注:18禁描写ありのお話です。嫌いな方はご注意下さい。
「えー。では、工業概論テキスト23ページを……誰に読んでもらおうか」
静かな教室に響くのは、ホワイトボードを走るマーカーの音と、老教師のしわがれた声だけだ。
品質の向上こそあるものの、ホワイトボードにマーカーという定番の組み合わせは20xx年においてもいまだ健在。ひと昔前の近未来アニメで流行った黒板サイズの液晶ディスプレイも、無いわけではないが……この最大派閥の牙城を崩すまでには至っていない。
「そうだな……。武井」
「……はい」
呼ばれた少年は立ち上がると、教科書を声に出して読み始めた。彼の読む教科書もノートPCやペーパーディスプレイなどではなく、昔ながらの製本された紙タイプのもの。
『え? 千歳ちゃん、GS1.13って買ってもらったの!?』
武井少年の声だけが響く教室に、少女の大声が木霊した。
「……である」
けれど、教科書を読む少年も、ホワイトボードの前に立つ老教師も、少女の声を咎める事はない。
「う、うん………」
代わりに答えたのは、腰まである黒髪の少女。机の上にちょこんと腰を下ろし、周りに聞こえるか聞こえないかの小さな声で頷いてみせる。
「こら、伊藤。授業中は静かに」
だが、その小さな声に老教師は耳ざとく反応し、黒髪の少女・千歳が座っていた机の主に叱責を放つ。
「すみません。……千歳」
「……ごめんなさい」
千歳も申し訳なさそうに小さな頭を下げ、老教師はふんと鼻を鳴らす。
「では、次は伊藤」
教師の声に、今度は千歳が座っている席に着いていた少女が立ち上がった。
腰まである長い髪は、千歳と同じ深い黒。いや、正確に言えば、箸型神姫である千歳が、マスターである伊藤と同じ髪の色だからと選ばれたのだが。
「ひゃ……っ」
がたりと揺れた机に少し慌てる千歳だが、優しく伸ばされた手に救われ、ホッと一息。
「どうした伊藤。神姫と遊んでないで、早く読め」
「すみません」
優しい澄んだ声がして、伊藤と呼ばれた少女は武井少年の後を継いで教科書を読み始める。
『あのジジイ、うるさいんだから。千歳ちゃん、気にすることないよ』
少女の朗読に重ねるように千歳に掛けられたのは、別の机の上に座っている少女からの声。
『……う、うん』
千歳も小さく答えてみせる。
先ほど詰められたときと同程度の声だったが……今度は老教師はそれを咎めることもなく、ホワイトボードに図形らしき物を描き始めている。
もちろん、誰かの呟いたジジイという悪口にも反応する気配もない。
『……あれ? さっきの話だけどさ。千歳ちゃん、バトルしないよね? 新しい足パーツって、調子でも悪かったの?』
『え? あ、うん。そうじゃなくて……』
机の上に座っているのは、千歳だけではない。ほぼ八割程度の机の上に、身長十五センチの小さな姿が思い思いの姿勢で腰を下ろしている。
ただ、その中で正座の姿勢を取っているのは、和服姿の千歳ただ一人。
普通の神姫は膝関節の構造上、基本装備の足で正座をすることが出来ない。それを改善したのが、千歳の使っている新型脚部なのだが……一般的な神姫で、正座が出来ずに困るという話は聞かないのもまた事実。
『そっか。ほら、千歳ちゃんのマスター、茶道部に入ったって言ってたじゃん。だからじゃない?』
伊藤の声をBGMに、神姫たちも会話を再開する。
『あ。じゃあ、千歳ちゃんも部活に出るんだ?』
『そうなの。マスターの隣で、お茶……飲ませてもらってるんだ』
伊藤が席に着き、今度は別の生徒が立ち上がった。
『あれいいわよねぇ。ハイキックのモーションも綺麗に決まるってネットにも書いてあったし』
『そうなの? ボクも欲しいんだけど……どこのページのレビュー? 神姫ネットじゃないよね?』
『ええ。後でURL、メールしましょうか?』
『お願い。でも、マスター買ってくれるかなぁ……?』
神姫たちの会話はさらに加速し、勢いを失う様子はない。さして広くはない教室には彼女達の声が元気良く飛び交っているが、武井や伊藤どころか、老教師さえも彼女達のおしゃべりに苦言を呈す気配がない。
『うーん。それ以外の基本性能、デフォルトとそんなに変わらないって言うしね』
『値段も結構するしね……』
だが。
『ちょっと! そこ、うるさいですわよっ!』
その会話に、鋭い声が割り込んだ。
『モーフちゃん、うるさーい』
モーフと呼ばれた鋭い声の主は、教室の一番前の席に陣取っている紗羅檀だ。実際に彼女の声は、他の神姫達の数倍は大きな声だったのだが……。
教室の一番前で絶叫してもなお、人間達は誰ひとり反応していない。
『そうだよ。聞きたくないなら、チャンネル切り替えとけばいいじゃない』
そう。
今の神姫の会話は、人間には聞こえない高周波を用いたもの。だから人間達は、彼女達が会話していることにさえ気付いていないのだ。
千歳が最初のひと言で問い詰められたのは、高周波会話ではなく、通常音声で声を出したからにしか過ぎない。
『……何話してるか、気になるじゃありませんの』
『はいはいツンデレツンデレ』
『デレてませんわ! 用法を間違えない!』
『で、授業聞かなくて良いの?』
『あ……っ』
そう叫んだときにはもう遅い。ホワイトボードの上を容赦なくイレイサーが走り抜け、そこに書かれていただろう貴重な講義内容は跡形もなく消し去られたあと。
『でも、いいよねぇ。1.13。やっぱりお願いしてみようかなぁ?』
呆然とするモーフの事など無かったかのように、神姫達は会話を再開する。
『してみたら? ダメで元々でしょ』
『そうなんだけどさ。キロ180円のパスタ、あんまり売ってないのよねぇ……。マスター達にもあんまり無理させられないし』
彼女達のマスターのうち数人は、学校の近くに下宿やアパートを借りて自活していた。当然、小さな扶養家族に掛けられる予算は、その生活費の中から捻出される事になるわけで……。
『マックスで175円だっけ……?』
『あそこのセールって月イチじゃない。だったら180円でもマルイチのポイント五倍の方がお得でしょ』
『あー。マルイチの五倍、月に三回あるもんねぇ』
特売情報の提供は、そんな小さな彼女達がマスターのために出来る、数少ない手伝いの一つだった。姦しくはあるが、内容自体はおのずと真剣なものになる。
『あの……』
新たな方向に盛り上がる会話の中、小さな声が割り込みを掛けた。
『どしたの? ノリちゃん』
呟いたのは、バイザーを目深に下ろしたフォートブラッグの娘。武装メインの神姫が多い工業科の中で、いつも服を着ている希少組だ。
それが和装の千歳のようにお淑やかな女性マスターの神姫ならまだしも……ノリコのマスターは男子で、しかも基本のノリは体育会系。浮いてはいないが、目立つのはある意味当然といえた。
『パスタって、キロ130円で買えません?』
だが、希少組のそのひと言に。
『えっ!?』
『え?』
『え?』
『……?』
高周波領域を含めて教室の中が、本当に沈黙した。
『……へ?』
『ちょっとそれ、どこですのっ!』
静かな教室に響くのは、ホワイトボードを走るマーカーの音と、老教師のしわがれた声だけだ。
品質の向上こそあるものの、ホワイトボードにマーカーという定番の組み合わせは20xx年においてもいまだ健在。ひと昔前の近未来アニメで流行った黒板サイズの液晶ディスプレイも、無いわけではないが……この最大派閥の牙城を崩すまでには至っていない。
「そうだな……。武井」
「……はい」
呼ばれた少年は立ち上がると、教科書を声に出して読み始めた。彼の読む教科書もノートPCやペーパーディスプレイなどではなく、昔ながらの製本された紙タイプのもの。
『え? 千歳ちゃん、GS1.13って買ってもらったの!?』
武井少年の声だけが響く教室に、少女の大声が木霊した。
「……である」
けれど、教科書を読む少年も、ホワイトボードの前に立つ老教師も、少女の声を咎める事はない。
「う、うん………」
代わりに答えたのは、腰まである黒髪の少女。机の上にちょこんと腰を下ろし、周りに聞こえるか聞こえないかの小さな声で頷いてみせる。
「こら、伊藤。授業中は静かに」
だが、その小さな声に老教師は耳ざとく反応し、黒髪の少女・千歳が座っていた机の主に叱責を放つ。
「すみません。……千歳」
「……ごめんなさい」
千歳も申し訳なさそうに小さな頭を下げ、老教師はふんと鼻を鳴らす。
「では、次は伊藤」
教師の声に、今度は千歳が座っている席に着いていた少女が立ち上がった。
腰まである長い髪は、千歳と同じ深い黒。いや、正確に言えば、箸型神姫である千歳が、マスターである伊藤と同じ髪の色だからと選ばれたのだが。
「ひゃ……っ」
がたりと揺れた机に少し慌てる千歳だが、優しく伸ばされた手に救われ、ホッと一息。
「どうした伊藤。神姫と遊んでないで、早く読め」
「すみません」
優しい澄んだ声がして、伊藤と呼ばれた少女は武井少年の後を継いで教科書を読み始める。
『あのジジイ、うるさいんだから。千歳ちゃん、気にすることないよ』
少女の朗読に重ねるように千歳に掛けられたのは、別の机の上に座っている少女からの声。
『……う、うん』
千歳も小さく答えてみせる。
先ほど詰められたときと同程度の声だったが……今度は老教師はそれを咎めることもなく、ホワイトボードに図形らしき物を描き始めている。
もちろん、誰かの呟いたジジイという悪口にも反応する気配もない。
『……あれ? さっきの話だけどさ。千歳ちゃん、バトルしないよね? 新しい足パーツって、調子でも悪かったの?』
『え? あ、うん。そうじゃなくて……』
机の上に座っているのは、千歳だけではない。ほぼ八割程度の机の上に、身長十五センチの小さな姿が思い思いの姿勢で腰を下ろしている。
ただ、その中で正座の姿勢を取っているのは、和服姿の千歳ただ一人。
普通の神姫は膝関節の構造上、基本装備の足で正座をすることが出来ない。それを改善したのが、千歳の使っている新型脚部なのだが……一般的な神姫で、正座が出来ずに困るという話は聞かないのもまた事実。
『そっか。ほら、千歳ちゃんのマスター、茶道部に入ったって言ってたじゃん。だからじゃない?』
伊藤の声をBGMに、神姫たちも会話を再開する。
『あ。じゃあ、千歳ちゃんも部活に出るんだ?』
『そうなの。マスターの隣で、お茶……飲ませてもらってるんだ』
伊藤が席に着き、今度は別の生徒が立ち上がった。
『あれいいわよねぇ。ハイキックのモーションも綺麗に決まるってネットにも書いてあったし』
『そうなの? ボクも欲しいんだけど……どこのページのレビュー? 神姫ネットじゃないよね?』
『ええ。後でURL、メールしましょうか?』
『お願い。でも、マスター買ってくれるかなぁ……?』
神姫たちの会話はさらに加速し、勢いを失う様子はない。さして広くはない教室には彼女達の声が元気良く飛び交っているが、武井や伊藤どころか、老教師さえも彼女達のおしゃべりに苦言を呈す気配がない。
『うーん。それ以外の基本性能、デフォルトとそんなに変わらないって言うしね』
『値段も結構するしね……』
だが。
『ちょっと! そこ、うるさいですわよっ!』
その会話に、鋭い声が割り込んだ。
『モーフちゃん、うるさーい』
モーフと呼ばれた鋭い声の主は、教室の一番前の席に陣取っている紗羅檀だ。実際に彼女の声は、他の神姫達の数倍は大きな声だったのだが……。
教室の一番前で絶叫してもなお、人間達は誰ひとり反応していない。
『そうだよ。聞きたくないなら、チャンネル切り替えとけばいいじゃない』
そう。
今の神姫の会話は、人間には聞こえない高周波を用いたもの。だから人間達は、彼女達が会話していることにさえ気付いていないのだ。
千歳が最初のひと言で問い詰められたのは、高周波会話ではなく、通常音声で声を出したからにしか過ぎない。
『……何話してるか、気になるじゃありませんの』
『はいはいツンデレツンデレ』
『デレてませんわ! 用法を間違えない!』
『で、授業聞かなくて良いの?』
『あ……っ』
そう叫んだときにはもう遅い。ホワイトボードの上を容赦なくイレイサーが走り抜け、そこに書かれていただろう貴重な講義内容は跡形もなく消し去られたあと。
『でも、いいよねぇ。1.13。やっぱりお願いしてみようかなぁ?』
呆然とするモーフの事など無かったかのように、神姫達は会話を再開する。
『してみたら? ダメで元々でしょ』
『そうなんだけどさ。キロ180円のパスタ、あんまり売ってないのよねぇ……。マスター達にもあんまり無理させられないし』
彼女達のマスターのうち数人は、学校の近くに下宿やアパートを借りて自活していた。当然、小さな扶養家族に掛けられる予算は、その生活費の中から捻出される事になるわけで……。
『マックスで175円だっけ……?』
『あそこのセールって月イチじゃない。だったら180円でもマルイチのポイント五倍の方がお得でしょ』
『あー。マルイチの五倍、月に三回あるもんねぇ』
特売情報の提供は、そんな小さな彼女達がマスターのために出来る、数少ない手伝いの一つだった。姦しくはあるが、内容自体はおのずと真剣なものになる。
『あの……』
新たな方向に盛り上がる会話の中、小さな声が割り込みを掛けた。
『どしたの? ノリちゃん』
呟いたのは、バイザーを目深に下ろしたフォートブラッグの娘。武装メインの神姫が多い工業科の中で、いつも服を着ている希少組だ。
それが和装の千歳のようにお淑やかな女性マスターの神姫ならまだしも……ノリコのマスターは男子で、しかも基本のノリは体育会系。浮いてはいないが、目立つのはある意味当然といえた。
『パスタって、キロ130円で買えません?』
だが、希少組のそのひと言に。
『えっ!?』
『え?』
『え?』
『……?』
高周波領域を含めて教室の中が、本当に沈黙した。
『……へ?』
『ちょっとそれ、どこですのっ!』
マイナスから始める初めての武装神姫
その10
「ねえ、千喜……」
光届かぬ闇の中、私は主へ小声で問うた。
「……何? 聞こえてるから、あんまり大きな声、出さないでよ」
「やっぱり、やめ…………」
言いかけて、私はそれ以上言うのをやめた。
じんわりと湿った肉の壁に、そっと頬を寄せてみる。
『やっぱり……』
言葉の代わりに使うのは、神姫同士の会話に使う高周波音声ではなく、思考。音声ですらなく、ただ心……神姫に心が有るとすれば、だけれど……に浮かべるだけだ。
触れた相手の思考を読み取る千喜なら、これだけで言葉は通じると分かっていたから。
「……ここ、テストに………よく、覚えて………」
肉の壁と、柔らかなコットンに挟まれて。
闇の向こうから微かに聞こえてくるのは、千喜ではない人間の声だ。けれどそれは、ショーツとスカートに遮られ、日常モードの神姫の聴覚センサーでは途切れ途切れにしか捉えることが出来ない。
もっとも私にとって、その人間の発言はどうでもいいものだったけど。
「ふふっ。プシュケの想い、伝わってくるよ……。すごく、落ち着く……」
千喜の声も、囁きだ。外には出さず、口の中で音を転がすだけ。
でも、千喜の素肌に触れたまま震動センサーのレンジを広げれば、体の震えがしっかりとその言葉を伝えてくれる。
それは私にとって、教室の最前面でホワイトボードにマーカーを走らせている人間の言葉の、何倍も……何十倍も価値のあるもので。
『なら、何よりですわ。千喜……』
主の役に立てていることを誇らしく思いながら、私は肉の壁に頬を埋めてみた。
『ン……千喜の、匂い……すごい……』
そこにたゆたっていたのは、体育が終わった後だからだろうか……濃い汗の匂いと、その隙間に漂うかすかなアンモニア臭。
そして……。
「ん……っ」
埋めた頬を濡らす、わずかに染み出した粘っこい液体。
指先で触れてみれば、絡み付いたそれは闇の中、ねっとりと糸を曳いて……。
『ふふ……っ。甘ぁい……』
ぺろりと舌で舐め取れば、口の中に広がるのは甘い甘い千喜のあじ。
嗅覚と味覚を司る統合センサーからの刺激が、私の背筋にぞくぞくとした不思議な感覚を走らせる。
「ちょ……っ。プシュケ、何……やって……んっ」
千喜から伝わってきていたがりがりという断続的な震動が、停止した。どうやらノートに筆記していた動作を止めたらしい。
『何って……千喜が落ち着く事ですわ……』
「そりゃ、プシュケの想いが伝わってくると落ち着けるけど……」
彼女にとって他人の思考を読むことの感覚は、BGMを得ることに近い……らしい。BGMがかかる事が当たり前になってしまうと、それ無しでは落ち着かなくなるのだそうだ。
けれど、彼女の力を知らないクラスメイトにこの力を使うことは流石にはばかられる。だからこそ、彼女の秘密を知り、常に彼女の側に居られるこの私の出番というわけなのだけれど。
『なら、問題ないでしょう?』
粘つく液が分泌され始めた秘裂に、そっと五本の指を滑らせた。ぬちゅりという音がして、私の手のひらには愛液が絡みつき、ショーツの中には先ほどよりもはるかに濃密な性の匂いが立ち籠める。
『あ……千喜の匂い、ドキドキする……』
「ん、んぅ……ば、かぁ……やり、すぎ……」
蚊の鳴くような小さな声。
ヒクヒクと蠢く千喜の女の部分から、震動となって伝わってきたそれを、私はあえて聞き流した。
「次……問題…………網延…前………」
その時だ。
「あ……は、い……」
がたん、と千喜の体が大きく揺れて、私の体に掛かるのは急激な上昇感。
「……ひゃぁっ」
私の小さな体は愛液でたっぷりと濡れていた肉壁から滑り落ち、その下にあるコットンのショーツに受け止められる。
左右を見てみれば、私の落下の衝撃で淡いピンクのショーツは太ももの半ば辺りまでずり下がり、ハンモックのようになっていた。その簡易ハンモックの中央、クロッチの部分に身を置くのは、もちろん私。
「せめて……戻る……大人し……なさ……よ……」
コットンを経て伝わる振動音は、儚くか細い。その上、千喜の肉体に触れていないから、こちらの想いも届いていないようだった。
『千喜のあそこ……すごく、綺麗……』
見上げれば、そこにあるのは先程まで私が頬を埋めていた処。スカートの布越しに差し込む淡い外光が、上から垂れ落ちてくる愛液の滴りをきらきらと輝かせているのが見えた。
『あ……千喜の、匂い……また、落ちて来たぁ……』
ゆっくりと歩く震動で、とろりと濡れたままの千喜のそこは、ぽたぽたと滴りを生み出していく。落ちて止まらぬ愛液の雫は私の全身に滴り落ち、私を千喜の匂いで汚し、包み込んでいく。
「これで……いい、で…か?」
「よし、戻って……しい」
ショーツという遮音材が無くなり、音の通りが良くなったのだろうか。外からの音は先ほどよりもだいぶ届くようになっていた。
けれど、そんな事はどうでも良い。
『千喜……千喜ぃ……』
今の私に大切なのは、千喜の匂いに包まれている悦びと、その悦びを主に伝えること。
『気持ちいいの……気持ちいい、にぃ……』
統合センサーから伝わる匂いの快楽に支配されて、私の四肢はショーツの穴にだらりと垂れ下がったまま。千喜の秘裂とハンモックの間は離れすぎていて、首をわずかに動かしたくらいじゃ、届きもしない。
やがて、愛液を滴らせる震動が治まり、スカートの向こうの光がかげりだす。濡れたショーツが固い木の板にべしゃりと触れて……。
『千喜……千喜ぃぃ……っ!』
降りてきた千喜の秘裂に、必死に伸ばした愛液まみれの私の足が、ようやく触れ合うのだった。
光届かぬ闇の中、私は主へ小声で問うた。
「……何? 聞こえてるから、あんまり大きな声、出さないでよ」
「やっぱり、やめ…………」
言いかけて、私はそれ以上言うのをやめた。
じんわりと湿った肉の壁に、そっと頬を寄せてみる。
『やっぱり……』
言葉の代わりに使うのは、神姫同士の会話に使う高周波音声ではなく、思考。音声ですらなく、ただ心……神姫に心が有るとすれば、だけれど……に浮かべるだけだ。
触れた相手の思考を読み取る千喜なら、これだけで言葉は通じると分かっていたから。
「……ここ、テストに………よく、覚えて………」
肉の壁と、柔らかなコットンに挟まれて。
闇の向こうから微かに聞こえてくるのは、千喜ではない人間の声だ。けれどそれは、ショーツとスカートに遮られ、日常モードの神姫の聴覚センサーでは途切れ途切れにしか捉えることが出来ない。
もっとも私にとって、その人間の発言はどうでもいいものだったけど。
「ふふっ。プシュケの想い、伝わってくるよ……。すごく、落ち着く……」
千喜の声も、囁きだ。外には出さず、口の中で音を転がすだけ。
でも、千喜の素肌に触れたまま震動センサーのレンジを広げれば、体の震えがしっかりとその言葉を伝えてくれる。
それは私にとって、教室の最前面でホワイトボードにマーカーを走らせている人間の言葉の、何倍も……何十倍も価値のあるもので。
『なら、何よりですわ。千喜……』
主の役に立てていることを誇らしく思いながら、私は肉の壁に頬を埋めてみた。
『ン……千喜の、匂い……すごい……』
そこにたゆたっていたのは、体育が終わった後だからだろうか……濃い汗の匂いと、その隙間に漂うかすかなアンモニア臭。
そして……。
「ん……っ」
埋めた頬を濡らす、わずかに染み出した粘っこい液体。
指先で触れてみれば、絡み付いたそれは闇の中、ねっとりと糸を曳いて……。
『ふふ……っ。甘ぁい……』
ぺろりと舌で舐め取れば、口の中に広がるのは甘い甘い千喜のあじ。
嗅覚と味覚を司る統合センサーからの刺激が、私の背筋にぞくぞくとした不思議な感覚を走らせる。
「ちょ……っ。プシュケ、何……やって……んっ」
千喜から伝わってきていたがりがりという断続的な震動が、停止した。どうやらノートに筆記していた動作を止めたらしい。
『何って……千喜が落ち着く事ですわ……』
「そりゃ、プシュケの想いが伝わってくると落ち着けるけど……」
彼女にとって他人の思考を読むことの感覚は、BGMを得ることに近い……らしい。BGMがかかる事が当たり前になってしまうと、それ無しでは落ち着かなくなるのだそうだ。
けれど、彼女の力を知らないクラスメイトにこの力を使うことは流石にはばかられる。だからこそ、彼女の秘密を知り、常に彼女の側に居られるこの私の出番というわけなのだけれど。
『なら、問題ないでしょう?』
粘つく液が分泌され始めた秘裂に、そっと五本の指を滑らせた。ぬちゅりという音がして、私の手のひらには愛液が絡みつき、ショーツの中には先ほどよりもはるかに濃密な性の匂いが立ち籠める。
『あ……千喜の匂い、ドキドキする……』
「ん、んぅ……ば、かぁ……やり、すぎ……」
蚊の鳴くような小さな声。
ヒクヒクと蠢く千喜の女の部分から、震動となって伝わってきたそれを、私はあえて聞き流した。
「次……問題…………網延…前………」
その時だ。
「あ……は、い……」
がたん、と千喜の体が大きく揺れて、私の体に掛かるのは急激な上昇感。
「……ひゃぁっ」
私の小さな体は愛液でたっぷりと濡れていた肉壁から滑り落ち、その下にあるコットンのショーツに受け止められる。
左右を見てみれば、私の落下の衝撃で淡いピンクのショーツは太ももの半ば辺りまでずり下がり、ハンモックのようになっていた。その簡易ハンモックの中央、クロッチの部分に身を置くのは、もちろん私。
「せめて……戻る……大人し……なさ……よ……」
コットンを経て伝わる振動音は、儚くか細い。その上、千喜の肉体に触れていないから、こちらの想いも届いていないようだった。
『千喜のあそこ……すごく、綺麗……』
見上げれば、そこにあるのは先程まで私が頬を埋めていた処。スカートの布越しに差し込む淡い外光が、上から垂れ落ちてくる愛液の滴りをきらきらと輝かせているのが見えた。
『あ……千喜の、匂い……また、落ちて来たぁ……』
ゆっくりと歩く震動で、とろりと濡れたままの千喜のそこは、ぽたぽたと滴りを生み出していく。落ちて止まらぬ愛液の雫は私の全身に滴り落ち、私を千喜の匂いで汚し、包み込んでいく。
「これで……いい、で…か?」
「よし、戻って……しい」
ショーツという遮音材が無くなり、音の通りが良くなったのだろうか。外からの音は先ほどよりもだいぶ届くようになっていた。
けれど、そんな事はどうでも良い。
『千喜……千喜ぃ……』
今の私に大切なのは、千喜の匂いに包まれている悦びと、その悦びを主に伝えること。
『気持ちいいの……気持ちいい、にぃ……』
統合センサーから伝わる匂いの快楽に支配されて、私の四肢はショーツの穴にだらりと垂れ下がったまま。千喜の秘裂とハンモックの間は離れすぎていて、首をわずかに動かしたくらいじゃ、届きもしない。
やがて、愛液を滴らせる震動が治まり、スカートの向こうの光がかげりだす。濡れたショーツが固い木の板にべしゃりと触れて……。
『千喜……千喜ぃぃ……っ!』
降りてきた千喜の秘裂に、必死に伸ばした愛液まみれの私の足が、ようやく触れ合うのだった。
チャイムが鳴れば、放課後だ。
生活費だけで手一杯の貧乏学生に、部活なんかやってる暇はない。
「さて。今日もバイト探し……かねぇ」
高等部用の駐輪場。二つに分けた鍵束の片方をノリに渡しつつ、そう声に出してみる。
「コンビニの求人ペーパー、更新日じゃありませんでした?」
ノリに渡したのは後輪用に掛けた固定錠の二つ。前輪のロックはチェーンとワイヤーだから、神姫に作業させるのは少々荷が重い。
俺の最大の相棒にして、最強の移動手段。ついでに言えば、俺の持ち物の中で二番目くらいに値の張る装備でもある。自転車泥棒は増える一方な20xx年の日本、念には念を入れての四重ロックくらいは当たり前だ。
「じゃ、とりあえずコンビニかな……」
乱雑な駐輪場からロックを外された自転車を引っ張り出し、ノリを胸ポケットへ。
ペダルに足をかけた瞬間、校舎から誰かが駆けてきた。
「お、千…………」
喜、と続けるより早く。
「ばかーーーーーーーーーーーーー!」
小さな体がジャンプして、揃えられた両足がまっすぐこちらに飛んでくる。
パンツの色は……。
「ちょっ!」
刹那に直撃。パンツの色とインパクトの瞬間の痛みの記憶が、衝撃に巻き込まれて吹き飛ばされる。
くるくると回る視界の中、ノリがジャンプで避けているのと、自転車が巻き込まれていない事だけを確かめて。
続くのは、がしゃぁんという派手な音。
「あんたの言うとおりにしたらヒドイ目にあったわよばか!」
「バカはそっちだ! ノリとチャリに何てコトしやがる!」
俺へのドロップキックはもう慣れたけど、ノリと自転車が側にいるときにするのだけは勘弁して欲しい。どっちも壊れ物なんだぞ。
「自転車なんてどうだっていいのよ! 教室でイッて保健室に行くハメになったじゃない! どうしてくれるのよばか!」
…………。
…………。
………は?
「いや、話が見えんのだが……」
何で俺のせいで、千喜が教室でイく……って、何やらかしたんだこのバカは。
「ああもう。なんであんたあたしの心が読めないのよばかぁ……」
イライラしているバカは放っておいて、キックの直撃を免れたノリを拾い上げ、自転車を立て直す。
「……無茶言うな。なあノリ」
「わ、私に振らないでくださいよぅっ!」
ノリは大丈夫だな。
自転車にも、目立ったダメージはないようだ。ペダルを空転させてみても、それらしい異音はない。やれやれ。
「えーと、ですわね」
見かねたプシュケが、千喜のセーラーの襟元から顔を出す。
「あんた、今朝学校に行くとき、言ったわよね!」
「……何を」
そういえば今朝は一緒に学校に来たんだっけ。
俺は自転車で千喜は歩きだから、普段はそんな事はないんだけど……。部屋を出たところで顔を合わせれば、さっさと先に行くのも気が引けるわけで。
「ほら、峡次さん。授業中、千喜が『声』が聞こえないから落ち着かないって言ってたじゃありませんの」
……思い出した。
「服の中に入れとけって言ったアレか」
千喜は触れた相手の考えを読むことが出来る。
いわゆる超能力とかいうヤツらしいんだけど、他人の心の声を聞くことに慣れすぎて、その声が聞こえていないと何となく落ち着かないらしい。
「そう!」
だから、プシュケを……不思議なことに、神姫の声は聞こえるんだそうだ……ポケットにでも入れておけば? って言ったんだった。
「……で、どこに入れてたんだ」
「ぱんつ」
「死んでしまえ」
匂いフェチのプシュケをそんな所に入れたら、発情するのは分かり切ってるだろうに。
もう付き合う気にもなれん。
俺は自転車をこぎ出そうとして……。
「待ちなさいよっ!」
「げふぅっ!」
異様に大きな力で車体を後ろに引っ張られ、そのまま前につんのめる。これも彼女の『力』の一つ。
だから自転車経由でツッコミ入れるのはやめろと!
そう怒鳴りかけると同時、俺の腰に細い腕が回されてきた。
「だからさ。アンタ今日、責任取ってあたしを自転車の後ろに乗せて帰りなさいよ」
しがみつく腕が俺の腰をきゅ、と抱きしめて、小さな頭が背中に押し付けられる。
「……静香さんや鳥小さんだとドキドキするようなセリフなのに、お前だと全然ドキドキしないのは何でだ」
あんまり重量が掛かると、フレームが歪むんだが。
つーか、ロードで二人乗りとか自殺行為だからマジで勘弁してくれ。
「……その割にはあたしがくっついたらエッチなこと考えるクセに」
い、いや、それはだな……っ。
「峡次さん……」
「……ノ、ノリ……」
「知りません」
胸ポケットのノリもバイザーを下ろし、ぷいとそっぽを向いてしまう。
「……お前なぁ、千喜ぃ……」
はぁとため息をひとつ吐いて、仕方なしにペダルを踏み込んだ。
……妙に軽い。
というか、明らかに二人乗りの重さじゃない。
千喜のヤツ、自分の体を『力』で持ち上げてるのか。ちょっとは可愛いところあるじゃないか。
「……褒めても何にも出ないわよ」
へえへえ。
「つーか、今日は倉太さん研究室じゃないのか?」
人が走る程度の速度で、ロードをゆっくりと走らせる。ロードにしてはだいぶ遅いけど、普通に歩いて帰るよりは十分に速い。
「さっきメールしたら、いま家に帰ってるんだって。だから早く帰りたいの!」
「……なるほどな」
ま、他人の彼女とはいえ……可愛い女の子にしがみつかれてる構図ってのは気分悪いもんじゃないから、いいっちゃあいい……けどな。
「だから、褒めても何も出ないってば」
へえへえ。
生活費だけで手一杯の貧乏学生に、部活なんかやってる暇はない。
「さて。今日もバイト探し……かねぇ」
高等部用の駐輪場。二つに分けた鍵束の片方をノリに渡しつつ、そう声に出してみる。
「コンビニの求人ペーパー、更新日じゃありませんでした?」
ノリに渡したのは後輪用に掛けた固定錠の二つ。前輪のロックはチェーンとワイヤーだから、神姫に作業させるのは少々荷が重い。
俺の最大の相棒にして、最強の移動手段。ついでに言えば、俺の持ち物の中で二番目くらいに値の張る装備でもある。自転車泥棒は増える一方な20xx年の日本、念には念を入れての四重ロックくらいは当たり前だ。
「じゃ、とりあえずコンビニかな……」
乱雑な駐輪場からロックを外された自転車を引っ張り出し、ノリを胸ポケットへ。
ペダルに足をかけた瞬間、校舎から誰かが駆けてきた。
「お、千…………」
喜、と続けるより早く。
「ばかーーーーーーーーーーーーー!」
小さな体がジャンプして、揃えられた両足がまっすぐこちらに飛んでくる。
パンツの色は……。
「ちょっ!」
刹那に直撃。パンツの色とインパクトの瞬間の痛みの記憶が、衝撃に巻き込まれて吹き飛ばされる。
くるくると回る視界の中、ノリがジャンプで避けているのと、自転車が巻き込まれていない事だけを確かめて。
続くのは、がしゃぁんという派手な音。
「あんたの言うとおりにしたらヒドイ目にあったわよばか!」
「バカはそっちだ! ノリとチャリに何てコトしやがる!」
俺へのドロップキックはもう慣れたけど、ノリと自転車が側にいるときにするのだけは勘弁して欲しい。どっちも壊れ物なんだぞ。
「自転車なんてどうだっていいのよ! 教室でイッて保健室に行くハメになったじゃない! どうしてくれるのよばか!」
…………。
…………。
………は?
「いや、話が見えんのだが……」
何で俺のせいで、千喜が教室でイく……って、何やらかしたんだこのバカは。
「ああもう。なんであんたあたしの心が読めないのよばかぁ……」
イライラしているバカは放っておいて、キックの直撃を免れたノリを拾い上げ、自転車を立て直す。
「……無茶言うな。なあノリ」
「わ、私に振らないでくださいよぅっ!」
ノリは大丈夫だな。
自転車にも、目立ったダメージはないようだ。ペダルを空転させてみても、それらしい異音はない。やれやれ。
「えーと、ですわね」
見かねたプシュケが、千喜のセーラーの襟元から顔を出す。
「あんた、今朝学校に行くとき、言ったわよね!」
「……何を」
そういえば今朝は一緒に学校に来たんだっけ。
俺は自転車で千喜は歩きだから、普段はそんな事はないんだけど……。部屋を出たところで顔を合わせれば、さっさと先に行くのも気が引けるわけで。
「ほら、峡次さん。授業中、千喜が『声』が聞こえないから落ち着かないって言ってたじゃありませんの」
……思い出した。
「服の中に入れとけって言ったアレか」
千喜は触れた相手の考えを読むことが出来る。
いわゆる超能力とかいうヤツらしいんだけど、他人の心の声を聞くことに慣れすぎて、その声が聞こえていないと何となく落ち着かないらしい。
「そう!」
だから、プシュケを……不思議なことに、神姫の声は聞こえるんだそうだ……ポケットにでも入れておけば? って言ったんだった。
「……で、どこに入れてたんだ」
「ぱんつ」
「死んでしまえ」
匂いフェチのプシュケをそんな所に入れたら、発情するのは分かり切ってるだろうに。
もう付き合う気にもなれん。
俺は自転車をこぎ出そうとして……。
「待ちなさいよっ!」
「げふぅっ!」
異様に大きな力で車体を後ろに引っ張られ、そのまま前につんのめる。これも彼女の『力』の一つ。
だから自転車経由でツッコミ入れるのはやめろと!
そう怒鳴りかけると同時、俺の腰に細い腕が回されてきた。
「だからさ。アンタ今日、責任取ってあたしを自転車の後ろに乗せて帰りなさいよ」
しがみつく腕が俺の腰をきゅ、と抱きしめて、小さな頭が背中に押し付けられる。
「……静香さんや鳥小さんだとドキドキするようなセリフなのに、お前だと全然ドキドキしないのは何でだ」
あんまり重量が掛かると、フレームが歪むんだが。
つーか、ロードで二人乗りとか自殺行為だからマジで勘弁してくれ。
「……その割にはあたしがくっついたらエッチなこと考えるクセに」
い、いや、それはだな……っ。
「峡次さん……」
「……ノ、ノリ……」
「知りません」
胸ポケットのノリもバイザーを下ろし、ぷいとそっぽを向いてしまう。
「……お前なぁ、千喜ぃ……」
はぁとため息をひとつ吐いて、仕方なしにペダルを踏み込んだ。
……妙に軽い。
というか、明らかに二人乗りの重さじゃない。
千喜のヤツ、自分の体を『力』で持ち上げてるのか。ちょっとは可愛いところあるじゃないか。
「……褒めても何にも出ないわよ」
へえへえ。
「つーか、今日は倉太さん研究室じゃないのか?」
人が走る程度の速度で、ロードをゆっくりと走らせる。ロードにしてはだいぶ遅いけど、普通に歩いて帰るよりは十分に速い。
「さっきメールしたら、いま家に帰ってるんだって。だから早く帰りたいの!」
「……なるほどな」
ま、他人の彼女とはいえ……可愛い女の子にしがみつかれてる構図ってのは気分悪いもんじゃないから、いいっちゃあいい……けどな。
「だから、褒めても何も出ないってば」
へえへえ。
今日の峡次さんの自転車は、ずいぶんゆっくり走ってます。いつもはぱっと流れていく風景が、今日はちゃんと見ていられるくらいに。
スピードを落としてるのは、後ろに千喜さんがいるからでしょうけど……峡次さん、千喜さんと一緒に自転車に乗るのが嬉しいのかな?
「そういえば、静香さんから服もらったから、バトル出来るようになったんでしょ。やってるの?」
しばらく走っていると、背中の千喜さんがそんな事を聞いてきました。
「ん? ああ……」
峡次さんは浮かない声。
私も……正直、あんまり思い出したくありません。
「……ああ」
それで分かってくれたのか、峡次さんの考えを読んだのか。千喜さんも、言葉を濁して黙ったまま。
「何ですの」
千喜さんの胸ポケットにいるプシュケさんだけが、首を傾げてます。いや、私も峡次さんの胸ポケットにいるので、傾げてるんじゃないかと思っただけですけど。
「五戦全敗?」
……千喜さん、読んだみたいです。
「……言うなよ。気にしてるんだから」
そう言う以上に、峡次さんは沈み声。
ゆっくりと流れていた景色が、もっとゆっくりになりました。これ以上遅くなると、バランス崩しちゃいますよ、峡次さん!
「でもノリコ、静香さんとこのココと花姫に勝ったんでしょ?」
あ……。
「……あ、あの、千喜さん……それは……」
スピードを落とした自転車が、ぐらりと揺れて。
慌ててペダルを踏み込んだ峡次さんのおかげで、何とかバランスを立て直します。
「……それ指揮したの、静香さんなんだよな」
あの五連敗から、峡次さんはすごく落ち込んでるみたいでした。
確かに、静香さんの魔法みたいな指揮とは違いますけど……私と一緒に考えてくれる峡次さんの指揮、私は大好きですよ?
「あー。なら、あんたのせいか」
「千喜さぁん……」
もう、また自転車がフラフラしてるぅ……。
「大丈夫よ。プシュケだって似たようなものだし」
「……そうなのか?」
踏み込んで、バランスを少しだけ回復。
「うん。今んところ……どうだっけ?」
「七勝十二敗一引き分け。見事に負け越しですわ」
プシュケさんは呆れたようだったけど、千喜さんは気にしてもいないみたい。スピードを少しだけ上げた自転車に、峡次さんに回していた腕を……きゅっと抱きしめ直す。
私も胸ポケットの中で、峡次さんの胸元にしがみついてみたけど……気が付いてませんよね。峡次さん。
「まあ、あんたみたいに……グラフィオスに近接で負けたり、パーティオに近接で負けたり、ストラーフに近接で負けたり、フブキに近接で負けたり、ウィトゥルースに近接で負けたり……って、ウィトゥルース?」
「ちょっ! そんな所まで読んだのかよっ!」
ちょっと峡次さんっ! ペダル踏み外すの、ホントに危ないですっ!
「だって、他の四体はともかく……思いっきり遠距離タイプじゃない」
本当なら、機動砲撃タイプのウィトゥルースは近接タイプより相性の良い相手のハズなんですけどね。
「……こっちが識別するより早く突っ込んできて、気が付いたら真っ二つにされてました」
それこそ、ガンランスを構える暇もなかったくらい。
少なくとも、他の四人はガンランスを構える暇はありました。撃つヒマはありませんでしたけど。
「……どんなウィトゥルースよ。魚雷じゃない」
「俺が聞きたいよ……」
そんなわけで、ガンランスは封印です。もうちょっと神姫バトルというか、相手の攻撃が読めるようになってから使おうって、二人で決めました。
ガンランスが使えなくなったのは残念ですけど、そうやって峡次さんとたくさんお話しできたのは……正直、ちょっぴり嬉しかったりします。
だから、私としては、五連敗はあんまり気にしてないんですけど。そんな事じゃ、武装神姫失格なんでしょうか?
「で、復帰戦は? ノリの服貯金、まだ残ってるんでしょ?」
「残ってません! 全部、峡次さんのご飯代にしてもらいました!」
「……はぁ?」
……呆れられちゃいました。
「でも峡次さん、この半月、仕送りのお米がなくなってからは、パスタともやしばっかり食べてたんですよ。もっと栄養のあるもの食べないと、死んじゃいます!」
私は峡次さんと一緒にいられるだけで嬉しいんです。そりゃ、峡次さんは神姫バトルのために私を買ったわけですし、バトルで勝てればもっと嬉しいかもしれませんけど……その前に峡次さんが倒れちゃったら、バトルどころじゃありません。
「……バカでしょあんた」
私の言葉に、千喜さんはため息をひとつ。
「バカですわね」
千喜さんのポケットのプシュケさんもため息をひとつ。
「私もばかだと思います」
そして私もため息をひとつ。
「……ノリまで言うなよ。だから、復帰戦はバイトが決まって、ノリの新装備の目処が立ってからって決めたろ?」
はい。
「で、そのバイトは決まったの?」
「んー。考えてはいるんだけどな……。アキバにも何度か行ってみたんだけど」
峡次さんは神姫ショップ絡みのバイトを考えてたみたいですけど……。神姫センターからオモチャの量販店、神姫関連のパーツショップまで、その辺りの定員は一杯で、結局見つからなかったんです。
「真直堂は? 鳥小さんに紹介してもらえば……」
「バカ兄貴の店で働くとか、ないから」
そういえば、お兄さんの所には一回も行きませんでしたね。そんなにイヤじゃない……とか言ってた気もしますけど、ガンコです。
「でも、電車賃も安くないのによく行くわね。鳥小さんの定期でも借りたの?」
えーと、千喜さん。
それはその、ですね。
「いや、あのくらいコレがありゃ行けるだろ」
くるりと曲がったハンドルを軽く叩いて、峡次さん。
「……行かないわよ。何時間かかると思ってんの」
「一時間くらいだろ」
最近はコース覚えたからもっと短くなってる気がします。青信号に変わった途端、隣の自動車を普通に追い抜くいていくのとか、結構怖いんですけど。
「ウソ!? あんたの基準、ちょっとオカシイわよ」
やっぱり、おかしいんでしょうか。
私は峡次さんの自転車しか知らないから、判断するのがちょっと難しいんですが……。私のデータベースにプリセットしてある自転車の解説では、自転車の平均時速は十キロから二十キロだってあるんですよね。
峡次さんの自転車、普通にその倍は出てるから、不思議だなぁとは思ってたんですけど……やっぱり、千喜さん達の基準でもおかしいみたいです。
「うっせえ。そういうお前はバイトとかしてねえの?」
そういえば、千喜さんが峡次さんみたいにお金に困ってるところ、見たことないです。鳥小さんと倉太さんはバイトをしてるから分かるんですけど……。
「してるよ?」
千喜さんはさらりとそう答えました。
やっぱり千喜さんもアルバイトをしてたみたいです。
「何の? 儲かるなら紹介してくれよ」
「……内緒」
それっきり、千喜さんは無言。
峡次さんも、黙ったまま。
「……あんたの考えてるような事じゃないわよ」
……何考えてたんですか、峡次さん。
「っていうか、何でこの話だけでエロ方面に考えが行くのよバカ!」
もぅ……。
スピードを落としてるのは、後ろに千喜さんがいるからでしょうけど……峡次さん、千喜さんと一緒に自転車に乗るのが嬉しいのかな?
「そういえば、静香さんから服もらったから、バトル出来るようになったんでしょ。やってるの?」
しばらく走っていると、背中の千喜さんがそんな事を聞いてきました。
「ん? ああ……」
峡次さんは浮かない声。
私も……正直、あんまり思い出したくありません。
「……ああ」
それで分かってくれたのか、峡次さんの考えを読んだのか。千喜さんも、言葉を濁して黙ったまま。
「何ですの」
千喜さんの胸ポケットにいるプシュケさんだけが、首を傾げてます。いや、私も峡次さんの胸ポケットにいるので、傾げてるんじゃないかと思っただけですけど。
「五戦全敗?」
……千喜さん、読んだみたいです。
「……言うなよ。気にしてるんだから」
そう言う以上に、峡次さんは沈み声。
ゆっくりと流れていた景色が、もっとゆっくりになりました。これ以上遅くなると、バランス崩しちゃいますよ、峡次さん!
「でもノリコ、静香さんとこのココと花姫に勝ったんでしょ?」
あ……。
「……あ、あの、千喜さん……それは……」
スピードを落とした自転車が、ぐらりと揺れて。
慌ててペダルを踏み込んだ峡次さんのおかげで、何とかバランスを立て直します。
「……それ指揮したの、静香さんなんだよな」
あの五連敗から、峡次さんはすごく落ち込んでるみたいでした。
確かに、静香さんの魔法みたいな指揮とは違いますけど……私と一緒に考えてくれる峡次さんの指揮、私は大好きですよ?
「あー。なら、あんたのせいか」
「千喜さぁん……」
もう、また自転車がフラフラしてるぅ……。
「大丈夫よ。プシュケだって似たようなものだし」
「……そうなのか?」
踏み込んで、バランスを少しだけ回復。
「うん。今んところ……どうだっけ?」
「七勝十二敗一引き分け。見事に負け越しですわ」
プシュケさんは呆れたようだったけど、千喜さんは気にしてもいないみたい。スピードを少しだけ上げた自転車に、峡次さんに回していた腕を……きゅっと抱きしめ直す。
私も胸ポケットの中で、峡次さんの胸元にしがみついてみたけど……気が付いてませんよね。峡次さん。
「まあ、あんたみたいに……グラフィオスに近接で負けたり、パーティオに近接で負けたり、ストラーフに近接で負けたり、フブキに近接で負けたり、ウィトゥルースに近接で負けたり……って、ウィトゥルース?」
「ちょっ! そんな所まで読んだのかよっ!」
ちょっと峡次さんっ! ペダル踏み外すの、ホントに危ないですっ!
「だって、他の四体はともかく……思いっきり遠距離タイプじゃない」
本当なら、機動砲撃タイプのウィトゥルースは近接タイプより相性の良い相手のハズなんですけどね。
「……こっちが識別するより早く突っ込んできて、気が付いたら真っ二つにされてました」
それこそ、ガンランスを構える暇もなかったくらい。
少なくとも、他の四人はガンランスを構える暇はありました。撃つヒマはありませんでしたけど。
「……どんなウィトゥルースよ。魚雷じゃない」
「俺が聞きたいよ……」
そんなわけで、ガンランスは封印です。もうちょっと神姫バトルというか、相手の攻撃が読めるようになってから使おうって、二人で決めました。
ガンランスが使えなくなったのは残念ですけど、そうやって峡次さんとたくさんお話しできたのは……正直、ちょっぴり嬉しかったりします。
だから、私としては、五連敗はあんまり気にしてないんですけど。そんな事じゃ、武装神姫失格なんでしょうか?
「で、復帰戦は? ノリの服貯金、まだ残ってるんでしょ?」
「残ってません! 全部、峡次さんのご飯代にしてもらいました!」
「……はぁ?」
……呆れられちゃいました。
「でも峡次さん、この半月、仕送りのお米がなくなってからは、パスタともやしばっかり食べてたんですよ。もっと栄養のあるもの食べないと、死んじゃいます!」
私は峡次さんと一緒にいられるだけで嬉しいんです。そりゃ、峡次さんは神姫バトルのために私を買ったわけですし、バトルで勝てればもっと嬉しいかもしれませんけど……その前に峡次さんが倒れちゃったら、バトルどころじゃありません。
「……バカでしょあんた」
私の言葉に、千喜さんはため息をひとつ。
「バカですわね」
千喜さんのポケットのプシュケさんもため息をひとつ。
「私もばかだと思います」
そして私もため息をひとつ。
「……ノリまで言うなよ。だから、復帰戦はバイトが決まって、ノリの新装備の目処が立ってからって決めたろ?」
はい。
「で、そのバイトは決まったの?」
「んー。考えてはいるんだけどな……。アキバにも何度か行ってみたんだけど」
峡次さんは神姫ショップ絡みのバイトを考えてたみたいですけど……。神姫センターからオモチャの量販店、神姫関連のパーツショップまで、その辺りの定員は一杯で、結局見つからなかったんです。
「真直堂は? 鳥小さんに紹介してもらえば……」
「バカ兄貴の店で働くとか、ないから」
そういえば、お兄さんの所には一回も行きませんでしたね。そんなにイヤじゃない……とか言ってた気もしますけど、ガンコです。
「でも、電車賃も安くないのによく行くわね。鳥小さんの定期でも借りたの?」
えーと、千喜さん。
それはその、ですね。
「いや、あのくらいコレがありゃ行けるだろ」
くるりと曲がったハンドルを軽く叩いて、峡次さん。
「……行かないわよ。何時間かかると思ってんの」
「一時間くらいだろ」
最近はコース覚えたからもっと短くなってる気がします。青信号に変わった途端、隣の自動車を普通に追い抜くいていくのとか、結構怖いんですけど。
「ウソ!? あんたの基準、ちょっとオカシイわよ」
やっぱり、おかしいんでしょうか。
私は峡次さんの自転車しか知らないから、判断するのがちょっと難しいんですが……。私のデータベースにプリセットしてある自転車の解説では、自転車の平均時速は十キロから二十キロだってあるんですよね。
峡次さんの自転車、普通にその倍は出てるから、不思議だなぁとは思ってたんですけど……やっぱり、千喜さん達の基準でもおかしいみたいです。
「うっせえ。そういうお前はバイトとかしてねえの?」
そういえば、千喜さんが峡次さんみたいにお金に困ってるところ、見たことないです。鳥小さんと倉太さんはバイトをしてるから分かるんですけど……。
「してるよ?」
千喜さんはさらりとそう答えました。
やっぱり千喜さんもアルバイトをしてたみたいです。
「何の? 儲かるなら紹介してくれよ」
「……内緒」
それっきり、千喜さんは無言。
峡次さんも、黙ったまま。
「……あんたの考えてるような事じゃないわよ」
……何考えてたんですか、峡次さん。
「っていうか、何でこの話だけでエロ方面に考えが行くのよバカ!」
もぅ……。
峡次さんの、エッチ!