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注意

本作は 神姫破壊描写 ・18禁描写・反社会的な設定がされております。
神姫破壊描写 ・退廃的・ダークな設定などが嫌いな方は、見ないようにしていただけると幸いです。




















フラグメント 03

 聞こえてきた音に、男は突っ伏していた机の上、ゆっくりと身を持ち上げる。
 目覚ましでも、チャイムの音でもない。
 机の傍らに投げてあった、携帯電話の振動音だ。
 薄暗がりの部屋の中。こんな夜中に誰だと思いつつ壁掛けの時計に目をやれば、時刻はまだ夕方だった。明かりがないのは、携帯の六十四分で刻む震音の合間、外から聞こえてくるさらさらという音のせいらしい。
 外は、雨。
 ならば遊びの誘いでもないはずだ。もっとも、男の携帯の番号を知る者はほとんどおらず、さらに言えば遊びの誘いをしてくるような友人に至っては、もっといないはずなのだけれど。
 三十コールを超えても、携帯の振動は止まらない。
 しばらくは仕事絡みの電話もないはずだった。それとも、至急の要件なのだろうか。
 そう考えれば無視するのも忍びなく、ようやく、ピアノブラックのそれを取り上げる。
 盛大に指紋の擦りつけられた漆黒のパネルの中央部。明滅を繰り返す背面液晶に表示されているのは、見覚えのない携帯番号だった。
 仕事先ではない。
 間違いか。
 はたまた、悪戯か。
 二十一世紀も四半世紀を過ぎたというのに、いまさらオレオレ詐欺というのも考えにくいが……一周回ってその可能性も、無きにしもあらず。
 振動の反復は、五十巡目を超えた。
 内蔵された振動素子は、止まる気配が見当たらない。
 男はため息を一つ吐き、ワンアクションで折りたたみのそれを開くと、通話ボタンを軽く押す。
 見覚えのない番号表示は、通話中の三文字に置き換わり……。
「…………もしも……」
 し、までは続かない。
「助け……て……っ……」
 軽いノリのオレオレでも、冷徹な事務員の顔を装った詐欺師でも、仕事や友達からの電話でもなく。
 今週に入って初めての仕事をこなした通話用スピーカーが放ったのは、嗚咽混じりの少女の声だ。
「………お前」
 知らぬ番号。
 泣きじゃくる少女。
 普段なら、悪戯かと呟き、即座に終話ボタンを押しただろう。
 けれど、男はそれをしなかった。
 聞き覚えが、あったからだ。
 さらに言えば、その電話から彼に向けて電話の掛かってくるという可能性も。
「どこだ」
 ひと言だけ呟き。
 男は玄関に置いてあった傘を引っ掴むと、要領を得ない返答を聞くよりも速く、暗がりの部屋を飛び出した。


 往来を抜け。
 角を曲がり、さらにもう一つ角を曲がれば。
 そこにあるのは、大都会の空白だった。
 側の溝には雨水混じりの排水が流れ、無造作に並べられた室外機の群れは室内の淀んだ空気を好き勝手に吐き出し続けている。
 降りしきる雨は棄てられたビニール袋を気ままに叩き、時折谷間に吹く春の風が、濡れそぼった男の身体を容赦なく冷やしていく。
 大都会の真ん中で。
 そこにいるのは、男たった一人だけ。
 道一本隔てた幹線道路には、無数の車と往来があるはずなのに……今のその裏路地の支配者は、間違いなくこの男だった。
「……電池が……っ」
 電話が掛かってこない日常が災いした。
 無情なバッテリーアラートに舌打ちをして、男は役目を果たさなくなった携帯をポケットへ放り込む。防水モデルではないはずなのに、雨の中で頑張ってくれたことは……今は考える余裕もない。
 路地を駆け抜け、さらに角をひとつ曲がり。
 突き当たった先に…………。
 いた。
「あ…………」
 濃灰色に染まるコンクリートの上、濡れて冷たいそこに血の気を失った頬を落としたまま。焦点の定まらない瞳で男を力なく見上げてくるのは……一糸まとわぬ、一人の少女だった。
 細身の裸身も、流れる髪も、降りしきる雨に嬲られるままに。少女はその場に身を横たえて、胎児のように丸まったまま。
 耳元には、最後の力を振り絞って掛けたのだろう。通話終了と表示された携帯が、ツーツーと無機質な音を流すだけ。
「たす……け、て…………」
 半開きの青い唇がかすれた声を紡ぎ出し、口の端に付いていた白い濁りが頬をどろりと滑り落ちていく。
 よくよく見れば濃灰色のコンクリートにも、少女の肢体から吐き出され、流れ落ちた白い濁液の筋がいくつも刻み込まれていた。
 春の雨とはいえ、まだ冷たい。
 けれど唯一の救いは、それが少女に吐き出された欲望のたぎりを洗い流してくれたこと、だろうか。
「だから、言っただろ……。ほどほどにしとけって」
 呟き、男は少女の元へ。
「あたし……より…………」
「分かってる」
 身を屈め、そっと手を伸ばすのは、少女ではなく。
 少女が面識など無いに等しい男に助けを求め、今だその姿勢を解かぬ訳のほう。
「……酷いな」
 乱暴に揉みしだかれた乳房には赤い痕が残り、下腹は大量に注ぎ込まれた精の所為だろうか、軽く膨らんでいるようにさえ見えた。
 もちろん、雨を防ぐように全身で覆い隠しているそこは、塗し付けられた白い濁りが洗い流される事もなく。
「ね…え………」
 けれどそれさえも、少女にとっては取るに足りぬこと。
 大切なのは、その内にある……。
 身長十五センチの、ひしゃげた肢体。
 少女の裸身を赤く腫れ上がらせ、欲望のままに振るわれた暴虐が、叩きつけられた最初の結果。
 猫のようにしなやかで、犬のように頑丈とされる人工の身体も、自身の身のこなしが加わってこそのもの。圧倒的な暴力で固いコンクリートに打ち付けられれば、その強度はプラスチックのそれとさして変わりない。
 故に彼女も、関節はあらぬ方向に曲がり、胸は潰れ、内部構造が半ば露わになっている。端整な頭部などは頭蓋が砕け、片方の瞳は転がり落ちて失われていた。
 明らかに、人ならば生きてはいない致命傷。
 人、ならば。
 けれど、十五センチの『彼女』は、人ではない。
 もしかしたら。
 万が一にも。
 奇跡的に。
 そんな藁にもすがる言葉を億千も脳裏に思い描いたからこそ、少女は犯し抜かれた己が身を顧みず、そのひしゃげた肢体を降りしきる雨から守り続け、助けを呼んだのだ。
「……ともかく、俺の家に来い。ここじゃ、どうにもならん」
 男はポケットに入っていたハンカチに、少女が全てを賭けて護ったそれを包み、取り上げて。
 気を失った少女を抱き上げると、辺りに散らかされた彼女の服を、拾い集め始めるのだった。


 それは、いつも通りの光景のはずだった。
 少女は街の片隅で客の欲望を受け止めてやり、代わりに幾ばくかの代価を頂戴する。こんな若い肢体でそこらの店では出来ないようなサービスまでしてやるのだから、少々の心付けは遠慮無く請求させてもらったが……それはまあ、ご愛敬というものだ。
 もちろん危ない橋を渡っているのは分かっていたから、客選びには慎重を期していた。ハズレの予感がする客の前には姿を見せなかったし、仮にそんな客に声を掛けられても知らんぷりを押し通した。
 本来なら取り締まられるべき法律を盾にすれば、わずかでも良心の呵責のある客は大人しく引き下がったし、事の後ならなおさらの事だ。
 それに少々の難癖を付けるお客には、心強い小さな用心棒もいたから……………。

 油断、していたのかもしれない。
 いや、油断していた。

 首筋に押し当てられた冷たい鉄を意にも介さず、そいつは力任せにその身体を振り払ったのだ。

 きっとそいつは知っていたのだろう。
 アシモフ・プロテクトを施された神姫が、人間に危害を与える事は出来ないという事を。突きつけられた冷たい鋼が、ナイフなどではなく、ただの鉄片だった事を。

 十五センチの小さな肢体が、身長差十二倍、体積で言えば千七百倍の本気の暴虐に抗えるはずもなく。
 コンクリートに叩きつけられ。文字通り砕け散った相棒に悲鳴を上げる少女に、そいつは悠々とのしかかって……………。


 意識を取り戻したのは、耳をつんざく高い音のせい。
 それが自身の悲鳴だと気付いたのは、辺りに静寂が戻ってからのことだ。
 いや、完全な静寂ではなかった。
 聞こえるのは、チンチンと鳴るけたたましくも不快ではない音。
 身を冷やす雨音でも、怖気の来る男の吠え声でもない。
 見上げれば、雨を防ぐ天井。
 見回せば、板張りのがらんとした部屋には少女の布団がひと組と、机とテーブルがやはりひと組。後は部屋の中央、小さなやかんが掛けられた寸胴の物体があるだけだ。
 明かりの点いていないこの部屋で、唯一の照明も兼ねているそれは……。
「………ストーブ?」
 電気式でも、ファンヒーターでもない。もはや電器屋の片隅にも置かれなくなって久しい、灯油式のものだ。
 もちろん少女がそれを目にしたのも、初めてである。

 少女は掛けられていた毛布を無意識に手繰り寄せ、そこで初めて自身が裸のままである事に気が付いた。
「…………」
 穢らわしい白の濁りは、綺麗に拭い去られていた。全身に刻まれた赤い腫れは流石に引いていなかったが、視界に入れなければ不快の痕は残っていない。
 チンチンという音の響く部屋に、覚えはない。
 記憶がまだ混濁しているのだろうか……と思った、その時だ。
「……ああ、起きたのか」
 開くドアの音と共に、男の声。
「身体、勝手に拭かせてもらったぞ。風呂ももうちょっとしたら沸くから、傷の手当てはその後で……」
 その声で、全ての記憶が覚醒した。
「あなた……っ!」
 毛布を蹴り、男の元へと走り寄る。もちろん裸だった事など頭の中には既になかったし、そんな事はどうでも良かった。
「あたしの…………!」
 相棒。
 大切な相棒の、姿がない。
 儚く砕け、ひしゃげた……その姿さえも。
「どうした……の……」
 その事を一気にまくし立てようとして、細身の裸身が膝からがくりと崩折れた。
 逸る心に身体が追いついていないのだが、それが少女に分かろうはずもない。そもそも分かるための余裕もなかった。
「……そっちが先か」
 崩れる裸身をそっと抱きとめ、男は静かにその身体を布団の上へ戻してやる。
「まあ待て。順を追って、話してやるから」


 ストーブで湧いたお湯を、マグカップの中へそっと注ぎ入れながら。
「あんたの相棒は、修理中だよ」
 二つのカップをかき混ぜてやれば、がらんとした板張りの部屋に漂い始めるのは苦みを含んだ柔らかな香り。
 自身のものはクリームだけを。少女のぶんは砂糖を二つ入れ。男は少女に大きなマグカップをそっと手渡そうとして。
「…………治る、の?」
 受け取る気配のない事に、苦笑い。
 もっとも今渡したところで、そのまま中身を布団の上にぶちまけてしまっただろうが。
「治して欲しくなかったか?」
 少女のぶんのカップをテーブルに戻しながらの男の言葉に、少女はふるふると首を振る。
「けど、身体……バラバラになってたのよ?」
 身長十五センチの少女……神姫は、当然ながら人間ではない。機械部品を使った、古い言葉で言う『ロボット』である以上、手足の破損程度ならいくらでも修理する事が出来る。
 だが、中枢部分は別だ。
 神姫は中枢、即ち頭部コアユニットと、性格を定めるCSC、そしてそれらを繋ぐ素体……基板部分の三つが合わさる事で、自らの個性を作り出す。逆を言えばこのどれかが欠落すれば、その神姫は自らの個性を失う事となる。
 それは、人ならぬ神姫にとっての死と同義。
 その事は、どんな駆け出しの神姫オーナーだって知っているはずなのに。
「基板が壊れたら、いくら神姫だって………」
 コンクリートに打ち付けられた彼女の胸部装甲はひび割れ、砕け散っていたはずだ。仮に三つのCSCは無事だったとしても、基板まで無事だったとはとても思えない。
 さらに言えば、三つの部品は不可分だ。一度解体し、組み直した所で……同じ心と想いを持った神姫が蘇るわけではないはずなのに。
「頭部コアとCSCは無事だった。そこが無事ならまあ、何とかな」
 それを、目の前の男は何とかなるという。
「信じて……いいの?」
 信じられようはずもない。
 それが本当なら、今までの神姫の常識は根底から覆される事となる。
「調整があるから、明日までかかるがな。いいか?」
 だが……少女は。
「…………」
 男の言葉に、こっくりと首を縦に振った。
 基板を失った神姫は、戻っては来ない。
 それが戻ってくるという。
 そんな都市伝説と言えるような話を、簡単に信じられるはずもなかった。
 けれど、信じてみたいと……もう一度相棒の笑顔が見られる可能性があるなら、信じてみてもいいと……そうも、思ったのだ。
 せめて、明日までくらいなら。
 そこでそれが嘘と分かれば、それまでの事だ。
「なら、次は俺の番だ」
 少女が落ち着いたのを確かめて、男は再びコーヒーの入ったマグカップを少女にそっと差し出した。
 今度は少女もちゃんと受け取って、琥珀色の液体を口へと運ぶ。
「……小遣い稼ぎなら、もうやめるわよ。真面目にバイトする」
 今までだって、相棒の維持費を稼ぐためにしていただけなのだ。その行為自体が相棒を危機に陥れるとなれば、本末転倒である。
 それにもし相棒がいなくなったなら、続ける意味はなおのこと無い。
「別に説教したくて助けたんじゃねえよ」
 そう切り捨てて、男はコーヒーをもう一杯。
 半ばまでお湯を入れた所でやかんが妙に軽いことに気付き、カップの半ばまでしかお湯が入ってないまま、やかんをストーブの上へと戻す。
「なら、修理代? ちゃんとバイトして返すわよ。……いつになるか分かんないけど」
 もともと金を貯めるために仕事をしていたわけではないのだ。蓄えがなくなれば小銭稼ぎに出るといったスタイルだったから、修理代の蓄えなどあるはずもない。
「それも違う」
 カップの中はお湯半分。濃度が倍のコーヒーをしげしげと眺め、クリームを多めに入れてひと口。
 男はそのまま顔をしかめ、カップをテーブルに戻した。
「……修理代のかわりに抱きたいっていうなら、それでもいいわよ。あの子を助けてくれるんなら、どんなプレイでも文句言わないから」
 胸元に手繰り寄せていた毛布をはらりとずらし、少女は男を上目遣いに見上げてみせる。
 以前男に抱かれた時も、それほど悪くはなかったし……口にした言葉は、紛れもない本当の気持ちだった。
「ちがうっつの」
 ストーブだけの明かりの中。ほの紅く染まる少女の裸身を目にしても、男は顔色ひとつ変える様子がない。
 一度抱いたと言うことは、趣味ではないという事はないのだろうが。
「お前……何で俺の所に電話してきた?」
 確かに以前会ったとき、連絡先を教えたのは男の側だ。けれど、これだけの非常時に頼る連絡先にしては、あまりにも不確かで頼りなさ過ぎるのではないか。
「………家族にかけろって言うの?」
 こちらを見上げる瞳の昏さに、男は思わず息を呑む。
「言わねえよ。けど、もうちょっと信頼できそうな知り合いくらいいるだろ」
 馴染みか、同業者か。
 少なくとも、一度抱かれただけの男よりは……頼りになる者が、一人くらいは……。
「そんなの……いないわよ。ずっとあの子と二人でやってきたんだし」
「だからって……」
「いないのっ!」
 がらんとした部屋に響き渡る声は、驚くほどに大きかった。
「……この仕事のこと知ってて、連絡先知ってるの……あなただけだったのよ。悪かったって思ってるわよ」
 それに自身が驚いたのだろう。少女の声からは憑き物が取れたかのように棘が落ち、トーンも落ち込んだ様子に。
「じゃ、俺が神姫絡みの仕事してるってのは……」
 そう言いかけて、彼女の元に残してきた連絡先には、自らの仕事先を書いていなかった事に気が付いた。
「……そんなの知らないわよ。センターにでも連れてってくれれば十分だったのに」
 ならばそれこそ、少女が男に掛けてきた電話は、万に一つどころか兆、京に一つの可能性に掛けていただけではないか。
「そっか。だから、あの子が治せるって言ったのね」
「まあ、その辺はちょっと違うんだがな」
 基板が砕けた神姫は、けっして元には戻らない。
 それは、神姫マスター達の常識だ。
 神姫マスターだけではない。神姫センター、いや、神姫を開発しているメーカーでさえ、その常識はやはり揺るぎない常識であるに違いない。
 それは間違いのない真実で、非情な現実だった。
 それこそ、京に一つの可能性を除いて。
「その辺りは企業秘密だ」
 不思議そうな顔をしている少女に、そのひと言で誤魔化しておいて。
「落ち着いたら、まず風呂に入ってこい。終わったら傷の手当て、するからな」





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