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猫と仔猫とぷち猫と……。

パート1




 ちりりん。
 と無意味にベルを鳴らしつつ、土手を疾走する一台の自転車があった。
 俗にママチャリとも呼ばれる前カゴ付きのタイプで、乗員は三名。
 もちろん、そこには武装神姫=マオチャオとその武器である一体のぷちマスィーンズを含む。
「ひゃっほー。試験終わった、終わった、バトルだやっほー」
 今にも踊り出さんばかりのハイテンションで仔猫が叫ぶ。
 正式な名前が『仔猫(こねこ)』であり、自称でも通り名でもない。
「仔猫。そんなにはしゃぐと、また自転車から落ちるわよ?」
 過去に何度かやらかして、痛い思いをした事を忘れ去っているのか、無防備にはしゃぐ彼女に注意を促す奈緒。
「大丈夫、大丈夫!! 仔猫は運動神経良いので落ちてもキッチリ受身取るッス!!」
「まず落ちないようにしなさい」
 もっともだ。
「……へっ。無駄だぜ、奈緒よぅ。仔猫が言った位で聞くタマかよ?」
 若本規夫な渋声で重々しく皮肉そうな口を開く黒ぷち。
「コイツは基本ドーブツだからな。……言う事聞かせるには力ずくが一番だぜぇ……」
 そう言うや否、搭載武装を仔猫に向けて…。
「ちょっとヴォルフ、何するつもり!?」

 奈緒が制止するより早く、仔猫の顔面にミニバルカンを叩き込んだ。

「ぷぎゅらぁ!?」
 正体不明の鳴き声を上げて顔を抑える仔猫。
 当然、その手はハンドルから離れ、自転車はその制御を失った。

 ……もちろん、土手の砂利道の上である。
 2~3秒ほど持ちこたえた後、小石で跳ねた車体はバランスを崩し、土手の下に転がり落ちていった。



「何かこう、ガス圧式のモデルガンで顔面にBB弾打ち込まれた戦死者の気分ッス」
「……全く、的確な例えね、仔猫」
 自負したとおり、キッチリ受身を取って土手に降り立ち、直後、遅れて落ちてきた自転車に押しつぶされた仔猫の顔面に着地し、額を押さえる奈緒。
 ぶつけたのではない。頭痛がするのだ。
 主と下僕、双方のお馬鹿さ加減に。
「……そぉろそろ、俺様の上から退いてくれねぇか、仔猫よぅ?」
 そして、もう一人のお馬鹿、黒ぷちのヴォルフが仔猫のお尻の下でもがいていた。
「うおぅ!? ヴォルさんにセクハラかまされたッス!?」
「甘いな、仔猫。……こんな肉付きの悪い尻を触るぐらいなら、俺は奈緒にセクハラするぜ」
「すんな」
「へっ、照れるなよぅ。……俺とお前の仲じゃないか」
 神姫とぷちの関係だ。
 要するに使い手と武器。
「それともアレか? 嫉妬か? 安心しな。……俺が一番愛しているのはお前だぜ、奈緒」
「……仔猫、しばらく退かなくて良いわよ」
「つーか、その前に自転車何とかしないと身動きも出来ないッス!!」

 取りあえず、珠洲音仔猫(すずねこねこ)と神姫とぷちが、目的の神姫センターに着いたのは予定より大分遅れてからになったと言う。


「……で、かすり傷一つ無い。……と」
 いきなりズタボロの服で現れた後輩にその原因を説明され苦笑する少女。
「……相変わらず頑丈ですね、仔猫さん」
「自分、頑丈さには自信あるッス!! ダテに子供の頃から落ちたり、ぶつかったり、轢かれたりしてないッス!!」
 それぞれ崖、ホームランボール、ダンプカーである。
「……あれね。防御力高すぎて、痛い思いをしないから学習しないのね仔猫は」
 主ののーてんきな笑顔に顔を顰める奈緒。
「或いは、そもそも学習する能力がないのか、だなぁ?」
 くくく、と喉(あるのか?)を鳴らすヴォルフ。
「何れにせよ、大事が無くて何よりです」
 そう言って微笑むのは、神姫センター内でパーツ販売をしている神姫ショップの店番(バイト)、草薙八雲(くさなぎやくも)。
 仔猫の通う学園の高等部に属する先輩でもある。
 因みに仔猫は中等部である。
「……ふっ。今日も変わらず、いい女じゃないか、八雲よぅ」
「ヴォルさんも、いつもながら渋くて素敵ですよ」
「いや、コイツが素敵とかあり得ないし」
 即座に否定を入れる奈緒に、ヴォルフは唇を吊り上げた。
「安心しろよ、奈緒。……俺は確かに花から花へと渡り歩く蝶。……だがしかし、俺が帰ってくるのは何時だってお前の所さ」
「むしろ帰って来なくて良いんだけど」
「ははは、コイツぅ。照れてるんじゃね―――ぐほぁっ!?」
 ドスッ。
 と、スピアで黒ぷちの側頭部を抉って大人しくさせる奈緒。
「んで、仔猫は相変わらずソレに夢中な訳ね」
 と、半眼でショーウインドゥにへばりつく仔猫によじ登る。
「うむむ~、何時見ても見事ッス。……さすがは八雲さん」
 視線の先には、八雲が作った神姫用の剣。
「この出来栄えを、例えて言うならそう、コアラ級ッス!!」
「コアラ?」
「そう、コアラ!!」
 訳が分らない。
「……と言うことで、そろそろコレを売って欲しいッス!!」
 そもそも、仔猫が足繁くこの神姫ショップに通うようになったのも、八雲と知り合ったのも、始めはこの剣に惹かれたからである。
 この剣が彼女の作品である事も、彼女が同じ学園の先輩である事を知ったのもその後の事だ。
 今日だって、試合開始に間に合わなかった仔猫は、次の試合受付までの時間つぶしに迷わずこの神姫ショップを選んでいる。
 それぐらいこの剣に入れ込んでいる仔猫だが、八雲は決してソレを譲ろうとはしなかった。
「……申し訳ありませんが、それは売り物ではないのです」
「そッスか。……残念ッスね~」
 心なしか、主の声から勢いが消えたのを感じ取り、奈緒は八雲に尋ねてみる事にした。
「……そういえば、コレを売らないのって何か理由でもあるの?」
「ええ」
 迷わずにそう答える八雲。
「……私は、コレ以前にも幾つか神姫用の剣を作っていたのです」
 彼女はそう言って遠い目をする。
「私の祖父は刀鍛冶でした。……私も祖父に教えを請い包丁などを作ったものです。
 そして、武装神姫を知り、そのうちに神姫の剣を作るようになりました。
 剣を作り、知り合いに渡したり、売ったり……」
 そして自嘲気味に苦い笑顔を浮かべる。
「……皆さんからの評判が良かったので自惚れていたのでしょうね。
 次第に私は強い剣を求め、造り続けました。
 炎を纏う剣。
 炸薬で刀身を振動させる剣。
 神姫のシステムに負荷をかけるような電磁波を放つ剣。
 しかし、そんなある日。
 私の剣を持った神姫が刀使いの神姫に敗れたのです」
「……」
「それまで、私の作った剣を使う神姫は殆ど負けがありませんでした。
 ましてや、剣と剣の勝負で負ける事などありえない。
 そう考えた私は、相手がどんな剣を使っていたのか調べたのです。
 ……きっと、私の造った剣以上に強い剣なのだろう。……と」
 静かにそう語り、八雲は不意に、誰とも無しに問いかける。
「その相手の神姫。どんな剣を使ったいたと思いますか?」
「そ、それは……」
 奈緒たちが言いよどむと、始めから答えを期待してはいなかったのか、八雲はそれを自ら口にする。
「……只の為虎添翼(イコテンヨク)……。そう、何の変哲も無い店売りの量産品だったのです」
 彼女の視線の先には、店頭のワゴンに積み上げられた紅緒の箱。
「そこで初めて私は気付いたんです。……戦うのは剣じゃない。神姫なんだって。
 強い剣を神姫に使わせるんじゃなくて、神姫を強く出来る剣を作るのが、本当の刀匠の役目なのだ、と」
「……だったらどうして仔猫に剣を売ってあげないのよ?」
「……まだ、過去の過ちを清算し切っていませんから」
「あやまち…、ッスか?」
「ええ。
 私が歪んだ思想で造り上げた剣。
 ほとんどは回収したのですが、あと7本。
 7本だけ、行方が分らなかったり、持ち主に返却を断られたりしている剣があるのです。
 それらを全て回収するまで、私には刀匠として次の剣を作る資格などありません」
 そう語り終え、八雲は静かに目を閉じる。
「……そうだったのね。……それでは無理強いは出来ないわね……」
「あ、でもだったら簡単ッス!! 私と奈緒ちゃんが八雲さんの剣の使い手に勝って、剣を返してもらえばいいだけッスよ!!」
「あんた、そんな簡単にね」
「ふふふ。もし本当にそうなったら、一番に奈緒さんの剣を造って差し上げますね」
「ホントッスか!? やったッス!!」
 ばんざーい、と両手を挙げて喜ぶ仔猫。
「我が主ながら、ホントに気楽な奴ね」
「……それが、仔猫の唯一のとりえだからな……。
 そうは思わないか、八雲よぅ」
「あら、仔猫さんは他にも素敵な所がいっぱいありますよ、ヴォルフさん」
「例えば何処よ?」
 奈緒は、いつの間にか復活していたヴォルフを掌に載せる八雲に問う。
「……そ、そうですねぇ……」
「思いつかないんだ?」
「い、いえ。そんなことはありませんよ。た、例えば……、そう。……ええと。……頑丈!! 頑丈です!!
 仔猫さん、とっても頑丈じゃないですか!!」
「それは素敵な、と形容できるのかしら?」
「そこはほら、……脳内補完で」
「ダメじゃん」
「ダメッスか?」
「ダメね」
「ダメだな」
「……酷いッス」
 奈緒とヴォルフに同時にダメ出しされ、沈む仔猫。

「……さてと、小娘ども。そろそろバトルの時間だぜ、仕度しな」
「あら、もうそんな時間?」
「それじゃ八雲さん。バトル終わったらまた来るッス!!」
「はい、お待ちしておりますね」
 神姫とぷちを両肩に乗せ、出て行くときにすら仔猫は元気だった。
(……ふふふ。常に元気なだけでも充分じゃありませんか。仔猫さんはきっとそこが素敵なのですよ……)
 傍に居るだけで元気が出てくる。
 祖父以外、誰にも話した事のない刀匠としての決意、過去の清算を終えるまで、新たな作を造らないというそれを、あんな風に話せる日が来るとは彼女自身思っても居なかったのだ。
「……案外。仔猫さん達なら本当に、残りの7本を壊してくれるかもしれませんね……」
 根拠など全く無いが、それでも八雲はそう思えるのだった。


 最近の仔猫のお気に入りは、乱戦形式のバトルロイヤル。
 高速戦闘による撹乱を得意とする奈緒にとっては、一対一よりもむしろやり易い事が多い。
「それじゃあ二人とも準備は良いッスか?」
「ええ、いつも通り。問題は無いわ」
 そう答える奈緒は戦闘用の装備一式に身を包み、臨戦態勢を整えている。
 ……とは言え、その装備は他の平均的な神姫たちと比すれば、明らかに軽装だった。
 目立つ物といえば両肩の大型アーマー位で、その他はほぼ素体のまま。
 武器も肩アーマーに組み込まれているハンドガンの他は、手持ちのショートスピアしかない。
 加速用のスラスターを肩アーマーに組み込み、殆どの機能をそこに集約させているが故の軽装。
 見るものが見れば、敵の攻撃を回避しながら中距離まで近付き、一気に間合いを詰めて高速格闘戦に持ち込む為の装備だと分るかもしれない。
 巡航速度や装甲防御、汎用性を求めないのであれば、確かに大仰な重装備は不要。
 代わりに凄まじいまでの回避性能と攻撃速度が得られる。
 反応速度に長けるマオチャオにとっては、懐に飛び込んでさえしまえば、無類の強さを発揮する装備だ。
「……へへへ、俺と奈緒の愛の連携の前に、敵など居ないぜ?」
 そして、間合いに飛び込むまでの援護を担うのがヴォルフ。
 母機である奈緒に追従できるように、奈緒以上の機動力を持たされた中型のボディは普通のぷちより二周りは大きい。
 しかし、それを補って尚余りある機動性は、神姫といえどもそう簡単には捉えられない。
 武装こそミニバルカン二門と軽装だが、牽制だけが目的である以上過不足の無い選択だと言える。
「ま、ある程度は頼りにしてやるから、しくじるんじゃないわよ?」
「任せな。……俺無しでは居られない身体にしてやるぜ」
 くくく、と下品に笑う黒ぷち。
「……はぁ」
 コレさえなければ頼れる相棒なのに。
 などと思いつつ、奈緒が溜息を付いた直後、戦闘開始の合図が下った。



 奈緒の実力は、そう目立つほどの物ではない。
 ランクとしては中位の上下をふらつく辺りだ。
 戦法に融通が利かない以上、相手との相性による浮き沈みが激しいのがその原因だが、しかし、その一方で近接特化型の神姫を相手取った場合、彼女は上位級の神姫を相手にしても一歩も引かない実力を見せる。
 実力の上下を問わず、近接戦に自信を持っている神姫が彼女と相対した場合、すぐに戸惑いを覚えるだろう。
 それもそのはず。
「―――!?」
 近接型の神姫はほぼ例外なく、強力な打撃を武器とする。
 それは、一刀両断を狙った斬撃であったり、防御諸共押しつぶすような打撃であったり、或いは息もつかせぬ連続攻撃であったりと様々だが、その何れもが奈緒には殆ど通じない。
 格闘戦は強力であるが故に、対抗策も多く考案されているが、殆どのオーナーに共通する考えとしては、殴らせない事。
 それに尽きる。
 銃弾や砲弾は装甲で防げるし、かわす事もできる。
 だが、近接戦に特化した神姫の一撃は、鋼を穿つ事も、神速に到る事も決して珍しくは無い。
 それに対抗しうる技量が無いのならば、取りうる手段は只一つ。
 近寄らせない事だ。
 銃撃、砲撃、爆撃。
 あらゆる手段を行使して、徹底的なアウトレンジを仕掛ける。
 格闘に対する飛び道具の優位性を全面的に押し出す事こそ、唯一無二の対抗策だからだ。
 敵に攻撃の機会を与えなければ、決して敗れる事は無いのである。

 故に。

 近接型の神姫は、己が渾身の一撃を放つ瞬間、勝利を確信する。
 それは決して油断や慢心ではない。
 轟然たる一撃こそ彼女らの本懐であり、本領なのだ。
 それを放つと言う事は、それがそのまま自身の勝利に繋がる。
 必殺の威力を持ち、防御を穿つ鋭さを兼ね備え、不回避の速度で放たれるそれは、ありとあらゆる敵を打ち砕く。
 打ち砕けるからこそ、彼女たちは接近戦に全てを掛けるのだ。

 だから。

 それを放ちながら、尚、敵が存命している状況に戸惑わずには居られない。
 もちろん、それほどの域に到る神姫だ。
 その驚愕だけで致命的な隙をさらすような者は少ないが。
 だがしかし、そうでなくても自らの根源とも言うべき一撃を往なされてしまうという事実は、その神姫から明らかに精彩を奪う。

 後にあるオーナーは奈緒の戦闘スタイルを評してこう言った。
『あれだ。特殊タイプな敵のスタンドの特殊能力を打ち破って、本体にオラオラしたのに、スタンド能力とは無関係に本体が頑丈だったりして、倒せなかった時のジョジョの気分?』
 と。

 流石に平静で居られる神姫は居ないだろう。
 もし居るのなら、それはそもそも『近接戦に特化しよう』などとは考えない筈だ。
 近接戦に持ち込めば勝てる。
 その自信があるからこその近接特化。
 故に、それを打ち砕かれた時。ある意味では、奈緒の勝利が確定するのだ。

 ……とは言え。
 実力にあまりに大きな差がある場合はその限りではない。
 今日最初の相手はまさにそれだった。

「―――Ryyyyyyyyyyyyye!!」
 敵はカスタムタイプのストラーフ。
 只でさえ神姫の限界に迫るような腕力を誇るサブアーム、チーグルを更に二対増設した近接特化タイプ。
 厄介な事に、腕力に加えて従来のストラーフを遥かに凌ぐ敏捷性すら併せ持つ相手だった。
 近接格闘において無類とまで評される神姫は少なくないが、このストラーフは格別。
 この神姫センターでは知らないものは居ないほどの知名度と、それに相応しい実力と実績を持っている。
 普通に考えれば、中堅程度の実力でしかない奈緒など鎧袖一触で蹴散らされる相手だ。
 インレンジに踏み込んで10秒持てば奇跡と言うぐらいの実力差はあるが……。
「―――っ!!」
 奈緒は致命傷を避けながら、敵の攻撃を受け流す。
 矢継ぎ早に繰り出される腕6本と脚2本。
 その全てを槍で流し、ショルダーアーマーで弾き、或いは避ける。
 圧倒的な速さと手数に対応できる反応速度はマオチャオのそれ。
 しかし。歴然とした腕力差は、本来なら数合で勝敗を決するほどに開きがある。
 だから、奈緒は決してそれを『受け止め』はしない。
 受け止めてしまえば、その先は速さの関係ない力押しの鍔競り合いだけ。
 そうなれば奈緒には僅かな勝機すら残らない。
 ―――だが。
「Syaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
 奈緒は敵の攻撃を止める事無く受け流す。
 自らを叩き潰さんと振るわれる圧力を押し止めるのは無理でも、それに別のベクトルから力を加え、軌道を逸らす事ならば
不可能ではない。
 更には、目標を外れ、あらぬ方向へと流された四肢(こいつは八本あるが)はその勢いを失わない。
 失わずに、身体から離れてしまう。
 それはつまり、再攻撃を行うまでに短くない時間を要求するという事だ。
 その時間は確かに一瞬だが、ノーマルのストラーフなら、例え腕が4本あろうと致命的な隙が出来てしまう程に長い。
 手足合わせて8本と言う異形でなければいくらでも付け入る隙を作れたはずなのだが……。
『―――でも、このままじゃジリ貧ッスね……。ヴォルさん、どうにかならないッスか?』
「無理だなぁ、仔猫。……やつの装甲にぁ、俺の火器じゃ傷一つ付けられんぜ」
「それじゃ奈緒ちゃんに期待ッス!!」
「期待ッス!! ――じゃないわよ!? 何とかしなさい、オーナー&パートナー!!」
 半泣きで奈緒が叫ぶ。
 この状況が相当怖いらしい。
『とは言え、仔猫的にはどうしようもないッス』
「俺の場合、眼を狙うとか出来るかも知れんが……」
「じゃあ、やりなさいよ!?」
「いやぁ…。有効弾が出るよりも、間違って奈緒を誤射する可能性のほうが圧倒的に高くてな……」
 ヴォルフの火器は、ストラーフには通じなくても軽装の奈緒には充分な威力だ。
「確率的に99%ぐらいは奈緒に当たるぜ?」
『1%でも可能性があるなら、奈緒ちゃんの命、それに賭けるッス!!』
「人の命を勝手に賭けるな!! もっとこう現実的な数字の勝機を!!」
『なんかこの状況あれッスね。……ガトリングガンで弾幕張られて塹壕から出られなくなっちゃった前線歩兵?』
「ブロークンアロー(航空支援要請)って感じだな?」
「だから、早く、援護し、ろって、言って、る、でしょが!?」
「ああ、ゴメンそれ無理」
『ら(だ)そうッス!! ―――ぱりぱり』
 のんきに傍観する役立たずなチームメイト×2。
 仔猫にいたっては対戦台でポテチ喰ってる。
「ちくしょー、人事だと思ってのんきに構えやがって!!」
『だってこの状況、ぺき(←完璧の意)手詰まりッスよ? このさい都合よく落雷が敵さん直撃、とか無い限り―――』
 どがしゃぁん!!
『―――あ、落雷』
 奈緒の目の前で漆黒の巨体が一瞬硬直する。
 そして。
「ふふふ。強いのは分ったが、お主は隙だらけじゃな……」
 下から大きく振り上げられた『爪』に、見上げんばかりの巨躯が、浮く。
「なっ!?」
「―――轟け、轟雷刃(ごうらいじん)!!」
 稲妻を纏った一撃が、まさに落雷の威力をもって、空中に浮いたストラーフを地面まで叩きつけた。


「……ふん。絶対的な格闘能力があっても、複数目標に対応できなければこんな物か……。存外脆いわ……」
 白髪と蒼い双眸。
 全身が新雪のような純白の神姫は、倒れた悪魔型をそう評した。
「……ティグリース?」
 奈緒の呟きの通り、容姿は寅型神姫のそれ。
 ただし。装備は背面に格納されたサブアームを除けば、多少の装甲のみと言う軽装。
 そして何より、その色が白。
 白い寅型神姫は、それから初めて奈緒へと振り返る。
「……ふん、マオチャオか。……あの攻撃を凌いだ所を見れば腕に覚えはあるのじゃろう?」
「……どうかしら? 貴女が来なかったら今頃負けてたかもね……」
 警戒を崩さぬまま、半身に構える奈緒。
「構わん。雑魚であろうと大物であろうと、1は1じゃ。……手合わせ願おうか?」
「いいのね、仔猫?」
『どっちにしろ、逃してくれる気はなさそうッス!! 奈緒ちゃんの強さ、見せてやるッス!!』
「さっきボロクソにヤられたばかりだけどな。……くくく」
 本人より乗り気な、主とぷちが示した戦意に満足したのか、白虎は手にした曲刀を大きく振り上げる。
(さっきの稲妻。……あの剣か?)
 分類するならばそれは、ブロードソードに類する片手剣。
 威力と扱い易さのバランスを取ったタイプで、使い手次第で神速の一閃も、必殺の一撃もあり得る読みづらい武器だ。
 本来なら同様の威力と速度を持ち、なおかつ間合いの広いショートスピアを持つ奈緒が有利なのだが……。
(受け止めたら感電するかも……。触れるのも危険かしら……?)
 回避に徹した方が良いのかもしれないと思った直後。
「往くぞ」
 白虎が、一直線に飛び込んでくる。
(瞬発型か!? 回避は間に合わない!!)
 感電覚悟で、振るわれた刃をスピアで受け止める。
 先ほどのストラーフとは違い、白虎からは圧倒的なパワー差は感じられない。
 素早さが武器ならば、むしろ受け止めて速度を殺す方が有利。
「……くっ!!」
 刃を受け止めたままフロントキック。
 開いた左手で受け止められたものの、覚悟していた感電は無い。
(ならば!!)
 ショルダーユニットに内蔵したスラスターで加速。密着状態からの体当りで白虎を跳ね飛ばす。
「……行ける!!」
 消費エネルギーの問題か、あの剣は常時稲妻を纏っている訳ではないらしい。
 手元にそれらしいスイッチも確認出来た為、手動操作で帯電するのだろう。
(……なら、その操作を見逃さなければ良い!!)
 動体視力に優れた奈緒には造作も無い事だ。
 スラスターを吹かせたまま、体当りで開いた間合いを一気に詰め、その勢いでスピアを突き出す。
「―――チッ!!」
 その一撃をサブアームで受け止める白虎。
 だが。
(―――Bingo!! 片腕頂き!!)
 突進の威力が付加されたスピアは、その簡素な概観からは想像もつかぬほどの威力を叩き出す。
 分厚い装甲を貫通した一撃は、奈緒の狙い通りサブアームの機能を奪っていた。
「…………く」
 白虎の表情から余裕が消え、サブアームは火花を上げた後、待機状態に戻る。
「……ダメージ対策はしてるのね……。脱力したまま重りになってくれれば最高だったんだけど……」
「くくく。…油断するつもりは無かったのだが……、慢心と言うものは中々に忍び足が上手い……」
 愉快そうに声を震わせ、白虎は今度こそ剣を正眼に構え、稲妻を這わせた。
「……お主相手には名乗るとしよう、我が名は白幻(はくげん)。覚えておくが良い!!」
 そう吠えた後、踏み込んでくるのが、経験と勘で奈緒には分った。
 そしてもちろん、それを態々待つほど、彼女は酔狂ではない。
「―――ヴォルフ!!」
「おうよ!!」
 スピアの代わりにハンドガンの二丁拳銃で弾幕を張る。
 貫通性よりもMSP(man-stopping power)を重視したハンドガンは、同時に放たれたヴォルフのミニバルカンとあわせ、突破困難な弾幕を展開し、白虎の突進を阻む。

 筈だった。

「うぉお!?」
「ヴォルフ!?」
 突然、弾き出される様に前進した黒ぷちが白幻の刃に薙がれ、墜落する。
「……な、今の?」
 見間違えでないのなら、ヴォルフが自分から斬られに行った。
『ヴォルさん、一体どうしたッスか? なんか仔猫置いてきぼりで超バトル展開とかしないで欲しいッス!!』
「身も蓋も無い事言ってるんじゃ無いわよ、馬鹿マスター!! そっちから見て何か見えなかったの!?」
『得に何も見えなかったッス!! ヴォルさん遂にMっ気に目覚めたッスかね?』
「分らないなら黙ってなさい!!」
 奈緒は必至にハンドガンで弾幕を張って距離を取った。
「……おや、外したか……。本体を狙ったのだが、ぷちの方では意味がないのぅ……」
 距離が開いてしまえば連射性の低いハンドガンでは十全な弾幕は張れない。
 間合い開けての仕切りなおしを選択したのは、手の内が分らない奈緒には一瞬で勝負が決まりかねないインレンジは危険すぎるからだった。
(引き寄せた!? ワイヤーか何か? でも何も見えなかったし……)
 そもそも、何時ワイヤーを掛けられたと言うのだろう?
「……ヴォルフ、生きてる?」
「へっ、なんとかな……。火器管制が死んだんで、もう何も出来ないけどな……」
「アンタ、今何されたか分る?」
「さあな。……なんか引き寄せられた感じだったけどな」
(引き寄せられた?)
 確認を取ろうとしたが、それより早く白幻が飛び込んでくる。
「便利じゃが、狙いが少々甘いかのぅ……」
「……くっ!! 電撃付きか!?」
 今度の一撃は大きく飛びのいてかわす。
「ふん、逃げられると思うたか!?」
「なっ!?」
 飛び退いた速度がいきなり落ちて。
 そしてそのまま吸い寄せられる。
「―――切り裂け、旋風刃(せんぷうじん)!!」
 そして、見えない刃が四方八方から奈緒を襲った。
(……これは、カマイタチ!?)
 奈緒は空気の刃に弾かれ、吹き飛ばされる。
「……私が直撃を受けても耐えられた所を見れば、威力はそれ程でもないのだろうけど……」
 吸い寄せられ、動きは止められる。
「……本来は回避できなくしておいて、ヴォルフの時みたいに直接一刀両断って寸法かしら?」
「……それだけではない。ここまで耐えた褒美だ、見せてやろう儂の奥儀を……!!」
 吠えて、白幻は掲げるように頭上で剣を構えた。
「―――散るが良い、轟雷旋風刃!!」
 振るわれる刃から打ち出された光線。
 それが奈緒を直撃する―――。
「……まずっ!?」
 ―――直前。
「させるかよ」
 射線上に割り込んだ黒ぷち、ヴォルフが盾となり、その直撃を受ける。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ヴォルフ!!」
 おそらくは凝縮された電光だったのだろう。
 全身から煙を上げて、黒焦げになったぷちが今度こそ力を失い墜落する。
「ちょ、しっかりしなさいヴォルフ!!」
 無防備に駆け寄る奈緒。
 勝敗など忘れるほどに、今ヴォルフが受けた一撃はマズイ。
「……ふむ、これで決着か……」
 そう呟き、白幻もまた奈緒に興味を失いその場を去る。

 奈緒の頭上には、降伏を意味する『SURRENDER』の表示がホログラムされていた。


「八雲さん!! ヴォルさんを、ヴォルさんを助けて欲しいッス!!」
「仔猫さん?」
 突然飛び込んできた仔猫に面食らった八雲だが、彼女が手に乗せている黒ぷちを見て、全てを悟った。
「―――とにかくこちらへ。すぐに修理します!!」
 自身では神姫を持たぬアルバイトとは言え、八雲の神姫に対する造詣は深い。
 すぐにヴォルフが深刻な状態であると判断し、修理を開始した。

「ヴォルさん、しっかりするッス!! 死んじゃだめッス!!」
「……うぅ、……どうせなら、絶壁つるぺた哀れ胸の仔猫より、通好みのスタイルな奈緒に抱かれたい……」
「アンタ、もしかして案外余裕ある?」
「……いや、多分もうダメだろう……。動力部にまでダメージが来てやがる……」
「何言ってるッスか!? ヴォルさんは死なないッス!!」
「……へっ、悪いな、仔猫……。どうやら最後までは、奈緒を助けてはやれそうに、無い、ぜ……」
「っ、馬鹿!! そんなの如何でもいいから諦めるんじゃない!!」
 仔猫の掌の上で、ヴォルフに縋りつく奈緒。
「……良いんだ、奈緒。……惚れた女守って死ぬなんざ、俺、サイコーにカッコイーじゃねえか……」
 遠い目をして、ヴォルフは呟く。
「……へへへ、……お前らに抱かれて、逝け、る、なら……、俺の人生も、……悪く、無……、い……」
「ちょっと、馬鹿。冗談でしょ!?」
「ヴォルさん!? ヴォルさぁん!!」
「…………がくっ」
 そうして、ヴォルフは静かに眼を閉じた。
「……動力部、停止しました……」
 そう呟いた八雲の声は、仔猫と、そして多分、奈緒の鳴き声で掻き消され、聞こえなかった。

「……そんなに泣かないで下さい、仔猫さん」
「だって、だって……」
「…………」
 声にならない仔猫をそっと撫で、八雲は修理の為にヴォルフに繋いだコード類を引き抜き、その場を立ち去った。

 そして、店舗ブースを出て、ホールの中央にある巨大スクリーンを見たとき。
 今度こそ。
 全てを理解した。

「……あれは、白幻……。……そういう事、ですか……」
 先の戦闘のリプレイ。
 その画像の中に見慣れたティグリースを見つけ、そして。
「……これは、どうやら黙って見ている訳には行かないようですね……」
 草薙八雲は、掌の中にあるソレを見る。
「……手を、貸してもらいますよ……」
 彼女の呟いた“名”は、センターのざわめきに掻き消され、誰の耳にも届くことは無かった。



























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