別にどうという事も無い
70年前の国民的アニメで、永遠の小学生達が遊んでいた様な、時代に取り残された空き地が、丘の上にぽつんとあった
だがそこは彼女達にとってだけ、聖地であった
「闘いに呪われ、闘いに祝福された存在」彼女の目指す/彼女の嫌う偉大な女王ならば、そう表現しただろう身長15センチの戦女神・・・武装神姫・・・彼女達こそ、2030年代に生まれた人類数千年の願望の結晶であった
70年前の国民的アニメで、永遠の小学生達が遊んでいた様な、時代に取り残された空き地が、丘の上にぽつんとあった
だがそこは彼女達にとってだけ、聖地であった
「闘いに呪われ、闘いに祝福された存在」彼女の目指す/彼女の嫌う偉大な女王ならば、そう表現しただろう身長15センチの戦女神・・・武装神姫・・・彼女達こそ、2030年代に生まれた人類数千年の願望の結晶であった
「リライト」
本来の武装を一切装備せず、ヴァッフェバニーのブーツといくつかの銃器、短いが幅広の剣のみで武装した軽装のストラーフ・・・「ニビル」だった
砂埃を巻き上げる風に、マントがはためく
腰に差した拳銃はダブルアクションのリボルバー・・・いつでも抜き放ち、発砲する事は出来る
待ち人はなかなか来ない。元来気の長い「たち」では無い彼女にとって、この数分、否数十秒、否々数瞬はひたすら焦れる
砂埃を巻き上げる風に、マントがはためく
腰に差した拳銃はダブルアクションのリボルバー・・・いつでも抜き放ち、発砲する事は出来る
待ち人はなかなか来ない。元来気の長い「たち」では無い彼女にとって、この数分、否数十秒、否々数瞬はひたすら焦れる
紅い・・・
甲冑姿の紅緒が太刀を履いて現れる
草もまばらなむき出しの地面に、その姿は異様に映えた
『・・・待たせたな・・・装備を探すのに手間取った』
ニビルは感情を顔に表さなかった
襟が口元を隠す・・・同じ風で、紅緒のポニーテールも流れた
『始めようか・・・私達の勝負を』
ただその一言、それを聞く為だけにこうして待っていた気さえした
ゆっくり頷く
これからようやく始まる、二人の闘いの為に・・・
甲冑姿の紅緒が太刀を履いて現れる
草もまばらなむき出しの地面に、その姿は異様に映えた
『・・・待たせたな・・・装備を探すのに手間取った』
ニビルは感情を顔に表さなかった
襟が口元を隠す・・・同じ風で、紅緒のポニーテールも流れた
『始めようか・・・私達の勝負を』
ただその一言、それを聞く為だけにこうして待っていた気さえした
ゆっくり頷く
これからようやく始まる、二人の闘いの為に・・・
晴天の下に白刃が閃く
綺麗な弧状の残影を引き摺りながら舞ったそれはしかし、苦も無く、神姫の体にはやや幅広な片刃剣によってブロックされる
ならば、と刀身同士が噛み合った場所を支点に跳躍(注1)。ニビルの背面を取る
「へぇ!」
感嘆の声をもらすニビル・・・くそっ余裕かまされてる
着地と同時に大地を蹴り疾駆。太刀は肩の高さで切先を背側に流し、地面に水平に構える
懐に飛び込んで絶句。マントを被ったままの癖に振り返りが速過ぎる
「はああああああっ!!」
勢いを殺さず(殺せず)突撃。ニビルの左手がヒップホルスターのコンバットナイフを抜き放つ
空気を薙ぎ斬る様な猛撃。だが交差法だ、私の太刀がナイフの刀身を断つ
飛び込めたと感じた瞬間、ニビルが恐ろしい速さで身を引く。背面には大口径ライフル・・・間合いを取られるととても困る
「かなり動けるようにはなったけど、まだまだ荒いわね華墨!喰らいなさいな!!」
強烈な爆音を無数に響かせながら、スケールメートル(注2)レベルで.30口径のバトルライフル(注3)を乱射するニビル、間合いを調整すべく走る私・・・が、装甲は無残に削り取られ、一発が太刀の刀身を掠め、中ほどからへし折る
「おぉっ!?」
呻きながら後方に跳躍・・・私の跳躍力は普通の武装神姫のそれを大きく上回る
着地点すれすれに3発着弾、被弾を免れたのは運以外の何者でもない
綺麗な弧状の残影を引き摺りながら舞ったそれはしかし、苦も無く、神姫の体にはやや幅広な片刃剣によってブロックされる
ならば、と刀身同士が噛み合った場所を支点に跳躍(注1)。ニビルの背面を取る
「へぇ!」
感嘆の声をもらすニビル・・・くそっ余裕かまされてる
着地と同時に大地を蹴り疾駆。太刀は肩の高さで切先を背側に流し、地面に水平に構える
懐に飛び込んで絶句。マントを被ったままの癖に振り返りが速過ぎる
「はああああああっ!!」
勢いを殺さず(殺せず)突撃。ニビルの左手がヒップホルスターのコンバットナイフを抜き放つ
空気を薙ぎ斬る様な猛撃。だが交差法だ、私の太刀がナイフの刀身を断つ
飛び込めたと感じた瞬間、ニビルが恐ろしい速さで身を引く。背面には大口径ライフル・・・間合いを取られるととても困る
「かなり動けるようにはなったけど、まだまだ荒いわね華墨!喰らいなさいな!!」
強烈な爆音を無数に響かせながら、スケールメートル(注2)レベルで.30口径のバトルライフル(注3)を乱射するニビル、間合いを調整すべく走る私・・・が、装甲は無残に削り取られ、一発が太刀の刀身を掠め、中ほどからへし折る
「おぉっ!?」
呻きながら後方に跳躍・・・私の跳躍力は普通の武装神姫のそれを大きく上回る
着地点すれすれに3発着弾、被弾を免れたのは運以外の何者でもない
判ってはいたが・・・流石に手強い・・・!!
懐かしい軽口の聞こえない戦場で、私は貧弱なコバットプルーフから状況打開に努めた
ばきんばきんばきんばきん!!
硬い音が連鎖、ハンドスプリングで二回後転しつつ、凶暴な神姫用マグナム弾のあぎとから逃れる
(太刀なし・・・相手は防弾マント・・・きついな)
流石に何時迄も回避し続けられるものではない。華墨の軽業は動きこそ速いものの、何度も見せれば当然容易に軌道を読まれ、見切られ易い
腰に残った脇差は、決め手に使う事が多い武器ではあるが、主力にするには頼り無さ過ぎる
(まして技量差を埋める程の装甲の優位も無い・・・)
華墨自身が、どちらかというと装甲など飛び道具相手に間合いを詰める数瞬もてば良いと割り切るタイプだったので、重装甲を纏っていたのは彼女の少ない戦闘経験の中ですらごく初期の間だけだった
彼女が今迄闘って来た環境では、サイフォスの重装甲形態もかくやという重装甲主義者がごろごろ居た事もあって、むしろ装甲には頼れないと言ってさえ良かった
(いっそ無手で格闘戦にもちこむか?)
あまり実戦で試した事は無いが、多分それなりに腕力もある方だと推察出来た為、脇差と短機関銃の二択よりは幾分「まし」に思えた
(やって見るしかないな)
焦れたニビルが剣を構えて突っかけて来る。赤熱した刀身から充分推察出来る破壊力を、わざわざ体で浴びる程華墨はマゾヒズムに目覚めている訳でも無かった
『はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
振り下ろされる熱化剣、それをホールドしたニビルの左拳に集中力を注ぎ、脇差を抜くそぶりを見せた左手はそのままに、右拳を突然繰り出す
『!?』
直前に察知して拳を引くニビルその右手の人差し指が短銃身のリボルバー(注4)の引き金を絞るより迅く、華墨の左手の白刃が閃く!!
(太刀なし・・・相手は防弾マント・・・きついな)
流石に何時迄も回避し続けられるものではない。華墨の軽業は動きこそ速いものの、何度も見せれば当然容易に軌道を読まれ、見切られ易い
腰に残った脇差は、決め手に使う事が多い武器ではあるが、主力にするには頼り無さ過ぎる
(まして技量差を埋める程の装甲の優位も無い・・・)
華墨自身が、どちらかというと装甲など飛び道具相手に間合いを詰める数瞬もてば良いと割り切るタイプだったので、重装甲を纏っていたのは彼女の少ない戦闘経験の中ですらごく初期の間だけだった
彼女が今迄闘って来た環境では、サイフォスの重装甲形態もかくやという重装甲主義者がごろごろ居た事もあって、むしろ装甲には頼れないと言ってさえ良かった
(いっそ無手で格闘戦にもちこむか?)
あまり実戦で試した事は無いが、多分それなりに腕力もある方だと推察出来た為、脇差と短機関銃の二択よりは幾分「まし」に思えた
(やって見るしかないな)
焦れたニビルが剣を構えて突っかけて来る。赤熱した刀身から充分推察出来る破壊力を、わざわざ体で浴びる程華墨はマゾヒズムに目覚めている訳でも無かった
『はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
振り下ろされる熱化剣、それをホールドしたニビルの左拳に集中力を注ぎ、脇差を抜くそぶりを見せた左手はそのままに、右拳を突然繰り出す
『!?』
直前に察知して拳を引くニビルその右手の人差し指が短銃身のリボルバー(注4)の引き金を絞るより迅く、華墨の左手の白刃が閃く!!
びきいいいいいぃぃぃん!!・・・と
異様に響く金属音を周囲に響かせながらニビルの剣がへし折れる
同時に発砲される銃弾、銃弾・・・!
「そうそう何度もお気に入りをぶっ壊されてたまるモンですか!!」
降り注ぐ痛みは、私の身体機能が壊れていく事の証左、この闘いがバーチャルで無い事の証
そして、飛び散る鮮血は私が「普通の武装神姫」で無い事の、この上なく雄弁な自己紹介であった
「ぐっ・・・ああぁっ!!!」
慣れる事は出来ない、鉄の味
慣れる事は出来ない、死の感覚
だが、私はこんな闘いを、既に九度、繰り返していた
即ち、既に数度、普通の神姫や、人間であれば「死んで」いる程の重症を経験していた
私の体に図らずも宿ってしまった「オーバーロード」「Gアーム」「呪われた蟲毒」であるところの異能力「ギガンティス」が、私の肉体(そう表現して良いなら)を文字通り「身長15cmの人間」にし、さらにそこに、無限ともいえる自己修復能力と不死性を付与したからだ
最早私は、厳密には「武装神姫」というカテゴリからは外れた存在になりつつあり、この体では公式戦に出る事は不可能だろう
だが
否、むしろだからこそ
私は「槙縞ランキング」(注5)に情熱を注ごうと決めていた
バーチャルバトルが主体の「槙縞ランキング」ならば、私の肉体的特長は問題にならない
何よりも、あそこには私が
私と『マスター』が求めた最強の女王
「クイントス」が居るからだ
異様に響く金属音を周囲に響かせながらニビルの剣がへし折れる
同時に発砲される銃弾、銃弾・・・!
「そうそう何度もお気に入りをぶっ壊されてたまるモンですか!!」
降り注ぐ痛みは、私の身体機能が壊れていく事の証左、この闘いがバーチャルで無い事の証
そして、飛び散る鮮血は私が「普通の武装神姫」で無い事の、この上なく雄弁な自己紹介であった
「ぐっ・・・ああぁっ!!!」
慣れる事は出来ない、鉄の味
慣れる事は出来ない、死の感覚
だが、私はこんな闘いを、既に九度、繰り返していた
即ち、既に数度、普通の神姫や、人間であれば「死んで」いる程の重症を経験していた
私の体に図らずも宿ってしまった「オーバーロード」「Gアーム」「呪われた蟲毒」であるところの異能力「ギガンティス」が、私の肉体(そう表現して良いなら)を文字通り「身長15cmの人間」にし、さらにそこに、無限ともいえる自己修復能力と不死性を付与したからだ
最早私は、厳密には「武装神姫」というカテゴリからは外れた存在になりつつあり、この体では公式戦に出る事は不可能だろう
だが
否、むしろだからこそ
私は「槙縞ランキング」(注5)に情熱を注ごうと決めていた
バーチャルバトルが主体の「槙縞ランキング」ならば、私の肉体的特長は問題にならない
何よりも、あそこには私が
私と『マスター』が求めた最強の女王
「クイントス」が居るからだ
「また私の勝ちね・・・これで10戦8勝2分けかしら?」
無様に地べたに這い蹲る私を覗き込む紅い双眸
「・・・そうだな・・・今回は・・・いけると思ったんだが・・・な」
「猫跳びの後着地が一瞬もたついたからだろうね」
急にマスターの声がかかって周りを見渡す
居なくなってしまった私の『マスター』佐鳴武士に代わって、半ば強引な手段で私を自身の神姫とした(してくれた)等身大ストラー(違)神浦 琥珀・・・
「ただいま華墨・・・その分じゃ随分立ち直ったみたいだね」
「いつまでへばってんのよ!雑魚みたいに!!そんな傷さっさと治して、今日は琥珀に剣打ってもらうんでしょ?」
やかましくまくしたてるジルダリア「エルギール」に急き立てられて、私はしぶしぶ立ち上がる
言われる通り、既に傷は消えつつあった
「じゃあ今日はここまでね。今日の戦績はしっかり記録しとくからね」
言いつつ、ニビルはトレードマークの赤い靴に履き替えて、その場を後にしようとする
「あ・・・!待って」
口には出さず、なに?という視線だけ此方にめぐらす彼女の仕草に、思わず胸が高鳴る
「・・・ありがとう・・・付き合ってくれて。まだ本格的に復帰出来るかどうかは判らないけど・・・ニビルと闘った事は忘れないから・・・!!」
しどろもどろな私に、ニビルは高飛車な笑みで返し、最初に会った時と同じ様な台詞でこう返すのだった
「ヌルのマスターであると同時に槙縞ランキング2位(注5)のランカーとして貴女の帰還を祝わせて貰うわ」
「私はニビル。〈神の星〉暗黒星ニビルよ。槙縞ランキングへお帰りなさい、華墨!」
無様に地べたに這い蹲る私を覗き込む紅い双眸
「・・・そうだな・・・今回は・・・いけると思ったんだが・・・な」
「猫跳びの後着地が一瞬もたついたからだろうね」
急にマスターの声がかかって周りを見渡す
居なくなってしまった私の『マスター』佐鳴武士に代わって、半ば強引な手段で私を自身の神姫とした(してくれた)等身大ストラー(違)神浦 琥珀・・・
「ただいま華墨・・・その分じゃ随分立ち直ったみたいだね」
「いつまでへばってんのよ!雑魚みたいに!!そんな傷さっさと治して、今日は琥珀に剣打ってもらうんでしょ?」
やかましくまくしたてるジルダリア「エルギール」に急き立てられて、私はしぶしぶ立ち上がる
言われる通り、既に傷は消えつつあった
「じゃあ今日はここまでね。今日の戦績はしっかり記録しとくからね」
言いつつ、ニビルはトレードマークの赤い靴に履き替えて、その場を後にしようとする
「あ・・・!待って」
口には出さず、なに?という視線だけ此方にめぐらす彼女の仕草に、思わず胸が高鳴る
「・・・ありがとう・・・付き合ってくれて。まだ本格的に復帰出来るかどうかは判らないけど・・・ニビルと闘った事は忘れないから・・・!!」
しどろもどろな私に、ニビルは高飛車な笑みで返し、最初に会った時と同じ様な台詞でこう返すのだった
「ヌルのマスターであると同時に槙縞ランキング2位(注5)のランカーとして貴女の帰還を祝わせて貰うわ」
「私はニビル。〈神の星〉暗黒星ニビルよ。槙縞ランキングへお帰りなさい、華墨!」
注1.鳳凰杯編Ⅰ 「蒼い翼」参照。因みにクイントスはこの動きを「猫」或いは「猫跳び」と呼んでいる。
軽業以外の何者でもない動きだが、運動能力が体長に吊り合っていない神姫ならではのコンバットトリックとして有用であろう事は想像に難くない
注2.戦う神姫は好きですかより。今回は特に有効に機能してくれる
注3.アサルトライフルの中でも、米国がNATOライフル弾としてゴリ押しした結果、フルオート火器には不向きと判っているのに大口径で過剰威力の7.62mm×51弾を採用させられた不幸なものがいくつかある。そういったものの中には名銃と呼ぶに相応しいものも存在し、ファンは悔恨の念も込めてこう呼ぶ。今回ニビルが使用したのはFN社のFAL。装弾数20発、速射ピッチ秒間10.8発の代物で、フルオートで使うには余りにも不向き・・・の神姫スケール仕様(長い)
注4.ニビルは常時、メインハンドガンとは別に一挺の小型ハンドガン、一挺の超小型(デリンジャー等の様な)拳銃をバックアップとして装備している。今回のバックアップはM66の2.5inバレル仕様・・・の神姫スケール仕様
注5.この後、前回の上位戦で闘わなかった強豪ランカーと闘って、すぐにランクを8位迄落としている(笑)
軽業以外の何者でもない動きだが、運動能力が体長に吊り合っていない神姫ならではのコンバットトリックとして有用であろう事は想像に難くない
注2.戦う神姫は好きですかより。今回は特に有効に機能してくれる
注3.アサルトライフルの中でも、米国がNATOライフル弾としてゴリ押しした結果、フルオート火器には不向きと判っているのに大口径で過剰威力の7.62mm×51弾を採用させられた不幸なものがいくつかある。そういったものの中には名銃と呼ぶに相応しいものも存在し、ファンは悔恨の念も込めてこう呼ぶ。今回ニビルが使用したのはFN社のFAL。装弾数20発、速射ピッチ秒間10.8発の代物で、フルオートで使うには余りにも不向き・・・の神姫スケール仕様(長い)
注4.ニビルは常時、メインハンドガンとは別に一挺の小型ハンドガン、一挺の超小型(デリンジャー等の様な)拳銃をバックアップとして装備している。今回のバックアップはM66の2.5inバレル仕様・・・の神姫スケール仕様
注5.この後、前回の上位戦で闘わなかった強豪ランカーと闘って、すぐにランクを8位迄落としている(笑)