大切な人に──あるいは粉雪の聖夜
時は2037年のクリスマス・イヴ。温暖化が進んだ東京に、ようやっと
今シーズン初の粉雪がちらつき始めた日の事。私は一人、春に向けた
新作“Electro Lolita”の試作材料を補充する為、渋谷に来ていた。
当然だが、周りはカップルだらけである。居心地の悪さは拭えぬな。
今シーズン初の粉雪がちらつき始めた日の事。私は一人、春に向けた
新作“Electro Lolita”の試作材料を補充する為、渋谷に来ていた。
当然だが、周りはカップルだらけである。居心地の悪さは拭えぬな。
「ふぅ……材料も揃ったし資料も集めた、今日は早めに帰るとするか」
ふと隣を見て、そして私・槇野晶は自嘲する。今日は、神姫が居ない。
無論、私は誰か連れてこようかと声を掛けたぞ。しかし、ダメだった。
無論、私は誰か連れてこようかと声を掛けたぞ。しかし、ダメだった。
『ロッテや、渋谷にでも出ぬか。少々買い物をしようと思うのだがな』
『え、えと……ごめんなさいですの、仕入れ先の人がこの後来るって』
『むむ、では店番を任せるぞ。アルマや、お前は……って“茜”か?』
『はい。ちょっと夕飯の買い物をしないといけないので、HVIFを』
『むぅ……クララは“梓”としての、一応塾の期末テストだったなぁ』
『え、えと……ごめんなさいですの、仕入れ先の人がこの後来るって』
『むむ、では店番を任せるぞ。アルマや、お前は……って“茜”か?』
『はい。ちょっと夕飯の買い物をしないといけないので、HVIFを』
『むぅ……クララは“梓”としての、一応塾の期末テストだったなぁ』
そう。何故か今日に限って、致命的に皆の予定が合わぬのだ。寂しいが
無理に連れ出すなどという事は出来ぬ。締め付けられそうな“心”を、
少々隠しながら、私は一人で出てきたのだ……だが、どうも味気ない。
無理に連れ出すなどという事は出来ぬ。締め付けられそうな“心”を、
少々隠しながら、私は一人で出てきたのだ……だが、どうも味気ない。
「やはり、大事な“妹”達がいないと……調子が狂ってしまうな、有無」
『Happy X'mas!皆様、プレゼントのご用意はお済みですかぁ~っ!!?』
「む?そう言えば……ああ、用意していたな。棚の奥に仕舞っていた筈」
『Happy X'mas!皆様、プレゼントのご用意はお済みですかぁ~っ!!?』
「む?そう言えば……ああ、用意していたな。棚の奥に仕舞っていた筈」
小うるさい街頭宣伝に、私は贈り物の在処を思い出す。となれば、急いで
帰って彼女らに渡さねばならない。色々あって正直になれていない私だが
言葉にする以外の部分で、出来る事はきっちりこなさねばならんからな!
そうと決まれば……という事で、私は急ぎ渋谷駅からの山手線に乗った。
無論駅ビル地下で、クリスマスケーキを四人前買っておくのも忘れない。
帰って彼女らに渡さねばならない。色々あって正直になれていない私だが
言葉にする以外の部分で、出来る事はきっちりこなさねばならんからな!
そうと決まれば……という事で、私は急ぎ渋谷駅からの山手線に乗った。
無論駅ビル地下で、クリスマスケーキを四人前買っておくのも忘れない。
「喜んでくれるとよいのだが……っと、秋葉原駅か。降りねばならんな」
『あきはばら~、あきはばらです♪』
『あきはばら~、あきはばらです♪』
普段通りのアナウンスを後に、雑踏に躍り出る。そこは普段通りであり
その実、異様なテンションに包まれていた。そう、間もなく“聖戦”。
もう一~二日すれば、お台場に全国から猛者共が集う筈だ。そうなれば
この秋葉原は、“聖地”を目指す者と帰ってきた者達でごったがえす。
彼らにはクリスマスも関係……あるとは聞くが、別腹という事だろう。
その実、異様なテンションに包まれていた。そう、間もなく“聖戦”。
もう一~二日すれば、お台場に全国から猛者共が集う筈だ。そうなれば
この秋葉原は、“聖地”を目指す者と帰ってきた者達でごったがえす。
彼らにはクリスマスも関係……あるとは聞くが、別腹という事だろう。
「押し潰されては敵わぬ。さっさと帰ろ……む、あれは“梓”?!」
「え?あ、マイス……じゃない。晶お姉ちゃん?どうしたのかな?」
「どうもこうも、今渋谷から帰ってきた所だが……その袋は何だ?」
「……お姉ちゃんこそ、その箱は何かな?服には見えないけど……」
「え?あ、マイス……じゃない。晶お姉ちゃん?どうしたのかな?」
「どうもこうも、今渋谷から帰ってきた所だが……その袋は何だ?」
「……お姉ちゃんこそ、その箱は何かな?服には見えないけど……」
気まずい……気まずすぎる。流石に、もう少し待って驚かせたいのだ。
だが、梓の方も挙動がおかしい……まさかとは思うが、あの袋は……?
だが、梓の方も挙動がおかしい……まさかとは思うが、あの袋は……?
「こほん、取りあえず帰らぬか。こんな所で止まっていたら流されるぞ」
「うん、それがいいかもしれないんだよ……早く戻ろう、お姉ちゃんっ」
「うわっ!?お、おい急に手を引くなっ。とと……全く、どうしたのだ」
「……だって、今日は“聖なる夜”だもん。少し位いいと思うんだよ?」
「うん、それがいいかもしれないんだよ……早く戻ろう、お姉ちゃんっ」
「うわっ!?お、おい急に手を引くなっ。とと……全く、どうしたのだ」
「……だって、今日は“聖なる夜”だもん。少し位いいと思うんだよ?」
梓……否、クララの言葉に少しドキっとする。まるでそれは……嗚呼、
いやいや!意識してしまうと、頬が赤らんでしまうな。急いで私達は、
MMSショップ“ALChemist”の木製ドアを潜り、居住フロアへと降りる。
──そこは、暗闇だった。照明が落ちていると気付くまでには、数秒。
いやいや!意識してしまうと、頬が赤らんでしまうな。急いで私達は、
MMSショップ“ALChemist”の木製ドアを潜り、居住フロアへと降りる。
──そこは、暗闇だった。照明が落ちていると気付くまでには、数秒。
「これは……ロッテ、アルマ。二人とも居るのか?明かりを付けるぞ!」
「まさか、これって……お姉ちゃん達も、同じ考えだったのかな……?」
「まさか、これって……お姉ちゃん達も、同じ考えだったのかな……?」
梓の狼狽する声を打ち消す様に、仄かな灯りが付いた……同時に何かが、
淡く煌めきテーブルを彩る。それは、フィルムで出来た飾り付けだった。
そのテーブルに鎮座するのは……巨大な七面鳥と旨そうなサンドイッチ!
淡く煌めきテーブルを彩る。それは、フィルムで出来た飾り付けだった。
そのテーブルに鎮座するのは……巨大な七面鳥と旨そうなサンドイッチ!
「二人ともおかえりなさいですのっ!そしてハッピークリスマースっ♪」
「遅かったですよ二人とも。折角の七面鳥が冷めちゃうじゃないですか」
「あ゛……まさか、お前達二人とも!この為にわざと断ったのかッ!?」
「相談は一切してなかった筈なんだよ。なのに、なんでこうなるのかな」
「だって“姉妹”ですもの、それ位通じ合っちゃう仲って事ですよっ♪」
「そうですの。皆、お互いを喜ばせる為に黙って準備してましたの~☆」
「遅かったですよ二人とも。折角の七面鳥が冷めちゃうじゃないですか」
「あ゛……まさか、お前達二人とも!この為にわざと断ったのかッ!?」
「相談は一切してなかった筈なんだよ。なのに、なんでこうなるのかな」
「だって“姉妹”ですもの、それ位通じ合っちゃう仲って事ですよっ♪」
「そうですの。皆、お互いを喜ばせる為に黙って準備してましたの~☆」
半ば呆然とした梓……クララが、観念した様に袋の中身を取り出す……
それは、二本のシャンパンだった。そう、彼女も……私も、結局聖夜の
食材を買い求めて、しかもピッタリ無駄なく揃ってしまったのだった。
私も、可笑しさを堪えつつケーキをテーブルに置いた。準備は万全だ!
それは、二本のシャンパンだった。そう、彼女も……私も、結局聖夜の
食材を買い求めて、しかもピッタリ無駄なく揃ってしまったのだった。
私も、可笑しさを堪えつつケーキをテーブルに置いた。準備は万全だ!
「まぁ、結果オーライという事か。それからな、指輪を用意してあるぞ」
「指輪って、この間彫金してたアレですの!?確か、注文の品って……」
「それはジョークだ。お前達の為に、と言い出す訳には行かなくてな?」
「……なんだ、結局皆でだましっこしてたんじゃないですか。もぅっ!」
「でも、マイスターの言う通り結果オーライなんだよ……それなら、ね」
「有無。なら、かけ声を合わせたら食事と行こうじゃないか。せーの!」
『メリークリスマスッ!!!!』
「指輪って、この間彫金してたアレですの!?確か、注文の品って……」
「それはジョークだ。お前達の為に、と言い出す訳には行かなくてな?」
「……なんだ、結局皆でだましっこしてたんじゃないですか。もぅっ!」
「でも、マイスターの言う通り結果オーライなんだよ……それなら、ね」
「有無。なら、かけ声を合わせたら食事と行こうじゃないか。せーの!」
『メリークリスマスッ!!!!』
──────真心を込めて、全ての神姫に幸せがあります様に……。