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と、いうわけで次の対戦のテーマは「接近戦も試してみよう」と相成りました。
今まで砲撃ばかりを狙い、接近戦は懐にもぐりこまれた際の迎撃程度しか行なっていなかったので若干不安は残りますが、何事も経験の積み重ねが肝要です。
そうと決まれば善は急げ。早速ターミナルへと、バトル登録に向かいます。
……が。恥ずかしながら、ここですんなりとは行かないのが私たちで。
「ええと、カードをここに入れるんでしたよね?」
「マスターさん、惜しいですがカードの前後が逆です」
戸惑いつつ確認するマスターさんに、私はその胸元からお返事いたします。
「やや、これはうっかり」
そう言いつつ、カードを『裏返して』挿入しようとするマスターさんには、ある意味でお見事です。
カード投入の段階で手間取るワケですから、その後のタッチパネル画面操作などはさらに苦戦するわけで。
ああ、私たちの後ろに並んでいる方のイラついた目が心に刺さります。
正直なところ、私がやってしまえば早いのですが、これもまたマスターさんに操作を覚えていただくために必要なこと。
マスターさんとて、確かにかなりの機械オンチではありますが、それでも何度も練習すればできるようになるのです。実際、携帯やPCメールの扱いだって、そこそこはできるようになっているのです。
先ほども言いましたが、何事も経験の積み重ねが肝要なのです。
マスターさんも、やれば出来る子なのですっ!
ですからこうして私はあえて助言に留めているのも、これもまた愛なのですっ!
もちろん、いつも温和で何事もそつなくこなすイメージのマスターさんが慣れない操作に戸惑われる姿が愛らしく思えることとは一切無関係なのですっ!
「『対戦申し込み』で……条件設定は……ええと……これでしたっけ?」
「マスターさん、そこは違います」
「やや、これはうっかり。えーと、戻るには確か……」
「申し訳ありませんがそこも違います。戻るにはそちらでなくこちらで」
「やや、これはうっかり」
ああ、私たちの後ろに並んでいる方が舌打ちなどをされています。
「では今度こそ。『対戦申し込み』で……」
「ああマスターさん、今押されたアイコンが戻るためのものです」
そして無情にも排出される管理カード。
「やや、これはうっかり」
「仕方ありません。また最初からいきましょう」
「……どきな」
「はい?」
む? なにやら後ろに並んでいた方が、強引にマスターさんの前に身を割り込ませてきます。
そして排出されているマスターさんの管理カードを無造作に手に取ると、手馴れた動作で再投入、やはり手馴れた動作でターミナルを操作して行きます。
そして瞬く間に設定が終了し、排出されたカードを手に取ると、それを乱暴な仕草でマスターさんの胸に押し付けました。
「『VRバトル』『対戦申し込み』『ステージ:ランダム』『条件:ランダム』『対戦相手指名:なし』
……これでいいだろ?」
「あ、はい、十分です」
「……ふん」
呆然としつつも、我に返ってカードを受け取るマスターさんでしたが、その方は一瞥しただけで
鼻を鳴らし背を向け、ご自身のカードを取り出しターミナルに向かいます。
……といいますか、あまりの急展開にちょっと流されてしまいましたが、無礼ではないでしょうか。
せっかく私がマスターさんのまごまごされる姿を堪能……もとい、マスターさんにターミナル操作を練習して頂いていたところにっ。
「あの……」
マスターさんが、その方の背中にお声をかけています。
「なんだ?」
……その方は、お返事こそされたものの見返りすらされません。やはり無礼です。
「ありがとうございました、代わりに操作していただきまして」
さすがはマスターさん。相手の態度は無礼でも、礼を言うべきはきちんと言う、ご立派な姿勢です。
さすがにその方も、操作の手を止めて肩越しにこちらを振り返りました。
改めてその方を見てみますと……年頃は二十歳をやや越したくらいでしょうか? ぼさぼさの髪にシンプルな革ジャンにGパンというラフな服装と、ターミナルの脇の置かれた立派な神姫キャリングケースをみるに、おそらく自由に使える時間の多い大学生さんあたりではないでしょうか。
ですが真っ当な大学生さんというには、三白眼とへの字に結んだ口元がやや不穏な雰囲気をかもし出しています。
「ターミナルの操作くらい、慣れろよ」
そしてお話の仕方も、失礼ながら丁寧とは言いがたいですね。
「いやはや、面目ない」
そんなお方を前にしても、マスターさんの態度は柔らかいまま。さすがです。
その三白眼の方は、ちらりとマスターさんの胸元……つまり私へと視線をうつしました。
な、なんでしょうか……?
「どノーマル装備のハウリンか……はん」
は、鼻で笑いましたよ?! 今この方、私を見て鼻で笑いました! なんと失敬な!
思わずムッとしてしまう私をよそに、その方はもう興味はない、とでも言いたげに再びターミナルへと向き直ります。しかもそれだけでなく、背中越しの捨て台詞まで吐かれるオマケ付きです
「そんな何にも出来ねぇ神姫でバトルに出たって、金と時間の無駄だぜ。
ウチ帰ってキャッキャウフフしてな」
な、何と言うことを……! いえ確かに実際連敗続きでマスターさんに言い訳のしようもないと思っておりますが、それにしても言い方と言うものがあるでしょうに!
憤然とそう口を開こうをした私……でしたが。
「ほほう……」
頭上より発せられた冷ややかな声に、思わず私はそちらを仰ぎ見ます。まっすぐに三白眼の方を見据えるマスターさんのお顔は私の位置からお窺いしづらいですが、いままでついぞ耳にした事のなかった冷たい声色は、しかし確かにマスターさんのお声でした。
「犬子さんが、何も出来ない武装神姫だと仰いましたか?」
その冷ややかな声に、さすがに三白眼の方もこちらに向き直りました。
「あ? なんか文句あるのか? まだ未勝利のクセによ?」
私たちの管理カード、しっかり見られていたようです。
「ええ、戦績が振るわないのは認めましょう。ですが、『何も出来ない』というのは取り消していただきます」
「へぇ……」
三白眼の方が、口元をゆがめます。獲物を目の前にした肉食獣を思わせる、獰猛な笑みです。
「そんな気はさらさらねぇ、っつったらどうすんだ?」
「取り消すと、認めさせます」
それに対して、萎縮することなくはっきりと言い切るマスターさん。
「おもしれぇ……この俺に勝負でも挑もうってのか?」
「そうすることであなたが、犬子さんが何も出来ないなどと言うことはないと認めてくれるというなら」
マスターさんは、きっぱりと即答されました。それを聞き、三白眼の方はますます笑みを獰猛なものにします。
「決まりだな」
「ええ。どちらの武装神姫が優れているか、証明してご覧に入れましょう」
……そして私はといえば。
恥ずかしながら、いつも温和でいらっしゃる印象しかもっていなかったマスターさんの新たに見る果断さに、口を挟むことも出来ずに状況の推移を見守るばかりです。
と、三白眼の方のキャリングケースが、内側から開かれました。
「……なによアキ、またなんか揉めてるの? いい加減にしてよね、おちおち寝てらんないじゃない」
そう言いながらキャリングケースから身を起こしたのは、気だるげな雰囲気を纏わせたストラーフタイプでした。胸元に飾られた、バラと剣をあしらったエンブレムがオシャレです。
彼女は素体の状態ながら……その立ち振る舞いに、只者ならざる様子をうかがわせます。
なんと申しましょうか、動作の一つ一つが洗練されている……いえ違いますね、「動作の一つ一つ」ではなく、動作全体が非常に滑らかで人間的なのです。
それはつまり、どうしても動作の継ぎ目継ぎ目が不自然になるプリインストールされた身体制御プログラムではなく、自ら調整した身体制御プログラムを構築しているということです。
私も脚部パーツをGS ver1.13に換装させて頂き、そこから派生したモーションパターン全ての総調整を余儀なくされた事があるからこそそれがどれほど膨大な処理を必要とすることかを垣間見ることはできますが……脚部パーツからの派生のみならず全身の動作において、しかもあれだけの洗練された高度な身体制御を可能とできるようになるまでにどれほどの試行錯誤と経験の積み重ねがあったのか……想像するだけで戦慄を覚えます。
その一点だけを以ってしても、相手とするなら強敵になると言わざるをえません。
「まあそういうなよロゼ。俺たちに勝負を挑もうって言う勇気ある身の程知らずどもさ。
丁寧に遊んでやらねぇと罰が当たるってもんよ」
三白眼の方が、にやりと笑ってご自身の武装神姫に声をかけます。
ロゼ、というのがこの武装神姫の呼び名のようです。そういえば先ほどロゼさんが口にしていた「アキ」というのが、三白眼の方のお名前でしょうか。
「ふうん……この子がその相手? 見たところてんで素人っぽいけど」
余計なお世話です。と言いますかオーナーがオーナなら、神姫もまた随分と態度が尊大ですねっ。
それにしても位置的には貴女の方が低い場所にいるというのに、それでも私を見下す視線を取れるとは、なかなかに器用なお方です。
と、ロゼ(仮)さんはあからさまに肩をすくめ、首を振ります。
「ホントいい加減にしてよね……そうやってアキがバカみたいに噛み付いたケンカ、全部アタシにお鉢が回ってくるんだから」
「バカとは何だバカとは?! このバカ神姫が」
「なによー! バカって言う方がバカなんだからね!」
「その言葉、そっくりそのままノシつけて返す! ってーか今回は俺から売ったケンカじゃねぇ!」
「ふーん、今回『は』ね、今回『は』」
「う……」
「どうせそれだって、またアキが余計なこと言ったのが原因なんでしょ?」
「うう……!」
なにやら、類似の件は今までにもあったご様子。
アキ(仮)さん、口をしばらくパクパクさせておりました。反論の言葉を捜しているものと思われます。
結果、そのお口をついて出たのは。
「……メール管理もろくすっぽできねぇバカ神姫に言われる筋合いはねぇ!」
……いえアキ(仮)さん、それは反論になっていません。と言いますか、明らかに逆切れです。
「何よ! そんな雑用なんて、電子秘書でもなんでも買ってやらせればいいでしょ?!
 アタシは武装神姫よ、ぶ!そ!う!神姫! だからバトル最優先に決まってるじゃない!」
いえロゼ(仮)さんも、その反論はさすがにどうかと。
と申しますか、もしかしてお二人とも私たちの事をお忘れではありませんか?
お二人とも睨み合っておりまして、完全にお互いしか見えていないものとお見受けしますが。
「あのー……」
そんな私の思いを汲み取っていただけた……という訳でもないのでしょうが、マスターさんがおずおずとお二人に話しかけられました。
はたと、睨み合っていたお二人が同時にこちらを向かれました。
そのお顔は、如実に「私たちの存在を今思い出した」と語っておられます。
そしてアキ(仮)さんが、咳払いをひとつし、マスターさんへと向き直りました。
「勝負の方法はどうするんだ?」
あからさまに誤魔化し+照れ隠しです。
あ、ロゼ(仮)さんがキャリングケースに引っ込みました。
なんと申しますか、お二人の醸し出していた『未知の強敵』のイメージがわりと台無しです。
「僕のほうから提示する条件は一つ。三本勝負での決着を望みます」
そんなアキ(仮)さん達のご様子を見ていなかったかのように振舞うマスターさんは、やはりすばらしい方だと思うのです。
「別に三本だろうが十本だろうがかまわねぇけど……それなら勝てると踏んだってのか?」
「ご想像にお任せしますよ。一本目は譲ります。そちらのお好きに条件を設定してください」
「へぇ……大した自信じゃねぇか」
アキ(仮)さんは不敵にお笑いになりました。どうやら調子を取り戻されたようです。
「ええ、どんな条件にしろ、結果は変わりませんからね」
「……よく言った。後悔すんなよ?」
アキ(仮)さんが、再びにやりと獰猛な笑みを浮かべました。
「俺の名前は佐藤正昭(さとうまさあき)。こいつがローザリッタだ。大口叩くだけの歯ごたえを期待してるぜ?」
申し訳ありませんアキ(仮)さん改め佐藤さん、不敵な台詞もわりと手遅れ感が漂います。
「ま、せいぜい頑張りなさいな」
えーとロゼ(仮)さん改めローザリッタさん、キャリングケースの中からそう言われましても。




「……ですが正直、意外でした」
ここは休憩スペース。いつも私たちが対戦後の反省会を行なっている場所です。
もっとも今は反省会ではなく、単に飲み物を購入しに立ち寄っただけですが、何はともあれ佐藤さんたちと一時別れ私たちだけになったところで、私はかねてよりに疑問を口にしてみました。
「何がです?」
自動販売機にコインを投入しながら、マスターさんがお答えになります。
「マスターさんが、勝負を受けたこと……いえ、ご自身から勝負を挑んだことがです」
私の知っている限りのマスターさんには、相手が少々無礼な態度を取っても柔らかく受け流すような、そんなイメージを抱いていたものですから。
「僕のほうこそ、ちょっと意外ですねぇ」
自販機から出てきたペットボトルを二本拾い上げながら、マスターさんが少し不本意そうなお顔で仰いました。
「僕は、犬子さんのことを侮辱されて黙っているような、そんな人間と思われていたのですか?」
………………………!
申し訳ない気持ちと、それをはるかに上回る感極まる気持ちが私の感情回路を乱し、ドッグテイルが暴走を開始します。
私のためにお怒りになってくださっていたとは……そんなことにも気付かなかった、自らの不明を恥じ入るばかりです。
「あー、いえ、そんな風に畏まらないでください。僕自身も熱くなっていてのことですし、改めてそんな風に言われると、こちらこそ恥ずかしいですから」
そう仰るマスターさんのお顔を伺えば、かすかに赤みがさしていらっしゃいます。そんなマスターさん
のご様子は、先ほどの初めてお見かけした果断なるマスターさんでなく、私のよく知る温和なマスターさんでした。
そのことになんとなく根拠のない安心感を覚えた私は、次の話題を振ることにします。
「ところでマスターさん」
「なんでしょう犬子さん」
「先ほどの浜野さんのお話ですが、どうお考えですか?」
「そうですねぇ……」
実は私たちがこちらに来たのは、単に飲み物を買いに来ただけという訳ではありませんでして。
浜野さんが私たちのことを、佐藤さんに見つからないようにこっそりと手招きしお呼びになった、それに応えるための離席の口実でもあったのです。
『ちょっと揉めちゃったみたいだねー』
佐藤さんたちから見えない位置に誘われた私たちへ、浜野さんはいつものにこやかなお顔に若干の苦笑いを混ぜてお話くださいました。
なんでも佐藤さんはこちらのセンターでも指折りの実力者なのですが、バトルでの苛烈さや好戦的で尊大な態度、歯に衣着せぬ物言いであまり評判はよろしくないお方だとのことです。
とくに弱者や敗者にかける言葉などは、相手の至らない点を容赦なくビシバシと指摘する厳しいものばかりで、『そんな言い方をしなくても』ということが多いとか。
『でもさ、そんな悪い子でもないんだよ。丁寧に手入れされた神姫を見てればそれは分かるし。
ただちょっと熱くなりやすくて口が悪くて、思ったことをそのまま口にしちゃうだけなんじゃないかな』
それだけ揃えば十分問題人物と言う気もしないでもないですが、さておき今はさらにちょっと機嫌が悪いため、いつもよりも余計に荒れているとのことです。
『実は佐藤君、今まで通算29連勝しててね。それで今日は30連勝達成だって意気込んでて、店のほうでもこっそり記念品とか用意してたんだけど、そこで当たった相手が変わっててさー』
数値としては凡庸な勝率でしかないその対戦の相手は、その実よく見れば特定のステージ以外ではてんでからきし、されどそのステージであるならば常勝不敗と言う、極端な戦績を持つ規格外なお方だったとか。
そしてロゼさんが30連勝をかけてその相手と戦ったステージが、あろうことか先方がまさに無敗を誇る砂漠ステージだった、と。
油断をしていたわけでは決してなかったにせよ、ぱっとしない勝率を見てつい気が抜けてしまったのであろうその対戦の結果は、推して知るべし、です。
『うん、単に強敵に負けたってだけならまだ良かったんだろうけどね。
そんなピーキーな戦績の、しかもしっかり注意してそのあたりをちゃんと読み取っていれば少なくとも警戒は出来た対戦を、自分の不注意でコテンパンにされて念願の30連勝を逃したってのがかなりショックみたいでさー』
それは確かに、悔やんでも悔やみきれないことでしょう。
『要するに君たちは、その八つ当たりの矛先にたまたま当たっちゃったってことだね』
浜野さん、身も蓋もなさすぎです。
『まあ、これも縁だと思って、適当に気晴らしに付き合ってあげてくれるかな?』
浜野さんはそう締めくくって、お仕事へと戻られました。
以上、回想終了です。
「……正直なところ私は、あの方々が『悪い人ではない』と言われても賛同しかねますね」
マスターさんにも無礼な態度でしたし。鼻で笑われましたし。見下されましたし。
「うーん、まだ確証を持てるほど彼と関わったわけではありませんが……僕としては、やっぱり彼はそれほど悪い方とも思えませんね」
「思えませんか」
さすがマスターさん、人間が出来ていらっしゃる……と言いたいところですが、さすがに意外です。
「はい。なんだかんだと言いつつ、僕達のバトル登録を代わりにやってくれたじゃないですか」
それは言われて見れば確かに。態度はやや悪かったですが、困っているところを見かねて手を貸した、とも見えなくもないです。
「そして、そのあとの『何も出来ない武装神姫』の下りも……まぁ、あの時は僕も冷静ではいられなくて思わず反発してしまったわけですが、もしかしたら『能力の平均的なハウリンタイプは器用貧乏になりやすいから、なにか一芸を持つようにしないといけないよ』というアドバイスだったのかもしれませんし」
「それはさすがに、好意的過ぎる解釈かと」
「うーん、そう言われると弱いですねぇ」
マスターさん、少し困ったように苦笑いされながら、頭を掻いていらっしゃいます。
「ただまぁ、ああいう感じの方はいますからね。ご自身が優秀な分、周りの至らない部分がどうしても目に付いてしまって、それを黙っていられないような方が。
佐藤君も同じで、武装神姫に対して真摯であるからこそ、他の人の未熟な点が見過ごせないのかもしれません」
そういうものなのでしょうか?
「確証があるわけでもないんですけどね……まぁ、そのあたりは対戦しながら見極めていきましょう」
そしてマスターさん、口元に拳を当てて小さくクスッとお笑いになり。
「それでやっぱり性根のよろしくない方で、犬子さんを侮辱したのも悪意からのものだったと言うのであれば、その時は土下座して『もう勘弁してください』と言いたくなるまで叩き潰せばいいことですし。
くすくすくすくすくすくす」
「マスターさん、申し訳ないですけれどもその笑い方少し怖いです」
「やや、これは失敬」
どこかで聞いた覚えがあるような会話はともかくとして。
「マスターさんには、勝算がおありなのですね」
正直なところ、私があのローザリッタさん……ロゼさんに勝てるとは思えないのですが。
「ええ、佐藤君もうまい具合に、こちらの思惑に乗ってくれましたからね」
けれども、マスターさんがそう即答で断言されたならば、私に疑いようなどありません。
「でしたらマスターさん、私も微力を尽くします。ご采配よろしくお願いいたします」
深々。
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
深々。
「……ところで犬子さん」
「何でしょうマスターさん」
「先ほど佐藤君の仰ってた『キャッキャウフフ』というのは、どういう意味なのかご存知ですか?」
あー、口にしていましたねぇ。前後の文脈の方の気をとられてスルーしていましたが、確かに仰っていました。
「『キャッキャウフフ』というのは、『武装神姫と睦びあっている』状態を差す俗語表現で、古典コミックにおける男女間の睦びあう描写に際して使用された表現をなぞらえたものが語源といわれています」
「……色々な意味で、わりと微笑ましい台詞回しですね」
「ええ、わりと」
「……………………」
「……………………」
「やっぱり佐藤君、さほど悪いお方ではない様な気がするのですが」
「奇遇ですね。私も今しがた、ちょっとだけそんな気がしてきていた所です」




こうして、私たちの初の『対戦相手の顔を見据えての、指名対戦』の火蓋が切って落とされようとするのでした。




……が。




「お待たせしました」
ペットボトルを片手に、マスターさんはにこやかにご挨拶なさいます。
「別に待ってねぇ」
対する佐藤さんは順番待ち用ベンチに膝を組んで腰掛け、その膝の上に立てた腕に顎を乗せて、そっぽを向いていらっしゃいます。
「んー、順番待ちの列はあんまり減ってませんねぇ」
「俺に話しかけるな」
「武装神姫の人気は、さすがと言うことですねぇ」
「だからどうした」
「この分だと、まだまだ待ちそうですねぇ」
「見りゃ分かるだろ」
「実は前から疑問に思ってたんですよ。ほらゲームなどを題材にした少年漫画とかにある、主人公とライバルが対戦することになるシーン」
「唐突だなおい」
「大抵そういうのは人気のゲームとかを扱ってるんですが、それにしては都合よく二人分の機械があいてるなぁって。そう思ったことありません?」
「ねぇ」
「やっぱり現実にはそうそううまく行きませんよねぇ。漫画だと冗長にならないように
その辺は省いてるんでしょう」
「俺が知るか」
「……聞きましたか犬子さん。この打てば響くようなシンプルでそれでいて的確なツッコミっぷり」
「はい。私たちにはなかったスキルですね」
「何がスキルだ何が」
「……いやはや本当に、いちいち反応を返してもらって、ありがたい限りです」
「お見事な律儀なツッコミっぷり、頭が下がります」
「ホントに下げるな」
「あ、よかったらこれ飲みません? まだ時間ありそうですし」
「いらん」
「まぁそう言わずに。二本あっても一人じゃ飲みきれませんし」
「……ちっ、仕方ねぇな。よこせ」
「はいどうぞ。お茶でよかったですか?」
「なんでもいい。……ありがとよ」
「聞きましたか犬子さん」
「聞きましたよマスターさん」
「なんか文句あんのかこら?! 物もらったら礼くらい誰だって言うだろうが?!」
「文句なんてとんでもない。むしろそれを当然と言い切れる誠実さに、感銘を受けているところですよ」
「私、先ほどのお話を信じてもいいような気がしてきました」
「何の話だ何の?!」
「……ちょっとぉ、なに騒いでんのよアキー? うるさくて眠れないじゃない」
「あ、これはお騒がせしました。まだ順番は回ってこないようですから、ごゆっくりお休みください」
「申し訳ありません、すぐに静かにしていただきますから」
「俺か?! 俺が悪いんか?!」


とまぁ、こんな風に。
カッコよく宣戦布告した相手とのんびり順番待ちをしなければならない情況がいたくご立腹であるらしい佐藤さんと、そんなことはお構いなしに物怖じせずいたって友好的に話しかける私たちの対戦の火蓋が実際に切って落とされたのは、それから10分後のことでした。









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