「……さて」
ラストがまるで王子様のように、眠り姫に口づけするのを満足そうに眺めている、通称姉貴こと日暮秋奈。
「今回は引き上げるとしよう。……が、この後始末が面倒だな」
箱の中の惨状を眺め、やや面白おかしそうに、そして珍しくも僅かに困ったように呟く。
そこには上半身が露になり、汗と体液(といっても擬似的な組成だが)で全身がぐっしょりのまま気絶しているネメシスの姿があった。外からは耐水性を発揮する神姫用スーツも内側からの漏水などは想定外だったのか、ネメシスの恥ずかしい液で完全に水浸しになってしまっている。
「流石にこのまま帰しては、我が愚弟にドヤされかねんな。さりとて此方も時間は無い。
このまま編集部に持ち込むにはちと刺激が強い光景だしな。全く小娘にも困ったものだ」
尤も、その声からは、然程困ったようには見受けられない。むしろ手間の掛かるペットを躾ける事に楽しみを見出したような飼い主、そんな風ですらある。
「しょうがない。すまんがラスト、重いだろうが背負って……おや、あれは」
ふと公園の外へと視線を向ける姉貴。自分たちが先程通ってきた――エルゴへ続く道を歩いている1人の人間に目を留める。そこにいるのはサラリとした髪を肩口で切り揃えた、まだ美少女と美女の間の独特な柔らかさを持った女性。そして肩口には、ツヤのある青い髪をツインテールにまとめた、全高15cmの美少女がちょこんと鎮座している。
ラストがまるで王子様のように、眠り姫に口づけするのを満足そうに眺めている、通称姉貴こと日暮秋奈。
「今回は引き上げるとしよう。……が、この後始末が面倒だな」
箱の中の惨状を眺め、やや面白おかしそうに、そして珍しくも僅かに困ったように呟く。
そこには上半身が露になり、汗と体液(といっても擬似的な組成だが)で全身がぐっしょりのまま気絶しているネメシスの姿があった。外からは耐水性を発揮する神姫用スーツも内側からの漏水などは想定外だったのか、ネメシスの恥ずかしい液で完全に水浸しになってしまっている。
「流石にこのまま帰しては、我が愚弟にドヤされかねんな。さりとて此方も時間は無い。
このまま編集部に持ち込むにはちと刺激が強い光景だしな。全く小娘にも困ったものだ」
尤も、その声からは、然程困ったようには見受けられない。むしろ手間の掛かるペットを躾ける事に楽しみを見出したような飼い主、そんな風ですらある。
「しょうがない。すまんがラスト、重いだろうが背負って……おや、あれは」
ふと公園の外へと視線を向ける姉貴。自分たちが先程通ってきた――エルゴへ続く道を歩いている1人の人間に目を留める。そこにいるのはサラリとした髪を肩口で切り揃えた、まだ美少女と美女の間の独特な柔らかさを持った女性。そして肩口には、ツヤのある青い髪をツインテールにまとめた、全高15cmの美少女がちょこんと鎮座している。
「――ククク、それもまた面白いな。次の調教、アイツに任せようじゃないか」
それは正に、悪魔の笑い。そしてソレを受けたのも、また……悪魔だった。
~ネメシスの憂鬱 ファイルⅢ~
『1日目・夜』
「……ぅ……にゅ……」
それはまるで、マシュマロのような、とても気持ちいい感触。
ふにふにと指で押し込むように触れば、マイクロビーズ以上の極上の感触がその手に伝わってくる。まどろみの中、このままずっとふにふにと揉み続けていたい。そんな甘ったれな駄々っ子の気分になってくる。
「ぁ…………らぁ…………」
そう、この柔らかい感触はおっぱいだ。毎朝アキラの乳房に顔を埋めながら起きるのは、私の最高の贅沢。
「……にゅ?」
そこまで思いが至った時、急激な違和感を覚える。
そもそもアキラの乳房は……私が掌で覆いつくせるほど、それほど小さなものだっただろうか。確かに同年代の少女達の平均よりは少し……いやかなり貧相な乳房ではあるが、だからと言って15cmサイズの私が鷲掴みに出来るようなサイズではとてもない。つまりこれは……
「あらあら、ネメシスちゃんは随分と甘えん坊さんなのですね」
声が聞こえる。母性的な温かさを感じるが、それ以上にこの状況を面白く楽しんでいる、そんなような声が。
そして、この声に私は聞き覚えがあって……
それはまるで、マシュマロのような、とても気持ちいい感触。
ふにふにと指で押し込むように触れば、マイクロビーズ以上の極上の感触がその手に伝わってくる。まどろみの中、このままずっとふにふにと揉み続けていたい。そんな甘ったれな駄々っ子の気分になってくる。
「ぁ…………らぁ…………」
そう、この柔らかい感触はおっぱいだ。毎朝アキラの乳房に顔を埋めながら起きるのは、私の最高の贅沢。
「……にゅ?」
そこまで思いが至った時、急激な違和感を覚える。
そもそもアキラの乳房は……私が掌で覆いつくせるほど、それほど小さなものだっただろうか。確かに同年代の少女達の平均よりは少し……いやかなり貧相な乳房ではあるが、だからと言って15cmサイズの私が鷲掴みに出来るようなサイズではとてもない。つまりこれは……
「あらあら、ネメシスちゃんは随分と甘えん坊さんなのですね」
声が聞こえる。母性的な温かさを感じるが、それ以上にこの状況を面白く楽しんでいる、そんなような声が。
そして、この声に私は聞き覚えがあって……
「リ――――リン!!!!?」
「はい♪」
「はい♪」
がばっと顔を上げ、飛び起きた私を迎えたのは、私の顔が彼女の顔と触れ合うほど近距離でにっこりと笑う、悪魔……もとい、リンの姿だった。
「……ぇ、えぇとだな……何故リンが此処に……いやそもそもどうしてこんな状況に……」
思考がまとまらない。何故私とリンが1つ屋根の下でこんな状態で顔を突き合わせているのか、いやそもそも――
額から冷却液が噴出し、手のセンサーまでおかしくなったのか汗ばみ、思わず手に力が込められ……
「ぁん♪」
全く突然、急に甘い声を上げるリン。な、何が起きているんだこの空間は!?
「ネメシスちゃん、いくらおっぱいが愛しいからって、最初からそんなに強くしちゃ、ダメですよ?」
リンはうふと、とても魅惑的な表情と共に、そのままキスしてしまうのではないかと思うほどに顔を接近させてくる。いやそもそも彼女はさっきから何を言って……!?
「……ぁ」
考えが交錯し、また無意識のうちに手を握り締めようとして、今度こそ私も気付く。
私の手は、リンの乳房に触れて……いや、おもいきり揉みしだくように、はっきりとその指を、柔らかな乳房に沈み込ませ歪ませていた。
「――――こ、これは不慮の事故であって、決してやましい気持ちがあったわけではっ!!!」
手を離そうと慌てて身を起こそうとするが、このまるでリンにしなだれかかるようにして抱かれているような体勢では思うように力が入らない。それでも無理矢理に引っぺがそうとするが――
「あら、いいんですよ。寝てる間だってず~っと、私のおっぱいを愛しそうにちゅぱちゅぱしてたんですから」
「なぁっ!?!?」
等と爆弾発言と共に、自分の掌を私の手に重ね、もっと触ってとばかりに押し付けようとしてくる。
「わ……私はずっと……?」
「はい♪ 赤ちゃんみたいで可愛かったですよ。それにとってもお上手でしたし」
「っ!?ぁ!?!?!」
ぶしゅー!と頭から湯気が噴出する。比喩ではなく本当にそうなっている気がする。誰か助けて、むしろ殺して。
「ふふ、反応が毎回本当に可愛いですね、ネメシスちゃんは。
そんなに慌てなくても、状況は説明してあげますから、落ち着いてくださいね?」
ぎゅむ、と母親が子供をあやすみたいに、優しく包み込むように抱きしめてくるリン。私の顔はふくよかなリンの胸に埋もれてしまい、逆にもっと落ち着かないような……でも、そうでもない、ような。
「…………それで、何故私はこんな所でこんな状態になっているのか、説明していただけますか、リン」
努めて平静を装う。が、リン胸に抱かれたままの発言では滑稽極まりなく、些細な抵抗にすらならない。
「えぇとですね。お昼に茉莉と道を歩いていましたら、秋奈さん……店長のお姉さんですね、に呼び止められまして」
「フム……」
「そうしましたら、えっちな格好のまま気絶してるネメシスちゃんを渡されちゃいまして」
「なっ!?」
「後始末をしてくれと頼まれちゃいました。以上報告終わりです」
にっこりと語るリン。終わった……
「つまり私は……あの後……」
「イキまくって気絶しちゃったようですね?
ネメシスちゃん自身もスーツもグチョグチョで、人間だったら冷えてカゼひいちゃうんじゃないかってくらいでしたよ。
あ、安心してください。ちゃんと私が綺麗に拭いてあげましたから♪ スーツもお洗濯済みですよ」
最早言葉もなく、ガックリと崩れ落ちる。
自分の質問で、自分にトドメを刺した。しかも、一度ならず二度までも、リンに私の果てた姿を見られてしまった……
「私は気にしませんよ? それに一度はあんなに……ね」
惚と紅く染めてうっとりと此方を見つめてくるリン。その表情には非常に危ないものを感じるのは、気のせいだと信じたい。
「……それ以上言ったら怒りますよ。
所で今は何時ですか。結構な時間、眠っていたように思えるのですが」
此処でペースを握られては、またあのような事態になるかもしれない。流石にそれは出来る限り避けたい。
そのため私は必死に平静を取り戻そうと、出来るだけ強気な口調に出る。
「えぇと……、午前0時19分19秒ですね」
つい、と一瞬目を閉じてリンは応える。恐らくタイムサーバにアクセスして現在の時刻をダウンロードしてきたのだろう。
……よく考えなくても私も神姫である以上同じ行為が出来たのだが、この場合は会話の流れを変える事が出来たので良しとしよう。
「そうか、遅くまでお邪魔してしまったな。それでは今日はこれで失礼を――」
「嗚呼そうです、もう今日は遅いですし、泊まっていってくださいね。
先方の御宅には先程メールを送っておきましたので、今日はお泊りしても大丈夫ですよ」
にっこりと人の良さそうな笑顔を浮かべながら、私の帰宅の言葉を遮るリン。……甘かった。
「……ご好意感謝します。リン」
これも人生経験の差というものだろうか。すっかり私は逃げ場を失ってしまったようだ。だが……
「しかし、コレだけは先に言っておく。今回はお前と……その…………え、えっちな事は絶対しないからな!」
「――――はい。わかりました♪ 今日は私からは手を出しませんので、安心してくださいね」
リンはほんの一瞬何か呆けた表情になった後、微笑みと共に私の要望を受諾する。
「それじゃ……そうですね、私はもう少し起きていたいので、良ければお付き合い願えますか?」
リンはそれまで抱き締めていた私から離れると、この部屋の隅に設けられた神姫サイズの棚類を何や探り始めていた。
「……何を」
また前回のようなモノを持ち出すのではないかと、思わず声が硬くなり、身体が強張る。
だが振り返ったリンがその手にしていたのは違う物だった。
「いえ、せっかくなので一緒にお酒でも如何かと思いまして。……とっておき、開けちゃいますよ」
彼女が持っていたのは、1本の重厚なデザインのボトルと、2杯のクリスタルガラス製のグラス。
「……確かに、良い品のようですね」
ラベルをみやれば、それは神姫用ブランドとして一般酒造メーカーから販売されているモルト・ウィスキーの中でも、かなりの逸品の品だとわかる。確か完全予約制で注文してもなかなか入手できないような……
「頂いて、いいんですか?」
ゴクリと、喉が鳴る。
「えぇ♪ せっかくの機会ですし、お酒を飲みながら親交を深めましょう」
ウィスキーの口を開け、琥珀色の液体をトクトクとグラスに注いでゆく。途端に芳醇な芳香が私の鼻腔を擽り、私の気分も解き解されて開放されてゆくかのようだ。
「それじゃ……」
「私たちの出会いに」
ごく自然な手付きで、私にグラスを差し出すリン。私もそれを遠慮なく受け取り――
「「乾杯」」
間接照明の落ち着いた雰囲気の部屋の中、クリスタルガラスの奏でる透明な音がうっすらと木霊する。
思考がまとまらない。何故私とリンが1つ屋根の下でこんな状態で顔を突き合わせているのか、いやそもそも――
額から冷却液が噴出し、手のセンサーまでおかしくなったのか汗ばみ、思わず手に力が込められ……
「ぁん♪」
全く突然、急に甘い声を上げるリン。な、何が起きているんだこの空間は!?
「ネメシスちゃん、いくらおっぱいが愛しいからって、最初からそんなに強くしちゃ、ダメですよ?」
リンはうふと、とても魅惑的な表情と共に、そのままキスしてしまうのではないかと思うほどに顔を接近させてくる。いやそもそも彼女はさっきから何を言って……!?
「……ぁ」
考えが交錯し、また無意識のうちに手を握り締めようとして、今度こそ私も気付く。
私の手は、リンの乳房に触れて……いや、おもいきり揉みしだくように、はっきりとその指を、柔らかな乳房に沈み込ませ歪ませていた。
「――――こ、これは不慮の事故であって、決してやましい気持ちがあったわけではっ!!!」
手を離そうと慌てて身を起こそうとするが、このまるでリンにしなだれかかるようにして抱かれているような体勢では思うように力が入らない。それでも無理矢理に引っぺがそうとするが――
「あら、いいんですよ。寝てる間だってず~っと、私のおっぱいを愛しそうにちゅぱちゅぱしてたんですから」
「なぁっ!?!?」
等と爆弾発言と共に、自分の掌を私の手に重ね、もっと触ってとばかりに押し付けようとしてくる。
「わ……私はずっと……?」
「はい♪ 赤ちゃんみたいで可愛かったですよ。それにとってもお上手でしたし」
「っ!?ぁ!?!?!」
ぶしゅー!と頭から湯気が噴出する。比喩ではなく本当にそうなっている気がする。誰か助けて、むしろ殺して。
「ふふ、反応が毎回本当に可愛いですね、ネメシスちゃんは。
そんなに慌てなくても、状況は説明してあげますから、落ち着いてくださいね?」
ぎゅむ、と母親が子供をあやすみたいに、優しく包み込むように抱きしめてくるリン。私の顔はふくよかなリンの胸に埋もれてしまい、逆にもっと落ち着かないような……でも、そうでもない、ような。
「…………それで、何故私はこんな所でこんな状態になっているのか、説明していただけますか、リン」
努めて平静を装う。が、リン胸に抱かれたままの発言では滑稽極まりなく、些細な抵抗にすらならない。
「えぇとですね。お昼に茉莉と道を歩いていましたら、秋奈さん……店長のお姉さんですね、に呼び止められまして」
「フム……」
「そうしましたら、えっちな格好のまま気絶してるネメシスちゃんを渡されちゃいまして」
「なっ!?」
「後始末をしてくれと頼まれちゃいました。以上報告終わりです」
にっこりと語るリン。終わった……
「つまり私は……あの後……」
「イキまくって気絶しちゃったようですね?
ネメシスちゃん自身もスーツもグチョグチョで、人間だったら冷えてカゼひいちゃうんじゃないかってくらいでしたよ。
あ、安心してください。ちゃんと私が綺麗に拭いてあげましたから♪ スーツもお洗濯済みですよ」
最早言葉もなく、ガックリと崩れ落ちる。
自分の質問で、自分にトドメを刺した。しかも、一度ならず二度までも、リンに私の果てた姿を見られてしまった……
「私は気にしませんよ? それに一度はあんなに……ね」
惚と紅く染めてうっとりと此方を見つめてくるリン。その表情には非常に危ないものを感じるのは、気のせいだと信じたい。
「……それ以上言ったら怒りますよ。
所で今は何時ですか。結構な時間、眠っていたように思えるのですが」
此処でペースを握られては、またあのような事態になるかもしれない。流石にそれは出来る限り避けたい。
そのため私は必死に平静を取り戻そうと、出来るだけ強気な口調に出る。
「えぇと……、午前0時19分19秒ですね」
つい、と一瞬目を閉じてリンは応える。恐らくタイムサーバにアクセスして現在の時刻をダウンロードしてきたのだろう。
……よく考えなくても私も神姫である以上同じ行為が出来たのだが、この場合は会話の流れを変える事が出来たので良しとしよう。
「そうか、遅くまでお邪魔してしまったな。それでは今日はこれで失礼を――」
「嗚呼そうです、もう今日は遅いですし、泊まっていってくださいね。
先方の御宅には先程メールを送っておきましたので、今日はお泊りしても大丈夫ですよ」
にっこりと人の良さそうな笑顔を浮かべながら、私の帰宅の言葉を遮るリン。……甘かった。
「……ご好意感謝します。リン」
これも人生経験の差というものだろうか。すっかり私は逃げ場を失ってしまったようだ。だが……
「しかし、コレだけは先に言っておく。今回はお前と……その…………え、えっちな事は絶対しないからな!」
「――――はい。わかりました♪ 今日は私からは手を出しませんので、安心してくださいね」
リンはほんの一瞬何か呆けた表情になった後、微笑みと共に私の要望を受諾する。
「それじゃ……そうですね、私はもう少し起きていたいので、良ければお付き合い願えますか?」
リンはそれまで抱き締めていた私から離れると、この部屋の隅に設けられた神姫サイズの棚類を何や探り始めていた。
「……何を」
また前回のようなモノを持ち出すのではないかと、思わず声が硬くなり、身体が強張る。
だが振り返ったリンがその手にしていたのは違う物だった。
「いえ、せっかくなので一緒にお酒でも如何かと思いまして。……とっておき、開けちゃいますよ」
彼女が持っていたのは、1本の重厚なデザインのボトルと、2杯のクリスタルガラス製のグラス。
「……確かに、良い品のようですね」
ラベルをみやれば、それは神姫用ブランドとして一般酒造メーカーから販売されているモルト・ウィスキーの中でも、かなりの逸品の品だとわかる。確か完全予約制で注文してもなかなか入手できないような……
「頂いて、いいんですか?」
ゴクリと、喉が鳴る。
「えぇ♪ せっかくの機会ですし、お酒を飲みながら親交を深めましょう」
ウィスキーの口を開け、琥珀色の液体をトクトクとグラスに注いでゆく。途端に芳醇な芳香が私の鼻腔を擽り、私の気分も解き解されて開放されてゆくかのようだ。
「それじゃ……」
「私たちの出会いに」
ごく自然な手付きで、私にグラスを差し出すリン。私もそれを遠慮なく受け取り――
「「乾杯」」
間接照明の落ち着いた雰囲気の部屋の中、クリスタルガラスの奏でる透明な音がうっすらと木霊する。
「――それでは、リンはあの男性と結婚なさているのですか」
アルコールが体内に取り込まれ、機械による擬似的な再現とはいえほろ酔いになってくると、気分がほぐれてきた事もあり私とリンはだいぶ自然に言葉を交わすようになった。中でも私が驚いたのは、神姫のリンが人間である男性と結婚をしているという事実だった。
「はい♪ マスターは私の旦那様なんです。とても優しくて、強くて……私はとても幸せです」
うっとりと、陶酔するように言うリン。ベタ惚れというヤツのようである。
「……まぁでも、たまには2人きりでイチャイチャしないと思わなくもないんですけど」
お酒が入っている為か、感情のふり幅が大きいのか、今度は途端にやや哀しげ、いや拗ねたような表情になる。また、今の発言少し妙な事があるような。
「2人だからこそ、夫婦なのではないのですか?」
「嗚呼……いえ、マスターには人間の奥さんもいるんですよ」
「………!?」
神姫と結婚していて、人間とも結婚している。神姫が人間と結婚出切ると聞いた事もないが、この現代日本で一夫多妻制が認められているとも知らなかった。きっと何か深い特別な事情があるのだろうが、この世は私の知らない事が多すぎるようだ。
「茉莉と言うのですが……、嗚呼、私たちとても仲良しですよ。心配しないでください。
それで茉莉は明日朝ご飯を作ってあげなくてはいけないので、今日は早めに就寝したのですが、私はマスターに満足して貰える様な量の食事はとても作れないので、せめてマスターが残業から帰ってくるまで待ってお出迎えをして、『おかえりなさい』を言ってあげたいと思いまして。せめて今の自分に出来る、精一杯の事を」
例え神姫と人間という隔たりがあっても、相手を愛する事に隔たりはないのだろう。
「ちょっと……羨ましいかな」
「・・・」
中身が半分以下に減ったグラスに視線を落としながら、ポロリと素直な想いが、漏れる。
そして次に視線を上げたとき、不快そうなリンの表情が私の眼前まで迫っていて。
「あたっ!?」
そのまま額にデコピン。
私は不意の事に思わずバランスを崩し、前後にぐらぐらとその上半身を揺らす。
「羨ましいなんて言っちゃダメですよ。ネメシスちゃんには貴方にとって最高のマスターがいるじゃないですか。
だから羨ましいなんて言っちゃダメです。
むしろ私たちを羨ましがらせる位にラブラブでいる位の気持ちじゃないと、せっかくの幸せが逃げちゃいますよ?」
ぷぅ、と頬をコミカルに膨らませながらリンは言う。……確かに、その通りだ。
「わかりました。此れから貴方たち以上に幸せになってみます!」
「うん、いい返事ですよ。十倍返しもちゃんとしてあげましょうね、応援しますから」
「はいっ♪」
…………はて、私は十倍返しの事まで言っただろうか。酔いで既に少し記憶があやふやになっているのだろうか。
「あの、リン……」
その時、玄関の方からガチャガチャという鍵を開ける音が聞こえてきて、それが静かな室内に必要以上に響く。
「あ、マスターです。この足音は間違いありません」
見てる此方まで嬉しくなってきそうな笑顔をのリン。やがて彼女が見つめるガラスがモザイク状にはめ込まれたドアにゆらりと人影が見え、次の瞬間ガチャリとドアが開かれる。
「おかえりなさい、マスター」
「起きてたのか。ただいま、リン」
現れた男性は、リンのとびきりの笑顔に対して、自らも笑顔で応える。とても心温まる夫婦の光景がそこにあった。
「其方はネメシスちゃんだったね。こんばんは」
「こんばんわ、お邪魔しています」
それまでリンに向けられていた視線が、私に注がれる。優しそうな、包容力を感じさせる温かみのある瞳。
「いやいや、リンの友達なら大歓迎だよ。でもこんな遅くまで居て大丈夫なのかな?」
「えぇ、今日ネメシスちゃんはお泊りしていってくださるそうで。今も2人で晩酌をしていたところなんですよ」
彼の疑問に対して、私ではなくリンが答弁する。確かにその通りなのだが。
旦那を見つめた……私に背を向けたまま、リンは続ける。
「嗚呼、それとですね……言い忘れてた事があったんですけど――」
「あ、なんでしょうリン」
「それはですね」
その時私は、アルコールのせいで判断力が鈍っていた。その為にリンの口調の変化に気づくのが遅れて……
「ん!?」
「――んふ……ぅ」
次の瞬間、私は悪魔的な笑みを浮かべたリンに口づけを許してしまっていた。リンの言葉に反応する為に薄く開いていた私の唇に、まるで自意識をもったかのように艶かしく動くリンのチェリーピンクの舌が捻じ込まれ、私の口腔を犯してゆく。
「んぁ……はぅ……ん……んぐ……!?」
その直後、何かドロリとした液体がリンの口から私の中へと半ば無理矢理流し込まれてゆく。先程までのアルコールとは明らかに違う、鼻を吐く様な独特な匂いと味。口腔内を犯され、呼吸がくるしくなっていた私は思わずそれを嚥下してしまう。
「ふぁ……っ。リン一体何をっ!?」
私は彼女をおもいきり突き飛ばすようにして、リンを強引に引き離す。
「ふふ、実はもう1つ店長のお姉さんに頼まれた事がありましてね。
ネメシスちゃんを調教して欲しい、もしくは私たちの愛の形を見せ付けてやって欲しいと、言われたんですよ」
「なっ!?」
そこにいたのは、先程までの明るく可憐な少女の面影など微塵もない、妖しく艶やかで男を惑わす『女』としての顔を露にしている、1人の……そう、性欲と肉欲を欲する悪魔の姿だった。
アルコールが体内に取り込まれ、機械による擬似的な再現とはいえほろ酔いになってくると、気分がほぐれてきた事もあり私とリンはだいぶ自然に言葉を交わすようになった。中でも私が驚いたのは、神姫のリンが人間である男性と結婚をしているという事実だった。
「はい♪ マスターは私の旦那様なんです。とても優しくて、強くて……私はとても幸せです」
うっとりと、陶酔するように言うリン。ベタ惚れというヤツのようである。
「……まぁでも、たまには2人きりでイチャイチャしないと思わなくもないんですけど」
お酒が入っている為か、感情のふり幅が大きいのか、今度は途端にやや哀しげ、いや拗ねたような表情になる。また、今の発言少し妙な事があるような。
「2人だからこそ、夫婦なのではないのですか?」
「嗚呼……いえ、マスターには人間の奥さんもいるんですよ」
「………!?」
神姫と結婚していて、人間とも結婚している。神姫が人間と結婚出切ると聞いた事もないが、この現代日本で一夫多妻制が認められているとも知らなかった。きっと何か深い特別な事情があるのだろうが、この世は私の知らない事が多すぎるようだ。
「茉莉と言うのですが……、嗚呼、私たちとても仲良しですよ。心配しないでください。
それで茉莉は明日朝ご飯を作ってあげなくてはいけないので、今日は早めに就寝したのですが、私はマスターに満足して貰える様な量の食事はとても作れないので、せめてマスターが残業から帰ってくるまで待ってお出迎えをして、『おかえりなさい』を言ってあげたいと思いまして。せめて今の自分に出来る、精一杯の事を」
例え神姫と人間という隔たりがあっても、相手を愛する事に隔たりはないのだろう。
「ちょっと……羨ましいかな」
「・・・」
中身が半分以下に減ったグラスに視線を落としながら、ポロリと素直な想いが、漏れる。
そして次に視線を上げたとき、不快そうなリンの表情が私の眼前まで迫っていて。
「あたっ!?」
そのまま額にデコピン。
私は不意の事に思わずバランスを崩し、前後にぐらぐらとその上半身を揺らす。
「羨ましいなんて言っちゃダメですよ。ネメシスちゃんには貴方にとって最高のマスターがいるじゃないですか。
だから羨ましいなんて言っちゃダメです。
むしろ私たちを羨ましがらせる位にラブラブでいる位の気持ちじゃないと、せっかくの幸せが逃げちゃいますよ?」
ぷぅ、と頬をコミカルに膨らませながらリンは言う。……確かに、その通りだ。
「わかりました。此れから貴方たち以上に幸せになってみます!」
「うん、いい返事ですよ。十倍返しもちゃんとしてあげましょうね、応援しますから」
「はいっ♪」
…………はて、私は十倍返しの事まで言っただろうか。酔いで既に少し記憶があやふやになっているのだろうか。
「あの、リン……」
その時、玄関の方からガチャガチャという鍵を開ける音が聞こえてきて、それが静かな室内に必要以上に響く。
「あ、マスターです。この足音は間違いありません」
見てる此方まで嬉しくなってきそうな笑顔をのリン。やがて彼女が見つめるガラスがモザイク状にはめ込まれたドアにゆらりと人影が見え、次の瞬間ガチャリとドアが開かれる。
「おかえりなさい、マスター」
「起きてたのか。ただいま、リン」
現れた男性は、リンのとびきりの笑顔に対して、自らも笑顔で応える。とても心温まる夫婦の光景がそこにあった。
「其方はネメシスちゃんだったね。こんばんは」
「こんばんわ、お邪魔しています」
それまでリンに向けられていた視線が、私に注がれる。優しそうな、包容力を感じさせる温かみのある瞳。
「いやいや、リンの友達なら大歓迎だよ。でもこんな遅くまで居て大丈夫なのかな?」
「えぇ、今日ネメシスちゃんはお泊りしていってくださるそうで。今も2人で晩酌をしていたところなんですよ」
彼の疑問に対して、私ではなくリンが答弁する。確かにその通りなのだが。
旦那を見つめた……私に背を向けたまま、リンは続ける。
「嗚呼、それとですね……言い忘れてた事があったんですけど――」
「あ、なんでしょうリン」
「それはですね」
その時私は、アルコールのせいで判断力が鈍っていた。その為にリンの口調の変化に気づくのが遅れて……
「ん!?」
「――んふ……ぅ」
次の瞬間、私は悪魔的な笑みを浮かべたリンに口づけを許してしまっていた。リンの言葉に反応する為に薄く開いていた私の唇に、まるで自意識をもったかのように艶かしく動くリンのチェリーピンクの舌が捻じ込まれ、私の口腔を犯してゆく。
「んぁ……はぅ……ん……んぐ……!?」
その直後、何かドロリとした液体がリンの口から私の中へと半ば無理矢理流し込まれてゆく。先程までのアルコールとは明らかに違う、鼻を吐く様な独特な匂いと味。口腔内を犯され、呼吸がくるしくなっていた私は思わずそれを嚥下してしまう。
「ふぁ……っ。リン一体何をっ!?」
私は彼女をおもいきり突き飛ばすようにして、リンを強引に引き離す。
「ふふ、実はもう1つ店長のお姉さんに頼まれた事がありましてね。
ネメシスちゃんを調教して欲しい、もしくは私たちの愛の形を見せ付けてやって欲しいと、言われたんですよ」
「なっ!?」
そこにいたのは、先程までの明るく可憐な少女の面影など微塵もない、妖しく艶やかで男を惑わす『女』としての顔を露にしている、1人の……そう、性欲と肉欲を欲する悪魔の姿だった。