ヤイバと白い馬 前編
「ヤイバ、今日は元気か?」
「はい主、私は元気です」
いつものように私は主に、自分の思っていることを応えます。あのとき以来、主は穏やかな表情になりました。そのようになってくれたのも、勝てば良いという考えを捨てたからです。私は主の事を信じて今まで闘ってきました。でも、それは主にとっては勝つための手段でしかありませんでした。そのことが無意味だと知ったとき、主は勝ち負けにこだわるのを捨て去る事ができたのです。
今日も私は茶室でお茶を立てて心を落ち着かせます。この時間が私にとって裕福な時でもあるのです。
「ヤイバ、ここにいるか」
茶室の外から主に声が聞こえました。何か用事でもあるのでしょう。
「どうしました、主」
お茶を飲み干した私は、茶室から出て主の前に向かいました。
「実はお前に会いたいという方がいてな、ぜひ会って欲しいんだ」
会いたい人…?誰でしょう…?私は主にその相手は誰なのですかと聞いてみました。
「どんな相手かか?会って見れば分かる」
私はその人に会うために、主の車で待合場所へと移動しました。
「はい主、私は元気です」
いつものように私は主に、自分の思っていることを応えます。あのとき以来、主は穏やかな表情になりました。そのようになってくれたのも、勝てば良いという考えを捨てたからです。私は主の事を信じて今まで闘ってきました。でも、それは主にとっては勝つための手段でしかありませんでした。そのことが無意味だと知ったとき、主は勝ち負けにこだわるのを捨て去る事ができたのです。
今日も私は茶室でお茶を立てて心を落ち着かせます。この時間が私にとって裕福な時でもあるのです。
「ヤイバ、ここにいるか」
茶室の外から主に声が聞こえました。何か用事でもあるのでしょう。
「どうしました、主」
お茶を飲み干した私は、茶室から出て主の前に向かいました。
「実はお前に会いたいという方がいてな、ぜひ会って欲しいんだ」
会いたい人…?誰でしょう…?私は主にその相手は誰なのですかと聞いてみました。
「どんな相手かか?会って見れば分かる」
私はその人に会うために、主の車で待合場所へと移動しました。
私たちが向かった場所は、とある研究所でした。この中で私にお会いしたいという方がいるそうなのです。私と主は待合室でその方が来るまで待つことにしました。
「その方はいつ現れるんでしょう?」
「もう少し待てば来るから。それまでここで待ってるんだ」
暫くして向こうのドアから研究員らしき方が一人、待合室に現れました。
「よくいらっしゃいました本田さん、私がこの研究所のサポートマシン部の緒方です」
緒方と名乗る研究員は私のほうをじろじろと見ました。
「あなたがヤイバですね。お待ちしていました」
「あ、は、始めまして、緒方殿」
…しまった、つい言葉が硬直してたどたどしくなってしまいました。初対面の方にはちゃんとした挨拶をしなければいけないのに…。
「始めましてヤイバさん。さっそくですが、私の後に付いて来てください」
おそらくこの奥に、私に会いたがっている方がいるのでしょう。私は頷くと主の肩に乗り、そのまま緒方殿の後に付いていきました。
暫く廊下を歩きますと、突き当たりに自動ドアが見えてきました。
「ここに相手がいるんですか?」
「はい、この奥にいます」
一体どんな方なのでしょう…。私に会いたいということは、私自身に興味があるということなのでしょう。私達は自動ドアをくぐり、中に入りました。
「ここです、この中にヤイバさんに会いたがっている方がいます」
私は緒方殿が指差しているケースの中を見てみました。…その中には、一匹の白いロボット馬が横たわっていました。
「この馬が、私に合いたがっている方ですか…?」
「はい、この子がヤイバさんに会いたがっている方です」
驚きました…。てっきり私と同じ神姫か、ヒューマノイドタイプだと思っていましたから。白馬は私が来たことに気付いたのか、起き上がって私の目を見つめました。
「…どうして私の事を知っているのですか?」
「実は、この子が偶然テレビで放送されていたあなたの試合を見てしまいまして、それ以来会いたいとごねまして」
なるほど…。一目ぼれというわけですね。人なら分かるのですが、メカとはいえまさか馬に一目ぼれされるとは思っていませんでした…。
「それで、私はどうすれば宜しいのですか?」
「この子をヤイバさんのパートナーにしてほしいんです。この子はあなたを見る前は乱暴で手が付けられなかった暴れ馬でした。でも、あなたを見てからはこのようにおとなしくなりました。それなら、ヤイバさんに預けておけばこの子のためになると思ったんです」
そうですか、私の側にいればおとなしくなる、というわけですか。私はこの白馬の目を見て、決意しました。
「ひとつお聞きしたいのですが」
「何でしょうか?」
「この白馬のお名前は?」
一緒に住むのなら、名前くらい聞かないといけませんね。私は緒方殿に名前を聞いてみました。
「この子はまだ生まれてまもないですから、形式番号でしか言われていません。宜しければヤイバさん、あなたが名付け親になっていただけませんか?」
「そうですか…。分かりました、私が名前を付けてあげましょう」
私がこの白馬の名付け親になる…。でも、気に入ってもらえるのでしょうか。私は深呼吸をして、はっきりと言いました。
「白雷…、この子の名前は白雷です」
「白雷?」
「白い雷と書いて白雷と呼びます。この子は速そうですし」
緒方殿は黙ってしまいました。もしかして、お気に召さなかったのしょうか…。
「似合いません…ですか?」
「いいえ、いい名前だと思いますよ。この子はひとたび暴れだしますと、手が付けられないほど走り回りますから」
どうやら緒方殿は白雷の名前を気にいられたようです。それにしてもあの反応を見たときは一瞬ドキッとしました。
「それでは、よろしいのですね?」
「はい、この子も白雷という名前、気に入ってくれたようです」
白雷は嬉しそうに声を鳴らしました。私がつけた名前をお気に召したのは本当のようです。
「では、この子…じゃなかった、白雷のこと、お願いします」
「分かりました」
私と緒方殿は同時にお辞儀をしました。
こうして私と白雷の生活が始まりました。しかし、そうすんなりとはいかないもので…。
「その方はいつ現れるんでしょう?」
「もう少し待てば来るから。それまでここで待ってるんだ」
暫くして向こうのドアから研究員らしき方が一人、待合室に現れました。
「よくいらっしゃいました本田さん、私がこの研究所のサポートマシン部の緒方です」
緒方と名乗る研究員は私のほうをじろじろと見ました。
「あなたがヤイバですね。お待ちしていました」
「あ、は、始めまして、緒方殿」
…しまった、つい言葉が硬直してたどたどしくなってしまいました。初対面の方にはちゃんとした挨拶をしなければいけないのに…。
「始めましてヤイバさん。さっそくですが、私の後に付いて来てください」
おそらくこの奥に、私に会いたがっている方がいるのでしょう。私は頷くと主の肩に乗り、そのまま緒方殿の後に付いていきました。
暫く廊下を歩きますと、突き当たりに自動ドアが見えてきました。
「ここに相手がいるんですか?」
「はい、この奥にいます」
一体どんな方なのでしょう…。私に会いたいということは、私自身に興味があるということなのでしょう。私達は自動ドアをくぐり、中に入りました。
「ここです、この中にヤイバさんに会いたがっている方がいます」
私は緒方殿が指差しているケースの中を見てみました。…その中には、一匹の白いロボット馬が横たわっていました。
「この馬が、私に合いたがっている方ですか…?」
「はい、この子がヤイバさんに会いたがっている方です」
驚きました…。てっきり私と同じ神姫か、ヒューマノイドタイプだと思っていましたから。白馬は私が来たことに気付いたのか、起き上がって私の目を見つめました。
「…どうして私の事を知っているのですか?」
「実は、この子が偶然テレビで放送されていたあなたの試合を見てしまいまして、それ以来会いたいとごねまして」
なるほど…。一目ぼれというわけですね。人なら分かるのですが、メカとはいえまさか馬に一目ぼれされるとは思っていませんでした…。
「それで、私はどうすれば宜しいのですか?」
「この子をヤイバさんのパートナーにしてほしいんです。この子はあなたを見る前は乱暴で手が付けられなかった暴れ馬でした。でも、あなたを見てからはこのようにおとなしくなりました。それなら、ヤイバさんに預けておけばこの子のためになると思ったんです」
そうですか、私の側にいればおとなしくなる、というわけですか。私はこの白馬の目を見て、決意しました。
「ひとつお聞きしたいのですが」
「何でしょうか?」
「この白馬のお名前は?」
一緒に住むのなら、名前くらい聞かないといけませんね。私は緒方殿に名前を聞いてみました。
「この子はまだ生まれてまもないですから、形式番号でしか言われていません。宜しければヤイバさん、あなたが名付け親になっていただけませんか?」
「そうですか…。分かりました、私が名前を付けてあげましょう」
私がこの白馬の名付け親になる…。でも、気に入ってもらえるのでしょうか。私は深呼吸をして、はっきりと言いました。
「白雷…、この子の名前は白雷です」
「白雷?」
「白い雷と書いて白雷と呼びます。この子は速そうですし」
緒方殿は黙ってしまいました。もしかして、お気に召さなかったのしょうか…。
「似合いません…ですか?」
「いいえ、いい名前だと思いますよ。この子はひとたび暴れだしますと、手が付けられないほど走り回りますから」
どうやら緒方殿は白雷の名前を気にいられたようです。それにしてもあの反応を見たときは一瞬ドキッとしました。
「それでは、よろしいのですね?」
「はい、この子も白雷という名前、気に入ってくれたようです」
白雷は嬉しそうに声を鳴らしました。私がつけた名前をお気に召したのは本当のようです。
「では、この子…じゃなかった、白雷のこと、お願いします」
「分かりました」
私と緒方殿は同時にお辞儀をしました。
こうして私と白雷の生活が始まりました。しかし、そうすんなりとはいかないもので…。