闘志を感じてしまった。
 そして、未知の戦闘スタイルを、このクイーンを追いつめるほどに編み上げてくるとは。
 自らの必殺技を出してなお、迫り来る強敵。
 雪華は、屈辱以上に、戦慄以上に、強敵への純粋な敬意を感じている。
 それを自覚した瞬間、雪華のAIから迷いが消えた。
 強敵に対峙する覚悟が、彼女の胸を占める。
 迎え撃つ。
 そう覚悟を決めて、正面を見据えた。
 瞬間。
 三度、黒い疾風が現れた。


 今度は、雪華の斜め右下方の路地から飛び出し、ストリートを斜めに横切ってくる。
 雪華は牽制のビーム射撃。
 なんなくかわされる。着弾位置はすべてティアの後方だった。
 ティアのスピードはさらに上がっているようだ。
 あっという間にストリートを横切ると、スピードを落とさぬまま、左手のビルの壁を駆け上がる。
 やはり、雪華の高度まで上がってきて、接近戦を仕掛けるつもりだ。
 雪華もそれは予測していた。
 取り回しの悪いビームガンを捨てた。どうせ当たらない。これが最後の攻防だ。
 雪華はティアを迎え撃とうと、右腰のライトセイバーに左手を伸ばす。

 ない。

 「なに!?」

 驚きのあまり声を上げる雪華。
 確かに、先ほどまで両腰にあったはずだ。
 使った覚えも、落とした記憶もない。
 ならばどこに……
 ティアはさらに速度を上げて突進してくる。
 この試合最速の動きで、ティアは雪華に向かってきた。
 ティアが右手を掲げる。
 その手には、雪華のライトセイバーが握られている。
 なぜ、いつ? ティアの手にライトセイバーが渡った!?
 雪華は一瞬に思いを巡らす。

 あのとき。
 二度目の交差、ティアがコンバットナイフを捨て、無手になったその時。
 すれ違いざまに、雪華のライトセイバーを奪っていたのだ。
 雪華は恐怖に近い戦慄を覚えた。
 勝利への執念。
 ティアのあまりにも強い勝利への執着が、雪華にからみついてくるようだ。
 なぜ、どうして。この草バトルにどれほどの意味がある!?
 雪華の無言の問いに気づくはずもない。
 ティアが壁を踏み切る。
 瞬間、ホイールが砕け散る。
 ティアがライトセイバーの光刃を伸ばし、間合いに飛び込んでくる。
 左のライトセイバーを逆手で取って払う……間に合わない!

「やあああぁっ!!」

 裂帛の気合いとともに、ティアのライトセイバーが、雪華の胸を狙って突き出された。


 その機動は、雪華も無意識のうちであったという。
 右腰に触れていた左手を鞭のようにふるって、ライトセイバーの柄を叩き、刃の軌道を逸らした。
 同時に身をよじるようにして光刃をかわす動作。
 からくも直撃を免れたライトセイバーは、雪華の美しい銀髪を巻き込みながら、翼があったはずの空間を貫いた。
 腕を振り、身を捻った勢いそのままに、雪華は右足で蹴りを放つ。
 直撃。
 腹部の衝撃に、ティアの顔が驚愕で彩られる。
 雪華もまた驚きに目を見開いていた。この一撃は、雪華が意図したものでは全くなかったからだ。
 お互いの驚きで、動きが一瞬停止した。
 その状況をすぐさまうち破ったのは、高村だった。

『雪華! 下方にバーニア全開!!』
「はいっ!!」

 雪華は、残存バッテリーなど気にもせず、腰部のスカートバーニアを全開にした。
 スピードが上がり、加速がつく。
 雪華はティアを右脚の先に引っかけたまま、突進した。
 斜め下の地表まで。
 勢いを殺さぬまま、雪華はティアを地面に激突させた。
 轟音が響き渡る。
 砂煙がもうもうと上がり、衝撃の大きさを物語っている。
 やがて、煙が晴れてくると、二人の神姫の姿が見えてきた。

 ティアは、地面に半ばめり込んだまま動かない。
 手から力が抜け、雪華から奪ったライトセイバーが、力無く転がった。
 雪華もまた膝をついている。
 右脚の関節から紫電が散っていた。臑のレッグパーツにも大きなひび割れができている。
 最後の一撃は、雪華にもまた衝撃とダメージを与えていた。
 バッテリーも底をつきかけている。
 それでも、雪華は立ち上がる。
 自らの誇りと矜持を示すために。
 ゆっくりと片脚で立ち上がると、凛として顔を上げた。
 廃墟を吹き抜ける風が、二人の神姫をなでてゆく。
 雪華の長い銀髪が宙に舞い、決然とした表情を顕わにした。
 ファンファーレが鳴る。

『WINNER:雪華』

 バーチャルフィールドに、雪華の勝利を示す立体の文字列が浮かび上がった。
 試合終了。
 見慣れた立体文字の連なりを、今日ほどむなしい気持ちで見上げたことはない。
 試合には勝った。
 だが、これは本当に勝利なのだろうか?

 もう首を動かすのもつらいほど、バッテリーは限界だった。
 地面に叩きつけられたままのティアを見る。
 疲れ切ったような表情で目を閉じ、倒れている。
 腹部の銃痕、右脚のレッグパーツのホイールは砕けている。
 だが、四肢は無事だ。
 意識があれば、まだ無事な左脚で走り、挑んでくるだろう。
 それに比べて自分はどうだ。
 右腕を失い、右脚も破損。翼も武器も失い、バッテリーも尽きかけている。
 もう戦う術も残ってはいない。
 勝敗を分けたのは、無意識の戦闘行動。それのみ。
 勝ったなどと、どの口で言える?

 雪華はティアを見つめ続けている。
 限界を超えて自分に迫ってきた神姫。
 そのポテンシャルの源はどこにあるというのだろう。
 雪華の無言の問いに答えることもなく。
 ティアの身体は、ポリゴンの欠片に砕けて、風に流れ、消えていった。








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