第11話 「一歩」
「よっし、んじゃ今日はここまで……っと」
最後のターゲットを撃破したのを確認して終了を宣言すると、電脳世界から戻ってきたルーシーがゆっくりと目を開けた。
最後のターゲットを撃破したのを確認して終了を宣言すると、電脳世界から戻ってきたルーシーがゆっくりと目を開けた。
俺の家にある家庭用トレーニングマシンは、2ndから1stに上がる直前くらいに参加した大会で優勝した時の賞品。
今やってた電脳空間での仮想戦闘訓練(バーチャルトレーニング)の他、付属の人間型ロボットを使っての実技戦闘訓練(リアルトレーニング)も可能なスグレモノだったりする。
もちろんネットで配信されているパッチを当てれば、戦闘アルゴリズムはさらに精度を増す。
コレを入手して以来、ルーシーは「いろんな戦い方をシミュレート出来ます」と嬉しそうだ。
今やってた電脳空間での仮想戦闘訓練(バーチャルトレーニング)の他、付属の人間型ロボットを使っての実技戦闘訓練(リアルトレーニング)も可能なスグレモノだったりする。
もちろんネットで配信されているパッチを当てれば、戦闘アルゴリズムはさらに精度を増す。
コレを入手して以来、ルーシーは「いろんな戦い方をシミュレート出来ます」と嬉しそうだ。
「どうよ、調子は」
「ワンホール……とは行きませんが、まずまず満足な結果です」
モニタに表示されたリザルト画面では、結構な高得点が出ている。
接近戦闘はアームユニット『チーグル』に任せ、自身は専ら射撃トレーニング、というのがルーシー流。
その甲斐あってか、今じゃマシンガンでのピンポイント射撃はもちろん、曲線を描いて飛ぶグレネード弾すら狙い通りの場所に撃ち込めるようになった。
「ワンホール……とは行きませんが、まずまず満足な結果です」
モニタに表示されたリザルト画面では、結構な高得点が出ている。
接近戦闘はアームユニット『チーグル』に任せ、自身は専ら射撃トレーニング、というのがルーシー流。
その甲斐あってか、今じゃマシンガンでのピンポイント射撃はもちろん、曲線を描いて飛ぶグレネード弾すら狙い通りの場所に撃ち込めるようになった。
「成績がバラつかないってのはいいこった。 余計な緊張はしてない証拠だろ?」
「えぇ、普段と同じです。 どんな相手か想像はしますけど」
「鬼が出るか蛇が出るか、出逢いは常に肝試し、ってな」
おどけた俺の答えにくすくす笑うルーシー。
「えぇ、普段と同じです。 どんな相手か想像はしますけど」
「鬼が出るか蛇が出るか、出逢いは常に肝試し、ってな」
おどけた俺の答えにくすくす笑うルーシー。
俺たちは「相手の情報を事前に集めて作戦を練る」という事を基本的にしない。
俺は別にしてもいいと思うんだが、ルーシーが嫌がるのだ。 『情報に頼り過ぎては咄嗟の判断に困るし、なにより面白みがない』と。
……前半は分からなくもないが、後半は全然分からん。
スーパーの特売チラシ(特にタイムセール)はコピーしたものを冷蔵庫に貼り付けてまで入念にチェックするくせに、と言ったら「それとこれとは話が別です」とこわいかおで叱られた。
俺は別にしてもいいと思うんだが、ルーシーが嫌がるのだ。 『情報に頼り過ぎては咄嗟の判断に困るし、なにより面白みがない』と。
……前半は分からなくもないが、後半は全然分からん。
スーパーの特売チラシ(特にタイムセール)はコピーしたものを冷蔵庫に貼り付けてまで入念にチェックするくせに、と言ったら「それとこれとは話が別です」とこわいかおで叱られた。
風呂も入って夕食終えて、ぽっかりと空いた時間。
俺の思考は明日に控えたバトルそのものの事から少しズレた方向に入り込んでいた。
俺の思考は明日に控えたバトルそのものの事から少しズレた方向に入り込んでいた。
まず考えるのは大佐和の事。 あいつは基本的に誰に対しても遠慮がない。 思慮も分別も後悔も反省もない。
気楽なモラトリアムとはいえ成人男性がコレでいいのかと思うほどバカで、おそらく社会に出ても長続きしないか、続いても出世は出来ないだろう。
そして媚びがない。 言葉にも、態度にも。 自分が負けても相手の強さを誉める事が出来る。
…まぁ自分の敗北した理由に思いが至らない所が本当にバカなのだが。
その大佐和の口ぶりを思い出すに、明日の対戦相手とやらはある程度親しいのだろう。
気楽なモラトリアムとはいえ成人男性がコレでいいのかと思うほどバカで、おそらく社会に出ても長続きしないか、続いても出世は出来ないだろう。
そして媚びがない。 言葉にも、態度にも。 自分が負けても相手の強さを誉める事が出来る。
…まぁ自分の敗北した理由に思いが至らない所が本当にバカなのだが。
その大佐和の口ぶりを思い出すに、明日の対戦相手とやらはある程度親しいのだろう。
正直言って、俺は『知り合いの知り合い』という関係ほど厄介なものはないと思ってる。
俺が家族を亡くしてすぐ、イトコハトコにイトコチガイと名乗る連中が連日押し寄せ、葬儀で坊さんが上げた念仏よりよっぽど熱心に養子縁組だの見合いだの保険だの宗教だのを『オススメ』してきた事があるからだ。
顔や名前どころか存在すら知らない連中が薄っぺらな笑いを浮かべ、そのくせ眼だけをギラつかせながらこちらへ手を伸ばしてくる様子は、それこそ夢に見るほど気持ち悪く、思わず出家して耳なし法一になりたいと思ったほどだ(耳がなければ、少なくとも連中の腐った声は聞かなくて済む)。
……ちなみに『見た事も聞いた事もない縁故関係』の次に多かったのは『腹違い(種違い)の兄弟(姉妹)』で、3番目に多かったのは『生前に約束を交わしていた親の親友』を名乗る人間。
いやまぁギリのキョーダイって設定には腹ァ抱えて笑ったね。 あの万年新婚気分で子煩悩な親父とお袋に、ヨソでタネ蒔いたり蒔かれたりするヒマがあったとは、生まれた時からあの2人の事を知ってる俺でさえ知らないネタだ。
ちなみにそっちの連中は、俺が雇った弁護士の建てた『DNA鑑定』と『契約内容の再確認』という壁を越えられず、いつの間にやら一人残らず消えていた。
俺が家族を亡くしてすぐ、イトコハトコにイトコチガイと名乗る連中が連日押し寄せ、葬儀で坊さんが上げた念仏よりよっぽど熱心に養子縁組だの見合いだの保険だの宗教だのを『オススメ』してきた事があるからだ。
顔や名前どころか存在すら知らない連中が薄っぺらな笑いを浮かべ、そのくせ眼だけをギラつかせながらこちらへ手を伸ばしてくる様子は、それこそ夢に見るほど気持ち悪く、思わず出家して耳なし法一になりたいと思ったほどだ(耳がなければ、少なくとも連中の腐った声は聞かなくて済む)。
……ちなみに『見た事も聞いた事もない縁故関係』の次に多かったのは『腹違い(種違い)の兄弟(姉妹)』で、3番目に多かったのは『生前に約束を交わしていた親の親友』を名乗る人間。
いやまぁギリのキョーダイって設定には腹ァ抱えて笑ったね。 あの万年新婚気分で子煩悩な親父とお袋に、ヨソでタネ蒔いたり蒔かれたりするヒマがあったとは、生まれた時からあの2人の事を知ってる俺でさえ知らないネタだ。
ちなみにそっちの連中は、俺が雇った弁護士の建てた『DNA鑑定』と『契約内容の再確認』という壁を越えられず、いつの間にやら一人残らず消えていた。
「互いに最強であるが故、双方砕け散る以外にない運命を『矛盾』と言います。 本来の戦場(いくさば)であるなら身を守るべき盾を砕かれた方の敗北でしょうが、今回彼らの繰り出した矛は紛い物でした。 砕けなかった本物の盾……つまり、貴方のご両親の勝利です」
元・国語教師という肩書きを持つ弁護士は、穏やかに微笑んでそう言ったものだった。
そういった経験から、俺は『知り合いの知り合い』という人種には関わりたくないと思うようになって、そのうちだんだん人に会うこと自体が嫌になっていた。
まぁ心のどっかじゃ一生そういうスタンスじゃいられないってのは薄々解ってた。
幸か不幸か、今は空気を読めない図々しいバカが背中を押してくれている…と解釈して、明日は少し頑張ってみようと思う。
『知り合いの知り合い』よりは『友人の知り合い』の方が少しは近そうだし。
そう考えると、ルーシーにとっても俺にとっても明日はタタカイだ。
まぁ心のどっかじゃ一生そういうスタンスじゃいられないってのは薄々解ってた。
幸か不幸か、今は空気を読めない図々しいバカが背中を押してくれている…と解釈して、明日は少し頑張ってみようと思う。
『知り合いの知り合い』よりは『友人の知り合い』の方が少しは近そうだし。
そう考えると、ルーシーにとっても俺にとっても明日はタタカイだ。
あ、ルーシーといえば今の話はナイショだ。
機械の身体で涙を流さないあいつは、それでもきっと泣く。
あいつは笑ってる方がいい。
機械の身体で涙を流さないあいつは、それでもきっと泣く。
あいつは笑ってる方がいい。