「―――――――セットアップ完了。起動します」
私は私が何者かを認識する。
私はケモテック社製KT36D犬型ハウリン。
目を開けてまず視界に映るのは骨ばった大きな手。
その手がどかされると、老人の顔が見えた。
私はケモテック社製KT36D犬型ハウリン。
目を開けてまず視界に映るのは骨ばった大きな手。
その手がどかされると、老人の顔が見えた。
「オーナーの事は何とお呼びすれば宜しいですか?」
私がそういうと老人は鼻を鳴らして、起動したばかりの私をおいて部屋を出て行った。
・・・・・・私は何か、あの老人の気に触ることでもしたのだろうか。
・・・・・・私は何か、あの老人の気に触ることでもしたのだろうか。
「ねぇ。そこのキミ!」
「・・・・・はい?」
“そこのキミ”、というのは恐らく私の事だろう。そう思って振り返るとそこには悪魔型MMSストラーフがいた。
ツインテールパーツも何もつけていない、髪の短いストラーフ。
ツインテールパーツも何もつけていない、髪の短いストラーフ。
「キミのオーナー登録されなかったんだよね?」
「はい・・・・なぜでしょう」
「ここの人って何か変なんだよね。ボクたちを起動させてもオーナー登録はしないし武装もさせてくれないし」
“ボクたち”・・・・・? と言うことは目の前のストラーフもオーナー登録をされていない。さらに複数形と言うことは他にも私のような神姫がいる・・・?
「とりあえずボクとおいでよ! ここを案内してあげるからさ!」
案内された場所は引き出しの中だった。
そこにはストラーフ以外の神姫が何体もいた。種類もそれぞれバラバラだ。
そこにはストラーフ以外の神姫が何体もいた。種類もそれぞれバラバラだ。
「みんな! 新入りが来たよ!」
ストラーフの声に神姫たちが一斉にこちらをむく。引き出しの中と言う狭く、薄暗い空間と相まって相当に不気味だ。
その後、引き出しの中の神姫たちとの簡単な挨拶を済ませた私はある一つの共通点を見つけた。
ここにいる全員が、武装をあの老人に奪われ、オーナー登録もされていなかったのだ。
その後、引き出しの中の神姫たちとの簡単な挨拶を済ませた私はある一つの共通点を見つけた。
ここにいる全員が、武装をあの老人に奪われ、オーナー登録もされていなかったのだ。
起動してから二日たった。
あの老人は初期起動以来姿を見ていない。
いつの間にか、私はみんなと仲良くなっていた。
それは初めにあった悪魔型ストラーフの明るさのお陰もあっただろう。
二日・・・・そう、その二日間はとても楽しく過ごした。
オーナー登録もされず名前も与えられなかった私たちは、それでも楽しく過ごしていた。
・・・・・・・・これから始まる、悪夢を知らずに。
あの老人は初期起動以来姿を見ていない。
いつの間にか、私はみんなと仲良くなっていた。
それは初めにあった悪魔型ストラーフの明るさのお陰もあっただろう。
二日・・・・そう、その二日間はとても楽しく過ごした。
オーナー登録もされず名前も与えられなかった私たちは、それでも楽しく過ごしていた。
・・・・・・・・これから始まる、悪夢を知らずに。
三日目。
天使型の子が一人、消えていた。
私たちは心配して一生懸命探したけれどどうしても見つからなかった。
その次の日は種型の子が、その次の次の日には種型のお姉さんだった花型の子が、その次の次の次の日にはマーメイド型の子が消えた。
みんな、誰一人として例外無く帰って来なかった。
残された私たちは悲しくて、そして意味もなく怖くてみんなで泣いた。
消えてしまった子はどこに行ってしまったのだろう。
次は誰が消えるのだろう。
・・・・・・・消えてしまったら、どうなるのだろう。
次第に、みんなは口を利かなくなっていった。
口を開けば消えてしまった子達の事を思い出してしまうからだ。
そんな中、ストラーフの子は怖くて仕方が無かった私をずっと抱きしめてくれていた。
彼女の体はなぜか温かくて、とても良い匂いがした。
大丈夫、大丈夫だよ、と私にささやき続けてくれていた。
そうして私は彼女の胸の中で眠りに付いた。
天使型の子が一人、消えていた。
私たちは心配して一生懸命探したけれどどうしても見つからなかった。
その次の日は種型の子が、その次の次の日には種型のお姉さんだった花型の子が、その次の次の次の日にはマーメイド型の子が消えた。
みんな、誰一人として例外無く帰って来なかった。
残された私たちは悲しくて、そして意味もなく怖くてみんなで泣いた。
消えてしまった子はどこに行ってしまったのだろう。
次は誰が消えるのだろう。
・・・・・・・消えてしまったら、どうなるのだろう。
次第に、みんなは口を利かなくなっていった。
口を開けば消えてしまった子達の事を思い出してしまうからだ。
そんな中、ストラーフの子は怖くて仕方が無かった私をずっと抱きしめてくれていた。
彼女の体はなぜか温かくて、とても良い匂いがした。
大丈夫、大丈夫だよ、と私にささやき続けてくれていた。
そうして私は彼女の胸の中で眠りに付いた。
次の日、目覚めると残っていたのは私とストラーフだけだった。
今度は二人が、いっぺんに消えた。
その日も、私は怖くて泣いた。
ストラーフはいつも以上に私を抱きしめて、震える体を包んでくれた。
でもやっぱり彼女も怖いのだろう。体に回された手が小刻みに震えていた。
今度は二人が、いっぺんに消えた。
その日も、私は怖くて泣いた。
ストラーフはいつも以上に私を抱きしめて、震える体を包んでくれた。
でもやっぱり彼女も怖いのだろう。体に回された手が小刻みに震えていた。
そして次の日。
初期起動からちょうど一週間目。
目覚めた私は見たことの無い場所にいた。
そこはまるで墓場のようだった。
本当の墓場なんて一度も見たことが無いけれど、私は直感でそこが墓場だと確信していた。
辺りを見渡す。そこにあるのは大勢の神姫たちの体。
いずれの神姫も見る影も無いほどに破壊されていて、まともな形をしているものなんて一人もいなかった。
傍にはストラーフが倒れていた。彼女はまだちゃんと息をしている。よかった。
恐怖に駆られ彼女を急いで揺り起こす。初め、彼女は自分が置かれている状況が理解できなかったようだが周りを見てすぐに理解したらしい。私の手を握って身構え、辺りを警戒している。
と、私は積まれた神姫たちの体の中に私が知っている“色”を見つけた。
ストラーフの手を振りほどきその“色”に向かって走る。
とても綺麗な金の髪。あの天使型の子が自慢していた。本当に綺麗な金の髪。
走って走って、その場所に辿り着いた私は座り込んでしまった。
後から追いついてきたストラーフもその光景を見て絶句している。
初期起動からちょうど一週間目。
目覚めた私は見たことの無い場所にいた。
そこはまるで墓場のようだった。
本当の墓場なんて一度も見たことが無いけれど、私は直感でそこが墓場だと確信していた。
辺りを見渡す。そこにあるのは大勢の神姫たちの体。
いずれの神姫も見る影も無いほどに破壊されていて、まともな形をしているものなんて一人もいなかった。
傍にはストラーフが倒れていた。彼女はまだちゃんと息をしている。よかった。
恐怖に駆られ彼女を急いで揺り起こす。初め、彼女は自分が置かれている状況が理解できなかったようだが周りを見てすぐに理解したらしい。私の手を握って身構え、辺りを警戒している。
と、私は積まれた神姫たちの体の中に私が知っている“色”を見つけた。
ストラーフの手を振りほどきその“色”に向かって走る。
とても綺麗な金の髪。あの天使型の子が自慢していた。本当に綺麗な金の髪。
走って走って、その場所に辿り着いた私は座り込んでしまった。
後から追いついてきたストラーフもその光景を見て絶句している。
天使型の子が
死
れて
れて
あまりの光景に私たちは目を逸らすことすらできない。ただただ絶句して凝視する。
と、ストラーフがいきなり私の手を取って立たせると歩き出した。その場から逃げるように。
どこに行くのかと問うとここから逃げるのだと言う。
どこからと問うと判らないと言う。
彼女は特に行き先も無く、がむしゃらに歩いているだけのようだ。
私はもうなにもかんがえられない。
ただひたすらに。
歩く。
歩く。
歩く。
そうして私たち二人は大きな壁に行き当たった。
黒く、大きな壁。
まるで、お前たちはここから出られない、そういわれてるようで。
ふと横を見るとストラーフは壁を見つめて唇を噛んでいる。
・・・・そういえば、なぜこの子は私に構ってくれるのだろう。そんなことを考えているといきなりストラーフに突き飛ばされた。
もう考えることを放棄していた私は面白いように転倒する。
痛いなぁと思って顔を上げると壁に大きな穴があいていた。向こう側からは何か赤い物と外の世界が見える。
嬉しさよりも何が起きたか判らなくてストラーフの方を見てまた私は絶句した。
彼女の表情は苦痛に歪んでいた。
無理も無い。彼女の左腕が、そっくりなくなっていた。
驚いて彼女に駆け寄る。泣きながら大丈夫かと問いかける。
彼女は無言で痛みに耐え、ある方向を凝視している。
釣られて私もその方向を見て・・・・・初め、それが何か理解できなかった。
多分、それは私たちと同じMMSだったんだろう。
でも、全身が本当に真っ黒なMMSなんて私は知らない。顔の無いMMSなんて私は知らない。
私はもう喋る気もなかった。一度にいろんなことが起こりすぎて私のコアは熱を持ち始めていた。
だから、その黒いMMSが手に持った銃をあげたときも反応できなかった。
神姫にしては不自然に長い腕に持った銃から打ち出された弾丸は、私の頭部を狙っていた。
・・・だが、私の頭部はこなごなにはならなかった。
気がつくと宙を待っていた。
高いところから落ちていると気づくのに暫く時間がかかった。
そのまま固い床に叩きつけられる。衝撃で右腕のフレームが歪んだけれどそんなことは気にならなかった。
固い床は不自然に、赤いもので濡れていた。そばには初期起動時に見たあの老人が倒れていた。
もう何が何だかわからない。
床に倒れたまま動かない私の顔面を、一緒に堕ちてきたらしいストラーフが思いっきり殴った。
早く! 逃げなさい!
逃げろと言われても、私はどうすれば良いのだろう。
全く世話が焼けるんだから!
彼女はそういって私を起こすとそのまま手を取って走る。落ちる時に破損したらしく、彼女の体からは火花が散っていた。
暫く走ると窓が開いたテラスを見つけた。
ストラーフは嬉しそうにこちらを振り返って、表情が凍る。
私は、その表情を見て振り返らなくても何がいるのか判った。
奴だ。
多分すぐそこまで来ているんだろう。
私の前を走っていたストラーフはテラスぎりぎりまで走って突然止まった。
何かを決意した顔で私の方に振り返る。
と、ストラーフがいきなり私の手を取って立たせると歩き出した。その場から逃げるように。
どこに行くのかと問うとここから逃げるのだと言う。
どこからと問うと判らないと言う。
彼女は特に行き先も無く、がむしゃらに歩いているだけのようだ。
私はもうなにもかんがえられない。
ただひたすらに。
歩く。
歩く。
歩く。
そうして私たち二人は大きな壁に行き当たった。
黒く、大きな壁。
まるで、お前たちはここから出られない、そういわれてるようで。
ふと横を見るとストラーフは壁を見つめて唇を噛んでいる。
・・・・そういえば、なぜこの子は私に構ってくれるのだろう。そんなことを考えているといきなりストラーフに突き飛ばされた。
もう考えることを放棄していた私は面白いように転倒する。
痛いなぁと思って顔を上げると壁に大きな穴があいていた。向こう側からは何か赤い物と外の世界が見える。
嬉しさよりも何が起きたか判らなくてストラーフの方を見てまた私は絶句した。
彼女の表情は苦痛に歪んでいた。
無理も無い。彼女の左腕が、そっくりなくなっていた。
驚いて彼女に駆け寄る。泣きながら大丈夫かと問いかける。
彼女は無言で痛みに耐え、ある方向を凝視している。
釣られて私もその方向を見て・・・・・初め、それが何か理解できなかった。
多分、それは私たちと同じMMSだったんだろう。
でも、全身が本当に真っ黒なMMSなんて私は知らない。顔の無いMMSなんて私は知らない。
私はもう喋る気もなかった。一度にいろんなことが起こりすぎて私のコアは熱を持ち始めていた。
だから、その黒いMMSが手に持った銃をあげたときも反応できなかった。
神姫にしては不自然に長い腕に持った銃から打ち出された弾丸は、私の頭部を狙っていた。
・・・だが、私の頭部はこなごなにはならなかった。
気がつくと宙を待っていた。
高いところから落ちていると気づくのに暫く時間がかかった。
そのまま固い床に叩きつけられる。衝撃で右腕のフレームが歪んだけれどそんなことは気にならなかった。
固い床は不自然に、赤いもので濡れていた。そばには初期起動時に見たあの老人が倒れていた。
もう何が何だかわからない。
床に倒れたまま動かない私の顔面を、一緒に堕ちてきたらしいストラーフが思いっきり殴った。
早く! 逃げなさい!
逃げろと言われても、私はどうすれば良いのだろう。
全く世話が焼けるんだから!
彼女はそういって私を起こすとそのまま手を取って走る。落ちる時に破損したらしく、彼女の体からは火花が散っていた。
暫く走ると窓が開いたテラスを見つけた。
ストラーフは嬉しそうにこちらを振り返って、表情が凍る。
私は、その表情を見て振り返らなくても何がいるのか判った。
奴だ。
多分すぐそこまで来ているんだろう。
私の前を走っていたストラーフはテラスぎりぎりまで走って突然止まった。
何かを決意した顔で私の方に振り返る。
「キミは生きて、ここから逃げて」
いやだ。君も一緒に。
「ボクは・・・この怪我じゃ逃げ切れない。でもキミだけなら逃げ切れる。何せキミは犬型だ。多分ボクよりも足が速い。・・・ボクの代わりに生きて。生き抜いて」
いやだ・・・・いやなんだ。
私は、君がいないと・・・・・・!
・・・・・・・・・・・・・・・え?
ストラーフ・・・・・・・・・?
私を突き落とした・・・・・・・
何かが落ちてくる・・・・・・・
ストラーフ・・・・・・・・・・首・・・・・・・・・・・?