白花と黒華──あるいは聖者の再来(前半)
──『女三人依れば姦しい』って言葉が、この島国にはあるらしいわね。
……それなら、五人集まればどうなのかしら?しかも皆が皆を大好きで、
更に今日は何か、恋人同士には大切な日らしいの。どうしようかな──?
……それなら、五人集まればどうなのかしら?しかも皆が皆を大好きで、
更に今日は何か、恋人同士には大切な日らしいの。どうしようかな──?
第一節:白花
──通電……システムをスタンバイから解除……徐々に、アタシの意識が
戻っていく。目を開ければ、そこはもう見慣れた白天井。時刻は朝六時。
強化プラスチックとフレームの躯も、気怠くはなくて……今日も快適ね。
戻っていく。目を開ければ、そこはもう見慣れた白天井。時刻は朝六時。
強化プラスチックとフレームの躯も、気怠くはなくて……今日も快適ね。
「う、うぅん……よく寝たわ、って“神姫”には変な言い回しかしら?」
「そんな事無いですよ、おはようございますエルナちゃん……よっと!」
「あ、おはよアルマお姉ちゃん。そうなの?マイスターがよく言うけど」
「そうですよ~。神姫も休眠状態で、メモリのデータを整理するんです」
「ふぅん、頭がスッキリするのはそう言う事かしら……それ、大丈夫?」
「そんな事無いですよ、おはようございますエルナちゃん……よっと!」
「あ、おはよアルマお姉ちゃん。そうなの?マイスターがよく言うけど」
「そうですよ~。神姫も休眠状態で、メモリのデータを整理するんです」
「ふぅん、頭がスッキリするのはそう言う事かしら……それ、大丈夫?」
テーブルを伝って、アタシ・エルナは程良く暖房の利いた部屋を歩くの。
マイスター・晶お姉ちゃんが作ってくれた“ネグリジェ”は、着やすくて
寝起きに室内を移動するには最適なのよね。で、歩いた先で発見したのは
人間規格のフライパンを、テコの原理で器用に振るうアルマお姉ちゃん。
中に入った目玉焼きの、美味しそうに油が跳ねる音……堪らなくなるわ。
マイスター・晶お姉ちゃんが作ってくれた“ネグリジェ”は、着やすくて
寝起きに室内を移動するには最適なのよね。で、歩いた先で発見したのは
人間規格のフライパンを、テコの原理で器用に振るうアルマお姉ちゃん。
中に入った目玉焼きの、美味しそうに油が跳ねる音……堪らなくなるわ。
「にしてもさ、それ重くないの?何だったら着替えてすぐに手伝うけど」
「平気ですよ。元々力仕事は得意ですし、今日は“これ”も有ります♪」
「ああ……確か“Rosa bianca”だったかしら?その新作ドレスってさ」
「ええ。今日から実働テストって事で、お手伝いの時に着てるんですよ」
「平気ですよ。元々力仕事は得意ですし、今日は“これ”も有ります♪」
「ああ……確か“Rosa bianca”だったかしら?その新作ドレスってさ」
「ええ。今日から実働テストって事で、お手伝いの時に着てるんですよ」
元々このMMSショップ“ALChemist”に住む神姫達は、パワーローダーとか
そういう大掛かりな補助具が無くても、人間の仕事を多少はこなせるの。
でもアタシは、なかなか上手く行かなくて……勿論お姉ちゃん達も最初は
そうだったけど……見かねたマイスターが作ったのは、服型の補助機構。
そういう大掛かりな補助具が無くても、人間の仕事を多少はこなせるの。
でもアタシは、なかなか上手く行かなくて……勿論お姉ちゃん達も最初は
そうだったけど……見かねたマイスターが作ったのは、服型の補助機構。
「で、でさ……それってどう?着心地とか動き易さとか、快適かしら?」
「普段の服と殆ど代わらないですし、モーターにも楽々ですよ♪それっ」
「そっかぁ。アタシもそれ着れば、お手伝い出来るかしらね……あ!?」
「ふぇ?ああ、朝のお風呂ですね。もう暫くしたら出来ますから、ね?」
「う、うん。すぐ入ってくる!じゃ、また後でねアルマお姉ちゃんっ!」
「普段の服と殆ど代わらないですし、モーターにも楽々ですよ♪それっ」
「そっかぁ。アタシもそれ着れば、お手伝い出来るかしらね……あ!?」
「ふぇ?ああ、朝のお風呂ですね。もう暫くしたら出来ますから、ね?」
「う、うん。すぐ入ってくる!じゃ、また後でねアルマお姉ちゃんっ!」
更に武装化とかデザインの調整を色々施して、今度から売るらしいわよ。
その名前は“ローザ・ビアンカ”……白薔薇。確かに、可憐なドレスね。
でも、見とれてる場合じゃないわ。日課のボディウォッシュ……お風呂を
忘れちゃいけないのよ!磨き過ぎは傷付くから、シャワー程度だけどね?
その名前は“ローザ・ビアンカ”……白薔薇。確かに、可憐なドレスね。
でも、見とれてる場合じゃないわ。日課のボディウォッシュ……お風呂を
忘れちゃいけないのよ!磨き過ぎは傷付くから、シャワー程度だけどね?
「え~と、着替えは……ここね。よいしょ、っとと……あ、おはよっ!」
「エルナちゃん、おはようございますですの~♪朝のお風呂、ですの?」
「う、うんっ!ロッテお姉ちゃんは、店の……お金数えてるの、それ?」
「はいですの♪昨日はちょっと、バッテリーが心許なかったですの……」
「エルナちゃん、おはようございますですの~♪朝のお風呂、ですの?」
「う、うんっ!ロッテお姉ちゃんは、店の……お金数えてるの、それ?」
「はいですの♪昨日はちょっと、バッテリーが心許なかったですの……」
集計機にお金をじゃらじゃらと投入しているのは、ロッテお姉ちゃんね。
一番長くマイスターと暮らしているだけあって、彼女は“ALChemist”の
業務にもとっても詳しいの。だから、たまにマイスターの仕事を肩代わり
したりなんかもしてる。何時かは、アタシもコレ位馴染んでみたいわね。
一番長くマイスターと暮らしているだけあって、彼女は“ALChemist”の
業務にもとっても詳しいの。だから、たまにマイスターの仕事を肩代わり
したりなんかもしてる。何時かは、アタシもコレ位馴染んでみたいわね。
「電子マネーとか色々な手段があっても、これだけコインあるのね……」
「全て置換するには、まだまだ課題も多いですの。信頼性も高いですし」
「そうなんだ……って、それ所じゃないわ。お風呂!朝ご飯に遅れる!」
「あ、今は……ううん、なんでもないですの♪ごゆっくりですの~っ♪」
「全て置換するには、まだまだ課題も多いですの。信頼性も高いですし」
「そうなんだ……って、それ所じゃないわ。お風呂!朝ご飯に遅れる!」
「あ、今は……ううん、なんでもないですの♪ごゆっくりですの~っ♪」
そしてアタシは戸棚や手すりの上を移動して、お風呂場へ近付いていく。
この家は、こうしてアタシ達“神姫”が通る為のラインが整備されてる。
目の前を横切るクララお姉ちゃんも、戸棚からフィルムを取り出して……
って、危ないじゃないッ!?……と思った時には、もう遅かったのよね。
この家は、こうしてアタシ達“神姫”が通る為のラインが整備されてる。
目の前を横切るクララお姉ちゃんも、戸棚からフィルムを取り出して……
って、危ないじゃないッ!?……と思った時には、もう遅かったのよね。
「きゃあっ!?あ、あいたたた……だ、大丈夫?クララお姉ちゃん!?」
「痛……荷物はお互いに落ちてないみたいだし、大丈夫だよ。おはよう」
「お、おはよ。ごめんね……お風呂に急いで入らないとって、慌ててて」
「ボクは、塾の宿題を再チェックなんだよ。一応完璧な筈だけどね……」
「痛……荷物はお互いに落ちてないみたいだし、大丈夫だよ。おはよう」
「お、おはよ。ごめんね……お風呂に急いで入らないとって、慌ててて」
「ボクは、塾の宿題を再チェックなんだよ。一応完璧な筈だけどね……」
立ち上がったのは、クララお姉ちゃん。訳有って躯が“弱い”彼女だけど
無事みたいね、よかったわ……で、この娘は特殊な装置を使って、人間の
姿を借りて社会に食い込んでる神姫。“一応塾”っていう勉強する所に、
足繁く通ってるらしいのよね。宿題も、そこから出されたのかしら……?
でも人間になる気分ってどうかしら?アタシはまだ体験したくないけど。
無事みたいね、よかったわ……で、この娘は特殊な装置を使って、人間の
姿を借りて社会に食い込んでる神姫。“一応塾”っていう勉強する所に、
足繁く通ってるらしいのよね。宿題も、そこから出されたのかしら……?
でも人間になる気分ってどうかしら?アタシはまだ体験したくないけど。
「……それで、エルナちゃんはこれからお風呂に入るのかな?“今”?」
「へ?う、うん。もうじき朝ご飯だから、急がなくちゃって……じゃ!」
「あ。まぁ、今日はアレだし楽しむといいって思うんだよ?ごゆっくり」
「へ?う、うん。もうじき朝ご飯だから、急がなくちゃって……じゃ!」
「あ。まぁ、今日はアレだし楽しむといいって思うんだよ?ごゆっくり」
何か引っかかる物言いだけど、それどころじゃないわッ!このままじゃ、
朝ご飯に一人だけ遅れちゃう!寂しいから、それは嫌なのよね……やっと
脱衣所に辿り着いたアタシは、ネグリジェを脱いで畳んで……更に下着も
外して、綺麗に備え付けの籠へと押し込む。これは、マイスターが何度も
教え込んでくれた“躾”。乙女の品格、って奴らしいわ。さ、入るわよ!
朝ご飯に一人だけ遅れちゃう!寂しいから、それは嫌なのよね……やっと
脱衣所に辿り着いたアタシは、ネグリジェを脱いで畳んで……更に下着も
外して、綺麗に備え付けの籠へと押し込む。これは、マイスターが何度も
教え込んでくれた“躾”。乙女の品格、って奴らしいわ。さ、入るわよ!
「よいしょ、っと……あれ?湯気が、たって……る?……え、ええ!?」
「──きゃあああっ!?だ、誰ッ!!?って……何だ、エルナかッ!!」
「う、うんっアタシよ……まッ、マイスターが……もう入ってたのね?」
「有無、その……少し寝坊してな?だから、今入っていたのだが……な」
「──きゃあああっ!?だ、誰ッ!!?って……何だ、エルナかッ!!」
「う、うんっアタシよ……まッ、マイスターが……もう入ってたのね?」
「有無、その……少し寝坊してな?だから、今入っていたのだが……な」
意気揚々と扉を開けたアタシの目に飛び込んできたのは、スベスベの脚と
なだらかで綺麗なボディの少女……そう、マイスターの晶お姉ちゃんッ!
躯中を泡立てて、彼女も自分を磨いてる最中だったのよ……その、情報で
頭がパンクしそうな……胸が痛い感覚に、囚われちゃうわね……あうぅ。
なだらかで綺麗なボディの少女……そう、マイスターの晶お姉ちゃんッ!
躯中を泡立てて、彼女も自分を磨いてる最中だったのよ……その、情報で
頭がパンクしそうな……胸が痛い感覚に、囚われちゃうわね……あうぅ。
「む、むぅぅ……しかし、アルマが今頃朝食の支度をしているだろう?」
「うん。起きた時、丁度フライパンを振るってる所だったわ……まさか」
「そのまさかだ。お前を待たせていては、間に合わぬだろう?さぁ……」
「い、いいのね?じゃあ……お邪魔します~……んしょ、っとと……!」
「んっ……ああほれ、私の躯を踏み台にするとソープで滑るぞ?ほらっ」
「うん。起きた時、丁度フライパンを振るってる所だったわ……まさか」
「そのまさかだ。お前を待たせていては、間に合わぬだろう?さぁ……」
「い、いいのね?じゃあ……お邪魔します~……んしょ、っとと……!」
「んっ……ああほれ、私の躯を踏み台にするとソープで滑るぞ?ほらっ」
でもアタシは、大好きになりたいと日々共にいるマイスターの“誘い”を
断り切れなかったわ。請われるままに、一緒のお風呂に入って……彼女の
細く白くて、お人形さんみたいにとっても綺麗な指で、洗ってもらうの。
でも触れられる度に、その……電磁パルスが、躯中を駆けめぐるのよ?!
断り切れなかったわ。請われるままに、一緒のお風呂に入って……彼女の
細く白くて、お人形さんみたいにとっても綺麗な指で、洗ってもらうの。
でも触れられる度に、その……電磁パルスが、躯中を駆けめぐるのよ?!
「は、ぅぅ……んんっ、ふ……マイスター、そんな丹念にしなくてもっ」
「そ、そうはいかんぞ?今日は大事な時なのだし、何より乙女の嗜みだ」
「大事な時?ってえっと、今日は……2038年02月14日だけど、何なの?」
「ん……まぁ、昼にでもゆっくり発表しよう。今は、お風呂を堪能だっ」
「え、ええっ!?ひゃう、そこ……やぁ、自分でやれる……んんっ!?」
「……え、遠慮する事などないだろうッ!というか、私も恥ずかしいぞ」
「そ、そうはいかんぞ?今日は大事な時なのだし、何より乙女の嗜みだ」
「大事な時?ってえっと、今日は……2038年02月14日だけど、何なの?」
「ん……まぁ、昼にでもゆっくり発表しよう。今は、お風呂を堪能だっ」
「え、ええっ!?ひゃう、そこ……やぁ、自分でやれる……んんっ!?」
「……え、遠慮する事などないだろうッ!というか、私も恥ずかしいぞ」
……普段から、マイスターとは一緒にお風呂に入るのよ。五人一緒の時も
あれば、こうして……他の“姉”達と二人きりの時もあったわ。だけど、
あたしとマイスターの二人きりってのは、思えばこれが初めてなのよね。
そうしている間にも、アタシの情報処理は鈍って……頭が、霞んで……!
あれば、こうして……他の“姉”達と二人きりの時もあったわ。だけど、
あたしとマイスターの二人きりってのは、思えばこれが初めてなのよね。
そうしている間にも、アタシの情報処理は鈍って……頭が、霞んで……!
「だ、だって……何かおかしいのよ!センサーがないのに、信号が!?」
「……それは“心”の作用による物だと、ロッテ達は言っておったぞ?」
「ひぅ!や、やめてマイスター……何だかアタシ、切なくなっちゃう!」
「構わぬ。異常ではない……と、思う。そのまま、身を任せてくれ……」
「マイスター、マイスター……ぅ、ううんっ──!!?ふ、はぁ……っ」
「……それは“心”の作用による物だと、ロッテ達は言っておったぞ?」
「ひぅ!や、やめてマイスター……何だかアタシ、切なくなっちゃう!」
「構わぬ。異常ではない……と、思う。そのまま、身を任せてくれ……」
「マイスター、マイスター……ぅ、ううんっ──!!?ふ、はぁ……っ」
そしてその時一緒になってた“姉”は、とっても嬉しそうにしていた……
その笑顔を思い浮かべて、最後にマイスターの恥ずかしそうに微笑む顔を
思い出したアタシの意識は、そこでコンマ三秒程途切れたの。理由……?
そんなの分からないし、追求しちゃいけない。理論抜きでそう思うのよ!
それに、マイスターに全身洗ってもらえて幸せなのよ?とっても……ね。
その笑顔を思い浮かべて、最後にマイスターの恥ずかしそうに微笑む顔を
思い出したアタシの意識は、そこでコンマ三秒程途切れたの。理由……?
そんなの分からないし、追求しちゃいけない。理論抜きでそう思うのよ!
それに、マイスターに全身洗ってもらえて幸せなのよ?とっても……ね。
「しかしお前達は……風呂や肩もみでそういう声を出すのは、何故だ?」
「理屈なんかわかんないわよ。ジョイントとかも、異常はないのに……」
「まぁ、今までも異常はなかったからなぁ……ほれ、洗浄剤を流すぞ?」
「う、うん……目は閉じたわ、何時でも大丈夫よ?わぷ……っ……!!」
「よーし、後は私も流せば終わりだ……貴様、変な想像しておらぬな?」
「理屈なんかわかんないわよ。ジョイントとかも、異常はないのに……」
「まぁ、今までも異常はなかったからなぁ……ほれ、洗浄剤を流すぞ?」
「う、うん……目は閉じたわ、何時でも大丈夫よ?わぷ……っ……!!」
「よーし、後は私も流せば終わりだ……貴様、変な想像しておらぬな?」
マイスターが、変な方に声を掛けるけど……ま、それはどうでもいいわ。
泡を流してからマイスターの肩を押してあげて、アタシ達は仲良く外へと
出たのよ。そして、二人で躯の雫を拭き取り……服を着替える。品のいい
下着とブラウスに袖を通して、スカートを穿いて準備OK!さ、次は……
ええ、朝食ッ!マイスターと一緒に食事出来るのは、とても楽しいのよ?
泡を流してからマイスターの肩を押してあげて、アタシ達は仲良く外へと
出たのよ。そして、二人で躯の雫を拭き取り……服を着替える。品のいい
下着とブラウスに袖を通して、スカートを穿いて準備OK!さ、次は……
ええ、朝食ッ!マイスターと一緒に食事出来るのは、とても楽しいのよ?
「あ、二人とも戻ってきたんだよ……やっぱりエルナちゃんも、声を?」
「どああっ!?み、皆まで言うな!お前達と全く同じ反応だったぞ!?」
「そうですか……なんででしょうね?いかがわしい機能はないのに……」
「幸せなら関係ないですの!さ、折角の朝ご飯が冷めちゃいますの~♪」
「どああっ!?み、皆まで言うな!お前達と全く同じ反応だったぞ!?」
「そうですか……なんででしょうね?いかがわしい機能はないのに……」
「幸せなら関係ないですの!さ、折角の朝ご飯が冷めちゃいますの~♪」
出迎えてくれたのは、既に食べる準備を整えた三人の“お姉ちゃん”達。
そう、種族の枠を越えた幸せがアタシ達を包む。今はそれで良いのよ……
でもこの後、アタシの長い一日が始まるのよね。とても幸せな……ねっ?
そう、種族の枠を越えた幸せがアタシ達を包む。今はそれで良いのよ……
でもこの後、アタシの長い一日が始まるのよね。とても幸せな……ねっ?
「有無、ではアルマと日々の糧に感謝しつつ頂こうか……せーのっ!」
『いただきまーすっ!!!!!』
『いただきまーすっ!!!!!』
──────楽しい楽しい、ブレイクファースト……何気ない幸せね。
第二節:聖女
そんなこんなで朝食も終わって、マイスター達は店に立ったわ。アタシは
特にそういうお手伝い……してないのよ。まだ人が、ちょっと怖いしね。
だから戦闘訓練と、居住区画でのお手伝いがアタシの日課。でも今日は、
ちょっと勝手が違ったのよね。何故なら、一緒にやってる目の前の……。
特にそういうお手伝い……してないのよ。まだ人が、ちょっと怖いしね。
だから戦闘訓練と、居住区画でのお手伝いがアタシの日課。でも今日は、
ちょっと勝手が違ったのよね。何故なら、一緒にやってる目の前の……。
「というわけでエルナちゃん、今日は早めに切り上げて外出の支度です」
「へ?どういう事アルマお姉ちゃん……?今日はお洗濯とかしないの?」
「ええ。午後は全部開けておいてくれ、ってマイスターのお願いですし」
「へ?どういう事アルマお姉ちゃん……?今日はお洗濯とかしないの?」
「ええ。午後は全部開けておいてくれ、ってマイスターのお願いですし」
アルマお姉ちゃんが、そう言って作業を半分以上後回しにしてるのよね。
理由を聞いても『お昼になれば、マイスターの口から♪』って言うだけ。
そう言えばマイスター自身“今日は大事な日”だって認めてたけど……。
理由を聞いても『お昼になれば、マイスターの口から♪』って言うだけ。
そう言えばマイスター自身“今日は大事な日”だって認めてたけど……。
「でもこれだと、十一時位には完璧に終わっちゃうわよ?いいの……?」
「勿論ですよ。その頃にはクララちゃんの勉強も終わりますから、ね♪」
「あ。これって、春の新作……だけじゃないわね。一杯のお洋服……!」
「勿論ですよ。その頃にはクララちゃんの勉強も終わりますから、ね♪」
「あ。これって、春の新作……だけじゃないわね。一杯のお洋服……!」
それを強調する様にお姉ちゃんが出してきたのは、幾つもの衣装。そう、
今日はアタシ自身の選択も加味して、着る服を選ぶつもりみたいなのよ。
そこまで気合い入れるって事は、やっぱり何か凄い祝日なのかしら……?
今日はアタシ自身の選択も加味して、着る服を選ぶつもりみたいなのよ。
そこまで気合い入れるって事は、やっぱり何か凄い祝日なのかしら……?
「あたしとクララちゃんで、エルナちゃんの衣装合わせとかしようかと」
「そ、そう?この中から自由に選んじゃって、いいの?何時もは、その」
「マイスターが選んでくれてますよね?でもこれからは、自身の感性も」
「そ、そっか……これも訓練の一環みたいな物ね?分かった、やるわよ」
「そ、そう?この中から自由に選んじゃって、いいの?何時もは、その」
「マイスターが選んでくれてますよね?でもこれからは、自身の感性も」
「そ、そっか……これも訓練の一環みたいな物ね?分かった、やるわよ」
にこにこと笑うアルマお姉ちゃんに根負けする形で、アタシは同意した。
それから頭の中は、どんな服が良いかなって……それだけで一杯。正直、
どんな類のお手伝いをしてたかは、あまり印象に残ってないのよね……。
でも時間だけは確実に過ぎて、約束通りの十一時。家事も丁度終了、ね。
それから頭の中は、どんな服が良いかなって……それだけで一杯。正直、
どんな類のお手伝いをしてたかは、あまり印象に残ってないのよね……。
でも時間だけは確実に過ぎて、約束通りの十一時。家事も丁度終了、ね。
「ふぅ……後は洗浄機とかに任せれば大丈夫です、というわけで……♪」
「エルナちゃんのファッションチェ~ック、と……行こうと思うんだよ」
「ふわっ!?お、脅かさないでよクララお姉ちゃんッ!後ろからッ!?」
「あ、もう始めちゃってますの~?わたしも混ぜてくださいですの、皆」
「大丈夫、まだですよロッテちゃん……ってお店はもういいんですか?」
「エルナちゃんのファッションチェ~ック、と……行こうと思うんだよ」
「ふわっ!?お、脅かさないでよクララお姉ちゃんッ!後ろからッ!?」
「あ、もう始めちゃってますの~?わたしも混ぜてくださいですの、皆」
「大丈夫、まだですよロッテちゃん……ってお店はもういいんですか?」
肯くロッテと、いそいそ衣装ケースを開くクララ……二人のお姉ちゃん。
マイスターは店先で閉店準備をしているらしいわ。もう、お仕舞いなの?
そんな疑問を投げかける間もなく、アタシは自らを着せ替え人形と為す。
マイスターは店先で閉店準備をしているらしいわ。もう、お仕舞いなの?
そんな疑問を投げかける間もなく、アタシは自らを着せ替え人形と為す。
「え、えっと……こんな帽子とか、どうかしら?自信、ないけどさ……」
「それなら、このコートも肩に掛ける形が似合いそうなんだよ?ほらっ」
「わ、わ……本当、いいわね。あ、でも……内側はどうしようかしら?」
「ブラウスは此処に。後は上着……フリルを殺さない方が、いいですね」
「敢えて『人形らしい関節』を引き立ててみるのも、いい手ですの~♪」
「それなら、このコートも肩に掛ける形が似合いそうなんだよ?ほらっ」
「わ、わ……本当、いいわね。あ、でも……内側はどうしようかしら?」
「ブラウスは此処に。後は上着……フリルを殺さない方が、いいですね」
「敢えて『人形らしい関節』を引き立ててみるのも、いい手ですの~♪」
そこで驚いたのは、お姉ちゃん達の感性。今アルマお姉ちゃんが着てる、
肘・膝とかの関節を完全に覆い隠す物もいいんだけど、一方でこの独特な
関節を『引き立て、わざと見せつける』方法で、雰囲気を調整する手段も
あるらしいの。それは、被造物としての様式美を出す……初めての経験。
肘・膝とかの関節を完全に覆い隠す物もいいんだけど、一方でこの独特な
関節を『引き立て、わざと見せつける』方法で、雰囲気を調整する手段も
あるらしいの。それは、被造物としての様式美を出す……初めての経験。
「ほらほら、真っ赤になっちゃダメですよ?短いソックスにヒール、と」
「スカートも、パニエで膨らませつつ丈自体は短め……かな?ほら……」
「腕は肘手前ギリギリまでの手袋で、寒そうに見えない工夫もしますの」
「え、えとえと……で、ブラウスがこのフリル一杯のね……後、首は?」
「スカートも、パニエで膨らませつつ丈自体は短め……かな?ほら……」
「腕は肘手前ギリギリまでの手袋で、寒そうに見えない工夫もしますの」
「え、えとえと……で、ブラウスがこのフリル一杯のね……後、首は?」
夢みたいな体験よ。アタシは、昔は勿論だけど……“妹”となってからも
自分で服を選んでいくという事が、あまり無かったのよ。時期的に丁度、
マイスターが上から下まで揃えた物を作ってたから。でも、今日は違う。
お姉ちゃん達の意見を取り入れつつも、これは正真正銘アタシの服よッ!
自分で服を選んでいくという事が、あまり無かったのよ。時期的に丁度、
マイスターが上から下まで揃えた物を作ってたから。でも、今日は違う。
お姉ちゃん達の意見を取り入れつつも、これは正真正銘アタシの服よッ!
「そうですね……コードタイが“Electro Lolita”の定番なんですけど」
「こういう短くて太いネクタイもいいですの~♪幾つか種類が……っと」
「これにするわ。銀十字の刺繍が、胸元に来る形なら……どうかしら?」
「完璧なんだよッ。後は幾つか装飾品を付けて……さっきの帽子と外套」
「あ、ありがと。マイスター、喜んでくれるかしら?アタシのセレクト」
「こういう短くて太いネクタイもいいですの~♪幾つか種類が……っと」
「これにするわ。銀十字の刺繍が、胸元に来る形なら……どうかしら?」
「完璧なんだよッ。後は幾つか装飾品を付けて……さっきの帽子と外套」
「あ、ありがと。マイスター、喜んでくれるかしら?アタシのセレクト」
アタシは、顔が熱く……むず痒くなる様な錯覚を覚えたわ。皆は、大きく
肯いて保証してくれたけどさ……紫水晶のピアスと水晶の腕輪を嵌めて、
いざ愛そうと日々頑張って接している、唯一の“人間”を待つと……ね?
こう……コアやCSCに流れるパルスの勢いが、速くなるのを感じるの。
肯いて保証してくれたけどさ……紫水晶のピアスと水晶の腕輪を嵌めて、
いざ愛そうと日々頑張って接している、唯一の“人間”を待つと……ね?
こう……コアやCSCに流れるパルスの勢いが、速くなるのを感じるの。
「ふぅ、ロッテや。シャッターも下ろしたし、店はもう大丈夫……おっ」
「お、おかえりマイスター……その、主にアタシが選んだのよ。どう?」
「お、おかえりマイスター……その、主にアタシが選んだのよ。どう?」
そして彼女は……マイスター・晶お姉ちゃんは戻ってきたわ。アタシを、
髪の毛の先から爪先のパーツまで、細かく見据えるの。なんだか、全身が
むずむずして、これは……『恥ずかしい』わ。見られている、って意識が
強くなると、少し不安になったりするの。でも、マイスターの指は……!
髪の毛の先から爪先のパーツまで、細かく見据えるの。なんだか、全身が
むずむずして、これは……『恥ずかしい』わ。見られている、って意識が
強くなると、少し不安になったりするの。でも、マイスターの指は……!
「可愛いではないか。シックでありながら神姫の美しさが出ているぞ!」
「そ、そう?あの、アドバイスで……敢えて関節を覆わなかったのよ?」
「有無。敢えて魅せる事で、神姫独特の妖しげな可憐さを引き出す手か」
「そ、そう?あの、アドバイスで……敢えて関節を覆わなかったのよ?」
「有無。敢えて魅せる事で、神姫独特の妖しげな可憐さを引き出す手か」
アタシを抱き上げて、服が乱れない程度に撫でてくれたわ。大丈夫だよ。
貴女は可愛らしいんだよ?……と、声にこそしないけどそういう想いが、
アタシには感じられたわ。こうしてお洒落に目覚めたのかしらね、皆も?
貴女は可愛らしいんだよ?……と、声にこそしないけどそういう想いが、
アタシには感じられたわ。こうしてお洒落に目覚めたのかしらね、皆も?
「さて。エルナへのアドバイスは見事だが、そろそろお前達も準備だぞ」
『はいっ!!!』
「え?じゅ、準備……あ、着替えるのね。そう言えば、今日は何なの?」
「有無……そろそろよかろう。今日は“バレンタインデー”と言う日だ」
『はいっ!!!』
「え?じゅ、準備……あ、着替えるのね。そう言えば、今日は何なの?」
「有無……そろそろよかろう。今日は“バレンタインデー”と言う日だ」
漸く合点が行ったわ。でも、名称は聞いた事があるけどそれがどんな日で
何時なのかは……殆ど知らされてなかったから。勿論、意義も知らない。
けど、皆はとても楽しそうに準備を始めたの……いい日なのは、確かね。
何時なのかは……殆ど知らされてなかったから。勿論、意義も知らない。
けど、皆はとても楽しそうに準備を始めたの……いい日なのは、確かね。
「大切な人に贈り物をして、感謝と友愛を示す日ですの♪日本だと──」
「チョコレートを男性から女性に、という形が定番化してますけどね?」
「その由来からすれば、一応“チョコ”には囚われなくてもいいんだよ」
「有無、それに……そのな?実際……私の誕生日でもあるのだ、今日は」
「チョコレートを男性から女性に、という形が定番化してますけどね?」
「その由来からすれば、一応“チョコ”には囚われなくてもいいんだよ」
「有無、それに……そのな?実際……私の誕生日でもあるのだ、今日は」
そう言ってマイスターはアタシを伴って、自分自身も着替えを始めたわ。
生まれた日が嬉しい、という実感はまだアタシにはないけど……本当に、
“心”の底から嬉しそうなのが、傍目からでもよく分かる位の笑顔なの。
生まれた日が嬉しい、という実感はまだアタシにはないけど……本当に、
“心”の底から嬉しそうなのが、傍目からでもよく分かる位の笑顔なの。
「エルナや。手持ち無沙汰なら、少々持っていてくれぬか?ほれ、頼む」
「う、うんっ。そう、今日は“大切な日”なのね……アタシ達姉妹には」
「そう言う事になるな……取りわけ今年は、皆に“愛情”を告げた年だ」
「う、うんっ。そう、今日は“大切な日”なのね……アタシ達姉妹には」
「そう言う事になるな……取りわけ今年は、皆に“愛情”を告げた年だ」
その呟きで、皆が黙ってしまう……というよりは、皆顔を紅くしてるの。
勿論アタシだって例外じゃない。あの夜の事は、今でも忘れていないわ。
“バレンタイン”という行事は、その想いを強化する意味合いがある……
よく知らないアタシでも、それだけは直感的に察する事ができたからね?
勿論アタシだって例外じゃない。あの夜の事は、今でも忘れていないわ。
“バレンタイン”という行事は、その想いを強化する意味合いがある……
よく知らないアタシでも、それだけは直感的に察する事ができたからね?
「ん……すまぬな、もう大丈夫。よし、私の準備は出来たが……どうだ」
「準備は整いましたの~!わ、マイスター……気合入っていますの~♪」
「そう言うロッテお姉ちゃんだって、白と水色のワンピースが綺麗だよ」
「クララちゃんも、普段より長考してましたよね。あたしも、ですけど」
「準備は整いましたの~!わ、マイスター……気合入っていますの~♪」
「そう言うロッテお姉ちゃんだって、白と水色のワンピースが綺麗だよ」
「クララちゃんも、普段より長考してましたよね。あたしも、ですけど」
そうしている内に、準備は整ったわ。白のドレスに黒のコートで、全体を
お姫様みたいに飾ったマイスターを初めとして、三人のお姉ちゃん達も、
髪色とモノトーンを絡めた、個性的なコーディネイトに仕上がったのよ。
アタシも白黒織り交ぜてるし……こう言うのはやっぱり素敵、よね……♪
お姫様みたいに飾ったマイスターを初めとして、三人のお姉ちゃん達も、
髪色とモノトーンを絡めた、個性的なコーディネイトに仕上がったのよ。
アタシも白黒織り交ぜてるし……こう言うのはやっぱり素敵、よね……♪
「さて、では準備が出来た所で……街へ繰り出そうではないか。往くぞ」
『はいっ!!!!』
『はいっ!!!!』
──────こうして、長い一日が始まるのね……楽しみだわ。