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ウサギのナミダ

ACT 0-7



 アクセスポッドが開いた。
 わたしは怯えながら振り向き、見上げる。
 マスターの顔は相変わらずの無表情。
 だけど、小さく溜息をついた。
 瞳に浮かぶのは失望。
 わたしは恐怖する。
 今日という今日こそ、愛想を尽かされたに違いない。
 今の試合で、わたしはついに十連敗という、二桁の不名誉な大台に乗ってしまった。
 いつ叱られるのだろう、お仕置きされるのだろうと、思うだけで震えが止まらない。
 わたしは差し出されたマスターの手の甲に乗る。
 身体の震えは止めようもなく、マスターには伝わってしまっているだろう。
 バトルロンドで勝てない武装神姫なんて、パーツ取りのための素体くらいしか使い道がないんじゃないだろうか。
 マスターのシャツの胸ポケットに潜り込むとすぐに、

「あのな、ティア……」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 マスターの声に、わたしはもう謝るほかに為すすべがなかった。



 俺にしてみれば、いまのところ勝敗は二の次だった。
 素人の俺達がそう簡単に勝てるとは思ってない。
 というか、ティアの装備はライトアーマー・クラスに毛が生えた程度で、フル装備でのバトルができる一般クラスの連中と戦っているのだから、すぐに勝てなくてむしろ当然なのだ。

 これまでに十戦。
 はじめの三戦で、ティアはまだ自分で判断して戦う術を持ち合わせていないことがよくわかった。
 指示したことを終えると、途方に暮れてしまうのだ。そこは俺が細かく指示を出し続けてやることで解決した。
 その後の七戦は、装備と戦い方を手探りで探しているような状況だ。
 四戦目でフィールドをランダムに決定したら、森のステージに放り出され、お互いに索敵に終始してタイムアップになった。
 そもそもティアは索敵は苦手だし、森の中では得意のトリックも繰り出せない。
 以来、ステージを廃墟ステージに固定してバトルするようにしている。

 基本的な武装は、例のレッグパーツに、胸部アーマーと肩アーマーを付けている。
 レッグパーツの特性を生かすために、武器は片手用の射撃武器がほとんどだ。それをサイドボードから送り込む。
 とにかく軽量、機動力重視の装備だ。

 目下、俺の悩みは勝敗とは別のところだった。
 どうもバトル中のティアの動きが鈍いのだ。
 練習では簡単にこなせるトリックを失敗したりする。ジャンプの目測を誤ったりする。
 はじめは、バトルになれていない緊張からなのかと思ったが、そうではないらしい。
 全体的な動きにキレが無いように感じる。
 それは何が原因なのか、俺にはわからない。
 そこでティアに意見を求めているわけなのだが……。

「さっきのバトルなんだが」
「……ごめんなさい」
「ジャンプの時、届かなかったけど」
「……ごめんなさい」
「あれは、何か問題があったのか?」
「……ごめんなさい」
「いやそれじゃわからないんだが」
「……ごめんなさいぃ……」

 ティアはとうとうシクシクと泣き出した。
 ……これでは俺が自分の神姫を泣かしているみたいではないか。
 さすがの俺も、そろそろキレるぞ?
 俺は壁際に身を寄せると、胸ポケットからティアを手の甲に乗るように指示した。
 のろのろとポケットから出てくるティア。
 俺は顔の高さまで手を持ってくると、まっすぐにティアを見た。

「いいか、ティア。謝るのは禁止で、いまから俺の言うことを聞け」
「ご、ごめ……あぅ……は、はい……」

 おそらくティアは勘違いをしているのだろう。
 十連敗したから、もう自分に信用がないとか何とか。
 この際、しっかり言い含めておく必要がある。

「前にも言ったとおり、俺達は他の誰もやらないようなスタイルを模索している。
 新しいことを一からやろうとしてるんだ。勝てなくて当然。まだ始めたばかりで、データも経験も足りてない。基礎的なスタイルも確立していないんだからな。
 だから、もしお前がバトルの結果を気にしているのなら、その必要はない。
 十連敗だろうが百連敗だろうが、俺達の方向性が決まるまでは、俺はまったく気にしない。
 そもそもバトルは俺とお前の二人でやるものだ。
 負けの責任は俺にもあるんだから、お前が全部の責任を感じる必要はない。
 負けたから、お前を怒るとか、罰を与えるとか、そんなことはありえない。
 わかるか?」

 ティアは震えながらも、頷いた。

「よし。それでだ、俺が気になっているのは、バトル中のお前の技だ」
「ご、ごめ……」
「謝るの禁止って言っただろ。
 練習の時には確実にできているのに、バトル中にうまくいってないことがよくあるみたいだ。
 妙なところで失敗したり、ジャンプの目測誤ったリな。
 だが、何が原因なのかよくわからない。
 バトルしているのはお前だから、お前が何か問題を感じているんじゃないかと思ってる。
 それを俺は知りたい。そうしないと前に進まない。
 そういうわけで、謝るのは禁止で、遠慮せず、忌憚のない意見を述べよ」

 俺は辛抱強く、ティアに言い聞かせた。
 バトルロンドは、神姫とマスターが協力して、二人で強くなるものだ。
 ティアがバトルで問題を感じているなら、それを解決するのがマスターである俺の役目なのだ。

「えと……あの、えっと……」
「遠慮せずに言ってみろ」
「その……身体が、いつもより重い感じで……練習と走る感覚が違う気が……」
「ふむ?」
「あと、ちょっと窮屈な感じが……」
「きゅうくつ?」
「その……む、胸のパーツが……慣れなくて……」
「それは、胸部アーマーのサイズが小さいとかいうのではなく?」
「ちがいますっ」

 ティアは頬を紅く染めて、速攻で否定した。
 俺は内心、苦笑する。
 このくらいの元気が無くてはだめだ。
 落ち込んで下を向いてばかりでは前に進めない。

「それと、肩のアーマーも……動かしにくい感じで」
「ふむ……それほど変わるものなのか」

 胸部および肩のアーマーは、さほど大きなものではない。軽量であることを重視して選んでいるのだが、それほどに動作に影響を及ぼすものなのか。
 アーマーは練習の時には使わず、いまのところ試合の時だけ使っている。
 バトルではより直感的で精密に動作を行わなくてはならないから、小さな違いであっても、ティアが大きな違和感を覚えているということなのだろう。

「……つまり、アーマーが邪魔で、いつものように動けない、ってことか」
「はい……あ、でも、練習の時にもアーマーを着けて慣らせば、出来るようになると思います」

 俺は苦い顔をした。
 それはそれで、また時間がかかる気がする。
 そもそも、ティアに合ったアーマーを選ぶところから始めなくてはならない。
 それに、アーマーといっても、気休め程度のものだ。
 大型武器の直撃を食らったら、何の意味もない。
 それならいっそ……

「ティア、今日は、あと一試合だけやろう」
「は、はい……」
「装備はレッグパーツだけで、な」
「え……えぇ!?」

 アーマーなんか着けなくてもいいんじゃないだろうか。
 そうすれば、少なくとも、ティアは機動力を百パーセント発揮できる。

「で、でも、相手の攻撃が当たったら……」
「かわせ。当たらなければいい」
「かわすって……ぜ、全部の攻撃を、ですか!?」
「そうだ」

 むしろ、ティアが技を失敗した時を狙われて、勝敗が決したことが多い。
 ならば、下手な装備をさせるより、いつものレッグパーツだけで勝負した方が、より戦えるはずだ。

「あの程度のアーマーじゃほとんど気休めだ。だったらはじめからなくても同じことだろう。戦闘スタイルは変わらない」
「でも……」
「ものはためしだ。これでダメなら、また別の手を考える」
「はい……」

 ティアは釈然としていないようだ。
 確かに、単純な防御力は落ちる。
 それが不安になるのも理解できる。
 だが、それが単純に勝敗の行方を左右するわけではない。
 それがバトルロンドの難しいところであり、面白いところである。

 俺達は再び、空いている筐体に座り、トレーニングモードを始めようとした。
 すると、すぐに対戦者の乱入があった。
 相手はバッフェバニー・タイプ。
 ちょうどいい。廃墟ステージなら、市街戦が得意なバッフェバニーにはお誂え向きだろう。
 はたして、ステージは廃墟で設定された。
 バトルスタートだ。


 このバトルは実力伯仲の攻防となった。
 基本的な展開は、逃げるティアと、追うバッフェバニー。
 相手は、ティアが積極的に仕掛けてこないと知ると、持ち前の機動力を生かして突っ込んできた。
 携帯用ガトリングガン「STR6ミニガン」を乱射する。
 しかし、ティアはその攻撃をことごとくかわした。
 トリックのミスもない。
 やはり、無駄な装備をはずしたことが、機動力アップになっているようだ。
 ティアも隙を見て応戦するが、そこは市街戦のプロともいえるバッフェバニー・タイプ。単純な攻撃ではかすりもしなかった。



 戦闘中で緊張しているのに、不思議と体は軽かった。
 腕を振ったときに当たっていた胸部装甲の違和感とか。
 何か大きく動いたときに、がちゃがちゃとうるさかった肩のアーマーとか。
 ステップでもジャンプでも、回転するときに重くて引っ張られる感じがした腰の装甲とか。
 そういった一切の歯止めから解き放たれたかのような感覚。
 あらゆる技が自分のものとなり、いつでも自分の意志で確実に繰り出せる。
 それはとても気持ちのいいことだった。

 相手のバッフェバニー・タイプは重火器を乱射しながら距離を詰めてくる。
 わたしの攻撃は、相手の攻撃の合間に反撃するのが精一杯なので、バッフェバニーは姿を隠そうともせずに遠慮なしに突っ込んできた。
 それでも、わたしは攻撃をかわし続ける。
 ステップとジャンプを駆使し、時には路地に隠れ、時にはメインストリートいっぱいに軌跡を描き、相手の攻撃を回避する。



 だが、相手の方が一枚上手だったようだ。

『あっ!?』

 気がつくのが遅かった。
 バッフェバニーはうまくティアを誘導し、路地の袋小路に追い詰めていた。
 有効な手段だ。
 ティアはとにかく跳ねまわって、攻撃が当てづらい。そこで、動きを制限できるところに追い詰めたというわけだ。
 ティアの周囲三方向には壁がそそり立っており、正面の開いている方向には戦闘態勢のバッフェバニー。
 唯一開いているのは天井のみだった。
 さて、どうする……。
 俺はワイヤレスヘッドセットに指を当てた。

「ティア」
『はい、マスター』

 ティアの声は少し震えていた。

「怖いか?」
『す、すこしだけ……』

 素直で結構。
 俺はあるトリックの名前を口にする。

「できるか?」
『はい……やってみます』
「よし、相手の攻撃が合図だ。集中しろ」
『はい!』

 ティアのはきはきとした返事。調子は悪くない。
 相手のバッフェバニーがガトリングガンを構えた。
 引き金を引き絞る、その瞬間。
 いまだ。

 ティアは短く跳躍する。

『……なにっ!?』

 驚きの声はバッフェバニー。
 彼女には一瞬、ティアが消えたように見えたかも知れない。
 ジャンプの軌道を視線が追っても、そこにティアはいないのだから。
 ティアはその先、ジャンプで壁に「着地」して、さらにスピンしながら壁を上っていく。
 ウォールライドと呼ばれるその技は、回転開始の踏み込みをきっかけに、スピンの遠心力によって、ティアの身体を押し上げていく。

 一瞬見とれていたバッフェバニーは、再度銃を構えてティアを狙う。
 俺がティアに指示を出そうとヘッドセットをつまむ。
 次の瞬間。
 ティアの機動は俺の想像を超えた。

 ティアは壁を蹴り、垂直の壁の上を駆け出した。
 文字通り、壁の上を走っている!

『な……!?』 

 あっけに取られたバッフェバニーは、それでもガトリングガンを乱射した。
 ティアの後を弾痕が追う。
 しかし、地上と同じくらいの速度で壁を走るティアには当たらない。
 時々ウォールライドを混ぜて垂直に移動し、狙いをかわす。
 バッフェバニーは明らかに焦っていた。
 袋小路に追い詰め、勝利を確信していたに違いない。
 まさかいままで見たこともないような動きで翻弄されるとは思っても見なかったろう。
 足を止め、走り回るティアを追いかけて首を回している。
 ……と思いを巡らせたところで、俺自身がティアの妙技で放心していた意識を戻した。
 呆けている場合じゃない。
 これはチャンスだ。
 俺はサイドボードのコンソールを操作し、ティアの手元に新しい武器を送り込む。
 ブラスター。
 一撃の威力が高いこの武器ならば、うまく当たればしとめられる。
 当たらずとも、相手をさらに精神的に追い込むことが出来る。
 俺は再度ヘッドセットに手をかけた。

「ティア、その調子でヤツの周囲を回りながら、手元のブラスターを撃て。
 その袋小路から、奴を出すな」
『はい!』

 そこからティアはさらに加速した。
 三方壁に囲まれたその袋小路を、まさに縦横無尽に駆け回る。



 マスターにウォールライドを指示されたので、てっきり「壁を走ってかわし続けろ」という意味で言われたのかと思っていた。
 わたしのレッグパーツに装着されているランドスピナーは、ローラーブレードと違い動力を持っている。
 ホイールで壁に静止することはできないが、ホイールを回転させ、前方に進む力を加えることで、最小限の力で壁にグリップし、走ることは出来る。
 要はバランスの問題。
 それで壁を走って攻撃をかわしたのだけど、相手のバッフェバニーさんは、なんだか驚いた顔をしている。
 壁を走るのがそんなに珍しいのかしら。
 マスターの指示通り、わたしは手にしている大型のハンドガンを相手に向けて撃つ。
 ブラスターは連射できないので、よく狙って撃たないとダメなのだけど、走りながらではそれもままならない。
 でも、マスターの指示は「袋小路から相手を出すな」なので、当たらずとも、相手をかすめていれば大丈夫そう。
 わたしはバッフェバニーさんを中心に、袋小路をぐるぐると駆け回り、ブラスターを撃ち続けた。

「くそっ」

 追い詰められたバッフェバニーさんは、ついに手にしたSTR6ミニガンを捨てた。
 そして、バックパックからマウントされていたバグタンド・アーミーブレードを引き抜く。
 リアブースターに火が入る。

「なめるなぁっ!!」

 バッフェバニーさんは一喝し、わたしに向かって突っ込んできた!
 被我の距離が急速に縮まる。
 あ。
 既視感のように。
 次になすべきことを、わたしは感じた。

「ナイフをっ!」

 マスターに伝える。次に必要な武器。
 わたしは初めて、自分から武器を要求していた。
 そして、わたしの手の中に大振りのコンバットナイフが現れる。
 バッフェバニーさんが、突いてきた。
 かわす。
 身を翻し、相手の刃はわたしの背を走る。
 ここで。
 わたしは逆手に握ったナイフを振るう。
 回転している身体はそのままに。
 自然に振るわれる腕も、その流れに従って。
 そう、そのまま、その角度で。
 はたして、ナイフの刃は、相手の後ろの首筋に吸い込まれた。
 わたしは勢いのまま、壁を踏み切る。
 バッフェバニーさんも勢いのまま壁に突っ込む。
 交差する。
 わたしは空中に身を踊らせながら、見た。
 壁に激突したバッフェバニーさんが、細かなポリゴンの欠片になって崩れていくのを。 
 わたしが着地した時にはもう。
 ポリゴンの欠片は風に吹き散らされていた。



 ジャッジAIの勝者宣言で、初めてティアの名前が表示された。
 初勝利だ。
 最後の一撃は紙一重で肝を冷やしたが、ティアには確信があったようだ。
 実際、要求通りにコンバットナイフを送ってやると、すれ違いざまの一撃が勝負を決したのだから。

 アクセスポッドが開く。
 ティアはゆっくりと俺の方を振り向いた。

「あのぅ……」

 ティアは上目遣いに、伺うように俺を見る。

「勝ち……ました……?」

 それは自信がなさ過ぎではないのか?
 俺は小さく溜息をついた。
 すると見る間に不安そうな顔をする。
 おいおい。
 俺はちゃんと口に出して教えてやる。

「初勝利だ。おめでとう」

 すると、ちょっと驚いたような顔をした後。

「……はい!」

 と言って、花のつぼみがほころぶような微笑みを見せた。
 ……やばい、可愛い。
 俺の方が照れくさくなって困るんだが。
 俺がどんな顔をしていいかわからずに困っていると、

「ちょっとちょっと!」

 と傍らから声をかけられた。
 正直、助かった、と思いながら、顔を上げる。
 声の主はバッフェバニーのマスターだった。
 真剣な表情で俺に問いかける。

「その神姫の装備、オリジナル?」
「そ、そう、だけど……」

 何を言われるのか、と俺は身構えてしまう。
 すると、

「スゲエ!!」

 いきなり大きな声を出して、目を輝かせた。

「あんな動き見たことない! すげえ! かっこいい!!」

 俺は呆気にとられた。
 これは何だ、さっきの戦い方が認められたってことで
いいのだろうか……?

「あ、ありがと……」

 俺は何とか絞り出すようにそれだけ言った。
 すると、バッフェバニーのマスターは、にっか、と笑って言った。

「またやろうぜ」
「こちらこそ」

 相手は頷くと、背中を向けて去っていった。
 そうか。ティアの戦い方を認めてくれたんだ、あのマスターは。
 なんだかいい気分だった。
 勝ったことよりも、俺達の戦い方を認めてくれたことの方が嬉しい。
 その気持ちが、その後のティアの戦闘スタイルを決めたのかも知れない。



「それにしても、だ」

 マスターはわたしの方を見て言う。
 さっき、初勝利を手にしたわたしに、祝福の言葉を贈ってくれた。
 それはわたしにとって、本当に嬉しく、誇らしいことだった。

「お前、壁を走るなんてこと、できたんだな」
「え? あの……ご存じなかったんですか……?」

 わたしの言葉に、マスターはがっくりと肩を落とした。
 ええっ?

「知らなかった……」
「え……あの……わたしはもう、ご存じだとばかり……」

 確かに壁を走る技は、マスターの訓練メニューにはなかった。
 ウォールライドの練習中に気がついた。
 ホイールの回転と前進する力、下に落ちる力、ホイールのグリップ力をうまくバランスを取れば、垂直の壁を走ることができるのではないか、と。
 試しにやってみると、案外うまく出来そうだったので、ことあるごとに練習していたのだった。
 そう言えばマスターに報告したことはなかったような気がするけれど、とっくに気がついていると思い込んでいた。

「それを知っていれば、いろいろな戦術を、もっと早く試すことが出来たのに……」

 それは、とりもなおさず、十連敗しなくても初勝利を手にできたかも知れない、ということだ。

「あ……あぅ……ごめんなさい……」
「謝るの禁止」

 マスターはちょっと鋭い口調でとがめた。
 でも表情はかすかに微笑んでいた。

「これからいろいろ試せばいい。それに……これで戦闘スタイルの方向性も見えてきたしな」
「え……?」
「壁を走って戦う神姫なんて、そうそういない」
「あ……」

 そう、それは
 マスターの夢だ。
 わたしは今日、それに一歩近づくことができたんだ。

「また練習メニューを考え直す。練習して、そしてまた勝とう」
「はいっ!」

 今日わたしは初めて、マスターのお役に立つことができた。
 それはとてもとても嬉しくて、誇らしくて。
 もっと練習したい、そしてまた勝ちたいと。
 そう思うのだった。








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