ウサギのナミダ
ACT 1-7
□
翌日の日曜日、俺はやはり迷いながらも、ゲーセンに向かった。
井山と会って話をするためだ。
奴に会って話をしないことには、状況は何も進展しない。
ティアは渡せないが、雑誌にティアのあんな画像を載せることはやめさせなくてはならなかった。
井山と連絡を取ろうと思ったが、奴とは昨日のゲーセンで会ったのが初対面だった。
結局、俺はゲームセンターに行かなくては、井山と話も出来ないことに気が付いた。
井山と会って話をするためだ。
奴に会って話をしないことには、状況は何も進展しない。
ティアは渡せないが、雑誌にティアのあんな画像を載せることはやめさせなくてはならなかった。
井山と連絡を取ろうと思ったが、奴とは昨日のゲーセンで会ったのが初対面だった。
結局、俺はゲームセンターに行かなくては、井山と話も出来ないことに気が付いた。
念のため、ティアはおいてきた。
正直、ティアの落ち込みようは心配だった。一緒にいてやりたい。
だが、連れていって、またティアが傷つく姿を見るのも嫌だったし、井山に無理矢理奪い取られないとも限らない。
店の連中が来ていたら、それこそ無理矢理に奪われるだろう。
だから、俺一人で来ることにした。
正直、ティアの落ち込みようは心配だった。一緒にいてやりたい。
だが、連れていって、またティアが傷つく姿を見るのも嫌だったし、井山に無理矢理奪い取られないとも限らない。
店の連中が来ていたら、それこそ無理矢理に奪われるだろう。
だから、俺一人で来ることにした。
俺はゲーセンに入ると、まっすぐに武装神姫のコーナーに向かう。
俺の姿を認めて、店内が少しざわめいた。
かまうものか。
店に来なければ、果たせない用事なのだから仕方がない。
大城が俺の姿に気がついて、すぐに寄ってきた。
俺の姿を認めて、店内が少しざわめいた。
かまうものか。
店に来なければ、果たせない用事なのだから仕方がない。
大城が俺の姿に気がついて、すぐに寄ってきた。
「おい、遠野……しばらく来るなって……」
「井山は来ているか?」
「井山は来ているか?」
大城の言葉を遮って尋ねる。
奴の名を聞いて、大城も理解したようだ。
奴の名を聞いて、大城も理解したようだ。
「いや……まだ来ていないな……」
「昨日は来ていたか?」
「来た。お前が帰った後にな」
「じゃあ、今日も来るだろう……少し待つか」
「いや、待つって、お前よぅ……」
「昨日は来ていたか?」
「来た。お前が帰った後にな」
「じゃあ、今日も来るだろう……少し待つか」
「いや、待つって、お前よぅ……」
大城が口ごもる理由はよくわかっている。
そうでなくても、俺に向けられた視線は痛いほどに感じられる。
俺はよほど歓迎されていないらしい。
そうでなくても、俺に向けられた視線は痛いほどに感じられる。
俺はよほど歓迎されていないらしい。
「井山とは、ゲーセンで会う以外に連絡の取りようがない。バトルするわけじゃないんだ。大目に見てもくれてもいいだろ」
「だけどよ……」
「どのツラ下げて、店に来た? 黒兎よ」
「だけどよ……」
「どのツラ下げて、店に来た? 黒兎よ」
ハウリン・タイプの神姫を肩に乗せた男が、割り込んできた。
「ヘルハウンドの……」
「お前は出入り禁止のはずだろう」
「奴に……井山に話があって、」
「帰れよ。お前がいるのが、迷惑なんだ。そう言わないとわからないか?」
「お前は出入り禁止のはずだろう」
「奴に……井山に話があって、」
「帰れよ。お前がいるのが、迷惑なんだ。そう言わないとわからないか?」
ヘルハウンドのマスターには取り付く島もない。
俺は急に悲しくなってきた。
ついこの間まで、バトルをしようと誘ってくれた奴だったのに。
こんなにすぐに、手のひら返したように、冷たい態度がとれるものなのか?
あんたは、俺達の戦いの何を見てきたんだよ?
俺は急に悲しくなってきた。
ついこの間まで、バトルをしようと誘ってくれた奴だったのに。
こんなにすぐに、手のひら返したように、冷たい態度がとれるものなのか?
あんたは、俺達の戦いの何を見てきたんだよ?
俺が一瞬、物思いに沈み、気がついたときには、バトルロンドのコーナーに来ているほとんどの客が俺に向かって罵声を投げていた。
「そうだ、帰れ帰れ!」
「お前なんかにバトルする資格はねぇ!」
「お前の汚れた神姫もだ!」
「迷惑なんだよなぁ、風俗の神姫の仲間と思われるのはさぁ」
「ていうか、ここに来ないで、風俗にでも行ってろよ」
「もう二度と来るな!」
「お前なんかにバトルする資格はねぇ!」
「お前の汚れた神姫もだ!」
「迷惑なんだよなぁ、風俗の神姫の仲間と思われるのはさぁ」
「ていうか、ここに来ないで、風俗にでも行ってろよ」
「もう二度と来るな!」
こんな罵声を浴びせられる理由がわからない。
納得が行かない。
それでも、俺は叫び出したい言葉を飲み込んだ。
罵声を、甘んじて受けた。
そうしなければ、すべての道が閉ざされてしまうと思った。
拳を固く固く握りしめ、歯を食いしばって耐える。
俺は意志を振り絞って、固まってしまっていた両脚を引き抜くようにして、いまだ口汚く罵り続ける連中に背を向けた。
脇にいた大城に、
納得が行かない。
それでも、俺は叫び出したい言葉を飲み込んだ。
罵声を、甘んじて受けた。
そうしなければ、すべての道が閉ざされてしまうと思った。
拳を固く固く握りしめ、歯を食いしばって耐える。
俺は意志を振り絞って、固まってしまっていた両脚を引き抜くようにして、いまだ口汚く罵り続ける連中に背を向けた。
脇にいた大城に、
「奴が来たら、電話くれ。頼む」
「あ、あぁ……」
「あ、あぁ……」
大城は頷いてくれたらしい。
今の一言を言うだけでも、重い口を懸命に開く必要があった。
俺はやっとのことで、ゆっくりと店の出口へと歩み始めた。
聞こえた言葉。
今の一言を言うだけでも、重い口を懸命に開く必要があった。
俺はやっとのことで、ゆっくりと店の出口へと歩み始めた。
聞こえた言葉。
「あんな精液まみれのエロ神姫、使う気が知れねぇよなぁ!」
どっと、受ける気配。
俺の中でなにかが。
切れる、音がした。
切れる、音がした。
怒りとか、悲しみとか、そう言う気持ちを踏みつぶして通り過ぎた、行きすぎた負の感情。
それが、心の奥から、どばっと噴出した。
真っ黒い感情は、タールのように粘液質なのに、あっと言う間に俺の心を塗りつぶした。
それが、心の奥から、どばっと噴出した。
真っ黒い感情は、タールのように粘液質なのに、あっと言う間に俺の心を塗りつぶした。
俺は身を翻すと、先ほどの言葉を発した一団に飛び込もうとした、らしい。
それが未遂で終わったのは、大慌てで後ろから追いすがった大城が、羽交い締めにしてくれたからだった。
それが未遂で終わったのは、大慌てで後ろから追いすがった大城が、羽交い締めにしてくれたからだった。
「はなせっ! 大城、はなせぇっ!!」
「バカ、やめろ、遠野! やめろって!!」
「バカ、やめろ、遠野! やめろって!!」
押さえてくれた大城の腕から逃れようともがいた。
しかし、頭一つ分背が高くて体格もいい大城に、かなうはずもない。
身体はあきらめたが、心は前に出ている。
俺は今にも飛びかかりそうになりながら、先ほど笑った連中を睨みつけた。
視線で人を殴れたらいいと、本気で思った。
しかし、頭一つ分背が高くて体格もいい大城に、かなうはずもない。
身体はあきらめたが、心は前に出ている。
俺は今にも飛びかかりそうになりながら、先ほど笑った連中を睨みつけた。
視線で人を殴れたらいいと、本気で思った。
「ふざけるなよ……!!」
低く暗く、震え、かすれた声。呪いを吐き出しているような声。
「神姫は……! 神姫はマスターを選べないだろうが!!
神姫に身体売らせて金を稼いでいる奴も、金で神姫を汚して悦んでいる連中も、みんな人間じゃないか!!
マスターが命令すれば、神姫は嫌でも、どんなことでもしなくちゃならない。
神姫に何の罪がある!?
何度も何度も心を引き裂かれるような思いをして……傷ついているのは神姫だ!
それなのになんだよ!?
追い打ちをかけるみたいに、勢いで罵声を浴びせて、おもしろ半分にあざ笑って……
お前ら、それでも人間か!?
それが人間のすることかっ!!!」
神姫に身体売らせて金を稼いでいる奴も、金で神姫を汚して悦んでいる連中も、みんな人間じゃないか!!
マスターが命令すれば、神姫は嫌でも、どんなことでもしなくちゃならない。
神姫に何の罪がある!?
何度も何度も心を引き裂かれるような思いをして……傷ついているのは神姫だ!
それなのになんだよ!?
追い打ちをかけるみたいに、勢いで罵声を浴びせて、おもしろ半分にあざ笑って……
お前ら、それでも人間か!?
それが人間のすることかっ!!!」
口にしてはじめてわかった。
俺が許せなかったのは、俺たちがバトルできなくなることでも、俺が痛い思いをすることでもない。
ティアを無神経に傷つける行為が許せなかったんだ。
俺が許せなかったのは、俺たちがバトルできなくなることでも、俺が痛い思いをすることでもない。
ティアを無神経に傷つける行為が許せなかったんだ。
その場にいた誰もが口をつぐんでいた。
俺はさらに言葉を重ねたかったが、うまく口から出てこない。
心の底からマグマが吹き出すように煮え立っているのに、表層の意識は、いまの言葉を放ったところで、奇妙に冷静になっていた。
そうだ。こんな連中は人間じゃない。
ならば、ここは俺のいる場所じゃない。
俺が異物であるのも当然だ。
俺の身体から急速に力が抜けた。
大城の腕を振り払い、うつむきながら立つ。
俺はさらに言葉を重ねたかったが、うまく口から出てこない。
心の底からマグマが吹き出すように煮え立っているのに、表層の意識は、いまの言葉を放ったところで、奇妙に冷静になっていた。
そうだ。こんな連中は人間じゃない。
ならば、ここは俺のいる場所じゃない。
俺が異物であるのも当然だ。
俺の身体から急速に力が抜けた。
大城の腕を振り払い、うつむきながら立つ。
「もう、二度と来ない」
吐き捨てるように言って、俺はきびすを返した。
さっきまで脚を動かすのに苦労したのが嘘のようだ。 俺はしっかりとした足取りで、足早に出口へと向かった。
一刻も早く、この店から出たかった。
未練さえ、欠片も残っていない。
もうこの店でバトルする事もない、という感傷さえ思い浮かばず、俺は自らの意志で、この店との関わりを切り捨てた。
それで、自らの夢が絶たれるのだとしても。
さっきまで脚を動かすのに苦労したのが嘘のようだ。 俺はしっかりとした足取りで、足早に出口へと向かった。
一刻も早く、この店から出たかった。
未練さえ、欠片も残っていない。
もうこの店でバトルする事もない、という感傷さえ思い浮かばず、俺は自らの意志で、この店との関わりを切り捨てた。
それで、自らの夢が絶たれるのだとしても。
俺が店から出ると、三人の男がこちらに向かってくる姿が目に入った。
冷えていた俺の心の水面が瞬時に沸騰した。
俺はその男たちに駆け寄ると、真ん中の太った男の胸ぐらを掴みあげた。
冷えていた俺の心の水面が瞬時に沸騰した。
俺はその男たちに駆け寄ると、真ん中の太った男の胸ぐらを掴みあげた。
「井山……っ!」
「おや、君は……ひゃはっ、どうしたんだい? そんなに怖い顔しちゃって」
「おや、君は……ひゃはっ、どうしたんだい? そんなに怖い顔しちゃって」
おどけたような口調で言う。
からかっているのか。
こっちが完全に喧嘩腰だというのに、奴は全く動じていない。
からかっているのか。
こっちが完全に喧嘩腰だというのに、奴は全く動じていない。
「貴様……どういうつもりだ……」
「ん? なにが?」
「ティアの……あんな姿の画像を雑誌に載せるようにし向けたのは、貴様だろうっ……!」
「ああ、君も見てくれたんだ? よく撮れてただろ? アケミちゃんのエロエロな格好がさぁ」
「ん? なにが?」
「ティアの……あんな姿の画像を雑誌に載せるようにし向けたのは、貴様だろうっ……!」
「ああ、君も見てくれたんだ? よく撮れてただろ? アケミちゃんのエロエロな格好がさぁ」
こいつは自分がティアの画像を提供したことを否定さえしない。
まったく悪びれていないのだ。
俺は、井山の胸ぐらを掴む手に、さらに力を込めた。
井山の取り巻きの二人は、最初は俺の出現に驚いていたようだったが、井山が俺に絡まれていても、止めようともせずにニヤニヤ笑っているだけだった。
まったく悪びれていないのだ。
俺は、井山の胸ぐらを掴む手に、さらに力を込めた。
井山の取り巻きの二人は、最初は俺の出現に驚いていたようだったが、井山が俺に絡まれていても、止めようともせずにニヤニヤ笑っているだけだった。
「よくも……自分がオーナーになりたい神姫の……あんな画像を……公表できるもんだな……」
「あんな画像も何も……アケミちゃんは、はじめからああいう神姫だろ?」
「貴様はっ……! 神姫の気持ちを考えたことがあるのかっ!?」
「神姫の気持ち?」
「あんな画像も何も……アケミちゃんは、はじめからああいう神姫だろ?」
「貴様はっ……! 神姫の気持ちを考えたことがあるのかっ!?」
「神姫の気持ち?」
井山はさも不思議そうに首を傾げ、そして、こうのたまった。
「そんなの、考えるわけないじゃん、おもちゃの気持ちなんてさぁ! そんなこと考える方がおかしいんじゃないの?」
「な……」
「アケミちゃんは、ああいうことをされるために生まれてきた神姫なんだよ。そういう運命なんだよ。だから、無理矢理バトルロンドで戦わされるより、ボクに奉仕している方がよっぽど似合ってるよ」
「なにが……運命だっ……!」
「な……」
「アケミちゃんは、ああいうことをされるために生まれてきた神姫なんだよ。そういう運命なんだよ。だから、無理矢理バトルロンドで戦わされるより、ボクに奉仕している方がよっぽど似合ってるよ」
「なにが……運命だっ……!」
俺は頭がおかしくなりそうだった。
俺が今まで出会ってきた武装神姫のオーナーたちは、程度の差こそあったが、誰もが神姫をパートナーとして大切にしていた。
だが、こいつは何だ。
平気な顔で神姫にひどいことができる。そして、神姫はそうされることが当然だなんて……そんな奴が神姫のオーナーであっていいのか。
俺が今まで出会ってきた武装神姫のオーナーたちは、程度の差こそあったが、誰もが神姫をパートナーとして大切にしていた。
だが、こいつは何だ。
平気な顔で神姫にひどいことができる。そして、神姫はそうされることが当然だなんて……そんな奴が神姫のオーナーであっていいのか。
「だからさぁ、さっさとアケミちゃんを譲りなよ」
「なにを……」
「だって君、いまバトルロンドできないだろう? アケミちゃんみたいな神姫じゃ、誰もバトルしたくないよね」
「……」
「君の好きな神姫を買って、アケミちゃんと交換してあげるよ。そしたら、君はバトルロンドにまた参加できる。ボクはアケミちゃんとイイコトできる。それが一番いいんじゃない?」
「なにを……」
「だって君、いまバトルロンドできないだろう? アケミちゃんみたいな神姫じゃ、誰もバトルしたくないよね」
「……」
「君の好きな神姫を買って、アケミちゃんと交換してあげるよ。そしたら、君はバトルロンドにまた参加できる。ボクはアケミちゃんとイイコトできる。それが一番いいんじゃない?」
その話に一瞬でも心が揺れなかったと言えば、嘘になる。
このままじゃ、俺達は前にも後ろにも進めない。
だが、しかし。
このままじゃ、俺達は前にも後ろにも進めない。
だが、しかし。
「貴様……ティアを……手に入れたらどうするつもりだって……?」
「決まってるじゃないか。可愛がるんだよ!
雑誌の記事みたいなことをしてさ、毎日毎日、こってりとね。ひゃはははは!」
「そんなことをしたら、ティアは苦しむばかりじゃないか!」
「あったりまえじゃないか。アケミちゃんはさぁ、苦しんでる姿が一番可愛いんだよ。そういう神姫なんだよ、こってり可愛がられるために、生まれてきたのさ、きっと」
「決まってるじゃないか。可愛がるんだよ!
雑誌の記事みたいなことをしてさ、毎日毎日、こってりとね。ひゃはははは!」
「そんなことをしたら、ティアは苦しむばかりじゃないか!」
「あったりまえじゃないか。アケミちゃんはさぁ、苦しんでる姿が一番可愛いんだよ。そういう神姫なんだよ、こってり可愛がられるために、生まれてきたのさ、きっと」
話が通じていない。
俺とこいつの話は、根本から食い違っている。
神姫が苦しむ姿が、一番可愛いだと……?
俺とこいつの話は、根本から食い違っている。
神姫が苦しむ姿が、一番可愛いだと……?
「……ふざけるなっ!」
俺は井山を突き飛ばした
俺の乱暴な行為も意に解せず、奴は余裕の態度を崩さない。
俺の乱暴な行為も意に解せず、奴は余裕の態度を崩さない。
「貴様の様な奴に……ティアを渡せるもんかよ!!」
「ふふん、そう言っていられるのも今のうちさ」
「……なにを」
「あの雑誌の編集者がさぁ、ボクが持ち込んだ企画、気に入ちゃってねぇ。
また、今週発売の号で、載るよ。今度はもっとエロいのがね!」
「ふふん、そう言っていられるのも今のうちさ」
「……なにを」
「あの雑誌の編集者がさぁ、ボクが持ち込んだ企画、気に入ちゃってねぇ。
また、今週発売の号で、載るよ。今度はもっとエロいのがね!」
なんだと。
こいつは、この間のだけでは飽きたらず、まだティアを貶めようと言うのか。
こいつは、この間のだけでは飽きたらず、まだティアを貶めようと言うのか。
「やめろ……これ以上、ティアを傷つけるな、苦しめるなっ!!」
「やだね。これからもまだまだ載るよ? そうしたらそのうち、アケミちゃんでバトロンどころか、連れて歩くこともできなくなるよね! ひゃはははは!」
「そんなの、お前だって同じだろ」
「ボクはいいんだよ。だって、アケミちゃんを外になんか連れ出さないで、ずっとボクの部屋で、こってりと可愛がるんだからね」
「やだね。これからもまだまだ載るよ? そうしたらそのうち、アケミちゃんでバトロンどころか、連れて歩くこともできなくなるよね! ひゃはははは!」
「そんなの、お前だって同じだろ」
「ボクはいいんだよ。だって、アケミちゃんを外になんか連れ出さないで、ずっとボクの部屋で、こってりと可愛がるんだからね」
俺の脳裏に、ティアの顔が思い浮かんだ。
あの時。はじめて公園に連れていったあの日。
ティアはその広さ、明るさに驚いていた。
ティアはその広さ、明るさに驚いていた。
はじめてレッグパーツを装着して、公園で走ったとき。
ティアはとても嬉しそうに笑っていた。
ティアはとても嬉しそうに笑っていた。
笑っていたんだ。
それを奪われるのか。
こいつの元に行ったら、ティアは二度と外の風を感じることもなく、薄暗い部屋の中で、ただ怯え、苦しみ、泣き叫び、心が磨耗していくだけの日々を送るっていうのか。
そんなことは、どうしたって……許せるはずがない!
こいつの元に行ったら、ティアは二度と外の風を感じることもなく、薄暗い部屋の中で、ただ怯え、苦しみ、泣き叫び、心が磨耗していくだけの日々を送るっていうのか。
そんなことは、どうしたって……許せるはずがない!
「渡さない……どんなことがあっても、ティアは決して渡さない!」
「いいや、いずれきっと、君はボクに泣きついて来るさ。だってバトルもできなきゃ、外に連れ出すこともできなくなるんだからね! ひゃははは!!」
「いいや、いずれきっと、君はボクに泣きついて来るさ。だってバトルもできなきゃ、外に連れ出すこともできなくなるんだからね! ひゃははは!!」
井山の高笑いに、俺はせめて睨みつけることで、反抗するしかなかった。
正直、奴の話には現実味があった。
ティアを俺の神姫として活動する方法を、今の俺にはまったく思いつかない。
俺はまた、拳を強く握りしめ、耐えるほかにはなかった。
正直、奴の話には現実味があった。
ティアを俺の神姫として活動する方法を、今の俺にはまったく思いつかない。
俺はまた、拳を強く握りしめ、耐えるほかにはなかった。
「そうそうこれ……」
井山はポケットから一枚の紙片を取り出し、俺に差し出した。
「ボクの連絡先だよ。アケミちゃんの件なら、いつでも連絡していいからさぁ」
俺の目の前にいる三人が大笑いした。
俺は……どうすることもできなかった。
無力だった。
この連中のいやらしい笑い声すら止めることはかなわない。
せめてできることは、井山が差し出した名刺をたたき落とし、走ってその場から逃げ出すことくらいだった。
後ろから井山が何事か言ったようだったが、よく聞き取れなかった。
俺は……どうすることもできなかった。
無力だった。
この連中のいやらしい笑い声すら止めることはかなわない。
せめてできることは、井山が差し出した名刺をたたき落とし、走ってその場から逃げ出すことくらいだった。
後ろから井山が何事か言ったようだったが、よく聞き取れなかった。
情けなかった。悔しくて、頭に来てもいたが、結局何もできない自分が一番腹立たしい。
あんな奴に好き放題言わせて、それでも何もできずに見ているしかない俺は……なんと情けない男なのだろう。
裏通りの路地。
俺はいつしか立ち止まっていた。
あんな奴に好き放題言わせて、それでも何もできずに見ているしかない俺は……なんと情けない男なのだろう。
裏通りの路地。
俺はいつしか立ち止まっていた。
「お、お、おおおおおおぉぉっ!!」
吠えていた。
負け犬の遠吠えだ。
吠えながら俺は、路地の薄汚れた壁に、拳を叩きつけた。何度も何度も、力一杯叩きつけた。
やり場のない負の感情を、壁に向かってぶつけていた。
なんだか、殴りつけている壁に赤い染みが出来はじめた。
叩いている右の拳の感覚がない。
時々、手の指あたりから、鈍く嫌な音が聞こえた。
だが、無視した。
俺は壁を叩くのをやめなかった。
ただひたすらに、その行為に没頭していた。
いつまでそうしていただろう。
負け犬の遠吠えだ。
吠えながら俺は、路地の薄汚れた壁に、拳を叩きつけた。何度も何度も、力一杯叩きつけた。
やり場のない負の感情を、壁に向かってぶつけていた。
なんだか、殴りつけている壁に赤い染みが出来はじめた。
叩いている右の拳の感覚がない。
時々、手の指あたりから、鈍く嫌な音が聞こえた。
だが、無視した。
俺は壁を叩くのをやめなかった。
ただひたすらに、その行為に没頭していた。
いつまでそうしていただろう。
「っておい!? 遠野!! おまえ、ちょ……なにやってんだ!!」
野太い大声が俺を呼ぶ。
そして、ひたすらに動かしていた右腕を、力任せに掴んできた。
そして、ひたすらに動かしていた右腕を、力任せに掴んできた。
「はなせ!! 大城っ!」
「バカ!! 手が血塗れじゃねぇか!! いてえんだろうが!」
「こんな痛み、ティアが受けた痛みと比べようがないっ!!」
「バカ!! 手が血塗れじゃねぇか!! いてえんだろうが!」
「こんな痛み、ティアが受けた痛みと比べようがないっ!!」
それでも大城は、俺の右腕をがっちりと掴んで、放さないでいてくれた。
「遠野、お前……」
「それでも……おれは……ティアの痛みを分かちあってやることさえ出来ない……あいつの涙を、止めてやることさえ出来ない……おれは……おれは……っ!!」
「それでも……おれは……ティアの痛みを分かちあってやることさえ出来ない……あいつの涙を、止めてやることさえ出来ない……おれは……おれは……っ!!」
もう言葉にならなかった。
俺は狂ったように慟哭した。
俺は狂ったように慟哭した。