鋼の心 ~Eisen Herz~
第12話:夜の戦場(その2)
季州館近辺の山間道に一台のバイクが停車した。
ヘルメットを取った女は、切りそろえたセミロングの髪を夏の夜風に揺らし、崖下の森を見る。
「マスター。発信機の方位はこの先300m。……すぐ傍です」
コートの胸元から顔を覗かせたジルダリアに浅く頷き、彼女は荷台に積んだコンテナを開けた。
「起きろ。戦いの時間だ…」
隻眼で見下ろすコンテナの中、三人の神姫が顔をあげ、それぞれの方法で解意をあらわす。
「ストレリチアはブーゲンビリアを狙撃ポイントに移送後、上空で待機。カトレアとアルストロメリアは私と一緒に目標の確保に当たる」
「はい。マスター……」
姉妹を代表して頷くカトレア。
「分かっているとは思うが―――」
眼帯の女は神姫達を見渡し、いつもの言葉を口にする。
「―――他の神姫はもちろんの事、目標の神姫でも殺すな。捕獲だけでいい」
「はい」
「……」
「分かりましたです。お任せなのです」
「了解」
5年ぶりの……。
そして、恐らくは最期になるであろうミッションが始まった。
ヘルメットを取った女は、切りそろえたセミロングの髪を夏の夜風に揺らし、崖下の森を見る。
「マスター。発信機の方位はこの先300m。……すぐ傍です」
コートの胸元から顔を覗かせたジルダリアに浅く頷き、彼女は荷台に積んだコンテナを開けた。
「起きろ。戦いの時間だ…」
隻眼で見下ろすコンテナの中、三人の神姫が顔をあげ、それぞれの方法で解意をあらわす。
「ストレリチアはブーゲンビリアを狙撃ポイントに移送後、上空で待機。カトレアとアルストロメリアは私と一緒に目標の確保に当たる」
「はい。マスター……」
姉妹を代表して頷くカトレア。
「分かっているとは思うが―――」
眼帯の女は神姫達を見渡し、いつもの言葉を口にする。
「―――他の神姫はもちろんの事、目標の神姫でも殺すな。捕獲だけでいい」
「はい」
「……」
「分かりましたです。お任せなのです」
「了解」
5年ぶりの……。
そして、恐らくは最期になるであろうミッションが始まった。
『全員聞こえるわね?』
カトレアたち四姉妹には通常の神姫には無い機能として、神姫単体での通信能力を有している。
通信機能と言うものは、通常の対戦では不要な装備だ。
バトルロイヤルでは基本的に使用禁止。
タッグマッチを含む集団戦では、通信機器は装備の一種と見なされる。
いずれの場合でも、マスターとの回線は対戦台そのものが確保してくれるので、通信専用の装備を内蔵する神姫はそう多くは無い。
彼女達のように、屋外での集団戦を行う意図でも無ければ必要ないのである。
『聞コエルヨ』
『こっちも聞こえますです。感度良好です』
『接続確認』
妹達との相互リンクに問題は無いようだった。
『戦闘開始前に少し話があります』
『でもお姉さま、この回線は―――』
『―――ええ、マスターには開いていない私達姉妹だけの回線よ』
『秘匿情報?』
『ナイショ話。ワルダクミ』
『静かになさい』
カトレアの声は、静かだが有無を言わせぬ迫力がある。
『―――ハイハイ。ドウセこぴーヲ、クレグレモ殺スナッテ言イタインデショ? 分ッテルッテバ……』
アーンヴァルの装甲と、特徴的なバックユニットを背負ったツガル。アルストロメリアが、うんざりしたような声でカトレアに応じた。
『アルス姉さま。マスターの命令は絶対なのです。守らねばならぬのです!!』
『りちあハ真面目スギ』
『……アルス姉さまが不真面目なだけなのです。とてもいい加減なのです』
嘆息するエウクランテ。ストレリチア。
『……だけど、今回だけはそれでも構わないわ』
『…エッ?』
『…えっ?』
通信越しに口喧嘩をしていた妹二人が、カトレアの言葉に首をかしげた。
『今度の戦いが、恐らく私達姉妹の最期の戦い。この戦いが終われば、後は倒すべき者など居ないもの……』
『……最期ダカラ、好キ勝手シテモイイ…ッテ?』
アルストロメリアが、拗ねた様な声を出しているように聞こえるのは、カトレアの気のせいでは在るまい。
一番不真面目に見えて、その実“一線”を超えるような行為は絶対にしないのが彼女だった。
『最期だから、こそ、ね……』
カトレアの脳裏によぎる光景は三つ。
カトレアたち四姉妹には通常の神姫には無い機能として、神姫単体での通信能力を有している。
通信機能と言うものは、通常の対戦では不要な装備だ。
バトルロイヤルでは基本的に使用禁止。
タッグマッチを含む集団戦では、通信機器は装備の一種と見なされる。
いずれの場合でも、マスターとの回線は対戦台そのものが確保してくれるので、通信専用の装備を内蔵する神姫はそう多くは無い。
彼女達のように、屋外での集団戦を行う意図でも無ければ必要ないのである。
『聞コエルヨ』
『こっちも聞こえますです。感度良好です』
『接続確認』
妹達との相互リンクに問題は無いようだった。
『戦闘開始前に少し話があります』
『でもお姉さま、この回線は―――』
『―――ええ、マスターには開いていない私達姉妹だけの回線よ』
『秘匿情報?』
『ナイショ話。ワルダクミ』
『静かになさい』
カトレアの声は、静かだが有無を言わせぬ迫力がある。
『―――ハイハイ。ドウセこぴーヲ、クレグレモ殺スナッテ言イタインデショ? 分ッテルッテバ……』
アーンヴァルの装甲と、特徴的なバックユニットを背負ったツガル。アルストロメリアが、うんざりしたような声でカトレアに応じた。
『アルス姉さま。マスターの命令は絶対なのです。守らねばならぬのです!!』
『りちあハ真面目スギ』
『……アルス姉さまが不真面目なだけなのです。とてもいい加減なのです』
嘆息するエウクランテ。ストレリチア。
『……だけど、今回だけはそれでも構わないわ』
『…エッ?』
『…えっ?』
通信越しに口喧嘩をしていた妹二人が、カトレアの言葉に首をかしげた。
『今度の戦いが、恐らく私達姉妹の最期の戦い。この戦いが終われば、後は倒すべき者など居ないもの……』
『……最期ダカラ、好キ勝手シテモイイ…ッテ?』
アルストロメリアが、拗ねた様な声を出しているように聞こえるのは、カトレアの気のせいでは在るまい。
一番不真面目に見えて、その実“一線”を超えるような行為は絶対にしないのが彼女だった。
『最期だから、こそ、ね……』
カトレアの脳裏によぎる光景は三つ。
「止めはいらない。…捕獲だけでいい」
「前と同じだ。無力化してつれて来い」
「…分かっているな。殺す必要は無い」
彼女の主は三度そう言って、彼女を実戦に出した。
「前と同じだ。無力化してつれて来い」
「…分かっているな。殺す必要は無い」
彼女の主は三度そう言って、彼女を実戦に出した。
『……本当はもっと前からそうしていなければならなかった筈なのに……。私が代わるべきだったのよ……』
「ご苦労だった。後は私がやる……」
「…よくやった。休んでいいぞ……」
「そこまでだ。後は私の仕事だ……」
彼女の主は、三度そう言って、三度とも止めは自分で刺したのだ。
「…よくやった。休んでいいぞ……」
「そこまでだ。後は私の仕事だ……」
彼女の主は、三度そう言って、三度とも止めは自分で刺したのだ。
一番最初の時もそう。
「悪いな。恨みはないんだが、止める事も…もう、出来ないんだ……」
そう言って、突きつけられた電光をカトレアは確かに覚えている。
「悪いな。恨みはないんだが、止める事も…もう、出来ないんだ……」
そう言って、突きつけられた電光をカトレアは確かに覚えている。
カトレア達に神姫を殺させないのは、罪をかぶせない為だと気付いてしまったから。
『―――だから、これ以上。マスターの手を無駄に汚させる必要は無い』
これが最期の戦いならば。
もうこれ以上はいらないのだ。
5人目などいらないのだから。
『―――首から上が残ればいいわ。……CSCは、……破壊しなさい』
『『『…』』』
誰も返事はしなかった。
カトレアも求めなかった。
これが最期の戦いならば。
もうこれ以上はいらないのだ。
5人目などいらないのだから。
『―――首から上が残ればいいわ。……CSCは、……破壊しなさい』
『『『…』』』
誰も返事はしなかった。
カトレアも求めなかった。
主の罪を少しでも肩代わりできるのなら、神姫に躊躇う理由などある筈も無い……。
そういう意味では、彼女達は違法とは言え、間違いなく“神姫”であった。
そういう意味では、彼女達は違法とは言え、間違いなく“神姫”であった。
「―――と言うわけで、いい感じに暗くなってきたので。ただ今より肝試しをはじめます」
「……もういい加減言い疲れたけど、本当に唐突だね、姉さん」
姉、雅の予期せぬ発言に、深いため息をつく祐一。
「……まあ、逆らってもロクな結果にならないし、やってもいいとは思うけど……」
「…じゃ決定」
即決だった。
「……あたしやリーナの意見はどうなるんだろう……」
「……雅、多分聞いてないわよ……」
「マスターも、リーナさんも折角ですから楽しみましょう。怪談は夏の風物詩ですよ」
美空とリーナの双方に笑顔を向けて宥めに入るフェータ。
「……で、丁度12人ですのでペアでも組みますの?」
はしゃぐ雅に任せていても進行しないので、浅葱が話を進める。
長い付き合いで身についた関係の縮図であった。
「ん~と、神姫とマスターは一組で。マスター同士もペアにするんで三つに分かれましょう。……はい、籤引いて」
そう言って籤(くじ)の入った箱を出す。
「……ねえ、美空。アレって何処から取り出したの、とか聞いちゃいけないのよね?」
「雅んが何しても、気にしない方がいいと思う」
そう言ってリーナが引いた籤は①。
「同じ番号が書かれている紙を引いた人同士がペアね~」
そう言って雅は、次に箱を浅葱に向ける
(あれ、今…。あからさまに美空を無視したような……)
リーナの隣に立っていた美空を超えて、浅葱へと籤の箱を差し出す雅。
動きが自然すぎて、飛ばされた当の美空ですら、それを疑問に思っていない。
(…姉さん?)
「私も、①でしたわ」
「んじゃ、リーナとペアね。これで一安心だわ」
「…何がよ」
訝しげな顔をする浅葱。
「だって、祐一と二人っきりにしたら危険じゃない?」
「島田君より私は強いですわ。その手の心配は要りませんわよ」
「そうじゃなくて、むしろ逆?」
「…はい?」
「いや、その。浅葱が、ショタコンだという情報がさる筋から……」
聴いた瞬間、自らの肩の上を鷲掴みにする浅葱。
その手を掻い潜り、浅葱の神姫、猫型のマヤアが飛び降りる。
「……やはりアンタでしたのね。このおしゃべり猫!!」
「いや、だって雅。プリンくれるし」
「あたしの価値はプリン以下か!?」
「…ええと?」
「悩むなーっ!!」
「浅葱は食べられないけど、プリンは美味しいよ?」
「そしてプリン以下かよ!?」
「……逃げる」
「逃すか!!」
浅葱とマヤアは走り出した。
「………」
「リーナちゃん。置いて行かれるわよ?」
「…はっ!?」
呆然と二人の追いかけっこを見送っていたリーナが、雅の言葉で我に返る。
「ちょっと、置いていかないで~(泣)」
「それじゃあ旅館がゴールね。……肝試し、スタート!!」
涙目になって後を追うリーナの背にかけられた雅の声によって、うやむやの内に肝試しが始まった。
「……もういい加減言い疲れたけど、本当に唐突だね、姉さん」
姉、雅の予期せぬ発言に、深いため息をつく祐一。
「……まあ、逆らってもロクな結果にならないし、やってもいいとは思うけど……」
「…じゃ決定」
即決だった。
「……あたしやリーナの意見はどうなるんだろう……」
「……雅、多分聞いてないわよ……」
「マスターも、リーナさんも折角ですから楽しみましょう。怪談は夏の風物詩ですよ」
美空とリーナの双方に笑顔を向けて宥めに入るフェータ。
「……で、丁度12人ですのでペアでも組みますの?」
はしゃぐ雅に任せていても進行しないので、浅葱が話を進める。
長い付き合いで身についた関係の縮図であった。
「ん~と、神姫とマスターは一組で。マスター同士もペアにするんで三つに分かれましょう。……はい、籤引いて」
そう言って籤(くじ)の入った箱を出す。
「……ねえ、美空。アレって何処から取り出したの、とか聞いちゃいけないのよね?」
「雅んが何しても、気にしない方がいいと思う」
そう言ってリーナが引いた籤は①。
「同じ番号が書かれている紙を引いた人同士がペアね~」
そう言って雅は、次に箱を浅葱に向ける
(あれ、今…。あからさまに美空を無視したような……)
リーナの隣に立っていた美空を超えて、浅葱へと籤の箱を差し出す雅。
動きが自然すぎて、飛ばされた当の美空ですら、それを疑問に思っていない。
(…姉さん?)
「私も、①でしたわ」
「んじゃ、リーナとペアね。これで一安心だわ」
「…何がよ」
訝しげな顔をする浅葱。
「だって、祐一と二人っきりにしたら危険じゃない?」
「島田君より私は強いですわ。その手の心配は要りませんわよ」
「そうじゃなくて、むしろ逆?」
「…はい?」
「いや、その。浅葱が、ショタコンだという情報がさる筋から……」
聴いた瞬間、自らの肩の上を鷲掴みにする浅葱。
その手を掻い潜り、浅葱の神姫、猫型のマヤアが飛び降りる。
「……やはりアンタでしたのね。このおしゃべり猫!!」
「いや、だって雅。プリンくれるし」
「あたしの価値はプリン以下か!?」
「…ええと?」
「悩むなーっ!!」
「浅葱は食べられないけど、プリンは美味しいよ?」
「そしてプリン以下かよ!?」
「……逃げる」
「逃すか!!」
浅葱とマヤアは走り出した。
「………」
「リーナちゃん。置いて行かれるわよ?」
「…はっ!?」
呆然と二人の追いかけっこを見送っていたリーナが、雅の言葉で我に返る。
「ちょっと、置いていかないで~(泣)」
「それじゃあ旅館がゴールね。……肝試し、スタート!!」
涙目になって後を追うリーナの背にかけられた雅の声によって、うやむやの内に肝試しが始まった。
「んじゃ、次は祐一と美空ちゃんね?」
籤の結果、雅と村上は共に③を引いていた。
故に残った二人が二番手となる。
「マスター、これはチャンスですよ」
「チャンス?」
耳元で囁くフェータの声に、思わず問い返す美空。
「そうです。この肝試しで女の子らしさをアピールして、雄一さんの好感度を大量ゲットです!!」
「……好感度?」
「そうです。……私見では今の所リーナさん+18。雅様+12。と大きく水を開けられています!!」
「……ちなみに、あたしはどの位?」
「………」
問われ、言葉に詰まるフェータ。
「……ええと、10ポイント位ではないかと……」
「…結構いい線行ってるじゃない。それならここで大逆転もありよね?」
「……は、はい……」
フェータは目を逸らす。
(……言えない。-10ポイントだなんて、私には、言えない……)
現実は予想以上に厳しかった。
籤の結果、雅と村上は共に③を引いていた。
故に残った二人が二番手となる。
「マスター、これはチャンスですよ」
「チャンス?」
耳元で囁くフェータの声に、思わず問い返す美空。
「そうです。この肝試しで女の子らしさをアピールして、雄一さんの好感度を大量ゲットです!!」
「……好感度?」
「そうです。……私見では今の所リーナさん+18。雅様+12。と大きく水を開けられています!!」
「……ちなみに、あたしはどの位?」
「………」
問われ、言葉に詰まるフェータ。
「……ええと、10ポイント位ではないかと……」
「…結構いい線行ってるじゃない。それならここで大逆転もありよね?」
「……は、はい……」
フェータは目を逸らす。
(……言えない。-10ポイントだなんて、私には、言えない……)
現実は予想以上に厳しかった。
……まあ、事ある事に殴る蹴るしていれば当然なのだが……。
「ま、まあ…。マスターは普段強気っ子なアピールですので、ここでか弱さを演出する事でギャップ萌えも狙える筈です」
「な、なるほど。つまり普段思わず祐一の事殴っちゃうのがここで効いて来る訳ね?」
「……いえ、殴らないでくれれば、ここまで苦労しなくても良かったんですが……」
四分の一英国人の血が入っている美空は、顔立ちも綺麗だしスタイルも悪くない。
普通ならば掛け値なしの美少女として通用する容姿なのだ。
何かに付けて殴ったり、蹴ったりしなければ……。
「まあ、とにかく。肝試しが勝負と言うわけね!? ここで女の子らしく可憐にお化けを退治して祐一の好感度をゲットだわ!!」
「それだけは、止めて下さい」
フェータの苦労は報われそうにも無かった。
「な、なるほど。つまり普段思わず祐一の事殴っちゃうのがここで効いて来る訳ね?」
「……いえ、殴らないでくれれば、ここまで苦労しなくても良かったんですが……」
四分の一英国人の血が入っている美空は、顔立ちも綺麗だしスタイルも悪くない。
普通ならば掛け値なしの美少女として通用する容姿なのだ。
何かに付けて殴ったり、蹴ったりしなければ……。
「まあ、とにかく。肝試しが勝負と言うわけね!? ここで女の子らしく可憐にお化けを退治して祐一の好感度をゲットだわ!!」
「それだけは、止めて下さい」
フェータの苦労は報われそうにも無かった。
「あのさ、美空」
「ひゃい!?」
数歩先を歩いていた祐一が、美空の名を呼んで振り返る。
「……ちょっと付き合って欲しいんだけど。……いい?」
「…………」
付き合って欲しい……。
付き合って欲しい……。
付き合って欲しい……。
付き合って……。
付き合って……。
付き合って……。
「つ、付き合う……?」
「ああ、美空にしか頼めないんだ……」
「……え、あ…。うえ…? うひゃ~!?」
とりあえず、オーバーヒートしかかった美空脳が、嬉しさのあまり二、三十発の拳を祐一の居た辺りに打ち込むのを、フェータは嘆息しながら見守るしかなかった。
「ひゃい!?」
数歩先を歩いていた祐一が、美空の名を呼んで振り返る。
「……ちょっと付き合って欲しいんだけど。……いい?」
「…………」
付き合って欲しい……。
付き合って欲しい……。
付き合って欲しい……。
付き合って……。
付き合って……。
付き合って……。
「つ、付き合う……?」
「ああ、美空にしか頼めないんだ……」
「……え、あ…。うえ…? うひゃ~!?」
とりあえず、オーバーヒートしかかった美空脳が、嬉しさのあまり二、三十発の拳を祐一の居た辺りに打ち込むのを、フェータは嘆息しながら見守るしかなかった。
「マスター、止まって!!」
夜の森を走っていた眼帯の女は、カトレアの警告で足を止める。
「対人センサーです」
彼女が指差す草葉の陰に、目立たない金属体が落ちていた。
「……神姫の眼球の流用ですね……。恐らく簡単なAIで制御され、リアルタイムに情報を送信するタイプでしょう」
「気付カレタノ?」
カトレアと同じく、主の前を併走していたアルストロメリアがSMG(サブマシンガン)を構える。
「それ一つと言うことはあるまい。……複数個が周囲に設置されているとしたら、既に我々は感知されているだろうな」
そう言って、女は片方しかない眼を瞑る。
(……罠? 極普通の高校生の少女にこんな物を作るスキルはあるまい?)
(接近を感知されていた? 私の襲撃を予知したという事か?)
(送信されている情報はどの程度の質だ?)
同時に展開する思考は3つ。
そのどれもが常人離れした速度で展開し、帰結を結ぶ。
「……つまり、相手はただの女子高生と言う訳ではないらしい……」
「……まさか。神姫センターの登録データから洗ってみましたが、バトル経験も極僅かの一般市民でしたよ?」
フェータ。試作型アーンヴァルの持ち主を突き止めた四姉妹が、彼女に位置特定用の発信機を取り付けると同時に、その登録データから彼女が神姫の開発や製造に携わる者でないことは確認済みだ。
手段が神姫センターの情報バンクへのハッキングと言うイリーガルな行為で行われただけあって、その確度は100%と言って良い。
彼女。伊東美空は、神姫にまつわる如何なる企業、団体とも関連性が無い。
「今現在、彼女の周囲に居る他の神姫とそのオーナーはどうだ?」
発信機を取り付けてから今日まで待ったのは、監視システムの設置されている街中や伊藤家を避けるためである。
最初からフェータのみがターゲットであったため、周囲に居た他の神姫は殆ど気にかけていなかった。
「……たしか、バトルロイヤルでランキング1位のマオチャオが居ましたね……」
「そいつのデータと、オーナーの検索を……」
「……始めています。数秒お待ち下さい……」
通信機を個別に持つ彼女達は、何処に居てもネットの海と繋がる事が出来る。
そして。試作機として、製品化された神姫以上の情報処理能力を持つカトレアは、広大な情報の海から必要な情報を数秒でピックアップする事が出来た。
「……出ました。名前はマヤア。オーナーは斉藤浅葱。天海市、私立竜胆(りんどう)学園の教師……」
「教師…?」
「……ソッチジャナイ、多分コッチ……」
カトレアと並列し、別の神姫のオーナーを検索していたアルストロメリアがデータをカトレアに転送する。
ヒネクレ者の彼女は、カトレアが強い神姫(即ち成績の良い神姫)から優先して検索したのに対し、弱い神姫から検索を行った。
そしてバトルロイヤル出場回数0、公式対戦回数1という初心者同然の神姫とそのオーナーが、一番最初の検索対象となったのだ。
「……これは!? ……フルカスタムのフォートブラッグ。……デルタ1。……オーナーは……、む、村上…。衛……!?」
「村上? 何処かで聞いた……。……いや、彼。か……?」
その名に覚えのあった女は、カトレアを見る。
「……村上、衛……」
「……姉サン? 知り合い?」
狼狽する姉の様子に首を傾げるアルストロメリア。
「……村上衛。……若干16歳でK2プロジェクト(神姫開発計画)に参加し、現在の対戦システムの基礎理論を構築した男です……」
対戦時の神姫間のデータ処理を神姫に全く負担をかけず、かつリアルタイムで行える画期的なリンクシステム。及び、後のVR対戦、ネット通信環境の設定など、神姫の対戦に欠かせない数々のシステムを構築した開発者の一人である。
「……あの方が、ここで出て来るなんて……」
そして、その名はカトレアにとって、特別な意味を持っていた……。
夜の森を走っていた眼帯の女は、カトレアの警告で足を止める。
「対人センサーです」
彼女が指差す草葉の陰に、目立たない金属体が落ちていた。
「……神姫の眼球の流用ですね……。恐らく簡単なAIで制御され、リアルタイムに情報を送信するタイプでしょう」
「気付カレタノ?」
カトレアと同じく、主の前を併走していたアルストロメリアがSMG(サブマシンガン)を構える。
「それ一つと言うことはあるまい。……複数個が周囲に設置されているとしたら、既に我々は感知されているだろうな」
そう言って、女は片方しかない眼を瞑る。
(……罠? 極普通の高校生の少女にこんな物を作るスキルはあるまい?)
(接近を感知されていた? 私の襲撃を予知したという事か?)
(送信されている情報はどの程度の質だ?)
同時に展開する思考は3つ。
そのどれもが常人離れした速度で展開し、帰結を結ぶ。
「……つまり、相手はただの女子高生と言う訳ではないらしい……」
「……まさか。神姫センターの登録データから洗ってみましたが、バトル経験も極僅かの一般市民でしたよ?」
フェータ。試作型アーンヴァルの持ち主を突き止めた四姉妹が、彼女に位置特定用の発信機を取り付けると同時に、その登録データから彼女が神姫の開発や製造に携わる者でないことは確認済みだ。
手段が神姫センターの情報バンクへのハッキングと言うイリーガルな行為で行われただけあって、その確度は100%と言って良い。
彼女。伊東美空は、神姫にまつわる如何なる企業、団体とも関連性が無い。
「今現在、彼女の周囲に居る他の神姫とそのオーナーはどうだ?」
発信機を取り付けてから今日まで待ったのは、監視システムの設置されている街中や伊藤家を避けるためである。
最初からフェータのみがターゲットであったため、周囲に居た他の神姫は殆ど気にかけていなかった。
「……たしか、バトルロイヤルでランキング1位のマオチャオが居ましたね……」
「そいつのデータと、オーナーの検索を……」
「……始めています。数秒お待ち下さい……」
通信機を個別に持つ彼女達は、何処に居てもネットの海と繋がる事が出来る。
そして。試作機として、製品化された神姫以上の情報処理能力を持つカトレアは、広大な情報の海から必要な情報を数秒でピックアップする事が出来た。
「……出ました。名前はマヤア。オーナーは斉藤浅葱。天海市、私立竜胆(りんどう)学園の教師……」
「教師…?」
「……ソッチジャナイ、多分コッチ……」
カトレアと並列し、別の神姫のオーナーを検索していたアルストロメリアがデータをカトレアに転送する。
ヒネクレ者の彼女は、カトレアが強い神姫(即ち成績の良い神姫)から優先して検索したのに対し、弱い神姫から検索を行った。
そしてバトルロイヤル出場回数0、公式対戦回数1という初心者同然の神姫とそのオーナーが、一番最初の検索対象となったのだ。
「……これは!? ……フルカスタムのフォートブラッグ。……デルタ1。……オーナーは……、む、村上…。衛……!?」
「村上? 何処かで聞いた……。……いや、彼。か……?」
その名に覚えのあった女は、カトレアを見る。
「……村上、衛……」
「……姉サン? 知り合い?」
狼狽する姉の様子に首を傾げるアルストロメリア。
「……村上衛。……若干16歳でK2プロジェクト(神姫開発計画)に参加し、現在の対戦システムの基礎理論を構築した男です……」
対戦時の神姫間のデータ処理を神姫に全く負担をかけず、かつリアルタイムで行える画期的なリンクシステム。及び、後のVR対戦、ネット通信環境の設定など、神姫の対戦に欠かせない数々のシステムを構築した開発者の一人である。
「……あの方が、ここで出て来るなんて……」
そして、その名はカトレアにとって、特別な意味を持っていた……。
「見つけた!! あそこ!!」
「やはり、一人……」
監視システムからの報告を頼りに走った雅と村上は“その場”にたどり着いた。
「……来たか……」
対するは黒いコートに身を包んだ眼帯の女。
「迂闊だったよ。まさか、ここに来てもう一度お前と関わる事になるとはね……」
隻眼で見詰める先は、彼女にとって忘れられない名前の相手。
「―――やはり、私を探していたのか。村上衛?」
「……まさか僕の名をご存知とは。……光栄です、と言うべきですか? ―――土方京子(ひじかたみやこ) アーンヴァルの産みの親にして、―――の仇!!」
眼帯の女、土方京子を睨む村上の表情は、紛れも無く憎悪のそれであった。
「やはり、一人……」
監視システムからの報告を頼りに走った雅と村上は“その場”にたどり着いた。
「……来たか……」
対するは黒いコートに身を包んだ眼帯の女。
「迂闊だったよ。まさか、ここに来てもう一度お前と関わる事になるとはね……」
隻眼で見詰める先は、彼女にとって忘れられない名前の相手。
「―――やはり、私を探していたのか。村上衛?」
「……まさか僕の名をご存知とは。……光栄です、と言うべきですか? ―――土方京子(ひじかたみやこ) アーンヴァルの産みの親にして、―――の仇!!」
眼帯の女、土方京子を睨む村上の表情は、紛れも無く憎悪のそれであった。
続く。
第12話:夜の戦場(その3)につづく
眼帯さん、こと土方京子の本名初出です。
「きょうこ」じゃないよ。「みやこ」だよ。
「きょうこ」じゃないよ。「みやこ」だよ。
さて、パイソンと本編九話でさらっと触れていた幽霊を巡る戦いです。
第一戦は祐一の為に戦う雅VS最愛の“少女”の為に戦う京子。
第一戦は祐一の為に戦う雅VS最愛の“少女”の為に戦う京子。
勝利条件はフェータの死守or奪取。
続きは近い内にUPしたいと思います。
PS.展開をバトル中心にシフトするので、12話からのタイトルを改変いたしました。
ご迷惑をお掛けしております。
ご迷惑をお掛けしております。
ALCでした。