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ウサギのナミダ

ACT 1-16



 日も暮れ、街灯が灯る頃。
 雨は未だやむ様子もなく、俺はすでに洋服を着たまま風呂場からあがったのと変わらないような有様だった。
 それでも俺は、ティアを捜して、あてどなく街を徘徊していた。
 ゲームセンターと駅前は、大城が捜してくれている。
 だから、俺は公園とアパートの周囲を幾度となく往復した。
 ティアとともに行った場所を思い出しながら、すべての場所に足を向けた。
 それは、ティアとともに過ごした時間を、いちいち確認する作業だった。
 思い出の中のティアは、いつも不安そうな顔で、上目遣いに俺を伺う。
 そして、俺のつまらない一言に一喜一憂し、ときには泣きそうになり、そしてときには、花がほころぶような笑顔を見せるのだ。
 それが俺の神姫だ。代わりなんかいない。

 だが、ティアは見つからなかった。
 どれだけ俺が願っても、どれだけ俺が声をからそうとも、その小さな姿を見せてくれることはなかった。
 もはや、俺の心が耐えられず、くじけそうになった頃。
 俺の携帯電話が鳴った。
 ポケットの中でずぶ濡れになった端末を取り出す。
 液晶画面を見て、一瞬驚き、そして不思議に思う。
 久住菜々子、と表示されていた。
 震える指で、通話ボタンを押した。

「もしもし」

 かろうじて、それだけ、唇から押し出すことができた。

『遠野くん? わたし、久住です。いま、大丈夫ですか?』
「あ……ああ……」

 硬い口調。何を言われるのか、と俺は暗い気持ちに拍車をかける。

『ティアは、無事です。わたしが預かっています』
「な……」
『……ある人が、ゲームセンターに届けてくれたの。バッテリー切れで、眠っているけれど』
「いま、ゲーセン?」

 久住さんの言葉をいやに遅く感じ、焦る気持ちが言葉に出た。
 はやく。
 はやく、ティアを手元に置きたい。
 もう離したくない。

『そう、だけど……遠野くん』
「今から行く。待ってて」
『ちょっと待って』

 俺はもう駅に向かって歩き始めていた。
 久住さんはまだ話そうとしている。

『遠野くん、雨の中歩き回っていたんでしょ? 今日は帰って休んで……』
「いやだ。今すぐ返してもらう」
『待って。ティアだって、まだ目が覚めてないの。彼女の気持ちも……』
「俺の神姫だぞ!?」

 いろいろなことがあって、俺は煮詰まっていたのだと思う。
 電話先の久住さんを怒鳴りつけたことに、そのときの俺はまったく疑問を抱いていなかった。
 だが。

『……あなた、誰?』

 まるで氷のように冷たい口調。
 その言葉は、俺の心に鋭く突き刺さった。

『わたしが知っている遠野貴樹って言う人は、そんな風に話す人じゃないわ。
 それじゃまるで、あの変な奴と同じじゃない。
 そんな人に、ティアは渡せない』
「な……ちょっと……」

 一方的に電話は切られた。
 携帯電話を耳から離し、見つめてしまう。
 あの雑誌の件から、久しぶりに聞いた久住さんの声。
 内心、嬉しかった。
 絶望に疲れた俺を、励ましてほしかった。
 それなのに、俺は電話先に怒鳴りつけ、逆に冷たくはねつけられた。
 心が煮詰まりすぎていて、自分でも何をしているのかわからない。
 どうしていいかも、わからなくなっている。



「おいおいっ!? いいのかよ、切っちゃって!?」
「いいの」

 菜々子は大城にも冷たく言い放つ。
 遠野はいつもの彼ではなかった。冷静じゃなかった。
 そんな彼に、ティアを渡したら、何をするかわかったものではない。
 だから電話を切った。
 一分後。
 深呼吸する。
 菜々子は再び、通話ボタンを押した。



 俺が雨の中、呆然とたたずんでいると、再び携帯電話が鳴り出した。
 電話の相手は、再び久住さんだ。

「……もしもし」

 今度は少しだけ楽に言葉が出た。

『……ごめんなさい。いきなり文句言って、切ったりして』
「いや……」

 彼女の意図がわかった。
 今のは俺の頭を冷やすためだったのか。
 彼女の話も聞かずにどなったりして、確かにいつもと自分の様子が違っている。
 そのことにやっと俺は気がついた。

「俺の方こそ……怒鳴ったりしてごめん」
『……ティアが心配なのよね。だから、冷静じゃいられないんでしょう?』
「……うん」
『いま、ティアと会っても、ティアがきっと気まずい思いをするでしょう?』
「……うん」
『だから、一晩だけ、待って。明日、必ずティアを返すから。約束するから』
「でも……」

 まるで、母親に諭される子供のようになっていた。
 電話から聞こえてくる久住さんの声は、強い意志と優しさにあふれていた。
 俺は泣きそうになる。甘えたくなる。
 子供のように。

『わたしを……信じて?』
「……」
『いま、誰も信じられないかもしれないけど、でも、今日は、わたしを信じて。
 ティアにひどいことなんてしない、どこかに連れ去ったりしない。
 わたしは、遠野くんとティアの味方だから……だから……』
「……」

俺がだだをこねるように黙っていると、一拍おいて、久住さんが言った。

『……ティアと、二人で、話したいことがあるの』
「……どんな話?」
『女の子同士の、内緒の話』
「……それ、ずるくない?」
『……ふふふ』
「それ言われたら、断れないじゃないか……」

 女の子はずるい。
 一言で男が入り込めない結界を作ってしまう。
 久住さんは、いまどんな顔で微笑んだだろうか。
 ふと、そんなことを考えてしまう。
 あの、反則な笑顔を、無性に見たくなった。

「明日……会える?」
『会って、ティアも渡します。待ち合わせ場所は……後でメールするね』
「……わかった……ティアを、頼みます」
『うん』
「それじゃ」
『明日ね』

 俺の方から、ゆっくりと電話を切った。
 ティアは無事だ。久住さんのところにいる。
 それがわかっただけでも、よしとしなくてはなるまい。
 きっと、大城も久住さんも、ティアのために必死で捜してくれただろう。
 その結果、久住さんの手元にいるのだろうから。
 俺は、疲れた体を引きずるようにして、アパートへと向かった。
 とりあえず、明日。
 久住さんとの待ち合わせに行くために、体調を崩すわけには行かない。
 そんなことが考えられるくらいには、俺の頭も復活してきていた。



 遠野との電話を終え、菜々子は、大城と四人の少女に向き直った。

「遠野くん……ティアのマスターとは、明日会って話をするわ。今日は、ここまでね」

 頷く一同。
 菜々子は微笑んで、少女たちを見回す。
 四人は、緊張した面もちで、菜々子を見つめている。

「……今日はありがとう。あなたたちがいてくれて、本当に助かったわ。
 ……嬉しかった。ありがとう」

 菜々子の言葉に、四人は応える。

「いいえ、そんなこと」
「憧れのエトランゼさんにそう言ってもらえるだけで……わたしたちこそ、光栄です!」
「わたしたちなんて、このくらいしか、お手伝いできないし……」

 うんうん、と頷き合う。
 そこで、菜々子は首を横に振った。

「ねえ、その『憧れのエトランゼさん』って、やめにしない?」
「え、でも……」
「わたし、菜々子。久住菜々子っていうの」

 四人の顔を見回し、微笑んだ。
 久しぶりに、心から笑えた。

「あなたたちの『友達』じゃ、だめ?」

 だめなはずがない。
 四人はとても驚き、そして笑顔で菜々子を迎えてくれた。



 バッテリーがフル充電になり、わたしは覚醒を促される。
 ゆっくりと開く瞳。
 わたしは眩しさに目を細める。

 ……ここはどこだろう。

 わたしが今いる場所はクレイドルの上。
 マスターの家にあった真新しいものではなく、よく使い込まれている。
 はじめて見る部屋だ。
 マスターの部屋とはまた違った、優しい光に包まれた部屋。
 夜だろうか、窓にはカーテンが引かれている。

「……はい。それじゃ、明日伺います。そのときに……あ、はい。よろしくお願いします。失礼します」

 聞こえてきたのは女の人の声。
 声の方に顔を向けると、ちょうどその人が携帯電話を切るところだった。
 知っている人だ。
 久住菜々子さん、ミスティさんのマスター。
 彼女はわたしの方に顔を向けると、微笑んだ。
 優しい笑顔。

「ティア、気がついたのね。よかった」

 えと……わたしはなんで、久住さんと一緒にいるんだろう?

「あの……ここは……」
「わたしの家よ」

 そう久住さんが答えた瞬間、わたしは両肩を捕まれて、ものすごい勢いで振り向かされた。

「ティア! ……この、バカッ!」

 わたしの頬が軽く乾いた音を立てた。
 ミスティさんが、わたしの頬を平手で打ったのだ。
 え……?
 わたしは訳も分からず、ミスティさんを見つめる。
 愛らしい顔を、痛そうな、悲しそうな表情に染めている。
 わたしを打った手が震えていた。
 そして、ミスティさんはわたしに抱きついてきた。

「バカ、バカ! 心配したんだから! すごく、すごく心配したんだから!!」
「心配……? なんで……?」

 だってそう、わたしは。
 みんなに迷惑をかける、汚れた神姫だから……だから、消えようとした。
 いなくなったはずなのに。
 どうして、ミスティさんに抱きしめられているんだろう。
 ミスティさんの腕にさらに力が込められた。

「当たり前でしょ!? 友達なんだから!!」

 トモダチ……?

「何も言わずに……いなくなろうとしないでよ!
 迷惑なんて、いくらでもかけなさいよ!
 あなたがいなくなることの方が、よっぽど悲しくて、迷惑なのよ!」
「わたし、が……ミスティさんの、トモダチ……ですか……?」
「もう、とっくの昔に友達よ!!」

 ミスティさんは、とうとう泣き出してしまった。
 わたしは頭ごなしに怒られているのに、それがちっとも嫌ではなかった。
 ミスティさんが怒っているのは、その優しさのせいだから。
 久住さんが、クレイドルの近くの椅子にすわって、わたしたちを見た。

「ティア、あなたは何もわかってない」

 優しい声で、教え諭すように。
 久住さんはわたしに言う。

「みんな、心配していたのよ? わたしもミスティも、大城くんも虎実も」
「虎実さんが……?」

 なぜ、わたしを嫌っている虎実さんが、わたしの心配なんかするんだろう。

「そしてもちろん、あなたのマスター……遠野くんも」
「マスターが、わたしを……?」
「そうよ。タカキなんて……心配しすぎて、人が変わっちゃってたんだから」

 ミスティさんが、とても真面目な顔で言う。
 そのミスティさんを見つめる、久住さんの視線がとても怖いのだけど、なぜだろう。

「マスターが、わたしの心配だなんて……」
「するわよ……ティア、自分の神姫がいなくなるっていうのはね、マスターにとって、とてもつらいことなの」

 久住さんの言葉に、わたしははっとなる。
 久住さんは、以前、自分の神姫を亡くしているんだ。
 ストラーフ・タイプのミスティ……久住さんの初めての神姫を。

「だから、あなたが自分のマスターを思うなら、いなくなったり、ましてや消えようなんて考えちゃダメ」
「……」

 本当にそうだろうか。
 マスターがわたしに帰ってきて欲しいだなんて、そんなことがあるだろうか。
 マスターをあんな目に遭わせておいて、それでもわたしを望むだなんて、そんな都合のいい話があるだろうか。
 わたしがうつむいてそんなことを考えていると、久住さんは小さくため息をついた。

「まあ、明日遠野くんに会えばわかるわ。
 ……彼がどんなリアクションするか、楽しみね」

 ふふふ、と久住さんはいたずらっぽく笑う。
 すると、わたしに密着していたミスティさんが顔を上げて、わたしに囁いた。

「ティア、気をつけてね。菜々子はサディストだから、気をつけてないと、タカキも何されるかわからないわよ」
「……え?」
「ちょっとミスティ!? 言うに事欠いて、自分のマスターをサド呼ばわり!?」

 血相を変えた久住さんに対し、ミスティさんはいたって冷静。
 さっきまで泣いていたミスティさんは、いつの間にかいつもの元気さを取り戻している。

「あーら、違ったかしら。傷心のマスターから、可愛い神姫を無理矢理誘拐してきたくせに。どんだけサドなのかって話よね」
「ちょっ……なによそれ!? わたしは遠野くんとティアのためにねぇ……!」
「そうよねぇ。今日、タカキは一人寂しい夜を送ってるのよねぇ。あーあかわいそ。こんな小悪魔の策にはまったタカキが気の毒」
「今度は小悪魔!? っていうか、また遠野くんのこと、名前で呼び捨て!?」

 ……どうみても、手玉に取られているのは久住さんに見える。
 ミスティさん、すごい。
 自分のマスターにあんなこと言えるなんて。
 わたしがマスターにあんなこと言うなんてことは、とても考えられない。
 けれど、こんな口喧嘩ができるほど、久住さんとミスティさんは距離が近いのだと実感した。


 口喧嘩が一区切りつくと、真剣な面もちで、久住さんがわたしの方を向いた。

「ティアをうちに連れてきたのは……あなたに聞きたいことがあったから……いい?」
「は、はい……わたしに答えられることなら」
「あの雑誌の記事ね……」

 やはり、そのこと。少し胸が痛む。

「あの写真みたいなこと、遠野くんがしているの?」
「してません、マスターがするはずありません」 

 即答する。事実だし、マスターの名誉のためにも、きちんと答えなくてはならないことだった。
 すると久住さんは、表情を和らげ、微笑んだ。

「そう。よかった」
「なぁに、ナナコ。まだ疑ってたの?」
「確認よ、確認。ちゃんと当事者から聞かないとね」

 睨むミスティさんに、久住さんはひらひらと手を振った。

「でも、これで心おきなく、遠野くんたちの味方ができるわ」
「え……!?」

 久住さんは軽く言ったが、ことは重大だ。

「そ、そんな……いま、わたしたちの味方をしたら……久住さんもミスティさんも、何を言われるかわかりません……」
「あ、それ、手遅れだから」
「え!?」
「ゲームセンターで、あなたたちの味方するって、『宣戦布告』しちゃった」

 てへ、と言って、久住さんは小さく舌を出した。
 ミスティさんも頷いている。
 宣戦布告って。
 わたしは驚くしかなかった。
 わたしが思い悩んでいる間に、事態は思いも寄らぬ方向に進んでいたらしい。
 これがほんの序の口で、さらなる展開が待ち受けていようなどとは、このときのわたしには考えもしないことだった。


 その晩は、久住さんの家に泊まることになった。
 マスターと離れて夜を過ごすのは、マスターの神姫となってからは初めてだ。
 少し不安になる。
 でも、その不安を、隣にいる友達が打ち消してくれる。

「うふふ、なんだかこういうのもちょっと楽しいわね。人間の旅行とかお泊まりとかいうのも、こんな感じかしら」
「わたしも、ミスティさんと一緒で、うれしいです」
「あのね、ティア。『ミスティさん』はもうやめて。友達だからね。もっとフランクにいきましょ」
「え、あの……じゃあ、なんて呼べば……?」
「普通に呼び捨てでいいじゃない」

 なんでそんな当たり前のことを聞くのか、と逆に不思議な顔をされた。
 そういえば、わたしは知り合いの神姫の名前を呼び捨てるなどしたことがなかった。
 お店にいる神姫は仲間だったけれど、みんな名前を持っていなかったからだ。
 番号で呼んでいたし、呼ばれていた。
 そんなことをミスティさんは知らない。
 ああ、そうか。
 彼女の前では、わたしは『ティア』という名の神姫で、番号で呼ばれていたことなど知らないんだ。
 マスターと出会った後に出会った人たちは皆、わたしのことを『ティア』だとしか思っていないのだ。
 だから、錯覚してしまう。わたしが普通の武装神姫になれるなどと。
 でも、友達だと言ってくれた彼女の前では、せめていつものティアでいさせて欲しいと願う。

「ミ……ミスティ……?」

 友達の名を呼び捨てるというのは、なんだかちょっと気恥ずかしい。
 でも、目の前の友達は、にっこりと笑ってくれた。
 わたしもつられて、微笑んでしまう。
 すると、

「やっと笑ったね」

 ミスティは言った。

 この夜、わたしは久住さんの家を抜け出そうとは考えなかった。
 初めての友達を裏切ることなど、考えも及ばなかった。
 そして、今日のわたしの行動は、マスターの神姫になって以降に出会った人達を裏切る行為だったのかも知れないと、思った。
 少しだけ、涙がこぼれた。
 隣で眠るミスティに気がつかれないように、そっとぬぐった。








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