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§0§
 セットされていたタイマー通りに、暗闇の中で私は目覚めた。
 周囲で朝の挨拶を交わす人たちの声がくぐもって聞こえる。
 トントントン。しばらくして暗闇の中で音が鳴る。
 それは、私を収納しているケースを主(あるじ)が叩く音。それは、主と打ち合わせていた合図。
 私は予定通りの行動を開始した。

§1§
 「おっはよー」「オハヨウ」「いーっす」
 朝。高校の玄関。わたしの周囲で、たくさんの生徒さんたちが朝のあいさつを交わします。これを体験するのは今日が二回目。 わたしはマスターの胸ポケットから、おそるおそる顔を覗かせます。
 「あ、おチビちゃんも、おはよう」
 わたしに気づいた生徒さんが声をかけてきます。
 「あわわっ。おはようございます」
 わたしがまごまごしている間にその生徒さんの姿は遠くにいってしまいます。わたし自身がまだ、ひとがたくさんいるところに馴れていないみたい。
 「おはようございまーす」
 マスターが元気なかけ声とともに目の前の扉を開きます。この高校では、生徒が登校した時に、職員室に立ち寄ることが約束事になっています。
 扉の前には、中年の女性が立っていました。確か、事務を担当されている方で、まるっこい顔に眼鏡と、温厚そうな感じがします。
 「あ、恵子ちゃん、おはよう」
 声を掛けてくれました。マスターは「おう」とかなんとか、適当な返事をして、職員室の中をうろうろし始めます。
 「おはよう。恵子ちゃん」
 女の先生が声を掛けてくれます。いろいろと話しかけてくれているのですが、マスターは断片的に「うん」とか「おお」とか返事をするだけ。もう少しお話をしてみませんか?
 「あら、今日も神姫が一緒なの? えーっと、種型のトモエちゃんだっけ」
 矛先がわたしに向かってきました。
 「あの、どうもですぅ」おそるおそる返事をします。
 「あー、ちゃんとお返事をしてくれるんだぁ」
 先生のリアクションに作為的なことばの響きを感じました。本当に驚いている、というより、反応の少ないマスターからことばを引き出そうとしているみたい。
 うん、ちょっと説明しますね。
 私のマスター、山崎恵子さんは私立高校の一年生。割と細身。そのせいで身長のわりには背が高くみられるみたい。ルックスは中の中。ちょっと、ことば遣いが、乱暴、というか粗雑な気がします。昔から人付き合いが苦手なタイプだったとか。いや、これは、マスターのご両親のお話………、ぬ、盗み聞きなんてしてませんよっ? えっと、それもあって、ご両親はわたしをマスターの話し相手として購入されたというわけ。
 昔から、動物とのふれあいで精神の安定を取り戻す、とかありましたけど、もちろん、わたしたち神姫も「人とのコミュニケーション」に高いプライオリティをもって開発されているので、ご両親の判断も間違っていなかったと思います。これは、自画自賛しちゃいます。えっへん。
 マスターもわたしのことは嫌ってはいないみたい。ゲームをしている時なんか、ご両親がそばにきても、怒ったような反応しか返しませんけど、わたしがそばにいても、何も言いません。また、ゲームでスコアを稼いだときなど、わたしが言葉を掛けると笑顔を返してくれます。わたしが起動してから、どこへ行くにもわたしを連れて行ってくれるし。これは、ある程度の信頼を置いていてくれているって考えてもいいですよね。
 で、ここの高校はー、んー、ことばを慎重に選ばないといけませんね。マスターのような人付き合いが苦手な人。具体例をあげると、引きこもりだったりとかそういう人たちを対象としています。登校時間も普通の学校より遅いし、こうして登校直後に生徒たちが職員室で先生方とコミュニケーションをとったりします。授業の進め方も、わたしが知っている授業とはちょっと違います。
 と、近くを通りかかった、男の先生が声を掛けてきました。北倉先生。社会科の先生でマスターの担任をしています。
 「恵子ぉ、おはよう。折角話しかけてくれているんだから、松岡先生にちゃんと返事をしろよ」
 ブランドのロゴが入ったスゥエットに首もとにはナイロンとプラスチックのネックレスがぶら下がっています。菊池先生というのが、マスターが話をしている女の先生の名前になります。
 わたしはー、この先生が、苦手。むしろ嫌いかも。前回の登校でもそうだったのだけど、なぜか、この先生はマスターを目の敵にしています。
 当然、マスターもこの先生が嫌いみたいです。
 「人と会話することから逃げちゃだめだぞ」
 この先生は、無言で立ち上がって職員室を出て行こうとするマスターの背中へ大きな声で、ことばを投げかけてきます。
 何か言い返したいけど、怖くてからだが動きません。
 その時、わたし宛のメッセージが届きました。

§2§
 メッセージは、わたしのデータ通信用ポート経由で届きました。本来、このポートはクレイドル上での非接触式のデータ通信に使われるもの。裏ワザ的に神姫同士のコミュニケーションにも使われます。メッセージはまさにその方法で届きました。だから、届いたメッセージもヒトが会話の時に使うプロトコルではなく、わたしたち神姫の電子脳ネイティブなものになります。ヒトが使うプロトコル、日本語にするとこんな感じかな。
 『このメッセージ、届いている?』
 (タグには発信者の型式と固有名が記載されています。相手は騎士型MMSで、名前はアグリアスさんということがわかりました)。
 『はい。あなたは?』
 (わたしも同じようにお返事をします。わたしの疑念や警戒心もデータとして一緒に送信されます。すると、ちょっと一歩下がるようなイメージを乗せて次のようなメッセージが送られてきました)。
 『同じ学校に来ている神姫同士、話をしてみないか』
 (続けて、メッセージ受信。ためらいの気持ちが乗っています)。
 『もちろん、君のマスターが了承したなら、の話だ』
 『あ、はい』
 (どうやら、悪い人ー、悪い神姫ではないように思えました。最後に送信したメッセージには私の安堵の気持ちも乗っているはず)。
 『放課後にパソコン室で。私はこのポートをオープンにしている。では』
 (感情の振幅が少ないと言えばいいのでしょうか、最初から最後まで落ち着いた感じでメッセージは送られてきました。この動じないナイロンザイルのような太い神経は、騎士型の特徴なのでしょうか。ちょっとうらやましい気がします)。

 私は打ち合わせ通りに、最も近くに存在していた神姫に向かってメッセージを送った。どうやら相手方、種型でトモエ、と名乗ったーは、私のメッセージに対して、好意的な解釈をした、…そう思うことができる反応だった。
 私は、打ち合わせていた通りのリズムで、ケースの内壁を叩く。「万事順調」と。

§3§
 そして、わたしはマスターと一緒にパソコン室にいます。何人かの生徒さんが、それぞれパソコンに向かっています、前回の登校時にも見た顔がほとんど。大体ここで放課後を過ごすメンバーは決まっているようです。どうやらアグリアスさんはまだ到着していないようです。
 とりあえず、私たちはパソコンの前に座ってwebを巡回します。私は自分の機能を使って無線LANにリンクしたりします。
 うーん。同一のLANに、先生方のパソコンも接続していますけど、セキュリティも何もあったものじゃありませんね。ある先生なんか、フォルダが丸見え。何か「成績」とかの文字が入っているファイルがあります。マスターの成績を書き換えてしまいましょうか。
 いやいや、これはマスターに教えない方が良いかもしれません。
 そんなこんなをしていると、再びアグリアスさんからメッセージが届きました。どうやら、こっちに向かっているようです。
 「あれ、先生、今日は神姫連れてきたのォ?」
 そんな声がどこからか聞こえました。

 「初めまして。アグリアスという。もう知っているとは思うが、こっちの唐変木が私の主だ。おい。自己紹介くらい、自分でやれ」
 と、机の上でアグリアスさんは後ろの男性を振り返りました。
 そこにいたのは、この学校の先生のひとり。名前はー、忘れました。確か、先生方の間でも評判が良くないひとだったことは覚えています。
 「こんにちは。名前は巴御前さんだったね。普通に呼ぶときは巴さんでよかったかい」
 ああ、やっぱりダメな先生みたい。わたしに話しかけてるヒマがあったらマスターに話しかけて下さい。何で、自分の神姫を学校に持ち込んでそのお友達を増やそうとしているんですか? マスターのことを見てあげて下さい。それがあなた方の仕事でしょ? 思わず、後ずさりしてしまいます。でも、その先生はそんなわたしに構わずに話を続けます。ヤバイ。けっこう、後先見えないひとなのかも。
 「んー、やっぱ君の名前ってアレかい? 戦国ー、もちょっと前だったかの女武将からとったのかい」
 すると、マスターが反応しました。
 「先生、知っているの。ゲームに出てくるキャラから名前をもらったんだけど」
 表情が、今までと違います。すごい明るい顔をしてます。ちょっとびっくり。
 「へぇ、ゲームって何さ」
 「あ、俺知ってる。アレだろ。戦国〜、なんて言ったっけ、あの一人で大勢の敵をなぎ倒すやつ」
 そういって、近くにいた生徒さんが会話に加わってきました。
 「そう、それっ」
 マスターが興奮気味にことばを返します。なんだか会話になっています。こんなマスターを見るのは初めてです。です・ますがごっちゃになってしまいました。それくらいおどろきました。
 わたしが、ポカンとしてマスターがほかの生徒さんたちとお話をしているのを眺めていると、アグリアスさんからメッセージが届きました。
 『申し訳ない。君をダシにさせてもらった』
 『どういうことですか』
 『君のマスターについては仕事柄、私の主も心配していたんだ。どう話しかけても反応が少ないって。それで、君のことを話題にしたら、と考えたんだ。前回の登校時の様子を見ていて、彼女は君のことを気に入っているようだったと主は考えたんだ』
 ええと、こんな時の驚きを表現する定型文がメモリーに………、ありました。
 「あわてるな、これは孔明の罠だ」
 思わず、声に出しちゃいました。
 なんだか間違っているような気もします。
 『じゃぁ、あなたの主さんが取っていた態度は、マスターの反応を引き出すためのものだったの』
 『その通り。とりあえず、成功したって言ってもいいんじゃないかな。この状況は』
 あおぎ見ると、マスターを中心に生徒さんたちが何人か集まってゲーム談義に花を咲かせていました。主さんは、マスターのいる卓のパソコンを操作してゲームの攻略サイトを開きます。すると、そこでまた、攻略サイトの話題に花が咲きます。マスター、本当に楽しそう。
 「我が主だけあって、流石。と言いたいところだが、少々、君に対する礼儀を忘れているようだ。やはり教育してやらねばなるまい」
 アグリアスさんが私の傍らに立って、口を開きました。
 「何をしているのだ、この唐変木! 巴殿への自己紹介はどうした! 私に恥をかかせるような情けない人間を主に迎えた覚えはないぞ!」

 なんか、主従関係が逆転していませんか?  

§4§
 アグリアスさんの主さんは三井先生と言います。数学を担当されています。
 「いやぁ、ごめんね」
 いかにも騎士型らしいアグリアスさんの一喝を受けた三井先生は、ハハハ、と笑いながら自己紹介をしてくれました。わたしたち種型には、自分のマスターを怒鳴りつけるなんて、そんなまねはできません。
 
 その後も、三井先生は校内生活のさまざまな場面で、マスターをサポートしてくれるようになりました。サポートと言っても。最初の時のように、なにかキッカケを作ったりとか、促すような感じ。そんなある日。
 「恵子! 北倉先生が放課後に話をするって言ったでしょ! 早く北倉先生の所へ行きなさい!」
 パソコン室の出入り口で、体育担当で副担任の金藤先生がマスターを呼んでいます。あまり良い状況ではないことは、授業中にスリープしていたわたしにもわかります。毎回、何らかの理由でマスターは北倉先生からお説教を受けています。
 「マスター、何があったんですか」
 こんなとき、マスターはいつも応えてくれません。ただ、パソコンに向かって画面を観ているだけ。
 「恵子! 無視してもダメだよ! 早く行きなさい!」
 何だか声のトーンがアップしています。ただ、おかしなことに金藤先生は出入り口から一歩も入ってきません。ほかの生徒さんたちもいるのだから、用件があるなら、マスターのところで話をすればいいのに、と思います。
 「あ、先生、体育館でバスケしたいんだけどいいかな」
 廊下で生徒さんが金藤先生に質問を投げかけました。金藤先生の注意がそちらの生徒さんに移ります。その時、三井先生がマスターのところへ近づいてきて、こうささやきました。
 「なぁ、無視したって、いつまでもおいかけられちゃうんだから、さっさと行って、言いたいこと言わせてきたらどうだ」
 その言葉を耳にしたマスターは、一瞬考えを巡らせたあと、わたしと三井先生を見て、ダッシュ。金藤先生の脇をすり抜けて廊下を駆けていきました。
 「あれ、いない」
 金藤先生がマスターがいなくなったことに気づいて、出入り口から離れていきました。わたしは三井先生を振り返って尋ねました。
 「あの、一体何があったんでしょう」
 「さぁて。ま、大体の予想はつくけどね」
 そう言ったきり、三井先生は黙ってしまいました。

§5§
 『お待たせした。唐変木もパソコンの前にいるぞ。学校で何かあったのか』
 その日の深夜のこと。クレイドルで休んでいるわたしにメッセージが届きました。マスターはパソコンでゲームに興じています。メッセージはバックグラウンドで起動している、神姫の管理アプリが持つユーザーチャットの機能を使って送られてきました。そのまま、返事を送ります。マスターがしているゲームの動作には影響はない、はず。
 『今日は一体何があったのかな、と思って。マスターに聞いても教えてくれないんです』
 わたしは人間である三井先生のため、わたしの考えをテキスト変換したデータと一緒に送ります。向こうのパソコン画面では、テキストチャット画面にわたしの
考えが表示されています。
 〈まぁ、彼女の性格からして、言わないだろうね〉
 三井先生のテキストが送られてきました。
 〈それに、あの時はほかの生徒がいたから、説明できなかった〉
 〈続けても、いいかな?〉
 『はい、どうぞ』
 〈まず、これは、君が彼女の神姫だから話すこと。他言無用だ。それはいいかい?〉
 えっと、もちろん、マスターの個人情報ですからほかの人に話しちゃいけませんよね。
 『はい。ほかの人にお話ししたりしません』
 〈よし。ちょっと、長いよ〉
 〈彼女が北倉先生と合わないのは、北倉先生の言葉にウソを感じているからだ〉
 〈北倉先生が常に口にしている言葉に「みんなで一緒にやると楽しい」「みんな仲良く」と言うたぐいの言葉がある〉
 〈確かに、それは理想としては正しい。ただ、現実の人間にそれを適用するとなると無理が生じる。それが簡単に出来るようなら、今頃世界中の紛争なんてなにひとつ無くなっていなければならないだろ。それが、ウソだと言った部分だ〉
 〈さらに、ここの学校にくるのは「みんなで、一緒に」何かをすることが苦手な子であることが多い。君のマスターもそのひとりだ〉
 〈「みんなで云々」と言っても、もともとそれができなくて、悩んでいるひとにいきなりそれを要求するのは無理だ。もっと、別の段階を踏まないといけない〉
 〈だから、今日の一件も「みんなで、一緒に」って、北倉先生が言い出して、それを嫌った彼女が反発して、教室を抜け出すなり、何かをやってしまったんだと思う。こんなとこかな〉
 『なぜ、北倉先生はそんな方法を取るんでしょう。もっと適切なやり方があるなら、それを選べばいいはずなのに』
 返事が返ってきません。どうしたのかと思っていると、アグリアスさんからメッセージが届きました。
 『今、主は返答を思案中だ。申し訳ないが今暫く返答を待ってくれ』
 返事はそのすぐあとに届きました。
 〈言い切ることは簡単だけど、本当にここだけの話にしておいてもらいたい〉
 〈正直な話、それが彼の限界だ〉
 〈「みんなで云々」と言う言葉には、実はもうひとつの側面がある〉
 〈教員が手軽に生徒を管理することが出来る言葉だということだ〉
 〈また、彼の性格もある。彼はどこまで自分で気づいているか知らないが、基本的にお山の大将をやりたい人間だからだ〉
 〈だから、君のマスターに対しても、その性格を心配している、と言うより、ただ、自分に従わないことが気に食わないだけだと思う〉
 また、しばらくの沈黙。
 〈ごめんな。この件については俺も腹が立っている。ちょっと外すわ。アグリアスが君と話してみたいと言っている〉
 沈黙。少し、人間のことが解らなくなりました。なんだか、くらくらします。どうすればよいのか解りません。このときほど、わたしたち、種型の基本性格を構成する優柔不断の要素をうらめしく思ったことはありません。
 『大丈夫か。今の話、消化しきれないでいるのではないか』
 アグリアスさんのメッセージが届きました。騎士型の性格なら、こんなときにも迷わずに自分の決断を下すことができるのでしょう。
 『わたしはどうすればいいんでしょう』
 『それは君自身が考えることだ』
 ばっさりとたたき落とされてしまいました。
 『ムゥ…。君は神姫バトルに参加したことはあるのか』
 『いいえ、まだです』
 神姫バトルがこの話題と何か関係あるのでしょうか。
 『神姫バトルはプログラムによって進行する。私たち神姫の機動力などの基本スペックや、武器の威力など、全ては数式で決まる。ならば、どんなに武装や武器の種類が増えてもバトルに勝利するための最大公約数的な解が存在するはずだ。そして、それを突き詰めれば、最強の盾と最強の矛がぶつかり合う事態が発生してしまう。バトルのシステムそのものが、解にたどりついてしまい、ゲームとしての意味をなさなくなってしまう。しかし、そのようなことは起こらない。なぜなら、そこに人間が介在するからだ』
 『はい』
 『それぞれのマスターたちは、武装の性能のみならず、時には見栄えや、本来想定されていないであろう、武装の組み合わせや指示でバトルに臨む。結果、そこにバトルの多様性が生まれる。これは私たち神姫だけでは到達するのは難しい。私たちは最新の技術で作られた学習機能を持つAIだが、こと発想の自由度では人間に及ばない部分が多々ある。私たち神姫は人間と共に歩むことでその成長をとげることができる』
 ひといき置いて、アグリアスさんは話を続けます。
 『君は今、悩んでいるのだろう。それが私にはうらやましい』
 『え、どうしてですか』
 意外な言葉に私は驚きました。わたしは騎士型の決断力がうらやましくて仕方ないのに。
 『確かに、私たち騎士型はいわゆる「竹を割った」ような性格が多い。しかし、ものごとを判断するときには、速さが求められる場合とそうではない場合がある。私は、行動してからしまった、と思うことも少なくない』
 えっと。
 『もしかして、あなたと三井先生のこと』
 ………、図星だったみたい。わたしの元に彼女の感情データがどっと押し寄せてきました。後悔、羞恥、そして怒り。
 『そうだっ、悪いかっ』
 『ごっ、御免なさいっ』
 沈黙。しばらくして、気を取り直した彼女の気持ちが伝わってきました。
 『まぁいい。その天然さ加減が君たち種型の短所でもあり長所でもある。悩めばいい。そうすれば君は世界にただひとりユニークな神姫になることができる。そうして君のマスターに尽くすといい』
 どうやら、わたしを励ましてくれていたみたい。
 『神姫のなかには、マスターと交流を深めるうちに、私たちに与えられた、基本設定の枷を越えた判断をするようになったものもあると聞く。君や私もそういう境地にたてるようになりたいものだな。ああ、そのうち、君にも私の友達を紹介しよう。じゃぁの』
 ネットでは定型文のひとつとなっているあいさつを最後に、アグリアスさんはログアウトしました。
 考えることがいっぱいできました。
 私には、何ができるんでしょうか。

§6§
 その翌日。いつもの生徒さんたちと一緒にマスターはパソコン室で何やらパソコンの前でうなっています。そしてすみっこには三井先生。イスに座って上着を被って寝ています。本当に、放課後とはいえ、この先生は何をしているんでしょうね。ほかの先生がたは体育館で生徒さんと一緒にバスケとかをしているみたい。でも、ときどき、生徒さんにパソコンの操作を教えたりしてます。まぁ、生徒さんたちも、先生がいれば無茶はしないでしょうし。
 「せんせー、こないだ見つけたエロサイトってどこだっけ」
 先生、ここはひとつ毅然としかりつけて下さい、期待してます。
 「あー、あれかー。きゃぴりんキックでググれ」
 いや、教えちゃダメでしょ、そこは。
 「嘘つくなよ、オッチャン」
 何人かが笑い声をあげます。
 「お、来たか」
 三井先生が私たちに気づきました。
 「あ、いけねぇ。アグアグ、忘れてきちゃった」
 どうやら、アグアグというのが、アグリアスさんの愛称みたい。
 「なに、アイツ、今日も来てるの」
 マスターが反応しました。
 連れてくるから、という三井先生の言葉をさえぎってマスターはわたしを連れて職員室まで行くことになりました。
 マスターは満面の笑みを浮かべています。
 「あら、恵子ちゃん。どうしたの」
 事務の女性職員の方が声をかけてきました。興奮気味にマスターが応えます。
 「先生が神姫を見せてくれるって」
 「三井先生、神姫持ってたの。なんか、恵子ちゃん、やけにはしゃいでるわね」
 と、いいながら三井先生の机に寄ってきました。なんでもお子さんたちが興味を持ち始めているのだとか。
 「まったく、この状況はどういうことだ」
 引き出しのなかから出てきたアグリアスさんは、結わえていた髪を下ろしていました。ふわりと広がる金髪がとてもきれい。
 「何か、心境の変化でもあったんですか。あの、三井先生と何かあったんですか」
 尋ねてから、しまった。と思いました。昨日の会話はマスターにはないしょにしてましたから。
 「まったく君は。本当に天然なのか、悪意があるのか計り知れないところがあるな」
 大きくため息をついて言葉をつなげます。
 「まぁ、察しの通りだ。それで、君に礼を言っておこうと思ってな。ありがとう」
 わたしは差し伸べられた手を握り返します。
 そのとき、背後から大声が響きました。
 「恵子ぉ、そんなオモチャで遊んでないで、人とコミュニケーションをとらなくちゃな」
 北倉先生です。腕を訓でふんぞりかえっていました。マスターの顔色が変わります。わたしは、机の上に積まれている書類の上に駆け上りました。背後で椅子を蹴倒す音と三井先生が立ち上がる気配がしました。
 「マスターは、恵子さんは、わたしたちのことを話題にしてほかのひとたちとコミュニケーションをとってるんですっ! 事情も良く把握しないうちからお説教するのはやめてくださいっ!」
 周囲のひとたち、みんなの動きが止まりました。北倉先生は、ぽかんとした顔をしています。
 「スゴイな、君は」
 背後から三井先生がわたしに向かってつぶやきをもらしました。
 気を取り直したのか、北倉先生がわたしに向かってきます。わたしを掴もうとした手を、三井先生が弾きました。北倉先生は手首を押さえてほんとうに、びっくりした顔をしています。
 「もういいよ、お前。どっか、向こうへ行って大好きな教師ドラマの主人公のマネゴトでもしてろ。大丈夫、生徒たちもわかってお前のオママゴトに付き合ってるんだから」
 三井先生がそう言い放つと、北倉先生は本当に、比喩ではなくて、本当の頬をふくらませて、不満そうな顔でのそのそと立ち去っていきました。
 「なんだか、君にいいところを全部持っていかれたな」
 「あの、ごめんなさい。わたし、言い過ぎたでしょうか」
 「いいさ。ま、俺が暴れる機会がなくなっちゃったけど、それは、いいさ」
 どういうことかといぶかしげに思っていると、アグリアスさんが解説してくれました。
 「この馬鹿者が、転職が決まったからといって、最後に暴れていくつもりだったのさ。考えように寄っては、君がそれを阻止してくれたわけだ。感謝してもしたりないぐらいだぞ。主よ」
 「ああ、そうだな。改めて、ありがとう。これから先も恵子のことを見てやってくれよな。今日の件は教頭に報告を上げておくから、北倉が今日のようなちょっかいをだすことも少なくなる、と思うよ」
 マスターがわたしの元へくると、今まで見たこともない優しい表情でわたしの顔を覗き込みました。そして、わたしを両手ですくいあげると、ギュッと抱きしめてくれました。

えんいー。
 




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