輪舞曲を踊る姫達と、暖かき宴を
私・槇野晶は暫く、三人の神姫をベンチに座って撫でていた。つい先程、
重量級ランクでの初戦という激闘を勝ち抜いた、我が三人の“妹”達だ。
思った以上に神姫素体やAIへの負荷は激しかったらしく、三人とも今は
持参した簡易クレイドルに身を預け、急速充電をしている状態なのだな。
重量級ランクでの初戦という激闘を勝ち抜いた、我が三人の“妹”達だ。
思った以上に神姫素体やAIへの負荷は激しかったらしく、三人とも今は
持参した簡易クレイドルに身を預け、急速充電をしている状態なのだな。
「……よし、異状無し。充電もそろそろ終わる頃だが……辛かったか?」
「むにゃ……そんな事はないですの、マイスター。おはようですの~♪」
「む、起きたかロッテ……よく頑張ったぞお前達は。見事な戦いだった」
「ぅ、っぅうん……マイスター、そんな所を撫でたらボク、ボク……ッ」
「むにゃ……そんな事はないですの、マイスター。おはようですの~♪」
「む、起きたかロッテ……よく頑張ったぞお前達は。見事な戦いだった」
「ぅ、っぅうん……マイスター、そんな所を撫でたらボク、ボク……ッ」
妙な“夢”を見て身悶えるクララを、私は落ちつかせる意図で撫でる。
ちっとも落ちつく気配がない物の、ある意味“疲れた”彼女を癒すには
スキンシップと食事に休息が必要だと、思っていたのでな。神姫達は、
決して唯の玩具・機械ではない。精神衛生等も、考慮してやらねばな?
ちっとも落ちつく気配がない物の、ある意味“疲れた”彼女を癒すには
スキンシップと食事に休息が必要だと、思っていたのでな。神姫達は、
決して唯の玩具・機械ではない。精神衛生等も、考慮してやらねばな?
「ふぁあぁ……おはようございますマイスター、何時間経ちました?」
「おはようアルマ。何、まだ二時間も経たぬぞ……外は真っ暗だがな」
「こう暗いと、今から食べ物屋を探して歩くのはちょっと危険ですの」
「おはようアルマ。何、まだ二時間も経たぬぞ……外は真っ暗だがな」
「こう暗いと、今から食べ物屋を探して歩くのはちょっと危険ですの」
そう、まだ私達は神姫センターから出ていない。片付けや充電・戦績の
管理に帰り支度……私が色々している内に、日が落ちてしまったのだ。
季節は既に、粉雪が舞い散る冬である。温暖化が大分進んだ東京でも、
極稀に雪は見られる……クリスマス位は降ると、気分が出るのだがな。
管理に帰り支度……私が色々している内に、日が落ちてしまったのだ。
季節は既に、粉雪が舞い散る冬である。温暖化が大分進んだ東京でも、
極稀に雪は見られる……クリスマス位は降ると、気分が出るのだがな。
「ん……それならこの近くにある牛丼屋はどうかな、マイスター?」
「む、もう充電はいいのかクララ?そう言えばあったな、古い店が」
「インドカレー屋さんでもいいんですけど、ロッテちゃんは……ね」
「アレは一番甘いのでも、ショートしそうですの。堪忍ですの~っ」
「む、もう充電はいいのかクララ?そう言えばあったな、古い店が」
「インドカレー屋さんでもいいんですけど、ロッテちゃんは……ね」
「アレは一番甘いのでも、ショートしそうですの。堪忍ですの~っ」
くきくき、と躯を起こして捻るクララを抱き上げる。そして私は手早く、
三人に“フィオラ”用のコートを着せてやるのだ。程良く、放熱によって
暖まったロッテ達の躯は、実に心地よい……こら、着替えを見るなッ!?
し、神姫達だけではないぞ。この後私もコートを着たりするのだ、全く!
三人に“フィオラ”用のコートを着せてやるのだ。程良く、放熱によって
暖まったロッテ達の躯は、実に心地よい……こら、着替えを見るなッ!?
し、神姫達だけではないぞ。この後私もコートを着たりするのだ、全く!
「……ん?マイスター、あの~。何をキョロキョロしているんですか?」
「はう゛?!い、いやな。お前達の着替えを見てる奴がいないかとな!」
「それなら丁度……今、目の前に居るんだよ。ね、ロッテお姉ちゃん?」
「はいですの、マイスターがわたし達をずっと見てくれていますの~♪」
「あ゛ぅっ!?そ、そんな事言わんでくれぬか皆。意識してしまうぞ!」
「はう゛?!い、いやな。お前達の着替えを見てる奴がいないかとな!」
「それなら丁度……今、目の前に居るんだよ。ね、ロッテお姉ちゃん?」
「はいですの、マイスターがわたし達をずっと見てくれていますの~♪」
「あ゛ぅっ!?そ、そんな事言わんでくれぬか皆。意識してしまうぞ!」
多分今、私の顔は夕焼けよりも……ついでに茹蛸よりも紅いのだろうな。
何とかして空気を換えようと、私は一つ引っかかっていた疑問を告げる。
それはクララが戦闘の序盤に繰り出した、竜の吐息を纏った蹴りの事だ。
何とかして空気を換えようと、私は一つ引っかかっていた疑問を告げる。
それはクララが戦闘の序盤に繰り出した、竜の吐息を纏った蹴りの事だ。
「そ、そう言えばクララや。お前だけ途中、技の名を叫ばなかったな」
「“タイドウェイブ・ストレイト”かな?あの時は余裕なかったもん」
「確かに、リンドルムが慣れるまで時間が掛かっていたしな……有無」
「それにアレ、本当は電磁パルスを“魔術”で変換したかったんだよ」
「“タイドウェイブ・ストレイト”かな?あの時は余裕なかったもん」
「確かに、リンドルムが慣れるまで時間が掛かっていたしな……有無」
「それにアレ、本当は電磁パルスを“魔術”で変換したかったんだよ」
そう言って考え込むクララの顔は真面目であり、アルマとロッテも己の
戦いで何が足りなかったのか、考え始めてしまった。それは結構だが、
しかし何時までも、神姫センターでこうしている訳には行かなかった。
戦いで何が足りなかったのか、考え始めてしまった。それは結構だが、
しかし何時までも、神姫センターでこうしている訳には行かなかった。
「ふむ……取りあえずは食事をして、帰って家でゆっくり分析せぬか?」
「それがいいかもしれませんね……あたし達は順次寝ちゃってましたし」
「改めて分析データや記録を見ながらの方が、色々進みそうですの~♪」
「なら着替えも終わったし……牛丼屋で手早く済ませたいんだよ、うん」
「それがいいかもしれませんね……あたし達は順次寝ちゃってましたし」
「改めて分析データや記録を見ながらの方が、色々進みそうですの~♪」
「なら着替えも終わったし……牛丼屋で手早く済ませたいんだよ、うん」
クララの意見に皆が同意し、私の掌から胸ポケットへと神姫達が入った。
今日の服は、ポケットの容積は十分だが……何故今だけ、三人揃ってか?
それはこの後、神姫センターを出てから移動する間に、明らかとなった。
今日の服は、ポケットの容積は十分だが……何故今だけ、三人揃ってか?
それはこの後、神姫センターを出てから移動する間に、明らかとなった。
「……というわけで、今年はこうしてこうですの~……大丈夫ですの?」
「あ、はいっ。それならどうにかなりそうですねぇ、クララちゃんは?」
「ボクも問題なし……後はマイスターにバレない様に、首尾良くやるよ」
「あ、はいっ。それならどうにかなりそうですねぇ、クララちゃんは?」
「ボクも問題なし……後はマイスターにバレない様に、首尾良くやるよ」
何か、彼女らが秘密の打ち合わせをしているのだ。私は好意的に、会話を
無視してやる。私を驚かせてくれる為に、考えている事柄らしいからな。
私が意識的に聞き及んでしまっては、彼女らの厚意が無になると言う物!
そこで私は敢えて彼女らに話しかけず牛丼屋に入り、オーダーを済ませて
丁度開発された期間限定メニューが出てくるまで、黙っている事とした。
無視してやる。私を驚かせてくれる為に、考えている事柄らしいからな。
私が意識的に聞き及んでしまっては、彼女らの厚意が無になると言う物!
そこで私は敢えて彼女らに話しかけず牛丼屋に入り、オーダーを済ませて
丁度開発された期間限定メニューが出てくるまで、黙っている事とした。
「……ならその筋でいきたいですね。今週から準備に入りましょうか?」
「それがいいんだよ、アルマお姉ちゃん。HVIFを使うタイミングで」
「こっそりリサーチや買い物しながら、準備を進めていきますの……♪」
「あーこほん、お前達。オーダーした一品が来る、食べる準備を頼むぞ」
『ふぇっ!?』
「それがいいんだよ、アルマお姉ちゃん。HVIFを使うタイミングで」
「こっそりリサーチや買い物しながら、準備を進めていきますの……♪」
「あーこほん、お前達。オーダーした一品が来る、食べる準備を頼むぞ」
『ふぇっ!?』
程なく品が届いたので、私は“妹”達の気を引く。『なぜ一品なのか?』
という声も聞かれたが……それは目の前に出現した、巨大極まる肉の山を
前にして、あっという間に雲散霧消する。そう、数十年前に流行っていた
“メガ牛丼”。何故かこの店では、今頃になって“テラ牛丼”という名で
売り出したのだ。チェーン店ではないので、別に今更とは言わぬが……。
という声も聞かれたが……それは目の前に出現した、巨大極まる肉の山を
前にして、あっという間に雲散霧消する。そう、数十年前に流行っていた
“メガ牛丼”。何故かこの店では、今頃になって“テラ牛丼”という名で
売り出したのだ。チェーン店ではないので、別に今更とは言わぬが……。
「むぅ。以前噂に聞いていたが、いざ目にすると迫力が凄まじいな……」
「というか、飽食が裸足で逃げ出しそうですよこれ……採算が心配です」
「……アキバの大きなお兄さん達なら食べ切れそうだけど、ボクらはね」
「というか、飽食が裸足で逃げ出しそうですよこれ……採算が心配です」
「……アキバの大きなお兄さん達なら食べ切れそうだけど、ボクらはね」
しかしこれはこれで、“妹”達の新たな門出に相応しい趣向と言える。
巨大な“敵”を打ち倒しつつも一つの丼を四人で突き、親睦を深める。
絆を重要視する私達には、似合いの夕餉だな。さぁ、気合を入れるか!
巨大な“敵”を打ち倒しつつも一つの丼を四人で突き、親睦を深める。
絆を重要視する私達には、似合いの夕餉だな。さぁ、気合を入れるか!
「まぁまぁ。四人がかりで“重量級”への挑戦と、洒落込みますの~♪」
「粋な事を言うな、ロッテよ。では……皆でこの山を突き崩すぞッ!!」
『はいっ!!!』
「粋な事を言うな、ロッテよ。では……皆でこの山を突き崩すぞッ!!」
『はいっ!!!』
──────シンプルでダイナミック。ある意味、理想かもね?