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第五話 相対


  眼下のサルーンと巡航速度を同調させ、クエンティンは飛んでいる。
  雪が前方から真横に吹き付けるが、不思議なことに一粒も彼女へぶつかることはなかった。
  風圧のせいではない。彼女の周囲にはエイダにより目に見えないエネルギー膜が張られてあって、それで雪のみならず空気中の埃を払いのけ、さらに空気抵抗を大幅に減衰させてあの驚異的な高機動性を叩き出しているのである。
  彼女の顔に当たる風は突風などではなく、ほとんどそよ風程度と言ってよかった。
  サルーンとの同調速度から若干落とし、クエンティンは車の斜め後方上空へつく。さらに後方の光点、エイダとおなじメタトロン・プロジェクトのプロトタイプ、彼女のいわば姉妹機にも気を配る。まだ姿は見えない。攻撃してくる気配も無かった。
  同調速度へ戻し、相手が接近するのを待つ。先制攻撃は向こうへくれてやるつもりだった。一般に戦闘においては先制攻撃側が有利とされているが、エイダが『問題ありません』と言ったのでそうすることにした。
  エイダは姉妹機の武装を知っているようだった。具体的にはやはり情報機密ロックに該当するようで教えられなかったが、エイダは機転を利かせて間接的にアドバイスしているのである。
  すると少なくとも相手は、あのアヌビスというやつは攻撃と同時に着弾するようなたとえば直進するレーザーのような武器は持っていないことになる。他の武装は、まあ、後々身をもって分かるだろう。
  クエンティンはつい先ほどの、理音と鶴畑興紀の会話を思い返していた。
  思い出せば思い出すほど悔しさがこみ上げてくる。
  が、神姫に人権はあるべき、無くてよいなどという当為的な議論はともかくとして、人権が無いのは事実であり、また安易に人権などもらってしまえば神姫を趣味のためのツールと考えている人間の自由を剥奪してしまうことになるのもまた事実だった。
  それは認める。認めるしかない。
  だが、もっと重大な懸念がある。人権が与えられたその瞬間、武装神姫はその存在意義そのものを失ってしまう可能性があるのだ。
  たとえば、もしバトルがしたくて神姫を買ったオーナーの元にバトルをしたくない神姫がやってきた場合。神姫に人権が付与されていたなら、オーナーは神姫の「バトルはしたくない」という権利を絶対に守らねばならない。
  絶対に、である。理解のあるオーナーならいいが、全員が全員そうだとは限らない。
  他にも、「ああしろこうしろ」とむやみやたらに命令することも許されない。
  それらを破ったら即刻、神姫に対する人権侵害となる。
  所有者が所有物の権利を尊重するという、立場の逆転が起こってしまうのだ。
  武装神姫はオーナーがお金を出して買った所有物であり、だから武装神姫はオーナーの願いや命令を聞くのであり、すなわちそれこそが武装神姫なのである。少なくとも武装神姫という商品はそう作られた。
  「神姫はパートナーだ」「妹だ」「娘だ」あるいは「恋人です」「女王様でございますうぅう!」などの、オーナーそれぞれの気持ちや理解は関係なく。神姫をどう捉えるかはオーナーの自由だ。
  言い切ってしまえば人間の所有物だから武装神姫なのだ。命令を聞かなければ武装神姫として存在している意味が、無い。
  オーナーが「君のやりたいようにやるがいい」と言ったとして、言われた神姫が自由にしているように見えても、当の神姫は――意識的であるにしろ無意識的であるにしろ――自由にやりたいことをやっているのではなく、「自由にやれ」という命令を聞いているに過ぎない。
  武装神姫は明確な意思を持っているが、しかし人権を欲することはしたくてもできないのだ。少なくとも人の所有物として生まれている今現在は。人権が欲しいなら所有物であることをやめる必要がある。武装神姫でなくなる必要が。
  いま、神姫が人間らしい――という表現も、自分が神姫だということをさし引いて考えるならおかしいな、とクエンティンは思った――生活を送れるかどうかは、ひとえにオーナー一人一人の良識に全てが委ねられているのである。
  それならアタシは幸せだ。クエンティンは理音に心から感謝した。
  心から? うーん、やっぱり神姫に心は、意思はあるかも。少なくともアタシ自身はそう思う。クエンティンはひとまず納得した。
  変わって、正義の話に関しては、いささか疑問を感じていた。

『鶴畑興紀の話には条件が必要です』

  クエンティンの思考を読んだのか、エイダが答える。そのとおりだ。
  彼の『個人の正義は誰にも侵害されず、また自分の正義で他人の正義を侵害してもいけない』という主張は、個人体個人の間でのみ有効な主張だ。
  これがもし集団が主体となった場合、彼の主張は一気に崩壊する。
  なぜならば、集団の正義は往々にして他集団や他個人の正義を侵害することで成り立っているからだ。
  いや、侵害という言葉は適切ではないかもしれない。集団そのものの意識や目的はともかく、集団というものは集団であるということ自体が理由となって、どうあがいたところで他の正義(思想や権利と言い換えてもいいかもしれない)のうえにかぶさる様にできている。
  簡単な例を挙げるなら、企業がある。とあるひとつのカテゴリに属する企業は、同じカテゴリにある他企業の正義を押さえつけなければ存在できない。押さえつけなければその企業は死んでしまうからだ。製造販売業ならば、他企業よりも良いものを作って売るという行動がそれにあたり、その行為は同時に他企業を押さえつける行為となる。他企業は押さえつけられたままでは滅びてしまうから、同じようにより良いものを作って、売る。
  そのいたちごっこが続く。俗に競争と呼ばれるやつだ。だからこそ技術は発展し続け、消費者はより良い生活ができる。お姉さまは「このケーキおいしくなったわね」と言える。
  鶴畑コンツェルンがやっていることはまさに正義の押し売りなのかもしれない。他企業を押さえつけ、自らがのさばる。それを意図的にやっている。
  ふと、クエンティンは思った。他の正義を押さえつけることは、すなわち支配ということではないか、と。

「支配者って、自分の正義を他人に押し付ける人のことかしら?」

  クエンティンは個人ではなく企業人としての鶴畑興紀をイメージしながら、言葉に出して言って見た。誰に訊いたわけでもない。が、たぶんエイダに訊いたのだろうとクエンティンは思った。

『無条件ならば、そのとおりです』

  エイダは答えた。
  ならば、私はバトルにおいては自分の正義を他人に押し付けているのだろうか?

『それは違います』とエイダは言った。
「どうして? 私はバトルで、支配者になろうとしているのよ」

  クエンティンはエイダと出会う直前に考えていた、支配者になるのだという考えを伝えた。相手に支配していると気づかせない、雪のような支配者になるということを。

『バトルは認められた戦いです』

  エイダは即座に返答した。はからずも理音が考えていたことと同じことだった。バトルは認められた戦いであるし、どんなに戦ったところで(神姫に人権が無いことを前提とすれば、たとえリアルバトルでも)死者は出ないから、対戦者同士の正義はぶつかり合わない。
  もしぶつかるとしたら対戦者相互の個人的な感情事情のみで、その多くは「自分が勝ったら何々をして(~になり)、相手が勝ったら何々をする(~になる)」というものである。バトルの勝ち負けによりどっちの願望が実行されるかというものだ。
  正義という言葉を使うなら「自分が勝ったら自分の正義で相手の正義を押さえつけても良いね」という対戦者お互いの承諾なのである。バトルという行為そのものにはまったく関係が無い。

「……そうかな?」
『そうです』

  エイダはさらに続ける。
  仮にバトルの中で支配者となったとしても、それは相手の正義の侵害ではなく、バトルの中で展開を有利に運べるようになったというだけなのだ。勝っても負けても誰も死なないから、取り返しのつかないことにはならない。つまりバトル後もそれぞれの正義は続いてゆくのである。

『ただし、戦死者が出る実戦であった場合、意味は大きく違ってきます』

  相手を殺さなければ自分の正義の遂行が危ういのである。
  実戦とか死ぬとかいう例は大げさだが、これを現実的な事象になおしてみるならば、たとえ個人対個人でも正義のぶつかり合いはある。
  間に権利的か利益的、企業的な干渉があった場合(たとえば子持ちの夫婦が離婚したときの親権争い、恋敵同士による一人の女性の争奪戦、どちらか一方しかその企業との契約がとれない場合における営業担当同士の交渉戦、など)、負けた側は自分の正義、あるいは願望を貫けないのだから戦わざるを得ない。
  この部分が鶴畑興紀の主張に足りない。と、エイダは言った。たとえ個人でも、正義がぶつかるときがあるのだ。
  正義を物質みたいに扱っているな、とクエンティンは感想を言った。死んだらその先に物質は持っていけないというわけか。
  でも、自分自身に即してみるならば、と、クエンティンは考える。神姫に人権が無いという事実は置いといて、リアルバトルで破壊される、死ぬ、のはやっぱり嫌である。もうお姉さまとお話もできないと考えると、途方も無く恐ろしかった。人工知能基本三原則の自己保存でもあるが。
  そのリアルバトルを今からやるのだよな。
  改めて考えると、クエンティンは突然言いようの無い恐怖におそわれた。
  メインジェネレータ、人間で言う心臓のあたりの鼓動が早くなり、全身の駆動部分が陽電子頭脳からの微弱なパルスを感じてぶるぶると震え始める。クエンティンはつまり怖さで縮み上がっているのだ。
  負ければ壊される。死ぬ。という恐怖。リアルバトルをやるのは初めてではない。ついさっきだってあの一つ目どもとさんざリアルバトルをやったばかりだ。
  なのに、この恐怖は何だろう。やめたい、やりたくない。死にたくない。あのサルーンの中に今すぐ取って返してお姉さまの胸に飛び込みたい。

「うっ……」

  引きつった声が漏れた。声だけでなく、股間部の排出口から廃熱を吸い取り切った古い冷却水も漏らしてしまいそうだった。
  やばい。このまま戦ったら負ける。確実に。

『感情回路の異常を感知。沈静プログラムオープン』

  エイダが報告。
  すると、途端に恐怖が薄らいでゆく。全身をすっきりした感覚が走り、ジェネレータの鼓動は平常に戻り、震えも止まった。

「あ、ありがとう、エイダ」
『どういたしまして』

  鎮静剤を打たれたのと同じようなものだな、と思いながら、クエンティンはお礼を言った。彼女がいなければこのままちびっていたかもしれない。

「あいつは? アヌビスは」
『変化はありません』

  後ろを振り返る。光点はまだ動いていなかった。さっきから同じ速度で追いかけてきている。接近するそぶりは無い。

「まだ仕掛けてこないなんて……。おかしいな」

  そう言った瞬間だった。
  光点がふっ、と消えた。

「えっ!?」
『警告、脅威接近、オンザノーズ!』

  エイダが叫ぶ。

ギュバッ!

  聞いたことの無い奇妙な音とともに、目と鼻の先にそいつが現れた。
  ピンと立った細長い耳のようなアンテナのついた、犬とも狼ともつかないフードのようなヘッドギアをかぶった神姫だった。ハウリンではない。ハウリンのはこんなに鋭角なヘッドギアではないし、なにより目が隠れない。その神姫の目は見えなかった。ヘッドギアの側面から後頭部にかけて覆うように薄いレースのようなものが首まで垂れている。
  背中に八枚の羽のようなユニットを浮かばせ――背中にくっついていない――、腕を組み、右手に錫杖の形をした長い得物を携えていた。
  ボディの色は今のクエンティンよりも黒に近く、胸部の球体から赤いエネルギーラインが全身に渡っている。
  静かな威圧感が自分をわしづかんだように、クエンティンは感じた。

『離脱してください!』
「はっ!?」

  我に返ってバックブースト。左手でエネルギーシールドを張りつつ、クエンティンは間合いを取る。
  攻撃されていたら間違いなくやられていた。なぜ攻撃してこなかったんだろう。やはり捕獲するためなのだろうか。

『MMSタイプ・アヌビス、「デルフィ」です』
「あいつが……!?」

  瞬間移動してきた。リアルで。ありえない! 一体どんな原理が使われているんだろう。

『ゼロシフトです』
「え?」
『いまの瞬間移動のことです。エネルギーバリアの空気抵抗減衰能力と空間圧縮技術を応用し、現在位置と移動先の空間を圧縮することで短距離の超高速移動が出来ます』
「ちょっ、ちょっと待ってよ、あいつの武装データはロックが掛かってるんじゃないの?」
『デルフィの武装データはセンサーで確認した場合公開されたとみなし、その武装に関するロックが無効になります』

  つまり奴からのあらゆる攻撃は一度見なければ情報ロックが解除されないというわけだ。

「それじゃあ分からないのと大差ないじゃない……」

  避けられればなんとかなるが……、所見の攻撃の回避率が総じて低いことは経験で知っている。
  しかしこれでもエイダはなんとか機転を利かせてがんばっているのだ。

「ノウマンって奴、恨んでやるわ」

  クエンティンはロックをかけた顔も知らない責任者に、頭の中でパンチを食らわせた。
  デルフィの表情は変わらない。唯一露出している唇は結ばれたまま、ピクリとも動かなかった。
  表情や仕草から意図を読むことができない。クエンティンはバトルの際そうして戦ってきた。どんな行動にも予備動作というものが必ずあり、ほとんどの攻撃はそれで対応できたのだ。
  こんなにも先の読めない敵は初めてだった。いや、正確に言えば初めてではない。エイダとの融合前の、一つ目との戦いもこんな感じだった。融合後は性能差で勝てたに等しい。
  クエンティンはまだ、この融合後のボディに慣れきっていなかった。
  奴の意図はなんだろう。自分を壊すのか、拉致するのか。
  どちらであれ、いやだった。

『目的地まであと二分です』

  エイダが報告する。

ギュバッ!

  同時にデルフィは瞬間移動。クエンティンの目の前に出現する。
  右手の錫杖がしゃらりと鳴り、横なぎに払われる。

「ぐっ!」

  とっさシールドを張って重防御。にもかかわらず鈍器で殴られたような衝撃が全身を揺さぶった。シールドの衝撃吸収機能がほとんど役に立っていない。

『距離をとって戦ってください。近接戦闘は危険です』

  言われきらないうちにクエンティン、バックブースト。

ガ、ガシォーン!

  ホーミングレーザーを放ちつつ距離をとる。サルーンと並行しながら動かなければならないから、制御が難しい。平行飛行の操作をエイダに委ねる。これでさほど気にならなくなるが、サルーン側へはすばやく移動することが出来ない。

ヅシャシャシャ!

  デルフィはシールドを張りつつ錫杖をぐるぐると回転させ、レーザーを防御。レーザーは一発も有効弾にならない。

グヴィーンッ

  デルフィの背中から何十本もの、血のように赤いレーザーが射出された。

『ロックオンレーザーです』

  エイダが言った。
  しかし、鋭角的にのたうちながら迫ってくるレーザーに、クエンティンはどう避けたらよいか見当が付かない。

『可能な限りひきつけ、前方へブーストしてください』

  すかさずエイダのアドバイスが飛ぶ。

「可能な限り引き付けて、って……」

  四方八方から迫るレーザーを見渡し、さらに間合いを取ろうとしながらクエンティンは怖気づいた。

「抜ける隙間がない!」

  クエンティンはシールドを最大出力で展開、四肢を踏ん張って耐える態勢に。
  着弾。
  左手がばらばらに砕け散るかと思うほどの振動がやってきた。クエンティンは目をつぶってしまう。
  レーザーの嵐は止まらない。ロックオンレーザーを時間差で撃ちつづけているのだ。それでも一撃一撃が重かった。
  姉妹機のくせして、アタシはこんなに撃てない!
  射撃がやむ。かろうじて左手は砕けなかった。
  うっかり気を抜いてしまい、そのままシールドを解除する。

『攻撃警告!』

ギュバッ!

  キスでもしてしまいそうなほどの近くに、デルフィが出現した。
  気を取り直す間は与えられなかった。

ドツッ!

  錫杖が振り下ろされ、左肩口に痛打。

「ぎゃうっ!?」

  異常なパワーをクエンティンは感じた。左肩装甲にひびが入る。
  そのままデルフィは錫杖を振り回してうずくまるクエンティンを文字通り袋叩きにしてしまう。
  右わき腹から左大腿、胸部、右腕部、左すね。回避するタイミングを逃したクエンティンは、手足をちぢこめて耐えるしかない。
  一撃で倒すことはしなかった。デルフィはわざと急所をそらして殴りつけているのだ。それでクエンティンは、こいつは自分をさらっていこうとしているのだと分かった。
  こんなところで黙ってさらわれるわけには行かない。

「うわあーっ!」

  ブレードを跳ね上げる。

「!」

ギュバッ!

  デルフィはゼロシフトで離れる。口元がやや開いている。意外な反撃に初めて驚愕の表情を見せたのだった。
  クエンティンは高速の思考でエイダに指令。

〝エイダ、一番簡単なサブウェポンを手動で出して!〟
〝しかし、多大な負荷がかかります〟
〝いいから早くやって!〟

  エイダは手動プログラムを開始。途端にクエンティンの頭部から煙が上がり始める。この時代において容量、計算速度、冷却効率そのどれをとってもトップクラスのスペックを誇る陽電子頭脳に、その許容をはるかに上回る負荷がかかっていた。これでいて最も軽いサブウェポン一つを呼び出しているのだ。
  頭痛ががんがんと暴れだしたがクエンティンは耐えた。
  右手の平にいくつもの小さな螺旋が出現。それらは銀色の球体となって顕現する。
  クエンティンは球体を握り締めると、腕をぶん回し、デルフィに向けて投げつけた。
  サブウェポンを使われるとは考慮していなかったのか、デルフィは瞬間移動で回避することなく球体を当てられた。
  球体はデルフィのボディにくっつくと、ボディと反対の方向に細長い光を放出した。
  ゲイザー。
  球体の強力な推進力により対象を拘束するサブウェポンである。

『鶴畑家対空ファランクス砲の射程範囲に到達しました。進行方向へシールドを展開してください』

  クエンティンは言われたとおりにする。
  直後、サルーンの向こう側からオレンジ色に光る筋が高速で飛来した。筋の正体は五発に一発装填されているファランクス砲の曳光弾である。
  空気を切り裂く音が繋がって聞こえる。毎分六千発以上の高速射撃により、辺りは鉛の雨と化した。
  二十ミリという大口径ライフル弾の衝撃を、クエンティンのエネルギーシールドは完全に吸収していた。もはやこれは武装神姫なんかじゃない、れっきとした兵器で通用する、とクエンティンは思った。それはたぶん当たっているかもしれない。人工知能基本三原則は付け忘れたのではなく、きっと最初から付いていなかったのだ。自分が死にたくないと思ったのは自分の感情であって、きっと三原則は影響していなかった。
  エイダは答えなかった。回答不能なのかもしれない。
  それに、三原則無しで死にたくないと思った私は一体なんなのだろう?
  ゲイザーによりシールドも展開できないデルフィは、無数の銃弾を浴びて火花を散らして墜落し、見えなくなった。
  あんなものでは傷をつけることもできないとクエンティンは推測した。きっといまシールドを切ったとして、二十ミリ弾ぐらいではこのボディをぶっ壊せないだろう。あいつ、デルフィも同じだ。エイダとは姉妹機なのだから。
  シールドを張りつつクエンティンはサルーンへ戻る。
  サルーンはそのまま巨大な正門をくぐり、屋敷の敷地内へと消えていった。屋敷は煌々と明かりが点いていた。
  その後二分間、デルフィが墜落したとされる範囲に射撃は継続された。二門のファランクス砲から発射された弾丸はのべ三万発以上にのぼった。
  追撃は無かった。
  雪が降り続いていた。
  戦いの跡も、三万発の鉛の雨のえぐった地面も、すべからく雪の支配する世界に覆われた。
  屋敷の明かりが一つ、新たに灯った。


つづく





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