呪いと嘆きの縛鎖を、断ち切って(その一)
──正直言って、まだ全てを信じ切れた訳じゃない。けど、あの人達は。
“お姉ちゃん”達は、こんなアタシを受け入れてくれると言った。だから
掴みかけた暖かい幸せは、絶対に放さない。それが、アタシの願い──!
“お姉ちゃん”達は、こんなアタシを受け入れてくれると言った。だから
掴みかけた暖かい幸せは、絶対に放さない。それが、アタシの願い──!
第一節:呪縛
アタシ・“五女”エルナが、皆に受け入れられて数時間。戦いで疲労した
皆は、“マイスター”……晶さんのチェックを受けていたわ。仮想空間で
戦っていたとは言え、予想外の出来事を受け……皆、ガタが来てたのね。
皆は、“マイスター”……晶さんのチェックを受けていたわ。仮想空間で
戦っていたとは言え、予想外の出来事を受け……皆、ガタが来てたのね。
「ロッテの全チェック終了……特に、異常なし。負荷は掛かった様だが」
「何よりですの♪でもマイスター、“アレ”は結局何だったんですの?」
「CSCに同名のルーチンはあるが、名前以外は特に問題ない要素だな」
「だけどあの時のアタシを倒した光の槍は、間違いなく普通じゃないわ」
「何よりですの♪でもマイスター、“アレ”は結局何だったんですの?」
「CSCに同名のルーチンはあるが、名前以外は特に問題ない要素だな」
「だけどあの時のアタシを倒した光の槍は、間違いなく普通じゃないわ」
予想外と言えば、ロッテお姉ちゃん達が纏っていた“約束の翼”。何でも
マイスターのペンダントには同じ名前が刻まれていたらしいわ……だけど
それだけの話。何処かに特殊な機能が備わっていた訳では、決してない。
だけど、それならアタシ……“ロキ”を倒したあの力は、何なのかしら?
マイスターのペンダントには同じ名前が刻まれていたらしいわ……だけど
それだけの話。何処かに特殊な機能が備わっていた訳では、決してない。
だけど、それならアタシ……“ロキ”を倒したあの力は、何なのかしら?
「エルナが言うのなら、間違いはないのだろうな……しかし、益々謎だ」
「アルマお姉ちゃん、貴女は何か知らない?……アルマ、お姉ちゃん?」
「ぅ……お、お姉ちゃんって自然に呼べる様に、なってきましたね……」
「アルマお姉ちゃん、貴女は何か知らない?……アルマ、お姉ちゃん?」
「ぅ……お、お姉ちゃんって自然に呼べる様に、なってきましたね……」
でも謎を求めて話を振った“お姉ちゃん”は、とても苦しそうだったわ。
戦闘直後は何もなかったのに、この一時間程度で急に辛そうにしてるの。
それでもアタシに笑いかけてくれるんだけど……正直、見るに耐えない。
戦闘直後は何もなかったのに、この一時間程度で急に辛そうにしてるの。
それでもアタシに笑いかけてくれるんだけど……正直、見るに耐えない。
「……アルマお姉ちゃん、本当に大丈夫ですの?何処か壊れてません?」
「クララお姉ちゃんもそうよ。同じ様にさっきから苦しそう……何故?」
「ボクらも、わかんないよ……お姉ちゃんって呼ばれるの、初めてだよ」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!アタシとの戦いで、何処かッ」
「クララお姉ちゃんもそうよ。同じ様にさっきから苦しそう……何故?」
「ボクらも、わかんないよ……お姉ちゃんって呼ばれるの、初めてだよ」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!アタシとの戦いで、何処かッ」
アタシの不安に、クララお姉ちゃんはきっぱりと首を振る。そうなの。
皆が受け入れた瞬間に、自分がこの人達の“妹”であるという認識は、
すんなりとアタシの胸に納まった。でも、だからこそ……この姿は正直
見ていられないの。アタシが何かしたんじゃないかって、不安で……。
皆が受け入れた瞬間に、自分がこの人達の“妹”であるという認識は、
すんなりとアタシの胸に納まった。でも、だからこそ……この姿は正直
見ていられないの。アタシが何かしたんじゃないかって、不安で……。
「あの……マイスター、先にエルナちゃんを診てあげてくれますか」
「ボクらは、ちょっとクレイドルで休んでから……大丈夫、だよね」
「お前達が良いのなら構わぬが、くれぐれも……無理はするなよ?」
「ボクらは、ちょっとクレイドルで休んでから……大丈夫、だよね」
「お前達が良いのなら構わぬが、くれぐれも……無理はするなよ?」
そんな皆の心配を振り切る様に、アルマお姉ちゃんとクララお姉ちゃんは
サーバ横の仮設クレイドルに横たわったわ……二人の機能は沈静化した。
でも……そう感じた、その瞬間。二人の躯が小刻みに震え始めたのよッ!
サーバ横の仮設クレイドルに横たわったわ……二人の機能は沈静化した。
でも……そう感じた、その瞬間。二人の躯が小刻みに震え始めたのよッ!
「う、うあぁ……うああぁああぁ!!!」
「くぅ、うう……うううぁぁぁっ!!!」
「あ、アルマ!?クララ、どうしたッ!」
「ま、マイスター!?サーバの調子が!」
「くぅ、うう……うううぁぁぁっ!!!」
「あ、アルマ!?クララ、どうしたッ!」
「ま、マイスター!?サーバの調子が!」
ロッテお姉ちゃんが叫ぶと、サーバの液晶パネルにはドット欠けの様な
ノイズが走り始めたわ。アタシはそれを見て、直感的にサーバの通信用
ケーブルを引っこ抜いたの。このままでは良くないって、感じたから。
これで何があっても、このビルから外部には影響が及ばない筈よ……!
ノイズが走り始めたわ。アタシはそれを見て、直感的にサーバの通信用
ケーブルを引っこ抜いたの。このままでは良くないって、感じたから。
これで何があっても、このビルから外部には影響が及ばない筈よ……!
「い、一体なんだ!何が起きているのだ!?二人はどうしたのだ!!」
「ねぇ……ひょっとして、アタシに何かいけない細工でもあったの?」
「エルナちゃん……決してエルナちゃん自身が悪い訳ではないですの」
「分かってるわよ、ロッテお姉ちゃん!でも、本当に……何よこれ?」
「ねぇ……ひょっとして、アタシに何かいけない細工でもあったの?」
「エルナちゃん……決してエルナちゃん自身が悪い訳ではないですの」
「分かってるわよ、ロッテお姉ちゃん!でも、本当に……何よこれ?」
アタシの所為なのか、それとも危険な因子が最初から潜んでいたのか……
分からないけど、ウィルスに侵された様にサーバを狂わせる“何か”は、
外部通信を試みようとして、唯一繋がってたトレーニングマシンと接続。
そちらに、実態を持ったシルエットとして“影”を投影したのよ……!!
分からないけど、ウィルスに侵された様にサーバを狂わせる“何か”は、
外部通信を試みようとして、唯一繋がってたトレーニングマシンと接続。
そちらに、実態を持ったシルエットとして“影”を投影したのよ……!!
「これは……噂に聞くイリーガル・レプリカか?いや、違う……何だ!」
「あ……マイスター、見てアレッ!ほら、影の真ん中に“居る”わ!?」
「そんな!アレは……アルマお姉ちゃんと、クララちゃんですの……!」
「あ……マイスター、見てアレッ!ほら、影の真ん中に“居る”わ!?」
「そんな!アレは……アルマお姉ちゃんと、クララちゃんですの……!」
──────何故、なんで……何が、どうなってるの!?
第二節:悲壮
アルマとクララ。二人の“お姉ちゃん”を呑み込んだ“影”は、侵入した
トレーニングマシンを強引に乗っ取り、異様な世界を作り上げ始めたわ。
即ちそれは、暗黒の荒野。地上の街を模した様な建物が並ぶけど、そこに
現実感はないわ。言ってみれば“ゴーストタウン”、そこに奴がいるの!
トレーニングマシンを強引に乗っ取り、異様な世界を作り上げ始めたわ。
即ちそれは、暗黒の荒野。地上の街を模した様な建物が並ぶけど、そこに
現実感はないわ。言ってみれば“ゴーストタウン”、そこに奴がいるの!
「な、なんだこれは……“悪夢”とでも形容できそうな物だな……!」
「マイスター、そんな場合じゃないですの!サーバが直りましたの!」
「……“悪夢”が二人と一緒に移動したから、サーバも安定したのね」
「マイスター、そんな場合じゃないですの!サーバが直りましたの!」
「……“悪夢”が二人と一緒に移動したから、サーバも安定したのね」
正体は誰にも分からない。けど、アタシは感じるの……あの“影”は、
素体からアルマお姉ちゃんとクララお姉ちゃんのデータをもぎ取って、
人質にする感覚でサーバから、トレーニングマシンへと移動したのよ!
それを裏付ける様に、二人がサーバをチェックした結果が出てくるの。
素体からアルマお姉ちゃんとクララお姉ちゃんのデータをもぎ取って、
人質にする感覚でサーバから、トレーニングマシンへと移動したのよ!
それを裏付ける様に、二人がサーバをチェックした結果が出てくるの。
「エルナ。お前の予想通りだ……アルマとクララのデータが、ない……」
「それに何かが、トレーニングマシンに送信された形跡がありますの!」
「……何故、あんなのが二人に入っていたの?どうして、こんな事に!」
「分からぬ……しかし、奴を外界に出してしまえば良くない事があろう」
「それに何かが、トレーニングマシンに送信された形跡がありますの!」
「……何故、あんなのが二人に入っていたの?どうして、こんな事に!」
「分からぬ……しかし、奴を外界に出してしまえば良くない事があろう」
でも、出てくる結果はどれもこれも最悪を予想させる物ばかり。データを
強奪・破壊したり、片っ端からネットワークに侵入しようとしたり……。
まるで“ワームウィルス”の様に、奴は不気味な動きを見せているのよ。
……マイスターがそういう判断をしたのも、当然なのかも知れないわね。
強奪・破壊したり、片っ端からネットワークに侵入しようとしたり……。
まるで“ワームウィルス”の様に、奴は不気味な動きを見せているのよ。
……マイスターがそういう判断をしたのも、当然なのかも知れないわね。
「今、“影”……ううん、“悪夢”はトレーニングマシンにいますの?」
「ああ、奴はそこで自己を強化している……まさかロッテ、お前は!?」
「はい!このまま二人が消えて無くなる前に、わたしが助けますのッ!」
「待って、アタシも行くわ……このまま消えられるなんて、嫌よッ!!」
「ああ、奴はそこで自己を強化している……まさかロッテ、お前は!?」
「はい!このまま二人が消えて無くなる前に、わたしが助けますのッ!」
「待って、アタシも行くわ……このまま消えられるなんて、嫌よッ!!」
そして、ロッテお姉ちゃんが……勇気ある彼女が、突入を提案するのも
当然だったわ。でも、彼女だけを行かせたくはない。アタシにだって、
きっと出来る事があるはずなの。だから、アタシも手を挙げたわ……!
しかしマイスターは重く首を振ったわ。涙を流しながら、告げたのよ。
当然だったわ。でも、彼女だけを行かせたくはない。アタシにだって、
きっと出来る事があるはずなの。だから、アタシも手を挙げたわ……!
しかしマイスターは重く首を振ったわ。涙を流しながら、告げたのよ。
「……行かなくていい。お前達まで取り込まれてしまったら、私は……」
「その時は、サーバの電源コードとUPSをカットしてくださいですの」
「その時は、サーバの電源コードとUPSをカットしてくださいですの」
でもロッテお姉ちゃんの決断は、愚直と言える位にストレートで素早い。
“姉妹”を助けたい、その想いは決して偽りじゃないのよ。アタシの時に
叫んだ言葉は、決して嘘じゃない……本物なの。でもマイスターは……!
“姉妹”を助けたい、その想いは決して偽りじゃないのよ。アタシの時に
叫んだ言葉は、決して嘘じゃない……本物なの。でもマイスターは……!
「嫌……いやだ。皆一遍に喪うなんて、私は……そんなのは!!」
怖かったのかも、しれないわ。只でさえ、アタシとの大勝負を乗り切った
後だったのよ?また皆を喪うかもしれない不安には、多分耐えられない。
その想いは痛い程、アタシの胸を震わせる。喪う事への恐怖は、アタシも
経験してきた過去だから……でも、この“お姉ちゃん”は違っていたわ!
後だったのよ?また皆を喪うかもしれない不安には、多分耐えられない。
その想いは痛い程、アタシの胸を震わせる。喪う事への恐怖は、アタシも
経験してきた過去だから……でも、この“お姉ちゃん”は違っていたわ!
「──マイスターの、いくじなしっ!」
「うッ……!?ろ、ロッテ……お前っ」
「うッ……!?ろ、ロッテ……お前っ」
ロッテお姉ちゃんは、マイスターの肩に飛び乗ると……頬を叩いたのよ。
そう。怖がっていたアタシに対してさっきやった様に、済んだ一撃をっ!
そう。怖がっていたアタシに対してさっきやった様に、済んだ一撃をっ!
「マイスターが怖いのは、分かりますけど……大切な“姉妹”達ですの」
「……ロッテ、エルナ……いいのか?お前達も、戻れないかもしれんぞ」
「一人でも喪えば、十分マイスターが哀しむ筈ですの。それなら……ね」
「アタシは、折角掴みかけた幸せを喪いたくない……だから、行くわ!」
「……ロッテ、エルナ……いいのか?お前達も、戻れないかもしれんぞ」
「一人でも喪えば、十分マイスターが哀しむ筈ですの。それなら……ね」
「アタシは、折角掴みかけた幸せを喪いたくない……だから、行くわ!」
ロッテお姉ちゃんといると、不思議とアタシの決意も強くなっていくの。
そうね……きっとこうして、三人の“お姉ちゃん達”も強くなれたのね?
この娘は、只のリーダーというだけじゃない。皆の中心だったのよ……!
それを実感するからこそ、今のアタシにも……もう畏れは、なかったわ。
そうね……きっとこうして、三人の“お姉ちゃん達”も強くなれたのね?
この娘は、只のリーダーというだけじゃない。皆の中心だったのよ……!
それを実感するからこそ、今のアタシにも……もう畏れは、なかったわ。
「……ならば、何も言うまい。蹴散らせ、呪いの縛鎖を断ち切るのだ!」
「はいですの♪絶対に、絶対に……二人を助けて帰ってきますの……!」
「行ってくるわ。望まれたからには、アタシもそれなりの事をしないと」
「大丈夫ですのエルナちゃん。戦いに“誇り”が有れば、勝てますの♪」
「はいですの♪絶対に、絶対に……二人を助けて帰ってきますの……!」
「行ってくるわ。望まれたからには、アタシもそれなりの事をしないと」
「大丈夫ですのエルナちゃん。戦いに“誇り”が有れば、勝てますの♪」
そう言い親指を立てて、ロッテお姉ちゃんは機械の中へ入っていったわ。
アタシもそれに応え、さっき己が入ったハッチへもう一度入るの。そして
意識が浮遊する独特の感覚を乗り越え、アタシ達はやってきたのよ。闇の
奥深くへ……“悪夢”が待ち受ける、正真正銘・最終決戦の舞台へとッ!
アタシもそれに応え、さっき己が入ったハッチへもう一度入るの。そして
意識が浮遊する独特の感覚を乗り越え、アタシ達はやってきたのよ。闇の
奥深くへ……“悪夢”が待ち受ける、正真正銘・最終決戦の舞台へとッ!
「何処にいますの、アルマお姉ちゃんとクララちゃんを離しなさいッ!」
「……ロッテお姉ちゃん、アレよ!間違いない……アレが“悪夢”だわ」
『ォォォ──────!!』
「……ロッテお姉ちゃん、アレよ!間違いない……アレが“悪夢”だわ」
『ォォォ──────!!』
──────もう喪いたくない。“大切な人”を……護りたいの!!