新しき波浪と旋風の、前にある物
“聖夜”も過ぎ、帳簿上の仕事納めが目前となった。お台場で巻き起こる
“聖戦”を前に、年の瀬の秋葉原は活気に満ちているが……しかし、この
MMSショップ“ALChemist”は別だ。普段より客が多少増えた程度であり、
私・槇野晶は、優雅に紅茶を頂きながら店番をしていたりする訳だ……。
“聖戦”を前に、年の瀬の秋葉原は活気に満ちているが……しかし、この
MMSショップ“ALChemist”は別だ。普段より客が多少増えた程度であり、
私・槇野晶は、優雅に紅茶を頂きながら店番をしていたりする訳だ……。
「ふぅ……ここは、外の喧噪が嘘の様だな。帳簿作成も大方終わり、と」
「お疲れ様なんだよマイスター。在庫検品も、パーツ類は終わりだもん」
「あ。通販の最終発送分も、宅配便のお姉さんが先程持っていきました」
「友人さんへの“年賀メール”も、雛形の打ち込みは完了ですの~っ♪」
「皆、御苦労だな。後出来るのはメールの個別調整と掃除位の物か……」
「お疲れ様なんだよマイスター。在庫検品も、パーツ類は終わりだもん」
「あ。通販の最終発送分も、宅配便のお姉さんが先程持っていきました」
「友人さんへの“年賀メール”も、雛形の打ち込みは完了ですの~っ♪」
「皆、御苦労だな。後出来るのはメールの個別調整と掃除位の物か……」
とは言え、前者は“ながら作業”でも十分な量だ。後者は一見大変だが
普段から神姫達が自由に動き回れる様に……何より美観と健康の為に、
棚の上や壁の縁……更には細かい隙間なども、きっちり掃除している。
その為に、掃除の分量も知れていた。地下に住まうと、この辺はどうも
神経質になりすぎてな?しかも一応は精密機械である神姫達と一緒だ。
普段から神姫達が自由に動き回れる様に……何より美観と健康の為に、
棚の上や壁の縁……更には細かい隙間なども、きっちり掃除している。
その為に、掃除の分量も知れていた。地下に住まうと、この辺はどうも
神経質になりすぎてな?しかも一応は精密機械である神姫達と一緒だ。
「……お前達の為に普段から埃は徹底除去しているからな、多少は楽だ」
「余裕はありますの、マイスター?……お出かけはしないでしょうけど」
「有無。年越しを楽しむ余裕はありそうだ、そして出かけないのも然り」
「え?イベント好きのマイスターですし二年参りとかするかなって……」
「行事は好きだが、人混みに好んで飛び込んでいく性分でもないのでな」
「それはちょっぴり意外なんだよ……神姫のイベントとかは例外かな?」
「余裕はありますの、マイスター?……お出かけはしないでしょうけど」
「有無。年越しを楽しむ余裕はありそうだ、そして出かけないのも然り」
「え?イベント好きのマイスターですし二年参りとかするかなって……」
「行事は好きだが、人混みに好んで飛び込んでいく性分でもないのでな」
「それはちょっぴり意外なんだよ……神姫のイベントとかは例外かな?」
クララの指摘は確かにその通りだった。が、他にもちょっと理由がな?
“その日”が近い事もあってか、例年通りなら正月は大人しく過ごす。
ロッテと過ごしていた今年の三ヶ日も、それは変わらなかった……が、
来年はどうする……初詣位は良いか?“妹”も増えた事だしな、有無。
“その日”が近い事もあってか、例年通りなら正月は大人しく過ごす。
ロッテと過ごしていた今年の三ヶ日も、それは変わらなかった……が、
来年はどうする……初詣位は良いか?“妹”も増えた事だしな、有無。
「……ふむ、では天候次第だが……近所の神社にでも詣でてみるか?」
「いいんですの、マイスター?それはそれでわたしも嬉しいですけど」
「構わんさ。お前達と過ごす様になり私も代わった、という事だろう」
「あ、ありがとうございますっ!今から、願掛けする事決めないと!」
「ボクは御神籤が楽しみかな。大吉が出てくれると嬉しいんだよ……」
「いいんですの、マイスター?それはそれでわたしも嬉しいですけど」
「構わんさ。お前達と過ごす様になり私も代わった、という事だろう」
「あ、ありがとうございますっ!今から、願掛けする事決めないと!」
「ボクは御神籤が楽しみかな。大吉が出てくれると嬉しいんだよ……」
ロッテが若干心配そうな雰囲気だった物の、私の決定で納得したらしい。
……彼女だけは“その日”を『知っている』からな。心配してくれるのは
当然と言えたかもしれん。しかし今、私には前へ踏み出す努力が必要だ。
何を、だと?……何れ分かる事だろうな。そんな予感がするのだ、有無。
……彼女だけは“その日”を『知っている』からな。心配してくれるのは
当然と言えたかもしれん。しかし今、私には前へ踏み出す努力が必要だ。
何を、だと?……何れ分かる事だろうな。そんな予感がするのだ、有無。
「まぁ、そういう訳でのんびり年末年始を楽しむ余裕はあるという訳だ」
「はいですの、それなら……わたしも精一杯楽しんじゃいますの~っ♪」
「そうと決まれば、お節等の買い出し等もせねばならんな。出来合だが」
「……流石に一からお重を作るのは、大変だと思うんだよマイスター?」
「ですね~、そこはしょうがないかもしれません。予約も手遅れですし」
「はいですの、それなら……わたしも精一杯楽しんじゃいますの~っ♪」
「そうと決まれば、お節等の買い出し等もせねばならんな。出来合だが」
「……流石に一からお重を作るのは、大変だと思うんだよマイスター?」
「ですね~、そこはしょうがないかもしれません。予約も手遅れですし」
鈴が鳴る様に笑うアルマ、冷静にツッコミを入れるクララ。そして何より
己もはしゃぎつつ、それを眩しそうに見守るロッテ。思えば皆の個性を、
最近は特に実感する様になってきた。“私達”の生活に、互いが欠かせぬ
存在となってきた証であろう。となれば、来年は益々皆を大事にしたい。
己もはしゃぎつつ、それを眩しそうに見守るロッテ。思えば皆の個性を、
最近は特に実感する様になってきた。“私達”の生活に、互いが欠かせぬ
存在となってきた証であろう。となれば、来年は益々皆を大事にしたい。
「……でも、来年は皆どうなっちゃいますの?ふと、思ったんですけど」
「あ、それ……あたしも思ってたんですよロッテちゃん。何かこう……」
「何かがありそう、って予感かな?それならボクも感じるんだよ、うん」
「皆、認識を強めつつあるか……何なのだろうな、この謎めいた感情は」
「あ、それ……あたしも思ってたんですよロッテちゃん。何かこう……」
「何かがありそう、って予感かな?それならボクも感じるんだよ、うん」
「皆、認識を強めつつあるか……何なのだろうな、この謎めいた感情は」
しかし、保守的ではいられない何かが起こる。私達の直中を吹き抜ける、
新鮮な風の予感を、全員が感じていた。それは、年の瀬が近付くに連れて
“確信”へと変わりつつある程の、強い感覚だ。それは大きな嵐なのかも
しれないし、爽やかな風なのかもしれん……不安と期待の混ざった直感。
ともあれ得体の知れない“何か”を、この時点の私達は感じていたのだ。
新鮮な風の予感を、全員が感じていた。それは、年の瀬が近付くに連れて
“確信”へと変わりつつある程の、強い感覚だ。それは大きな嵐なのかも
しれないし、爽やかな風なのかもしれん……不安と期待の混ざった直感。
ともあれ得体の知れない“何か”を、この時点の私達は感じていたのだ。
「……まぁ、気に病んでも仕方がないと言えばその通りだな。どれ……」
「あ、マイスター!わたしは、あったかいダージリンがいいですの~♪」
「……紅茶を入れてやろうか、と言おうとしたのに勘が冴えるなロッテ」
「温かい紅茶が丁度欲しくなる様な話のタイミングだったんだよ、うん」
「ええ……席を立ち上がった時に、そんな雰囲気がしましたからねっ♪」
「む゛、そ……そんなに分かりやすいか私は?何だか少々ショックだぞ」
「あ、マイスター!わたしは、あったかいダージリンがいいですの~♪」
「……紅茶を入れてやろうか、と言おうとしたのに勘が冴えるなロッテ」
「温かい紅茶が丁度欲しくなる様な話のタイミングだったんだよ、うん」
「ええ……席を立ち上がった時に、そんな雰囲気がしましたからねっ♪」
「む゛、そ……そんなに分かりやすいか私は?何だか少々ショックだぞ」
思考というか間合いを読まれてしまい、私はつい紅くなる。それを見て、
三姉妹はおかしそうにまた微笑むのだ。その笑顔が、堪らなく可愛いッ!
多分私の頬も盛大に緩んでいるのかも知れん……全く、罪作りな娘らだ。
三姉妹はおかしそうにまた微笑むのだ。その笑顔が、堪らなく可愛いッ!
多分私の頬も盛大に緩んでいるのかも知れん……全く、罪作りな娘らだ。
「と、動揺してばかりもいられぬな。まだ年末年始の準備があるのだぞ」
「……マイスター、ならそろそろ締めちゃう?“嵐の前の静けさ”だよ」
「そう、だな……“聖戦”組も今日は来ぬだろうし、閉じていいだろう」
「あ。それなら一足先に“本日終了”の看板を、外に出してきますね?」
「有無、頼むぞアルマや。その間に、紅茶を一通り揃えてしまうからな」
「外は寒いですから早めに帰ってきてくださいの、アルマお姉ちゃん♪」
「……マイスター、ならそろそろ締めちゃう?“嵐の前の静けさ”だよ」
「そう、だな……“聖戦”組も今日は来ぬだろうし、閉じていいだろう」
「あ。それなら一足先に“本日終了”の看板を、外に出してきますね?」
「有無、頼むぞアルマや。その間に、紅茶を一通り揃えてしまうからな」
「外は寒いですから早めに帰ってきてくださいの、アルマお姉ちゃん♪」
“新しき”何かへの予感と“古き”何かへの畏れ。その精算が出来る様、
来年は一層奮起していきたい、と私は思う。ロッテ達にも、それぞれ別の
“抱負”や“意気込み”が在る事だろう。私は、それも叶えていきたい。
……その為に、今だけはゆったりと。静けさをたっぷりと、楽しもうか。
来年は一層奮起していきたい、と私は思う。ロッテ達にも、それぞれ別の
“抱負”や“意気込み”が在る事だろう。私は、それも叶えていきたい。
……その為に、今だけはゆったりと。静けさをたっぷりと、楽しもうか。
「うぅぅ……さ、さむいです~。早く紅茶ください~、マイスター……」
「情け無い声を出すでない、アルマや。もうすぐ蒸れる、すぐに出そう」
「……ボクらは凍え死んだりしないから、心配ないと思うんだよ?うん」
「それでも、寒いよりは暖かい方がいいですの~♪身も心も、ね……?」
「情け無い声を出すでない、アルマや。もうすぐ蒸れる、すぐに出そう」
「……ボクらは凍え死んだりしないから、心配ないと思うんだよ?うん」
「それでも、寒いよりは暖かい方がいいですの~♪身も心も、ね……?」
──────来年は、もっと皆が幸せになれます様に。