薄暗い空から、霧のように、音を立てずに降り注ぐ雨。
普通の雨より静かなだけに、なんだか不気味にも見える。
ぼくにレイニーブルーなんてものがあったなら、こんな雨で憂鬱になったりするのだろうか。
普通の雨より静かなだけに、なんだか不気味にも見える。
ぼくにレイニーブルーなんてものがあったなら、こんな雨で憂鬱になったりするのだろうか。
―――そもそも神姫にレイニーブルーってあるのかな?
少し派手目な装飾の入ったデスクから、少し遠い窓の向こう側を眺めてみる。
舞い散るように霧雨が降りしきるのみ。
舞い散るように霧雨が降りしきるのみ。
―――面白くもなんともない。
いつもなら、マスターと他愛無い話したり、装備のの点検やらトレーニングやらするんだけど。
現に、今はマスターが最近自ら組み付けた試作型のユニットを装着している。
白いスカルヘッドの側頭部から生える、真っ黒な蝙蝠のような翼。下アゴから伸びた尻尾、先端にはカギ爪つき。
その中身は機動補助用のフロートとクイックブースターのみ。一応翼は稼動するし、表面は防弾処理がなされてる素材らしいけど。
アラストルとは真逆の軽装装備。
バッテリーの消耗テストも兼ねて、ずっと着けっぱなしで居る。
現に、今はマスターが最近自ら組み付けた試作型のユニットを装着している。
白いスカルヘッドの側頭部から生える、真っ黒な蝙蝠のような翼。下アゴから伸びた尻尾、先端にはカギ爪つき。
その中身は機動補助用のフロートとクイックブースターのみ。一応翼は稼動するし、表面は防弾処理がなされてる素材らしいけど。
アラストルとは真逆の軽装装備。
バッテリーの消耗テストも兼ねて、ずっと着けっぱなしで居る。
鏡に写るぼくは、正にといった、ステレオタイプの悪魔な外見。
―――これくらいシンプルなほうがいいな。
おもむろに、スピーカーの横に立てかけてある斬破刀を取り、鞘から抜く。
磨き上げられた日本刀独特の、水のような輝き。
仮想敵など頭に描かず、ただただ、その場で振るう。
縦に一閃。ただそれだけ。
鋭く風を斬る音。薄い雨雲のに覆われた空の、弱い光が、刀身に反射する。
磨き上げられた日本刀独特の、水のような輝き。
仮想敵など頭に描かず、ただただ、その場で振るう。
縦に一閃。ただそれだけ。
鋭く風を斬る音。薄い雨雲のに覆われた空の、弱い光が、刀身に反射する。
―――剣豪、どっかにいないかなぁ……やたら剣の強いヤツ。
転がしておいた鞘を尻尾で絡め取り、剣を納める。
「どうしよう……かな」
ふと、ベッドがあるほうへ目を向けた。
デスクのすぐ隣に配されている、一人用にしてはやたらと大きいベッド。
デスクと同じような、またちょっとハデめな装飾の施されたそれが視界に入る。
「どうしよう……かな」
ふと、ベッドがあるほうへ目を向けた。
デスクのすぐ隣に配されている、一人用にしてはやたらと大きいベッド。
デスクと同じような、またちょっとハデめな装飾の施されたそれが視界に入る。
白いシーツの上に、白と黒い塊が一つ。もぞもぞとたまに動いたりする。
「……どうしようか、なぁ……」
「……どうしようか、なぁ……」
早い話が、マスターがお昼寝中なのでヒマなだけなんだけど。
神姫が昼寝しても……充電まだいらないしなぁ……。
どうしようかと、斬破を肩でトントンと叩きながら考えてみる。
剣振り回しててもいいんだけど、それもなぁ……実戦じゃあまり使う機会ないし。
アラストルを使ってるとこんな風に使えないのが、ちょっとだけ悔しい。
どうしようかと、斬破を肩でトントンと叩きながら考えてみる。
剣振り回しててもいいんだけど、それもなぁ……実戦じゃあまり使う機会ないし。
アラストルを使ってるとこんな風に使えないのが、ちょっとだけ悔しい。
「……ん……」
マスター、起きた?
「…んん……」
だがそんなことはなかったぜ。
マスター、起きた?
「…んん……」
だがそんなことはなかったぜ。
―――寝返り打っただけだった。
向こうを向いてたマスターは、今の寝返りでこっち向きになった。
それだけ、なんだけど。
向こうを向いてたマスターは、今の寝返りでこっち向きになった。
それだけ、なんだけど。
マスターの寝顔がこちらに向いてる。
普段の、不敵な表情からは想像もできない、柔らかな寝顔。
それに吸い寄せられるかのように、ぼくは、ベッドのほうへ。
フロートを起動させて、翼をはためかせてベッドへ飛ぶ。マスターのそばで、ゆっくりと着地。
足元から感じるふわりとしたベッドの感触と、体に感じる、吐息。
先ほどよりも大きく眼に写るマスターの寝顔と、縮こまるように添えられた両手。
普段の、不敵な表情からは想像もできない、柔らかな寝顔。
それに吸い寄せられるかのように、ぼくは、ベッドのほうへ。
フロートを起動させて、翼をはためかせてベッドへ飛ぶ。マスターのそばで、ゆっくりと着地。
足元から感じるふわりとしたベッドの感触と、体に感じる、吐息。
先ほどよりも大きく眼に写るマスターの寝顔と、縮こまるように添えられた両手。
なんとなく、ぼくはマスターの指に触れてみた。
人差し指に、自らの指先を合わせてみる。
暖かい、人肌。
ただそれだけなのに、ぼくの中の何かはさらに、熱く昂ぶっている。
指先から、掌全体で指に触れる。
さっきよりも大きく感じる、暖かさと柔らかさ。
暖かい、人肌。
ただそれだけなのに、ぼくの中の何かはさらに、熱く昂ぶっている。
指先から、掌全体で指に触れる。
さっきよりも大きく感じる、暖かさと柔らかさ。
―――今度は両手で。
触れたままの右手をそのままに、左手の掌で、マスターの指先を包むように。
ふわふわと、弾力のある皮膚。その下の、筋肉と骨格の硬さ
ただそれだけなんだけど、ぼくはそれがとても特別な何かのように感じてしまう。
ただの指先なのに。
ふわふわと、弾力のある皮膚。その下の、筋肉と骨格の硬さ
ただそれだけなんだけど、ぼくはそれがとても特別な何かのように感じてしまう。
ただの指先なのに。
―――これじゃ足りない。手だけなんかじゃ足りない。もっと、もっと触れたい。感じてみたい。
体中に熱が篭っている。
胸の辺りうずまいてるもやもやした、なにか。
ここに心臓があったのなら、激しい動悸に襲われていると、思う。
闘いの時の高揚感とは全く違う、湧き上がる感情。
その抑えきれない何かに衝き動かされて、身体が勝手に動いていく。
性質の悪いウィルスにでもかかったみたいに、身体も、心も制御できない。
胸の辺りうずまいてるもやもやした、なにか。
ここに心臓があったのなら、激しい動悸に襲われていると、思う。
闘いの時の高揚感とは全く違う、湧き上がる感情。
その抑えきれない何かに衝き動かされて、身体が勝手に動いていく。
性質の悪いウィルスにでもかかったみたいに、身体も、心も制御できない。
頭の中のなにかが、プツンと落ちた。
マスターの人差し指から一度、両手を離し、掌へ乗って、指の腹側へ。
今度は両腕で抱え込む。
今度は両腕で抱え込む。
抱きしめられた指がぴくん、と一瞬、指が動いたけど、それを気に留めずぼくの異常行動は続く。
腕の力を弱め、体を少しだけ離して、目前の指先に唇を当てる。
そのまま口を少しだけ開いて、舌先を指に触れさせた。
腕の力を弱め、体を少しだけ離して、目前の指先に唇を当てる。
そのまま口を少しだけ開いて、舌先を指に触れさせた。
ちょっと、しょっぱい。
舌で円を描くように、また、先のほうにしゃぶりつくように、ぼくはマスターの指を味わう。
「は、む……ん……」
ざらっと、指紋の感触。それも心地良い。
潤滑剤を兼ねた唾液で、べとついたそれを。
浅ましく、獣が得物を貪るように。
キスして、這わせて、舐めて、吸って。
壊れたように、狂ったように。
激しく、愛おしく。
「は、む……ん……」
ざらっと、指紋の感触。それも心地良い。
潤滑剤を兼ねた唾液で、べとついたそれを。
浅ましく、獣が得物を貪るように。
キスして、這わせて、舐めて、吸って。
壊れたように、狂ったように。
激しく、愛おしく。
―――もっと、もっと、もっと、もっと。
「んむ……ん……」
マスターの寝息。
―――欲しい。全部欲しい。マスターの全部……マスターだけが、欲しい。
粘つく水音。
―――好き、好き……好き。
自分が何をしているか、なんて自覚なんか無い。
次々と込み上げてくる激しい流れに、ぼくは身を任せているだけ。
オーバーロードしてると言ってもいい。
それほどに、身体が、思考が思い通りにならない。
いや、思い通りにならないんじゃない。きっと、思い通りになりすぎているんだ。
ぼくの好きが、暴走してる。
次々と込み上げてくる激しい流れに、ぼくは身を任せているだけ。
オーバーロードしてると言ってもいい。
それほどに、身体が、思考が思い通りにならない。
いや、思い通りにならないんじゃない。きっと、思い通りになりすぎているんだ。
ぼくの好きが、暴走してる。
指の腹をついばみ、第一関節をなぞり、指先を甘く噛む。
身体を強く押し付けて、擦りあげるようにくねらせて。
身体を強く押し付けて、擦りあげるようにくねらせて。
もし、この行為でマスターの眼が覚めたら。
ぼくのこの痴態を、マスターが見たら。
ぼくのこの痴態を、マスターが見たら。
そういう恐怖もある。あるはず。捨てられるかも、リセットされるかも、恐怖感が苛むこともある。
ずっとずっと一緒にいたけど、マスターにとって、ぼくは家族だから。
ささいなことから変わってしまう関係だって、この世界にはザラ。
……それでも身体が止まらない。
それならなおさら、深く味わいたい。まるで開き直り。
矛盾だらけの思考回路。
ずっとずっと一緒にいたけど、マスターにとって、ぼくは家族だから。
ささいなことから変わってしまう関係だって、この世界にはザラ。
……それでも身体が止まらない。
それならなおさら、深く味わいたい。まるで開き直り。
矛盾だらけの思考回路。
―――流石に、壊れちゃったのかもしれない。
自分の主人にこんなことをしていいわけがないのに。
このキモチが、伝わるわけは無いのに。
神姫とオーナーの関係で、同性同士で、こんな異常な感情。
このキモチが、伝わるわけは無いのに。
神姫とオーナーの関係で、同性同士で、こんな異常な感情。
愛おしさと、狂おしさと、恐怖と、空虚と。
いろんなものが混ざり合ってる。
いろんなものが混ざり合ってる。
―――壊れてしまいたい、狂ってしまいたい。
そうなれれば、どれだけラクになれるだろう。
そうなれれば、きっとぼくは―――
そうなれれば、どれだけラクになれるだろう。
そうなれれば、きっとぼくは―――
「……だい、すき……マスター……」
やっと、熱が醒めて、身体が落ち着いたときには、霧雨だったはずの雨が強くなっていた。
ぼくの今の気持ちが、空に映ったようだった。