「・・・よくやった。今は休め」
「はい。・・・流石に少々疲れました」
筐体から出てきた彩女に対して記四季は優しくいう。
彩女はそれに肯くと、記四季の手に導かれセンター内に設置されたレンタルクレイドルの上で丸くなる。彼女にしては珍しく全く警戒していない。
その隣ではハウが同じように丸くなって寝ていた。ヴァーチャルバトルではいかなる負傷を負うとも、現実の素体には何の影響も無い。その代わりに“心”が疲れるらしく、バッテリーもまだ充分に残っているにも拘らずよく寝ている。
記四季はレンタルクレイドルに空いたスリットに、ハウの分も一緒にコインを入れておく。
「・・・・・・ったく。イヌ科の奴らってのは一生懸命だよ・・・」
自身の胸を押さえながら記四季は言う。
関節痛に食欲の減退、そして頭痛や脱力感。いずれも肺がんの初期症状である。彼は随分前からこの症状に悩まされていた。
・・・・・・・そして、それを隠し続けてきた。
「・・・あと、三日か」
もはや症状は隠しきれなくなりつつある。
普段は鋼の意志で押さえ続けて来た病魔も、流石に無視できなくなってきた。
だが・・・
「明後日までは・・・まぁ持つ・・・か」
「はい。・・・流石に少々疲れました」
筐体から出てきた彩女に対して記四季は優しくいう。
彩女はそれに肯くと、記四季の手に導かれセンター内に設置されたレンタルクレイドルの上で丸くなる。彼女にしては珍しく全く警戒していない。
その隣ではハウが同じように丸くなって寝ていた。ヴァーチャルバトルではいかなる負傷を負うとも、現実の素体には何の影響も無い。その代わりに“心”が疲れるらしく、バッテリーもまだ充分に残っているにも拘らずよく寝ている。
記四季はレンタルクレイドルに空いたスリットに、ハウの分も一緒にコインを入れておく。
「・・・・・・ったく。イヌ科の奴らってのは一生懸命だよ・・・」
自身の胸を押さえながら記四季は言う。
関節痛に食欲の減退、そして頭痛や脱力感。いずれも肺がんの初期症状である。彼は随分前からこの症状に悩まされていた。
・・・・・・・そして、それを隠し続けてきた。
「・・・あと、三日か」
もはや症状は隠しきれなくなりつつある。
普段は鋼の意志で押さえ続けて来た病魔も、流石に無視できなくなってきた。
だが・・・
「明後日までは・・・まぁ持つ・・・か」
ホワイトファング・ハウリングソウル
第二十八話
『序曲』
レンタルクレイドルのそばに椅子に腰掛け、記四季は麦茶を飲んでいた。
・・・飲んでいたのだが
「畜生! どう考えても卑怯だなん!! 何で筐体の中にセンター最強の二人が紛れ込んでるのだ!!」
「・・・仕方ないじゃない。だってそれが仕事なのよ」
「まぁ良いではないか猫よ。我等は職務をこなしただけなのだ」
怒っているマイの傍には、なぜかジャンヌとルシフェルがいた。
二人とも武装したままである。というか彼女達にとってその武装した状態こそが普段着であるようだ。器用に羽を畳んでニトロジェリーを飲んだり羽の手入れをしたりしていた。
「・・・お姉ちゃんの仕業でしょ。この二人」
「その通り。だってネイキッドのゾンビ軍団じゃつまらなかったんだもの。一回ノワールにやらせたら蹴散らしまくってあっさりゴールしたし。・・・まぁ結果としてボスキャラは必要ってことがわかったからよしとしよう。・・・遊んで金になるバイトって素晴らしいな」
都はそういって心底楽しそうに笑う。
その様子を少し呆れた顔でノワールが見ていた。
サラはというとバイザーを上げたり下ろしたりしてルシフェルを見ていた。そして不思議そうに首をかしげ、何か納得したような顔で思案している。
「・・・おい赤毛。何考えてるんだ?」
何となく疎外感を感じた記四季はサラに話しかける。彩女もハウも今はそばのレンタルクレイドルで就寝中だ。
「あ、キシキ。・・・いえ、彼女・・・ルシフェルを見たときにですね。色んな索敵方法を試したのですが見えなかったのです。それが不思議で。・・・現に今も視認は出来ますがレーダーや超音波、熱源反応とかだと見えないのですよ」
記四季はルシフェルを見る。
今はバトル中ではないから、何らかのスキルを使う必要は無い。・・・そうなると
「あの羽のせいだろ。常時発動型スキルなんじゃないか」
結構忘れられがちだが、神姫の装備にはスキルがある。
サラのライフルなら命中率が一時的に上がるし、彩女の刀なら切れ味が増す程度の些細なものから必殺技のような大掛かりなものまで様々だ。中には移動速度が上がるものもある。そう考えるとあの羽に何かスキルがあってもおかしくは無い。
「成る程。勉強になりました」
サラはそういうとまた何か考え始める。
恐らくルシフェルの姿を見えるようにする装備を探しているのだろう。
・・・あとで春奈に小遣いをやった方がいい。記四季はそう考える。
「おじいちゃん」
「あ?」
サラと話していると春奈が話しかけてきた。
「私達これから秋葉にいって神姫用品見ようと思うんだけど。おじいちゃんはどうする?」
楽しそうに、春奈はそういった。
ここから秋葉原は少し遠い。遠いが記四季の家ほど遠いわけでもない。
なじみのMMSショップに顔を出すのも悪くない。記四季はそう思ったが・・・
「・・・いや、遠慮しておく」
今から秋葉原に行って店を回るとなると帰宅はどう考えても遅くなる。夕方で既に光の差さない竹山は、夜にもなればもはや何も見えない。屋敷から川に行く程度ならまだしも、山の入り口から屋敷に行くのは幾らなんでもきついものがある。
何より体の問題もある。彼自身は何もしていないが、バトルは見るだけでも少々疲れる。
「あ、そう? じゃぁまた今度一緒にいこうよ」
「あぁ。そうだな」
記四季はそういって麦茶を飲む。
ほんの少し、血の味がしたが気にしないことにした。
・・・飲んでいたのだが
「畜生! どう考えても卑怯だなん!! 何で筐体の中にセンター最強の二人が紛れ込んでるのだ!!」
「・・・仕方ないじゃない。だってそれが仕事なのよ」
「まぁ良いではないか猫よ。我等は職務をこなしただけなのだ」
怒っているマイの傍には、なぜかジャンヌとルシフェルがいた。
二人とも武装したままである。というか彼女達にとってその武装した状態こそが普段着であるようだ。器用に羽を畳んでニトロジェリーを飲んだり羽の手入れをしたりしていた。
「・・・お姉ちゃんの仕業でしょ。この二人」
「その通り。だってネイキッドのゾンビ軍団じゃつまらなかったんだもの。一回ノワールにやらせたら蹴散らしまくってあっさりゴールしたし。・・・まぁ結果としてボスキャラは必要ってことがわかったからよしとしよう。・・・遊んで金になるバイトって素晴らしいな」
都はそういって心底楽しそうに笑う。
その様子を少し呆れた顔でノワールが見ていた。
サラはというとバイザーを上げたり下ろしたりしてルシフェルを見ていた。そして不思議そうに首をかしげ、何か納得したような顔で思案している。
「・・・おい赤毛。何考えてるんだ?」
何となく疎外感を感じた記四季はサラに話しかける。彩女もハウも今はそばのレンタルクレイドルで就寝中だ。
「あ、キシキ。・・・いえ、彼女・・・ルシフェルを見たときにですね。色んな索敵方法を試したのですが見えなかったのです。それが不思議で。・・・現に今も視認は出来ますがレーダーや超音波、熱源反応とかだと見えないのですよ」
記四季はルシフェルを見る。
今はバトル中ではないから、何らかのスキルを使う必要は無い。・・・そうなると
「あの羽のせいだろ。常時発動型スキルなんじゃないか」
結構忘れられがちだが、神姫の装備にはスキルがある。
サラのライフルなら命中率が一時的に上がるし、彩女の刀なら切れ味が増す程度の些細なものから必殺技のような大掛かりなものまで様々だ。中には移動速度が上がるものもある。そう考えるとあの羽に何かスキルがあってもおかしくは無い。
「成る程。勉強になりました」
サラはそういうとまた何か考え始める。
恐らくルシフェルの姿を見えるようにする装備を探しているのだろう。
・・・あとで春奈に小遣いをやった方がいい。記四季はそう考える。
「おじいちゃん」
「あ?」
サラと話していると春奈が話しかけてきた。
「私達これから秋葉にいって神姫用品見ようと思うんだけど。おじいちゃんはどうする?」
楽しそうに、春奈はそういった。
ここから秋葉原は少し遠い。遠いが記四季の家ほど遠いわけでもない。
なじみのMMSショップに顔を出すのも悪くない。記四季はそう思ったが・・・
「・・・いや、遠慮しておく」
今から秋葉原に行って店を回るとなると帰宅はどう考えても遅くなる。夕方で既に光の差さない竹山は、夜にもなればもはや何も見えない。屋敷から川に行く程度ならまだしも、山の入り口から屋敷に行くのは幾らなんでもきついものがある。
何より体の問題もある。彼自身は何もしていないが、バトルは見るだけでも少々疲れる。
「あ、そう? じゃぁまた今度一緒にいこうよ」
「あぁ。そうだな」
記四季はそういって麦茶を飲む。
ほんの少し、血の味がしたが気にしないことにした。
その後、寝ている彩女を手に記四季は都たちと別れた。