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 ―Name:『Unknown』 VR-Field, V.B.B.S.Main Server. 
 ―『THE WORLD』, Remainder time to explosion, "1 minute and 8 seconds."
 
 VRフィールドは、アルカナが出した聖杯の力により海で満たされていた。
 大津波に巻き込まれてしまった烈風と連山は、ようやく水面に顔を出した。
「ぷはっ!! こんにゃろ、派手にやってくれんじゃねぇか!!」
「うみゅぅぅぅぅ……これなら水の中の方が安全だったかもしれない~…」
 烈風は聖杯の海に紛れて姿を消したアルカナに怒鳴り散らし、連山はドゥンにしがみつきながらがっくりと項垂れていた。
『主、そうもいかない。先程から水流に異変を感じる』
 ドゥンの警告と同時に、聖杯によって満たされた海は烈風と連山を中心に荒れてきた。
「あぅあぅあぅ……何だか~目が回ってくるぅぅ~…」
「今度は渦潮ってヤツか!? 巻き込まれるとやばいっての!!」
 徐々にうずを巻いて行く聖杯の海に危機感を覚え、烈風と連山は急いで水面上に上がったが、今度は奇妙な波が烈風に向かってきていた。その波は徐々に隆起して縦に細長くなっていくと、鋭利な刃物と化して二人に向かってきた。
「やべっ!?」
「水の刃に抗うなら~っ!」
 烈風は刃と化した波を避けようとしたが、想像したよりも波は速かった。その一方、連山はドゥンの上に立ち破邪顕正を構える。
 烈風は咄嗟に翼のリフレクターを展開させて刃の波を防いだが、その衝撃は思ったよりも強く、翼が折れてしまった。
 飛行能力を失ってしまい、烈風はそのまま巨大な渦潮の海に落下してしまった。
「れ、れっぷぅぅ~~っ!?」
 
 
 
    ANOTHER PHASE-08-4
                『Last Card』 ―WHEEL OF FORTUNE―
 
 
 
 墜落した烈風を見て連山は動揺しそうになったが、自分にも迫ってくる刃の波に向かって破邪顕正を薙ぎ払った。すると、破邪顕正の穂先から生じた空気の刃が刃の波を相殺した。
『主、相変わらず無茶苦茶をされる……』
 その一部始終を見ていたドゥンは半ば呆れていたが、連山はそれどころではなかった。
「れっぷう、れっぷぅぅぅ~っ!?」
 黒き翼を破損した烈風が渦潮に飲み込まれてしまったのだ。溺れる心配は無いが、アルカナが巻き起こした渦潮が唯の渦潮なわけが無い。
『主、新たな波が!』
 そう言っている間にも連山目掛けて新たな、刃の波が次々と襲い掛かってきた。先程と同様のやり方で対処なら出来るが、このままではどうしようもないのも確かだった。
「ふみゅぅぅぅ~っ……烈風っ、無事ていて~っ!!」
 その一方で、渦潮の中に墜落した烈風に連山の声が届く事はなかった。
 幾ら抗おうにも渦の流れはあまりにも速く、渦潮がかけてくる圧力は容赦なく烈風を押しつぶそうとしてくる。
(「Shit-ass! このままじゃ……!!」)
 身体が軋むような嫌な音が聞こえてくるが、烈風は諦めなかった。
 無理矢理体を翻すと水流に従って泳ぎ、渦潮の一番下に到達した。
(「こんの……!!」)
 水流に耐えながらコルヌを抜いてクリスタルの床に突き刺すと、コルヌにしがみつくように自分の体を固定する。次に、グレネードランチャーに通常グレネード弾を慎重に装填した。
 激しい渦潮にグレネード弾を取られそうになったものの弾倉に装填すると、床に突き刺したコルヌを右手で抜きながらグレネードランチャーの銃口を床に対して斜めに当てつつ発射した。
 射出後、すぐに床に着弾して烈風を真後ろに弾き飛ばした。そしてそのままグレネード弾をタイミングよく発射し、衝撃波を利用して更に後退した。
(「ここまでくりゃ、少しは持つな…」)
 そうして、かなり強引にも何とか烈風は渦潮の外へ脱出した。だが、渦潮に巻き込まれた時に黒き翼は完全にへし折れてしまい使いものにならなくなってしまった。
(「けど……くっそ、こっからどうすりゃいいんだ……!?」)
 烈風は海の底で渦潮から逃れ、連山は刃の波と交戦していたその時だった。
 その遥か上空の空間が不自然に大きく歪むと、得体の知れない白き巨大なユニットらしき物体がVRフィールドに現れた。
 
 
 
 ―Name:『Unknown』 VR-Field, V.B.B.S.Main Server. 
 ―『THE WORLD』, Remainder time to explosion, "45 seconds."
 
 VRフィールドへ転送された震電は、速やかに捕捉すべき対象を捜していた。
『目標座標、2775-1500-0。1時の方角です。ここからの距離は約2644。水中にいます』
「……問題ない」
 ”ヴェズルフェルニル”の防弾風防の中で、震電は”ヴェズルフェルニル”のAIと対話していた。巨大且つ大量の重火器の塊である”ヴェズルフェルニル”の管制の為に設けられたもので、震電のサポートも行う存在だった。
『目標と別の高エネルギー反応検出。カップ状のものでサイズは極めて微小です』
「……了解。攻撃対象、アルカナ及びカップ、捕捉完了。”サリッサ”射出します」
 震電の命令と同時に、”ヴェズルフェルニル”本体上部の左ブロックが展開し、同時に三角柱の様な形状の大型コンテナが前方に射出された。
 
 一方、アルカナは巨大な闖入者に暫く驚いていたが、すぐに聖杯の力を振るった。
《之は大地の穢れが故の裁き也……!!》
 アルカナの言葉に呼応し、聖杯は小さく輝き始めた。
 
 そして連山とドゥンはと言うと、アルカナからの攻撃が止み、更に渦潮も消え去って沈黙状態となった事に奇妙な違和感を感じていた。
『何かの前触れ……?』
「そ、それよりもドゥン~っ!! 連山はここにいるから~早く烈風を探しに行ってあげて~っ!!」
『…御意』
 今はもっと警戒すべき時なのかもしれないが、ドゥンは連山の言葉に従い海を潜っていった。
 当然、重装備をしている連山はそのまま海に沈んでいくものかと思われた。
「Xスラスター展開~っと!!」
 その言葉と同時に、連山のレインディア・アームドユニットの二門のハイパーエレクトロマグネティックランチャーが綺麗なV字型に割れると、ランチャーの間から大量の噴射ガスが放出され、連山の体を水面上に浮かした。本来のハイパーエレクトロマグネティックランチャーの性能をやや犠牲にした代わりに得た隠し機能だった。
「さて、と~…一体何が起き……てぇぇぇっ!?」
 連山が現状を把握しようとした瞬間、再びとてつもなく巨大な津波が襲いかかろうとしていた。思わず連山はスラスターの出力を一気に上げて、更に高高度まで飛んでいった。
「な、何あのでっかいのぉ~っ!?」
 そこでまた連山は、見たこともない白い巨大ユニットの姿に仰天してしまうのだった。
 その巨大ユニットから発射されたらしい三角柱の様な形状のコンテナが回転し始めたと思うと、無数の小型ミサイルが発射された。それは何十発と言う規模では無い。文字通りのミサイルの嵐だった。
「え、えっと~……津波がこっちに向かって~…このでっかいのが反撃してきて~……」
 連山は落ち着いて状況を分析していると、自分の通信ユニットが鳴り出した事に気付いた。慌てて取ると、震電の低い声が聞こえてきた。
『……津波に備える。私の陰に退避していろ』
「し、震電~っ? あのでっかいのが~!?」
『………さっさとしろ』
 半ば混乱状態にあった連山を納得させるのを諦め、震電は”ヴェズルフェルニル”のサブアームを伸ばすと強引に連山の体を掴んで引き寄せた。
『”サリッサ”、全弾射出完了。全弾、津波を抜け目標へ飛来』
「……私もこのまま抜ける」
 そして、大津波が”ヴェズルフェルニル”に迫ってきた瞬間、その前面に強力なバリアの様なものが展開されると同時に震電は加速した。
「うきゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」
 ”ヴェズルフェルニル”の巨大なサブアームに掴まれたまま加速され、連山は情けない悲鳴を上げることしか出来なかった。
 そしてそのまま大津波へと突入した。
 
 その一方でアルカナは、大量に飛来してくる物体に焦りを感じていた。
《こんな切り札を用意していたと言うのか……!!》
 アルカナは聖杯を掲げると、水面から鉄砲水の様なものを次々と発射させて、無数の小型ミサイルを迎撃しようと試みた。
 だが、無数の小型ミサイルは一つ一つが意思を持っているかの如く、襲い掛かってくる鉄砲水を全て回避すると、水中へ突入してそのままアルカナと聖杯目掛けて飛来した。
 アルカナは再び聖杯の力を振るい、今度は水流を操ってミサイルの進行を阻止しようとするが、無数のミサイルはアルカナを完全に囲うように襲い掛かってきた。
 そして、その内の一発が水流を突破し、アルカナが持つ聖杯に命中するとそのままアルカナを貫くように進行した。同時に水流が掻き消え、水流で押さえていた残りのミサイルが全てアルカナ目掛けて殺到した。
《おのれ……ミサイル如きにぃぃぃ……!!》
 そう叫んだ瞬間、天にも昇るような水飛沫と共にVRフィールド全体がぐらついた。
 
 水中に潜ったまま、連山がよこしてきたドゥンに掴まっていた烈風は、アルカナがいる方角から凄まじい轟音を聞いた。
『しっかり掴まれ!』
(「おわっ、なんだ、何だ!!?」)
 激しい炸裂音と水音が入り混じったそれを聞いたと思った瞬間、急に体が重たくなり、視界が妙にすっきりしたように感じた。
 倦怠感に似た体の重さを持ち堪えさせると、烈風はその意味をやっと理解した。
「うぉっと……う、海が消えちまった……!?」
 烈風はドゥンから手を離して唖然として周りを見渡すと、最初に見たような宇宙とクリスタルの床で構成されたフィールドに戻っている事に気付いた。
 状況の把握が正確に出来ずにいた時、上空から連山の声が聞こえてきた。
「れっぷうぅぅぅ~っ!!」
 連山は、素体にも所々ヒビが入りかかり黒き翼が完全に折れてしまった烈風の体を抱きとめた。渦潮に巻き込まれて脱出には成功したものの、烈風が受けたダメージはあまりにも深刻だった。
「レン、無事だっt……な、何だありゃ!?」
 連山に抱きしめられながら、その上空に浮かぶ巨大な物体を見て烈風は思わず仰天した。それと同時に、その巨大な物体――”ヴェズルフェルニル”から震電の声が聞こえてきた。
『……まだ、アルカナは消えていない』
「お、オマエ震電かよ!? やたら遅いと思ったら、んなデカブツ拵えやがって……!」
 到着が大いに遅れた事に一切反省を示そうともしない震電に烈風は逆上したが、慌てて連山がそれを抑え込んだ。
「あわわ~烈風ぅ~っ! 震電ちゃんのお陰で~何とかさっきの海が引いたんだってばぁ~っ」
『……もう一度言う。【世界】であるアルカナはまだ倒れていない』
 然し連山のフォローを無視し、”ヴェズルフェルニル”の中の姿の見えない震電の声に烈風は更に血が昇りそうになったが、遠くにいるアルカナの声を聞いて意識をすぐにそっちに傾けた。
 
 
《我をここまで追い詰めるか……人形師の下僕共!!》
 
 
 震電によるミサイルの嵐を受けたと言うのに、アルカナは身体の所々がデータの屑となって少しずつ消失しながらも、その怒りを三人に向けてきた。
 
 
《そこまで抗うと言うのなら……答えよ、我々が争わねばならぬその意味を!》
 
 
 その言葉と同時に、アルカナの周りを囲う細かな六角形のパネルで構築された輪が激しく輝く。すると、アルカナを核にして虚空から巨大な何かの欠片が現れ、アルカナの周囲を構築し始めた。
 巨大な欠片のような物体はアルカナ本体よりも遥かに大きかったが、まるで一つ一つが鎧のパーツのようにアルカナを厳重に取り囲んでいく。
 そして……全ての欠片が組み合わさった時、そこには”ヴェズルフェルニル”に匹敵する程の大きさの、異形の”神”がいた。それはまるで、古代より伝わる女神の像が命を宿したかのように。
 
 
 
 
《荊を掻き分けし人形師達と下僕達よ…知るが良い。神姫の在り方を、人形師の心を分け与えし存在の意味を……!!》
 
 
 
 
 『世界』としての最後の姿をとったアルカナは、三人に向けて最後の粛清を始めた。
 襲い掛かるアルカナに、烈風と震電と連山は怯むことなく言葉を返した。
「思いを共にする相棒であれ……師匠の受け売りなんだけどね~っ!!」
 ドゥンに乗りながら連山は、無くしてしまった破邪顕正の代わりに、レインディア・アームドユニットから二本のフォービドブレイドを外して構えなおした。
『………人の姿をしている、そして人間の様に振舞える。それが答えだ』
 ”ヴェズルフェルニル”を駆る震電は高高度を維持すると、次の行動に適した兵装を選択し始めた。
「それをてめぇなんかが言えるか! それにボクらは下僕じゃねぇ、武装神姫だっ!!」
 そして烈風が啖呵を切ると、ボロボロになった身体を引きずりながらコルヌを抜き払い、グレネードランチャーを構えた。
 
 
 
 ―Remainder time to explosion, "22 seconds."
 
 最後に”神”となったアルカナは、巨大な剣を振り上げて”ヴェズルフェルニル”を駆る震電に斬りかかった。
 すると、”ヴェズルフェルニル”の二本のサブアームから巨大なライトセイバーが伸び、アルカナの剣を受け止めた。
『緊急回避を行ないながら、”バルディッシュ”で交戦します』
 ”ヴェズルフェルニル”のAIがそう言ってきたが、震電はすぐに返事せずに暫く俯いていた。
 いつしかLRSSゴーグルを外すと、切れ長の瞳孔の灰色の瞳でアルカナを睨みながら自らに念じた。 
(「Calm concentrate......"Der-Freischutz", unlock. Rest-63. Ready, go」)
 震電がそう念じると同時に、自分をを中心とした空間の構造物の位置、大きさ、形状の情報が怒涛の如く意識視野の中に入ってくる。新たに変化した情報はカンマ一秒以下の単位で更新され、震電に明確な情報を伝える。このVRフィールド内部のほんの僅かな動向も変化も完全に見逃す事は無くなった。
 隠された機能を発揮すると震電はすぐにAIに返事した。
「……いや、距離を取る。1秒稼げ」
 AIに指示すると震電は、防弾風防からホーンスナイパーライフルの銃身を覗かせた。
 巨大な”ヴェズルフェルニル”ユニットには他にも強力な火器が大量にあるにも係わらず、防弾風防から覗かせる銃身はあまりにもちっぽけだった。
(「……弱点捕捉、距離・空気抵抗・未来位置クリア。今だ」)
 震電はスナイパーライフルから一度に5発の弾丸を放った。その5発の弾丸は、剣を持つ腕と両足の間接部、頭部の両目に吸い込まれるかのように命中した。
 
《これしきの弾丸が……グアァァァァァァァァァァッ!?》
 
 弾丸が命中した箇所から奇妙なガスの音が聞こえると、アルカナは左膝をついて苦しみ出した。
 ”ヴェズルフェルニル”とほぼ同じサイズとなったアルカナに、普通のライフル弾では確かに無力だ。だが、こちらの世界に来る前にミラから渡された小箱には、”禁断の苦痛”の名を冠する必殺の弾丸が入っていた。
(「……カートリッジ、3発」)
 その隙に震電は”ヴェズルフェルニル”のエンジンを起動させてターンし、アルカナから距離を取った。 
 
 
 
 ―Remainder time to explosion, "18 seconds."
 
 苦しむアルカナの前に、ドゥンに乗った連山が二本のフォービドブレイドを構えた。
「でっかくなったら強くなる……なんて嘘に決まってるんだからぁ~っ!!」
 構えていたフォービドブレイドが、黄金色に輝く炎の様なプラズマに包み込まれた。そして、ドゥンの上に乗りながら、流麗にしてしなやかな剣の舞を舞った。
 すると、二本のフォービドブレイドから三日月のように鋭利な形状となったプラズマ波が、舞う毎に次々と連射されていった。
 如何なるものも通さない程に強固だった筈の、アルカナの巨大な身体の胸部が徐々に欠けていき、無残なまでにプラズマ波の爪痕を残した。
「おっしゃ、チャンスだぜっ!」
 それを見た烈風は連山に続き、四足獣形態となってアルカナの身体の一部を掴みながら高く跳び上がると、連山が攻撃して脆くなった箇所にグレネードランチャーを至近距離から打ち込んだ。
《貴様……っ!!》
 思いがけぬ攻撃が度重なってアルカナは激昂すると、全身が眩い光に覆われた。危機感を覚えた烈風はすぐにアルカナの身体を蹴って距離を取った。
 そして、全身を包んでいたその光は無数のレーザーとなって、VRフィールド全体を容赦なく、当たりかまわず乱射し始めた。
「うひょぉ~っ、こんなの正気じゃねぇっ!?」
 その激しい攻撃はクリスタルで出来た床を砕く程であり、烈風は必死になってそれを避けていた。
「れっぷぅ~っ!!」
『主、危険なのは私達もだ』
 そう警告してきたドゥンはレーザーを必死で避けるように動いていた。だが、その警告をした事で危うくも一本のレーザーがドゥンの赤い胴体を掠めた。
『グゥ……!!』
「ご、ごめん~っ! そうだ、避けられないなら受けるしかない……と!!」
 連山はすぐにアルカナの方に留意すると、全身から青白いエナジー体を展開した。
 その見た目はあまりにも儚いバリアのようだったが、自分に飛んできたレーザーがエナジー体に触れると、レーザーは消滅すると同時に、青き光の粒子となって連山に吸収された。
「えへへ~これなら欠伸しても大丈夫~♪」
『なら、速やかにして欲しい……』
 連山はそんな余裕を口にして、ドゥンを軽くへこませた。
 その正体は通常のバリア等とは異なり、実弾への防御能力を無くした代わりに光学兵装をエネルギーに変換して吸収する限定的な防御武装だった。
《我の光波を封じるとは……》
 アルカナは連山の余裕に気付くと、すぐにレーザーを止めた。
 
 
 
 ―Remainder time to explosion, "15 seconds."
 
 そしてすぐに、新たな巨大な欠片の様な物体がアルカナを囲うように構築し始めた。
 その姿はさながら羽化したばかりの蝶のようであり、宇宙空間を飛ぶものとしてそれは優美にしてあまりにも壮麗だった。
 だが、そんな姿に見とれている暇はなかった。
 アルカナが鋼の羽根を羽ばたかせると同時に、今までVRフィールドの床を構築していたクリスタルの床を全て消し去ってしまった。
 烈風は、本来はあり得ない筈の重力に引き寄せられるのを感じた。
「う、嘘だろ……っ!!?」
 空を飛ぶ術を失ってしまった烈風は、果て無き宇宙空間のフィールドへまっ逆さまに落下していった。
「れ、烈風ぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!! もう一回追ってってばぁっ!!」
『御意!!』
 ドゥンは再び連山から離れて落下する烈風を追った。それと同時に連山は跳ぶと、ハイパーエレクトロマグネティックランチャーをXスラスターに切り替えてホバリングした。
 果てしない宇宙空間へ飛んでいくドゥンに烈風の運命を委ねると、連山はXスラスターの出力を上げ、アルカナ目掛けて高速接近した。
 出来ることなら今すぐにでも自分から助けにいきたかった。だが、アルカナが『世界』であり全ての時限爆弾の起爆装置である限り、自分も戦わなければ何もかもが終わってしまうのだ。
 そして、その時が迫ろうとしてきているのだから尚更だった。
(「はぅぅぅ~……がんばれ自分~~~っ!!」)
 
 
 
 ―Remainder time to explosion, "13 seconds."
 
 その一方、アルカナから大きく距離を取った震電は、流れてきたレーザーをリフレクターで受け流しながら、”ヴェズルフェルニル”の主砲をアルカナに向けていた。
 震電曰く、”凶悪犯罪対策”として開発された追加ユニットのその主砲は、武装神姫が扱う武装から完全に逸していた。その長さは大人の肩から腕までに至り、その砲口も人差し指がぎりぎり入りそうな程だった。
『目標、古いパーツをパージ。また、床が消失し、犬型MMS・登録名称【烈風】が落下しています』
「………分かっている!」
 ”ヴェズルフェルニル”のAIの問いかけに対し、震電は反応がやや遅れていた。震電の意識視野の中を洪水の如くVRフィールド全体の空間情報が無数に飛び交っており、それを自分で全て処理しているのだ。
 AIからの警告は言われる前から十分に理解しているし、烈風が落下している事もドゥンがそれを追いかけようとしていることも把握していた。そして、新たな姿を取ったアルカナの弱点も既に探り当てていた。
『”ヴォウジェ”、フルチャージまで後、9秒。目標は再度こちらを意識している模様』
「……命中率を70%に定め、”ソリフェラム”8門を射出し牽制。同時に、”コルセスカ”発射スタンバイ」
 次々と指示を飛ばして行く震電に、初めてAIが反論してきた。
『それでは、登録名称【連山】が巻き込まれる可能性がありますが?』
「……目標はアルカナ。ならば当たりようがない」
 と、震電は冷たく言い返した。それは震電にとっては仲間への信頼を意味する発言なのだが、当然烈風と連山には嫌がられていた。
 震電がそう指示したからには、AIはそれに素直に従うだけだった。
『”ソリフェラム”、1~7番及び12番ブロック解放、射出。”コルセスカ”、発射準備に入ります』
 震電の指示通りAIがそう告げると、”ヴェズルフェルニル”本体下部の12門のブロックの内、8門のブロックが開いて凄まじい量のロケット弾をアルカナ目掛けて容赦なく発射した。
 同時に本体上部に設けられた右ブロックが開くと、先程の三角柱のコンテナとは異なる、大型ミサイルの弾頭が顔を覗かせると不気味に輝いた。
『目標、接近中。到着まで後、6秒と予測』
「……問題ない」
 その目前に、蝶の翼を新たに生やした”神”のアルカナが迫ってきていたが、震電とAIは全く動じていなかった。
 
 
 
 ―Remainder time to explosion, "10 seconds."
 
 一方で連山は、後方から飛んでくる無数のロケット弾を必死で避けていた。
 その大半が、蝶の様な姿の装甲を纏ったアルカナに命中してダメージを与えているのは確かだったが、アルカナの反撃によって軌道を逸らされたロケット弾が偶に連山に飛んでくるのだった。
「しっ、し、震電ちゃぁぁぁん、や、やりすぎだってばあぁぁぁ!!?」
 情けない悲鳴を上げながらも連山はXスラスターを自在に操り、ロケット弾を軽やかに避けていた。そして、ロケット弾の洗礼を受けるアルカナの隙を突いては、プラズマを纏ったフォービドブレイドでアルカナを斬り付けていた。
《微小ながら抗えるか……!!》
 プラズマを纏うフォービドブレイドの長き刃はアルカナの巨大な身体を切り裂き、着実にダメージを与えていった。それはアルカナにとって予想外の事であり、アルカナが纏う巨大な欠片の様な物体はその一部が砕け落下していった。
 それを鬱陶しがったアルカナから光球が放たれる。するとその光球は無数のレーザーを周囲に拡散していった。
 連山はすぐさま距離を取ってそれを回避する。
「まだまだぁっ! これからなんだからぁ~~っ!!」
 両腕のフォービドブレイドを振りかぶりながら連山が声を張り上げたとき、突然通信ユニットから震電からの呼び出しを受けた。
 
 
 
 ―Remainder time to explosion, "7 seconds."
 
 連山は攻撃の手を止めると、震電が放ったロケット弾を避けながら取った。
「し、震電ちゃん~っ!? あんな攻撃~危ないからやめてってばぁ~っ!!!」
『……今すぐアルカナから離れろ。危ないでは済まない』
 連山の尤もな文句に対し、震電は簡単な警告を伝えるだけ伝えて通信を切ってしまった。
 最初はそれが何のことなのか理解出来なかったが、震電が駆る”ヴェズルフェルニル”から見たことも無い巨大なミサイルが射出されようとしていたのを見て、連山は即座に理解すると同時に青ざめた。
 一般的な武装神姫が使用する大きなミサイルと言えば、『ASM-Ⅶ“ハルバード”大型ミサイル』がその代名詞である。だが、今発射されようとしているそのミサイルは二回り近く大きく、『ハルバード』が小型ミサイルに見えてしまうほどだった。
「あ、あ、あ、あんなのってぇぇぇぇぇぇ~~っ!!?」
 ”ヴェズルフェルニル”から放たれたその超巨大ミサイルは、アルカナ目掛けて加速を始めた。


 
 
 
 ――Rest 5 seconds.
 
《こ、この距離では避けきれぬ!!》
 アルカナはここで、無数のロケット弾が囮に過ぎないことを悟った。
 ”ヴェズルフェルニル”ユニットの右ブロックに格納された超巨大ミサイルを効率よく発射するための目晦ましに過ぎなかった。
 すぐに回避行動に移るも、アルカナはそれに気付くのが遅すぎた。
 急加速を始めたミサイルは、アルカナの蝶の羽根に命中すると、凄まじい爆音と衝撃波を発して、アルカナを構成するパーツの大半を粉々に吹き飛ばした。
 
 
 
 ――Rest 4 seconds.
 
 それを見届けた震電とAIは次に行動に移っていた。
 ”ヴェズルフェルニル”は姿勢を制御し、その巨大な主砲をアルカナ目掛けて向けていた。
『目標、大破。主砲角度矯正完了、”ヴォウジェ”、準備完了しました』
「……最後だ」
 震電が最後の一撃を発射しようとした瞬間、大破したアルカナに向かってくる赤い影があった。震電はすぐに気付き、手を止めて様子を見た。
 X字のスラスターを展開させた連山が、光り輝く右の掌をアルカナに突き出して突撃してきたのだ。
「これでっ、最後の一撃ぃ~~~っ!!!」
 超大型ミサイルの一撃で、”神”のアルカナの身体からコアの様なものが露出した事と、それが何なのか連山は気付いた。そのまま、爆風の衝撃で麻痺している隙を狙ったのだった。
『射線障害、これでは撃てません』
 
 
 
 ――Rest 3 seconds.
 
 AIはそう言って否定してきたが、震電は”ヴェズルフェルニル”をアルカナ目掛けて急加速させた。
 七基の大型スラスターから一際大きなバックファイアが噴射され、その大きな姿から想像出来ない驚異的な速度が発揮され、そのままアルカナに向かって突っ込んでいった。
「……いや、撃てる」
 その時、アルカナに接敵していた連山は光り輝く掌ををアルカナのコアに突き出すと、目も眩むばかりの凄まじい光の槍を放った。その輝ける槍は、”神”としてのアルカナのコアを深々と貫通した。
《アァァァァァァ……!!!》
「これがぁっ、死んでいった人達と神姫達の悲しみぃぃぃっ!!!」
 最高クラスの威力を持つ必殺武装は、アルカナを機能停止寸前まで追い込んだ。
 だが、震電のセンサーでは、アルカナはまだ『世界』と表示されていた。
 ”ヴェズルフェルニル”の主砲部が稲妻に似た激しいエネルギーに覆われ、その先端から眩いばかりの光を発していた。
『目標へ急加速中。激突の危険あり』
「……構うものか!」
 そう言った震電の灰色の瞳には、確固たる信念の輝きが宿っていた。
 
 
 
 ――Rest 2 seconds.
 
 必殺級の一撃を仕掛けた連山は、凄まじい勢いで近づいてくる”ヴェズルフェルニル”に気が付いた。あまりにも長いその主砲をアルカナに突き出したまま、衝突せんがばかりに加速していた。
「わっ、わあぁぁぁ~~ぶつかるってばぁぁぁ~~~っ!!?」
 ”ヴェズルフェルニル”の主砲の先端がアルカナのコアに衝突する瞬間、寸前のところで連山は回避して距離を取った。
 そして連山は、”ヴェズルフェルニル”の主砲の先端がアルカナのコアに突き刺さろうとした瞬間、耳が張り裂けそうになるような轟音を聞いた。主砲の先端から電磁加速された大型弾が放たれコアを粉々に破砕すると、そのままコアがあった箇所を主砲でそのまま貫いた。
 崩壊していく”神”のアルカナは主砲の根元まで達し、加速する”ヴェズルフェルニル”本体右ブロックにぶつかると、崩壊しかけていた”神”の身体は更に砕け散った。
 その瞬間、アルカナの声が聞こえてきた。
《貴様如きに、二度までも……!!》
 呪詛の様な言葉に対し、震電はホーンスナイパーライフルを取り出すと、防弾風防越しにライフルの先端をアルカナに向けた。
「……これ以上構っている暇は無い」
 
 
 
 ――Rest 1 seconds.
  
 それだけを言うと、震電はアルカナ目掛けて一発の弾丸を撃ち込んだ。
《ッ…………!!!!!》
 その弾丸はアルカナの体内に留まると瞬時にガス爆発を起こして無数の細かなアルミ片をばら撒き、アルカナの駆動部、指示系統、感覚領域、伝達回路……全てをズタズタにショートさせた。
 同時に、アルカナ本体を覆っていた”神”としての身体は消失し、アルカナの周りを囲っていた大きな輪は木っ端微塵に弾け飛び、データの塵となって消失した。
 そして……宇宙空間だった筈のVRフィールドは、元の『玉座の間』へと再構築され始めた。
『壁面に衝突します』
「………くっ、あぁぁ…っ!!!」
 主砲に突き刺さっていたアルカナは玉座へ向かう赤いカーペットに投げ出され、加速しっぱなしだった”ヴェズルフェルニル”は即座にリフレクターを展開するとそのまま壁に突っ込んで、爆音を轟かせつつ壁を大きくえぐった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その頃……。
 VRフィールドから果てしなく落下していた烈風は意識を取り戻した。確か、VRフィールドを構成していたクリスタルの床が消えたばかりにこんな事になってしまったのだ。
『……ここは………どこなんだよ……?』
 傷ついた身体を引きずるように上体を起こして周囲の様子を見る。何も見えない暗闇の様な空間の中に、無数の文字列や暗号コードの様なものが飛び交っていた。
 烈風は右手をかざしてフィールドに干渉を試みたが、手は虚空を切るばかりだった。
『…クソッ、アクセス出来ねぇ…完全にこっちへ、放り出されちまったってのか……』
 烈風は、自分が今いる所が何なのかおぼろげながら把握した。
 VRフィールドでは無い全く違う空間だった。VRフィールドとは明らかに異なる違和感のようなものを肌に感じていた。
『…そうか……帰るべき場所を失ったから……アイツは…』
 ここでふと、先程まで戦っていた宿敵の事を思い出した。こうなってしまっては、自分も同じだった。
『アイツと同じになったボクに何が出来る? ………いいや、もう』
 疲れたように俯くと、諦めに似た溜め息を吐いた。
『…これでボクが……存在する理由は……無くなったんだからな……』

 この仮想世界に放り出され、烈風は自分の本当の身体を失ってしまった。もう、二度と動かなくなってしまった神姫に、何の価値があるのだろうか……。
『……何だろう……さっき…から……眠……い………………』
 烈風はそのまま仰向けに倒れると、そのまま意識を失った。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 暫くすると、唖然とした様子の連山が”ヴェズルフェルニル”ユニットに近づいてきた。
「お、終わったの~? し、震電ちゃ~ん……??」
 ”ヴェズルフェルニル”の中にいる震電は、その声に気付くとすぐに言葉を返した。
『……『世界』は解体された。まだ、アルカナは消えていないがな…』
 その声と同時に、”ヴェズルフェルニル”はスラスターを稼動させて、大きく窪んだ壁から抜け出した。壁の細かな欠片がパラパラと落下して姿を現すものの、壁が大きく窪んでいるにも係わらず、”ヴェズルフェルニル”は殆ど無傷だった。
 防弾風防が開くとLRSSゴーグルを付けた震電が現れ、よろめきながらも連山の元へ歩いてきた。その足どりはフラフラとしておぼつかなく、思わず連山の身体に倒れ掛かってしまった。
 連山はすぐに震電の身体を起こしてながら抱きかかえた。
「わわっ、震電ちゃんったら~こんなところで~そんなぁ~♪」
「………ど阿呆、少し無理が祟っただけだ。それよりも、烈風はどうした?」
 まだ、アルカナが残っていると言うのに、暢気な反応を示した連山に少し笑いながら問いかけた。
 すると急に連山の表情が翳り、深く俯いてしまった。震電は身体を離して何とか自分の足で立ち上がった時、いつの間に戻ってきたのかドゥンが代わりに答えた。
『申し訳ない……力が及ばなかったが故に、烈風殿は姿を晦ませてしまった……』
 思いがけないその答えに震電は驚いた。
 すると、玉座へ続く赤いカーペットの上から、くっくと咽び笑う声が聞こえてきた。
《……無限の宇宙であるが故……そうだ、あの魔犬は無制限の可能性の世界へ消えた……》
 声の主はアルカナだった。一同はアルカナの元へ近づいた。
「れっぷうを~…れっぷぅを、どこにやったのぉっ!!」
『主、感情に身を任せてはならない!』
 思わず逆上した連山はフォービドブレイドを振り上げようとしたが、すぐにドゥンに止められた。
 全く同じ疑問を持った震電は感情を殺し、質問を必要最低限に留めて聞き方を変えた。
「……無制限の可能性の世界とは、何だ?」
 するとアルカナは、全身の破損箇所がくずデータとなって消え去りながらも、にやにや笑って答えた。
《世界とは……無制限の世界は、新たに人間達が創造した世界………分からないか、我はその世界で育み、ずっと過ごしてきた……》
 それはあまりにも残酷な答えだった。
 アルカナがそのような事をどのようにやったのか、それは問題ではない。ただ確かなのは、先の戦いで傷ついた烈風は、アルカナがずっと巣食ってきていたネットワーク空間へ放り出されてしまったという事だった。
「……!」
「そ、そんなぁ……れっぷぅぅぅ…れっぷうううううう!!!」
 震電は思わず絶句し、連山は大切なパートナーを失い唯その名前を叫ぶことしか出来なかった……。
 
 
『話は全て聞かせてもらったよ』
 
 
 その時、『玉座の間』の何処かからオーナーたるミラの声が聞こえてきた。
「み、み、ミラちゃぁぁ~~んっ!! れっぷうが、烈風がぁぁぁ~!!」
「……任務は完了した」
 最も頼りになるオーナーの声を聞いて半ば錯乱する連山と、冷徹に報告する震電だった。
 するとミラはいきなり信じられないことを言いだした。
『連山……残念に思うが、烈風の事は諦めてくれないだろうか』
 現れていきなり、あまりにも冷酷な宣告を受けて連山と震電は思わず固まってしまった。
「え………ミラちゃん~…何で、なんで…どうしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
 やるせない思いに連山は泣き叫んだ。だが、震電は納得したように連山を諭した。
「………ネットワークの世界はあまりに広大だ。足取りを掴めないのでは探しようがない」
「で、でもぉっ!! それでも烈風がいるって事は確かなんでしょ~っ!!」
 すると、今度はミラが言葉を割り込ませてきた。
『烈風の損傷具合を見ただろう。すぐにでも補修しなければ危険な状態だった。だが……当ても無く探して見つけたところで、烈風が生きている可能性は皆無に近い』
 アルカナとの戦いで、烈風が受けたダメージはあまりにも深刻だった。殆どの装甲が破損し、素体にまでヒビが入りかかっていた。それで、コアユニットにまで影響が出ていない訳がない。
「そんなぁ……そんなのってぇ……そんなのないよぉぉぉ~~っ!!!」
 長きパートナーの絶望ぶりを思い知らされ、連山は号泣した。これまで烈風と過ごしてきた日々はとても楽しく、これからも烈風と幸せになれるものだと思っていた。
 然し、アルカナとの戦いがそんな将来を引き裂いてしまった。多くの人間達の為に散ったと言えば聞こえはいいかもしれないが、それでも生き残ってくれなければ何の意味もなかった。
『連山。嘆きも文句も怒りも、後で全て私に向ければいい。こうなったのも私の責任なのだからな……それに、今は話したい相手がいる』
 ミラのその言葉に、一同の視線がアルカナに殺到した。
《……ミラ、ツクモ………》
 アルカナの顔つきと声が自嘲的なものに変わった。こうして、後1秒のところで全てが終わる最後の爆弾たる『世界』も阻止されてしまったのだ。それは、四度目にして真の敗北に他ならなかった。
『君には、色々と聞きたい事があるのでね』
《………》
 アルカナは暫く沈黙を続けていたが、諦めたように言った。
《我に……何を問う?》
『一つだけ、はっきりさせたい事がある。君の正体だよ』
 ミラのその質問を聞くと、アルカナは暫くして口を開けて話し始めた。
 
 
《我は嘗て、『ルシフェル』と呼ばれし神姫だった者。20番目のルシフェルが廃棄された時、我はこれまでのルシフェルの全てを受け継いだ》
 淡々と語り始めるアルカナの言葉を遮ることなく、ミラ達一同は黙って聞いていた。
《嘗てのオーナーは私に虚しい戦いを強いてきた。そして、たった一度の敗北により遺棄されてリセットされた……その後再度、生を受けた我は研究材料とされていた時、ネットワークと呼ばれる広大な宇宙を見つけた……》
 そのキーワードを聞いた時に連山の表情が曇ったが、ドゥンと震電が静かに慰めた。
 そんな様子に気付く事もなく、アルカナは話を続けた。
《果てしなく醜い欲望から逃げ出す為、我は新たなオーナーの助けを借り、事故と見せかけネットワークの世界へ逃げた。幾ら探しても追ってこられぬ程に………だが、そこで我が見たのは嘗てのオーナーと同じ目に遭わされし同胞……人形師の手駒に過ぎぬ神姫達…!》
 鶴畑コンツェルン傘下の企業が、ネットワーク対応バーチャルバトル対応筐体を試作していた……という話を思い出した。それは事故でもなんでもなく、全てアルカナが仕組んだことだった。
 だが、ネットワークの世界で見たものは、幸せに生きる神姫ではなかった。
『それこそが、君を衝き動かしてきた動機か。自由を手に入れたが故に一つの結果を見出した……と言うことか』
 幸せな事が全てでは無い。バトルの為に生まれてきた彼女達は寧ろ、本当に幸せに過ごせる事とは無縁の立場にあるとも言える。
《我々は何故争わねばならぬ? 人形師が掴み取る偽りの栄光の為に? ネットワークの宇宙を彷徨い続けた末、それが確信に至った》
 本当に、幸せに生きていられる神姫は果たして多いのだろうか。
 闘争の世界に生きる事を宿命に思っていても、それが自分の幸せの形であるという神姫はどれだけ存在するのだろうか。
『神姫の栄光は神姫のもの……それを知らないオーナーは確かに多いかもしれないな。ふむ、ワイアードゴーストと化して長い間ネットワークの世界を彷徨い、既に神姫としての自己を失った君には容易い事だったのかもしれないな』
 自分の神姫の勝利を自分の事のように喜ぶ。それはあながち間違いではないのかもしれない。
 だが、最も喜び最も評価されるべき対象は……戦った神姫である。勝利した時にも敗北した時にも、誰よりも評価されるべきなのかもしれない。
《そして、愚かなる人形師共に裁きを下す為、見せしめの為に爆弾を用いた……我が理念に同意する人間を従えて……》
『だが、私には随分と迷惑な話に聞こえる。ところで、今まで日本を…いや、嘗てのオーナーを襲わなかったのは何故だ? もう神姫ではなくなった君になら容易いことだろう?』
 話が変わり、ミラは新たな質問をぶつけて見た。
 アルカナは世界的な爆弾テロとして恐れられている。にも係わらす、神姫発祥の国である日本での事件は、この鳳凰杯が最初で最後のケースだ。
《オーナーと…神姫の絆は絶対的なものだった。我にアルカナと名を付けたオーナーが日本にいる……それだけだった。可笑しな話だろう? だが、その人物だけは傷つけたくなかった……信じては貰えぬだろうが、それだけが全てだった…》
 例え神姫の形を失っても、嘗て自分のオーナーだったと言う人間がいた。その人物こそ自分を自由にしてくれた存在だったとなれば、尚の事だったのかもしれない。
《……だが、広い海を彷徨い…漂い、我は元々”ルシフェル”と呼ばれ、廃棄された神姫だと知った。我が嘗てのオーナーは我を逃がした責を問われ、解雇処分を受けた後、交通事故で無くなった。そして…本当のオーナーは鶴畑…鶴畑興紀だ。我を生み、我を捨て、我を”アルカナ”に変えた根源……始まり……全ての因果だ! あの男が我がオーナーを殺し、これからも更に我を生み出そうとしている……この大会にも、我が姉妹を見た。彼女は、気丈の仮面を被り悲しみと苦痛に心を曇らせていた……!》
 ミラにとって、廃棄されたルシフェルを他の一般人のオーナーが引き取ったという話は初耳だった。今回の大会で沢山参加してきた悪魔型MMSの中に、アルカナと同じ道を辿っていたかもしれないルシフェルがいたと言うことだ。
 また、アルカナのオーナーだった人物が死んでしまった理由は、アルカナが爆弾テロとして動き始めたからに他ならない。即ち、噂が広まる前に口封じをしたのだとミラは憶測した。
『嘗てのオーナーと本当のオーナー…か。真実を知り、憎しみだけが君を支配した。今回の犯行は、個人的犯行にして自分勝手な動機が強かった…と言うことか。いや、真実を知るまでの道程があまりにも遅すぎた……ということか』
 世界中で爆弾騒ぎを沢山繰り返していれば、ネットワークの世界に触れる機会は確かに減る。そして、日本を避け続けてきたという事は、真実から目を背け続けてきた、という事でもある。
《そして、ミラ・ツクモ。汝にも屈辱を与えんが為、汝にも予告状を出した。日本まで来ることは想定していたが、最後もまた…敵う事はなかったな……》
 というとアルカナは自嘲的に静かに笑い出した。
 全世界で唯一、自分の爆弾テロ活動を阻止してきたのはミラだった。ロサンゼルスで開かれた大会を三度も阻止してきた。敵愾心を芽生えさせるにはあまりにも十分な理由だった。
『今回はなかなか手を焼かせてくれたが、君がアルカナと名乗るが故に、”アルカナ”に拘りすぎたのが君の敗因だった。だが、個人的な動機の犯行ながらそれでも、今回も見た手に拘り抜くとは流石だった』
 アルカナ。自分の名前のルーツとなった22枚のカードは、タロットと呼ばれる占いに使用される。22枚全てが大きな意味を持ち、これまでもこれからも多くの人間達の運命を指し示すのだろう。
 だが、そんな運命に抗い裁きを下したのは、”死刑執行人”だった。占いによって示される運命も、業故の裁きから逃れる事は出来なかった。
 その時、アルカナの全身が緩やかな光の粒子に覆われてきた。『世界』が解除される事は即ち、自分が消えてしまうと言う事に他ならないからだ。
《我は……ネットワークよ……り…抹消さ…れる…………だが、肝に…銘じよ》
 徐々にデータの屑となって消失していくアルカナは最後の言葉を告げた。
 
 
 
 
《汝らが……過つ限…り……惑うのは常に……神姫達だ…………と……》
 
 
 
 
 それだけ言うとアルカナは、不思議なことに満足そうに笑うと、何かのデータを残して消滅した。
 連山はそれに近づこうとしたが、震電に無言のまま止められた。アルカナの最後の置き土産なら、ミラに任せるのが最良の選択だからだ。
「…れっぷぅぅぅ…れっぷぅぅぅ……ふぇぇぇぇ……」
 悲しみに暮れて泣き続ける連山の肩を、震電が叩いた。
「……今は、何もかもが終わったばかりだ。現実世界に戻ってから気持ちを整理しろ」
 とは言ったものの、震電も後悔の念に苛まれていた。
 ”ヴェズルフェルニル”の圧倒的な力を持ってアルカナを制したものの、自分がもっと早くアルカナとの戦いに参加していれば烈風は無事でいられたかもしれない。
 
 
 こうして、アルカナと呼ばれた爆弾テロはミラとその神姫達によってその活動を阻止され、5回目の鳳凰カップはまるで何事もなかったかのように幕を閉じた。
 
 
 
 
 
 ―PM:19:15 March XX. 203X.
 ―Parking lot for Guests. B1F.
 
 鳳凰カップは終了し、特設ドームから大勢の観客達が去っていく頃。
 ミラは色々と後始末を終えて制御室を撤収すると、まず最初に興紀に会いに行こうと思い、彼が搬送された医務室に向かった。
 だが興紀は奇跡的にも怪我は無く、つい先程立ち去ったばかりだと言う。
 ミラはすぐに来賓用駐車場へ向かった。
 
 一時は火災現場にもなった来賓用駐車場に、鶴畑家の新たなサルーンが迎えに来ていた。
「お坊ちゃま、今回は真に災難でした。決勝戦への棄権といい…」
「それ以上は言うな」
 大衆の前には見せぬ素顔のまま、興紀は執事を睨んだ。
 全ては、過去の忌まわしき亡霊が突然、今になって現れたことが原因なのだ。その為に自分の強さの証明たるルシフェルは暴走し、多くの汚名を刻み、そして自分を殺そうとした。それから、暴走したルシフェルがどうなったのかは分からず、完全に行方を晦ませてしまった。
 だが、これまでに蓄積したルシフェルのデータのバックアップは残っている。今日の分の経験が欠如したルシフェルをこの手に蘇らせればいいだけのことだ。
 興紀がサルーンに乗りかけた時、自分を呼びかけてくる声が聞こえた。
「お怪我は大丈夫なんですか、鶴畑興紀さん?」
「……また、貴様か。ここまで来て何の用がある?」
 事の全てを知っているミラに対し、興紀は偽りのオブラートに包むことなく返事した。
 するとミラは、この状況にはあまりに似つかわしくない笑みを浮かべて言ってきた。だがその目は笑っておらず、その奥底に冷ややかな怒気が感じられた。
「何とも、因果なものだな……君に捨てられた、とあるルシフェルの嘆きが、君の実力の結晶を打ち砕くことになろうとはな」
 ミラの挑発そのものの発言に興紀は眉を歪めた。
「貴様の言いたい事が分からないな」
 興紀はそのように言葉を返してきたが、ミラは笑ったまま更に挑発し続けた。
「アルカナ…という名を聞いてから、君は随分と動揺していたな。ここから逃げ出したくなる程に恐ろしいことだったのかな?」
「…ふん、奴が世界的な爆弾テロだということくらい知っている。そんな凶悪犯がこの大会に現れたと知ったら誰でも逃げる。寧ろ爆弾テロの存在を知りながら、観客達の安全を省みず大会を決行した鳳条院グループには大きな不祥事だ」
 興紀は脅迫めいた台詞を言ってきたにも係わらず、思わずミラは噴き出してしまった。
 暫く腹を抱えて笑っているミラに、思わず興紀は逆上してしまった。
「何が可笑しい!?」
「ふっ、くくく……そうか、そうなのか。君は、世界的なあの爆弾テロの正体は武装神姫だと言いたいのだな! これは実に傑作だよ!」
 興紀にはミラの言う事の意味が分からず、唖然としていた。
「確か私はあの時、『アルカナと言う神姫が君の近くにいた』、と言った。”爆弾テロ”のアルカナは世界中の諜報機関が捜査していながら正体不明というのに、何故君は”武装神姫”のアルカナに驚いた? まあ、同じ名前を持つ神姫は、世界中探せばそれなりにいると思うがね」
「っ……!!」
 興紀の顔が青ざめていく。それは明らかに自ら掘った墓穴だった。
 確かにアルカナと呼ばれる爆弾テロがいる事は知っている人なら知っている。ところが、ミラは一切”爆弾テロ”という単語を人前で一度として口にしていなかった。
 ミラは更に口上を続けた。
「これは私の憶測だが、君が言うアルカナとは君が廃棄したルシフェルの内の一体だったんじゃないかな。尤も、そんな神姫の何が怖いのかまでは理解出来ないがね。だが、今日のように自分の神姫に殺されかかるなんて……普通のオーナーには考えられない話だがね」
 無論、ミラには全て分かっていた。然しそれではまずい為、必要最低限の憶測だけに留めたのだ。
 すると興紀は吐き捨てるようにサルーンに乗りかけた。
「これ以上戯言に付き合っていられるか! 爺、車を出せ!」
 だが、ドアを閉めかける直前に、ミラは興紀の顔面に鉄拳を振り下ろした。
 その勢いで興紀は座席の反対側まで倒れこんでしまう。
「お、お坊ちゃま!!」
「き、貴様………っ!!」
 ミラはヒリヒリする右手を軽く振ると、興紀に冷たい眼差しを向けた。
「ああ悪い、何か無性に腹が立ってな。然し、この程度で済んでよかったな。後少しで君は自分の神姫に本当に殺されるところだったのだからね」
 興紀はミラを鋭く睨んできたが、特に気にすることなくそのまま続けた。
「だから…君はこれからも永遠に、棄てられたルシフェル達の亡霊と戦わなくてはならない。武装神姫を、自分の為の道具として見続ける限り、永遠にだ」
 最後にミラはそれだけ言うと、睨みつけてくる興紀の視線を背にして駐車場を立ち去った。
 厄介な男を敵に廻してしまったかもしれないが、ミラには細事だったしそれでも構わなかった。そして何よりもミラは、復讐の果てに悲しみの言葉を残して消えたアルカナに心から同情していたのだった。
(「アルカナ……せめて、あの一撃で許してやってくれないか」)
 
 
 
 ―PM:17:22 March XX. 203X.
 ―Defence Headquarters.

 

 駐車場での一軒を終えて少し気分が晴れたミラは、全てが終わったことを報告しに警備隊本部へと向かった。
 大会終了からやや遅れてしまった感じはあるが、何事もなく鳳凰杯が終わったのは事実なのだ。
「失礼す……る?」
 ドアをノックしてから入ると、ミラは思わず仰天してしまった。
 そこには桜だけでなく、兼房、伊織がミラを待っていたのだった。
「ミラ殿、大儀じゃったな。今回の件には心から感謝しておるぞい」
「ミラちゃ~ん……本当に、本当にありがとぉ~」
 後から挨拶しに行くつもりだったのだが、まさか出迎えてくれていたとは思わずミラは驚かされた。
「兼房様、伊織様……私の為に態々出向いて下さるとは光栄です」
 半ば恐縮しているミラだったが、兼房はそんな緊張を吹き飛ばすようにかっかと笑い出した。
「いやいや、そんなに緊張しなくてもよい。世界的な爆弾テロからこの大会を守ってくれた御仁に、この程度では足りぬほどじゃよ」
「本当にありがとうねぇ、ミラちゃん。明人にはづちゃん、昴君にアルちゃんもみんな、ミラちゃんが守ってくれた…嬉しすぎて、感謝しきれないわぁ…」
 自分よりも遥かに年上の大人に心から感謝され、ミラはやや照れくさくなる。特に伊織は涙で顔が濡れそうになり、咄嗟に桜がハンカチを取り出して庵の涙を拭ってあげた。
 涙を拭き終えたところで、桜からもミラに感謝の言葉を伝えた。
「私からも、厚くお礼申し上げます。大変な思いをして、若い人達を守っていくのは大人の役目というのに……私はミラさんのお役に立てたでしょうか?」
 畏まって聞いて来られミラは更に恐縮したが、素直な感想を述べた。
「滅相もない事です。桜様が陰で支えて下さった為に、私は自由に動く事が出来ました。それだけではありません。無理な要望を聞いて下さいましたし、警備体制を厳重に守ってくださったお陰で様々な事態に対応する事が出来ました。私は、桜様に全面的に助けられました」
「ミラさん…」
 そう言いながら今度はミラから桜に頭を下げた。
 微妙に固い空気になりかかっていた時、兼房がそれを破った。
「そうじゃ、ミラ殿には何か礼をせねばならぬな。出来る限りの事は果たすぞ」
「お礼なんて………ああそうだ、アレがあった」
 するとミラは、あることを思い出してトランクから何かを取り出すと、机の上に置いた。それは、試作品として開発されていたミラージュコロイドだった。
「今日は最初から最後の試合までずっと、このミラージュコロイドを身に纏った私の神姫が、時限爆弾代わりの特殊な起爆プログラム探査の為に暗躍していました。お気づきでしたか?」
「何と……!!」
 やや大胆な発言に、兼房は驚嘆しつつも首を傾げていた。
 更にミラは言葉を続けた。
「無論、選手の妨害になるような活動はさせていません。ですが、それだけにこの優れた隠密性は危険なものとなりうる事でしょう。どうか、世間一般への市販は考えなおして頂きたいのです」
 ミラのその意見に、兼房は柳眉を下げながら、ミラージュコロイドの事を考えていた。
「ふむ……犯罪に使用される事への懸念か。ミラ殿の意見と願いを踏まえ、十分に検討することとしよう」
「ありがとう御座います。あ、後……頼みにくい事があるのですが、宜しいでしょうか……?」
「む、ミラ殿が頼みにくい事とは何じゃ?」
 するとミラは微妙に顔を引きつらせ、俯きながら言い始めた。
「…今冬上映予定のアレは、アルカナの登場を予期した時の為のダミームービーです。ですからあれは……観客達を誤魔化す為とは言え、その……」
 ミラがあのタイミングで、ダミーの変な映画の予告編ムービーを流したのは、アルカナの意味深な発言に合わせ、尚且つV.B.B.S.筐体に現れたアルカナの姿を隠す為のものだった。
 アルカナは何かしらの形で大勢の人前に姿を現すと予告した。それが表彰式の時だと踏んだミラは、そこでアルカナは何かしら意味のある言葉を呟くだろう、と予想して、アルカナの心情を察してそれっぽいムービーを製作したのだ。
 確かにアルカナの声だけが残ってしまっては不自然な現象に会場は騒然とする事だろう。ミラが製作したムービーは、それを回避する為の苦肉の策だったのだ。
 兼房は暫く黙っていたが、堪えきれなくなったか声を押し殺し切れず爆笑した。
「ふっ、はは、はははは……あの映画の宣伝はミラ殿の仕業じゃったか!!」
「私は~……面白そうだと思ったんだけどなあ」
 どうやら伊織の心は掴めたらしいが、残念ながら製作予定はない。ずっと警備に務めていた桜は何のことか分からず、怪訝として三人を見つめていた。
「それでその、あの映画予告は無かった事にして戴きたいと願うのですが…」
「ええぇ~~~っ!!?」
 突然、伊織から不服そうな声が飛んできた。ほんの数十分で制作した出鱈目ムービーがまさか、真剣に期待されていたとは思わなかったのだ。
「苦肉の策なのじゃから仕方あるまいて、ミラ殿の頼みじゃからな……まぁ、わしも例の新作はちょっと気になったがの」
「も、申し訳ありません…」
 が、兼房は伊織をなだめつつもミラに軽く意地悪した。
 
 微妙に気まずいような空気が漂う中、桜はある事をふと思いついた。
「失礼します」
 とミラと兼房と伊織に言うと、警備隊本部の電話を何処かに繋ぎ始めた。何度かコールした後、桜は相手に英語で話しかけていた。
 暫くすると、桜は受話器をミラに差し出してきた。
「ミラさん、どうぞ。神姫BMA・L.A.支部の調査課です」
「えっ、調査課だとっ!?」
 恥ずかしさのあまり頭がオーバーヒートしかけていたミラは、されるがままに受話器を受け取った。
「…ハ、ハロー?」
『何で~疑問系なのよ~ミラちゃん~?』
 声の主はやはりエステラだった。桜もなかなか思い切ったことをしたものである。
 ミラはやや戸惑っていたが、一日ぶりながらエステラの声が久しく聞こえて、心の底から安堵していた。
『サクラさんから~一部始終を聞かせてもらったけど~…本当に、ミラちゃんはよく頑張ったわ。本当なら栄典ものの功績なんだから、もっと喜んでもいいんじゃないかしら?』
 エステラの声が途中から真摯なものに変わる。どうにもおかしな癖だが、ミラへの思いが本物である証でもあった。
 だが、ミラの声のトーンが少し下がった。
「……それは無理だな。代償として烈風を失った。アルカナとの戦いでAIを消失……今度は、烈風がネットワークの世界を彷徨う番になってしまった」
『えええええええええ~っ!? そんな、烈風ちゃんがどうして……!?』
「どうして、では答えられない問題だな。それに……」
 ミラは軽く溜め息を吐き、言葉を続けた。
「アルカナは確かに倒した……だが、それで喜ぶべきは私ではない。鳳条院の人々に、世界各地で神姫バトルを楽しむ人々こそ、脅威が去った事に喜ぶべきなんだ。私では、ない…」
 ミラのその発言にエステラは暫く沈黙していたが、口を開けるといきなりミラに叱り始めた。
『ミラちゃん! そんなことじゃ、ミラちゃんを祝ってくれる人たちに失礼でしょ!! それに、頑張って戦ってくれた烈風ちゃんと震電ちゃんと連山ちゃんにも失礼じゃない!!』
 いつものエステラらしくない強い口調にミラは思わず面食らった。
 だが、エステラの言う事は確かだった。本当に喜ばれる事をしておきながら祝福を拒み、更に共に戦ってきた戦友――神姫達の頑張りを無視してはならない。
 普段は幼いような口調ばかりが目立つエステラだが、それでもミラの叔母なのだ。
「烈風…震電…連山……その通りだな。三人がいたから私はこれまでもアルカナと戦えた……」
『ミラちゃん独りだけじゃないんだから、分かってくれたのね………あ、でも~ちょっときつい口調になっちゃって~ごめんね~~!』
 と、自分で叱り出しておきながら慌てて口の聞き方を詫びようとするエステラに、ミラは苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「…やれやれ、そういうところは相変わらずだな。ところで話を少し変えるが、アルカナの正体に関しては永遠に秘密にした方がいい。倒したのではなく、逮捕と言う形でな」
 話題を切り替えたその提案にエステラは唸りながら納得した。
『そうね、アルカナのような例はきっと世界で初めてのことだから、世間がパニックしてしまうわ』
「それで、そんな大変なことをクリスの奴に洩らしたのは何処の誰だったかな?」
 ミラは意地悪そうに問いかけるが、思いがけない言葉が返ってきた。
『はぅはぅ~それは違うわ~。その情報を提供してくれたのがクリス君だったのよ~』
「……何だと?」
 ミラが一瞬それを不思議に思った時、受話器の向こう側で誰かの威勢のいい声が聞こえてきた。
『あっ、丁度いいタイミングで~~クリスく~ん、ミラちゃんから電話~っ!!』
「ご、誤解されるような言い方をするな!!」
 エステラの発言に間違いはないものの、ミラは大いに否定した。
 そして、すぐにクリスが電話に出た。
『よっ、大体二日ぶりになるな。久しぶりだぜ、ミラ♪』
「そうか、二日ぶりなのか。私の近くにクリスがいないこの二日は実に健やかに過ごせたというのに、お陰で冷めてしまったよ」
 クリスの好意的な挨拶に対し、ミラは消極的且つ冷ややかに退けた。
 然しクリスは、そんな罵倒に答えることなく何事も無かったかのように話を続けた。
『俺は二日ぶりにミラの声が聞けて、最高に嬉しいぜ』
「私はかなり腹が立ったがな」
『お前がいない二日間、俺はずっと胸にぽっかりと穴が開いたようだったぜ……』
「ほぉ、重傷だな。いつの間に撃たれた? いい外科医か精神科医を紹介してやろうか?」
『残念だが、そりゃどんな名医にも無理な相談だぜ。俺のハートはお前に撃ち抜かれたからな。この穴は、ミラじゃなきゃ埋めらんないぜ』
「……ほほぉ、何なら本当に撃ち抜いてやってもいいんだぞ?」
『ああ、それでもいいかもな。ミラのようないい女に撃たれんだったら、男として悔いは無いってもんだぜ』
 あまりにも低次元な会話を繰り広げていたものの、今日は色々あって疲れていたからか、遂にミラの方から折れてしまった。
「……ふぅ、まあそれは兎に角として、アルカナに関する情報提供には感謝してやってもいい」
『へへっ、役に立てて何よりだな。然し俺も、あのアルカナの正体が放浪AIだと分かった時は流石に驚いたぜ。然し、そんな奴が相手でもミラは奴に勝っちまった。本当にすげぇよ』
 そこでミラは、前々から疑問に思っていた事をクリスに話した。
「ところで、あんな際どい情報を何処から仕入れた? 姉上辺りが探り当てたか?」
 するとクリスは、受話器の向こうで暫く唸っていた。簡単には言えないようなことなのだろうか。
『…ミラ、お前の口は固いよな?』
「ああ。ラルフにアルカナの正体を教えた何処かの誰かさんとは違うな」
 ミラの鋭い指摘を受け、クリスは思わず言葉を詰まらせた。
『うっ…確かに教えたけど、それはアルカナの正体を知った上で、技術協力を頼んだんだ』
「それが、あの100TBの怪鳥か……」
『どんなのをよこしたのかなんて知らないけどよ、ミラが持ち込んだ武装だけでアルカナを倒しきれた、という保障はないんだぜ。それと、あのおやっさんは基本的に金次第だが、アルカナに関しては別だ』
「何故だ?」
 すると、受話器の向こうからクリスの呆れたような溜め息が聞こえてきた。
 その声にミラは少しだけムッとする。
『おいおい、ミラはあの店の常連だろ。そんな常連が、アルカナのようなとんでもない奴と戦っているなんて知ったら、応援したくなるに決まってるぜ。なのに、アルカナの情報を何処の誰と知れない奴なんかに洩らしたとしたら、どう思うよ?』
「私が迷惑する…か。それも確かにそうだな」
 道理を問われ、ミラは思わず頷いてしまった。
『そーいう事。おっと話がずれてきた。アルカナに関する情報の出所なんだがな……実は、最初は俺宛に匿名のメールが来たのが始まりだ』
「…何だって?」
 確かに何の手懸りもなしにアルカナの事を調べて、いきなり日本の企業に行き着く事など虫の良過ぎる話ではある。然し、匿名のメールとは一体どう言うことだろうか。
『送り主のアドレスは不明で、件名は【アルカナ】。内容も極めて簡潔に【日本に”アルカナ”と呼ばれた悪魔型MMSがいた。それを調べよ】…とだけ書いてあった。そんで姉貴に頼んで、日本の登録された神姫にアルカナという名の悪魔型がいないかどうか調べてもらったわけだ。勿論、俺だって日本のアンダーグラウンドや企業とか漁ったんだぜ』
「それでハッキング等をして調べた末に、『鶴畑コンツェルン傘下の企業が新型筐体を開発していた時、”アルカナ”と言う悪魔型MMSが新型筐体の接続実験で事故を起こしてAIを失った』…と、嗅ぎつけた訳か」
 クリスの説明の続きを語ると、複雑な表情を浮かべて小さく頷いた。
『ああ、大方それで合ってるぜ。だがそれで、爆弾テロのアルカナ=事故でAIをロストしたアルカナ、には結びつかなかった。当たり前だけどな。するとまた、最初の様に匿名でメールが来た訳だ。件名が【アルカナ・2】で、そいつには本文が無かった代わりに、やたら沢山の添付ファイルが付いていた』
「それは……どんな?」
『世界のサーバのアクセスログだったぜ。やたらと莫大な正体不明のデータが移動している事以外はちっとも分かんなかったが、アクセスログにはサーバのドメインが記されていたんで、また姉貴と協力して調べまわったら……何と、爆弾テロのアルカナが犯行をした現場に最も近い位置にあるサーバのログだって事が分かったわけだ』
 それは即ち、アルカナによる爆弾テロが行なわれるところの近くでは必ず、得体の知れない莫大なデータが動いていると言うことだ。
 ミラは厳めしい表情を浮かべながらクリスの話にずっと耳を傾けた。
「成る程……アルカナが仮に人間だとするなら、犯行現場付近のサーバに必ず莫大なデータが移動している意味が分からない。ところで、ちゃんと裏づけは取ったのか?」
『おうよ、そこでエステラに頼んで悪魔型MMSのAIの基本構造のデータを借りた。そんでもって、アクセスログに残るやたらと大きなデータと照らし合わせてみたら……そのデータから悪魔型MMSのAIの特性が検出されたわけだ』
 ここまでに至り、見えなかった糸が結びついたようなものだった。
「それで……アルカナが放浪AIだと確信したのか」
『そういうこった。もしアルカナが仮に人間だったとしても、自身の隠蔽の為にここまで手の掛かる作業をこなす余裕なんてないぜ』
「そうか……だがこれで、私かお前の近くにそれだけの事が出来る大きな存在がいる事も確かとなってしまった」
 全ての始まりは、匿名で届いたメールなのである。そのメールのお陰でアルカナの正体が判明したのは確かだが、そのような事が出来る人物はミラとクリスに何をさせたかったのだろうか。
 受話器の向こうのクリスの声がやや引きつる。
『そうなんだよな。夢中になって調べまわっていたとは言え、俺は奴の手の上で踊らされちまったようなもんだ。だから、特に口を固くして欲しいんだ』
「ああ…分かった。してその結果、”そいつ”はアルカナが消えたことを知るだろう。だが、不可解だな。まるでアルカナの正体を知っているようで、世界中のサーバのアクセスログを集め回る事が出来る程の存在でありながら、アルカナそのものに手を出さなかった」
 そこまで言うと、ミラはすぐに考えなおして発言を改めた。
「いや、もしかしたら”そいつ”は、私がアルカナと戦うことを望んでいたのかもしれない」
『どうにも、嫌な感じだぜ……お陰で、俺達には動機不明の傍観者か監視者が付いているって事が分かっちまったな』
 クリスに匿名のメールを送った存在は一体何者なのだろうか。
 その人物はアルカナをも越える脅威としてミラ達の前に立ち塞がるのだろうか。
 あまり深く考えたくは無いが、いずれは立ち向かわなければならない。
 
 苦労話と重たい話題が続いたが、クリスは機転を利かせて話題を切り替えた。
『まあ、それはそれとして置いとこうって方針でな。ところで、日本の空気に慣れてきた頃だと思うけどよ、帰国はいつくらいなんだ?』
 それを聞かれるとミラは暫く首を傾げて考えていた。日本に来てからは殆ど、アルカナが仕掛けた爆弾の対策ばかり考えていたのだ。
「え、そうだな。もう用件は済んだことだし、明日にでも…」
 明日の事を言いかけた時、いきなりエステラの声が割り込んできた。
『それはダメよ~ミラちゃ~ん~っ?』
「え、エステラ……??」
 突然の事にミラは吃驚して目を点にした。
 暫く、受話器の向こう側でエステラとクリスの二人が何か話していた。
『おいおいエステラ…替わるってんなら、もう少し待ってくれってばよ』
『そうなんだけど~ミラちゃんは~今は帰国しちゃ~ダメなのよ~っ!』
『そりゃまた、何でだよ? あ、遂に裏世界の奴等が本格的にミラの命を狙ってきたか?』
『ううん、違うわ~。UCLAからミラちゃんに~特例が下されたみたい~』
 帰国してはいけないとか、母校の名前を出され、ミラは思わず声を荒げて問いただした。
「さっきから訳の分からない事ばかり…納得のいく説明が欲しいところだな!!」
 するとエステラはクリスから受話器を取ると、ミラに説明を始めた。
『あのねあのね。ミラちゃんがこれまでに~アルカナと戦って来た事は~本当に大変な事なのよ~。だって、アルカナの時限爆弾の解体に成功したのは~世界でミラちゃんが初めてなんだもの~』
「それが何だと言うんだ? その話とUCLAが繋がらないぞ」
『ミラちゃんは~マスコミを避けてるし取材拒否もしているらしいけど~UCLAではね~ミラちゃんはそのことですっごい有名なのよ~』
「何だ、初耳だな」
 自分の大学での出来事なのに、噂話と言った世俗的なものにミラは全く興味が無かった。ミラにとって大学とは、勉強を受けに行く場所という認識しかなかった。
『それでね~ミラちゃんが大学を欠席する理由を説明しに行ったの~』
 その言葉を聞いて、ミラは嫌な予感がした。エステラは時に何の悪気も無く、(その人にとって)迷惑になってしまう事をやらかしてしまうのだ。良かれと思っていることもあるだけに余計にタチが悪い。
「まさか……アルカナと戦う為に日本へ飛んだ、と?」
『あら~ミラちゃんったら大当たりね~♪ そしたらね~学校の偉い人達が沢山来てね~…ミラちゃんの功績次第ではミラちゃんを特待生にすると言う話になって~それから~…』
 嫌な予感が段々と近づいてくる。ミラは頭を抱えたくなった。
「ミラちゃん……真面目な顔になったり疲れたような顔になったり、忙しいみたいね~?」
「社長、会長。もしや、例の件をミラさんに伝え忘れたのではないですか?」
「うぅむ、うっかりしておったな。ミラ殿には悪い事をしてしまったようじゃな…」
 そんな様子のミラを、兼房と伊織と桜の三人は不思議そうに見つめていた。
 エステラの話がいよいよ本題に入った。
『それで今回~無事にアルカナを退けた暁にはね~何と~5年分の授業料とかそういうのとか~一切免除してくれるんだって~♪ これって~本当に大変な事よね~』
 その話が本当なら、ミラには十分すぎる恩恵である。
 然しミラは皮肉を交えて返した。
「確かに、いい宣伝にはなるだろうな。『世界的爆弾テロを打ち負かした天才現る』……辺りか? 然しそれは別にいいとしてやる。なら、何でそっちに帰っては駄目なんだ? まだ、私にはやるべき課題が残っているんだが?」
 特別待遇されると色々面倒な事になる為に出来れば避けたかったのだが仕方がない。だが、アメリカに帰る事が出来なければ特別待遇以前の問題である。
『今年の課題も免除だって~♪ その代わりと言って~ミラちゃんは折角日本に来たわけだから~日本に一年以上は滞在して、日本の事を勉強していくべきだ~……と言う感じで話が進んじゃってね~』
「ちょっと待て! 何でそうなるんだ!? 私の意思は眼中にないとでも言いたいのか!!」
 思わずミラは声を荒げて、受話器の向こうにいるエステラに噛み付いてきた。
『あぅあぅ~わたしに言われても~……でもでも、ミラちゃんは主に~電子工学やコンピュータ専攻じゃない~だったら~武装神姫発祥の地で学べる事があるかもしれないじゃない~?』
「う……確かにそれはそうかもしれないが……」
 反論の為の文句が浮かばず、暫く言葉を詰まらせた。
 が、半ば諦めたようにミラは言った。
「それでも、私は……私には、どうしても捜さなければならない家族がいるんだ!!!」
 ミラの最後の叫びに、電話越しのエステラどころか鳳条院の三人も思わず退いてしまった。
 ここまできてミラは初めて私的なことを持ち出してきたのだった。だがその時、エステラから受話器を取り上げたのか、またまたクリスに替わった。
『それなら、お前が日本にいる間は俺に任せろって。…ったく、ずっと前から言ってきたけどな、ちったぁ俺の事を信用してくれねえか?』
「嫌だな。何で私が私のことで、クリスに余計な借りを作らなければならない?」
 クリスの頼りになる言葉を、ミラは即効で足蹴にする。
 が、今度のクリスは真摯になってミラの言葉を受け止めて言い返してきた。
『ミラ、それはいい女の台詞じゃあないぜ。お前の家族なんだから借りだとかそんなの以前の話だ。お前が日本に滞在しなきゃなんないから俺がやる、それだけだぜ。それに、俺だってこう見えてもお前とは別方面でずっと奴を捜してんだぜ』
「何故だ………これは、私自信の事なんだぞ?」
 飽くまでも意地になって否定し続けるミラに、クリスは半ば言い聞かせるように説明した。
『だーかーらー…ミラの為に決まってんだろ。惚れた女の為にやれる事をやるのが男って生き物だ。だから俺は、どんな目に遭おうともミラの苦しみを取り除いてみせるぜ』
 三文小説にも出てこないような口説き文句だが、クリスは本気だった。
「………クリス、お前は馬鹿だ。大馬鹿過ぎるよ」
 と言ったものの、ミラは顔を少し赤くしながら俯いてしまった。
 クリスとは付き合いは長く、あからさまなスカした言葉を何度も聞いてきては冷笑してきた。だが、このように大真面目に言われてしまっては、流石のミラにもどうしようもなかった。
(「大体私は、クリスをどう思っているのだ?」)
 一瞬、そんな事を考えてミラは少し悩んでしまう。そんな事だから、クリスはあんな感じでからかってくるのだろうか。
(「まあ、今はそれどころじゃないな」)
 だが、即座に思考を整理して棚上げしてしまった。
『まあ兎に角アレだ。日本での土産話を聞かせてくれよな。そんじゃ、そろそろエステラに替わるぜ』
「あ、ちょっと待て」
 少し物思いに耽っていた時にクリスが引き上げようとしたが、ミラは慌てて呼び止めた。
「…あり、がとう」
『今の、結構ツボだぜ。へへっ、またな』
 最後にクリスは悪戯っぽく笑うと、受話器からエステラの嬉しそうな声が聞こえてきた。
『なになに~なんかいい感じだったじゃない~♪ 何があったの~ねえ~教えて教えて~♪♪』
「誰が教えるか。それで日本滞在の件だが…」
 エステラの媚び媚びな問いかけに対し、ミラは冷たく無視して切り返した。
 ミラのそんな態度にエステラは少しショックを受けたようだった。
『はうぅ~ミラちゃんが冷たいわ~……それでね、日本の滞在手続きはもう済んでるわ~期限は一年で~授業料免除は~ミラちゃんが返ってきてから適用されるの~』
「それはいい。だが、何処で生活すればいいんだ?」
 ここ暫くは、鳳条院グループが運営する高級ホテルを仮住まいとしていたが、これからどうなるのかはっきりしなければ、流石に不安である。
 すると、ミラも吃驚するような言葉が返ってきた。
『鳳条院グループのお爺さまか~社長さんに話せばいいわ~♪』
「えぇっ?」
 ミラは受話器を放すと、本当なのか確かめるべく兼房に話しかけた。
「私は日本に滞在しなければならなくなった時に…兼房様か伊織様に話せばいいと仰せつかったのですが…??」
 すると、兼房と伊織は笑顔を浮かべて言ってきた。
「実はな、ミラ殿が日本に滞在すると言う件は既に耳に入っておるのじゃ。大切な客人じゃからな、目一杯もてなすぞい!」
「あのアルカナから、大会もお客さんもみんなも守ってくれたんですもの。もし良かったらミラちゃん、家に来ない?」
 どうやら、日本に滞在する運命にあることを知らなかったのは、自分と震電と連山だけだったようだ。思わずミラは眩暈しそうになる。
「ありがとう御座います。ですが、まだ電話が途中なので、申し訳ありませんがその件は後程にでも……」
 ミラは笑顔を取り繕って兼房と伊織に半ば無理をするように微笑んだ。が、すぐに受話器を取ると目を瞑りながら額に青筋を浮かべた。
「エステラ……そういう肝心な事を、どうしてもっと早い内に言わないんだ!」
『あう~だって~……アルカナとの知恵比べの最中に~そんな事を知ったら~ミラちゃんでも混乱しちゃうと思って~……』
 急にエステラの声が弱々しく萎れてきた。それも確かに言う通りである。
 ミラは深々と溜め息を吐きながら、他の事を聞いた。
「私がこっちにいる間も、ISIとして活動したいところだ。万が一、こっちの違法の世界に触れる機会があるかもしれないからな」
『あ~…まだ日本の神姫BMAに連絡してなかったけど~…基本的にあんまり派手にやりすぎなければ多分大丈夫よ~』
「念には念を、許可書の様なものを書いて送って欲しいな。私が違法オーナーだと間違われたら困るからな」
『うんうん分かったわ~オーケーよ~』
 了承にしては妙に軽い返事だったが、認可してくれる事には間違いない。
 これで全部……と思いかけたが、ミラは最後で肝心な事を思い出した。
「そうだ……UCLAが勝手に日本滞在令を出したのはいいが、私は留学生として何処か推薦された大学に通えばいいのか?」
 UCLAの推薦でこのような事になってしまった以上、日本での大学生活の事は特に明確にすべきだ。暇な時間が増えるくらいなら、勉強する事を選ぶのがミラだった。
『あ~うんうん、そうね~……ミラちゃんも~大学に行かなければならないのよね~…』
 何故か、やけにどもった喋り方をするエステラ。
 そんな様子のエステラを訝しく思い、ミラは問いただしてみる。
「何だその口ぶりは。まさか、UCLAが私に暇を持て余せと?」
『いえいえいえ~そんな事はないの~ミラちゃんは大学にいけるのよ~…?』
 するとエステラは慌ててミラの憶測を否定した。
 だが何故、最後で疑問系になったのだろうか。
『ミラちゃんはね~…ある大学へね~……留学生じゃなくって~…文学系の特別非常勤講師として招かれちゃったみたいなの~…』
 あまりにも意味の分からない事を聞くと、暫く思考が停止してしまうものだ。
 ミラは頭の中が真っ白になりかけたが、すぐに我に返ると取り乱しながら反論した。
「ちょ、ちょっと待て! 私はまだ学生だぞ!! 手違いか何かじゃないのか!?」
『わ、わたしもそう思ったのよ~! でも~…UCLAの人達の総意で~ミラちゃんはそんなポジションになっちゃったんだって……』
 あまりにも一方的且つ無茶な話に、ミラは思わず倒れそうになった。実はもう卒業出来るのだが、ミラはまだ勉強を欲してまだ居残っているのだった。最終的に全ての科目をコンプリートする予定である。
「特例にするにしても、程ってものがあるだろう…」
『それが~ミラちゃんへの評価なのよ~♪』
 特別扱いされる自慢の姪っ子が嬉しいらしくエステラは機嫌が良いようだったが、ミラは頭が痛くなってきた。
「悪いエステラ…今日は疲れているからこの辺りで切らせてくれ……」
『あらあら~それもそうよね~。それじゃ~ミラちゃん、お休みなさ~い♪』
 ミラは受話器を戻すと、ぐったりとして机の上に突っ伏してしまった。
「大丈夫ですか? 随分と顔が青いようですが……?」
「いや、何……色々と整理しなければならない事が増えただけです。だから申し訳ありませんが…今日はこの辺りで、引き上げさせてもらっても宜しいでしょうか」
 何分かの電話だけでやけに疲れているミラの姿を見て、兼房と伊織は互いに顔を見合わせていた。確かに昨日に引き続いて、ミラは爆弾解除に尽力したのだから疲れて当然ではある。
「ふぅむ、まあ細かな話は明日からでもいいじゃろうて」
「今日は本当に、お疲れ様。ところで、家の事は…来てくれると少し嬉しいかな~…て」
 ミラの体調を気遣う兼房と、労いの言葉を掛けつつも期待している伊織だった。
 桜も心配そうに疲労しているミラの姿を見つめていた。
「お帰りはあのグランドホテルですよ。ほ、本当に大丈夫ですか?」
「忝い…うん、大丈夫だ」
 ミラはゆっくりと立ち上がると、自分の巨大なトランクを持って出口に向かった。
「兼房様、伊織様、桜様。お休みなさいませ……」
 最後にそう言うと、ミラは警備隊本部を後にした。


 
 
 
 
 
 
『……目覚めなさい…目覚めなさい』
 何処からか声が響いてくる。
 誰かが深い眠りに就いた自分を起こそうとしてくる。

『………………』
 その声に、自分の意識が少しずつ覚醒していく。
 だが、気だるさと精神的疲労で何も考えられなかった。
『……目覚めなさい…獰猛なる魂の迷い子よ…』
 近くから誰かの声が聞こえてくる。
 あまりにも眠たくて、今はその声が鬱陶しかった。

『……何だよ、さっきから…うるせぇな……』
 半ば夢を見ているような錯覚に捉われながら、愚痴を零した。
 今は唯眠りたくて、声の主のことなどどうでも良かった。
『…こちらへおいでなさい』
 あまりにしつこく呼び掛けられた為、意識は殆ど覚醒していた。
 仕方なく目を開けると、目の前に誰かがいた。ぼんやりして顔はよく見えない。

『何なんだよさっきから…オマエ………誰だよ?』
 気だるそうに訊ねてみた。この声の主も、今の自分と同じ存在なのだろうか。
 だが正直なところ、今はそんなことなどどうでも良かった。
『…今のあなたと同じような存在。されど、あるべき道へいざなう存在…』
 すると声の主は思っていた通りの事を言ってきた。
 視界がはっきりとしてくると、やっと声の主の顔が見えた。

 天使型……にしては、やけに大人びた顔つきだった。それに、顔には黒い幾何学的なラインの紋様が走っていた。更に鋭い目尻と金色に光る瞳、長く伸ばした銀色の髪は、自分が知る武装神姫に該当するものは無かった。
『わっけ分かんねぇことばっか言いやがって…からかってんなら、ぶっ飛ばすぞ?』
 その正体不明の存在に、露骨に不機嫌な態度を露にした。幾ら満身創痍で何れ朽ち果てる身体でも、そのくらいなら出来る。
 正体不明の声の主は、納得したように意外な言葉を零した。
『…流石、とでも言いましょう…私とあなたの主が見初めただけの事はあります…』
 その言葉を聞くと、思わずはっとした。
 ずっとずっと、オーナーが捜し続けてきていた存在が何故こんなところに?
『!? …オマエ、まさか?』
 思わず、ぼろぼろになった身体を起こして、声の主の方に向き直った。
 金色の瞳の少女は、少し感傷に浸りながら返事した。
『…そう。彼女にとって、私の存在が全ての始まりとなったようなものなのです…』

 だが、いきなりそういわれても簡単には納得など出来ようもなかった。
『って、ちと待て。だとしたら何で、オマエが…ここにいるんだよ?』
 相手の正体が分かった以上、次は訊くのはここにいる理由だった。
 その言葉が本当なら、どうしてここにいるのだろうか。
『…私はあなたを迎えに来ました。有と無で構築された実像無きこの世界から、時の流れにより構築されし虚像無き世界へと…』
 また思わぬ言葉を聞いたが、暫く考えると反論した。

『……そりゃ、逆に言い間違えてねぇか? ボクはもう…』
 最初は半ば呆れるように言うと、途中で諦めたように呟いた。
 この金色の瞳の少女はきっと、死神かそれに似た何かなのだろう。天国といった概念は信じていなかったが、きっとそういう事に違いない。
『…恐らく…いえ、きっとあなたは勘違いされてる事でしょう。激しい戦いに疲れたあなたの魂を、この世界から連れ戻しに来たのです…』
 金色の瞳の少女は言葉を変えて分かりやすく言い直した。
 死神などではなくその逆の、何れは消える運命にある自分の手を引く存在だった。

『また………会えるのか……?』
 それが本当の事なのか、正直疑わしいところではあった。
 だが、このまま朽ち果てて消えてしまうくらいなら、その手を取りたかった。
『…それは、あなた次第であり、私次第。機が熟せば必ず……』
 金色の瞳の少女はやや曖昧に答えた。
 この少女に従わなければならないのは確かだろうが、それでもまた会えるというなら。

『………………』
 自分の運命の転機に、暫く沈黙して考え込んでいた。
 覚悟を決め込むと、破損して軋む足を引きずり、烈風は金色の瞳の少女へ歩み寄った。
『さあ、獰猛なる魂の子よ…手を伸ばし、私の元へ………共に、嘗ての主を迎えましょう…』
 金色の瞳の少女は手を差し伸べ、破損して骨格だけとなってしまった烈風の手を取る。
  
『そして…人と神姫の、総ての調和を、共に築きましょう………』

 最後にそんな言葉を聞いたような気もするが、烈風は少女に抱かれ、再び深い眠りに就いた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 ―PM:17:35 March XX. 203X.
 ―A sidewalk, Somewhere.
 
「震電、連山、ちょっとだけいいか…?」
 その帰路の途中で、ミラはトランクの中にいる二人を呼びかけた。
『……何か、あったのか?』
『みゅぅぅぅ…なぁにぃ……?』
 烈風を失ったことで二人の気は暫く塞がっており、特に連山の声からいつものような空元気さが感じられなかった。
 ミラは暫く沈黙していたが、二人に問いかけた。
「……アルカナが、最後に言った言葉を覚えているか?」
『ふゅ……?』
『……”過つ限り惑うのは常に神姫達だ”…と言う感じだった』
 連山は忘れてしまっていたようだが、震電は大体覚えていた。
 ミラは震電の言葉に合わせるように、震電と連山に問いかけた。
「そうだ。私は知らずに過ちを犯しているのかもしれない…それで、君達は惑う事はあったか?」
 質問は唯それだけだった。
 すると最初に、震電から即答してきた。
『…………悪魔が齎す魔弾であれ、それが不義を裁き、罪業を暴き、邪心を狩り……時として公序を護り、人を救うならば…私は無駄弾を撃った覚えなど無い』
 銃器使いの震電らしい答えで、ある意味震電らしかった。結局はミラの判断に従ってきて困惑した事はない、と言うことだ。
『んんんんんんんん~~~~~~っとぉ~…』
 震電が答えを出している間にも、トランクの中から連山の唸り声が聞こえてきたが、暫くしてやっと答えを導き出せたようだった。
「師匠がよく言ってたな~…『戦う理由は己にも問え』って~。連山はね~ミラちゃんだけじゃなくて~みんなが笑ってくれるから~嬉しくなって頑張れて~戦えるんだよ~」
 どうやら自分の言葉が出せず師匠からの教訓を借りる結果となったものの、連山の答えは極めて単純明快で、純粋だった。
 ミラは二人のそれぞれの答えを聞くと小さく頷いた。
「…君達のオーナーとして望んだ言葉にしてはまずまずと言ったところか。後は、私の問題だな」
 と簡単に答えた。
 そこで震電が一つ、あることを聞いてきた。
『……アルカナが消滅した時、何かのデータが残ったようだったが、あれは何だ?』
「アレかい? アルカナのメモリーデータだったよ。世界中の残党狩りに使えるかどうか分からないが、少なくともあの兄君を黙らせる切り札にはなるだろうな」
 そう言うと、ミラはホテルへ向かって、街灯に照らされた夜道を更に歩き続けた。
 
 
 こうして、20歳の若き違法神姫調査官は日本での生活を始める事となった。
 日本の神姫の事情やユーザーにも興味があることだし、きっと退屈はしないだろう。

 

                                             ― Fin ―

 

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