「勝ったぞ、マイスター。」
「よし、戦略どおり。じゃあ、今日は帰るか。」
アクセスポットから出てきたムルメルティア――メルト――の報告に答えると俺―水上龍矢―はメインボードとサイドボードの武装をバックにつめる。
オフィシャルバトルには初参戦、とはいえ他のMMSバトルゲームにも参加していた経験と、時間帯がよかったのか不慣れなオーナーと神姫にあたったおかげで勝利を収められた。
手を差し出し、胸ポケットに入れてやる。
「よう、龍矢。いきなり5連勝かよ。すげーな。」
出口に向かっていた俺に話しかける同年代の男、三石浩二と言いバイト仲間でもあり俺の友人だ。
なんでこいつとバトルをしなかったかと言えば、浩二のほうから断ってきた。理由は初戦で浩二の神姫と同型のマオチャオを一撃で倒してしまったかららしい。
「戦略で対抗できる相手に恵まれただけだ。運だよこれは。」
「私の実力は無視か!」
「その戦略を組めるだけでもすげーよ。うちのタマッチの戦略も今度組んでくれ!たのむ。」
手を合わせて頼んでくる浩二。
「タマッチというか、ネコ型マオチャオは基本近接戦、マスターの戦術、戦略よりも神姫の戦闘能力で勝敗は左右される。だから、俺の出番はない。」
これは断る口実だったりする。接近戦が得意ならその戦場を用意できる戦術を組めばいい。俺の苦手分野だから断り続けているがどうにも引き下がってくれない。
「どうしようタマッチぃ。龍矢に見放されたら。タマッチのねこみみ買ってやれないよぉぉぉ。」
大げさなリアクションで胸ポケットで様子を見ていたネコ型のタマッチに話しかける浩二。
「ご主人様!ねこみみは付けないと何度いったら納得してくれるんですかにゃ?語尾に〝にゃ〟つけるだけでも恥ずかしいのに!」
いちゃつき始めた二人をおいて俺は自宅に戻る事にした。こうなったらしばらく騒がしいしこの二人。
自宅と言ってもそう広くないマンションだ。親父が昔宝くじで当てた金で別荘代わりとなぜか購入した1DK、そこで一人暮らしをしている。
メルトをクレイドルに乗せ。データの交換を済ませると俺は寝る事にした。
初参戦で徹夜で戦略を組んだ疲れがここに来て一気に出てきて結構フラフラだ、髪を縛っていたゴム紐をとき、何とか着替えだけ済ます。
チラッと見ればメルトも不慣れなバトルで疲れたのか、スリープモードになっている。
「お休み。」
それだけ言って、俺の意識は睡魔に奪われた。