「かすみー! 連れてきたよーっ!」
はやてに案内されて、僕とネロはセンターの隣、「附属研究所」という場所に来た。
そこで僕達を出迎えたのは、先日あの刑事さんの応対をしていた、あの女性職員さんだった。
「ええ、ありがとう、はやて」
職員さん――かすみさんは、僕達を研究室に連れて行く。どうも修也さんの知り合いらしく、話はもう知っているようだった。
「これまでに、バトルサービスで何らかの理由でロストした神姫について調べてはみたんですが、ほとんどの子がメーカー送りになっています。ネロという名前も数件ありましたが、確証は掴めませんでした」
道すがら、かすみさんはそう説明してくれた。
「で、一回ネロそのものを調べたほうがいいんじゃないかと思ったわけです。……あんまり、気は進まないんですけど」
要するに、ネロのメモリーにかかっているブロックを何とかして外すか、外せなくとも手掛かりが無いか、ネロの記憶を「覗く」ということらしい。確かに、あまり気が進む話じゃないと思う。
でも、
「いえ……、もう、どんな手掛かりでもいいんです。お願いします」
ネロは、そう言った。
はやてに案内されて、僕とネロはセンターの隣、「附属研究所」という場所に来た。
そこで僕達を出迎えたのは、先日あの刑事さんの応対をしていた、あの女性職員さんだった。
「ええ、ありがとう、はやて」
職員さん――かすみさんは、僕達を研究室に連れて行く。どうも修也さんの知り合いらしく、話はもう知っているようだった。
「これまでに、バトルサービスで何らかの理由でロストした神姫について調べてはみたんですが、ほとんどの子がメーカー送りになっています。ネロという名前も数件ありましたが、確証は掴めませんでした」
道すがら、かすみさんはそう説明してくれた。
「で、一回ネロそのものを調べたほうがいいんじゃないかと思ったわけです。……あんまり、気は進まないんですけど」
要するに、ネロのメモリーにかかっているブロックを何とかして外すか、外せなくとも手掛かりが無いか、ネロの記憶を「覗く」ということらしい。確かに、あまり気が進む話じゃないと思う。
でも、
「いえ……、もう、どんな手掛かりでもいいんです。お願いします」
ネロは、そう言った。
クレイドル状のメンテナンスベッドの上に、一時的にスリープ状態になったネロが横たわっている。
そこに繋がったコンピューターを、かすみさんと彼女の神姫、秋葉が操作する。画面上には、僕が見ても全くわからない記号や文字列が、浮かんでは消えていた。
一般的に、神姫がクレイドルを介してパソコンにデータを移すのとは違う、ともかく「専門的」な作業内容らしいということは、僕にも理解できたけど。
「嘘……」
と、かすみさんの手が止まった。
「そんな……、ご主人、こんなことって……」
「うん、信じられないけど……認めざるを得ない、かしらね……。慎一君」
「は、はい」
椅子を回して、かすみさんがこっちを向いた。
「これから話すこと、絶対に……特にネロに対して、他言しないと約束できますか?」
「え、それって……」
そんなに重要なこと、なのだろうか。
「答えてください。できるか、できないか」
かすみさんの口調が切迫していた。
「……はい、できます」
本音を言えば、自身は無かった。でも、今はどんな手掛かりも欲しかった。ネロがそうであるように、僕も。
「ネロは……、いえ、ネロの記憶は、失くなったんじゃありません。はじめから、『無い』んです」
……え?
「彼女のメモリーにかかっているブロックは、フェイク……見せかけなんです。ブロックを外しても、そこに彼女の記憶が有るわけでも、復元できるわけでも……ないんです」
どういうことだ?
「……じゃ、じゃあ、ネロのオーナーって……?」
「多分、いません」
いない?
いない、って?
「……どういうことなんですかっ!?」
気付かずに立ち上がって、かすみさんの両肩を掴んで、問い詰めていた。後ろから、はやての制止の声が聞こえる。
「順を追って話します。……すみません、放してもらえますか?」
そこに繋がったコンピューターを、かすみさんと彼女の神姫、秋葉が操作する。画面上には、僕が見ても全くわからない記号や文字列が、浮かんでは消えていた。
一般的に、神姫がクレイドルを介してパソコンにデータを移すのとは違う、ともかく「専門的」な作業内容らしいということは、僕にも理解できたけど。
「嘘……」
と、かすみさんの手が止まった。
「そんな……、ご主人、こんなことって……」
「うん、信じられないけど……認めざるを得ない、かしらね……。慎一君」
「は、はい」
椅子を回して、かすみさんがこっちを向いた。
「これから話すこと、絶対に……特にネロに対して、他言しないと約束できますか?」
「え、それって……」
そんなに重要なこと、なのだろうか。
「答えてください。できるか、できないか」
かすみさんの口調が切迫していた。
「……はい、できます」
本音を言えば、自身は無かった。でも、今はどんな手掛かりも欲しかった。ネロがそうであるように、僕も。
「ネロは……、いえ、ネロの記憶は、失くなったんじゃありません。はじめから、『無い』んです」
……え?
「彼女のメモリーにかかっているブロックは、フェイク……見せかけなんです。ブロックを外しても、そこに彼女の記憶が有るわけでも、復元できるわけでも……ないんです」
どういうことだ?
「……じゃ、じゃあ、ネロのオーナーって……?」
「多分、いません」
いない?
いない、って?
「……どういうことなんですかっ!?」
気付かずに立ち上がって、かすみさんの両肩を掴んで、問い詰めていた。後ろから、はやての制止の声が聞こえる。
「順を追って話します。……すみません、放してもらえますか?」
「ネロのメモリーにブロックがかかっているのは、彼女が『オーナーがいないのに起動している』という矛盾を、やり過ごすためだと思います」
かすみさんから離れて、というか、はやてに引っぺがされて、僕は話を聞いていた。
「オーナーがいない、登録されていないのだから起動するはずがない……いえ、してはいけない。でも自分は、現実に起動している……。普通なら、そこでAIの処理がループして、神姫の人格は崩壊してしまうんです。違法神姫の一部には、プログラムを改変させてオーナー登録なしで起動する子もいますが……、ネロには、プログラムを外部からいじられた形跡はありません」
違法神姫、という言葉に、はやてが少し複雑な顔をした。
「だとするなら、ネロのAIは無意識に、自分には本当はオーナーがいるんだ、自分は忘れているだけで、と思い込んだのではないか」
「思い込んだ……?」
「そして、ならなぜ忘れてしまったのか、それはメモリーにブロックがかかっているからだと、彼女はあるはずのない記憶に、ブロックをかけた」
信じられない。それしか言葉が浮かばなかった。
「そうしたら、思考の矛盾が消えてしまった。……『オーナー登録』という自分ではどうしようもできない問題を、『メモリーのブロック』という問題にすりかえてしまった。そして今に至った……と考えられます」
僕は呆然とした。結局のところ、彼女のオーナーを探していた事は、全くの徒労に過ぎなかったのだろうか。
「……じゃあ、ネロっていったい何なんですか?」
かすみさんから離れて、というか、はやてに引っぺがされて、僕は話を聞いていた。
「オーナーがいない、登録されていないのだから起動するはずがない……いえ、してはいけない。でも自分は、現実に起動している……。普通なら、そこでAIの処理がループして、神姫の人格は崩壊してしまうんです。違法神姫の一部には、プログラムを改変させてオーナー登録なしで起動する子もいますが……、ネロには、プログラムを外部からいじられた形跡はありません」
違法神姫、という言葉に、はやてが少し複雑な顔をした。
「だとするなら、ネロのAIは無意識に、自分には本当はオーナーがいるんだ、自分は忘れているだけで、と思い込んだのではないか」
「思い込んだ……?」
「そして、ならなぜ忘れてしまったのか、それはメモリーにブロックがかかっているからだと、彼女はあるはずのない記憶に、ブロックをかけた」
信じられない。それしか言葉が浮かばなかった。
「そうしたら、思考の矛盾が消えてしまった。……『オーナー登録』という自分ではどうしようもできない問題を、『メモリーのブロック』という問題にすりかえてしまった。そして今に至った……と考えられます」
僕は呆然とした。結局のところ、彼女のオーナーを探していた事は、全くの徒労に過ぎなかったのだろうか。
「……じゃあ、ネロっていったい何なんですか?」
幻の物語へ