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ウサギのナミダ

ACT 1-14



 雨の街は、いつもとその様相を一変させていた。
 あれほどに鮮やかだった風景は、色を失い、輪郭さえもぼやけている。
 すべて水に濡れ、色褪せて見えた。
 まるで、かつてわたしがいた場所のように、灰色の世界。
 雨に追われ、人々は足早に過ぎ去っていく。
 足下の神姫になど注意を払う人はいなかった。 
 降りしきる雨は、痛いほどにわたしを叩き、瞳からこぼれる涙さえも、洗い流されてゆく。

 これは、あの空の涙なのだろうか。
 空にも心があって、悲しくて辛いことがあるのだろうか。
 上空を垂れ込める雲に、心を灰色に塗りつぶされて、涙をこぼすのだろうか。
 今のわたしと同じように。

 わたしはもう、悲しいとか辛いとか、そういう感情を通り越して、ただ、ぼうっとしていた。
 瞳から流れる涙だけが止まらない。
 だから、きっと、悲しいのだろう。
 悲しすぎるのだろう。
 だけど、その涙さえ、雨に混じってしまい、わからなくなる。
 わたしはもう、泣くことさえも許されてはいないのだと思った。

 わたしは、あの後、PCのワープロソフトを起動して置き手紙を残すと、マスターの家を出た。
 お風呂場の窓は換気のために開けてあることは知っていたので、出るのは容易だった。
 ……こんなときばかり、トリックはうまく行く。
 衝動的に出てきてしまったけれど、行く当てなんてなかった。

 はじめは、お店に戻ろうかと思った。
 でも、お店の場所をよく知らない。
 マスターのところに来るまで、お店を一歩も出たことがないのだから、当然だった。
 それに、もう帰る気になれなかった。
 お店に帰れば、またお客さんに奉仕する日々に戻るのだ。
 それ以外の世界を知ってしまったわたしは、お店が神姫にとって地獄のような場所だと知ってしまった。
 もう、戻りたくはなかった。戻れなかった。
 あの、わたしを連れだしたお客さんのところはどうだろう。
 ……結局は同じことだ。いや、お店にいるときよりもっとひどい仕打ちを受けるかも知れない。
 そこには行きたくない。

 ……わたしは、なんとわがままなのだろう。
 マスターを自らの手で汚しておきながら、もう自分が汚れるのは嫌なのだ。
 こんな神姫が一緒では、マスターが不幸になるのも当然だった。
 いや、元から誰かの武装神姫になる資格なんてなかったんだ。
 なんという身の程知らず。
 取り返しがつかなくなって、やっと思い知るなんて。
 もうこれ以上、マスターを汚すわけにはいかなかった。
 だから、わたしは姿を消すことにした。
 そう、このまま消えてしまおう。
 この世から。
 ふと見上げると、駅前の歩道橋が目に入る。
 わたしはのろのろと、その歩道橋の上へと向かう。



 俺は走っていた。
 雨の中をひたすらに、走っていた。
 足下に注意を向けながら。
 ティアを探す。
 ティアがうちを出て行く先の心当たりなど、そう多くはない。
 まして神姫の身であれば、そう遠くへ行ってはいないはずだ。
 俺とティアがゲームセンターに次いで多く行った場所。
 あの大きな公園だ。
 俺は公園へと向かっていた。
 この雨だというのに、傘も差していないから、全身ずぶぬれだった。
 足が地面を着くたびに、がぽがぽと水が貯まった靴が音を立てる。
 それでも、そんなことはかまっていられなかった。

 雨の公園には人っ子一人いなかった。
 遊歩道を取り巻く木々の緑も、今日ばかりは色褪せて見える。
 動くものとてない静寂の中、静かな雨音だけが広大な空間を支配していた。

「……ティア!」

 その静謐を破り、俺は何度も呼びかける。
 遊歩道を何度もまわる。
 しかし、ティアの姿を見つけることは出来ない。
 ベンチの前で、俺は立ち止まった。
 散歩に来て、ティアを走らせているときに、俺が座っている、いつものベンチ。
 ここにもティアの姿はない。
 晴れた日の情景が心に浮かんでくる。

 ティアは朝の澄んだ空気の中を駆け抜ける。
 ぐるりと遊歩道を周回してくると、トリックを決めて、ベンチの上に着地する。
 そして、俺を見上げる。
 嬉しそうに、少し恥ずかしそうに、笑うのだ。

「……なんでだっ!!」

 俺は地面に膝を着き、ベンチの上にうなだれた。
 なんでだ。
 なんで「さようなら」なんだ。
 なんで俺の前からいなくなるんだ。
 なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで!!!

「……ティア……」

 神姫の名を呟く。
 迷惑だなんて。
 お前が側にいてくれれば、そんなものは気にするほどのことでもないのに。
 お前以外に、俺が自分のパートナーにしたい神姫なんていないのに。
 他のどんな神姫も、お前の代わりになどならないんだ。
 やっと出会えた俺の神姫なんだ。
 だから。
 俺にどんな迷惑かけてもいいから。
 側にいてくれ、ティア……。



 久住菜々子はゲームセンターの壁によりかかり、見るともなしに、バトルロンドの観戦をしていた。
 腕を組み、やぶ睨みで、大型ディスプレイに鋭い視線を投げつけている。
 いつものような親しみやすさとはかけ離れた緊張感が全身から漲っている。

 宣戦布告から一日。
 菜々子を待っていたのは「無視」という仕打ちだった。
 エトランゼはティアを擁護すると知り、神姫プレイヤーは皆敵に回った。
 しかし、面と向かって文句は言ってこない。いや、言えないのだろう。
 なにしろ三強を三分かからずに倒してのけたのだから。
 実力でかなわない相手に対し、示した態度は、徹底した無視だった。
 まるでそこに存在しないかのように。
 挨拶しても、話しかけても、振り向きさえしない。
 常連の誰に話しかけても、そんな態度だった。
 もちろん対戦は誰も乱入してこないし、こっちが乱入したら、一瞬でサレンダーされた。
 すでに常連の間では、エトランゼに対してそういう態度をとることで話が通っているのかも知れない。

 これで菜々子がゲーセンを出ていけばよかったのだろうが、彼女はかえって意地になった。
 壁に張り付き、無言のプレッシャーを与え続けている。
 これでは気になって仕方がない。
 しかし、今日は週末で、ランキングバトルの開催日だ。常連達は帰るわけにも行かず、菜々子からの妙なプレッシャーに耐え続けなければならなかった。

「菜々子ちゃん……」
「ああ、大城くん……」

 声をかけてくるのは大城だけだった。
 大城は心配そうだ。
 見かけによらず、人が良いのだろう。

「いいの? ランバト、始まるわよ」
「うん、まあ……でもよ、菜々子ちゃんも……ここにいないほうがいいんじゃねぇか? だったらさ……」
「だめ。遠野くんとティアを待っているから。この店からは動けない」
「でもよぅ……」

 無視されている菜々子を気遣って声をかけてきてくれていることはわかっているし、ありがたい。
 逆に言えば、大城以外の誰も、菜々子の味方はいないのだ。
 だが、彼とてずっと菜々子と話していれば立場が悪くなる。
 大城と虎実はランバトに参戦している。
 常連達との関係を悪くしたくはないだろう。

「……ひとりくらいは」
「え?」
「他に一人くらいは、わたしに賛成してくれる人、いると思ったんだけどな……」

 自嘲気味に笑う。
 つい本音が出てしまった。
 本当は、菜々子は心細かった。
 大見栄切ってみたものの、味方をするべき本人達はいまや嘲笑の的であり、ゲームセンターにもやってこない。
 孤立無援の戦いは始まったばかりだったが、こうあからさまに無視されると、菜々子の心の方が折れそうだった。
 自分達こそ正しいはずなのに、どうしてこんなにもつらいのだろう。
 菜々子は下唇を噛んだ。
 一瞬、沈黙が降りた。
 ゲームセンターの喧噪が耳を震わせる。
 と、近くで、電子音が鳴った。
 携帯電話だ。
 目の前の大城が、ポケットから携帯電話を取り出す。
 シンプルな機種だが、ストラップにアクセサリーがジャラジャラとついている。

「遠野からだ……もしもし、大城だけど」

 菜々子は一瞬、息を飲んだ。

「……おい、大丈夫か?
 あ、いや、声が……ああ、いいぜ。気にすんな」

 今度は大城が息を飲んだ。

「……ティアがいなくなった、だ!?」

 その場にいた二人と、二人の神姫が同時に息を飲んだ。

「……で、心当たりは……ああ、うん、駅? そうか……ああ、わかった。わかったから、こっちはまかせろ。 気にすんな。お前はそっちの心当たりを探せよ。
 わかった、連絡する。じゃあな」

 携帯電話を切ると、厳しい顔で菜々子を見た。

「ティアがいなくなった。遠野が必死で探してる」
「そんな……」
「あいつ、聞いたこともないような……泣きそうな声で……くそっ!!」

 大城は店のスタッフのところに行くと、手短にランバトの参加キャンセルを伝えて、そのまま店の出口へと急ぐ。

「待って、大城くん! わたしも行く!」

 菜々子は反射的に答えていた。
 が、大城は振り向いて、

「菜々子ちゃんは待っていてくれ。
 もしティアがここに来て、井山と会ったりしたら、それこそ大変なことになる。だから……」

 菜々子を押し止めた。
 そう言われたら、菜々子は頷くしかなかった。
 大城は雨の中、傘を差して駆け出していく。
 菜々子は身体を抱くように腕組みをすると、再びゲームセンターの壁にもたれかかった。

「ティア……なにやってんの……」

 いらだった口調で、ミスティが呟いた。
 神姫がマスターの元を飛び出してどうするというのだ。
 この雨の中、たった一人でどこへ行くというのだ。
 神姫をなくしたマスターがどれほど心配するものなのか、わかっているのかしら、ティアは!
 ミスティが親指の爪を噛み、いらだちを増している。
 菜々子はさっきからうつむいたままだった。
 だが。
 ……震えてる?
 体重を預けている菜々子の肩が細かく震えている。
 そして、かすかな声。

「だめよ、ティア……いなくなるなんて……」
「ナナコ……?」

 菜々子は思い出す。
 自らの神姫をロストした日のことを。
 身も心も引き裂かれたあの日。
 菜々子の瞳からは涙さえ枯れ果てた、あの時。

「ぜったいに、だめよ……」

 あの時の気持ちは「心が引き裂かれた」なんて生やさしいものじゃない。
 恐怖だ。
 自分のせいで、神姫を帰らぬものにしてしまった、底知れない絶望だ。
 あんな思いを、遠野にさせてはだめだ。
 あんな思いを、自分に近しい人にしてほしくはない。
 だから菜々子は痛切に願う。
 ティア、無事でいて、戻ってきて、と。

 菜々子が深い想いに沈んでいるそのとき、彼女の前に影が差した。
 小柄な、四つの影。

「あなたたち……?」

 ミスティの声に、菜々子はゆっくりと顔を上げた。
 目に入ったのは、四人の女の子の姿だった。
 菜々子より少し年下だろうか。思い詰めたような表情で、菜々子を見つめている。
 菜々子の視線を感じてか、四人とも緊張に肩をすくめた。

「……なに?」

 ごめんね、優しい声をかけてあげられなくて。
 視線も不躾で、疑わしくて。
 あなたたちも……ひどいことを言いに来たの?
 よく見れば、彼女たちは見かけたことがあった。
 いつも四人でバトルロンドをプレイしている女の子のグループだ。
 このゲーセンの常連で、和気藹々と仲間内でプレイしているのをよく見かけている。
 いずれもライトアーマーの武装神姫のマスターだった。今も、自分の肩にそれぞれの神姫を座らせている。

 一人の少女が、思い切ったように菜々子を見つめた。
 セミロングの髪に、眼鏡をかけた、まじめそうな女の子。彼女がリーダー格なのだろう。
 眼鏡の少女は必死の表情で、口を開いた。

「わたしたち、エトランゼさんの代わりに、ティアを捜してきますっ!」
「え……?」
「わたしたち、エトランゼさんに賛成です。味方です!」

 菜々子は思わず言葉を失い、少女達を見た。
 少女達は口々に話しはじめる。

「わたしたち、いままでのこと、全部見てました」
「雑誌のことも、ティアのマスターが怒ってるところも、昨日のエトランゼさんのバトルも……」
「それで、みんなで話し合ったんです。わたしたち、エトランゼさんのファンで、憧れてるんです」
「だから、一人で頑張ってるエトランゼさんを応援しようって……」
「ちょ、ちょっと待って?」

 菜々子は驚いて、話を遮った。

「わ、わたしのファンだからって、わたしの味方することはないのよ? だって、いまのわたしは……」
「ちがうんです、それだけじゃないんです」

 今度はリーダーの眼鏡の少女が話を遮った。

「わたしたち、ティアのマスターに、親切にしてもらったことがあるんです」
「わたしたちは、この四人でばかりバトルしてて、他の人達とバトルあんまりしないんですけど」
「対戦台が空いていなくて困っているとき……ティアのマスターに譲ってもらったんです」
「一人プレイで対戦待ちしてたのに、途中で中断して、『ここどうぞ』って……」
「それも、一回だけじゃないんです。一人でプレイしてるときは、必ず譲ってくれて……」
「でも、わたしたちがお礼を言うと『きにしないで』って言ってくれて、まるで当たり前のことをしてるって感じなんです」

 すると、少女達の肩にいた神姫の一人、ポモック・タイプが無邪気な声を上げた。

「ティア、笑ってくれたよ!」

 すると、他の少女達の神姫も、顔を見合わせて頷いた。

「うん、笑ってたね」
「ティアも優しく笑ってくれました」
「なにも話さなかったけど、『いいよ』って言ってくれてるみたいだった」

 菜々子は何も言えず、四人の少女を見つめていた。

「それで……わたしたち、話し合ったんです。ひどいことされてる神姫が、あんな風には笑えないんじゃないか……」
「ティアのマスターは、いつも紳士的な態度でした。彼こそが、武装紳士というのにふさわしいんじゃないですか?」
「だったら、雑誌見て笑ってる人達は? ティアのマスターをあんな風に怒らせる人達こそ、間違っているんじゃないの? って……」
「誰が本当に正しいのか……わたしたちはわかってたはずなんですけど……言い出す勇気もなくて……」
「でも、憧れのエトランゼさんが、ティアにつくって言ってくれたから」
「わたしたち、バトルも強くないし、足手まといかも知れませんけど!」
「でも、わたしたちにできることくらい……ティアを代わりに捜しに行くことくらい、手伝わせてください!」

 四人の少女は、菜々子に頭を下げた。

「お願いします!」

 菜々子は、ゆっくりと一歩踏み出す。
 そして、四人の少女をかき抱いた。

「エ、エトランゼさん……?」
「……お願いするのは、わたしのほう」

 足手まといだなんて。 
 今の菜々子には、一騎当千の仲間を得た気持ちだ。
 心が痛いほど嬉しくて、泣きそうだった。 
 でも、泣いてはだめだ。
 今は、泣くよりも先に、やらなくてはいけないことがある。

「ティアを、捜して。遠野くんを助けて」

 四人は、一瞬腕に力を込め、抱き返してくれた。

「まかせてください!」

 菜々子は、リーダーらしき眼鏡の少女と携帯番号を交換する。
 名前を八重樫美緒、という。ウェルクストラ・タイプのオーナーだった。
 見つけたら美緒を通して連絡をもらえるように言うと、四人は雨の街に飛び出していった。


■    

 高いところから見下ろす道路は、まるで車が流れる川のようだ、と思った。
 人が乗れるほどの大きな金属の固まりが、何台も何台も流れては過ぎていく。
 ここから落ちれば、きっと車にはじかれて、わたしの身体は粉々に砕け散ってしまうだろう。

 でも、わたしは、歩道橋の柵の間から下を見下ろしたまま、動けずにいた。
 自分から身を投げる意気地もないのだった。
 もうどうしようもない。
 何一つできない自分に嫌気が差す。
 だけど、もうすぐバッテリーが切れる。
 そうしたら、わたしは姿勢を保持できなくなり、ここから落下するだろう。
 わたしの意識がなくなった直後に。
 わたしはそれを待っている。
 その間に、わたしは思いを巡らせた。

 わたしがいなくなったら、マスターは新しい神姫をお迎えするだろうか。
 きっと、するだろう。
 今度は、わたしみたいな面倒くさくて出来の悪い汚れた神姫ではなく、オフィシャルの新品の純粋な武装神姫を。
 その子は間違いなく幸せになれる。
 だって、マスターの祝福を一心に受け、成長することが出来るのだから。
 マスターだって、きっと幸せになれる。
 誰の目もかまうことなく、自分の神姫を連れ、堂々とバトルに挑める。
 公式戦にだって参戦できる。
 きっといい成績が残せるだろう。
 ゲームセンターの人達にも認められ、きっと久住さんや大城さんとも、もっと仲良くやっていけるだろう。
 ミスティさんは、新しい神姫を笑顔で迎えてくれるに違いない。
 虎実さんだって、わたしのように避けることなんてしないはずだ。きっといいライバルになれるはず。
 想像の中にいるわたしの大切な人達は、みんな明るい未来に向かって歩いている。
 ああ、そうだ。
 わたしがいなければ、大切な人達はみんな幸せになれる。
 わたしなんか、最初からいなければよかったんだ。
 『わたしなんか』って言ったら、マスターに怒られるけれど。
 でも、もうマスターが怒ったりすることもありません。
 わたしはもう消えますから。
 だからマスター。
 どうかどうか、幸せに……。

 視界がぼんやりと霞んでいるのは、涙のせいなのか、雨のせいなのか、それとも、もう焦点を合わせられなくなったのか。

 膝の力が抜ける。

 ああ。

 全身を浮遊感に抱かれて。

 わたしの意識は暗転した。










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