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ウサギのナミダ

ACT 1-4



「えっ!? それじゃあ、あの時、最初から副腕の破壊を狙っていたの?」
「ああ、最初の一撃で、傷ついたのが分かっていたからね」

 俺の言葉に、腕を組んで考え込む久住さん。
 ここは駅前のミスタードーナッツ。
 先ほどバトルした、イーダ・タイプのミスティのオーナーである久住菜々子さんと、差し向かいで話をしている。
 話の内容は、先ほどのバトルの内容。さしずめ将棋の感想戦といったところだ。

「でも、それだけで破壊されるほどヤワじゃないと思うんだけど……いくら、イーダのエアロチャクラムの腕が華奢でも」
「その前に、随分振り回して、ビルの壁とかも削っていたよね。それで負荷がかかっていることは考慮に入れてた」
「てことはまさか……路地でバトルが展開したのもわざと?」
「まあ、そうかな……ティアが得意なフィールドということもあったけど、左のエアロチャクラムを振るわせるのが目的だった」

 バトルの後、お互いの健闘をたたえ、挨拶を交わしたのだが、その後で対戦希望者や観戦していた他の神姫マスターに取り囲まれて、ゆっくり話をする状態じゃなくなった。
 仕方がないので、隙を見て二人で逃げ出してきた、というわけだ。
 お茶をしながらゆっくり話そう、と誘ってきたのは久住さんの方だった。
 俺は、コーヒーおかわり自由で長居ができ、甘いものも食べられるミスタードーナッツに案内した。
 彼女も甘いものが好きらしく、この選択には大いに喜んでくれた。

「エアロ・チャクラムはストラーフの副腕パーツのチーグルに比べると腕部が華奢だし、バランスが取れていない。それを無理矢理独立可動させるから、絶対に腕部に負荷がかかると思っていた」
「私たちが二度目にストリートで待っているときに、正面から狙ってきたのは、副腕を直接攻撃するためだったのね」
「そう。背後からだと、間違いなくあの大技が来ると思っていたし、それを封じて、出される前に破壊するには正面から行くしかなかった」
「あのブラスター三連射は見事だったわ」



 マスター達が話をしているテーブルの上で、わたしは緊張していた。
 わたしの前には、すっかりくつろいだ様子のミスティさんが微笑んでいる。
 バトルした相手の神姫と差し向かいになるなんて、これが初めてだった。

「ねぇ、ティア」
「は、はい、ミスティさん……」

 小さな声でわたしが答えると、ミスティさんはわたしに近づいてきた。
 そして、力強くわたしの背中を叩く。

「わっ!」
「やあねぇ、何をそんなに緊張してるのよぅ!」
「だ、だって、あの……」
「あなたには参ったわ。わたしの完敗ね」

 ものすごくあっさりと、自分の負けを認めた。
 ミスティさんはにこにこ笑っている。

「そんな……怒ってないですか?」
「怒るも何も、自分が全力を出して負けたんだったら、相手をほめるしかないでしょう?」
「そ、そう……なんですか?」
「そうなのよ」

 ミスティさんはにっこりと笑って頷いた。
 わたしもつられて笑ったが、かなりぎこちなかった。

「わたしは、あなたみたいな戦い方が好きよ。
 自分の戦闘スタイルで、武装に頼らずに技で勝負する。
 あなたがどれだけ頑張ってきたか、機動一つ、攻撃一つ取ってみても分かるわ」
「そ、そんな……」
「特に、そうね。わたしのエアロチャクラムを砕いたブラスターの三連射。
 あの速度で後進しながら、回転して三連射なんて、信じられないわ。
 どうやってるの? 何かの戦闘用機動プログラム?」
「あ、あれは……」



「あれはティアの技……言ってみればアドリブだよ。決められたプログラムじゃない」
「……って、あれだけの動きを、神姫が独自判断で行っているの!?」
「そうだけど……そんなに驚くことかな」

 ティアの戦闘用プログラムは、そのほとんどを両脚の機動とバランス制御に使用している。
 そして、ティア自身の日々の修練による蓄積データにメモリを費やしている。
 そのため、地上での機動における戦闘行動は、かなり自由度が高い。
 話題に上ったブラスター三連射は、フィギュアスケートのスピンを基本にしている。
 スピンしながら、回転と同じ方向にブラスターの反動を逃がし、スピンに加速をつけている。
 射撃の方向とタイミングは神姫任せだが、神姫であればそのくらいの計算は行える。
 つまりは、スケートの技と、射撃をその場で組み合わせているのだ。

「ほとんど曲芸に見えたわ……神姫があんな動きができるなんて思わなかった」
「まあ、それがティア最大の武器だから」
「その後すぐ、ブラスターを捨てたでしょう。どうして? まだ残弾あったはずなのに」
「ミスティを変形させるためだ」
「……変形……って、それも副腕を壊すため?」
「そうだよ。あの変形パターンだと、副腕に相当の負荷がかかるから」

 つまりは誘いだ。
 ブラスターを捨てることで、ミスティは隙と見て、変形してくるだろう。
 その時に、エアロ・チャクラムのサスペンションを最大に利用して、ミスティは上体を跳ね上げる。
 高速で疾走していた身体にブレーキをかけ、その力を反発させて立ち上がるのだ。エアロ・チャクラムには最大の負荷がかかるはずだった。

「はあ~……そこまで読まれていたなんて……ね」

 久住さんは上を向いて息をついた。
 こうしたバトル中の読みは、どのマスターも行っていると思っていたが、実はそうでもないらしい。
 久住さんは、もっと直感的にバトルを進めているという。
 神姫の戦闘スタイルと同様、マスターにも得意のスタイルがあるらしい。
 久住さんとミスティは、感性でバトルをするタイプのようだ。
 奇襲やトリックプレイが多いが、それは細かな状況分析に裏打ちされたものではなく、勘に頼っているとのことだった。
 それで名の知れた神姫プレイヤーなのだから、女の勘は侮れない、ということだろうか。

 久住さんの質問は途切れることなく続く。

「それじゃあ、ミスティがストラーフの戦闘スタイルだって気がついたのはいつ?」
「最初の一撃……リバーサル・スクラッチだったっけ……それをかわした後」
「そんなに早く!?」
「ティアが、副腕が独立で動いてた、と報告してきたから。それならストラーフと同様の装備と見るのが妥当だし」
「そうか……だからティアの動きに迷いがなかったのね……」

 ミスティがストラーフの戦闘スタイルを持っていることをバトル中に気がつかれたのは、とても稀だそうだ。
 大抵の対戦者は、リバーサル・スクラッチの初撃で大ダメージを被り、焦っている間に変形後のミスティにとどめを刺される。
 それがミスティの必勝パターンだ。
 なので、ミスティの変形後と五体満足で戦った神姫自体が少ないのだ。
 つまり、ミスティは短期決戦型の神姫であるということもできる。
 俺達にとって運が良かったのは、ティアがその初撃を完全にかわしたことだ。
 それによって、冷静にミスティの戦闘スタイルを見極めることができたし、長期戦にも持ち込めた。 
 だが、ミスティが長期戦に弱い神姫ということでは決してない。



「そうです。ストラーフ・タイプとも何度か戦ったことありますけど……ミスティさんが一番手強かったです」
「まあ、そんなこと……あるけど」

 ミスティさんは謙遜もせず、そう言って笑う。
 おそらく、ミスティさんであれば、通常のストラーフ装備で戦っても相当に強い、とわたしは思う。
 廃墟ステージでの三次元機動は、相当に熟練したストラーフでもその域に達するかどうか。

「わたしの戦闘スタイルは、ストラーフの戦闘データを元に構築されてるの。元のストラーフは経験豊富で相当強かったから、わたしがストラーフ形態の時に強いのはそのせいね」
「元のストラーフ……?」
「そうよ」

 ミスティさんは右手を胸に当てて、言った。

「わたしの中には、もう一人のミスティがいるの」



「つまり、いまのミスティは二代目なんです」
「初代ミスティのデータを流用しているわけか」

 初代のミスティはストラーフで、それが久住さんの最初の神姫だったという。

「その初代を手にしたのはいつ頃?」
「五年くらい前……かなぁ」
「……それじゃあ、久住さんの神姫マスター歴は結構長いんだ」
「うん、歴だけは、ね」

 久住さんは困ったように微笑んだ。
 歴だけは長い、というが、それは謙遜と言うものだろう。
 現ミスティを見れば、元のミスティがかなりの強者であったことは容易に想像がつく。
 三年から四年の戦闘データの蓄積は、簡単に手に入るものではない。
 もちろん、マスターとしての経験も。
 それらすべてがイーダのミスティに受け継がれ、さらに独自の戦術も編み出しているのだ。

「強いわけだ……」

 思考の中で出した結論に納得して、思わずつぶやく。

「それ、皮肉ですか」

 ちょっと身を乗り出した久住さんが、ちょっと恐い顔をして、上目遣いに俺を睨む。

「あ、いや……」

 俺は思わず焦って、言葉を探してしまう。
 確かに、さきほどバトルに勝った俺が言う言葉じゃなかったかもしれない。

「その……ごめん、気を悪くしたかな……」

 頭をかきながら、しどろもどろになっている俺を見て、久住さんはくすっと笑った。

「冗談です」

 なんだよ。
 女の子にこんな風に睨まれるのも、からかわれるのも初めての経験で、思わず安心して、身体の力が抜けた。

「ごめんなさい。ちょっと反撃したくなっちゃって」
「なら、作戦は成功だ。焦ったよ」

 久住さんはにこやかに笑う。
 彼女の笑顔はとても素敵だった。
 俺がつられて思わず笑ってしまうほどに。
 やっぱり反則だと思う。



「どうしたの? マスターが気にかかる?」

 ミスティさんに声をかけられ、思わず振り向く。

「あ、その……はい」

 わたしの答えに、ミスティさんは頷いて微笑む。

「あなたのマスター、かっこいいもんね」

 そうなのだろうか。
 確かに、端正な顔だと思うけれど。
 わたしが気にしているのはそうではなくて……。

「その……マスターがあんなふうに笑うところ、はじめて見たので……」

 マスターは、久住さんと話をしながら、笑顔をはじけさせていた。
 わたしの前では決して見せない、感情にあふれた顔。
 久住さんは……ミスティのマスターは、何を話して、わたしのマスターを笑顔にさせるのだろう。
 それが分かれば、わたしもマスターに笑顔をあげることができるだろうか。

「そうなの? あなたのマスターは、いつもどんな顔してるの」
「ええと……あんまり、表情を見せないというか……」
「なにそれ」

 ミスティさんも、わたしのマスターを見上げた。
 マスターは、久住さんの言葉に頷きながら微笑んで、カップに口を付けるところだった。

「にわかに信じがたいわね……」

 ミスティさんにそう言わせるほど、今日のマスターは表情豊かだった。
 いつもわたしが見ている冷たさはほとんど感じられない。
 話し方はいつものように控えめで理知的だけれど、すごく楽しそうだ。
 そんな様子のマスターを見て、わたしは疑念を抱く。
 マスターがいつも冷たい表情なのは、わたしのせいなのではないか。
 わたしを見るたびに、望まぬ神姫を、面倒な神姫を手にしたと、そう思っているのではないか……。
 今のマスターを見ると、どうしてもそういう思いに捕らわれてしまう。



 久住さんとの話は多岐に渡った。
 もっぱら神姫関連の話だったが、お互いに話題が尽きることはなかった。
 好きな神姫のタイプや、新製品の話題、今までのバトルでの出来事……。
 久住さんは話し上手で、会話をリードするのはもっぱら彼女だった。
 俺は受け答えをするばかりだったが、彼女の会話のペースに引き込まれ、時間が経つのを忘れてしまうほどだった。
 楽しくも刺激的な時間が過ぎ去り、気がつけばとっぷりと日が暮れてしまっていた。

「今日は付き合ってくれて、ありがとうございました。とっても楽しかったです」
「こちらこそ。暗くなるまで引き留めてしまって、申し訳ない」

 お互いに、今日の締めくくりの言葉を交わす。
 しかし、立ち去りがたい。
 今日は本当に楽しかった。まだ久住さんと話してみたいことがたくさんある。
 かつて、女性とこんなにたくさん話したことはないというのに。
 彼女ともう一度会いたい。そんな気持ちが抑えられないほどにあふれてきている自分に驚いた。
 だが、そんな気持ちを気の利く言葉で表す術など持ち合わせてはいない。
 しかも、今日初対面の女性に、そんな不躾なことを言えるはずもない。
 しばらくの沈黙。

「……あのゲーセンにはよく通ってるんですよね?」

 久住さんがそんな風に声をかけてきた。

「あ、ああ……土日には、大抵……」
「それじゃあ、また明日会えますね」
「また明日も来るのかい?」
「ええ。だってあそこでは、まだティアとしか戦っていないもの」

 俺は今更ながらに気がついた。
 彼女と会うのは難しいことじゃない。
 俺達は武装神姫のプレイヤーという共通点があるのだから。

「……また、俺達と戦ってくれるかな」
「もちろんです」

 やっぱり、久住さんの笑顔は反則だと思う。
 彼女の笑顔は、俺の心に滑り込むように、自然に入ってくる。
 だから、俺も思わず笑顔を浮かべてしまうのだ。
 また明日会う約束をして、俺は久住さんと別れた。



「ミスティ、しばらく、こっちのゲームセンターに通うからね」
「かまわないけど……そんなに気に入った?」
「別にゲーセンが気に入った訳じゃないわ。さっきも言ったでしょ。まだあそこではティアとしか対戦してないんだから……」
「ちがうわよ。ティアのマスター、そんなに気に入ったの?」
「って、ちょ……何言ってんの、ミスティ!」
「隠しても無駄。あんなに楽しそうに男の人と話すの、初めて見たもの」
「うっ……ま、まあ……ね……すごく話が合うっていうか、なんというか……」
「ナナコが口ごもるなんて、珍しい」
「うるさいわね! ……でも、あんなに楽しく話できた人は初めてだったな」
「で、またティアのマスターとお話したいわけね」
「そ、そおよ……悪い?」
「……いいわ。協力してあげる。わたしもティアと戦うのは楽しみだし」

 相手の遠野も、菜々子を憎からず思っていそうだ、というティアからの情報は、あえて言わないでおく。
 ミスティは自分のマスターに対してそんなに甘くはないのだった。



 翌日の日曜日。
 俺はいつものようにティアを散歩に連れ出した後、いつものように行きつけのゲームセンターに向かった。
 店に入ると真っ先に、大城ががっくりとうなだれている姿が目に付いた。

「よお、大城。何があったんだ?」

 珍しく俺の方から声をかけてみると、大城は無言で神姫の筐体の方を指さした。
 ギャラリーで人だかりができている。
 比較的早い時間帯だというのに、珍しいことだった。
 人だかりが、わっとという歓声に沸いた。
 観戦用の大型モニターに、今のバトルが映し出されている。
 振り上げられた緑色の大型の機械腕が、相手の飛鳥・タイプの羽をもぎとるところだった。
 その一撃で勝負は決まっていた。
 飛鳥・タイプはもう戦う気力もなくし、逃げる術も失っていた。

「ミスティか……」

 勝敗は決した。五八秒。秒殺である。

「しかも、これで八連勝か……」

 ティアが「うわぁ……」と感嘆の声を上げている。
 改めて、エトランゼの異名が伊達ではないことを知った。

「しかも、ほとんど三分以内だ……」

 大城が力なく言う。

「おまえ達も戦ったのか?」

 大城は頷いた。
 だが負けたようだ。よほどこっぴどくやられたらしい。
 虎実はよほどショックな負け方だったのか、真っ白に放心したまま、視線を宙にさまよわせている。

「だが、おまえは昨日の戦いを見ていただろう。初撃を避ければなんとかなりそうじゃないか?」
「その初撃が避けられないんだよっ」
「は?」

 ミスティの初撃……リバーサル・スクラッチをはずそうと、みんな様々な手段を使ったが、ことごとく失敗に終わったらしい。
 確かに、リバーサル・スクラッチは、久住さんの女の勘によって絶妙のタイミングで繰り出されるので、回避は至難の技である。
 だが、来ることが分かっているのなら、対処のしようもあるというものだが……。

「ティアの時に使ったのは、あの技の一つでしかないんだ」
「……バリエーションがあるってことか?」

 大城の言葉は予想の範疇である。
 エアロ・チャクラムを横向きで振るうのだってバリエーションの一つだ。

「使い分けてるんだよ、たくさんの反転技を。それだからタイミングを読み切れない。
……ほんと、ティアはよくかわしたよな」
「虎実の時はどんなだったんだ」
「……それが……」

 虎実は、こともあろうに、巡航するミスティに対して真っ正面から挑んだらしい。
 確かにそれなら、ミスティはリバーサル・スクラッチを出せないだろう。
 だが。

「ていうか、バカか?
真っ正面からなら、ストラーフ形態でやりたい放題だろうに」
「だって、おまえ達が真っ正面から攻めて、勝ったから……」

 実際、一瞬にしてストラーフ形態になったミスティに飛びかかられて、あっと言う間に勝負は決まったらしい。
 開始二三秒は、本日最短の試合だった。
 大城のことだから、意気込んで勝負に望んだのだろうが、空回りだったようだ。

「ああ……勝てれば菜々子ちゃんとデートだったのに……」

 ……なんだそれは。
 俺は久住さんの方に視線を向ける。
 今また一人、挑戦者が久住さんと話している。

「じゃあ、俺が勝ったら、お茶してくれよな」
「ええ、勝てたら、ね」

 久住さんは笑って言うが、目が笑っていなかった。
 負けるつもりはさらさらないらしい。
 そうでなければ困るわけだが、いや、心配するところはそこじゃない。
 もし負けてデートでもするようなことになったらどうするつもりなんだ、彼女は。
 というか、なんで俺は久住さんの心配をしているんだろう。

 バトルが始まった。
 ステージは都市ステージのハイウェイ。
 昨日のティア戦よりも高速で巡航するミスティ。
 追うのは、アーク・タイプの神姫だ。
 アークはハイスピードをうたうだけあって、みるみるうちに差を詰めてくる。
 初撃はアークだった。
 フロントのレーザー砲を放つ。
 前方を走るミスティをかすめ、ハイウェイの先にビームが伸びて消える。
 その瞬間。
 ミスティは、左の前輪を軸にして急ターンした。
 身体を傾け、後輪をスライドさせて、一八○度旋回。
 アークと向き合った瞬間、大型の脚部を接地させ、そのまま前に飛び出した。
 高速で迫るアーク・タイプ。
 二体の神姫は高速で飛び違った。
 瞬間、破砕音とともに、勝敗は決した。
 すれ違いざまにミスティが振るったエアロ・チャクラムが、アークの本体を見事に捕らえ、破壊したのだった。

「なるほど、振り向き方も変えているのか」

 振り向き方、攻撃のタイミング、方向などを様々に組み合わせ、変化させて初撃の命中率を上げているのだ。
 つまり、リバーサル・スクラッチには無限のバリエーションがある。
 勘に頼っている、なんて久住さんは言っていたが、なかなかの戦術に裏打ちされた攻撃だったのだ。
 これで九連勝。
 効果のほどは勝利数が物語っている。
 俺はうなだれる対戦者とすれ違い、久住さんに声をかけた。

「こんにちは、久住さん。調子良さそうじゃない」
「こんにちは、遠野さん。まあまあ、かな?」

 そう言って、久住さんは、相変わらずの反則な笑顔を見せた。
 思わずつられて微笑みそうになりながら、それでも気を引き締めて、胸元のティアに声をかける。

「ティア、行けるか?」
「はい……マスターが、戦いたいというのなら」

 俺は再び久住さんと視線を合わせる。

「それじゃあ、今度は俺達とバトルしないか?」
「もちろん、OKです」
「俺達が勝ったら、昨日のミスタードーナッツでお茶でも?」

 先ほどの対戦者の要求を真似て、ちょっと当てつけのように言ってみた。

「いいですよ」

 久住さんはにっこり笑って答え、さらにこう付け加えた。

「それじゃあ、わたしたちが勝ったら、ミスタードーナッツでお茶、というのはどうですか?」

 俺は苦笑する。
 答えはもちろん、OKだった。









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