うかつだった。
そんなことをぼんやりと考える。
「どうしたのマスター?」
耳元でわめいているちび人形を無視して、もう一度思う。
うかつだった。
「どうしてマスターはボクのことを無視したがるのかなあ?」
「……うるさい、気分が悪いんだよ」
脂汗のにじむ額をぬぐって、肩にのったちび人形に毒づく。
「ひどい汗だね」
「……こんなに人がいるところにきたのは久しぶりだから、気持ちが悪くなったんだよ」
人いきれに酔った僕は壁にもたれかかりながら荒い息を吐く。
「そっか、マスターって引きこもりだもんね」
「……………」
言い返す気力も出ないまま、大勢の人間が出入りするそのビルを見上げる。
でかでかと掲げられたポスターには白いアーマーを着込んで、ジェット戦闘機のウイングのような羽を背負った少女と、つい先日、僕が部屋でいじっていたアシストアームを背負った、僕の肩に乗ったちび人形そっくりの少女が戦っているところが描かれている。
そしてそのすぐ下には看板をかねたアルファベットが立体的に浮き上がっている。
SHINKI CENTER
それがこのビルの看板だった。
そんなことをぼんやりと考える。
「どうしたのマスター?」
耳元でわめいているちび人形を無視して、もう一度思う。
うかつだった。
「どうしてマスターはボクのことを無視したがるのかなあ?」
「……うるさい、気分が悪いんだよ」
脂汗のにじむ額をぬぐって、肩にのったちび人形に毒づく。
「ひどい汗だね」
「……こんなに人がいるところにきたのは久しぶりだから、気持ちが悪くなったんだよ」
人いきれに酔った僕は壁にもたれかかりながら荒い息を吐く。
「そっか、マスターって引きこもりだもんね」
「……………」
言い返す気力も出ないまま、大勢の人間が出入りするそのビルを見上げる。
でかでかと掲げられたポスターには白いアーマーを着込んで、ジェット戦闘機のウイングのような羽を背負った少女と、つい先日、僕が部屋でいじっていたアシストアームを背負った、僕の肩に乗ったちび人形そっくりの少女が戦っているところが描かれている。
そしてそのすぐ下には看板をかねたアルファベットが立体的に浮き上がっている。
SHINKI CENTER
それがこのビルの看板だった。
「あの……神姫バトルがしたいんですけど……」
受付カウンターで恐る恐る声をかけると
「はいはい、初めてですか?」
「あ、はい……」
カウンター越しに受付の女の人が愛想笑いを浮かべて言う。
「BMAだったらそのまま参加手続きができるんだけど、VBLに新しく登録する?」
「VBL……?」
BMA……武装神姫バトル管理協会については、神姫のことを調べている時に知識を得ていたけれど、VBLという言葉については聴いて記憶がなかった。
「最近できたリーグでね、バーチャルバトル専用のリーグなの」
「バーチャル……?」
「ええ、神姫バトルがいくら安全って言っても絶対ってことはないし もしかしたら神姫が壊れちゃうかもしれない。それでなくても試合の度の消耗品だって少なくないでしょ? そこで新しくできたリーグね」
僕が子供だからか、少しだけ営業スマイルを引っ込めてその人が説明する。
「……BMAのままでいいです」
少しだけ考えて、そう答えていた。
「いいの? 修理とか大変だし、まず大丈夫だとは思うけど、神姫ロストの可能性も……」
「壊しあいでしょ、神姫バトルなんて。それにバーチャルデータなんて自分の部屋でも出来ることをするために、わざわざここまで来ても仕方ないですし」
馴れ馴れしい口調に少し苛ついて、はき捨てるように言ってしまった。
「でも……」
なおも、聞き分けのない幼児を教え諭そうとする保母さんみたいな言葉がつむがれる。
「……っ!」
それにますます自分の神経がささくれ立って行くの自覚していたところで……
「そうだね」
耳元で聞きなれた声が響く。
「ボクはここにホントの戦いをしにきたんだから、バーチャルバトルなんて、興味ないよ」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべてチビ人形……ジェヴァーナが言う。
「いいの?」
心配そうな視線が僕からジェヴァーナに移動する。
「もちろん。ね? マスター」
「あ、ああ……」
「ちなみにマスターも初心者だから、Cランクでヒマの人ね。そんなに戦闘経験がない人の方がいいけど、ランクさえあえばあとはいいから。ステージはできればシティで」
毒気を抜かれてうなずく僕の代わりに、ジェヴァーナが矢継ぎ早に受付の人に言いつける。
「うーん……はい、わかりました。それじゃ手続きしておきますから、ティールームでお待ちください」
「よろしくね、お姉ちゃん♪」
僕のことは置いてけぼりな感じで、ジェヴァーナがフォローするみたいに笑顔を向ける。
「……どうも」
なんとかそれだけ答えて、申請のためにオーナーカードをチェックしてもらい、僕たちはカウンターを後にした。
受付カウンターで恐る恐る声をかけると
「はいはい、初めてですか?」
「あ、はい……」
カウンター越しに受付の女の人が愛想笑いを浮かべて言う。
「BMAだったらそのまま参加手続きができるんだけど、VBLに新しく登録する?」
「VBL……?」
BMA……武装神姫バトル管理協会については、神姫のことを調べている時に知識を得ていたけれど、VBLという言葉については聴いて記憶がなかった。
「最近できたリーグでね、バーチャルバトル専用のリーグなの」
「バーチャル……?」
「ええ、神姫バトルがいくら安全って言っても絶対ってことはないし もしかしたら神姫が壊れちゃうかもしれない。それでなくても試合の度の消耗品だって少なくないでしょ? そこで新しくできたリーグね」
僕が子供だからか、少しだけ営業スマイルを引っ込めてその人が説明する。
「……BMAのままでいいです」
少しだけ考えて、そう答えていた。
「いいの? 修理とか大変だし、まず大丈夫だとは思うけど、神姫ロストの可能性も……」
「壊しあいでしょ、神姫バトルなんて。それにバーチャルデータなんて自分の部屋でも出来ることをするために、わざわざここまで来ても仕方ないですし」
馴れ馴れしい口調に少し苛ついて、はき捨てるように言ってしまった。
「でも……」
なおも、聞き分けのない幼児を教え諭そうとする保母さんみたいな言葉がつむがれる。
「……っ!」
それにますます自分の神経がささくれ立って行くの自覚していたところで……
「そうだね」
耳元で聞きなれた声が響く。
「ボクはここにホントの戦いをしにきたんだから、バーチャルバトルなんて、興味ないよ」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべてチビ人形……ジェヴァーナが言う。
「いいの?」
心配そうな視線が僕からジェヴァーナに移動する。
「もちろん。ね? マスター」
「あ、ああ……」
「ちなみにマスターも初心者だから、Cランクでヒマの人ね。そんなに戦闘経験がない人の方がいいけど、ランクさえあえばあとはいいから。ステージはできればシティで」
毒気を抜かれてうなずく僕の代わりに、ジェヴァーナが矢継ぎ早に受付の人に言いつける。
「うーん……はい、わかりました。それじゃ手続きしておきますから、ティールームでお待ちください」
「よろしくね、お姉ちゃん♪」
僕のことは置いてけぼりな感じで、ジェヴァーナがフォローするみたいに笑顔を向ける。
「……どうも」
なんとかそれだけ答えて、申請のためにオーナーカードをチェックしてもらい、僕たちはカウンターを後にした。
……なんだか、無駄に疲れ続けてる気がするな……
やっぱり外出なんて、するもんじゃない。
このちび人形にそそのかされて、実際のバトルでデータを取ろうなんて考えたのが、すべての間違いだ。
……それにしてもなに考えてんだ、こいつ。
ジェヴァーナが壊れても別にかまわない。
そんな意味に取られて当然の発言に、こいつは追従した
所詮、神姫はオーナーに絶対服従するように作られているだけと言えば、そうなんだろうけど……
それでも、少しだけほっとしてしまった気がする。
なにに?
ジェヴァーナが……僕を信じてくれたことに?
……ばかばかしい。
そんなこと、こいつが考えているわけないし、そもそもそう見えるようにプログラムされている神姫がオーナーに不利なことを言うはずがない。
ただそれだけの……
「マスター、またなんかひねくれたこと考えてる?」
「……なんだよ。それ」
「だって、こーんな目してるんだもん」
ジェヴァーナのやつが、イヤミな笑みを浮かべながら、目の横に指をやって、横にひっぱる。
「そんな顔してないだろ!」
「自分の顔は自分では見れないもんね」
「見なくたってわかるさ」
「見ないとわからないから、リアルバトルをしたいんじゃないの?」
「ホントに口が減らないな、お前……」
……だけど、こんな会話が以前ほどうっとうしくなくなっているのを感じる。
慣れって怖いな。
「まーたなんか、ひねくれたこと考えてる」
「いい加減にしてくれ……」
ほとほとあきれてそういったところで……
「あ、マスター、あれ!」
「……?」
ジェヴァーナがティールームに設置されたディスプレイを指差していた。
そこには、僕とジェヴァーナの名前が表示されていた。
それがゆっくりとスクロールしていく。
「決まったな。お前のデビュー戦」
「違うよマスター」
横目で僕を見ながら、ジェヴァーナが否定する。
「……ジェヴァーナの」
バトル前に余計な口論をするのも面倒だったので、素直に訂正しておく。
だけど……
「それも違う」
「……?」
再びジェヴァーナの否定が返ってきた。
「ボクのデビュー戦じゃない。ボクたちのデビュー戦なんだよ」
「……戦うのはお前だろ」
「それでも、だよ。ボクとマスターが戦うんだ。このバトル……ううん、すべての神姫バトルは神姫とそのオーナーが戦うんだよ」
「BMAかなにかの受け売りか? それともそう言えって出荷段階でプログラムされてるのか?」
「プログラムなんかじゃないってば。武装神姫だったらみんな最初から知ってる心に刻まれてることだよ」
「……それが焼きこみプログラムとどう違うんだよ」
「わからないかな。とっても簡単な事なのに」
くすり、となぜだか少し大人びて見える笑みを浮かべる。
「どういう……」
「変な名前」
聞き返そうとしたところで、とたんにその表情は消えて、いつもの少しからかうような、小生意気なだけの表情が取って代わる。
「……?」
ジェヴァーナの視線を追うとそこには僕たちの名前がスクロールアウトし終わって、その対戦者……つまり、ジェヴァーナの相手の名前が表示されていた。
「えいせん?」
「ドイツ語だろ。鉄……っていうか、クロガネってニュアンスの意味だったはずだ発音は確か……」
小説かなにかで見覚えのあるそのアルファベットの並びの発音を口にする。
「アイゼン」
視線の先、ディスプレイの対戦表には、
『U1 & Eisen』
と表示されていた。
「トップへ」/「戻る」/「次へ」
やっぱり外出なんて、するもんじゃない。
このちび人形にそそのかされて、実際のバトルでデータを取ろうなんて考えたのが、すべての間違いだ。
……それにしてもなに考えてんだ、こいつ。
ジェヴァーナが壊れても別にかまわない。
そんな意味に取られて当然の発言に、こいつは追従した
所詮、神姫はオーナーに絶対服従するように作られているだけと言えば、そうなんだろうけど……
それでも、少しだけほっとしてしまった気がする。
なにに?
ジェヴァーナが……僕を信じてくれたことに?
……ばかばかしい。
そんなこと、こいつが考えているわけないし、そもそもそう見えるようにプログラムされている神姫がオーナーに不利なことを言うはずがない。
ただそれだけの……
「マスター、またなんかひねくれたこと考えてる?」
「……なんだよ。それ」
「だって、こーんな目してるんだもん」
ジェヴァーナのやつが、イヤミな笑みを浮かべながら、目の横に指をやって、横にひっぱる。
「そんな顔してないだろ!」
「自分の顔は自分では見れないもんね」
「見なくたってわかるさ」
「見ないとわからないから、リアルバトルをしたいんじゃないの?」
「ホントに口が減らないな、お前……」
……だけど、こんな会話が以前ほどうっとうしくなくなっているのを感じる。
慣れって怖いな。
「まーたなんか、ひねくれたこと考えてる」
「いい加減にしてくれ……」
ほとほとあきれてそういったところで……
「あ、マスター、あれ!」
「……?」
ジェヴァーナがティールームに設置されたディスプレイを指差していた。
そこには、僕とジェヴァーナの名前が表示されていた。
それがゆっくりとスクロールしていく。
「決まったな。お前のデビュー戦」
「違うよマスター」
横目で僕を見ながら、ジェヴァーナが否定する。
「……ジェヴァーナの」
バトル前に余計な口論をするのも面倒だったので、素直に訂正しておく。
だけど……
「それも違う」
「……?」
再びジェヴァーナの否定が返ってきた。
「ボクのデビュー戦じゃない。ボクたちのデビュー戦なんだよ」
「……戦うのはお前だろ」
「それでも、だよ。ボクとマスターが戦うんだ。このバトル……ううん、すべての神姫バトルは神姫とそのオーナーが戦うんだよ」
「BMAかなにかの受け売りか? それともそう言えって出荷段階でプログラムされてるのか?」
「プログラムなんかじゃないってば。武装神姫だったらみんな最初から知ってる心に刻まれてることだよ」
「……それが焼きこみプログラムとどう違うんだよ」
「わからないかな。とっても簡単な事なのに」
くすり、となぜだか少し大人びて見える笑みを浮かべる。
「どういう……」
「変な名前」
聞き返そうとしたところで、とたんにその表情は消えて、いつもの少しからかうような、小生意気なだけの表情が取って代わる。
「……?」
ジェヴァーナの視線を追うとそこには僕たちの名前がスクロールアウトし終わって、その対戦者……つまり、ジェヴァーナの相手の名前が表示されていた。
「えいせん?」
「ドイツ語だろ。鉄……っていうか、クロガネってニュアンスの意味だったはずだ発音は確か……」
小説かなにかで見覚えのあるそのアルファベットの並びの発音を口にする。
「アイゼン」
視線の先、ディスプレイの対戦表には、
『U1 & Eisen』
と表示されていた。
「トップへ」/「戻る」/「次へ」