第五話<殺戮の歌姫>
闇、漆黒の空に木霊するは、妖しき姫の歌声。
今日もまた、歌に魅了され己を無くした者達が、残酷な舞踏を披露する。
光、漆黒の空を貫くは、地獄から来た悪魔の咆哮。
それは不幸の鎖を食いちぎる者、その左目に輝くは、紅き決意の灯火。
今日もまた、歌に魅了され己を無くした者達が、残酷な舞踏を披露する。
光、漆黒の空を貫くは、地獄から来た悪魔の咆哮。
それは不幸の鎖を食いちぎる者、その左目に輝くは、紅き決意の灯火。
「第一、第二小隊は第三小隊の活路を開け!第四、第五小隊は第三小隊の援護!なんとしても奴を倒すんだ!」
『ラジャー!!』
薄暗いワゴン車の中、モニターの光だけが車内を照らす。画面には無数の神姫の姿が映し出されている。
「今日で終わりにしてやる…」
そうつぶやき、眼鏡を光らせたのは、あの男。
ある日友人が持ってきた無残な神姫を、神姫への愛と己の技術を総動員して直し、後に伝説なる証、
左目の眼帯を与えた男。黒淵 創(くろふち はじめ)だ。
痩せ型の長身、だが適度に整った筋肉と顔立ちによりひ弱さはまったく感じられない。
「当たり前だ、創。今日で終わらせる!」
とその仲間が言う。
「あぁ、そうだね。…ミーシャ!他の奴には構うな!今は目の前の元凶を倒すことだけを考えるんだ!」
「了解マスター!行くよ!皆!」
マスター、私はいつも「ご主人様」と呼んでいる。
しかし戦闘時だけはマスターと呼ぶことにしている。
『ラジャー!』
と勢いを増した第三小隊の面々は一目散に目標へ向かう。
中央に位置するは創の武装神姫、天使型のミーシャ。その左右に控えているのはヴァッフェバニーだ。
これは本部より貸し出された神姫である。よって、決まった名前は無い。
今回の場合はツヴァイ3、ドライ3と呼ばれている。第三小隊の二番、三番機の意だ。
「マスター!目標を確認!情報通り天使タイプです!」
「よし!敵は手ごわいぞ…!慎重にな」
「了解!」
「おい!大丈夫か!シン!!おい!…くそ…第一小隊…全滅を確認…」
「くっ!」
「なんだ!?」
「敵の勢いが増しています!このままでは!」
予想をはるかに超えた軍勢がこちら側の神姫達に迫る。
「ミーシャ!!」
『ラジャー!!』
薄暗いワゴン車の中、モニターの光だけが車内を照らす。画面には無数の神姫の姿が映し出されている。
「今日で終わりにしてやる…」
そうつぶやき、眼鏡を光らせたのは、あの男。
ある日友人が持ってきた無残な神姫を、神姫への愛と己の技術を総動員して直し、後に伝説なる証、
左目の眼帯を与えた男。黒淵 創(くろふち はじめ)だ。
痩せ型の長身、だが適度に整った筋肉と顔立ちによりひ弱さはまったく感じられない。
「当たり前だ、創。今日で終わらせる!」
とその仲間が言う。
「あぁ、そうだね。…ミーシャ!他の奴には構うな!今は目の前の元凶を倒すことだけを考えるんだ!」
「了解マスター!行くよ!皆!」
マスター、私はいつも「ご主人様」と呼んでいる。
しかし戦闘時だけはマスターと呼ぶことにしている。
『ラジャー!』
と勢いを増した第三小隊の面々は一目散に目標へ向かう。
中央に位置するは創の武装神姫、天使型のミーシャ。その左右に控えているのはヴァッフェバニーだ。
これは本部より貸し出された神姫である。よって、決まった名前は無い。
今回の場合はツヴァイ3、ドライ3と呼ばれている。第三小隊の二番、三番機の意だ。
「マスター!目標を確認!情報通り天使タイプです!」
「よし!敵は手ごわいぞ…!慎重にな」
「了解!」
「おい!大丈夫か!シン!!おい!…くそ…第一小隊…全滅を確認…」
「くっ!」
「なんだ!?」
「敵の勢いが増しています!このままでは!」
予想をはるかに超えた軍勢がこちら側の神姫達に迫る。
「ミーシャ!!」
「了解マスター!」
私は今回の作戦の最優先目標にロックを合わせる。
今回の戦闘で、破壊許可が下りているのはあの大元の神姫のみ。
他の神姫は操られている神姫だ。中には非戦闘用の神姫もいる。
そう、神姫といっても大きく二つに分けることが出来る。
神姫と「武装」神姫だ。元々神姫と呼ばれる十五センチサイズのフィギュアロボは戦闘用ではなかった。
ただ純粋に人間のサポートをするために生み出された存在。
しかしある時…神姫に武装を施し、競技として戦闘行為を行うマスターが出てきた。
他の神姫のマスターもその競技と称した戦闘行為に賛同し、参加した。
そうして拡大を続けた戦いは、バトルサービスという公式に認められしものとなり。正式にバトルサービス本部が設立されたのだ。
そしてその集大成となるのが、最初から戦闘行為を考えられて開発、誕生した私達「武装神姫」シリーズである。
そんな二種類の神姫達がたった一体の神姫に操られ、暴走している。しかしあくまで操られているだけの彼女らに非は無い。
よってなるべく無傷で元のマスターの元へ戻す必要がある。
それが本部からの通達だ。はっきりいってかなり難易度の高いミッションである。
敵となってしまった友人達は容赦無くこちらに攻撃を加えてくるのに、
こちらはそうするわけにはいかないのだ。
私達はそんな容赦無い攻撃を受け流し、耐え続けなければならない。
しかし時間が長引けば長引くほど私達が不利になる。よって迅速な行動が勝利の鍵。
「いけぇぇぇ!ミーシャぁぁぁ!」
仲間達の想いと供に私は空を翔ける。
私は今回の作戦の最優先目標にロックを合わせる。
今回の戦闘で、破壊許可が下りているのはあの大元の神姫のみ。
他の神姫は操られている神姫だ。中には非戦闘用の神姫もいる。
そう、神姫といっても大きく二つに分けることが出来る。
神姫と「武装」神姫だ。元々神姫と呼ばれる十五センチサイズのフィギュアロボは戦闘用ではなかった。
ただ純粋に人間のサポートをするために生み出された存在。
しかしある時…神姫に武装を施し、競技として戦闘行為を行うマスターが出てきた。
他の神姫のマスターもその競技と称した戦闘行為に賛同し、参加した。
そうして拡大を続けた戦いは、バトルサービスという公式に認められしものとなり。正式にバトルサービス本部が設立されたのだ。
そしてその集大成となるのが、最初から戦闘行為を考えられて開発、誕生した私達「武装神姫」シリーズである。
そんな二種類の神姫達がたった一体の神姫に操られ、暴走している。しかしあくまで操られているだけの彼女らに非は無い。
よってなるべく無傷で元のマスターの元へ戻す必要がある。
それが本部からの通達だ。はっきりいってかなり難易度の高いミッションである。
敵となってしまった友人達は容赦無くこちらに攻撃を加えてくるのに、
こちらはそうするわけにはいかないのだ。
私達はそんな容赦無い攻撃を受け流し、耐え続けなければならない。
しかし時間が長引けば長引くほど私達が不利になる。よって迅速な行動が勝利の鍵。
「いけぇぇぇ!ミーシャぁぁぁ!」
仲間達の想いと供に私は空を翔ける。
「はぁ、はぁ…」
そうして私は対峙した…白き天使に。
「いえ、悪魔ね…」
その敵はにやりと微笑み
「あら、悪魔だなんてひどいわ…フフ…貴女と同じじゃ無いの…」
「形が同じでもその心は違う!絶対に!」
「そう…じゃあ身を心も同じにしてあげる…」
その笑顔が歪んだ。
「!?」
強烈な精神波が私を襲う。これが例の…ぐ…心が侵食されていく、頭の中が取り替えられるような感覚。
ぐちゃぐちゃにかき回されていく…今までの思い出…それがどんどん遠くへ行ってしまう…
ぐ、そんなの…あぁ…い、だ…めぇ…。
「ミーシャ!!!しっかりするんだ!!」
マスターの声が聞こえる。
「マ、スタ…」
「ほら、ほらほら…早く楽におなりなさい…」
あ、あぁぁぁぁぁ!一層精神波が強くなる。
「ぐ…、うぅぐ」
「ふふふ、がんばるわね?でも貴女のお仲間さんはもう私の友達になってくれたみたいよ?」
「え、まさか…ツヴァ、イさん…ドライちゃ、ん…」
抵抗を続けていたヴァッフェの二体は無残な姿になっていた。
装備を剥がされ、目を刳り貫かれ、腕はもぎ取られ…しかしそんな外見になっても立ち上がり、そしてこちらに銃を…
「そ、そんな…ぁが!」
パァン…パァン…
銃声が無数に響く。さっきまでともに戦ってきた仲間の銃弾が私に牙を向く。
「ぐ!あぁ、ぐぅあ!」
「ふふふふふふ…」
天使の象徴である翼には穴が開き。装甲がはじけ飛ぶ。
「く、ぬぅ…」
「あら、まだ動けるの?強情な子…じゃあもっと痛い思いなさい」
そう言うとその白き悪魔はそっとミーシャに近づく。
「ぐ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
途端、腹部に激痛が走る。そして背中から青白い閃光がはみ出し、貫いた。
「がは、ぐぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ほらほらほらぁ…どんどん深く刺さっていくわ…ふふふ」
「ふぁ、ぁが…ぐ…」
意識が遠のく…も、もう駄目…ま、ますた…ぁ。
「さて、そろそろお遊びは終わ…?…ちっ…もうそんな時間?」
と、急に攻撃の手が止まる。腹部に突き刺されたライトセーバーはその凶刃の展開をやめ、セイバー発生部まで体内に入っていた状態から一気に引き抜かれる。
「ぐはぁっっっ!!がは…うぐ…」
私はその痛みに耐え切れず崩れ落ちる。そして
「ぐぁっ!?」
頭部に衝撃。白い悪魔が私の頭を踏みつけていた。
「ふん、運が良かったわね…でも次は…それとももう怖くて外に出られないかしら?」
「ぐ、う…うぅ」
私は涙を流していた。恐ろしいほどの恐怖、そしてその恐怖に負けた悔しさでだ。
「まぁいいわ…覚えておきなさい…私の名前はセイレーン…無垢な神姫を幸せの世界へと誘う女神…」
「がはっ!…セ、セイレーン…」
そう言うとセイレーンと名乗った神姫は私の頭部を踏み台に高々と飛び上がり、消えていった。
動かない体、目の可動範囲のみで辺りを見渡す。残ったのは装甲や武器の残骸だけ…神姫と呼ばれていた者達は一体として残されてはいなかった。くっ…連れ去られたんだ…。
「み、み…んな…」
私のせいだ、私がちゃんと出来なかったから皆が…。
「う、うぅ…う…」
私は泣いた…泣き続けた。遠のく意識の中で最後に見たのは走ってくるマスターの姿。
私を抱きかかえるマスター。
「…っかりするん…!みー…ゃ!!…―しゃぁぁ…ぁぁ!!」
私の意識はそこで途絶えた。
復帰したのは二十三時間後になる。
そうして私は対峙した…白き天使に。
「いえ、悪魔ね…」
その敵はにやりと微笑み
「あら、悪魔だなんてひどいわ…フフ…貴女と同じじゃ無いの…」
「形が同じでもその心は違う!絶対に!」
「そう…じゃあ身を心も同じにしてあげる…」
その笑顔が歪んだ。
「!?」
強烈な精神波が私を襲う。これが例の…ぐ…心が侵食されていく、頭の中が取り替えられるような感覚。
ぐちゃぐちゃにかき回されていく…今までの思い出…それがどんどん遠くへ行ってしまう…
ぐ、そんなの…あぁ…い、だ…めぇ…。
「ミーシャ!!!しっかりするんだ!!」
マスターの声が聞こえる。
「マ、スタ…」
「ほら、ほらほら…早く楽におなりなさい…」
あ、あぁぁぁぁぁ!一層精神波が強くなる。
「ぐ…、うぅぐ」
「ふふふ、がんばるわね?でも貴女のお仲間さんはもう私の友達になってくれたみたいよ?」
「え、まさか…ツヴァ、イさん…ドライちゃ、ん…」
抵抗を続けていたヴァッフェの二体は無残な姿になっていた。
装備を剥がされ、目を刳り貫かれ、腕はもぎ取られ…しかしそんな外見になっても立ち上がり、そしてこちらに銃を…
「そ、そんな…ぁが!」
パァン…パァン…
銃声が無数に響く。さっきまでともに戦ってきた仲間の銃弾が私に牙を向く。
「ぐ!あぁ、ぐぅあ!」
「ふふふふふふ…」
天使の象徴である翼には穴が開き。装甲がはじけ飛ぶ。
「く、ぬぅ…」
「あら、まだ動けるの?強情な子…じゃあもっと痛い思いなさい」
そう言うとその白き悪魔はそっとミーシャに近づく。
「ぐ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
途端、腹部に激痛が走る。そして背中から青白い閃光がはみ出し、貫いた。
「がは、ぐぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ほらほらほらぁ…どんどん深く刺さっていくわ…ふふふ」
「ふぁ、ぁが…ぐ…」
意識が遠のく…も、もう駄目…ま、ますた…ぁ。
「さて、そろそろお遊びは終わ…?…ちっ…もうそんな時間?」
と、急に攻撃の手が止まる。腹部に突き刺されたライトセーバーはその凶刃の展開をやめ、セイバー発生部まで体内に入っていた状態から一気に引き抜かれる。
「ぐはぁっっっ!!がは…うぐ…」
私はその痛みに耐え切れず崩れ落ちる。そして
「ぐぁっ!?」
頭部に衝撃。白い悪魔が私の頭を踏みつけていた。
「ふん、運が良かったわね…でも次は…それとももう怖くて外に出られないかしら?」
「ぐ、う…うぅ」
私は涙を流していた。恐ろしいほどの恐怖、そしてその恐怖に負けた悔しさでだ。
「まぁいいわ…覚えておきなさい…私の名前はセイレーン…無垢な神姫を幸せの世界へと誘う女神…」
「がはっ!…セ、セイレーン…」
そう言うとセイレーンと名乗った神姫は私の頭部を踏み台に高々と飛び上がり、消えていった。
動かない体、目の可動範囲のみで辺りを見渡す。残ったのは装甲や武器の残骸だけ…神姫と呼ばれていた者達は一体として残されてはいなかった。くっ…連れ去られたんだ…。
「み、み…んな…」
私のせいだ、私がちゃんと出来なかったから皆が…。
「う、うぅ…う…」
私は泣いた…泣き続けた。遠のく意識の中で最後に見たのは走ってくるマスターの姿。
私を抱きかかえるマスター。
「…っかりするん…!みー…ゃ!!…―しゃぁぁ…ぁぁ!!」
私の意識はそこで途絶えた。
復帰したのは二十三時間後になる。
キュウン…センサー起動、視覚正常、全システムオンライン。
「う、うん…」
私は重いまぶたを開けた。
「ミ、ミーシャァァ!!!!」
「やったな!!」
「ミーシャさん!!」
目の前にはマスターいえ、ご主人様…それに凪 千晶様とその神姫、十兵衛ちゃんがこちらを覗いて
文字通り三者三様の反応を見せていた。
「ご、ご主人様…凪様…十兵衛ちゃん」
「「「ミーシャァァァ!」」」
「ふえっ」
ご主人様が私を抱き寄せる。
「良かった…本当に良かった…」
「ご主人様…」
「良かったです!ミーシャさん!!」
「おう、ひやひやしたぜ」
「ご、ご心配かけて申し訳ありませんでした…」
「良いんだよ!ミーシャさえ無事でいてくれたら!」
ご主人様はさらに私をすりすりする。
「あ、有難うございます…で、でも…」
そう言うとご主人様の表情が暗くなる。
「ミーシャ…うん、そうだね…」
「皆は、皆はどうなったんですか!!」
「…残ったのは…ミーシャ…君だけだ…」
「そ…そう…ですか」
信じたくなかった。でもそれが事実…。
「ミーシャさん…」
「………」
そうしてご主人様は私を机の上にそっと降ろす。
「なぁ…凪…」
凪様の方を向くご主人様。
「ん?…なんだ?」
「…僕は、なんとしてもあの違法神姫を食い止めたい」
「あ、あぁ…そうだな…危険だなぁ…」
「頼む!!十兵衛ちゃんの力を貸して欲しい!!」
と頭を下げるご主人様。
「…」
無言の凪様
「え…」
驚き、口に手を当てる十兵衛ちゃん。
「ご、ご主人様…?」
「分かってる!自分が何を言ってるかは重々承知だ!でも頼れるのは十兵衛ちゃんしかいない!
あの神姫に対抗できるのは遠距離攻撃、それも超遠距離攻撃法を持った十兵衛ちゃんだけなんだ!!
頼む!!僕の友人達の神姫を救いたいんだ!!」
部屋の中に静寂…音で表すなら、まさしく「シーン」が相応しい。
「言いたい事はそれだけか?」
「…」
凪様の言葉は重く冷たい。
「確かにお前には感謝してる…。十兵衛の恩人だし、他の事だったら快く受けただろう
。でもこれは違う。十兵衛が今まで体験してきた地獄…それをしろと言ってるのと同じだ…」
「…」
そう、話によれば十兵衛ちゃんの前身は地下の違法バトル出身の神姫だという。そこで培ったスキルと眼帯に内蔵された超高性能カメラを駆使し、
この前の新人戦では新人の名に相応しくない圧倒的な強さを見せて優勝していた。
しかし十兵衛ちゃんはいつしかその地下での戦いを拒むようになり、ついに逃げ出したのだ。
「それに…」
「…」
「頼む相手が違うぞ」
「え…」
「戦うのは俺じゃない、十兵衛なんだろ?確かに俺はどちらかと言えば反対だ。
でも俺は十兵衛になら出来るんじゃないかと心のどこかでそう思っている」
「マスター…」
「だから…頼むなら十兵衛に頼め!俺は十兵衛の意見に合わせる…」
と背を向かれてしまった。
「凪…」
「マスター…」
「十兵衛ちゃん…」
「はい…」
「君の答えを聞かせてくれ…もちろん無理をする必要は無いし、君一人を戦場へ向かわせるつもりも無い…」
「黒淵さん…」
「…」
しばし静寂…。そして十兵衛ちゃんが口を開いた。
「良いですよ、やりましょう」
「じ、十兵衛ちゃん…」
「マスター!私やります!私もこれ以上皆が…ミーシャさんがこんな目にあうのは見たくありません!
それに私にしか出来ないなら!私がやるべきなんです!
私はこれまで地下で何体もの神姫を文字通り葬ってきました。
その罪を償うわけじゃありません…でも…せめて
…せめてこれ以上!神姫達やマスターの方々に悲しい気持ちになるのを黙って見ていたく無いんです!
お願いします!マスター!私に戦わせてください!」
十兵衛ちゃん…なんて勇敢な…その表情からは揺ぎ無い圧倒的な決意が見て取れる。
「…」
凪様は静かに振り向き
「よし、やっちまえ十兵衛」
とにやりと笑った。
「はびこる悪を正義の業火で焼いてやれ!」
「はい!マスター!!」
「凪…十兵衛ちゃん…」
「そういうことだ創。協力してやるよ」
「凶大な悪を打ち倒しましょう!!」
あ、あれ…なんでノリノリ?
「で、でも!」
思わず口が動く。だってもし失敗したら十兵衛ちゃんが!
「大丈夫ですよ…ミーシャさん」
「じ、十兵衛…ちゃん」
「大丈夫です」
にっこりと微笑んだ。悪魔型で左目に眼帯をつけたその神姫の姿は
今までのどの神姫よりも天使に見えた。
「う、うん…」
私は重いまぶたを開けた。
「ミ、ミーシャァァ!!!!」
「やったな!!」
「ミーシャさん!!」
目の前にはマスターいえ、ご主人様…それに凪 千晶様とその神姫、十兵衛ちゃんがこちらを覗いて
文字通り三者三様の反応を見せていた。
「ご、ご主人様…凪様…十兵衛ちゃん」
「「「ミーシャァァァ!」」」
「ふえっ」
ご主人様が私を抱き寄せる。
「良かった…本当に良かった…」
「ご主人様…」
「良かったです!ミーシャさん!!」
「おう、ひやひやしたぜ」
「ご、ご心配かけて申し訳ありませんでした…」
「良いんだよ!ミーシャさえ無事でいてくれたら!」
ご主人様はさらに私をすりすりする。
「あ、有難うございます…で、でも…」
そう言うとご主人様の表情が暗くなる。
「ミーシャ…うん、そうだね…」
「皆は、皆はどうなったんですか!!」
「…残ったのは…ミーシャ…君だけだ…」
「そ…そう…ですか」
信じたくなかった。でもそれが事実…。
「ミーシャさん…」
「………」
そうしてご主人様は私を机の上にそっと降ろす。
「なぁ…凪…」
凪様の方を向くご主人様。
「ん?…なんだ?」
「…僕は、なんとしてもあの違法神姫を食い止めたい」
「あ、あぁ…そうだな…危険だなぁ…」
「頼む!!十兵衛ちゃんの力を貸して欲しい!!」
と頭を下げるご主人様。
「…」
無言の凪様
「え…」
驚き、口に手を当てる十兵衛ちゃん。
「ご、ご主人様…?」
「分かってる!自分が何を言ってるかは重々承知だ!でも頼れるのは十兵衛ちゃんしかいない!
あの神姫に対抗できるのは遠距離攻撃、それも超遠距離攻撃法を持った十兵衛ちゃんだけなんだ!!
頼む!!僕の友人達の神姫を救いたいんだ!!」
部屋の中に静寂…音で表すなら、まさしく「シーン」が相応しい。
「言いたい事はそれだけか?」
「…」
凪様の言葉は重く冷たい。
「確かにお前には感謝してる…。十兵衛の恩人だし、他の事だったら快く受けただろう
。でもこれは違う。十兵衛が今まで体験してきた地獄…それをしろと言ってるのと同じだ…」
「…」
そう、話によれば十兵衛ちゃんの前身は地下の違法バトル出身の神姫だという。そこで培ったスキルと眼帯に内蔵された超高性能カメラを駆使し、
この前の新人戦では新人の名に相応しくない圧倒的な強さを見せて優勝していた。
しかし十兵衛ちゃんはいつしかその地下での戦いを拒むようになり、ついに逃げ出したのだ。
「それに…」
「…」
「頼む相手が違うぞ」
「え…」
「戦うのは俺じゃない、十兵衛なんだろ?確かに俺はどちらかと言えば反対だ。
でも俺は十兵衛になら出来るんじゃないかと心のどこかでそう思っている」
「マスター…」
「だから…頼むなら十兵衛に頼め!俺は十兵衛の意見に合わせる…」
と背を向かれてしまった。
「凪…」
「マスター…」
「十兵衛ちゃん…」
「はい…」
「君の答えを聞かせてくれ…もちろん無理をする必要は無いし、君一人を戦場へ向かわせるつもりも無い…」
「黒淵さん…」
「…」
しばし静寂…。そして十兵衛ちゃんが口を開いた。
「良いですよ、やりましょう」
「じ、十兵衛ちゃん…」
「マスター!私やります!私もこれ以上皆が…ミーシャさんがこんな目にあうのは見たくありません!
それに私にしか出来ないなら!私がやるべきなんです!
私はこれまで地下で何体もの神姫を文字通り葬ってきました。
その罪を償うわけじゃありません…でも…せめて
…せめてこれ以上!神姫達やマスターの方々に悲しい気持ちになるのを黙って見ていたく無いんです!
お願いします!マスター!私に戦わせてください!」
十兵衛ちゃん…なんて勇敢な…その表情からは揺ぎ無い圧倒的な決意が見て取れる。
「…」
凪様は静かに振り向き
「よし、やっちまえ十兵衛」
とにやりと笑った。
「はびこる悪を正義の業火で焼いてやれ!」
「はい!マスター!!」
「凪…十兵衛ちゃん…」
「そういうことだ創。協力してやるよ」
「凶大な悪を打ち倒しましょう!!」
あ、あれ…なんでノリノリ?
「で、でも!」
思わず口が動く。だってもし失敗したら十兵衛ちゃんが!
「大丈夫ですよ…ミーシャさん」
「じ、十兵衛…ちゃん」
「大丈夫です」
にっこりと微笑んだ。悪魔型で左目に眼帯をつけたその神姫の姿は
今までのどの神姫よりも天使に見えた。
さて、やっと俺達の出番か…まったく主役を蔑ろにするとは何事だ。
「まぁまぁマスター、良いじゃないですか」
「うぅむ…しかし…」
それにしても…まさか非公式なバトルをする羽目になるとは。しかもリアルバトルだ。
いや、バトルと言えるものなのかすら怪しい。
「大丈夫か?十兵衛?」
俺は不安になった。
「はい、怖くないわけではないですが…でも大丈夫です。もう私は一人ではありませんから」
「十兵衛…そうだな!」
とはいえいくら十兵衛でもファーストリーグランカーのミーシャでも敵わない相手を倒すことが出来るのだろうか。
確かにこの前の試合、
連勝街道まっしぐらなどこぞの金持ち坊ちゃんのやたらごちゃごちゃ武装したそいつの神姫を十兵衛は何食わぬ顔
(いや、実際はかなり怒っていたのだが)で撃ち抜いた。
その試合時間はわずか一秒。
この話は今思えばあまり思い出したくも無い、あぁなんか腹立ってきた…ま、まぁそのうち話すとしよう。
それはそれとして、とにかく十兵衛の戦闘スキルは特筆すべきものがある。だが…。
いや、待てよ…今回十兵衛がすることは簡単だ。
創達の神姫が囮となって引きつけている間に、十兵衛が超遠距離から目標を撃ち向く。
よく考えれば一番安全なのは十兵衛だ。十兵衛はひたすらチャンスを狙えば良い。
十兵衛に限ってチャンスを逃す…なんて真似はしないだろう。確実に初弾必中だ。
「うん、大丈夫だな…」
「はい!!」
「じゃあ行くよ。凪、十兵衛ちゃん」
創の準備が整ったようだ。
「おう」
「はい!行きましょう」
「まぁまぁマスター、良いじゃないですか」
「うぅむ…しかし…」
それにしても…まさか非公式なバトルをする羽目になるとは。しかもリアルバトルだ。
いや、バトルと言えるものなのかすら怪しい。
「大丈夫か?十兵衛?」
俺は不安になった。
「はい、怖くないわけではないですが…でも大丈夫です。もう私は一人ではありませんから」
「十兵衛…そうだな!」
とはいえいくら十兵衛でもファーストリーグランカーのミーシャでも敵わない相手を倒すことが出来るのだろうか。
確かにこの前の試合、
連勝街道まっしぐらなどこぞの金持ち坊ちゃんのやたらごちゃごちゃ武装したそいつの神姫を十兵衛は何食わぬ顔
(いや、実際はかなり怒っていたのだが)で撃ち抜いた。
その試合時間はわずか一秒。
この話は今思えばあまり思い出したくも無い、あぁなんか腹立ってきた…ま、まぁそのうち話すとしよう。
それはそれとして、とにかく十兵衛の戦闘スキルは特筆すべきものがある。だが…。
いや、待てよ…今回十兵衛がすることは簡単だ。
創達の神姫が囮となって引きつけている間に、十兵衛が超遠距離から目標を撃ち向く。
よく考えれば一番安全なのは十兵衛だ。十兵衛はひたすらチャンスを狙えば良い。
十兵衛に限ってチャンスを逃す…なんて真似はしないだろう。確実に初弾必中だ。
「うん、大丈夫だな…」
「はい!!」
「じゃあ行くよ。凪、十兵衛ちゃん」
創の準備が整ったようだ。
「おう」
「はい!行きましょう」
そして薄暗いワゴンの中。俺と創、その他のメンバーは数台に別れて車内に、十兵衛やミーシャ達は初期位置についていた。
「気分はどうだ、十兵衛」
「はい、大丈夫です」
「気分はどうだ、十兵衛」
「はい、大丈夫です」
ごぉぉぉぉぉぉっという音が相応しい風の音。
私は目標到達地点から程よく離れた6階の屋上に来ていた。
後ろには護衛としてヴァッフェバニーがいる。
「え、えと、本当にX2、X3さんで良いんですか?」
私は二人に話しかけた。
「ええ、構わないわ」
「大丈夫よ。X1…いえ、十兵衛さん」
なんでX2、X3なんだろうか。
「それはこの小隊が第X小隊。本来は存在しない小隊だからよ」
と、さっきX2さんが教えてくれた。
「でも、本当の名前とかは…」
「もちろんあるわ、でもそれは私自身が分かっていれば良いこと」
「今回はX2、彼女はX3と呼んで頂戴」
「は、はぁ」
「そうね、この戦いが終わったら教えてあげる」
「わ、分かりました」
「ザ…気分はどうだ、十兵衛」
マスターの声だ。
「はい、大丈夫です」
「もうじき始まる。気を抜くなよ」
「はい!」
「絶対無事に帰って来い!」
「もちろんです!マスター」
私は目標到達地点から程よく離れた6階の屋上に来ていた。
後ろには護衛としてヴァッフェバニーがいる。
「え、えと、本当にX2、X3さんで良いんですか?」
私は二人に話しかけた。
「ええ、構わないわ」
「大丈夫よ。X1…いえ、十兵衛さん」
なんでX2、X3なんだろうか。
「それはこの小隊が第X小隊。本来は存在しない小隊だからよ」
と、さっきX2さんが教えてくれた。
「でも、本当の名前とかは…」
「もちろんあるわ、でもそれは私自身が分かっていれば良いこと」
「今回はX2、彼女はX3と呼んで頂戴」
「は、はぁ」
「そうね、この戦いが終わったら教えてあげる」
「わ、分かりました」
「ザ…気分はどうだ、十兵衛」
マスターの声だ。
「はい、大丈夫です」
「もうじき始まる。気を抜くなよ」
「はい!」
「絶対無事に帰って来い!」
「もちろんです!マスター」
漆黒の闇が訪れる…。
闇ととも現われるは、悪魔の歌声を持つ天使。
無数の操り人形を従えて、今日も舞踏会が幕を開ける。
殺戮と言う名の歌にのせて…。
闇、それを見つめる紅き眼差し、その目に映る悪を撃て。
「3・2・1・0!!作戦開始!!」
『ラジャー!!!』
「よし、X小隊展開開始!頼んだぞ十兵衛!X2!X3!」
「X1!十兵衛!いきます!!」
「X2了解!」
「X3了解!」
次回<凪さん家の十兵衛さん第6話『朝靄の紅眼』>ご期待下さい。
闇ととも現われるは、悪魔の歌声を持つ天使。
無数の操り人形を従えて、今日も舞踏会が幕を開ける。
殺戮と言う名の歌にのせて…。
闇、それを見つめる紅き眼差し、その目に映る悪を撃て。
「3・2・1・0!!作戦開始!!」
『ラジャー!!!』
「よし、X小隊展開開始!頼んだぞ十兵衛!X2!X3!」
「X1!十兵衛!いきます!!」
「X2了解!」
「X3了解!」
次回<凪さん家の十兵衛さん第6話『朝靄の紅眼』>ご期待下さい。